※この作品はR-18です。

おいでよ カルデアの森   作:一火

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前までの投稿頻度が投稿頻度だったので、いつも通りのペースに戻るとガクッと間が空いたように見える法則。私は生きています。
感想、評価、誤字報告、いつもありがとうございます。

カルデアコレクションにてメイヴ更新。







駄ラッパー魔神柱を喋らせるのが一番、面倒くさかったです。






テイルズオブセクステリアⅥ(アガルタ編その4)

 アマゾネスの女王と人類最後のマスターがぶつかり合った日。

 余りにも荒々しく、圧倒されるしかないその戦いを目にしていた者達は更なる怒涛の展開にもはやついていけなくなっていた。

 

 恐らく、イースの主たる男の一撃によって決着はついたのだろう。

 

 大地は割れ、半径10m近くの穴を作り、二人は落下していった。不夜城の地下にそんな空間があったのか?結局、勝者はどちらになったのか?何故、出てこないのか?そんな疑問を抱えながらも誰もその穴に近づく事は出来なかった。

 あれ程までに超然とした戦いをした二人がいるであろう穴蔵に飛び込むぐらいなら、まだ虎穴に入った方がマシだと誰もが思っていた。

 

 だが、この世界にはまだいる。あの二人の戦闘力に匹敵する程の化け物が。

 

 アガルタの世界において知らぬ者はいない。生ける災害。膨張化した巨英雄ヘラクレス……。美的センスにこだわりがある者がつければメガロスと名付けるかもしれない。

 

 

 一瞬の出来事だった。その巨人が飛び込んでから数分――。

 

 

 弾き返されるように再び地上へと吹き飛んだメガロスとそのメガロスよりも恐ろしい怒気を撒き散らす女アマゾネスが飛び出して来たのは。

 

 

「コロスッ!コロスッ!コロスゥゥッ!!もはや、12回殺した程度でこの怒りが治まると思うな!!」

 

 今までペンテシレイアがメガロスと対峙したどの時よりも言葉自体はまともに発している。だがその激情と向けられる怒りの大きさは目にしただけで不夜城の臣民達が気絶してしまう程。

 

「■■■■■■■■――!!」

 

「殴りコロス!蹴りコロス!噛み千切ってコロス!捻じりコロス!絞めコロス!潰してコロス!呪いコロス!焼きコロス!抉りコロス!踏みコロス!叩きコロス!刺しコロス!神々が与えた試練など生温い程の地獄を見せてやる!!」

 

 メガロスの髪を掴み、もみじおろしにする勢いで街中を駆け巡り、引き摺り回すペンテシレイアの姿はどちらが怪物なのかわからなくさせてしまう。もう、最初の戦士同士の真っ当な戦いの範疇は超えていた。愛する男を傷つけられた女の激情の恐ろしさ。周りの配慮を一切しない大災害に野次馬に集まっていた者達は一目散に逃げ出していった。

 

 

 

 

 そんな阿鼻叫喚の中でも、逃げずに留まっている者も中にはいた。

 

「『穴の中に飛び込んで、生きている奴を全員殺せ』と俺は命じた筈なんだがな……まさか、あのバーサーカーが出てくるとは思わなかったぜ」

 

 巻き込まれないように崩れた家屋の残骸を背に様子を覗う老年の男がいた。

 レジスタンスのライダー……コロンブスがイース、不夜城、アマゾネスの3勢力が集まる絶好の機会を逃す筈は無かった。半信半疑ではあったが、あのキャスターの言う通り、海底に眠る玉手箱……膨大な魔力の塊である簡易願望器のような物を見つけたコロンブスは周りの部下達には見えない角度で実に気持ちの良い笑顔を浮かべていた。

 

「てっきり、イースを支配した。『性賊王』とやらが生き残っていると思ってたが……。あぁ――、勿体ねぇ、勿体ねぇなぁ……。一日で荒くれの女海賊共を支配した手腕……。きっと俺の良い相棒になったかもしんねーのによ。あっちの方が死んじまうとはなぁ」

 

 本気で惜しんでいる気持ちもあったのだろうが。いや同じ船に船長は二人もいらねぇから、きっとどこかで殺してかもなとコロンブスはすぐに思考を切り替える。だからこそ、あの怪物にどちらも殺せと命じたわけなのだから。

 

「あ、あの大丈夫でしょうか、ライダーさん。ここにいたら、危険では?」

 

「何シケた事言ってんだよ?ここが正念場。てめぇらの雪辱の日々を倍返しで叩き付けてやる時間だろうが。あの大嵐も俺達のカードになったんなら、後は突き進むだけさ。風は完全に俺達に吹いてるんだぜ?……そういや、シェヘラザードの奴はどうした?」

 

「えぇ――と。アマゾネスの奴が穴から飛び出したのを見た瞬間に一目散に逃げていきましたが……」

 

「……アイツの臆病っぷりもどうにかならんのか。まぁ、いい。()()の在処を教えてくれただけでもアイツは十分の仕事をしてくれたしな」

 

 そうしてこれ見よがしにコロンブスが持っているのはメガロスの命令権兼ブースト代わりになる玉手箱がストックとして数箱。

 厄介なエルドラドのバーサーカーを仕留めたら、レジスタンス一丸となって後はメガロスの突撃に呼応してここを落とすだけ、欲を言えば、イースのダユーと不夜城の女帝も確実に仕留めたい所だったが、それも近い将来きっと叶うだろう。何せ自分はこの世界で最強の戦力を手に入れたのだから。

 

「……さてさて。ウチの新顔君はそろそろバーサーカーを仕留めてくれたかねぇ?」

 

 厄介な支配者達をまとめて潰せる絶好の機会。コロンブスは狡猾にタイミングを見計らっていたが、彼の目には信じられない光景が映っていた。

 

「…………あん?オイオイ、何の冗談だ?あの女さっきまで満身創痍だったろうが。何で、ヘラクレスと戦り合えている?何で傷が()()()()()?」

 

 最初の怒りも長続きはしないだろうと思っていた。何せ、あの黒髪の優男との戦いによって既にもうボロボロだったのは確かに見たのだから。だから、いくらエルドラドのバーサーカーといえども、万全の状態のメガロスと勝負になるワケが無いとコロンブスは高を括っていた。

 

 だが、現実はメガロスが振り回す巨斧を怒りながらもクレバーに捌き、ランクA相当まで昇華された彼女の怒りの鉄拳が既に巨英雄の命を3つ奪っていた。

 

 ペンテシレイア自身も怒りの中で不思議に思っていたのかもしれない。どうしてここまで自分が動けるのかを。ただ単にギリシャの英雄というだけでアキレウスと混同し、暴れまわっていた頃よりも、この地でマスターと一騎打ちをした時よりも体が軽く、生前の時すら凌駕した力を生み出している事は事実だった。

 

 まさか、彼に散々膣内出しされたせいだとは夢にも思わないだろう。

 英雄の現身であるサーヴァントを一つの存在として肉付けをし、新たな宝具を獲得させるまで成長させる彼の精子はこれ以上無い程に潤沢な魔力として彼女の身に宿っている。

 

 だがペンテシレイアにはそのような原理はわからない。今の彼女の頭の中にあるのは愛する男を傷つけられ、逢瀬を邪魔した者達全てを始末する事。

 

 人類悪候補生の愛によってブーストされた狂化はメガロスすらも屠り得る破壊力を生み出す。ギロチンの要領で倒れ込んだヘラクレスの首に膝蹴りを叩き込むペンテシレイア。そこから「シネシネシネシネシネシネ死ねぇぇっ!」と連呼しながら頭蓋に肘を叩き込み続ける姿。……愛……怖いな――。

 

「あのアマゾネスの宝具か?ヘラクレスが負ける……?いや、手は早めに打っといた方が吉だろうな。おい、巨英雄よぉ!ご飯の時間だ……あぁ!?」

 

「あがっ!?」

 

 コロンブスが玉手箱によって劣勢なメガロスの回復をしようと瞬間、銃声が響いた。そして悲鳴と共に倒れるレジスタンスの部下。銃弾に撃ち抜かれたその男は何が起きたのかわからず、その場に倒れ伏す。

 

「不覚……大失態ね。まさか誰にも教えていないわたしの別荘からそれが盗まれていたなんて……マスターになんて詫びればいいのかしら」

 

 下手人はダユー。女海賊達を引き連れて険しい目でコロンブスを睨み付けていた。

 元々、玉手箱の在処でもある竜宮城はダユーのもう一つの本拠地。正直な話をすれば、マスターとの蜜月の時を楽しんでいた彼女は何もない退屈な竜宮城の存在などついさっきまで忘れかけていた。

 

「お、お、おぉぉぉおおおお……!て、てめぇっ!何て事をしやがったっ!!」

 

(この男の心臓を撃ち抜こうとしたけど……こいつ、今隣にいる部下を周りにバレないレベルで盾にしたわね……)

 

「……よりにもよって俺の部下から手ぇ出してくれるとは舐めた真似してくれるじゃねぇか……!動揺でも誘うつもりか?許さねぇ……許さねぇぞ……てめぇら……!!野郎共!!弔い合戦だぁ!!」

 

「わたしも人の事は言えないけど、中々の屑ね。あなた達、周りの男達(雑魚)は殺さない程度に遊んであげなさい。私はコイツを仕留めるわ……!」

 

「ハッ!大将の心配はしなくていいのかよ?それともお前にとっては消えてくれた方がいいか?あの男が消えれば、またイースはお前の所に戻ってくるわけだからなぁ!」

 

 銃弾、鞭、鎖、二人の船長は殺意を武器に乗せて激しく応酬し合う。

 ダユーは彼の言葉の返答として何発も銃弾を放つ。この男に言われなくとも、心配は最初からしているのだから。それでも――。

 

「その汚い口を今すぐ閉じなさい。わたしはあの人に信じられてここを任されているの。彼が我慢しろって言うのなら、わたしはいつでも我慢するわ!だって……その方がキモチ良くなれるって知っているから!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ダユーとコロンブスが対峙した頃……場面は変わり、先程、二人が消え、不夜城の本拠地に繋がっている穴の前に一人の美女がいた。

 

『探知!感知!歓喜!/嗚呼、仇敵の命の灯が風前!/空前絶後!おぉ、遂に我は統括局すら為し得なかった偉業を!!異形のマスターを始末する大偉業を!!』

 

(やかましいですね……)

 

 自身の中で韻を踏む魔神柱に顔をしかめながらも褐色の美女シェヘラザードは穴の底を見下ろしていた。

 メガロスが乱入するのは手紙で伝えていた。にも関わらず特に彼は対抗策を打っているようには見えなかった。フェニクスの言葉を信じるのなら、巨英雄の手によってカルデアのマスターは仕留められてしまったのか。

 

『我が同士よ。時は満ちた。アガルタの者達による狂乱/狂喜/狂愛!英霊死せずとも既にこの空想は完走の道を。貴様が求めていた終焉へ充ちた/この願いこそ Me too→さぁ、解放せよ開放せよこのアガルタを浮かべるのだ』

 

「いえ……その前にカルデアのマスターの顔を見ておこうかと思います。きっと最後になると思いますから」

 

 そんな疑問を抱えながらも、シェヘラザードはフェニクスの言う通りに宝具を起こす気にはならなかった。この駄ラッパーが自信満々に自身の物語の中にあのマスターを引き込んでから……イースをたった一日で落とした彼を遠目で眺めてから……彼女自身が抱えていた直感。

 

 数多の物語を語り続け、死を避ける為の様々な手段を用いてきた彼女の経験が作り出した勘。

 

 フェニクスの離反行為ともいえる内通の手紙を送り続けたのもシェヘラザードが彼の力になる事が死を避ける為の一番の近道だと、本能的に悟っていたからかもしれない。

 

『……成程。理解。豪快。痛快/死に行く者への最後通告か……我も今まで溜飲を飲まされた/勝者or敗者。物語の作者としての締めで奴の人生にも〆/そういう事なら止めはしない』

 

 勝手に納得しているフェニクスの戯言をスルーし、シェヘラザードは人型の精霊の肩に乗り、慎重にゆっくりと地下の城まで舞い降りていく。

 

 何故ここまで一言も言葉を交わした事のない者に入れ込んでいるのか?共犯者としての魔神柱が頼りないから?いや、それだけではない。彼女の行動理念は死なない事、それのみ。

 

 ならば不死の魔神柱よりも生の気配を色濃く残すマスターへと傾いてしまうのは当然だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 さて、ペンテシレイアを庇い、メガロスの一撃によって武則天の本拠地である瑶光殿の最上階から落下したマスター。

 無人島では魔猪を狩り、時間神殿ではゲーティアとの殴り合いを行い、電子の海では協力者がいたとはいえ、自身も前線に出てサーヴァントを屠り、快楽天とも戦り合った彼のスペックはサーヴァント……もしくはそれ以上の物を持っていると言ってもおかしくはなかった。

 

 だが、そんな彼でもペンテシレイアと生身で殺し合い、床の場でも彼女からの抵抗を受け、トドメにはメガロスの強力無比な一撃。受け身を取る事なく地面へと激突した彼には今までの特異点で一番深い傷を負わせたとも言えるかもしれない。

 

 いつ死んでもおかしくない状態。常人ならとっくのとうに事切れている状態。

 

 だが、それでも彼は死なない。絶対に死なない。自分の死に場所はこんな所では無いと。『戦闘続行(根性)』によって息を吹き返した彼は血まみれになったまま笑う。

 

「は、はは……生き、てる……。いや――よかった、よかった……」

 

「何も良くないわたわけ!!貴様、よく今の状況で笑えるのぅ!この妾を未亡人にするつもりか、えぇ!?」

 

 血だまりの中で仰向けに倒れ伏すマスターを武則天は半泣きになりながら叱り付ける。

 シェヘラザードからの手紙によって、メガロスの乱入はダユーも含め、彼女も知っていた。だが、マスターは俺に良い考えがあると彼女達には余計な手出しをしないように命じていた。ダユーには怪しい者がいたら逃がさないように周囲の警戒を。武則天には自分に何かあった時の為の待機班として。

 

 これは策通りなのか、それとも不測の事態なのか。彼女にはそれを問い詰めている余裕は無かった。

 今は優先すべきは目の前で死にかけている愛すべき男の命を救う事。

 

「貴様、自分の状態がわかっておるのか?頭蓋骨骨折及び脳挫傷。鼻骨骨折。第7歯から第4歯欠損。第1歯及び第2歯欠損。頚椎捻挫、左鎖骨不完全骨折。右上腕骨不完全骨折―、右手手根骨及び中手骨完全及び不完全骨折。左前腕骨不完全骨折、左手中手骨及び中節骨不完全骨折。基節骨完全骨折。右肋骨4番5番複雑骨折及び左肋骨7番完全骨折。左大腿骨及び………これでもまだ半分じゃ!つーか、逆に生きているのが不思議なくらいじゃ!」

 

「わたしは……一向にかまわん……!」

 

「ええいもう口を開くな!!集まれ、酷吏共!めす!包帯!汗!さっさとこの大馬鹿者の治療を行うのじゃ!」

 

 命じられるままに続々と集まる酷史達。拷問によって人の体の壊し方を熟知している彼女達が逆に人の治し方にも精通しているのは道理でもあった。

 医者のように武則天は余裕がありそうにも見えるマスターの応急処置を行う。

 

 

 ――ザザッ、ザザッ……

 

『あ――もう、ようやく繋がった!まさかここまで念入りに通信を阻害する結界が張られているとは思わなかったよ……。まぁ、マスター君の事だから、マシュの心配も杞憂だと……思うけどぉぉおおおお!?何故ぇぇ!!?』

 

『……え、え、先輩?先輩……?あ、あ――――』

 

 魔神柱の妨害を掻い潜り、通信を繋げる事が出来たカルデアからの二つの悲鳴。

 彼の人外っぷりを理解しているダ・ヴィンチちゃんはまさかいきなりスプラッタな状態で彼が映し出されるとは思わず。万能の人らしからぬ叫び声を。

 いついかなる時でも先輩の心配をしているマシュはハイライトを失う。

 

 ここに来て、ようやく合流する事が出来たカルデアはいきなり混乱の淵に叩き込まれた。

 

「えぇえい!やかましい!!状況から察するに貴様らが虎狼の所属する組織なのじゃろうが……生憎と今はそれ所ではないわ!大人しくしておれ!!」

 

 武則天は叫びながらも当然入った通信に見抜きもしない。「女帝たる妾に医者の真似事とか不敬過ぎるじゃろ……」とかぶつくさ文句を言いながらも一心不乱に治療を続けるふーやーちゃんマジ良妻。

 

『いや……こっちも普通に事情を知りたいんだけど……マシュはぶつぶつ呟いたまま、機能停止しちゃったし。そもそも何故、彼が血まみれになっているのか、その状態でキチった顔でサムズアップしているのか。というよりも返り血がついたキョンシーもどきに囲まれている状況を見ると君達が下手人としか思えないのだが?』

 

「ふぅ――。大丈夫だよ、ダ・ヴィンチちゃん、彼女は協力者。今、必死に俺の治療をしてくれている所」

 

『おーけー、現地妻ね。天才は理解が早いよ。それよりもマシュがSANチェック失敗したから、一声かけて(精神分析して)もらってもいいかな?』

 

「マシュ。俺は大丈夫。君の先輩はいつも通りさ」

 

 どこがやねんというツッコミをダ・ヴィンチは飲み込んだ。天才は空気も読める子。

 

『せ、先輩……。あぁ、先輩の声が聞こえる。良かった、良かった……先輩、先輩、先輩、先輩、先輩……んっ、ふぅ……。取りあえず、迅速な事態の説明を』

 

 

 手術中だろうが意に介さずこの特異点における情報をすらすらと伝えるマスター。「関羽か貴様は……」という武則天のツッコミは届かない。悪い男に捕まってしまったのぉ……と女帝は粛々と治療を続ける。

 

 ホームズが出る幕もなく、この地底世界における大まかな情報が揃ったことにより、ダ・ヴィンチちゃんは治療班としてナイチンゲールを送り込もうと悩んだが……せっかく既に治療している先達がいるのなら、あのバーサーカーと衝突させるのは悪手だろうと考え直す。

 彼女も大方、マスターに誑かされたクチなら、信頼してもいいだろうと。思考を巡らせていた瞬間に乱入者が現れる。

 

 

 

 

『むむ!?新たなサーヴァント反応に加えて……何だこれは生体反応?いや、生きているとは言えないぞ……?』

 

『先輩、注意を!!』

 

「生きてはいたようですね……。その怪我でも意識をはっきり持っているのは驚愕ですが……」

 

 精霊に担がれ、降下してきたシェヘラザードと。

 

『素晴らしき!素晴らしき!/人類最後のマスターの死期!/我らが仇敵/怨敵/忌敵の最後!』

 

 今まで煮え湯を飲まされ続けたマスターの重傷っぷりに歓喜のあまりに人型のモデルで姿を現した魔神柱フェニクス。

 敵勢力の登場に治療を他の酷史に引き継いだ武則天は彼を背後に守るようにして構えた。

 

『入念な準備/カルデアとの断絶。アガルタでの孤立。女達による束縛=全てはこの時の為。我が目的を果たす邪魔をする壁/完全に仕留める為→成、成、成、我が大願ここに成功せり!』

 

「ちっ、やはりそちら側じゃったか、キャスター。まぁ、虎狼はともかくとして妾はあの手紙の事をこれっぽっちも信じてはおらんかったからの……。止まれ……それ以上、近づけば、妾の鞭が飛んでくるぞ」

 

「私もその事で話があります。あの手紙の通り、メガロスの来襲はあなたも知っていた筈……何故、何の対抗策も打たなかったのですか?」

 

『手紙?メガロスの来襲を予期?対抗策?wait,wait,何の話をしている我が同士よ』

 

 精霊から降り、不夜城の地下へと足を踏み入れたシェヘラザードはマスターの声が聞こえる距離まで近づき、言葉を投げかける。後ろにいる話せば話す程死亡フラグが建ちそうな魔神柱の言葉は耳に入らない。

 

「……それとも今のこの状況こそが()()()()だというのですか」

 

 真意を問い質すシェヘラザードの瞳に答えるように酷史の肩を借りながらも、マスターは立ち上がった。

 

「おい、まだ立っては……」

 

「アラフィフやバベッジ先生じゃ、あるまいし計算なんて何もしてないよ俺は。そう、ただ……彼女を()()()()()

 

「信じた?」

 

「そう。最初はメガロスの話を聞いた時、何かしらの準備はしてから不夜城で迎え撃とうと思った。何せ、君の話からすれば今回の魔神柱は狡猾で臆病。勝てると確信しない限り、俺の前に現れるとは思えなかった。けど、それもペンテシレイアと出会う前までの話……」

 

 フェニクスはシェヘラザードとあの男が一体、何の話をしているのか理解出来なかった。いや理解したくなかった。ここにいるのは死にかけのマスターと姿を現しているアサシンだけ、自身だけでも簡単に屠る事は出来る。それだけで後は宝具を発動させれば、自分達の目的は達成される。なのに何故、シェヘラザードは悠長に言葉を交わしているのかと疑問符を浮かべ続けるしかなかった。

 

『理解不能、理解不能/その話……まるで我が同胞と仇敵が通じていたようではないか/要求→説明を求む。欲求→貴様の願望はどこへ消えた』

 

「……消えてなどいません。私の願いは変わらず死なない事、それだけです。そして今、理解しました。どうして私が離反し、カルデアのマスターへと傾いていったのか……。単純な話です。フェニクス、貴方が得意げな顔で彼をこの地に呼び寄せた瞬間から消えないのですよ、死相が」

 

 満身創痍の状態であっても人類最後のマスターには未だ色濃く生の気配があった。反面、不死の特性を持つ魔神柱の方には死相しか見えない。それは生前、死にたくないが為にあらゆるものを凶王に捧げた語り部が磨き上げた慧眼。死の気配を敏感に感じ取る危険察知能力。

 

『死相?死相?死相?/何と愚かな思想!/大きく失望シェヘラザード!/我が音韻は生死司るフェニクスなり!我よりもその死にかけの男を選ぶとは!/愚昧、愚劣、愚行→そのような勘に進退身体委ねるとは!再考せよ!血迷ったか我が同胞よ!』

 

 激昂した状態でフェニクスは雑音を撒き散らす。何せシェヘラザードの宝具がなければ、このアガルタの地を浮上させて、神秘の秘匿を絶滅させる目的を……壮大な自殺を果たす事が出来ない。シェヘラザードの死に対する忌避感は本物。だからこそ、同胞として選んだわけであり。まさかここで裏切るなど微塵も思っていなかった故の焦り。

 

「じゃあ、ついでに勘以外の物も提供しようか。彼女が君のはた迷惑な自殺に付き合う必要が無い論理的な理由を」

 

『は?』

 

「彼女の手紙から知った事だけど……。神秘の秘匿が無くなれば、英霊召喚システムが破壊され、もう死が定まっている召喚を行われる事も無い。それこそが彼女の目的だったかな?はい、まずこれが唯一にして最大のダウト」

 

 人類最後のマスターは突きつける。極めて当たり前の事実を。

 

「仮にお前の目論見が成功したとしても、それはあくまでこの世界、あぁ、便宜上A世界としておこうか?A世界において英霊召喚が行われなくなるだけ。英霊の座は時間軸に捉われない、未来の英霊すら召喚するあそこに戻った君は別のB世界、C世界、他の並行世界といくらでもこれから召喚される可能性はある」

 

『そうだね――。英霊の座がそんなに脆いというのなら、まずアルトリア君達がたくさんのイフとして召喚されているのもわからないし、X君にいたってはユニヴァース世界なんてよくわからない出自だからね』

 

『英霊の座は常識に捉われてはいけない!と聞いています』

 

 お前の自殺ではシェヘラザードの目的は達成されない。そもそも同胞としての大前提が崩れているとマスターは断言する。

 シェヘラザードは詐欺師を見るような目つきで二の句が継げない魔神柱を見る。

 

「シェヘラザード……ここで君がアレと一緒に心中しても君はここじゃない世界でまた召喚されるだけだよ」

 

「フェニクス、その反応を見る限り、そもそも、そんな発想自体が無かったという感じですね……。むしろ騙していたのだと言ってくれた方が良かったのかもしれません……。私はなんて節穴な者の口車に乗ってしまったのでしょうか……」

 

『召喚に長けている■■■■王の使い魔である七十二柱とは思えない程のガバガバっぷりだね』

 

「小者臭が半端ないんじゃが」

 

『黙れ黙れ黙れ!/手遅れ手遅れ手遅れ!今から貴様の口から何が紡がれようとも全ては虫の息!/この愚図が協力しないというのならここで全員殲滅!マスターを失ったカルデアなど取るに足らぬ!我は再び、悠々と他の手段を探すのみ!!』

 

 全方向から正論ディスティニーを受けた魔神柱は当初の目的を諦め、せめてカルデアのマスターの殺害だけは試みようとする。唯一のマスターさえ、消してしまえば、自身の願望を止める者はいないとの考えだろう。

 

「だからさぁ。なぁ――んかズレてんだよなぁ、お前達。あの淫乱尼さんといい、どうしてそこまで俺を重要視する?俺なんて一人だったら寂しくて死んでしまう兎みたいな男なのにさ」

 

 関係はないが、オスの兎は年がら年中発情して性欲パないらしいね。関係ないけど。

 

 

 

「……『彼女を信じただけ』。その言葉の続きを語ろうか。正直な所、ついさっきまでメガロスの事なんて頭から抜け落ちていたよ。だって彼女との()り合いに余計な思考を持ち込みたくなかったからさ。本気で殺し合って、本気で愛し合う。それしか頭に無かった」

 

 

「それを無策と言うと思うのじゃが……ん?つか愛し合うとか言ったか今?もしかして、この城に飛び込んでから中々戻ってこなかったのもチョメチョメしておったからか?おいコラこっち向かんか。人の城で何してくれとんじゃ」

 

 ガン睨みしていたふーやーちゃんを頭撫でりこで黙らせる最低男。それで絆される彼女も彼女だが(チョロ可愛い)。

 

「その瞬間にメガロスの襲撃が頭に無くとも、俺は絶対にもう大切な人を失わないように本能的に彼女を庇う。この身がどうなろうとも。そしてペンテシレイアはその下手人を絶対に許さない。他の娘だったらまた違う手段を取るんだろうけど……彼女に限ってはさ」

 

 結局の所、照れ臭そうに頬を掻くマスターにとって語れるのは策と呼べる物ではない。

 ただ、単にペンテシレイアと本気で戦り合う!その後、本気で愛し合う、犯り合って堕とす!邪魔が入る?知らん!好きな女としてベッドの上では彼女を守り通す!だが、それだけではない。

 

 完全に狙っていたわけではないだろうが、好きな男に抱かれた愛情と、その男を殺されかけた怒りと、存分に注がれた特別製精液によってペンテシレイアのコンディションは限界を超えて強化されているだろう。

 

 

「俺はあの娘のそういうワイルドで格好良い所にも惚れたんだから」

 

 愛する男を傷つけられた怒りで限界まで強化された戦士――。

 

 つまりこれは『マスターヒロイン説作戦』とも言える。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「チッ!粘りやがるな……!」

 

 剣と鞭を使い、何とか銃弾を捌くコロンブスは苦悶の声を上げていた。食らいついてはいるもののもう何発かはイイモノをもらってしまっている。反面、相対するダユーには未だ傷が無い。サーヴァントとしてのスペックの差はそこまで無い筈なのに押されている現実。

 

 あのエルドラドのバーサーカーといい、ダユーといい、この世界の女共がまるで自分の知らない力でブーストされているような感覚。

 

「もう、諦めなさい」

 

「諦める……?諦めるゥッ!?ハハハ!冗談じゃねぇ!まだ、いけるさ!船を引き上げるには早すぎるんだろぉがぁ!ここで出し惜しみなく俺は秘蔵のお宝を使わせてもらうぜぇ!」

 

 彼の手に輝くは玉手箱。本来はメガロス用に使う物だが、出し惜しみで自分が死んだら意味が無い。だから濃厚な魔力の塊をここで自ら蓄えようとコロンブスは目論む。急激な魔力でブーストされた状態からの宝具で一気に決着をつけようと。

 

「ふぅ――……」

 

「あん?テメェ、何の真似だ?銃を下して……」

 

「あなた、サーヴァントなら自分のステータスもわかるわよね?幸運のランクどれぐらいあるのかしら?」

 

 戦いの最中、いきなり銃をしまいだしたダユーを訝しむコロンブス。ここに来て何かの罠かと彼は彼女から目を離さないように注視する。その注視こそ、()()()()()だと気付かず。

 もう、自身の真名も正確に思い出しているコロンブスは当然ステータスも把握している。

 

 

「ハッ!俺の幸運だぁ!?そんなの規格外のEXに決まっでぶッ!?」

 

 

 脳天から縦に真っ二つになったコロンブス。空から降ってきたメガロスの巨斧によってそれがなされたのだと彼が気付いた時にはもう霊基は消滅し始めていた。再起を図ろうと転がり落ちた玉手箱に手を伸ばすが、別れた体は無惨にも倒れる。

 

「一体……何が……?……玉手箱、玉手箱……。あぁ……畜生、何てこった。神様にも見放されちまったのなら……今回は……撤退する、しかねぇのか……ここまで来たのによぉ……」

 

「ライダーさ……ヒィ!?」

 

 レジスタンスの悲嘆の声を掻き消すようにさらに大きな塊がコロンブスを下敷きにして彼を完全に消滅させた。その塊はメガロス。そして、巨斧と共にそれをこちらに投げつけた張本人は巨英雄の体躯を踏みつけているペンテシレイア。

 

「匂う……匂うぞ。貴様だけではないな。まだ、いるな……私の逆鱗に触れながら、コソコソと暗躍する愚か者が……」

 

 怒りに捉われながらもペンテシレイアの思考は冷たく冴えていた。そもそも、あんな絶妙なタイミングで狂化しているヘラクレスが乱入するのかと。糸を引いている者が絶対に裏にいると勘付いた彼女は野生の嗅覚で獰猛に下手人を探し出していた。

 

 全身を怒りで掻きむしりたい衝動に駆られながらも頭の中はクリア。

 

「報いを与えねばならぬ。我が愛を貶めた者には相応の報いを……」

 

 もうここにはいないと判断した彼女はメガロスの首根っこを掴み、何処へと飛び去っていった。

 

「ちょっとだけ、死ぬかと思ったわ……」

 

 コロンブスの背後から巨斧が飛んで来たのに気付いていたダユーは安堵の息を吐いた。頭が無惨にも消滅してしまった事から戦意喪失し、うなだれるレジスタンス達の拘束を部下に命じながら、ダユーは先程のペンテシレイアの姿を思い返す、疑問符を浮かべながら……。

 

 

 腰まで伸びたツヤのある髪。女性らしく膨らんだ乳房。恐らく自分よりも高いであろう身長。さらには服までもが新調されていた。今までの露出度の高い衣装ではなく、白い布地と革が組み合わさった独特な民族的な衣装。マスターと戦っていた時との姿と合致しない。

 

 

「姿が変わった……?気のせいでなければ、大人になってないかしら……あの娘?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 彼女は逃さない。情事を邪魔した者を。愛する男を傷つけた者を。実行犯。首謀者共々全てを肉片と化すまで止まる事は無い。

 

 

 

『女王?/アマゾネスの女王?/アキレウスに敗北した女王?/破破破破破破!!破笑!嘲笑!失笑!俊足にすら勝てなかったあの英霊が最強たる巨英雄に勝てる道理無し!!貴様の切り札があの女とは……/Question?何だ、これは……頭上から生体反応……こちらに急接近……!?』

 

 死亡フラグを片手に踊り続けるフェニクスに死兆星が急降下してくる。

 すす――と迅速に魔神柱から距離を取るシェヘラザードは完全にカルデア側。

 地下へと急降下したペンテシレイアは巨英雄の巨体をハンマー代わりにフェニクスへ振り下ろされた。

 

『迸る痛みィ!?』

 

「見つけたぞ。塵芥。我が瞋恚はもはやあらゆる仇を逃さん。怒りで何も見えなくなったと思ったか?否だ、我が思考は激昂によってこれ以上ないぐらいに冴え渡っている」

 

 フェニクスは完全にメガロスの下敷きになって沈黙した。

 首謀者に鉄槌を振り下ろしたペンテシレイアは既に残りの命のストックが1となっているメガロスの肉体の上に立っていた。

 

 その肉体は少女のそれではなく、完全に成熟した女のものだった。外見だけで言えば、生前アキレウスが「美しい」と口走った頃のペンテシレイア。

 

「強制的に成長したというのですか……。メガロスが倒せるレベルまで……!」

 

「逃がさん、逃がさん。この身が味わった雪辱を晴らす為、彼の痛みを晴らす為、私は冥府の果てまで追い、殺し続けてやろう」

 

 ボッ!!と真下に右手を無造作に叩き付けただけでメガロスの肉体は爆発四散したかのように粉々に弾け飛んでしまった。周りの者が目を覆う程の破壊力。この狂った物語で操られるだけだったメガロスは漸く消滅をもって解放される。

 

『馬鹿な莫迦なバカな!!/何だその霊基は!/サーヴァントの範疇を超えている/我の理解を超えている!/生前?全盛期?否否否否!強さだけなら冠位にすら匹敵?/我が脳髄にも大きな衝撃!!』

 

 だが相手は霊鳥フェニックスの名を冠する魔神が一柱。死と再生を司る魔神柱。

 単純な破壊だけでは完全に消滅させる事は不可能。肉塊の柱として再生したフェニクスに再び剛拳を叩き込もうとするペンテシレイアだったがその瞳にマスターが映り、ようやく怒り以外の色がその瞳に宿る。

 

「あ、あぁ――あぁ、カルデア……よ。生きていてくれたのか……」

 

『カルデア?私達のこと?』

 

『いえ、雰囲気からして恐らく違うかと……』

 

 恐る恐ると彼の体に近づいたペンテシレイアは壊れ物を扱う繊細な手付きで彼の頬を触れていた。泣きそうな子供のようであり、喜びを噛み締めた女の表情でもあった。

 

「すまない……。本当ならあの時もすぐにお前の元へ駆け寄るべきだったというのに……。結局、私はああいった事でしか報いる事が出来ない可愛げの無い女なのだな」

 

「謝る事は無いよ。だって君があの時、ヘラクレスに立ち向かってくれなかったら、俺もどうなってたかわかんないし」

 

 ――だからありがとうと傷だらけの笑みではにかむ彼の顔がペンテシレイアのハートを撃ち抜く。全力で抱き締めたい衝動に駆られるが、それを何とか抑える。

 

「何だかとっても綺麗でカッコよくなったね」

 

「ふっ。そうだな……お前から愛された結果とも言える。良いぞ。お前からの言葉ならどんな賛美も受け取ろう。それが私の力の糧となる。それと治療を行ってくれたのは貴様か……不夜城の女王よ。礼を言おう妻としてな」

 

「は?妻は妾なんじゃが?」

 

「強き男が多くの女を娶る事に関しては何も言わぬ。私はもう言える立場ではないからな……。側室を何人持とうとも貴様にはその権利がある……。あぁ、私はわかっているぞ」

 

「おい誰が側室じゃ。その『私は理解ある女だから……』みたいな余裕ある目を止めい。喧嘩売っとるのか貴様」

 

 マスターと同じ目線となった体で彼女は頬を緩ませる。

 あれほど避けていた大人の女性としての姿で彼女は戦いの場へと戻る。だが、先の一撃でもうフェニクスの心は折れているだろう。彼の心にあるのはどうすればここから逃げれるか。

 

 

「不埒者めが!!」

 

 せめてもの抵抗と放たれる熱線も裏拳によって蝿のように弾き飛ばされる。

 逃げる間もなく、距離を詰められ振るわれる剛腕はたった一撃でフェニクスを肉塊とする。何度も何度もしつこく甦る魔神柱をその四肢だけで殺し尽くしていく。

 

『無駄!無為!無味!無謀!/生死を司る私を静止させる事叶わず!』

 

「何と醜い……。だがむしろ好都合だ。貴様への怒りは一度殺した程度では納まり切らん」

 

 フェニクスの狙いは成長したペンテシレイアの状態が戻るまで生き続ける事。あれだけの力を持った変身。時間制限が無いとは考えづらい。この獰猛な狂戦士さえ、どうにかしてしまえばまだ自分には勝ちの目があるとフェニクスは足掻き続ける。

 

 だが、そんな考えを不夜城の女帝が気付かないわけが無い。

 

「まったく暴力民族はどうしてそう脳筋なんじゃ。もっとすまぁとに事をなせんのか……。こういう風にの!」

 

『オォォッ!?』

 

 突如として魔神柱の体が沈み込む。毒と禍々しい魔力を混ぜ合わせた沼のような異界がフェニクスを飲み込もうとしていた。

 好いている男を傷つけられて頭にきているのはペンテシレイアだけではない。武則天の宝具『告密羅織経(こくみつらしょくけい)』が発動する。

 

 生かし続け、殺し続ける拷問の象徴とも言える彼女の宝具に捕らえられている間だけは死んだまま在り続けるフェニクスを仕留めるチャンスとなる。

 

「戦場でも政界でもやる事はしんぷる。敵の嫌がる事を行うそれだけじゃ!貴様の罪状は詐欺罪、殺人教唆、国家転覆……あぁ、後、騒音罪!うむ!!満場一致で死刑じゃ!!」

 

「やるな側室女帝」

 

「貴様から拷問したろうか!」

 

『ガ、我あああ!!まだ、だ……!』

 

『!?いけませんマスター!避けて!!』

 

 それでも死にたくない。その一心で今まで暗躍し続けた魔神柱は足掻く。せめて、彼女達にとって一番大事である者の命を奪えば、動揺を誘え、この場から逃げるチャンスになるのではと。

 

 

 人類最後のマスターの心臓を突こうと鋭利な触手が伸びたが――。

 

 

「死にたくない。その感情は共感出来ますが。ここまで来るとみっともなく感じてしまいますね……私も他者からはあぁ見られていたのでしょうか」

 

 それをシェヘラザードの防御式魔術結界が阻む。

 

「これで私も功と言える功を成したと言えるでしょうか」

 

「うん。助かった。ありがとうシェヘラザード」

 

「いえ……。これも罪滅ぼし……。というよりは自身がやらかした事の後始末とでも言えますね」

 

『何故だ何故だ何故だ!/我が同胞シェヘラザード!/我ら/生の中に死にたくないと願うもの。我ら/死すれば生かされ、また願わされるもの!/貴様も同罪!/その程度で贖罪?/その男の隣では貴様が望む願い得られず!/いつか必ず殺される筈!/我が手を、我が手を取るがいい!!』

 

「……私を殺しますか?」

 

「殺すわけないじゃん。ギアスロールでも使う?」

 

「信じます。そしてフェニクス、私はもう貴方の手を取る事はありません。そもそも私達は互いの目的が合致したからこそ手を組んだだけ。私達の間にそれ以上の関係は何も無かったのですから……」

 

『こ、この尻軽女があああああああ!!/が唖唖唖唖唖唖!!/激痛頭痛心痛沈痛苦痛悲痛!やめろめろ!よせ!もう攻撃は私に効く!』

 

「ふぅ――……どこまでも貴様は私の逆鱗に触れたいようだな……!良い勝負だぞ!あの男とな!」

 

 もはや韻を踏む余裕が無い程の悲鳴を喚き散らしている魔神柱の肉体をペンテシレイアが拳圧だけで削り取っていく……。齧られたリンゴの茎のような見た目になったフェニクスの命は風前の灯火となった。

 

 ペンテシレイアは武則天の宝具の範囲に足を踏み入れないように距離を取りながら、拳を構える。

 恐らく次の一撃で成長した姿から元に戻るだろう。そんな彼女の後押しをするように構えていない方の手をマスターが握っていた。

 

「全く……貴様はついさっき、命を奪われかけた事をもう忘れてしまったのか?」

 

「だってこれだけ近ければ、君が守ってくれるでしょ?」

 

「当然だ。夫を守るのは妻の務め。貴様は私の隣で我が強さと美しさ、その両方を目に焼き付けるがいい」

 

『あぁ、我はただ、我はただ……死にたくないだけなのに悲哀、疑問……我が願いは悪か……。否否否。死を避けるのは生物として当然の摂理。必然の願望。貴様とて愛すべき者達と永遠を過ごせるのならば、それを渇望する筈……!!』

 

 

「残念だけど、フェニクス。俺は永遠なんて少しも欲しくないよ。俺は死にたくないんじゃなくて、彼女達と共に生きていきたいだけ。ここの違いがわからなかったから、お前は今、そんな目に遭っている」

 

 

 魔神柱を屠るのにもはや直接殴る必要も無し。

 

 どういう原理かわからないが肉体だけではなく、服も新調されているペンテシレイアの姿。殺し愛を行い、戦いの熱が昂ったまま、マスターと交わり、身も心も彼に捧げた状態で何度も注がれた特大の魔力精子が新たな宝具を目覚めさせるきっかけとなった。

 

 時間制限付きで英霊としての限界を超える対人宝具(自身)。肉弾戦においてメガロスさえ凌駕する強力無比なな戦闘力。その身から感じさせる圧倒的な覇気はフェニクスに濃厚な死の気配を与えていた。

 

 名付けるならば、『我が愛故の激昂 (インレイジ・フォー・ラバー)

 

 不死を持つ魔神柱は結局、自身が得た命題を果たす事も、マスターの言葉も理解する事なく、パンと地下に響き渡る音を立てて、拳から放たれた衝撃波によってこの世界から消え去った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その後の話……。

 

 魔神柱という私の宝具の重要な核となっていた者の消滅により、このアガルタの世界は消滅を始めました。私の深層意識から生み出された実在する者ではないサーヴァント以外の女達もいずれ消えゆくでしょう。

 

 連れ去られた男達はカルデアから派遣されたサーヴァント(?)……エレナ・ブラヴァツキーの謎の巨大飛行物体によってアブダクションされ、難を逃れていました。

 

「HAHAHAHAHA!!アガルタの世界を満喫出来なかったのはちょっと残念だけど、ノープロブレムよ!私はマスターの隣にいれば、いつだってマハトマを感じる事が出来るんだから!!グッバイ、アガルタ!ニャーフ、マスター!」

 

 正気じゃなさそうな瞳で高笑いする彼女は少々、恐ろしかったのですが……。

 

 このアガルタに召喚されたサーヴァント……ダユー、武則天、ペンテシレイアは当然のように円盤に乗り、彼についていく事にしたようです。そして私も気になる事があり、カルデアという所まで同行する事にしました。ここで消滅するのは……御免ですから。

 

 ペンテシレイアが見せたあの強さ。ここの3人の女王達が召喚当初よりも確実に生命力に満ち溢れている事実。全ての謎はカルデアのマスターに集結していると私は勘付きました。もしかすれば……私が抱えるこの願望が叶うきっかけになるのではと……。

 

 まぁ、裏切ったとはいえ、私も黒幕の一人に過ぎないので恨まれている可能性はあります。カルデアで闇討ち……暗殺……不審死……。あぁ、恐ろしい。

 

 何はともあれ、万人にいつか訪れるであろう死を避ける為に始まったこの狂った物語もこれにて終幕です。

 崩れゆく地底世界。かの不死の魔神柱が何を間違ったといえば、彼をこの世界に呼び寄せた事もあるでしょうか……そうですね……。

 

 他人の恋路を邪魔する者は馬に蹴られて死ぬという単純な事も知らなかった事でしょうか。

 

 では、今宵はここまで――。

 

 ではなく、もう少し続くのです。

 

 

 




我が愛故の激昂 (インレイジ・フォー・ラバー)
ランク:EX
種別:対人宝具(自身)
使用者:ペンテシレイア
身長は172cmまで伸び、腰まで伸びた長髪。さらにスタイルはボンキュッボンと女性的な体つき、服装は姉であるヒッポリッテの白ver(strang fake参照)。これは韋駄天小僧も「美しい」と口走ってしまう事間違いなし。その後どうなるかは知らん。
外見は美しくなろうともその強さはサーヴァント……どころか生前の全盛期すら凌駕している。This way……とばかりにボッ!! とヘラクレスをボコる姿は誰もがペンさんと畏敬の念を送らずにはいられない。拳で衝撃波。蹴りで飛ぶ斬撃と遠距離戦も安心だぞ! そうアマゾンズならね。
愛する者の交じり合いと精液をエネルギーに限界を超える変身宝具。
















《アガルタ修復後。カルデアにての一幕》

「冷静に考えれば、貴様は危なかっしい」

「そう?」

「あぁ。会って間も無い私に対する全幅の信頼。そして命を簡単に投げ出す無謀さ。この私ですらドキマギするぞ」

「投げ出してるつもりは無かったんだけど。こうして生きているし」

「……というわけで決めたぞ。貴様は私が養う。女が家を守り、男が稼ぐというのはもはや時代遅れ。変化する時代にフレキシブルに対応だ。マスターの前では強く、美しく、そして賢い妻であるとしよう」

「あぁ……それでさっきからそんな本を熟読しているのね。タイトルは……『アストルフォでも出来る起業論』誰だこれ書いたの」

「現代のニーズに応えるキャリアウーマンになるぞ私は! まずは目指せ!! 年収1000万!!」

「で、何で眼鏡かけてるの?」

「インテリジェントに見えるだろ?……待て、何故そんな慈愛に満ちた顔で私の頭を撫でる?」










――ペンテシレイアさんがアレを仕留めてくれて良かったです。でなければ、カルデアにいる私達総出で殺してくれと懇願するまで痛めつけていました。そして死なないというのなら、最後はきっとメディア・リリィさんによってハーゲンダッツさんみたくパンケーキの材料にしていたと思います。先輩の前では出来る限り、可愛い私達でいたいですからね……。








次回のエピローグ兼シェヘラザード編でアガルタ編はお終い。長いね。








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