というわけで感想欄でもちらほら見かけていたラーマきゅん好きの紳士達の為の今話。
ラーマ好きはホモではない。いいね?…………ブラウザバックをしなかった読者諸君には私と共に新世界へと付き合ってもらうよ。
エロ本編に関してはあまり時系列は気にしないでくださぁい。
世界にはどんなに願っても、足掻いても、力を尽くしても、無様に手を伸ばし続けても届かないものがある。
人はそれを夢とも言うし、無謀とも言うし、願いとも言う。
たとえ、それがどんなに達成困難な茨の道だろうとも諦めず進み続けた人間達がいるから今日まで人類史という物語は続いてきたのだ。
そして、今日……ここに叶わぬ頂きへと挑み続ける愚か者達の姿があった。
「「シータァァァッ!!」」
人類最後のマスターは後ろにいるコサラの王の激励とシンクロし、叫び、光の輪を作り出し続ける。
カルデアの召喚システムにて、吠え、ひたすらに
一体、幾つの石が犠牲になったか。
一体、幾つもの涙を流したか。
それでもマスターは回し続けた。この愛すべき少年が妻と出会う悲願があるのなら、それを叶えてあげるのがマスターとしての務めだろうと……。
だが無情にも届かない現実があった。叶えられない大望があった。
今回はこの人外マスターでも届かなかった……ただそれだけの話。
「あ、アァ……」
「ま、マスター……」
概念礼装『ミラクル救道者』がパサりと落ちる。あの天真爛漫、唯我独尊を行くマスターらしからぬ絶望の声。
――消費した石:6000個
――召喚した回数:2000回
それが得た結果は彼の周りにある大量のマナプリズムとレアプリズムに概念礼装の山が物語っているだろう。
「あれ、あれ……?石がないよ……。おかしいな……。さっきまであんなに山のように石があったのに……。石が無いと召喚出来ないじゃないか……ガチャを回せないじゃないか…………ねぇ、ラーマ……。シータを迎える為にあった石の貯蔵はどこに消えてしまったんだい……?どうして俺の目の前はこんなにまっさらになって……あぁ、気を利かして誰かが掃除でもしてくれたのかな……?」
「っ……!もういい、もういいんだ……!休め!休んでくれマスター!」
親を亡くした幼子のような瞳で幽鬼の如く彷徨うマスターのあまりにも痛ましいその様子にラーマは堪らず駆け寄り、力の限り抱き締めた。もういいんだ、もう余の為にこれ以上自分を傷付けないでくれと叫ぶように。
「へへっ……。なんて声出してやがるラーマ。俺はまだ、元気イッパイ……だぜ……。ほら、見ろよ。こんな時の為に貯めていた呼符貯金……全部で200枚あるんだぜ……これだけあればまだ戦争に挑めるさ」
「頼む……!もう止めてくれマスター……。確かに余はシータと出会いたい……だが、だがっ……決してそんなボロボロになったマスターを見たいと思ったわけではない……もう、止まってくれ……お願いだから、止まって……」
「俺にもシューティングゲームの如く、撃っても撃っても尽きないぐらいの無限の聖晶石があったら…………不甲斐ないマスターで、本当にごめん……」
どこにも行かないように渾身の力でマスターを抱き締め続けるラーマ。その瞳には涙が流れていた。それはこれだけの対価を尽くしても妻と出会えないとわかった自身の運命の嘆きか。いや、あるいはいつも自由奔放で悲しみなど知らないようなマスターをここまでボロボロになるまで戦わせてしまった不甲斐なさへの涙かもしれない。
マスターも久しく味わっていなかった敗北の味を今更ながら痛感し、癒しを求めるようにラーマを抱き締め返した。
召喚ルームにて泣きながらお互いを抱き締め、温もりを感じ合い、慰め合う二人の少年の姿がそこにはあった。
「落ち着いたか?」
「うん、ごめんね?情けない所見せちゃったかな……」
マスターのマイルームに戻り、意気消沈した様子の彼に甲斐甲斐しくもお茶を差し出すラーマ。
普段なら、「全く、王たる余をお茶くみにする不届き者などマスターぐらいだぞ」と文句も出ていたかもしれないが、今はそんな軽口を出す空気にもならなかった。
マスターのライフワーク、そしてカルデアの戦力確保における貴重な資源を自身の勝手な望みで消費させてしまった罪悪感がラーマの胸によぎっていた。
「ハハ、ごめんねラーマ。力なきマスターでさ。自分を支えてくれている友達の願いも叶えられない愚かな男だと笑ってくれ」
「何を言うか!余の願いを叶えようと全身全霊に戦争に挑んだマスターを笑う者などいるものか!そんな者がいたら、この一刀の元、斬り伏せててくれる!」
らしくなく弱り切っている彼を拳を上げて励ますラーマ。だが、すぐにその拳も力なく降ろされる。そもそもこんな事になっているのは誰のせいだと。
「むしろ斬り伏せられるべきは余かもしれぬ……。余が退き所をもっと早く見極めていたら……。マスターに願いを叶えてもらおうとした余の不徳ゆえだ……。なぁ、マスター、確かに余はシータに会いたい。だがその願いを叶える為に最愛の友を悲しませるような事はしたくないんだ。マスターの元気の無い顔を見ると、余はとても心が痛い」
「へへ、何言ってんだよ。別にこれぐらいの爆死……に、日常茶飯事さ」
「全身がガックガクに震えて、汗がヤバいぞマスター。今すぐに消費した聖晶石を全て持ってくるのは無理だが……」
先程の大爆死を思い出し、心が折れかかっているマスターの顔に浮かんだ汗を甲斐甲斐しくもタオルで拭き、手をそっとラーマが握った。
椅子に座っているマスターの足元に寄り添う姫のように。おっきーあたりが見たら、ちょっとマーちゃんとラーくんの距離感が薄い本が厚くなるぐらいに近くなーい?と興奮しそうだが。
「シータと会う方法はまた別の方法を探ればよい。今はどうか、汝の傷を癒させて欲しい。マスターには笑顔が似合うからな」
「ありがとう、ラーマ……」
自分のせいであの青空のような笑顔が曇ってしまうのは忍びないと跪くラーマはマスターの手を握り続ける。
彼の男とは思えない柔らかな手をニギニギしながらマスターは礼を述べる。はい、ラーマ君、頬を紅潮させて、「んっ……」とか身じろかない。
「『離別の呪い』だよね。ラーマがサーヴァントになってもシータと出会えない理由は」
「遺憾ながらも余のスキルにもなってしまっている」
本来なら聖杯でそのスキルを消滅させてしまう事が出来れば万事解決なのだが、沖田の『病弱』スキルすら「残念だが、その願いは私の力を超えている」と治せない聖杯君がこの呪いを解ける筈もなく、肝心の所で使えないレベル上限UPアイテムなのだ。
「むのー、聖杯君、むのー」
「こと聖杯戦争においてシータは余……ラーマという英霊の異なる側面として扱われている。つまり同一人物の英霊が召喚される事はない聖杯戦争では余達は……並び立つ事が出来ない……」
「う――む、けど。それも冷静に考えるとおかしな話だよね?」
「何がだ?」
ラーマの一見、正しそうに見える意見にもマスターは疑問を呈したくなった。
「だってほら、アルトリア種とか。クー・フーリン種とか」
「あ――……」
得心がいったようにラーマは声を上げる。確かに異なる側面というのならあれらこそ当てはまるだろう。青王からオルタ化した王様、中身がヤバい白きリリィ、宇宙からの使者ヒロインX、槍の中でマスター飼育したい王様だったり、そこから黒化した余は悪くないもんだったり……カルデアのガバガバ召喚システムなら元は同一人物扱いだとしても、普通に別個人として存在しているわけであり。ラーマとシータが同時に召喚出来ない理由としては少し弱い。
「最初は只の衣装チェンジだけの筈だったエリちゃんもここ最近はハロウィン、勇者、デフォルトって3人に分裂する事も出来るようになったし……」
「プラナリアか……あの竜娘は」
「トリプルエリちゃんスペシャルベッドライブは美味しかったです」
「そ、そうか……。マスターが楽しんでいるようで何よりだ」
分裂したエリザベート達との乱交を想像したのかさらに顔を赤らめてしまうラーマきゅん。もっともその照れはどっちを意識した故なのかは本人しかわからぬが。
(ええい!何故、余はマスターの方を想像して照れているのだ……。違う!違うぞシータ!これは不貞行為ではない!うむ、そもそもマスターは同性だしな。何も疚しい事はない筈だ!)
纏う服が一切無いありのままのマスターの妄想から首をブンブンと横に振り、思考を切り替える。
「むむむ、なら一体何が足りない。まだまだ余のシータに対する愛の咆哮が足りないとでも言うのか……」
コテンとマスターの手の甲におでこをぶつけながら、ラーマは悩む。何か名案はないかと、もうマスターの悲しい顔は見たくないと彼は必死に考える。そしてやっぱり同性にしてはこの二人非常に距離が近い。
「その呪いは……『ラーマ』と『シータ』を生涯すれ違いさせ続ける………………。聖杯戦争ではシータはラーマとして扱われる…………むむっ……!?……なら……いや……もしや……これならっ……?」
ブツブツと呟いていたマスターがハッと雷に打たれたように固まる。
ラーマの手を握り返していた事からラーマきゅん成分を補給した事による効果か、彼の頭に迷案が閃く。
「きたぜ……ぬるりと。この窮地を脱するウルトラCが。君とシータを会わせる事が出来るかもしれない神の一手が……!」
「な!ほ、本当か!マスター!!」
マスターの手を握ったままキスでもしてしまいそうになるぐらいに身を乗り出し、彼の顔面ギリギリ至近距離まで迫るラーマ。
闇に降り立った天才勝負師の如き彼の言葉に瞳を輝かせてこちらを見つめてくるラーマに不敵な笑顔でマスターは頷く。
「あぁ、まだ現段階では可能性のレベルの話だが。やってみる価値はある」
「そうか……!あっ…………す、すまぬ!少々気安過ぎたな!す、すぐに離れ…………ふみゅっ!?」
お互いの吐息がかかってしまうぐらいにマスターの顔に近づいていた事に今頃気付いたのか、焦りながらすぐに離れようとするラーマの頬を先程まで彼の手を握っていたマスターの手が挟み込む。可愛らしい声を上げて、固まるラーマにマスターは真剣な面持ちで聞いた。
「ラーマ、君はシータと会う為ならどんな試練だろうと、苦しみだろうと超えてみせる……。その想いに偽りはないね?」
「……あぁ、当然だとも。例えそれがどんなに七難八苦に満ちた獣道だろうとも余は……!必ずシータに巡り会ってみせる!!」
――その答えが聞きたかった。とマスターはラーマに外出を促し、30分後ぐらいに再び部屋に戻って来て欲しいと頼んだ。
そして、またマスターのマイルームに入った時。先程とは違い、灯り一つ点いていない暗い部屋に白衣を着たマスターが立っていた。
明らかに異質な空気。ゴクリとラーマは息を飲む。
ドアを開けた事による、廊下からの光だけがマスターの部屋を照らしていた。
「マスター……?」
「疑問に思っていた」
背を向けていたマスターがこちらに振り向く。
「異なる側面として、アルトリアは多数召喚されている。クー・フーリンも召喚されている。その各々が確固たる個として存在している。なのに何故ラーマとシータが並び立つ事が出来ないのか?同一の英霊は存在出来ない?シータはラーマの異なる側面として扱われる?割とガバガバなカルデア式英霊召喚において、そんな道理が通るか?」
未だ、マスターの表情は読めない。白衣をたなびかせ、彼は大仰に演技染みた仕草で言葉を続ける。
「生前、猿バーリはラーマに呪いを掛けた。その呪いが英霊としてなった今でも二人を縛り続けている。要するに『ラーマ』というサーヴァントと『シータ』というサーヴァントは絶対に会う事は出来ないとされている……。ここだ、ここが一つの打開点だった」
空気が変わる。そこでラーマは気付いた。彼のベッドの上にある衣装の存在に。
「ならば逆説的に『ラーマ』じゃない存在になれば、『シータ』に会えるとも言える。アルトリアとアルトリア・オルタが同時に存在するように。『シータ』と『シータ・オルタ』が一緒にいてもそれはおかしい事ではない」
「マスター……ま、まさか、余にシータになれと言うのか……?」
ラーマが釘付けになっていたその衣装は第五特異点でシータが着ていた服と酷似していた。だが、背丈はラーマにぴったり合うように調整され、臍の部分は隠し、スカートもミニスカートながら股間の所は見えないようにシータが着ていた物よりは露出度は控えめに作られていた。ここまでの衣装をたった30分で完成させたマスターも大分気持ち悪いが、今は置いておこう。
「どう見てもアルトリアがスポーティなジャージ姿になっただけにしか見えない謎のヒロインXのように言い張り続けろ」
「ほんき……なのだな……?余は、余、は……」
ラーマはふざけるなと激怒する事はなかった。マスターが徹頭徹尾本気だという事が心の芯から理解させられていたから。マスターはいつだって余の願いを叶える為に尽力してくれていた。自身が傷付く事さえ省みず。そんなマスターに自分は一体何を捧げてあげる事が出来るのか……ずっとラーマは悩んでいた。
(羞恥心……?そんな小さな事で彼の手を払うのか?今ここで彼の案を拒絶する事はかつて
部屋の入り口で固まったままだったラーマは歩を進める。
(信じている、信じ切っているとも。君の案なら……地獄の底まで付き合うとも)
「今日から、シータが召喚されるまで君の名は……ラーマの名は『ラータ』ちゃんだ……。そして何故その名なのかも君ならわかる筈だ」
「「特に意味は無い」」
二人の声が重なる。
「そうだろう?」
微笑むラーマ。マスターの部屋の一部分しか照らしていなかった光が全体に降り注ぎ、同じく笑うマスターの顔が見えた。ラーマの大好きな青空のような笑顔。
「これより最終ミッションオペレーションラーマーヤナの概要を説明する」
「確定した過去を変えずに結果を変えろ。猿バーリの呪いを受けたラーマとそれによりすれ違い続けた二人。その確定した過去を変えずに結果を変えるのだ」
「君自身を騙せ!」
「英霊の座を……世界を騙せ!」
「それが、シータンズゲートに到達するための条件だ」
「検討を祈る。ヴィシュヌ、バージュ、コングル」
差し出された新たな自身に生まれ変わる産声となる衣装を受け取り、もう一方の手でマスターの手を取るラーマ。その顔は凛々しくも勇ましいコサラの王の顔ではなく、どこか咲いたばかりの初々しくも可憐な少女のようで……。
これは悪魔の契約なのか?それとも……。きっとラーマなら、いや『ラータ』なら声高に否定するだろう。これは『未来への一歩』だと。
――君の案なら地獄の底まで付き合うとも。
「とは言ったもののっ……!」
マスターの自室にて、膝上のきわどい丈をしているミニスカートの裾を真っ赤にしてつまんでいる美少女?の姿があった。乙女の如く、「奥で着替えるから覗くのではないぞ!フリじゃないぞ!絶対にフリじゃないからな!」と着替え終わったラーマ……ではなく『ラータ』ちゃん。
「やはりこれは……死ぬほど恥ずかしいっ……!股もスースーするし……世の女子達は皆、このような頼りない衣服をあんなに自信満々に纏っていたのか……」
シータのツインテールと対をなすポニーテール姿で照れ照れのあざとさ100%パーペキ女サーヴァントにしか思えない。
「マーベラスぅ」
「ふぅぇあぁぃ!?……ままままマスター、にゃにをぉっ!?」
あまりのラータちゃんの可憐さにより感無量の表情で突然のハグをかましたマスター。熱烈な抱擁を受けたラーマはテンパりにテンパっていた。
(いやいやいやいやいやいやいやいやいやいやいや、余は一体何をパニくっているのだ!今までもマスターとは共に戦った時だったり、訓練の時だったり、お互いを称え合う為に抱擁の一つや二つぐらいしていただろう!あぁ、だけど今の余の姿は……やぁ、ちょっと太腿擦れて……)
これはマスターの背へと抱き締め返すべきなのか混乱中のラータは宙で手をわたわたさせていた。なんだこの可愛い生き物。
(はぁ――――ぁぁ……ちかい……ちかぁぃぃぃ、マスターとの距離がちかぁいぃ……ちょっとまって……首元かぐのわぁ……)
「すぅ――はぁ――……うっし。ラータきゅん成分補給完了。うん、ラータ君、今の反応実に女の子っぽくてグッドだったよ」
「ぁっ…………うむ、女の子っぽいと言われてもな……余は男であって……」
それは褒められているのかと?ジト目でマスターを見詰めるラータ。そういうあざと可愛い行為をデフォでやるからマスターに可愛いと言われるのだが、ちゃんと自覚はあるのだろうか。
そしてマスターが離れた瞬間、か細く寂しそうな声を上げた自分の事も自覚しているのだろうか。
「そこだよ。より『ラーマ』とかけ離れる為にはむしろ女の子らしくなった方が得策。もう英霊の座が『お?なんやこの娘めっちゃ可愛いやんけ。けどラーマは男だよなぁ→じゃあこの娘はラーマじゃないな。→なら、ここにシータを召喚させても全然問題ないな。だってラーマおらへんもん』と思うぐらいに君は女の子に!ラータになるのだ!!愛すべき妻と!出会う為に!!」
「そうか。これも必要な試練なのだな……。さすがはマスターだ。良く考えている。……まったく、何を今更、余は躊躇をしていたのだ……。シータと会うためにどんな事だってしてみせると誓った筈なのに……。うむ、うむ!余はもっと女の子らしくなってみせるぞ!マスター!」
ちょろっと騙されてしまうコサラの王様が心配になります。詐欺とかに引っかからないかしら?
いつもの『ラーマ』らしい凛々しい名残を見せて、ドンと来いとラーマは無い胸を張った。
「じゃあ、部屋から出よっか?」
「へ?この格好でか?」
「モチのロンよ。ラータという存在を確固たる物にする為にはいつまでも部屋には引き籠ってられないでしょうよ。色んな所に行って、色んな人の目に入ってもらって『ラータ』という存在をこの世界に刻み込まないと」
「た、確かにその通りだが……。ちょっとまだ心の準備が……。あぁ!マスターまてまて!有無を言わさずサーヴァントを引き摺れる程の膂力で手を引っ張るでない!今の余のは……その、あの、お、おおおお女の子なのだぞ!もっとデリケートにぃぃぃぃぃぃぃぃぁぁぁぁぁぁぁ…………」
マスターに手を引かれ、新たな世界へと飛び立つラータちゃん。
ラーマだった頃から普通に彼とは手を繋いでいた事はあったが、何故かこの瞬間、今の姿でマスターと手を触れ合っている感触はいつもと違う感じがした。
むず痒くて、照れ臭くて、離したいのに、ずっと離したくないそんな不思議な感触。心の中で持て余しているこの感情を何と呼ぶのかまだ、
昼頃、恐らく人が一番集まるであろう時間……カルデアの食堂へ赴くマスターに手を引かれ、俯きながらもう一方の手でマスターの服をちょこんとつまむ少女?の姿があった。彼の後ろをピッタリとくっつく新顔に視線が集中する。
「「マスター(旦那様)の背後は私のだぞ!」」
「ハウスせい、ストーカーコンビ。しっかし、キャラ濃度マシマシのカルデアでは珍しい部類じゃのう。パっと見普通の女子にしか思えんが(ニヤニヤ」
「まぁ、沖田さんのヒロイン力には敵いませんが!」
「そうやって慢心してるから剣豪編の出番も、水着も、第六天魔王さんの相棒ポジも奪われるんですよ♡」
「あっ、口と目から血の滝が出てる。人間って怒りの沸点を超えるとこうなるんだ!茶々、また一つ賢くなった!!」
「仄かな腐臭を覆い消す程のラブコメ臭が姫センサーにビビっと反応してる!」
「なぁ、メディア。やっぱりただの長髪だと味気ないのかな?マスターももしかしたら変わり映えしない私のヘヤースタイルに飽き飽きしているんじゃないかな?いや確かに今の私ならポニーテールだろうと、ツインテールだろうと、サイドテールだろうと、団子だろうと、ドリルヘヤーだろうと自由自在だし、髪伸ばして良かったぁ……って今、心底安心してるけど……。でもよく考えてごらん?これですぐに髪型変えて、あの橙色の娘に影響されたんだろうなーとか二番煎じだなーとか思われでもしたら、私は今すぐ自分をピグレットにしてカルデアの外へと身投げする自信はあるぞ!冷凍豚としてな!あぁ、けどマスターに新しい髪型褒めてもらいたいなー、こう一日中、髪先をクルクルイジってもらって、『もう、朝からこうしてるけど、もっと触りたい所はないのかい?』って私が」
「叔母様長い。三行で」
「うっう~~ん?何だろう……?こう、他人じゃない気がするというかあの娘はボク達と仲良く出来そうな気がするというか……ねぇ、どう思うデオン?」
「私に振っている時点で色んな意味で悪意しかないぞ」
「おい!ムニエルが発作を起こしているぞ!」
「これはセーラー服ナイトとメイド服ナイトのコンビを見た時と同じ症状だ!早く鎮静剤を打て!!」
彼女の正体に気付いている者、気付いていない者、反応は三者三様だった。突き刺さる視線、視線、視線、ラータである
服一つで、髪型一つで、こうも世界は変わるものなのか……。
(いや、余はシータと出会う為にどんな事だってしてみせると誓ったのだ!こんな所で足踏みしてられるものか!!)
意を決して、マスターから手を離し、食堂へと足を踏み入れていくラータ。腰回りでヒラヒラする布が気になって仕方ないが、出来る限り女の子らしさを意識して歩き出す。そんな彼女に近づく一人の男の姿があった。
「レディ」
「な、なんだ、なんでしょうか?」
円卓最強の騎士、好みのタイプ人妻、最近は娘の冷たい視線が悩みのランスロット卿が紳士的な笑顔で語りかけていた。
「あぁ、申し訳ない。怖がらせるつもりは無かったのですが。このカルデアにやって来た新たな仲間には挨拶をしなければと思いまして。いやはや、まるで百合の如き可憐な少女を今日まで気付く事が無かったとは。私の視野の狭さを恥じるばかりです……」
「あっはい」
ランスロットは目の前の少女がラーマだと気付いていないし、もちろん彼女が男だとも思っていない。
まるで我が王を彷彿とさせるラータの凛々しさにこの穀潰しはいち早く動き出したのだ。大丈夫、今の貴方も十分に視野が狭いです。
「それでよろしければ、この後どうですかお茶でも?これからと共に戦う仲間として、お互いの事をよく知り合いたいと私は思うのですが……」
「あぅ、えっと余、わ、私は…………そのぉ…………ま、ますたぁっ……!」
ラーマの時だったら特に武人衆だったり戦士衆とも普通に接する事は出来たが、何故かは今はその普通が出来ない。いつもと違う服。女子として扱われている事実。そして、異性として目の前の男に誘われているという今まで一度も経験した事のなかった事実にラータは極度の緊張と恐慌状態に陥り、半泣きになりながらマスターの背に隠れてしまった。
「ラータ、今の反応は非常にグッドだ。ラーマとかけ離れた女の子らしい反応。君は順調に『ラータ』になっている」
「そ、そうなのか。今のが正解なのか。女性とは難しいな……」
小声で背にいるラータを褒め称えるマスター。まるで箱入り娘を思わせる初心っぷり、男の人怖いです!とマスターの背後に隠れる小動物らしきリアクションは一部の層を悶絶させる事間違いないだろう。
そのマスターも男だろうって?何を言う、男に対して免疫の無い深窓の令嬢が男だろうとも唯一信頼を寄せてくれるシチュエーションとか超滾るじゃないか。
「あ!麗しきの君よ!せめて名前だけでmぉっぅぶるぅっぁっ!?」
「すみません、先輩とそこの新しい方。ちょっとこのゴミを片付けてきますんで」
娘からの愛情表現(盾で頭を殴打)で意識を失ったお父さんはそのままマシュに引きづられていく。
きっとお父さんも久々の娘とのスキンシップで嬉しくなっているかもしれない。
マスターとラータは何も言わず、その背後を見送った。
「いよしっ!この調子で行ってみようか!」
「余はもう心が折れそうだが……。これもマスターとシータの為、何だってやってやろうじゃないか!」
――そうしてラータは女子力アップの為に若干やけくそになりながらステップアップしていくのだった。
《女子?会》
シミュレーションで再現された色とりどりの花達に囲まれたテラスにて、姦しくも女子?達が一堂に介していた。大きめの丸形テーブルを囲み、お茶やお菓子を楽しむ女子?達。
当然、女子?会でもあるのでマスターは参加していない。こういう時は頑張って一人で行くものだよと諭されてしまったのなら、ラータも一緒に着て欲しいと強くは言えなかった。
この女子?会のメンバーは……。
マーリン(ラーマだと気付いている)。
哪吒(ラーマだと気付いている)。
デオン(ラーマだと気付いている)。
アストルフォ(さっきデオンにラーマだと教えてもらった)。
ラータ(バレてないと思っている)。
の計5人。どっからどう見ても女子会である。
「此の面子 悪意有 女子会 疑問」
「いやいや女子会以外の何物でもないだろう?私も含めて、花も恥じらう乙女ばかりだ」
「自分で言うか……。それで、ラー…………タはもっと女子力を上げたいという悩みだったか?」
「ふっふーん。そういう事ならボクにお任せだね!マスターがメロメロになっちゃうぐらいの可愛さテクニックを伝授しよう!」
「ま、まてまて、余……わ、私は別にマスターとそういう関係になりたいのではなくて」
「およよ?じゃあなんで?」
「それはもちろん…………いや、何でもない」
性別が色々と曖昧勢に囲まれているラータは落ち着かない雰囲気で困惑していた。ここで馬鹿正直に「シータと出会う為だ!」と言うわけにもいかず、ラータは口ごもる。だが口ごもった理由は本当にそれだけ?シータと会いたいという願いに偽りは無い。だが今の自分が抱えている願いは本当にそれだけなのだろうか。
「使いやすい言葉で話せばいいじゃないか。そもそも一人称が『余』の女性など珍しくも無いだろう」
「余☆を呼んだか!」
「誰も 呼んでない 暴君 帰宅 推奨」
デオンの言葉に赤王ちゃまが皇帝特権でダイナミックエントリー。噂をすれば暴君がやってくる。余は美少女も美少年も大好きだ!と公言する皇帝様にはこの花園は非常に魅力的に映るだろう。
「そもそもあんなにマスターしゅきしゅきオーラを振り撒いておいて、そういう関係になりたくないなんて言い分は通らないんじゃないかな。ボクの蒸発した目は誤魔化せないぞ!」
「どんな目だそれは……。とにかく、余は何と言われようともマスターを異性として見た事など一度も無い!あくまで彼とは信頼とかそういう友愛の感情であって!確かに手とか体を触れられるとドキドキするし、食堂で背に隠れた時も安心感を得ていたが、そこにそういった疚しい感情は一切無い!」
若干墓穴を掘っている感じはあるが、それでもラータはマスターを異性としては見ていないと言い切った。その瞬間、棘が刺さったような胸の痛みを無視しながら。
ズキリとその痛みを誤魔化すようにラータはお茶を飲む。そしてそんなラータちゃんを微笑ましく見守りながら、マーリンとネロはコソコソと本人に聞こえるようにお話をしていた。
「ところで奥さん、聞いて下さいよ」
「余は確かにマスターの妻だが、何だ?」
「この間、バレンタインがあったじゃないか。マスターは女性サーヴァントからチョコを。そしてマスターは男性サーヴァントにチョコを」
「うむうむ。余もお返しのホワイトデーにはそれはもう濃厚な物を頂いたがなぁ……うぇへへへへ」
「涎が出てますよ皇帝陛下。それでチョコをもらった男性サーヴァントもバレンタインデーの内に思い思いのお返しをマスターにしたわけだけど……あの『ラーマ』君って子がいるじゃない?」
「おぉ!インド神話に名高きあの幼き少年か!」
「ぶほぉっ!」
盛大にお茶を吹くラータ。
「あの子ったら。お返しに『余の大好物だ』といってバナナ(意味深)を渡したんだよ?これはもうギルティだよね?」
「あぁ、それはローマ的にも夜のお誘いだ。余の時代だったらその場で襲われても文句は言えないであろうな」
「『お返しはマスターのバナナが欲しいぞ♡』みたいな?卑猥、コサラの王ったら卑猥」
「きっとその日はアソコに
「一体、何を穿ってるんですかねぇ」
「穿ってるのは貴様達の見方だろうがぁぁぁ!ただ単に自分の好きな物をお返しにした一般的なやり取りではないか!!」
怒りと恥ずかしさで顔面を真っ赤にさせたラータはテーブルをひっくり返してしまう勢いで立ち上がり吼えた。他の面子も含めて、もうラーマだと気付いてので慌てる事なく、冷静に自分達のお茶とお菓子を確保している。
「いやだって。お返しに自身の好物だって言ってバナナを渡すんだよ?」
「バナナはなぁ。仕方ないであろう……。そもそもラータよ。何故そこまで激昂する?」
「いやだって不埒ではないか。そのラーマとやらの事は余は全く知らないが。只の友としてのやり取りをそんな、せ、性行為に結び付けるなど……」
まるでフロイトさんのような論理展開を見せる二人にもごもごと口を噤むラータ。ネロ皇帝は先程の彼女の言葉を声高にして否定した。
「不埒?一体どこがだ!?愛し合う二人、想いが通じ合った二人、そうした二人が行き着く先は肉体関係他ならぬだろう!そこには薔薇のように燃える愛がある!それを否定する事こそが不埒であり、不健全であると余は叫びたい!ラータよ、貴様は女子力を上げたいと言ったな?ならばここの者が教えてやろう!シャルルマーニュが十二勇士、アストルフォよ!女子力向上の為の三本柱を言ってみよ!」
「オシャレ!恋!セックス!」
「大☆正☆解である!」
「ここまで酷い女子会は初めて見た」
「心底 同意」
デオンと哪吒の至極真っ当な呟きは他の者達に届く事はなかった。
サイレントタグ増やし。今回は読む人を選ぶかなーとドキマギしながら書いてます。でも自分はラーマきゅんは可愛いと思ってるし、心から女の子だと思ってるのでこれはホモじゃない。はい論破。
とまぁ、お気に入り7000突破と。お気に入り数がR18作品の中で2番目になった記念も込みで好き放題書かさせて頂きました。冷静に考えるとこの頭とアソコがおかしいマスターの物語を7000人以上の方々に見てもらってると考えると非常に興ふ、……感慨深い物があります。もっと執筆に時間取れたら更新速度も上がるんですけどね。やっぱ仕事はクソ。
しかしまぁ、何だかんだでここまで来たのも読者の皆様方の応援や評価、感想があってだと思うので、隙あらば感謝を露わにするスタイルで行こうと思います(誤字報告、いつも超あざっす!)
一話で終わると思ったかぁ!?次回に続くんだよォ!!そして4月馬鹿に投稿したが、この話は嘘でも何でもねぇ!残念だったな!!これがシータンズ・ゲートの選択だぁ!