せっかくのお正月なので、第五章の前に遅めのお年玉という名の没ネタを投下。
こういう事してるから話が進まないんじゃね?という正論は俺に効くからやめてくれ。
これが真の後日談(Fate/extra)
平凡な学生生活。変わり映えしない日常。学生の本分として学び舎に通い、日が暮れれば、皆帰路へつく。朝が来ればまた昨日と同じルーチンワークが始まる。
平穏で平和で安穏な生活。
なのに、どこか頭の中で「違う」と警鐘が告げている気がする。
結局、何が「違う」のかわからず、今日も私は日常に埋没する。
だから、これは偶然だった。
放課後すぐに帰るのも勿体無い気がして、時間潰しに図書室へと足を運んだ私は一つの『本』を見つけた。それは図書室の隅にある棚の端に誰の眼にも晒されないように隠れている所にあった。
偶々、手に取ったその本。別段読みたいと思ったわけでも、何か意味があって手に取ったわけでもない。
『
かつて心が病み一人の男に救われた死にたくない女の視点で進む物語。
純朴で柔和な外面の中にありとあらゆる混沌を攪拌したような中身を持った男の生涯。
壮大な世界を救う物語。その少年を囲む数多の英雄と人間達が紡ぎ出す成長譚。
逸般人、親愛の獣、スペルマスター、性癖グランドビースト、根源より生まれ出しモノ、
小説なんて今まであまり読んだ事の無かった私のページを捲る手が止まらない。
不思議な事にそんなに分厚いワケでも無いのに一日だけでは読み終える事は出来なかった。ページもそこまで進んでいないような気がする。だから、せっかくなので続きは本を借りて家で読もうと受付まで持っていこうと思ったのに……そこからの記憶が無い。
それから何度も何度も、時にはバックに直接入れて受付を介さず、家に持ち帰ろうとしたのだが、やはり学校から出てしまうと本が無い。
仕方ないので毎日放課後だけでなく、休み時間の合間、時間を見つけては図書室に通い詰めてその本を読み続けた。シンジには怪訝な眼を向けられたが。
どうしてもその物語の結末を――。彼の結末を――。知りたかったのだ。
決して、思春期の女子高生には刺激が強い濡れ場に惹かれたワケでは断じて無い。
彼の戦い、そして日常ですらも波瀾万丈で想像出来ない程に非現実的だった。普通の存在とかけ離れたナニかになってしまった彼。ならばその展開は当然の帰結ではあった。彼に私のような普通や平穏は決してあり得ないんだろうと――。
漸く、残り僅かになったページを進める。無性に寂しくなった気持ちを抑えて物語の最期を見届ける。
常人より何百倍に伸びた寿命。その旅路の終着。大勢の子供、孫、ひ孫、子孫に囲まれた彼は陽の当たる広い寝室で語り部の女性を傍らに静かに息を引き取った。
彼の物語を看取ったあれだけ絶対に死にたくないと願っていたその女性も役目を終えたと言わんばかりに彼が亡くなった日以降の記述は無い。子孫達の守護は仙女がきっと引き継ぐのだろう。
あれだけ数多の時代や世界で冒険を行ってきた男の終わりが余生を静かに過ごし、老衰からの大往生。
始まりから今まで平凡とは程遠い彼の人生だったけど、その最期だけはとても穏やかで普通の人間のようだった。
私はどうしてかそれが無性に嬉しくて、どこか救われた気持ちになってた。
全く、あんなに人間離れして、滅茶苦茶な彼が暖かくて幸せな結末を迎えたというのに。
彼とはとても程遠いどこにでもいる普通の女子学生の私がどうしてこんな目にあっているのだろうか。
『ふむ、君も駄目だったか――』
上から癪に障る厚みのある声が私の最期を告げていた。
あの本を読んでから漠然と抱えていた違和感が大きくなって何かに駆られるように走って、御曹司っぽい転校生の後を追って不思議な空間に導かれた私。
そして眼の前に無機質な敵意を宿す人形、戦えと渡された私の人形は隣で無惨にも砕け散っている。
当然だ。私はあの本の中にいた主人公とは違う。戦う術も力も才能も何も持ってはいない。
後は倒れ伏している私に敵の人形がとどめを刺して終わり。私は周りに大勢横たわっている彼等の一つに加わるだけ。
走馬灯がまさか最近読んだあの本だけとは花の女子高生ながら自分の人生の薄さにびっくりする。
『さらばだ。安らかに消滅したまえ』
目を瞑って、確定した自分の死を後は迎えるだけ。
――確定した?本当に?
今の私に戦う術は無い。
――生きたくはないの?
当然、死にたくない。だけど私には力が無い。
――力が無い人間は生きていけないの?
そんな事は無い。
――なら、
……生きたい。
――それなら抗わなくちゃ。
力が抜けていた四肢に活を入れて立ち上がろうとする。消滅するのが怖い。何も残せずこのまま消えるのが怖い。だって私はまだ、何もやっていない。あの本の中にいた主人公のように自身の生涯を自信を持って終えれる程の意味をまだ成していない。
私はまだ、自分の名前しか知らない。
震える手足がやっと言う事を聞いてくれた。
『ここに来てまだ足掻くか。君の手にはもう戦う剣は何も無いというのに。その空っぽの手で何を掴むというのかね』
あぁ、そうだ。立ち上がれたから何だというのだ。その声の言う通り私には眼前の人形に対抗する術は無い。
力も無い。才能も無い。知恵も無い。
けど、この『生きたい』という感情だけは誰にも譲れない。
戦う力が無い者は足掻く事すら許さないのか?いや違う。
私は、『岸波白野』は――。
こんな最期を認めない。誰しもが迎える明日を手に入れる為に
そんな決心を嘲笑うように人形兵の刃は私の心臓を貫いて――。
「そうだマスター。生きようとする意志そのものに力の有無は関係ない」
『むっ、これはっ……まさか――』
砕け散っていた。あれだけ私の命を脅かしていた恐ろしい敵が飴細工のように粉々になっていた。
「力があれば戦える?それこそ戯言だろう、本当に賛美されるべきは戦う力が何も無くても戦場に立てる者。俺よりもよっぽど上等だ」
守るように私を背に立っている青年の姿があった。上半身に衣服は纏っておらず、赤い刺青のような……そう、丁度今、私の右手に現れた物と似た紋様が彼の全身に帯びていた。
「意思は持った。今から君はダイスを振るう側になったんだ。どんな目を出すかは君次第」
腰まで伸びた乱雑な黒い髪。白い下履きを穿いてるその男は何もかもが桁違いだった。
存在感というか、生命としての在り方が私と何もかも違うような……。現実味が無いのに私が今まで見てきた全ての物よりもはっきりとした存在感を主張していた。
そして名前も知らない彼を見て、私は直感した。この人があの物語の……私が読んだ『
こちらを振り向くその顔はどこまでも前向きで眩しいぐらいに生きる意志と愛に溢れていた。
『警告、警告、対象「ビースト0」に警告。人類悪の存在はSE.RE.PHにおいて許容外。対象の存在は認知出来ない。直ちに退去を命じます』
突如として響くアラートに、空間全体が赤く染まっていた。最初の声とは別の本当の意味で感情が無い機械的な声が聞こえる。
『ほう、驚いたな。絶対的な客観性を持つムーンセルがこの焦りよう……。しかし、ビーストか。そもそもあり得ない筈なのだがな、この演算器が自身の天敵になる者が召喚される余地を残す事など……』
「それはマスターの力かな。この世界で誰にも読まれる事なく眠っていた彼女の本を最期まで読んでくれた君がいてくれたから月の海に本来呼び出される事の無い俺は無理矢理、縁を繋ぐ事が出来た」
『成程、その平凡さはカモフラージュだったというわけか。まさか予選の段階で人類悪を呼び出す算段を立てていたとは……喜べ少女よ。君は今、全ての参加者を出し抜いて最強のカードを手に入れた』
ん?ちょっと待って。何か私のせいにされていない?
『
「夢を見てた。とても長くて暖かい夢を――」
アラートがさらに大きくなり、現れた赤い光線が鉄格子のように私達を180度包囲していた。バグを完全消去する為に押し潰すように迫って――。
「そんな夢に浸っていたら、初めて聞くのにどこか懐かしい声を聞いてね。しばらくは惰眠を貪るつもりだったんだけど、これも何かの縁だ。死ぬほど手を出させてもらおうかムーンセル」
鬱陶しい蝿を叩き払うように手を振るうだけでその檻を粉砕した。
そう、手。彼の周囲から現れた夥しい程の手、手、手、手。白く蛇のように蠢き続ける数多の手。
鳴り響くアラートが私にはムーンセルとやらの悲鳴にしか聞こえなかった。
「人間の精神を観測するのに128人のトーナメントで殺し合いってのはちょっと視野が狭すぎると思うの。安心していいよムーンセル、後の仕事は俺が引き継ぐからさ、しばらく休むといい。社畜な君への長期休暇という名のプレゼントだ」
『停止、停止、停止、ヤメ――』
「白式官能 八百万の手」
役者交代の合図となった魔手の群れは彼の体を中心として拡がってSE.RE.PHを犯し、世界を簡単に塗り替えた。
泡のように崩れていく偽りの学び舎の中で私は事態の展開についていけなかった。とりあえず……助かったという事でいいのだろうか?
あぁ、それにしても熱い、熱い、とても熱い。右手に宿った紋様の熱さが私の意識を奪いに来ている。というか……この刺青……?どんどん伸びてないか?肩まで拡がって――。
「参ったな。先に説明する前に君の体を何とかしないといけないか。英霊ではなく人類悪の俺と契約を結んだマスターは君が始めてだからな……マスター、自分の名前は言えるかい?」
――岸波 、 白野
「おっけー、よろしくハクノ。俺の事は――……うぅ――ん、デアーもビーストもグダおも使い古されている感じがするから、丁度いいや、セラフ。君は俺の事はセラフと呼んでくれ。絆Lvが15ぐらいになったら本当の名前が解放される感じで」
そう言って倒れかけた私を抱き締めてくれる彼の温もりと優しい顔はつい先程まで命がけの戦いをしていたという事実させ忘れさせてくれる。私は助かったんだ――という実感が消えゆく意識の中で確かな達成感として残っていた。
安心して、彼に身を任せて――。
「これから月の聖杯戦争を電子世界ごと丸々乗っ取るワケだし、そう名乗った方が適切だよね。さてさて寝起きハイテンションの俺が最高の生存競争を見せてやるZE!魔王になる準備は出来たかい、ハクノ?」
は 、い?
予選を通過し、自らのパートナーとなるサーヴァント達を召喚したマスター達は困惑していた。
偽りの学園生活から記憶を取り戻し、各々野望や欲望や願望や希望を抱えて、この聖杯戦争に臨んだというのにいつまで経っても聖杯戦争は始まらない。
本来、本戦の控え室代わりとなる筈だった月海原学園で待機していた彼等の疑問に応えるように全ての参加者達の瞳に映るようにあらゆる媒体からモニターが展開された。
そこに映し出されていたのは一組の男女。マスターと見られる月海原学園の制服を着ている栗色の髪の少女の後ろで男は口を開いた。
『【聖杯手に入れたけど何か質問ある?】』
「いつの時代の掲示板スか……」と施しの英雄を召喚した引き籠りの駄肉眼鏡の呟きがどこがで聞こえた気がする。
『勘の鋭い方々は雰囲気から俺が正規のサーヴァントじゃないってのは察して頂いていると思います。そうです、わたすが変なビーストです。方法はどうあれ、俺と我がマスター岸波白野は聖杯戦争が始まる前に聖杯を手に入れるというRTAを成してしまったわけです』
ビーストと名乗った男の後ろで浮かんでいる巨大な結晶体が彼の言葉が虚言の類ではないと教えていた。真っ当なウィザードならその物体が常人の理解の外にあるアーティファクトである事は察せられる。この霊子虚構世界でそんな古代遺物に当たる物は当然聖杯しかない。
ならば、マスター達とサーヴァント達の頭の中にあるのは疑問符、あるいは怒りもあったかもしれない。何割か例外はいるが命の覚悟をして、譲れない望みを抱えてこの戦争に挑んだというのに、何も分からないまま気づけば第三者に優勝賞品を掻っ攫われてしまっていたのだから。
だが、ここで終わりではない。この人類悪はそんな味気ないエンディングは許さない。
『とまぁ、完走した感想ですが、俺もマスターもこの聖杯を使用する気はありません。そもそも人生、獣生?を完全謳歌した俺が今更、地球をどうこうするつもりも無いですし、マスターもマスターで謙虚な性格なのでやっぱり聖杯は使わないと来た』
マスターと呼ばれた少女は何も語らない。何も言わない。その瞳は虚空を見詰めて、現実逃避しているようにも見える。
『うん、あなた方の気持ちは十分わかる。だから、今ここに宣誓しよう、新たな聖杯戦争の始まりを!』
突然の勝利者の出現。そして更なる聖杯戦争の再開。128……いや、正確に言えば127人のマスター達は誰一人欠ける事なく彼の言葉に耳を澄ませていた。
モニターは拡張し、聖杯を望む者達へ贈られる試練の場が映し出される。ビーストの宝具『白式官能』によってハックされたここは霊子虚構世界というよりもはや精子虚構世界。聖杯が眠る熾天の玉座を目指す為に越えなければならない七天の階層。
『トーナメント形式の殺し合い程度で人間を知る?人間を舐めるなバカチンが、殺し合いだけで測れる程、人生ってのは薄くないっつーの。ありとあらゆる視点、角度、ジャンルで……君達の人間力を測ろうじゃないか。これこそ真の聖杯戦争!括目せよ!!』
――勇猛名高い英霊諸君にとって一番得意なジャンルだよね?
それは戦い、生命力を競う試練。
第一の檻『死ね!影の国ブートキャンプ』
――食べる事とは生きる事。料理の腕に男女の貴賤は無し。
厨房とは戦場である。これこそ真の八熱大地獄。
第二の檻『
――リア充爆発しろではない。君達自身がリア充になる事だ……。
求められるは待ち時間でもパートナー飽きさせないトーク力、効率的にアトラクションを回るプランニング力。
第三の檻『夢の国 ディスティニーワールド』
――遠回りこそが最短の道だった。
約4000kmの大陸横断デッドレース。ゴールに辿り着く事……真実はそれだけよ。
第四の檻『血鬼血鬼マシン鯖レース』
――人類の宝の一つでもある創作力。
無限ループからの脱却を目指せ。邪神入り乱れるハワイ島での執筆活動。
第五の檻『
――ユーモア無き者に幸福は無し。笑いを学べ。
数多現れる笑いの刺客。君達に許されるのはただ一つ――耐える事だけ。
第六の檻『
――人生設計は将来だけではなく死後の事まで。
落ちたり、登ったりしろ。最後に立ちはだかるは魂の試練。
第七の檻『
『ただ一人の勝利者なんてことは言わない。七天を超えて、俺がいる玉座まで辿り着いた者に誰一人差別なく聖杯の使用権を与えるさ。そして俺は何度でもチャンスを与える。この聖杯戦争において死という概念をデリートした。仮に消滅する目にあっても君達はこの学園からリスポーン出来るようにね。人間は何度だってやり直せるのさ』
「随分と甘い聖杯戦争にしてくれるじゃない。聖杯という破格の賞品はそのままに……逆に罠を疑うレベルよ」
西欧財閥に敵対するレジスタンスの一人である黒髪ツインテールのレジスタンスの言葉はごもっともだった。一部ゲーム気分の者達もまだいるが概ね彼女と同意見だった。命を捨てる覚悟を持っているマスター達にとってこの聖杯戦争は温過ぎると。
『って思うじゃん?まぁ、第一の檻から挑んでみればいいと思うよ。すぐに普通の聖杯戦争の方が良かったわ!と後悔する輩が続出すると思うから。人生百倍分味わえる娯楽と愉悦と苦難がぎっしり、この聖杯戦争は生存競争ではなく人生競争。コンティニューし放題なら聖杯なんて簡単とかいう考えは今すぐ捨てた方がいいよ?』
校門の所に何十人もの人数が一気に入れるぐらいのゲートが展開される。ここから熾天の玉座まで目指せという事なのだろう。未だ、セラフを取り込み、
「ビースト……人類悪でしたか、噂レベルでしか聞いた事はないですが、確か人類の
「だがレオ、問題はそれを従えているマスターだ。人類悪と呼ばれる存在がわざわざこんなふざけた聖杯戦争を用意する理由が無い。ならばこれはマスターの意向となる。岸波白野だと?誰もそんなウィザードは聞いた事が無い。無名のマスターがあんなものを召喚したというのか?それに見ろあの女の瞳。ドロドロに濁り切った黒い渦だ。恐らくまともな精神はしていないだろうな」
優勝候補の一人である西欧財閥の王子とその影で動く暗殺者はビーストは当然として、マスターである少女の方にも警戒を強める。
「元監督役の上級AIから聞いた話ですが、彼女は予選の段階であの人類悪の聖遺物らしき物を既に手に入れていたらしいです」
「ははは、ならばこの老骨も含め、皆あの少女に出し抜かれたというわけか。ふふ、長生きはしてみるものだ」
「いや、笑ってる場合じゃないでしょ旦那!キャンプはまだしもキッチンとか即売会とかオレの役目がどこにあるのってハナシ!」
「ちっ、これなら名の知れたウィザードの方がまだありがたかったな。まさか、この為に名を上げずに虎視眈々と「カズ君!カズ君!遊園地とかリゾートとか超行きたくない!?」……頼むから黙っていてくれセイバー」
神父服を来たAIの
だからマスター達は誰も気付かない。未だに沈黙を不気味に保っていて焦点が合っていない瞳を持つ少女の口が小さく「だれか たすけて」と動いている事に。
「上等じゃないっ。こちとら、世界中でサバイバルしてきたテロリストよ。温室育ちのお坊ちゃん共に負けないっての!……ってランサー、お腹抑えたりして、どうかしたの?」
「……悪ぃマスター。一つ目の檻から嫌な予感しかしねぇんだ」
「ぐぬぬぬ、なんと派手な奴よ。ここまで豪快な聖杯戦争を用意するとは嫉妬を通り越して、羨望さえ覚えるではないか!さすがは奏者と同じ名前を冠するマスターだけはあるな!」
「キシナミ、ハクノ――、彼女がいる玉座まで辿り着けば俺も自分が何なのか知る事が出来るのか――?」
闘争に囚われた哀れな平和男でもなく、狂った桜を咲かせる悪魔的AIでもなく、地球を自慰道具に使う淫欲魔神でもなく、此度は濃密な人生と愛を全うした白き獣が織り成すカオスな聖杯戦争。
『さぁ、来い!君達の輝きを俺に見せてくれぇっ!ガッチャ!楽しい
今宵、混沌の海に皆が溺れる。
ふぁっく・ゆー。
「こら、女の子がそんな汚い言葉遣いするものじゃないぞマスター」
こんな状況になったのだからスラングの一つぐらい許して欲しい。完全に私、ラスボスじゃないか。黒幕じゃないか。助けてもらった事には感謝しているがもう少しどうにかならなかったのだろうか?
「癖になってんだ。悪役ムーヴするの」
もう令呪で折檻した方がいいのかなぁ、この駄ビースト。気づけば全身に令呪が延びているし。正確に数えてはいないけど、百画ぐらいはありそう。
「何せ、サーヴァントじゃなくてビーストを従えるマスターなんてそうそういないからねー。いや、マスターの魔術回路をビーストを従えれるぐらいに調整するのは一苦労だったよ」
もしかして、令呪が宿った時のあの熱さは私の体があなた……セラフとのパスに適応し切って無かったから?
「そもそもビーストをサーヴァント化出来るマスターなんて余程のバックアップが無い限り、化け物クラスしか出来ないから。うん、マスターの命がかかっていた状況でこの手しか無かったとはいえ、正直反省してる」
……?何でここで視線を逸らす?私はあなたに命を救われた。まぁ、そのおかげで127人のマスターと敵対するワケになったが、それに関しても色々と思う所が無いワケでもないが……特に文句を言うつもりは無い。
さっきはあぁ言ったが私はあなたには感謝しかないという言葉には偽りはない。
「そっか。じゃあ、死にかけたマスターの膣に白式官能で魔力という名の『
は?
what?膣?ヴァギナ?Vagina?魔力?精?Sperm?
「一刻を争う状況だったからさ、一番魔力が効率良く接種出来る場所から注入する必要があったんだ。あくまで宝具だから、セックスはしてないし、マスターの膜は破ってない事は保証するよ。それでも本当に申し訳ない」
ッッッ~~~~…………!!!!ぐぅわっぁぁぁああくkっさdくhdぇいうhlぢうあhぁけhぃうえfへあkfんf;kじゃ;kjdふぁ;えkjんふぇ;kfじゃん;かjん;lkふぇん;fぁk――――…………!!
……………………………………だ、だ、だ、大丈夫、問題無い。
「本当?女の子がしていけない顔してるけど」
何であれ、あの本を読んだ以上あなたの性格も知っているし、彼の能力がソッチ寄りだという事のも知ってる。私の命を助ける為に必要な事だったのも理解している。そもそもあれだけ綺麗な奥さん達がいるセラフが没個性な私に欲情して無理矢理手を出すなんて不義理を行うわけもないだろう。
「いや、マスターは普通に美人さんだと思うけど」
令呪パンチ!
「ぐわぁあぁっっ!!」
お前、本当そういう所だぞ!
顔面ストレートを受けて転がるビースト、あぁ、一応これ『
』を愛読していた私にとって憧れの存在な筈なんだけどなぁ……。
はぁ、夢って儚いね。大人になるって悲しいことなの。
で、私はこれからどうすればいいのだろうか?
「勿論、マスターにも七つの試練に挑戦してもらうよ。自分探しでしょ、君の願いは」
ムーンセルを手に入れたなら、そこから簡単に知る事が出来るのでは?
「そんなネタバレみたいなやり方は認められないなぁ。自分ってのはそう単純にわかるもんじゃないでしょ。体力、自炊力、女子力、根性、創作力、ユーモア、魂力、諸々鍛えながら、自分を見つけるといいさ。俺は自分探しで旅に出る奴を笑ったりしないタイプの人間なのだよ」
む、む、む……確かにセラフの言う事は一理ある。私とした事が彼に助けられてから、楽に流れようとしていた傾向があったのかもしれない。あの物語で語られていた通り、やる事なす事、百段ぐらいぶっ飛んでいるがそこには私に対する親愛の情があるのは理解出来た。
只の一読者にしか過ぎない私には少々、こそばゆい感情なのだが。
「大丈夫。マスターにはそれぞれの階層でパートナーがちゃんといるし、俺も極力表には出ない程度に茶々入れながらマスターのサポートをするからさ」
「ふ――ん、リッカといいあの子ったら自分のマスターにするのはモブ顔が好みなのかしら」
第一の檻まで下がっていくエレベーターの中で谷間と臍が露出したおしゃれなスポーツウェアを着ているピンク色の髪の女性が私の隣で呟いていた。私の格好も体育の授業で着る体操服になっている。何故、ブルマ……。アイツの趣味か?
この格好もそうだが、こうしてメイヴと自己紹介された彼女に隣で立たれると女性としての戦闘力の差がはっきりと出てしまう。ふっ女子力たったの2か、ゴミめ。って速攻瞬殺されそうなのだが。
この綺麗な人が第一の檻の私の相棒サーヴァントという事でいいのだろうか?
「
???
「分からないって顔してるわね。まぁ、私達は英霊じゃなくて、彼の精で肉を得た精霊、サーヴァントではなく『スピリット』って覚えておきなさい。サーヴァントと違って私達は彼以外の呼びかけで召喚に応じる事は無いのよ。あの子自身は今回のあなたみたく手を伸ばしてしまう事もあるけどね」
なんか、サーヴァントというより凄い存在って事ですね。ハクノ、覚えた。
「面倒臭いからそんな感じでいいわ。それにあなた運が良かったわね。パートナーがスカサハとかじゃなく、私で」
スカサハ……。確か、彼の子供を三番目に産んだ女性だとあの本には書かれていた気がする。自身を殺す存在を望む影の国の女王。彼女の悪口を口に出せば槍に貫かれ、陰口を心に思えば槍が飛んでくると恐ろしい存在として書かれていたが、子供が産まれてからはその性格が嘘のように鳴りを潜め、穏やかな淑女になったとも。
「マスターと出会う前は死臭がするゴリラ女、マスターと出会った後はサブカルクソ女。あなたの言う通り、子供が産まれた後が一番マシだったわね。だけど……はぁ、子供も、孫も産まれて大好きな人との生涯も大往生して、色々と解放されちゃったのかしらね。今回召喚されたあの女は色々と吹っ切れてるわよ」
電子音が第一の檻に着いた事を告げた。エレベーターの扉が開き、私達は足を踏み出す。
――いやあああああああ!誰か助けてぇえっっ!!
――死ぬ、死ぬぅっ!死んじゃう!!
――ごめんなさい、ごめんなさい、ボクは駄目な駄肉です。豚です。パパ、ママ、ごめんなさい!
――ランサーが死んだ!このひとでなし!
地獄を見た。
時系列
本編(第一部)→番外編(第二部)→アポクリファ編→英霊編→今話
実は正月イベが無かったら、『
《没理由》
これ以上シリーズを増やしたら、投稿が追いつかない(真顔)。