※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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ある層に何故か人気があるApo編を2ヵ月ぶりにしれっと投稿。原作に負けないぐらいのシリアスと真面目さでがんばるぞい。

いつも感想、お気に入り、誤字報告ありがとうございます……。特にコメ付きの評価を頂くとハサンダンスをするぐらいに嬉しくなります。この評価は他愛なくないよぉ……。
















《ある白のアーチャーと白のランサーの一幕》

「子供は?」

「宝」

「我らは?」

「仲間」

「マスターは?」

「旦那」

「汝は?」

「哪吒!」

「私は?」

「アタ!」

「YES! ロリータ!」
「拒否! 鬱展開!」

ピシガシグッグッ








ビーストウォーズ③(Fate Apocrypha編)

「届きません」

 

 赤のセイバーは縦横無尽に駆ける。

 白のビーストの居城たる門の前で立ち塞がる白のセイバーの周りを。

 

 猫のようにしなやかに、獅子のように獰猛に、全くその場から動こうとしないアーサー王を牽制しつつ、あらゆる角度から攻撃を仕掛ける。

 赤雷を奔らせた剣を振るい、時には騎士らしからぬ、拳と蹴りをお見舞いにする。

 

 一見、モードレッドからの一方的な攻勢に見えるが、当の本人の表情は焦燥と不可解さで歪んでいた。

 

「届きません」

 

 それもそのはず、数分前からモードレッドの攻撃一切が白のセイバーに傷一つすら負わせていないのだ。

 

「アアアアアァサアアアアッッッ!!」

 

 子のじゃれ合いのように白のセイバーはモードレッドの攻撃を歯牙にすらかけていない。

 自分の武力がまるで通用していない、しかもその相手がずぅっと背中を追い続けていた父上であるモードレッドの胸の内は激情が駆け巡っていた。

 

 それを誤魔化すように、あるいは自身を鼓舞するようにモードレッドは吠える。

 

 魔力を放出したクラレントをジェット噴射のように加速させ、上段からアーサー王の頭蓋目がけて、思いっ切り剣を振り下ろす。だが――。

 

「まるで届きません、モードレッド」

 

「ッッチィィッッ……!!」

 

 防ぐ姿勢すら見せず、白のセイバーはその凶刃を受け入れる。それでも彼女の体に傷を付ける事は叶わない。

 モードレッドはやっと怒涛の剣戟に一度、小休止を置き、距離を取った。

 

(舐めくさりやがって……!オレの攻撃なんか、防ぐにすら値しねぇってか……!くそっ、クソォッ……!!)

 

(焦るなセイバー、きっとお前さんの攻撃が効かないのも宝具の類が)

 

(ちげぇ!!あり得ねぇんだ!!オレの剣が届かねぇなんて事は!!あの時は、あの時は、オレの剣も届いていたんだ……!アーサー王に、父上に、こんな理不尽な宝具は無い!…………筈なんだ……!)

 

 離れた場所、茂みから顔を覗かせながらモードレッドの邪魔にならない所で獅子劫界離は念話を繋げ、戦いを見守る。

 サーヴァント同士の超級クラスの戦い、一介の魔術師程度が手を出す事は出来ないが、それでも突破口は無いかと彼は観察する。人類悪を名乗るあの男の下に付く白のサーヴァントを打破すべく。

 

(ステータスがまるで見えねぇ……いや、そもそも俺達が相手してんのは()()()()()()()()()()()()?)

 

「何故だ……。何故反撃しないアーサー王!!オレは敵だ!赤の陣営のサーヴァントだ!一度、貫いた敵はもう眼中にねぇってか!!?答えろ!アーサァァ――!!」

 

 モードレッドは激情を隠すこと無く吠える。この瞬間まで自分は本気で剣を振るった。殺すつもりで攻撃を仕掛けた。しかし、セイバーリリィからは反撃がまるで来ない。一度も傷を付けられない我が叛逆の剣……熾烈に繰り出された剣技も乙女の如くシミ一つ無いセイバーリリィの柔肌にまるで弾かれているようだった。

 

 勝負にすらなっていなかった。

 

 父親に遊んでもらえない泣きじゃくる子供のようにモードレッドは目の前の白き父を睨み付ける。

 並の人間がその視線に晒されれば、気を失う程の殺気を受けても白のセイバーは動じる事が無かった。

 

 むしろ困ったようにはにかんでいた。戦場にはまるで不似合な花咲く白百合のように。

 

「よくよく考えてみると、先のバーサーカーの時と同様にここで私が貴女を一方的に斬り捨てる事は如何なものかと思いまして……。他の私だったら、特にX師匠あたりなら即カリバーを放つかもしれませんが」

 

 今目の前にいるのはマスターの元にいるモードレッドとは違う。

 王となった自分に対しての歪んだ憧憬と憎悪を持て余している捨て子のようなものだ。

 セイバーリリィは思案していた……。

 赤のバーサーカーを打ち破り、門番としての役目を果たしたとしてマスターからもらえるご褒美の事に脳の容量を使い、残った1%の事でモードレッドの事を考えていた。

 

「まずは誤解を解かないといけません。モードレッド……厳密に言えば、私は貴女の知る父上でも無ければアーサー王でも無いのです」

 

「……どういう意味だ」

 

「今、貴女の目の前にいるのは王になったアルトリア・ペンドラゴンではなく。王になる前の修行中の身であった未熟なアルトリア・ペンドラゴン。イフの幻想から生まれた英霊なのです。だからきっと私は貴女にアーサー王と呼ばれるべきではないのでしょう」

 

「……んだよ、それ……」

 

 モードレッドには理解が出来なかった。

 父上は完璧だった。王としても、騎士としても、その父の未熟な時期など想像も出来ない。

 あぁ、成程確かに王になる前のアルトリア・ペンドラゴンとして英霊になった彼女なら、自身に激情をぶつけられても困るかもしれない。それでも……今、我が瞳に映っているのは確かにアーサー王で……。

 

 だが確かに王ではない、自分が今まで見たことが無いどこまでも人間らしい表情をしていた。

 

 モードレッドの頭の中はグチャグチャになっていた。

 

 思い焦がれた父上との対峙、絶望的なまでの戦力差。そして、自身の知らない父上という存在。

 行き場の無い葛藤はいつまでもグルグルと回り続ける。

 

 そして、意図せずともセイバーリリィは固まってしまったモードレッドにトドメを刺してしまう。

 

「まぁ、今は『白のセイバー』として、()()()()()()()()()として第二の生を謳歌しているわけですが」

 

 

「…………………………は?」

 

(…………妻?つま?ツマ?今、父上は妻って言ったのか?ツマ?ツマってなんだ?ツマってあの妻か?野郎と結婚して、腰振って、ガキこさえて、ニヘラニヘラと生温い家庭でひたすら男の世話をし続けるあの?)

 

 ここでモードレッドは今頃になって白のセイバーと初めて相対した時の言葉を思い出す。あの時は父上と相見える事が出来た事実だけで心が一杯になっていた為、気にする余裕は無かったが。

 

 

『何故だ!! 何故、貴方がここにいる!! アーサー王!!』

 

『知れたこと。私がマスターの剣であり、()()だからですよ』

 

 

(伴侶、伴侶、妻、妻…………アイツか?アイツなのか父上?)

 

 白のビーストと名乗っていたあの男を思い出す。

 

(貴方が愛おしそうにつけているその首輪もアイツがつけたヤツなのか……?)

 

 ギリッと砕けそうになる程の力を込めて、歯を喰いしばる。

 かつてモルガンにブリテンの王たれと生み出されたモードレッドにとって紆余曲折した経緯と感情はあったが、彼女にとっての世界とはアーサー王だった。

 

 白のビーストが持つ『魅了(零)A+』のスキルによってかの叛逆の騎士も今、この瞬間までは彼には殺意は抱けなかった。

 

 だが――。

 

(あの男なのか?王を……父上をそんな風に(誑かした)のは?)

 

 クラレントの柄を握る力が込められる。くじけそうになっていた心に殺意が湧いてくる。

 赤のセイバーとして召喚されたモードレッドにとってアーサー王に対する想いは、今この場では白のビーストのスキルを凌駕する。

 

(殺してやる……)

 

 その言葉は目の前のアーサー王には向けられていない。

 

(ころしてやる)

 

 その後ろにある白城、恐らく最上階にいるであろうあの男に向けられている。

 

「ブッコロシテヤルッッ!!」

 

(そうだ……モードレッド、まだ負けじゃねぇ。勝機はある。相手が王になる前だろうが、アーサーだっていうなら、お前さんの宝具なら……!我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)なら届く可能性はある……!)

 

 かつて王を貫いた叛逆の剣の殺意は不敬にも王を誑かした不埒者へと向けられる。

 

 赤雷を帯びた魔力を全身に迸らせるモードレッド、赤の剣の主従はまだ諦めていなかった。

 確かに、白のセイバーの宝具『我が寄り添いし理想郷(アヴァロン・オルタ)』はAランク以下の攻撃の無効化。A+のランクかつアーサー特攻がつくモードレッドの宝具なら届きはするだろう。

 

 

 だが、この主従は気付かない。

 

 

「貴様……」

 

 

 モードレッドの今の一言が、白のセイバーの地雷を踏み抜いたことを。

 

 

「今の言葉、()()()()()()()()?」

 

 

「ヒッ……!!」

 

(ッツゥゥッ!!)

 

 氷海に叩き込まれたような悪寒が二人を襲う。

 

 豹変した白のセイバーの言葉遣い。そして、あらゆる情を削ぎ落とした能面のような顔にドラゴンの如き黄金の瞳がモードレッドを射抜いた。

 

 今まで構える事すら無かった聖剣が極光に染まり、しっくりと来るしか言いようがないぐらいに綺麗に剣先を向けていた。

 

 先のモードレッドの殺意が可愛いと思える程の圧力。

 モードレッドからは彼女らしからぬ悲鳴、獅子劫は太腿に短刀を刺し、気絶しそうになった自身を何とか踏み止めさせる。

 

 

「答えろモードレッド卿、貴様の殺意の先には誰がいる?」

 

 

「マスタァァァアアアアアア!!」

 

「令呪を……二画以って命ずる!!自身の限界を超え、全身全霊全ての力と魔力を込め、『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』を解放しろぉぉぉぉっ!!」

 

 ――グオオオオオオオオオォォォォッッ……!!

 

 狂乱したかのようにモードレッドは叫び、自身のマスターの令呪のサポートを受け宝具を放つ。

 作戦も何もない、凶暴な猛獣に遭遇し逃げる捕食者のように、自然災害を前に為す術なく逃げる人間のように、ただ条件反射で宝具を放った。

 

 しかし、それは逃げるよりは概ね、最適な解であった。即座に宝具を放つ決断をしたモードレッドも、令呪二画分でサポートした獅子劫も。

 

 津波の如き、禍々しい赤雷が通常の3倍以上の大きさに膨れ上がり、直線上に放たれる。後ろにいた獅子劫が風圧で吹き飛ばされる程の威力。

 その赤雷は白のセイバーごと飲み込み、白城まで届いたが、かの城は微動だにしない。

 

 そもそもモードレッドは城の状態など、気にする余裕は無かった。

 彼女にあったのはあらゆる負の感情を敷き詰めたような顔になったアーサー王のあの顔を見たくないという想いだけ。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ……頼む、ここで倒れて……」

 

「コタエヨ、ダレニサツイヲムケタ?」

 

「ガハッ……!!」

 

 刹那の瞬間、宝具を放った後の立ち込める土煙から影が飛び出す。

 気づけば、モードレッドは白のセイバーに剣を握っていない方の手で首を掴まれていた。

 

 万力の如き力で体を持ち上げられ、意識が朦朧とするモードレッドが目にしたセイバーリリィの姿……。

 令呪を二画分も使用して、放った自身の最強の技。アーサー王を屠る為の最強と自負していた宝具。

 

 もう二度出す事は難しいといえる最上の攻撃。それが与えた効果は如何ほどか……。

 

「アァ、なんということでしょう……。彼の許しなく傷を負ってしまうとは……。マスターの剣、失格のこの醜態……。どうやって償えば……。いえ、いえ、いえ、贖罪の方法を自分一人で勝手に考えるなど、それこそ愚の骨頂でしょう」

 

 

我が寄り添いし理想郷(アヴァロン・オルタ)』の無効化条件をモードレッドの宝具はクリアしている。しかし、アーサー特攻と令呪二画分のブーストがあったとしてもリリィの宝具分で差し引かれた攻撃力では彼女の討伐には到底及ばない。

 

 ましてや、片やサーヴァント、片や人類悪の彼によって受肉したナニか。肉体のスペックがそもそも違う。

 

 英霊であったリリィにとって傷と言うにはあまりにも()()()()()()()()()。モードレッドの本気が与えられたダメージはこれが全てだった。

 

「躾、お仕置き、折檻…………フフ、一度、彼の元に帰る必要が出てきました。丁度いい、モードレッド、貴女も来なさい。自分が誰に殺意を向けたのか今一度、わからせてあげないといけません」

 

「や、やだ……」

 

 無理だろうとわかっていてもモードレッドは弱々しく首を横に振る。

 あんなに待ち焦がれていた父親との再会も、もはやリリィに対しての恐怖心で塗りつぶされていた。

 

 今、自分の目の前にいる父上が怖い、こわい、コワイ。逃げたくて仕方がない。

 親の叱責を初めて受ける幼子のようにモードレッドの心は萎み切っていた。

 

「ますたぁっ……!」

 

 自身の主に助けを求めるぐらいまで。だが、その願いは届かない。

 

 

 そのまま猫を扱うようにモードレッドの襟を掴んだリリィはもがく彼女を引きずり城の中へと消えていった。主からのご褒美(折檻)を求めて。

 

(令呪はまだ一画残っているがっ……どうする?これを使って転移させるか……?だが、あの化け物共の城の中で令呪の効力が効く保証はねぇ……!クソッ!一気に二画使ったのは愚策だったか……!?)

 

 モードレッドの悲鳴を掻き消すように無情にも門が閉まった。

 

 獅子劫は結局、令呪を使用する手段は取らなかった。

 その選択は正しい、かの白のアサシンが建てた城は魑魅魍魎が跋扈する魔城、魔術師が作ったシステム程度が通用する世界では無いのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――助けて、助けて、助けて、助けて。

 

 ――ねぇ……ご飯は?もう、三日も何も食べてないよ……お腹が空いたよ……。

 

 ――痛い、辛い、苦しい、熱い、やだやだやだ、死にたくない。

 

 ――どうして、どうして、どうして、どうして、私達がこんな酷い目に遭うの?

 

 ――俺達だって、暖かい世界で、平和な世界で生きていたい。ただ、それだけなのに……。

 

 ――そんな願いすらも叶えられないの?

 

 ――憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、憎い、妬ましい。

 

 

 

 

 あぁ、まただ。

 

 また失敗した。失敗した。失敗した。失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した失敗した。

 

 

 

 

 

 

 また届かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ~赤のセイバーが敗れてから数時間後。

 

 

「ついたぞマスター……既に黒の陣営は揃っているようだな」

 

 赤のアサシン、セミラミスの声に伏せていた視線を上げる天草四郎。

 彼の周りには霊体化を解いている赤のサーヴァント達が5騎。

 

 陽は昇っている。初めに赤のバーサーカーが突貫してきた夜から目まぐるしく事態は急変した。

 あり得ざる第三の陣営。人類悪を名乗る『白のビースト』なる存在。奪われたホムンクルスと大聖杯。

 

 木々が一切無い見晴らしの良い荒地にて彼等は集まっていた。

 そこには黒のアーチャーのマスター、フィオレと黒のサーヴァント6騎。

 

 赤の陣営からの同盟の誘いをヴラド公……黒の陣営は飲む事にした。

 場所はミレニア城塞から離れた何の変哲も無い荒野。同盟を結ぶにはテーブルも椅子も無い寂しく殺風景な光景。

 

 だが、これでいい。彼等は決してお茶会をしに、こうして同盟の場所に集まったわけではないのだから。

 

 暗殺の危険も無い、平らな大地。この地こそが同盟を結ぶ場所に相応しい。

 

 

 

 

「同盟の要求は飲んでくれましたが、ユグドミレニアの長がそう簡単に出てくる程まだ我々に襟を開いてくれるわけではないですか……。いえ、それはトップとして正しい選択なのでしょう」

 

(ダーニックおじ様はまだ気絶したままなだけなんですけど……)

 

(それを馬鹿正直に言う必要も無し、あちらが勝手に勘違いしてくれるのなら構わん……。全く我がマスターながらなんと情けない)

 

 お互いの陣営で今この場にいるマスターはシロウ神父とフィオレの二人のみ。

 しかし、両陣営のサーヴァント達は余す事なくここに揃っている。

 

(先生……)

 

(何の因果か、またここで出会うとは。いえ、今は共闘出来る幸運を喜びましょう)

 

「ほへ――、何だか強そうな英霊がたくさんだね!ねぇ、ねえ!ジ……じゃなかった……セイバーは誰が一番強いと思う?」

 

「…………」

 

(黒のセイバー……)

 

 

「互いにマスターを一人ずつしか連れてきていないという事は、自己強制証明(セルフギアス・スクロール)で縛り付けるつもりは無いという事でいいのでしょうか?」

 

「えぇ、ルーラーを襲った貴方達をそこまで信用はしていません。しかし、事は急を要します。敵の理不尽さはご覧になっていると思います」

 

「貴様等もわかっているのだろう?これはもう腹の探り合いなど行っている場合ではないと。足並みを揃える事が出来ねば、余達に待つのはあっけない消滅のみだと」

 

 フィオレとヴラドの問いに微笑むシロウ。黒の陣営もビーストという言葉の真偽はともかくとして、英霊としての魂が告げているのだろう。宣戦布告した、あの『白のビースト』の異質さを。

 正直な所ここにいる一騎当千の英霊達が揃っても勝負になるかどうかすらも怪しい。だが、この場で小競り合いをしていたら、その勝負のステージにすら立てないのだ。それはここにいる誰もが確信している。

 

 憂いは断つべきなのだろう。

 

 

「互いのサーヴァントを隠す事なくここに連れてきたのも……」

 

「味方の顔もわからず同盟などと言ってられないでしょう。そして今回の戦いにおいてマスターの出番は無いに等しい。もはや聖杯大戦とは言ってられません。あの人類悪を倒さなければ、世界は救われないのですから……」

 

(世界が滅ぶではなく、()()()()()()()()……なんとも気になる言い回しをしますなマスター)

 

「聖杯奪還戦……いえ、白獣討伐戦と言うべきでしょうか。既に我が陣営も2騎、白のセイバーに敗れています……もう猶予も無いでしょう……。アサシン」

 

「あぁ」

 

 セミラミスの使い魔が映し出した映像には、白きドレスに纏ったセイバーに鎧袖一触、傷一つ付ける事なく消滅させられた赤のバーサーカー。

 そして、激昂しながらもそれを上回る殺意をぶつけられて、戦意を失い城の中へと引きずり込まれる赤のセイバーの姿。

 

 どちらもとてもじゃないが戦いになっているとは言えなかった。

 

「わぁーお、おっかないねぇ……。あれ本当にセイバー?実はバーサーカーとかじゃないの?」

 

おお、仲違いする愛、愛し合う憎しみ(O brawling love!O loving hate!)。かの叛逆の騎士が求めた騎士王は遥か遠くの所へ!もはやその剣も憎しみも届く事は無し!オイタをした子供は悪魔の口に飲み込まれてしまったのでしょう……。いやはや愛というのは恐ろしくて、実に愉快な代物ですなぁ」

 

「ブリテンに名高き騎士王が今や人類悪の先兵とは……。哀れな事よ、サーヴァントの身である弊害というべきか」

 

「いや、黒のランサーよ。あの姫騎士は紛うことなき自らの意志で白のビーストの元で戦っている。狂気の域に至る程の純粋な愛。彼女が自身のマスターに向ける感情は偽りなく真っ直ぐだ。そしてそういった想いを燃料に戦う者はいつの時代でも厄介極まりないぞ」

 

「ハッ!愛と来たか……」

 

 カルナの言葉に吐き捨てるように反応する女帝。本人の意思がどうあれ、彼女にとって男にいいように使われている女は唾棄すべき存在なのだ。ましてや首輪を付けて悦に浸っている女、理解し難いだろう。

 

(そうでしょう!やっぱり首輪は付けられるより付けるべきですよね!?)

 

「誰だお前は!?」

 

「……どうしました、アサシン?」

 

「い、いや、馬に乗った金髪女の幻覚が見えたような気がしてな……」

 

 もう一人の性癖が歪んでしまったアーサー王はカルデア島にハウス。

 

 

「しかし、マスター。もしかしたら、連絡がつかないアサシンのマスターも」

 

「相良豹馬ですか……あり得ない話では無いでしょう。この状況ではもう討ち取られている……いえ、霊器盤には脱落した様子は無いので、敵の手に落ちた……あるいはそれに近い形になっていると考えた方がいいかもしれません」

 

 

 白の陣営には、ユグドミレニアのホムンクルス達全てと大聖杯を強奪する能力を保有している。こうして悠長に同盟を結んでいる様子も見られているかもしれない。

 

 遊ばれていると言っていいほどの実力差。だが、それでも彼等は歩みを止める事は無い。ここで諦めていたら、彼等は英霊なんて存在にはなってなかったのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 六導玲霞は考える。

 

 

(………………これはどういう状況なのかしら)

 

「うわぁぁあっ……おいしそう!これがアビーの言ってたパンケーキ?クリームがふわふわでケーキがふかふかだね!」

 

「こら、行儀が悪いわジャック。せっかく哪吒が作ってくれた料理よ。食べる前にありがとうのお礼と、お祈りの言葉が必要でしょ?」

 

「気遣い 不要 あびぃ、じゃっく。二人の笑顔 最高の報酬 沢山 食べて」

 

「しかし、花嫁修行の成果が出たとも言えるな哪吒。見た目にも随分と凝っている。召喚当初はあれだけ女扱いを拒否していた頃が懐かしいな」

 

「あたらんて 黒歴史 思い出不 過去の己 未熟」

 

「今はアタちゃんと呼ぶがいい。哪吒お姉ちゃん」

 

「了解、アタちゃん。ボク出来る娘 アタの幼児化 華麗にスルー」

 

 仮の住まいでもある無人の宿の下の階から聞こえるジャックと少女達の楽しそうな声に特に心配する必要は無かったかもしれないと安堵する六導玲霞。

 

 

 襲いかかる協会からの魔術師達、暗殺部隊。その全てを斬殺し、ジャックの餌にしてきた。

 彼女の願いを叶える聖杯を求めて、ブカレストからシギショアラへと北上。

 

 

 

 住処も確保し、これからの方針を決めようとした先に『白のビースト』と出会った。

 

 

 

 ――こんばんわ、いや……もうおはようの時間かな?

 

 幾人の少女達を連れて現れたその男を前にした瞬間、彼女の頭の中には戦うという選択肢はまず消去された。玲霞の類い稀な理解力と洞察力が痛感させた。

 

 目の前の存在には何をしようとも勝てない。逃げる事も無理。

 

 だが、未だ事態を理解していないのか、それとも『白のビースト』を脅威と感じていないのか、隣で緑髪の幼女と追いかけっこして遊んでいるジャックを守る為に彼女は出来る手段の全てを取ろうとした。

 

 ――ねぇ、お兄さん……ちょっと私とお家でお話していかないかしら?

 

 戦闘も逃避も許されない自分に残された最後の武器はこれしかない、今まで散々娼婦として使ってきた女の武器。

 この理外の存在に取り入ってジャックを守ってもらうしかないと彼女は思考する。

 

 艶っぽく息を吐き、彼の体に寄り掛かる。多くの男達が夢中になってきた乳房を押し付けながら、手を取り、家へと誘う。

 自分に夢中にさせるとまではいかない……。せめて、せめて、こちらに情が湧いてくれるぐらいまでには肉体関係を結ばないと……。

 

 そう思っていた筈なのに。

 

 

 

 横になった彼女を今まで感じた事のないような温もりが包む。

 

(まぁ、あの娘があんなにも楽しそうにしているのなら悪いようにはならないでしょう。周りの娘達も敵意も害意もまるで無い……。サーヴァント?だったかしら……。そもそも私達を騙すメリットが無いわ。普通に戦うだけであっけなく殺されてしまうぐらいの力量差はあるもの……あぁ、それにしても)

 

 六導玲霞は考える。

 

(何で私は彼に()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()?)

 

 アダルティな時間になると思って、わざわざ二階の別室を取ったというのに、この『白のビースト』がした事と言えば、ベッドに腰かけ、自身の膝に玲霞の頭を置いてひたすら撫で続ける事だけだった。子供のようにポンポンとあやしながら。

 

(一体、何を考えているの?)

 

 玲霞自身も何故かそれに抵抗する気が一切起きないので、身を任せているが。

 

(ふぅ……こうして、誰かに身を預けて、頭を撫でられるなんていつぶりかしら……)

 

 娼婦としても、プレイによっては甘えてくる男達に膝枕をした事はある。だが、こうやって甘やかされるような体験は初めてだった。

 それも致し方無いといえば致し方無い……。六導玲霞という女の色気を目の当たりにすれば、少なくとも童のように扱おうとする男は普通は出てこない。誰もが自身の欲望を好き勝手に彼女にぶつけた。少なくとも彼女が娼婦として働いてきた時は、そういう手合いしかいなかった。

 

(あぁ……駄目、このままされ続けていたら、ずっとずぅっと出さないでおいた自分の奥底にある大切なナニかが溢れちゃいそうで)

 

 

 ふと、滴が目元をつたった気がした。

 親が交通事故で亡くなる前の幼き頃、もしかしたら……こんな光景もあったのかもしれない。

 だが、もう思い出せない程に波瀾万丈過ぎたのだ、両親を失ってからの彼女の転落人生は。

 

(初めてよ。私から誘っておきながら、こんな子供扱いする人は……。それとも汚れ切った女の体だと抱く気は起きないのかしら?)

 

「いや、玲霞ちゃんの体は綺麗だよ。そういう展開も非常に魅力的だけど、今の君にはこうしたいって俺自身がそう思っただけ。嫌だった?」

 

「別に嫌じゃないわ。それに玲霞()()()って……」

 

「フフン、こう見えても君よりは結構年いってるんだぜ?それに子供にちゃん呼びは別に変でも無いでしょ?」

 

「私が子供?」

 

 白のビーストの鼻歌と共に撫でられ続ける頭、玲霞は少し硬い膝なのに今まで寝てきたどんな枕よりも心地良く感じていた。

 

(あぁ……そうね、そう言えばあの時から何も子供らしい事はしてこなかったわ、もう親の顔を思い出せないけど……)

 

 

「遊具開封 桃園仙術式目 三幼飛んで八面六臂! これ即ち火炎車! 回転!」

 

「すごいわぁ!哪吒!炎でグルグル回って、こんなメリーゴーランド始めてよ!!」

 

「あはははっ!めがまわるよ!すごいすごい!あはははははっ!!」

 

「幼児となって、哪吒の腕を掴みはしゃぐ幼き者達の笑顔に包まれる……あぁ、ここが私のアヴァロンだったのか……」

 

 

 我が子のように大事な(ジャック)の笑い声が下から聞こえる。ついさっきまであんなに殺伐とした行程を終えたとは思えない程の穏やかな時間……。とても聖杯戦争に臨んでいる身とは思えない空気。

 遠い遠い昔、彼女の中で止まっていた時間が動き始めたような気がした。

 

「君には誰か頼れる人が必要だった。甘えられる時間が必要だった。誰もが生まれながら与えられる筈の当然の権利が無かった。目の前で疲れ切った子供がいたなら手を差し伸べるのは当然だろう?」

 

 ――これは俺が勝手にしたいと思ったことだ。打算も思惑も何もない。だから、君は今は……ただおやすみ……。

 

 自身を愛撫する優しい声がする。

 

 どうしようもない平穏と安心感がそこにはあった。この人ならジャックの願いを叶えてくれると、そして自分を助けてくれると、根拠はなくとも、揺らぎようがない確信を玲霞を抱えたままゆっくりと瞳を下した。

 

 その寝顔は彼女がこれまで生きてきた中で一番、穏やかのように見えた……あどけない少女のように。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あれ、おかあさん寝ちゃったの?」

 

「あぁ、ちょっとお疲れだったみたいだからね」

 

「ふぅ――ん、けどおかあさん、凄く気持ち良さそう。ねぇねぇ、わたしたちも一緒に寝ていい?」

 

「あぁ、膝はもう一個空いてるから。おいで」

 

「わぁ――い!!……………………すゃぁっ……」

 

「早ッ! 即寝!」

 

「ふふふ、マタ・ハリさんという百戦錬磨とも言える女スパイも誑し込む、父性&母性を持った座長さんの甘やかし術……これで黒のアサシン主従も座長さんの手に堕ちたのね……フフフフフフ」

 

「あびぃ、また 悪女化 言い方 人聞き 悪し」

 

「親の愛情を忘れてしまった女性と親の愛情を知らない幼女をあやし、膝枕するマスターの絵面、尊過ぎて、混ざりたくなる気持ちすら浄化されるな……取りあえず、写メっとこう」

 

「アタ 撮る前 鼻血 拭く」 

 

 

 

――prrrrrrrr

 

 

 

 

 

 

 




《同時刻……三白城、姫ルームにて》


「はいもしもし、マーちゃん? 姫だけど。いや、姫姫詐欺とかじゃないから。…………なに? 姫にはいつもエロエロと白いのを振り込んでるから? …………ウン、ちょっと黙って」

「兄様の声が! その板から兄様の声がした!」

「は――い、シロ君。今ちょっと姫お話中だから離れようね~~。うんうん、ごめんね。それでちょっとリリィちゃんがさー。そうそう第一層で門番をしていた筈なんだけど」

「すまーとふぉん……ぱけほーだい、そういうのもあるのか……」

「何故か泣きじゃくって幼児化して会話にならないモーちん、そう……赤のセイバーの方ね。その娘を連れてきてさ。『マスターの剣として不覚を取った雌にこの不届き者ともども罰を』の一点張りでさ。ちょっと隣にいるモーちんが可愛そうになるレベルで、顔がやんべーから、ちょっと戻ってきてもらえる?」

「家族割り……兄様と家族割り……家族……」

「あぁ、何? ちょっと黒のアサシンとそのマスター引っ掛けた? 別に今更二人増えたぐらいどうって事ないですよ。むしろマーちゃん通常運行みたいな? とりあえず、あのリリィの法則を乱す騎士様の扱いは任せたからね~~。ちゃお。ふぅ………………で、シロ君は耳を塞いで何をしてるのかな?」

「兄様の声を鼓膜の中に保存している」

「うぇええい、もう姫突っ込み役するの疲れたぁぁぁっ……! もう少しこの陣営、常識人が欲しいんだけどぉぉぉっ!」















《白の陣営》
白のマスター:白のビースト
白のセイバー:セイバーリリィ
白のアーチャー:アタランテ
白のランサー:哪吒
白のライダー:――――
白のキャスター:アビゲイル・ウィリアムズ
白のアサシン:刑部姫
白のバーサーカー:――――
白のルーラー:――――



黒のサーヴァント:残り6人(アサシン主従、戦闘続行不可により)
赤のサーヴァント:残り5人(赤のセイバー、戦闘続行不可により)















性癖歪んだお父さんの地雷を踏んで、恐怖のあまり幼児化してしまった号泣モーちゃん。
白のビーストから母性&父性を感じる玲霞ちゃん。
ちょっとずつ人らしい感情を学んでいくシロちゃん……これぞ群像劇!(違う)。


少しだけ注意事項、感想欄でこれからのストーリー展開的な予想とか実はこうなんじゃね?みたいな根幹に関わりそうな事についての返信はお茶を濁すか、ノーコメントとさせて頂きます。これがストーリーものの弊害か、ぐぬぬ。まぁ、このアポ編で大真面目にストーリー展開を考えている人が作者を含めて(おい)いるかどうか怪しいものですが。





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