※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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引き続き、アポ編です。
アポ編を更新する時は2話続けてという自分ルール。

毎度の事ながら、感想、誤字報告、評価ありがとうございます。辛い社会での癒しになっております。
















ビーストウォーズ④(Fate Apocrypha編)

 《巨大モニターから『白のビースト』が両陣営に宣戦布告していた頃》

 

 

「第三勢力、『白の陣営』……。人類悪、『白のビースト』……」

 

 夜空に映ったモニターが消えた後、蠢く触手で大聖杯を抱えている三白城を見て、この聖杯戦争に召喚された本来のルーラーであるジャンヌ・ダルクは茫然としていた。

 

「黒と赤の七騎同士による大規模な戦争、それを監視する為に私は召喚された……。そう思っていましたが」

 

 聖杯戦争を見守る調停者として、自身の知識の中には『白の陣営』なる者達の情報は何も入ってこない。

 故に彼等が正式な参加者ではなく、イレギュラーである事は明白。

 

「私が召喚されたのも彼等の乱入の所為?しかし、もし彼の人類悪という言葉が真実なら、もはや一サーヴァントでどうにかなるレベルを超えています……ふぅ、ともあれ情報が足りません。白の陣営が何を考えているのも不明ですし……陣営に属している誰かと接触出来ればいいのですが」

 

 まずはあの分かりやすい程に巨大な彼等の居城を訪ねるしかないかとジャンヌが歩き出した時、その背後に近づく者の気配が……。

 

 

「何者ッ!…………なっ!?」

 

 

 ピンク色のブレザーに丈ギリギリのミニスカート。その格好は紛うことなきJK!ルーラーの顔が驚愕に染まる。それもその筈、自分と瓜二つの顔をした女性がそこにいたのだから。

 

「コウノトリはどうしたら、私に赤ちゃんを連れてきてくれるのでしょうか?」

 

「…………はい?」

 

 

 ジャンヌ・ダルク……白のルーラーでもあり、自分と同じ顔で何故かJK姿ではっちゃけているもう一人の自身と邂逅する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「うわぁぁっ、おっきいお城だね!おかあさん!」

 

「ここまで大きい城は見るのも入るのも初めて……それに人もこんなにたくさん。けど、皆似たような顔をしているわね」

 

「おじいちゃんのお家って大家族なのかな?」

 

「ジャック、その()()()()()()というのは……?」

 

「え?ビーストおじいちゃんだよ!だっておかあさん、寝ながら『パパ……』って言ってたから!おかあさんのパパなら私にとっておじいちゃんだよね!?」

 

「そう……ね、ふふ、恥ずかしい所、聞かれちゃったわ……」

 

「おかあさん、顔まっか――」

 

 三白城の第一層、元チェイテ城フロア。

 何一つ疑う事なく、自然な形でこの城に連れて来こられた玲霞とジャックは自分達に宛がわれた部屋へと向かっていた。

 長い廊下、いくつもある部屋、埃一つないカーペット。そして、さっきから何度も何度もすれ違うホムンクルス達、数多ある部屋の内のいくつか開いたドアから彼等の楽しそうな声が聞こえる。

 

「あっ!バーチャル礼拝の時間だ!」「あっ、ごめん。ちょっとフェイルノートトリスタンの事、考えてた」「はぁ――、ほんま激運チケットつっかえ……。竜玉の一個も持ってこれないの?やめたらこの仕事?」「尊い……白のビースト×ラーマきゅんのこの同人誌……尊過ぎるよ……」「もう、只の魔力タンクとして魔術師共の道具になる時代は古い!時代は仮想通貨や!見とけよ~、このビットコインで一儲けしたるからなぁ……」「俺、マクドナルドの教祖様になって世界をハンバーガーで平和にするよ」「よし、出来た……!トラックで死んだ現代人がファンタジーの世界で無双する斬新な小説が!これは……これはもしかして、大ヒットしてしまうんじゃないか!?」

 

 ユグドミレニアから拉致された大勢のホムンクルス達。その誰もが、方向性はバラバラであったが、現世の娯楽を楽しんでいた。最初は突然変わった環境に困惑していたが、空っぽだった無垢故かもう既にこの環境に適応していた。

 

「随分と賑やかね……」

 

「あっ、あっちからおじいちゃんの気配がするぅ!」

 

「こらっ。もう、ジャックたら……」

 

 

 走り出し、勝手にドアの一つを開けるジャックの後を追って、部屋へと入っていく玲霞。

 

「ヒッ……なっ、なにっ……!?」

 

 そこにはベッドで横になる憔悴しきった金髪の少女と隣で椅子に座り、その手を握る白のビーストの姿があった。

 窓の外からは『私は息子にトラウマを抱かせた悪い父親です』と立て札を掛けられ、全身を縛られ、恍惚とした顔でプランプランと吊るされているセイバーリリィの姿が覗かせていた。

 

 縛られ、揺れるセイバーリリィの姿が目に入る度に小さな悲鳴を上げ、体を震わせる赤のセイバー、モードレッドの姿。

 小さく溜息を吐き、その姿が見えないようにカーテンで隠す白のビースト。

 

 ――放置プレイは嫌いですけど、この縛られる痛みと心地良さもマスターからの愛と思えば結構イケますね……。

 

 ――パチンッ

 

 ――あゥンぅっ……!

 

 彼が手を振るえばまるで見えないスパンキングが外に届いているように紐に繋がられた恍惚の声を上げるリリィの体は揺れる。

 

 そのリリィの嬌声が聞こえる度に体をビクつかせるモードレッド。

 

「ふぅ、元凶たる俺がこうして慰める側に回るとは……マッチポンプもいい所だよ。このままストックホルム症候群とかになっちゃいそうだな。はいはいよしよし、赤のモーさん、大丈夫だからね――。怖いお父さんは幻だから、起きたらもう何も無いいつも通りの日常が来るからねー」

 

「あ、あぁぁぁ……あっ、あっ、ん、あぅ…………すぅ、すぅ……」

 

 握られていない方の手で玲霞の時と同様の慈愛に満ちた表情でモードレッドの頭を撫で続ける。本来なら仇敵であるその男の手を彼女は受け入れてしまう程に弱り切っていた。

 

 セイバーリリィと対峙していた時の殺意はとうに吹き飛んでいた。この叛逆の騎士がここまで幼児退行してしまうとはこの男が帰ってくるまで、白のセイバーは一体何をしていたのか想像もしたくない。只一つ言える事は愛って怖いな――って事だけ。

 

 やがて、潤んだ瞳は瞼に隠され、落ち着いた寝息が部屋へ響く。

 

「ちゅぅ……ちゅぅ……」

 

「リリィ以外の娘達にも言える事だけど、ちょっと俺に向けられる殺意とか敵意に対して敏感過ぎる娘達が多過ぎるんだよなぁ。それだけ想われているのはありがたい事だけど、やり過ぎはよくない。聖人君子だろうが、誰からも好かれる人なんているわけないんだからさ」

 

 寝付いた後も赤子のように彼の親指に吸い付いてくるモードレッドを引き剥がす事なく、彼は独りごちた。

 

「このおねえちゃん、どうしたの――?」

 

「あぁ――、ちょっとね。お父さんにこっぴどく怒られて泣き疲れちゃったんだ。そっとしておいてあげて」

 

「そっか――……。それは嫌だね。わたしたちもおかあさんに怒られたら悲しくなっちゃう……」

 

 シュンとしたジャックはその後、羨ましそうに撫でられるモードレッドの顔を覗く。

 その様子を見て、ポンポンと自身の膝を叩いた白のビーストの意図を察したジャックは「わーい」と嬉しそうにその膝へと飛び込んだ。

 

「この城にいた。似たような顔をしていた彼等は……」

 

「まぁ、聖杯戦争の関係者といえば関係者なのかな?ユグドミレニアが保有していたホムンクルス」

 

「それをどうして貴方が?」

 

「ちょっとワケがあってさ。酷い目に合いそうだった一人のホムンクルス君を助けてね。一人助けたんだし、ついでに残り全員も拉致ってみようかなぁってノリで」

 

「ノリで」

 

「そうノリで」

 

「けど、ここまで来る彼等は皆、幸せそうにしていたわ。きっと事情はどうあれ、貴方が助けてくれた事に感謝しているのではなくて?えぇ、貴方がその気になれば、世界中の人達を幸せにする事だって出来るかもしれないわ」

 

『私とジャックを救い上げてくれた貴方なら……』と玲霞は冗談めいて笑う。

 

「まさか。全ての人間を幸せにする方法なんて無いよ」

 

 そんな戯言を白のビーストは小さく笑い、一蹴する。

 

「俺が助けるのは俺の周りの世界。俺が守りたい世界、()()()が届く範囲での世界さ。それ以上の事はすべきじゃ無いし、する気も起きないよ」

 

 

 玲霞の瞳には一瞬だけ――――彼の背後から、神々しく光る数多の白い魔手が見えたような気がした。

 

 

「ねぇ、おじいちゃん。なんか面白いお話してー」

 

「しょうがないなぁ、ジャックは……じゃあ――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 三白城の第5層。元姫路城フロアにて。

 

 刑部姫の三白城、かつてマスターとのヤリ部屋にも何度も使われたこの宝具の中は結構好き勝手に内部の様相や空間を弄る事が出来たりする。色んなシチュエーションに応える空間。正に性鬼深愛獣様に捧げるに相応しい宝具。

 

 そしてそんな城の中、和風の外装からは似ても似つかない学生の学び舎、教室の机を挟んで二人のジャンヌは相対していた。

 

「え、えぇ……あのですね。で、ですから、その赤ん坊というのは神様の授かり者であって。こればっかりは運というか天の御心のままというか」

 

「何をかまととぶっているのですか。同じ私ならどうすれば子が出来るかなんて知っている筈でしょう。おしべとめしべが濡れ濡れでドッキングする以外に無いでしょう、子を授かる方法なんて」

 

「貴女が最初に言い出したのでしょう!?コウノトリがどうとか!そもそも、表現が生々しいんですよ!!」

 

「これでもオブラートに包んだつもりなのですが……。あぁ、ならおちんp」

 

「あっ――!あっ――!き、こえませんぅぅぅっっ!!同じ顔した私からそんな言葉聞きたくありませぇぇぇんぅぅっ!!」

 

「お静かに。人様の家で奇声を発するなんてマナーがなってませんよ」

 

「いきなり、保健体育の話をぶち込む貴女に言われたくありません!」

 

「保健体育大事じゃないですか。そもそもそれが無いと人類は存続されないのですから。私、学んだんです。人生においてエロスは大事だって。何度も不適切だ不適切だって規制する人達の方がよっぽど不適切だと思います」

 

 片やサーヴァントの服装を解除したレティシアの私服姿のジャンヌ、片やブレザー姿のJKジャンヌ。傍から見れば、仲睦まじい姉妹にしか見えない。会話内容に耳を塞げば。

 

「………………あぁ、頭が痛い……。もういいです。そんな話をしに、貴女の誘いに乗ったわけではありません」

 

「私にとっては超重要な話なのですが。妹同然の二人には先を越されて、やっと自身の精神から出ていって独立したもう一人の魔法少女化した自分にも先を越されて、もし、これでピンク髪の男の娘にすら先を越されてしまったら、いよいよ悪堕ちしてもおかしくないんですから」

 

「はぁぁ…………これではっきりしました。私と貴女は顔と名前が同じの只の別人だって。私に妹はいませんし、魔法少女とかに到っては意味が分かりません」

 

「何を今更分かり切った事を。進むべき軌跡が違えば、例え元は同じ存在だとしても、別人たるのは当然の事じゃないですが」

 

()()……ですか。やはり、貴女もかつては私と同じく聖杯戦争で召喚されたサーヴァントなのですね?」

 

 ようやく、話したかった路線へと戻したジャンヌは白のルーラーに問い質す。

 白のサーヴァントを名乗る彼女も最初は別の手段によって召喚された英霊の一人だと思っていた。

 だが、違う。目の前にいる存在は。英霊などと言う影法師ではなく、確固たる一つの命としてこの地に存在していた。

 今、こうして相対しても彼女は理解していた。目の前にいる白のルーラーを名乗る何者かはサーヴァントとは比べ物にならない程のエネルギーを有していると。英霊が受肉した……いや、それ以上のナニかだと彼女の啓示が告げていた。

 

 だからこそ、知らなければならなかった。自分と同じジャンヌ・ダルクを名乗る者の正体を。『白のビースト』、人類悪を騙る者の正体を。そして白の陣営の目的を。

 

「そうですね。遠い遠い、昔の話です。私もこことは毛色が違う聖杯戦争に呼び出された英霊の一人にしか過ぎませんでした」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーちゃんの事を知りたい?」

 

「あぁ。どうしてそんなに身構えるんだ?」

 

「そりゃあ、これまでの自分の行動を省みて欲しいね。順調に病み路線に行こうとしているショタムンクルス君にもう胃がキリキリしているんだから」

 

「済まない……。迷惑をかける」

 

「はぁ――……。マーちゃんが関わらない所ではまともなんだけどな――。ま、いいけどさ……。正直、姫よりも初期から付き合いがあるマシュとか、ダ・ヴィンチ先生とか黒王様辺りの方が詳しく教えてくれると思うけどね――」

 

 そう言いながらも、律儀な刑部姫は断れず、自身の本棚を漁る。そこから取り出す本・本・本・本の山。

『カルデア国物語』『カルデア国物語 第二部』『カルデア国物語 ep3』『帰ってきたカルデア国物語』『カルデア国物語 改』etc……。挿絵はあの芸術家が担当したアンデルセン著作の全年齢対象の冒険譚がシロの前へと積み上げられる。当然、R18な方は『カルデア寝物語』が担当なので、全て削除されている。

 

「私が口で語るより、本を通した方がわかりやすいと思ってね。あのショタ作家様が『ふざけるな!引き延ばしにも程があるだろうが!後、何回終わる終わる詐欺をするつもりだ!完結所を見失った品程無様な物は無いというのに……』と文句を言いながらも最後まで書き続けてくれた渾身のシリーズ物だよ。心して聞くように」

 

「これ全部が兄様の物語……」 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 大昔から続いていた人間達の織り成す物語。その名は『人類史』。

 

 だれもが続くと思っていた当たり前の日常。そんな日々がある日忽然と失われてしまった。

 

 2017年、『人類史』を焚書し、新たな物語を作りだそうとした悪者の名は『魔術王』、我々人類にはもう為す術が無いと思われました。

 

 しかし、そんな絶望的な状況の中でも立ち上がった者達がいたのです。

 

 彼等が所属する組織の名は『人理継続保障機関カルデア』。数も力も少ないですが、滅びに抗おうと必死にもがいたのです。

 

 人理を救う果てしない旅、その主軸になったのはどこにでもいる平凡な少年。彼は人類最後のマスターとして、多くの英霊達と契約をしました。

 

 彼と同じマスター枠だったデミサーヴァントの少女も寄り添い、支え、数多の特異点を超えていきました。

 

 時には召喚に応えた英霊達の主従の垣根を超えた、恋と愛の物語もありました。

 

 心を躍らせる冒険が、決して断ち切られる事のない絆がそこにはあったのです。

 

『魔術王』の正体。『人類史』という物語を打ち切りにしようとする悪しき編集長の名はゲーティア。魔神柱アンケートという身内だけの勝手なアンケートで人類を終わらせようとする編集の風上にも置けないヤツです。

 

 ゲーティアを倒しても、物語は終わりません。

 

 魔神柱の残党。不要の者として切り捨てられた敗北者達の歴史。遊星からの使者。黙示録の獣……etc、人類史はもう笑える程に何度も燃え、凍結され、滅ぼされそうになったのです。

 

 それでも彼等は戦いました。何度も現れる幾つもの人類悪を相手に。

 

 ――違う、違う。こんな終わりは認めない。こんな結末で終わっていい物語ではない。そもそも人類史という読み物を誰か一人の手で決める事なんて出来ないだろ。

 

 ――俺が守る世界は、この両手で抱えられるだけの『家族』だけ。始めから全ての人間を救ってやろうなんて大それた事を考えた事は一度も無い。それに……たった一人の手で救える程、人類は弱くない。

 

 ――俺は彼女達と一緒に目指す未来が、結末が、ゴールが、夢があるんだ。そこにいくまではあぁ、こんなとこじゃ、終われない。終わって(死んで)やれない。

 

 

 人理修復達成。

 

 

 訪れた平穏。安穏と平和を満喫する人々。その影には何度も人類の危機を救った貢献者がいました。

 

 ですが、人類史を脅かす程の敵を何度も退けた者が普通でいられるでしょうか。どこか外れてしまったその者を皆が放っておくでしょうか?

 

 英霊は兵器であり、人知を超えた化け物である。そんな存在を受肉させ、家族として囲う者に平和を愛する無垢なる人々の矛先が向けられないとどうして思うのでしょうか。

 

 無知は罪であり、未知は恐怖でもあります。

 

 

 ――封印すべきだろう。

 

 ――いや、危険過ぎる。速やかに始末すべきだ。

 

 ――あれは一人が抱えるべき戦力のレベルをとうに超えている。

 

 ――だが、利用価値はある。

 

 ――カルデアのマスターの体は我々にとって神秘の結晶であろう、我々の悲願へのアプローチとして、間違いではない。いやもしかすれば根源への道が。

 

 ――あれは化け物よ!この世界にいてはいけないわ!

 

 ――怖い、怖いよ……。早く誰か殺してよ……。

 

 

 誰かが言いました。あのマスターこそ、最後の人類悪なのではないか……?と。

 

 誰かが言いました。次はあの者が人類を滅ぼすのでは?と。

 

 今までのようにわかりやすく強大な敵でもない。だが個の力は弱くとも、その数は甚大。

 

 ここまでの旅路で守ってきた人類そのものが彼等に牙を剥いたのです。世界の敵意と悪意が彼等に襲いかかろうとしたのです。

 

 

 ですが――。

 

 

 彼は特に悲しむわけでもなく、特に怒るわけでもなく。

 

 

 ――よし。じゃあ、皆で逃げよっか?

 

 

 そう、いつもと変わらない笑顔で言ってのけたのです。

 

 まるでこれを予期していたかのように準備されていた巨大な豪華客船のような宇宙船が宙へと飛び立ちます。

 

 人類初の偉業を成し遂げた女船長、人類最後のマスターだった男の後輩、ビテオカメラ片手に楽しそうにその様子を撮る自称デビル後輩を始め、彼の『家族』となった娘達はいざ新天地へと夜天の向こう、宇宙の先へと。

 

 

 ――ふっ、ふっ、ふっ、やるじゃないか、この獣を追い出すなんて。君達には負けたよ。覚えてろよ~~。バイバイキ――ン。

 

 

 こうして、彼等は……星見のカルデアは正真正銘、遠い遠い星そのものになったのです。

 

 人類に滅ぼされる悪になる前に彼はこの地球から去っていきました。

 

 地球外へと飛び立った獣には人類の討伐の手は届きません。

 

 

 存在せざる人類悪。故に『ビースト0』。

 

 

 ――もし、またどうしようもない事になったら……。足掻いて足掻いて、どうしようもない絶望を前にしても諦めない人がいたら、俺はまたこの星に戻ってくるかもね?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………貴女は――」

 

「はい?」

 

「もしかしてその彼をかつての自分と重ねてしまったのではないのですか?欲望と悪の果て、さらには善を成そうとした人々の紅蓮の炎で処刑された自分を」

 

 最後まで話を聞いたジャンヌは白のルーラーへと問い掛ける。

 フランスを救いながらも最後は異端者として、魔女として火刑に処された自分と……人類を救いながらも最後はその人類そのものにあらゆる悪意を向けられた『白のビースト』。ジャンヌ自身も思う所が無いわけじゃない。白のルーラーがした話はあまりにも壮大。だが、彼女には微塵も嘘だとは思えなかった。

 

「ははっ、妹にも似たような事を言われましたね。嫌味ったらしい顔で……。まさかですよ。もし彼が私の立場だったら処刑場を壊し、自身を慕う全ての人を攫い、遠く遠くどこかの地へ逃げていきますよ。私は、自身の死によって少なからず悲しんでくれる人間がいる事を当然知っていました……それでも一片の後悔も無く、あの結末を良しとした私と彼を同一視なんて出来ませんよ」

 

 白のルーラーは天高く、遠い星を想起するように頭上へと手を伸ばす。

 

「サーヴァントは影法師。あくまで座から分かれたただの一コピーにしか過ぎません。それでも彼は、サーヴァントだろうが、紛い物だろうが、今()()()()()()()()()私達に傍にいて欲しいと。心からそう願ったのです」

 

 そう語る瞬間だけ彼女は聖女ではなく、一人の恋する乙女の顔をしていた。

 

「恋をしてしまったのです。自身の身が人から外れようとも獣の域に行こうとも変わらず進み続ける彼の姿に。体と心、文字通り、全身全霊で愛されてしまったのです。それこそ、サーヴァントの身から一つの個として転生されてしまうぐらいに。ここまでの情を向けられたのなら折れるしかないでしょう?『死者は生者を導いてはならない……なら生者になれば問題ないでしょ?』と彼は笑っていました」

 

「『白のビースト』がこの世界に来たのは……」

 

「復讐なんてナンセンスな事を彼がするワケないでしょう。しかも別世界になんて八つ当たりもいい所です。彼にルーラークラスの適正が無いのと同じようにアヴェンジャークラスの適正も無いのですから。復讐者たる彼女達は若干不満そうな顔をしていましたけど」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「マーちゃんはそれはそれで良しって言ったよ。自分に向けられたあらゆる悪意を前にしても怒りも悲しみも無く。特に否定する事も無く。『それでいい。君達は好きにすればいい。代わりに俺達も好きにするさ』ってさ。それがまさか、宇宙へのハネムーンとは思わなかったけどね」

 

「なんでだ……?」

 

 シロは震えていた。『白のビースト』の最初の冒険譚を聞いてた時、憧れの人の活躍に心を震わすような幼子の如き反応はもう鳴りを潜めていた。彼の結末を聞いた時、ホムンクルスである彼の心に宿ったグツグツと燃え滾るような暗い感情……まさしくそれは『怒り』であった。

 

「何故、兄様は笑ってられる……。人間の事は疎い俺でもわかるッ……。善行を成した者にはそれなりの対価が、報酬があるべきではないのか?何度も救われた人類が兄様に返した恩がこれなのか……!?こんな、こんな結末が、こんな仕打ちがあっていいのか……!?兄様はっ、兄様はぁっ……!何も無い俺をも助けてくれたのに……!そんな優しき兄様をぉ……!!」

 

 人形のように整った顔を歪ませて、悔しさで涙を流していた。

 最愛の兄を受け入れなかった人類を……人々をどうして?どうして?と嘆いていた。

 

「兄様なら、全ての人達に愛されてもいい筈だ。いや、そうあるべきだろう……」

 

「さてね、マーちゃんは一度たりとも、自分が世界を救おうだなんて思った事は無いからね。本人は只、こんな所で死にたくなかっただけだよってね」

 

 その言葉に、刑部姫はおもむろに『カルデア国物語』の最終巻、最後のページ、作者の後書き欄を彼に見せた。

 涙を拭ったシロの瞳にはこう記されている。

 

 

『どんなに高名で優れた書物だろうと、どんなに愉快で世界中で売れている物語だろうと、必ずそれを嫌う者は出てくる。アンチというヤツだ。まぁ、それは別段珍しい事でもない。

 全ての人間に愛される物語が無いように、また全ての人間に愛される存在など無いのだからな。どんなに性格が良い聖人君子でもだ。人類最後のマスター……シンプルに言えば、ヤツはやり過ぎた、その一言に尽きる。

 力なき大衆にとってヤツは異様の存在に見えたのだろう。畏怖すべき怪物に見えたのだろう。当然の帰結であり、当たり前の結果でもある。もはやこの人類は世界に匹敵する程の劇物を受け入れる程の度量は無くなったのだから。きっとそれが正しき世界の在り方というやつなのだろうな……。

 

 だが、そんな化け物を愛する物好きも中にはいる。笑える事に結構な数がな。

 

 故に俺は凡愚たる悪意や害意とまともに取り合わず、自分の大事な物を抱えてさっさとトンズラこいたあいつの選択肢を…………

 

 

 

 ――――心から賞賛する。』

 

 

 

「――――」

 

「姫もぶっちゃけ、マーちゃんの選択肢には賛成だったかな。『ぬっころせ!』とかいう過激派な娘達もいたけど。そりゃあね?あの時の私達とかマーちゃんを筆頭に星の一つや二つを壊せる戦力はあったよ。けど、それが何?って話なワケよ。『不毛な蹂躙劇より、俺は奥さん達とイチャラブ子作りをしたい(キリッ』って言ってくれてわたしもマジで安心したし」

 

「わからない……兄様は『人』だ。化け物や怪物なんかじゃない……俺が供給槽から見てきた魔術師達よりも『人』だった。それこそ、兄様を迫害した人達の方がよっぽど化け物じゃないか……」

 

「『本当の悪魔とは巨大に膨れ上がった民意だよ』って誰の言葉だったかな――?ま、いいや。未だ世界を知らず、マーちゃんに向ける好感度がカンストしているシロ君には結構酷な話だったかもしれないけど。それでも今のマーちゃん見てみなよ?悲壮感の欠片も無いでしょ?」

 

「おれは……俺は全然、兄様の事をわかっていなかったのか……。それなのに、あんなにベタついて……もしかして、め、迷惑に思われて……」

 

「いやいや、マーちゃんは寂しがりやだから、そこはドンドンしていいと思うよ」

 

「わかった。そうしよう」

 

「切り替えはやっ!」

 

 ――初めは只、『生きたい』。それだけの願いしか無かった。

 

 ――あの人に助けられて、あの人の姿を目にして、もっと知りたいと、もっともっと見たいと願った。

 

 ――けど、今は知るだけじゃ、見るだけじゃ足りない。兄様の隣で、兄様と同じ目線で、兄様と同じ時間を生きていきたいと……。

 

 ――そう願う事は『悪』なのだろうか……?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そもそも、貴女は何故、こうして自陣営の情報を私に話してくれたのですか?」

 

「当然、貴女が外れクジという名の聖杯戦争の管理者を全う出来る為の計らいですよ。私は今はバカンスみたいなもんですから。白のルーラーも名だけですよ、気が楽です」

 

「ルーラーを何だと思っているのですか、貴女は……。そして、もう一人のルーラー、シロウ神父……天草四郎時貞……」

 

「さすがにもう赤のランサーをけしかけて、抹殺とかはしないと思いますよ。あちら側にもそんな余裕は無いと思いますし、よっと」

 

 黒板の前で、ジャンヌ、マスターの相合傘をチョークで書く白のルーラー、それを真っ赤な顔で消すジャンヌ。

 

「……ふぅ、ふぅ……。わかりました。まだ貴女達、白の陣営がどうして聖杯を奪い、両陣営を挑発した目的は聞いていませんが、本日はこの辺りで帰らせて頂きます。これ以上貴女を前にしているとストレスで座に帰ってしまいそうですし」

 

「はい、どうぞ。部外者の入城は非常に困難ですが、帰りは容易いのがこの城の利点ですよ。もうこの教室の扉を一層の入り口に設定してもらったので」

 

「出鱈目な宝具ですね……。それで一つ聞きたかったのですが、どうして貴女は学び舎の制服を着ているのですか?」

 

「こう、新たな土地、いつもと違う服。新鮮なシチュエーションでマスターにしこたま仕込んでもらえば、子宝に恵まれるという私の名案が」

 

「帰らせて頂きますッ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「すぅ……すぅ……すぅ」

 

「あらら、ジャックはおねむですか」

 

 第一層、チェイテ城フロア。二人の子供は既に夢の世界へと旅立っていた。

 最後まで白のビーストの話を聞いていた玲霞。それこそ夢物語のように途方もない話だったが、疑う事なく、彼女も最後まで真剣な面持ちであった。

 

 気づけば、ジャックと同じく彼の空いている方の膝を枕にしていたが。

 

「……貴方は、そんな状況でありながら最後の最後に幸せを掴んだのね。流されるだけの私とは違って……」

 

「あはは、最後だなんて。まだまだ中盤もいい所だよ俺は。最高の過程(家庭)に、幸せな旅路を歩んでいる途中。目指すべき到達点に到るまでは、これから色んな物を家族と面白おかしく積み上げていくのさ」

 

「そう言えば……貴方の目指す夢って何なのかしら?もうここまでになれば、手に入らない物なんて無いと思うのだけれど……」

 

「ほっほー、知りたい知りたい?この俺のあまりにも壮大過ぎるビッグドリームを……。そんなに見つめられたら答えざるを得ないじゃないか」

 

 

 白の獣は語る。己が夢を。自身の『人』生の集大成ともいえるゴールを。

 

 

 あぁ、それは何て困難でありながら、いつ叶うのかも想像出来ないぐらい途方も無く、とても人類悪の口から出た夢とは思えない。

 

 

 だが、それは馬鹿らしい程に微笑ましく、暖かくて、穏やかで、希望に満ちていて――――。

 

 

「貴方……パパらしい夢だわ……」

 

 彼の語る未来に自分とジャックもいたらいいなと玲霞は頬を緩める。

 きっとそこには絶対的な安心と愛があるのだから。

 

(私とジャックも家族にしてくれないかしら……?)

 

 陽は沈んでいく。白のビーストは3人の子供に囲まれながら、安穏を過ごす。時たま、手を振るい外にいるペットに躾をしながら。

 それでも時は残酷にも過ぎていく。人間だろうが、英霊だろうが、ホムンクルスだろうが、人類だろうが、無情にも。

 

 

 赤黒陣営がこの城に攻め込んでくるまで、残り26時間。

 

 

 

 

 




《あっ、バーチャル礼拝の時間だ!》

「こんにちは、シロです。今日はバーチャルYouTuberの頂点に立つ。バーチャル親分こと、BBアイさんが来てくれています。パチパチパチ~~。…………俺はこんな所で何をしているんだ?」

「ちょっと、テンションが低いですよ、新入りさん! 貴方には、アマゾネスCEO、籠城姫、バーチャルTS魔法ネットアイドルYouTuberロクデナシに次ぐ、人気バーチャルYouTuberになってもらうんですから! さぁ、四天王を目指してレッツ、トライ!」

「とは言われても、俺は別にバーチャルでもないから……」

「細けぇこたぁいいんですよ! 一般人にとって私達の存在なんてバーチャルみたいなもんなんですから! いいんですか? これで人気バーチャルYouTuberになって愛しの兄様に『シロの動画は為になるな~』って頭とかアソコとかよしよし♡されたいと思わないんですか?」

「BBとやら俺は何をすればいい?」

「切り替え早っ……。そうですね。今回はちょっと出たセンパイの人類悪の情報について、本編で語られなかったら補足説明回と洒落こみましょう!シロさんには相槌役やら、質問役を。新鮮なリアクションをお願いしますよ?」

「あぁ、兄様の情報ならそれをオカズにご飯は3杯いける」

「順調に狂っている無垢なホムンクルスから目を瞑り、BBちゃんは本題に入ります」


【ビースト0について】


「そもそも今までのビーストの表記にも使っていたⅠ~Ⅶまでのローマ数字にゼロという表記はないんですよ。ローマ数字にゼロの概念が無かったとも言えますけどね」

「だから存在せざる人類悪と。表記されていたのか」

「ゲーティアさんがサーヴァント化したセンパイを前にして言った台詞から、彼もセンパイが普通の人類悪とはまず成り立ちが違うと概ねわかっていたのではないのでしょうか?まぁ、その後にゼパってしまった悲しき結末には黙とうです。おっとこの話は今の段階では未来の話でしたね、自重自重」

「少し、気になっていたのだが、兄様にはスキル『魅力(零):A+』があった筈。なのにどうして、そんな大勢の人間から敵意を向けられたのだ? 彼等に赤のセイバー程の想いがあるとも思えないが……」

「良い質問ですね~~(池○彰風)。ざっくり言うと。今ここで白のビーストを名乗り、人類悪として顕現している彼と宇宙へトンズラしたカルデアのマスターだったセンパイとは、ちょっと状態が違います。厳密に言えば、後者の方は人類悪と完全に羽化していないというか、その選択肢を取らなかったというか……。
まぁ、センパイの人類に対する好感度が低かったor何かの間違いで私達がいなかった時はセンパイが別の人類悪になり、地球というステージを舞台に、現れるであろう抑止力だったり、グランドサーヴァントとドンパチするルートもあったという事です。まぁ、そこら辺はifルートだったり、正史とは違う偽譚を書き連なったデュマさん作の『カルデア 偽物語』でも読んで下さい。少々、癪なのがセンパイがそのまま星に残って人類悪となったら高確率であのいけ好かないエロ尼さんの片割れになっていた事なんですけどね」

「この『カルデア 寝物語(刑部姫編)』は?」

「どうぞどうぞ、お好きに読んで下さい。むしろ本人の前で朗読してあげた方が喜ぶと思いますよ!」

「そうか……。彼女には色々と苦労をかけたし、これが恩返しになればいいが……」

「さてさて、少々脱線しましたが。話を戻してと。では今この白のビーストを名乗っているセンパイは何者なのか? カルナさんが偽り無しと名言している以上、この白赤黒の大戦争にいるセンパイが人類悪なのは明白です!その理由とは一体……!? 残念ですが、そこは英霊編、さらに突っ込んで言えばセンパイの第七宝具にも関係するので、BBちゃんはここで口をチャックするのでした~~♡ ネタバレは許されざる悪ですよ」

「『もう、マーちゃんったら、本当に鬼畜……。炬燵の中で好き放題出してさ……。もう汗でぐちょぐちょ……あっ、ひゃん! こらぁっ、もう姫のおまんこ、馬鹿になっちゃうってばぁぁ……あひぃっ!!』うわ、うわ……すご、すごい、これが兄様の性器。人間の性交……。あれを股に入れてもらって……」

「………………よし、動画の主役である筈の男の娘が遥か未来の方に飛んで行ってしまったので今日はここで閉廷です! また次回!」










《白の陣営》
白のマスター:白のビースト
白のセイバー:セイバーリリィ
白のアーチャー:アタランテ
白のランサー:哪吒
白のライダー:――――
白のキャスター:アビゲイル・ウィリアムズ
白のアサシン:刑部姫
白のバーサーカー:――――
白のルーラー:ジャンヌ・ダルク



黒のサーヴァント:残り6人
赤のサーヴァント:残り5人
















2話連続、更新という事でまたエロ本編に戻ります。

どうして白のセイバーが、マスターに向けられる悪意とか敵意にあそこまで敏感なのか今回の話でわかってもらえればなぁ、と思います。
ふぅ、わい、どうしてエロ小説に真面目にプロット練っているんですかねぇ……(苦笑)。




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