どうもお久しぶりです。
ちょっとどさんこ地震の影響を受け、投稿が遅れました。電気が止まるだけで人はこうも無力になって、てんやわんやになるとは思いませんでした。ライトニング博士も雷電神話とは叫びますわこれは。電気が無いと現代人は生きていけない。星が綺麗、暗闇で徘徊している婆さんは怖い。スーパーから食べ物は消える。助けてプレシデント。
というわけで皆さん聞いて下さい。『冬だったら死んでた』
空中庭園の何処かで~~
ガンガンとツルハシが何かを叩き続ける音が聞こえる。怒りを発散するかの如く、途方も無い結界をひたすら掘り進めようと。
「おのれ……チョコ風情が舐めた真似をしてくれおって――」
汗と屈辱にまみれた■■■■■は泥臭く、ツルハシを振るい続ける。
「まさか、自分の作った菓子に叛逆されるとはな……」
【恋とは甘美なる毒である。誰かを毒そうとした時、自分もまた毒されている】
《チョコ製造率、危険水域まで残り30%》
空中庭園中にむせ返る程のチョコフレグランス。
点在している工場から出荷される特製チョコ。それをせっせと運ぶ、チョコゴーレム、アマゾネス社員、イース社員、百貌契約社員及び、ノブノブ-と鳴く不思議生命体(+「もーもー」と鳴く金髪少女一名)達。
チョコ畑を耕す巨大少女。その叫びは死を招くとするマンドチョコラゴラを涼しい顔で触手を器用に使いながら引っこ抜き続ける『外なる神』系幼女。
チョコ泥棒として、上半身裸の筋骨隆々の男に『I have a
サーヴァントとチョコのシンフォニー、カオスでスイートでファンタスティックな光景が拡がっていた。
そこを夜遅くまで笑顔の練習により鏡の前で格闘し、若干寝不足気味な『セミラミス』。今や普段着と化してしまった黄色のメットと緑の作業着を着て、現場を視察している。隣には同じような格好をしているチョコレート製造特命大臣を付き添わせ、バインダーとボールペンを持ちながら、指示を出していた。
「馬鹿みたいに材料が余っているから作ってはみたものの、チョコフィギュア……ずっと同じ形のまま残せないのが難点ね。温度に気を遣えばその限りではないでしょうけど」
「そうね、斬新さはあるし、贈り物としては悪くはないけど……保存にはひと手間ね。ま、私の場合は魔術でどうとでもなるのだけれど」
「ドロドロに溶かして、また別のを作れるリサイクル製法は嫌いじゃなくてよ」
仕事だけではなく、チョコを用いて余暇という名の本気の趣味に勤しむ者達もいる。
股間が貞淑なアルターエゴ、メルトリリスと弟みたいな存在だと思ってた年下の子にいつの間にか押し切られて、懇ろな関係になってしまいそうな雰囲気を持っている神代の魔女メディアの二人はお互い器用にチョコのフィギュアを作成して語り合っていた。
『セミラミス』はチョコの芸術については寛容である。よって彼女達のフィギュア作成に関しても文句を言うつもりはない。
「悔しいけど、クオリティの高さはサーヴァントの中で貴女がトップクラスね、メディア。そのアーサー王も違いがわかるぐらい良く出来てるじゃない、それ白い奴がモデルでしょ」
「人形はいいわ……その中では綺麗でいられるもの」
セイバーリリィのチョコフィギュアを見て、物憂げな顔をするメディア。メルトも深く突っ込む事はしない。「チョコをたくさん作りたい?ならば、聖杯でチョコのオーシャンを召喚すればいいのでは?世界をチョコの海で満たすのです!」とか言い出した白聖女を筆頭にこのカルデアは白い奴ほどおかしくなる法則があるようだ。
リリィと化した自身が「今日から貴方は無限に増えるチョコケーキ、はい復唱!」とニコニコしながら、魔神柱ハーなんとかさんの断末魔を響かせている光景なんて、メディアは見ていません。
「ま、こういうイベントで作るのは結構だけれど、ずっと残しておくって事はしないわね」
「所詮、チョコだもの、食べられる以外の結末は無いでしょう?」
「そうでござる!!つまり、この1/1スケールのエウリュアレたんチョコフィギュアのおみ足をペロっても法律的にも道徳的にも問題は無いという事……!だって食べ物だからね。でゅふふふ!prprprprprprpr」
――バンッ!バンッ!バンッ!ザクッ!ザクッ!
「あらあら、チョコに害虫がたかってたみたいですわ、メアリー」
「よいしょ、よいしょ、ばっちぃ所を見せちゃってごめんね、マスター」
うふふ、あははと赤インクを頬にぶちまけて、物体Kを迅速に焼却炉へと引っ張っていく女海賊コンビ。ギャグテイストに片付かれるバイオレンスな光景に『セミラミス』も一言申すと思ったが、上の空のまま、少々様子がおかしい。
「チョコ……所詮は食べ物……残される事はない……か」
「セミラミス?」
蚊の鳴くようなその呟きにマスターは顔を覗き込み、心配そうに声をかけるが、女帝は「何でもない、我に気安いぞ」と歩を速めた。
何気ない彼女達の会話のフレーズが『女帝』の心に小さな毒となって刺さっていた。
《チョコ製造率、危険水域まで残り20%》
「貴様はチョコレートの起源を知っておるか?」
「あー、元々、飲み物で、あんまり甘くなかった事ぐらいしか」
「紀元前、そもそもチョコとは『神の食べ物』とされていた。貨幣そのものになるぐらいには崇高な食物とされる事もな。それこそ、原産地を巡って戦争が起こるレベルだ。現代では色恋沙汰の低俗なイベントに消費される物となってしまったが」
チョコ製造の合間、『セミラミス』とマスター、二人にしては珍しく休憩を取り、玉座の間で語り合う。玉座にかけ、ドヤ顔でチョコ蘊蓄を披露する女帝。マスターは女帝の足元、玉座まで続く段差に腰を下ろし、ふんふんと頷いていた。
休憩時間という事もあって『セミラミス』の方は作業着ではなく、黒いドレスに戻っていた。
「チョコの原料であるカカオをコルテスなる男が発見し、ヨーロッパ全土へと広めた。神聖なる貢物が単なる嗜好品となり下がった瞬間でもあるな。貴様の所にはその男は召喚されていないのか?」
「いないねー。カカオを発見という点だけで言えば、コロンブスもいるけど」
「あぁ、知っているとも、チョコの高尚さを理解出来なかった愚か者の話だろ?貴様の所にもいるのか、見かけたら、嫌味の一つでもくれてやったのに……」
「あぁ、そういえば、見かけないかも。『ハッハー!生前のリベンジの機会をくれるとは神様も粋なコトをしてくれるじゃねーかぁ!!』とかテンション上げ上げで何か企んでいてもおかしくないのに」
話題に挙がったコロンブスもマスターの予想ど真ん中でついさっきまでは庭園のどこかでドリカムスマイルを披露していた。
――従業員はいくら使い潰しても問題ねーチョコ!人件費を一切考えなくていいってのは堪んねぇなオイ。それにバレンタイン……ハッハー悪くねぇイベントだぜ。男女の痴情ってのはいつの時代も金になるからなぁ!それにこのカルデアはマスターに恋い焦がれる女共が大勢と来た!なら利用するしかねぇだろぉ!このバレンタインを!!チョコの生産ラインを手中に納めて、供給を搾りに搾る……。他の連中を出し抜いてでもマスターにチョコを渡したい奴はいくらでも大枚をはたいてくれるだろーよぉ……
コロンブスは笑う。生前、カカオという大魚を見逃した大損をプラスにすべく、死亡フラグ臭しかしない計画を立てる。
――ヘッヘッヘッ、こんな美味しい話、他にはねぇよなぁ。チョコだけに。…………あん?今、なんか空が光らなかったか?つーか、こっちに何か向かって……があああああああぁっ!?
――おや、今何か轢き潰してしまったような……。いえ、気のせいでしょう。私はヴィラン、被害届けが出るまで轢き逃げでも知らんぷりする事なかれ文系ガールです。
宙から飛来した巨大物体――えっちゃんが惑星トトーリで記念品に貰ったチョコ型宇宙船の下敷きとなってコロンブスがアガルタの焼き直し如く、真っ二つになり消滅してしまった事は誰も知らない。でぇじょうぶだ。カルデアで再召喚出来る。
「まぁ、バレンタイン=チョコというのも貴様の国の慣習であろう。あるいは企業陰謀か?我からすれば、まるでチョコが色恋沙汰のダシにされているようで気に食わぬが」
「けど、チョコっていうきっかけで好きな人に想いを告げられるなら、それは素敵な事だと俺は思うけど。イベント事って後一歩を踏み出せない人達に与える小さな勇気にもなるし」
チョコの話、それを真面目に聞き、小気味良く返しもしてくれる男。例え、その本人が認めなくても『セミラミス』は何だかんだでこの一時を楽しんでいた。でなければ、仕事ならいざ知らず、休みの時ですらマスターと一緒にいる事などあり得ないだろう。
「軟弱な」
「じゃあセミラミスなら、チョコに頼らなくても好きな人とかに告白出来る?」
「阿呆か貴様は……。我を誰だと思っている?アッシリアの女帝だぞ。何故、我から一々男なぞにこだわる必要が……」
そう言った途中でこの女帝は自分の言葉の何と空虚な事かと気付く。何が「誰だと思っている」?何が「アッシリアの女帝だぞ」?所詮はそう作られた人形にしか過ぎない癖にと。
(違う、空虚ではない……!これは我だけの目的だ。チョコの帝国を、チョコで世界を支配しようとする我の目的――、チョコに対する想いだけは本物である……だって――)
――『うん。チョコが出来上がる度に本当に楽しそうに笑っているもん』
目の前にいる男が先日の夜に語ったあの言葉。結局、あの後、いくら鏡の前にいてもその笑顔とやらは出来なかった。虚言の類ではないと見抜いてはいる。だが、甘言の類ではあるかもしれない。
自分よりも自分の事を知っている男。自分の知らない顔を見ている男。『セミラミス』は今日までチョコ作りに勤しみ、自身に従う男に思考が囚われる。
(我はさっき――何を考えた?)
「好きな人に告白出来る?」と聞かれた瞬間、女帝の頭に一番最初に浮かんだのは今もこうして言葉に詰まっている自分を見つめているマスターの顔だった。
それはこの世界に生を受けて、一番関わっている男だから?それとも偶々、目の前にいたから?
「……っ」
急に胸が痛んだ。それに体温も上昇している。あぁ、これ以上はマズいと彼女が危険信号を発した瞬間、氷袋が手渡された。キョトンとしている『セミラミス』にマスターは立ち上がり、心配そうに言葉を投げかける。
「今日は休みなよ」
「何を……」
「一緒に工場の視察に行った時も調子悪そうだったし、顔も赤くなってる。たまにはゆっくり休むのもトップの仕事だよ」
「後は俺に任せてさ」と階段を降り、退出しようとする男の背に玉座から立ち上がれない『セミラミス』は決して届かない手を伸ばす。未だ、自身の心を持て余している女は結局、何も出来ず、そのまま扉の閉鎖音が無情にも玉座の間に響いた。
「は、ハハハ、我は今、何を言おうとした?」
誰もいない空間の中心で貰った氷袋を大事そうに抱き締めながら、『セミラミス』は自嘲気味に笑っていた。体温上昇で溶けかけて弱気になった所為か?いくら何でもそれは無いだろうと女帝は頭の中で何度も否定する。部屋から出て行こうとした彼に――。
――そばにいてくれだなんて。
《チョコ製造率、危険水域まで残り10%》
「あれはただの気の迷い、あるいは溶けかけた事による吊り橋効果のようなものだ……決して真っ当な思考回路から出された物ではない……」
チョコ製造は順調、チョコ聖杯なる禍々しい物まで生まれ、生産スピードはさらに加速されていた。カルデアにとってはもうこれ以上、生み出せばチョコによって輸送路はパンク、ライフラインすらも脅かされかねない危険領域まで。
チョコの王である『セミラミス』にとって歓迎すべき事である筈なのに何故か玉座に座る彼女の顔は浮かない。
「休んでいい」と言われたあの時から、マスターに今まで通り関われなくなった事が彼女の精神にどういう作用を与えているかそれは本人ですらあずかり知らぬ事。
マスター自身はいつも通りなのだが、肝心の『セミラミス』が話しかけられる度に「ひぃやぁっ!?」と奇声を上げて、距離を取り、「ちょっと工場長として、あちらの生産状況も見なくては!」と何かと理由をつけて逃げる毎日。おおよそ女帝としての威厳の欠片も無い状態だった。
理想の国が近づいているというのに、『セミラミス』の頭の中に浮かんでしまうのは今日もチョコ製造を手伝ってくれる青年の姿。
許しを与えて、自分ではない自分の名前を呼んでくれる男の顔が悶々と浮かび上がる。
――セミラミス。
――セミラミスッ!
――大好きだよ、セミラミス……!
「ぬわああっ!!」
後頭部を思いっ切り背もたれに強打させ、恥ずべき幻聴を霧散させる。荒くなった呼吸を整え、思考を切り替える。
(余計な事ばかりを考えるな!我!そうだ、我の国……偉大なるチョコの世界、我が理想はもはや間近ではないか……)
彼女は思い返す。今までの軌跡を。■■■■■に作られ、意思を持ち、何も無い自分の存在意義を探すようにがむしゃらにチョコを作り続けた。からっぽではないと、我も王なのだと、この世に生を受けた者なのだと、決してただ食されるだけの存在では無いと主張するように。
だからこそ、ここまでのチョコ製造を成し得たカルデア……そしてあのマスターとの出会いはある意味得難いものであった。
『セミラミス』の笑顔が楽しそうだから、なんて理由でここまでの成果を出してくれたのだから、それは褒美の一つぐらいあっても別段、不自然ではないだろう。むしろ、有能な臣下に褒美を取らせないのは王としての威厳も――。
「ま・た!考えておるっ!!」
照れ隠しの黒鎖が玉座の間を激しくシャゲダンし、爪痕を残す。
駄目だ駄目だと首を左右に振った『セミラミス』は出来るだけ彼から離れようと今度はマスターが関係無いであろう未来の事を夢想する。
チョコの世界を支配するチョコの女帝。
――あぁ、けど、やはり王たるもの、ずっと独り身というのはしめしがつかない。ならば、伴侶も探さないといけないだろう。無能は却下、野心深いのも無理、裏切りの相が無いのは前提として、さらには自分のチョコ愛を肯定して、何かと世話を焼いて、自分の事を良く見てくれる黒髪の人畜無害そうな男が……。
「言ってるそばからっ!頭、スイーツかっ!!」
その体はスイーツで出来ていた。照れ隠し砲台『
まるで思春期真っ盛りの乙女のような女帝。玉座をぎっこんばったんと悶え続ける。
「違う。違う。これは違うのだ。これはあの有能な男を篭絡し、我が手中に収めんとする女帝としての本能……。あぁ、そうだとも、あやつを誑かし、弄び、最後にはボロ雑巾のように捨てる……。それが
冷酷、陰惨、傲慢かつ狡猾。孤高の王である為……そんな女帝としての威厳を保つ為に
「べろんっ、これは……嘘をついている『味』ですわ」
ドドドドドドドッと静謐ちゃんから恋の力によって『気配遮断(ストーキング)』を獲得した嘘許さないガールきよひーの舌が舐めていた。
「貴様ッ!」
あまりにも急過ぎる接近。もしや自分の正体を勘付かれたのではと、臨戦態勢に入る女帝。ましてや暑苦しさ的にもレオニダス王に次いであまり近づかせたくないサーヴァント筆頭。こちらを凝視したまま、動きのない清姫から『セミラミス』は距離を取った。
「――ですが、それがまだ何も知らない乙女の恋心ゆえに生まれた無意識の嘘ならば、私はまだ断罪する事は出来ません」
「何を……言って」
「しゃらっぷ!私は生まれたばかりの雛を踏み潰すような非道はしないという事です!貴女は今、胸の中で持て余しているその感情と正しく付き合わないといけません……!失敗するのもいい、当たって玉砕するのも結構でしょう……。ですが、自分を偽るのだけはお止めなさい!と余裕を見せながら、助言を与えるきよひーちゃんなのでした」
『正妻』と書かれた扇子をバンッ!と得意げに開く清姫。
清姫だけではない、『セミラミス』の周りに何人かの女性達が集まっていた。
「アンタの生まれ方とか正直知った事じゃないの。だけど、一つ、
前回のバレンタインはまんまとシェイクスピアの口車に乗せられて、自分の顔型チョコをマスターに渡し、パクリと食べられ自爆し、その後自身もパクリ(隠語)とされてしまったジャンヌ・オルタ。
今回は真っ当かつ、マスターをアッと驚かせるようなチョコを作っているらしい。そんな彼女は生まれ故か、今ここにいる女帝を気にして、『セミラミス』に助言を残す。
「さすが私の
「一度たりとも名乗った記憶が無いんですけど!!」
え?LOVE勢じゃないのに、バレンタインに自分の顔チョコ送ったの?ときよひーは『戦慄』と書かれた扇子を開き、邪ンヌのあざとさにマジで震える。
そしてそんなジャンヌオルタの周りには赤、青、緑、黄、黒の色で分けられたTシャツを着て戦隊ヒーローの如き変身ポーズで現れた4元素アイリ+黒アイリ。
聖杯の欠片、自我を持った小聖杯。その残りカスだった彼女達もかつて、マスターの精液によって確固たる存在として成立する事が出来た。
「ま、そういう事。正直生まれがどうとかあの人の前であんまり気にしない方がいいと思うわ」
「どうせ、皆、喰われる」
「元も子もないわね……」
「注ぎ込まれるなら、聖杯の泥より性杯の泥の方がいいものね!マスターの白濁こってり一丁!」
「全く、そもそも聖杯という物が人間の手に余る代物なのだ。だから、このような茶番劇に巻き込まれる事になる。のう、人形よ?しかし、どうせ踊るなら、自らの欲望に従った方がまだ見応えはあるがな?」
意味深な事を言う黒アイリの言葉に『セミラミス』はここにいる者達がもしや自分の正体を悟っているのではと気付く。「ここで始末するべきか?」と思案するが、実行には移せない。それは彼女達のサーヴァントとは思えない程の存在感、まるで受肉したのかとすら錯覚するレベルでの覇気を感じ取っていたから。
そして、どうしてもカルデアの……いやその中心にいるあの男と敵対行動を取りたくない気持ちが女帝の動きを留まらせる。
「ふふ、そんな怖い顔しなくてもいいわ」
「……ツンデレ女帝とか狙い過ぎて食傷気味……」
「あの中華ロリとかは体型的な意味でキャラ分けは出来ているけど」
「と、こんな感じでここぞとばかりに喋ってみるファイブスフィールズだったのだ!だって出番が少ないだもん!せっかくの復刻なのに霊衣解放すら無いなんて!!」
「メタい話は止めろ。ともかく、貴様が女帝としての矜持を誇りながらも、たかだか一人の男との接触を怖がっているというのなら、我々はもはや何も言うまい。贋作のまま生まれ、贋作らしく自分の心を偽ったまま朽ち果てるがいい」
「怖がる?王たる我が?たかだか一人の人間程度に?」
だが、清姫の発破も、邪ンヌと4元素+黒アイリ達の煽りも的を得ているからこそ、彼女はその言葉を無視する事が出来なかった。■■■■■に作られた故の女帝としてのあり方、マスターと関わった事で生まれた心の中で燻っている熱いナニか、
「たわけ、貴様らの言葉は筋違いもいい所だ。我がここで苦心していたのは予想以上にもチョコ製造の成果を出しているあの男への褒美を考えていただけだ。臣下への褒賞を疎かにしては王の格も知れよう……」
それでも女帝はこの程度では折れない。傲慢に強がり、冷酷たる笑みを浮かべて、『セミラミス』たらんとする。
もう、胸の中を渦巻く人間のような感情の奔流から彼女は逃げる事はしないと決めたのだから。
だって、それはもしかしたら、■■■■■ではなく、初めて手に入れた自分だけの宝石かもしれないから。
《チョコ製造率、危険水域まで残り5%》
空中庭園内で改造を施された大浴場。
体の60%が水分で出来ている人間がお風呂に入り、癒されるというのなら。この『セミラミス』がチョコで出来たチョコレートバスで体を休ませるのも何も間違った事ではない。
ブラッドバスなんかよりはよほど絵面は平和的で教育にも悪くはないだろう。
■■■■■が封印され、聖杯からのバックアップを受けている以上、未だ人の体としての実体を伴っている『セミラミス』の肌は■■■■■と遜色ない程に透き通る白い肌。それを映えさせる黒い艶髪。チョコの風呂の浮力に従っている二つの乳房が目にした男達の劣情を催させる魅力。優雅に手足を伸ばすその姿はたとえ、一糸まとわない裸であっても王としてのロイヤル感が滲み出ていた。
「ふぅ――、ちゃんと後ろにいるな大臣」
「うん、すっごく甘ったるい匂いがする。後、お風呂場にしてはなんか冷やっとする」
湯船に肩まで浸かっている『セミラミス』の背後。チョコ湯には浸からないように風呂の縁でタオルで
結局、『セミラミス』が出した決断は成果を出した功労者への褒賞、そして自分はこの男との触れ合いに対して特に何も恐れてなどいないという女帝としての威厳を崩さない為のアピール。
カルデアの女性陣に煽られたせいか、それが風呂場で自身の肢体を洗わせる奉仕という結論に至ったのは些か飛躍し過ぎている気もするが、纏う物が何も無い裸の付き合いというのも本音を曝け出すには絶好の場であるのも事実。
視界を隠しているとはいえ、数多の女達が羨む玉体に触れる事が出来るのだ。これ以上の褒美は無いだろうと『セミラミス』は自身を納得させる。
「しかし盲目の状態でよくそこまで動けるな……実は見えているという事はあるまいな?」
「セミラミスってばいい匂いするから、視界が覆われていてもどこにいるかぐらいはわかるよ。それとも目隠し外す?」
「……は、外したら殺す。まずは腕からだ。石鹸は泡立てているな?今、この瞬間だけは我が肢体に触れる事を許そう。感動に咽び泣くがいい」
割とマスターは変態チックな事は言っているが『いい匂い』という言葉で若干ニヘラっとしてしまう『セミラミス』ももう大分この男に参ってしまっているのだろう。
だからこんな暴挙に出てしまう。生まれて間もない『セミラミス』。知識として、男女の交わりについて知ってはいるが経験は無い。頭でっかちのチョコの女帝は異性とまだ一度も手を繋いだ事の無い未通の乙女なのだから。
そんな女の肌が……百戦錬磨あらゆる女英霊達の性癖回路を開発してきた男に触れられてしまえば――。
「ひゃうぅんっ!?」
『セミラミス』の二の腕から脇にかけて、泡がついたマスターの手がゆっくりと滑った瞬間、今まで出した事のないような大きな嬌声が響き渡った。
バシャバシャと水音を立てるチョコレートバス。突然の未知からの刺激に痙攣しながら、足を伸ばし、悶える女帝。
「ま、まて、こりぇえは……いったいぃ……はひぃっ!」
このマスターにしては珍しく、厭らしい気持ちはなく女帝に命じられた通りに体を洗ってあげているだけ。だが本人の感情はどうあれ、数多の女達を堕としてきたそのテクニックは彼の手に染みついている。まるで卑猥なモノを扱いているような手つきで『セミラミス』の右腕を指先から脇、端から端まで入念に丹念に行き来する。
「ふっ、んふぅっ!ふぅぁ……」
堪ったものではないのはチョコ風呂の中で何度も両脚をバタつかせている『セミラミス』。洗われていない方の左手で必死に口元を抑えているが情欲に染まった色は隠せない。
これでマスターの手付きが少しでも猥褻で、調子に乗ってまだ許していない部分まで手を伸ばそうとするものなら、キツい叱咤を飛ばす事が出来るのだが……。
背後にいるマスターの雰囲気は至極真面目で王に命じられるがまま、洗浄行為として『セミラミス』の肌に触れ続けている。まぁ、彼の胸中が何も感じていないという事はないだろうが、それを一切おくびに出すことは無い。
(こ、これでは……感じている私がまるで痴女みたいではないか)
頭の中の
「よ、よい!もう止めよ!体の方はよい……!」
息も絶え絶え、一度体の洗浄を中止させる『セミラミス』。このまま続けていたら、取り返しのつかない所までイッていたような気がする。冷たくしたチョコ風呂で良かった。でなければ、腕が溶けていたかもしれない。
「……か、体の方は自分でやる。髪の方を洗え」
風呂から上がり、金色の豪勢な装飾が施されている鏡がついている洗い場の方まで目が隠されているマスターの手を引っ張る『セミラミス』。
マスターの言を信じるなら、ここで手を引く必要は無いのだが、だからといって逃げるように離れてはまるで意識しているようにも感じるから、ここで大人の女としての余裕を見せる必要があるだろうと女帝はマスターの手を握る。
余裕……余裕……。先程の洗浄で乳房の先端が起立していなければ、股から透明なナニかが垂れ流しでなければ、女帝としての余裕とやらも説得力はあるが。
まぁ、マスターの目も覆われているし、誰も見てないので野暮な事は言わないであげよう。今は自分から手を握っておきながら、滅茶苦茶ドキマギして、洗い場に向かっている『セミラミス』の可愛さを愛でてあげようではないか。
(バスタオルでも持ってくるべきだったな……)
■■■■■をトレースされている自分なら、こんな事で今更恥じるような初心な性格はしていない筈だが……。
「髪を洗えばいいんだね?」
鏡の前でバスチェアに座る生まれたままの自分。その背後にいる自身の心を掻き乱す元凶たる男。
後ろにいるマスターには自分の姿は一切見えていない筈だが、一つの空間に異性と裸でいる状況が『セミラミス』の頬をさらに上気させる。
(今更ながら、我はとんでもない事をしているのでは?)
だがここまで来て引く事は出来ない。名目上はマスターへの褒美としてこの浴場まで誘ったのだ。体は無理だったとしてもせめて髪を洗わせるぐらいはしないと女帝としての面目も立たない。
「あぁ、繊細にな」
「うん。大事にするよ」
「んっ」
そんな何気ない返答でもどうしてここまで心が揺さぶられるのだろうか。髪の間に指を通し、上下へと緩やかに梳かれていく感覚に身を委ねながら、『セミラミス』は考える。
だが、悪くない。もしもこれが■■■■■としてではなく、自身だけの感情なのだとしたら、きっとそれは何かとても素敵な事のような気がして――と、女の命ともいえる髪をマスターに全て預けている心地良さに震えていた。
「痒い所はありませんか、お客様――」
「なんだそれは?」
「美容室とかなら、常套句なんだけど」
「阿呆が。この髪を触らせるのは我以外には貴様ぐらいしかおらんわ」
「おぅ……」
急なデレにマスターも結構グラっと来た。『セミラミス』も自分が何を言ったのか気付き、それを誤魔化すように言葉を続ける。
「つ、つまりだな……!我の髪を洗うというきっとこれから二度と来ないであろう栄誉に貴様はもっと感謝して、これからも我の隣でチョコ製造に励めという王からの叱咤激励であり」
「うん、ありがとう。姿が見えないのはちょっと残念だけど。こうやってセミラミスの綺麗な髪を洗えるのは嬉しいし、それぐらいには心を許してもらえてたんだって安心した。最近、避けられてたしね」
「…………避けてはおらぬ」
嘘だと断じる無粋な事はマスターはしなかった。女の子の心の奥底に深く踏み込むのはケースバイケース時には受け流す事も必要だと。
そして、ほんの少し、しかめっ面になった『セミラミス』も自身の言葉を思い返す。
結局、自分はこの男をどうしたいのか。この男とどうなりたいのか。
もし、自分の体が普通の人間だったら、もっと違う選択肢があったのだろうか。
(これからも?我ながら愚かにも程があろう……。我が目指すチョコ帝国まで残り僅か。……こやつが所属しているカルデアとやらを侵食する程のチョコの量まで届く。そうなれば、確実に我とこの男は袂を分かつ。……いや、元々利害が一致していただけで利用し合っていたに過ぎない……)
マスターの優しい手付きがシャンプーを泡立たせ、指腹を使い、じっくりと丁寧に『セミラミス』の髪を解していく。その心も――。
「例えば――」
「?」
何であれ楽しかったのだ。決して一人でチョコを製造していた時が苦しかったとは言わない。ただ、自らの存在を認め、尊重し、同じ道を進んで、時には振り回してくれている男の存在に『セミラミス』はどこか救われていた。
それこそこのまま手放したくないと思う程には。
「今まで一つの目的に向かって邁進していた者がいた。他に何をすればいいのか知らない、わからない。そうあるべきだと自身に課して、進み続けていた愚か者がいた」
浴場という開放的な環境が彼女の言葉を滑らせたのか、『セミラミス』は女帝らしからぬ、不安気な口調だった。
要領を得ない、『セミラミス』の問いにマスターは真剣に耳を傾ける。
「そんな歩みの途中、ふと今まで見た事の無い綺麗な宝石が脇道に落ちているのが目に入ってしまう。その者は迷う。歩みを止めて、それを拾うべきか……それとも目もくれずそのまま進むべきか?」
「拾った後で歩みを再開するのは?」
「それは無しだ。止まった状態で拾ってしまえば、もう二度と進めない程にそれは魅力的な物だとする」
「なるほど……」
考えながらも、マスターは髪を洗う手を止める事は無い。わずかな沈黙の間……静かな泡音だけが聞こえる。
「なら、止まらないで足で蹴り上げて上手い具合にキャッチする」
「……両方を取るか」
「気になるんでしょ?脇目も振らずに進んできた筈のその人の目に入ってしまうぐらいにはさ。落ちているって事はまだ誰の物でも無いわけだし……。うん、拾得物って事で犯罪でもない。合法合法。それぐらいの乱暴は許されると思うよ」
「誰の物でも無いと言われると語弊はあるが……いや、よいか、その暴君っぷりはきっと我らしいのかもしれぬ」
「もしかして、セミラミスの話?」
「そうかもしれぬし、そうでないかもしれぬ……んっ、まぁ、元より我は女帝。奪う側に回っても何も問題はあるまい」
元々、綺麗な答えは期待していなかったし、無理難題という自覚はあった。だが、後ろにいるこの男から「諦めた方がいい」という答えを聞かなくて、『セミラミス』は心底安堵した。彼の答えはこれから彼女が行う事に許しを与えられたようで……。
頭皮をマッサージされ、甘い声を零す『セミラミス』の脳内は晴れ渡っていた。
『セミラミス』の選択肢にあったのはこのままカルデアと、そしてマスターと敵対し、チョコの帝国建造を目指す事。
もう一つはそれを諦める事。いずれ封印を解き、■■■■■が復活するその時まで、空中庭園で甘美で温いこの男の一時を楽しむ事、この身が朽ち、溶けるという決して報われない結末だと知りながら。
「何もせず、後になって悔やむなど、それこそ我らしくない」
――この感情が■■■■■……セミラミスではなく。生まれて初めて手に入れた
低温のシャワーがセミラミスの髪についた泡と共に迷いも洗い流していく。
《チョコ製造率、危険水域まで0%》
多くのサーヴァントの規格外の力も加わり、チョコレートオブガーデンから供給されるチョコの量はカルデアを圧迫し始めた。
輸送路の扉を閉めようとも、津波の如く押し寄せるチョコの濁流にこじ開けられる。まるで一種の自然災害の如く、廊下、通気口と行先を求めて、空間を埋めていく。甘味の暴力にカルデア中のシステムがオーバーヒート目前だった。
「ひわわわぁっ……!?なんでこうなってるんですかぁ!?今回のチョコ製造にあたって共同販売を行おうとしていたコロンブスさんは行方知らずになったので一人でもチョコバブルを起こそうとした私への天罰なのですかぁ?私はただ、ゴージャスなチョコ風呂に入りたかっただけなのにぃ~~」
「噂によれば、チョコ風呂はあの空中庭園にあるらしいがなと、アルテラちゃんは耳よりな情報をシバの女王に教えてあげるのだった」
「今、そんな話聞かれても泣きっ面にチョコですぅぅっ!」
「バレンタインはここまで命の危険がある過酷なイベントだったとは……。しかもここにいるメンバーは皆、褐色。肌色がチョコと似ている私達では流されても誰にも気付かれず、救助もされず……そのまま溺死……!」
「恐ろしい未来予想をしないでこの窮地を脱する事を考えて欲しいものです!申し訳ございませんメシェド様……力をお借り致します……!出ませい、出ませい!」
「はい、私もマスターの老後を見守るまではそう簡単には死ねません」
チョコの波に襲われる、シバの女王、アルテラ、シェヘラザード、ニトクリスの褐色カルテット。
それでも飲み込まれる事なく、各々、精霊、羊のツェルコ、メシェド様達に運ばれ、無事であるという管制室まで目指す。途中、軽やかに壁を蹴りながら、合流したロビンも苦い顔しながらぼやいていた。
「バレンタインってのはもっと平和なイベントな筈なんすけどねぇ。どうして命の危険に晒されるのか、これがわからない」
「残念、ここはカルデアだ。イカれた職場にようこそ」
「マスターの傍にいた方が安全だったのでは?しかし、空に浮かぶものはそのどれもが墜落するのがセオリーですし……」
「今更ですよ、相棒。そもそも一週間前のカルデアの状態でチョコに埋もれる未来予想図を誰が想像出来るでしょうか」
「未来視を持っているそこの彼女なら、見えていたのでは?」
シェヘラザードの言葉に目を泳がずシバの女王。
「い、いえ、見えてはいましたよ?こ、こう褐色組の私達が楽しそうに流れるチョコプールで泳いでいる姿が……」
「どこをどう見たら泳いでいるように見えるんですかねぇ!?」
「絶賛、溺れかかっているのですが!」
「思いの外、ポンコツでしたね。この獣耳女王」
「未来視(節穴)。持て余すチートは悪い文明だな」
「ふぇぇ、フルボッコ……」
総バッシングにシバにゃん涙目。
「まぁ、ともかく。この騒動の中心がアッシリアの女帝様なら。マスターに任せるしか無いけどな。女が起こすイベントに対しての特攻300%キャラですからねぇ、ウチの大将は」
「ハッピー、セックスゥ!だとぉ!?という展開ですね。わかります」
「あながち間違っちゃいねぇのが何とも言えねぇっすわ。いや、それ以外もちゃんとしてくれていると思いますよ?多分」
「性交でトラブルが解決するなら、コスパはいいですけどねぇ」
「身も蓋もありません……」
「ふけい――」
「セミラミスさん!今すぐ、チョコの製造を止めて下さい!このままではカルデアがパンクしてしまいます!」
カルデア、チョコパニックの発端、その中心人物がいるチョコの女帝、『セミラミス』がいる玉座の間にマシュとマスターを始め、清姫、邪ンヌ、イリヤ、クロエが集まっていた。
他のサーヴァント達は増え続けるチョコの対処に追われている。黒幕でもある『セミラミス』の元へ寄越す事が出来る人員はこれが限界だった。
外部からカルデアへの直接攻撃に成功したのは魔法少女が集まる固有結界に女王として君臨していたコナハト☆メイヴに次いで『セミラミス』が二人目、実はこの二人、ゲーティアよりも凄い事を何気にやっていたりするのだ。
「何故、止める?我は作るのだ。チョコによるチョコの為のチョコだけの理想のチョコ帝国を……」
言い詰められてもなお、チョコの女帝は何一つとして揺らぐ事は無い。彼女はあらゆる迷いを振り払い、自身が進む道を明確に定めたのだ。その王気は初めてマスター達と出会った時よりも濃厚になっている。
アッシリアの女帝、セミラミスによって造られ、自我を持ったチョコレート。それがこの『セミラミス』の正体。人の国を統べるのが人の女帝ならば、チョコの国を統べるのはチョコの女帝だと。だが、チョコの国など無い。無いなら作るしかない。
たとえ、その思考がセミラミスをトレースした物であったとしても、結局、彼女は生まれてからずっと見続けたその夢を手放す選択肢は取らなかった。
「もはや、ただ人間共に食される事は無く。廃棄される事も無く、あまねくチョコ達が存在する世界の頂きに我は立とう。王として」
「セミラミス……」
明確なカルデアに対する敵対行為。初めからこれが目的だったのか。マスターであるチョコレート製造特命大臣との関係には打算しか無かったのか。マスターの蒼色の瞳と『セミラミス』の瞳が交差する。
雑多は映らない。彼女の瞳に映るはマスターのみ。
「だが、王には隣に立つ伴侶が必要だ。ただ一人でいい、ヒトの番いが欲しい。カルデアのマスターよ、我を今まで支えてくれた右腕よ。共にチョコ史を肯定してくれ、我は正しいと告げてくれ。その同意を以てチョコの国で我と生涯を共にする権利を与えよう」
『なっ!?』
女性陣の驚きを他所に熱い視線を『セミラミス』は向け続ける。大胆なプロポーズは王の特権。
嗾けた清姫と邪ンヌもまさかここまで大規模な略奪婚まがいな事をしてくるとは予想していなかった。
『セミラミス』はどちらか一方を選ぶ事はしなかった。正確に言えば、
聖杯がガス欠になる前に、オリジナルが復活する前に、全てにカタを付ける必要があった。このまま、安穏と過ごしても所詮チョコ……。人の世では朽ちる結末しか用意されていないというのなら、チョコの世を作り、愛しき男を略奪するだけの事。
「どうした……?大臣から女帝の夫へと大出世だぞ?」
上段から差し伸ばされた『セミラミス』の手に対するマスターの答えは――。
「ごめんね」
決まり切っていた。
「その誘いに応えるワケにはいかない。俺は彼女達を捨てる事は死んでもしない」
「フッ……」
その答えに『セミラミス』は涙を見せる事も、激昂する事も無かった。胸の中の鋭い痛みを僅かに抑えて、毅然として前を見据える。
「…………知っていたとも、お前の顔には裏切りの相が無い、だから我も重宝したのだ」
断られるのも予想済み、それで是と首を縦に振る男だったら、『セミラミス』は最初っから好きになどなっていない。だが、それはそれとして、一世一代のプロポーズで振られてしまうのはやっぱり辛い複雑な乙女心。
「しかし……!ここで傷心して寝込むような女ではない。たとえ、拒絶されようとも、欲しい物なら力づくでも奪う!!我は『女帝』ゆえに!!」
「嘘偽りなく、自分の気持ちを旦那様に伝えた所は100きよひーポイントです。ですが、私から旦那様を奪おうとした点はマイナス100億きよひーポイントです!!」
「ならば、こっちはマイナス100兆マシュマシュポイントです!!」
「張り合う所が違うでしょ、アンタ達……」
「バトル展開ってわけね、上等!いくわよイリヤ!!」
「うぇーん!平和なバレンタインイベントだと思ってたのに――!!」
清姫を始めとし、構える女性陣を相手に気圧される事は無いチョコの女帝『セミラミス』。
天高く彼女が手を振り上げれば、玉座の間の扉が閉まり、脱出不可能の密室となる。
そして様々な古代紋章が描かれた壁のパイプのような装飾から甘い蒸気が噴出し始めた。
「これはまさかヒュドラ毒!?」
「違う!ショコラ毒だ!!」
「『ショコラ毒』!?何それ!?」
『随分と甘ったるい毒ですねぇ……食中毒的なあれですか?』
「チョコの中に含まれる成分、恋愛ホルモンとも呼ばれる『フェニルエチルアミン』を極限まで濃くしたショコラ毒を排出している」
『わかりやすく言うと?』
「この部屋に強力な媚薬効果を持った毒が充満するという事だ。枯れ果てた老人を性欲旺盛な猿に変えるレベルでな」
『あっ、ルビーちゃん、結末見えちゃった』
イリヤの魔法ステッキマジカルルビーの言葉に偽りなく正直に答える『セミラミス』。彼女の言葉に口を塞いでいく女性陣。だがそのか細い抵抗も意味を成さない。
「息を止めようが無駄だ……。チョコを極めし、我が作り出した甘美なる毒だぞ。皮膚からも当然接種される。この空間にいる時点で貴様らは我の毒の支配下だ」
紅潮する頬、荒くなる呼吸、内股になり、何かを耐えるように太腿をくねらせる女性メンバー。彼女達の視線は等しく、マスターに向けられていた。
最初に動き出してしまったのは「マスタァァッ!白濁ドロドロの魔力供給しましょぉぉっ!!」「だ・ん・な・さ・ま♡ビバ!子作り!!」とクロエと清姫、それに続いて他の者達も最後には邪ンヌと理性を失った獣の如く、マスターに飛び掛かった。
(制御を失ったサーヴァント共が複数。少々、腕に覚えがあったとしても抵抗は不可能。令呪も間に合わぬだろうからな……。安心しろ、従者共に汚される前に我が文字通り救い出してやろう。冷静さを欠いた小娘共から、宝石を奪うなど、実に容易い……)
一つ、チョコ女帝の落ち度を述べるとするなら、恋は盲目。マスターへの評価を正しく行う事が出来なかった事。
もう少し、共に過ごす時間が長かったら、このマスターに対して、ただ行動が突飛でサーヴァント並の戦闘力を保有しているだけの男という評価は下さなかっただろう。
――んむぅぅぅぅっっ!?好きぃぃいいああああぁっ!ああぁっ!マスターさん、ご、ごめんなしゃひいいいぃっ!!あはぁっ、せんぱぁ、私のマシュマロがぁっ!!んおぁっ、ちょ、なんで、わたひはそっちのあにゃぁあああっ!?
重なる五つの快楽協奏。ほんの数秒……。それが聞こえた後、『セミラミス』が見た光景は……女といえど、一騎当千の力を保有する筈のサーヴァント達が痙攣しながら、幸せそうにかつ淫靡な表情を浮かべてマスターの周りで倒れ伏せていた姿だった。
「な、なんだ、一体、何が……おき、た?」
彼女の疑問に答えるとするのならば、マスターは飛び掛かったクロエを羽毛の如き、そのまま受け止め、舌で口内をディープレイプし、その状態のまま左右別々の手で清姫の淫芽とイリヤの乳頭を突いた後で、クロエを解放し、マシュのマシュマロをマシュマシュした後で邪ンヌのアナルをデュヘインしただけの事……。
この間、経過した時間……実に2秒弱!
「いや、それよりもだ……。何故、貴様は平気でいられる?常軌を逸したこの媚薬空間で」
「成長しているのさ俺も。具体的には単行本10巻分ぐらいにはね!もう媚薬でドキマギしている初心な俺とはさよならバイバイだ」
俺はコイツと旅に出る。ピカチュウ!(嬌声)な勢いで『セミラミス』の元へと駆けだすマスター。
元々、彼を傷付けるつもりはなく、媚薬毒で動きを封じた所を攫うつもりだった彼女は玉座までの道を駆け上がる彼への攻撃に対して、数秒躊躇してしまった。その致命的な空白が明暗を分けた。
「ッッ!」
絶対的な距離、お互い手を伸ばせば、触れ合えるような至近距離までの接近を許してしまった。悪あがきと出したチョコ色の神魚の鱗の装甲も拳で叩き割られてしまった。
「つかまえた」
ぎゅっと肩を掴まれるとおかしな声が彼女の口から漏れる。
(あぁ――)
触れられた所が熱を持ち、今にも溶け出してしまいそうな錯覚、いや錯覚ではなく、少しでも気を抜いてしまえばそうなってしまいそうだった。
策謀もほんの一瞬で粉々にされた。決意も覚悟も決めたつもりだった。だがこうして目の前で触れ合える距離で彼の事を見てしまうと『セミラミス』はこれ以上、戦う意欲は湧いてこなかった。
惚れた男に思いの丈を伝えて、振られ、それでもなお無理矢理モノにしようとした計画も打破された。女としては完膚無きまでこれ以上無い惨めな敗北だろう。
この男はここに来て、まだ『セミラミス』に対して敵意を向けていない。いつもと変わらず、親愛と慈愛と心配に満ちた瞳でこちらを気遣ってくれている。この状況でなお。
「こんなに想われるのは男冥利に尽きるけど、カルデアをチョコで沈められるのは困るんだ
「ふっ、
そう言えば、まだ大事な事を一つ告げていなかったとあらゆる虚飾を取り払ってチョコの人形は自嘲染みた顔で言葉を続ける。
「世界最古の毒殺者?アッシリアの女帝?違う、貴様の前にいるのはサーヴァントですら無い。それを模した人形。英霊セミラミスが作った意思を持ったチョコに過ぎない……。只の贋作……生き物ですら無いのだ」
彼女は語る。オリジナルの英霊であるセミラミスを封印した事を。自身の存在意義の為に貴方達を利用し、チョコの帝国を作ろうとした事を。
だから、
あるいはきっと彼が手を下す事もなく、このまま彼女は溶けて朽ちるかもしれない。
(ふふっ、体が熱い……。良かった――。ここに来てまだ冷めないのなら、この恋は本物だ。私だけのものだ。恋を知った人形が恋の熱で溶かされて死んでいくなら、それはそれで幸せな結末だろう――)
だが、そんな諦観を、甘い展開をこの男は許さない。
「で、それがどうしたの?」
「は?」
瞼を落とそうとした彼女の目を覚ませようと両手で包み込まれる頬。
「一期一会って言葉知っている?人の出会いは一生に一度、何度も繰り返される事は無い。だから、俺は情愛を交わした人達と離れ離れにならないように手を伸ばし続けるの。三度目の失敗を二度としないように」
彼は最初から気付いてはいた。目の前にいる『セミラミス』が普通の英霊とは違うという事は。だが、それは些細な問題というよりも問題にすらならない。
「チョコが増える度に一喜一憂して、可愛らしい格好で恥ずかしそうに頬を染めて、チョコの話を楽しそうにして、俺を労わってくれようとお風呂に誘ってくれた。そんな時間を共に過ごしたのは目の前にいるセミラミスだよ。他にはいない」
贋作だろうが、人形だろうが、彼には関係ない。
何故なら、彼女の言い分を認めてしまえば、それはサーヴァントという存在そのものを否定する事になるから。
「俺にとってのセミラミスは貴女だよ」
「……どうしてっ!貴方はそこまで……っ!」
チョコである筈の自身の目頭から熱い物が流れた気がした。
「だから、その目を覚ます。特大の毒で」
「んむぅっ!?」
玉座の前で重なる二人。触れ合う唇。突然の甘く痺れる刺激に彼女はただ瞠目するしか無かった。
『あ、あれは!?』
「知っているのかルビー!?」と問う者はいなかった。皆、絶賛絶頂中だからね、仕方ないネ。
無機物ゆえ、媚薬毒の効果を免れたマジカルルビーは誰に聞かせるわけでもなく解説を続けた。
『かつてまだ召喚されたてでグランドマスターの恐怖を知らなかったクロエさんが調子に乗って魔力供給(キス)をせがんだ時に起きた大惨事!!』
むちゅ、じゅぶ、じゅるるるるぅっ、むじゅぬるぅぅぅっと部屋の隅々まで響き渡る生々し過ぎる水音。
『その名も……模倣宝具 「
キスをし、唇、歯、歯茎、口蓋、頬裏、口内全てを艶めかしく這いずり、舐めまわす舌。
「んふぅっ!」
1critical!
くぐもった悲鳴のような嬌声。口の端から甘く垂れ流れるチョコの唾液。
「んんんんっ――……!!」
2critical!
ビクビクと彼女が全身を痙攣させ、腰が砕け、膝を付き、体を弛緩させてもマスターの口淫は止まる事は無い。
(溶ける……身も心も……本当に溶けてしまうぅっ!!)
3critical!4critical!
セミラミスと認められた彼女の口内を舐めつくし、唾液も吸い尽くす。そして、これはまだ序章に過ぎない。前戯で彼女の抵抗力を根こそぎ奪い、顎を上げさせて、一切の力が抜けきった彼女の無防備な喉に今度は唾液を流し込む。
「んぐぅっ!?」
5critical!6critical!7critical!
突如として嚥下する粘性の液体。だが、今のセミラミスにとってそれは自分がこの場で出した毒よりも強力な媚薬。彼は愛すべき者達と共に生きる為ならどんな無茶も通す。故に彼の精液はサーヴァントを完全なる個として受肉させる。それには劣るが、彼の唾液はマスターに好意を持つ者にとっては強烈な中毒作用を持つ。
「んぁっ、はぁっ、んはぁっ……はぁむぅぅっ!ん゛ん゛ん゛ん゛ぅぅぅっ!!んじゅぅ!んぐぅっ!!」
8critical!9critical!10critical!
『おほぉ――っ!!コイツはすげぇや!!3回の粘膜接触どころじゃねぇ!!まぁだイきますか――!!』
キスで口内を愛撫し、弛緩し切った所に膨大な魔力を持った唾液を流し込む口内レイプ。流し込む
(……ん、あ……毒殺者が毒されていたら、世話が無いな……)
11critical!12critical!13critical!14critical!15critical!16critical!……
マスターの毒でセミラミスは気付くだろう。いつまで経ってもチョコの体である自身が溶けていない事に。そして自身の体の変化に。性的絶頂を覚えながら、チョコの肉体が性エーテルによって霊基を持ち始めている事に。
「ん゛ん゛ん゛ん゛ん゛ぅぅぅぅぅぅっ――――!!!!」
Finish!!
顎を上げた状態でマスターから口内射液を喰らい続けたセミラミスはやっと解放される。唇を離した二人の間に作られた粘っこく長い銀のアーチ。それが切れるのを惜しむように視界に映すセミラミス。
「はふぅっ、はぁっ、はぁっ……あ、あぁぁ……」
へたり込み、ファーストキスの余韻に浸り、唇を触り続けているセミラミスはどう反応すればいいかわからない。自分は許されたのか?自分は救われたのか?これからも貴方と共にいていいのか?今、わかる事はチョコの肉体はこのキスによって文字通り毒殺された事だけ。
「……私は、我はセミラミスとして貴方の、お前の隣にいていいのか?」
「うん」
「我は、我は――」
「ハッピーバレンタイン、セミラミスという最高のチョコを戴きに来た」
「あぁ……あぁ!あげる!あげるとも!いくらでも!!」
その言葉は自身の生誕を祝福されているようで、マスターの胸に子供のように抱き締められたセミラミスの顔に浮かんでいたのは幸せそうな
「ありがとう……マスター……」
《ツルハシ片手に封印から解放されたオリジナル、セミラミス》
「で、なんだこれは?」
オリジナルのセミラミスが女帝らしからぬ泥臭い土木作業もどきでチョコファウンテンの封印から自力で抜け出した事には全てが終わっていた。
まぁ、自身の慢心の後始末を下民が行ってくれたというのなら、彼女もとやかくうるさい事を言うつもりは無かった。褒美に聖杯の回収を許してもいいし、空中庭園を去るというのなら、止めるワケも無く。
ただ、自身のコピーであるチョコが熱っぽい視線で平凡そうな男の背中にしがみ付いている所を見た所でピキリと表情が固まる。
話を聞けば、チョコと化した自分はチョコ帝国を作る為に利用した男と何故か紆余曲折あって恋に落ち、共に生きる事を決めたらしい……。
(あり得んだろう。何だその我らしからぬビター&スイートな展開は)
現在進行中でラブコメ臭を吐き出している自身のコピーに眩暈がする女帝はアレも始末するべきなのではと思案した所――。
『おっと、良からぬ事を考えている毒の女帝様~~。出来ればこのまま、あの方達はスルーして頂けるとルビーちゃん的にも一安心なのですが?』
「なんだ貴様は?」
突如として話しかけてきた魔術礼装に顔を顰めながら答える女帝。
「あれは我の創作物でもある。そして、自身の不手際なら、その処理を行うべきだと思うが?」
『まぁ、まぁ、そう言わずこれを見て下さいな~~』
ササっとステッキがどう出したかは不明だが、セミラミスが目の前に出された写真に目を向ければ――。
「んな゛あ゛あ゛ぁっっ!?」
「色々とキツい魔法少女の格好をしてマスターに迫るチョコラミス」「大浴場で自身の体をマスター洗わせるチョコラミス」「そしてマスターからのキスでイキまくっているチョコラミス」と決定的な写真が飛び込んできた。
「百聞は一見に如かず。例え、本人がどう弁明しようとも映像という情報は余人に影響を与えると思いませんか、女帝様?」
「き、貴様――……礼装風情が我を脅すのか?」
『いえいえ、お互い大人の対応をしようというだけですよ。貴女はわたし達を見逃す。わたしはこの写真のデータを貴女に引き渡す。いいじゃないですか、自分の知らない所で自分とちょっと似た誰かさんが何をしようとも。創作者なら、自身の子供の門出を祝おうじゃあありませんか、ね?』
「認知しておらぬわ!!」
オリジナルの女帝は屈辱に震えながら、ルビーちゃんの要求を飲んだ。さすがは魔法少女のステッキ。ハッピーエンドの為にはいくらでも力を惜しまない。
まぁ恐らく、もしオリジナルの女帝がチョコラミスを害そうとした瞬間、百億パーセントの確率でマスターの百式官能が飛ぶ。
どちらかと言えば、愉悦嗜好のルビーちゃんでもあんな綺麗な結末の後に毒の女帝様のファッキング・オブ・タブルピースオチは蛇足過ぎるので平和な手段を選んだだけの事。この愉悦礼装有能。
かくして、バレンタインを前にしたチョコ難も解決し、カルデアを危機に陥れたチョコ騒動も一先ず収束の一途を辿った。
ならば、残るのは――。
セックス!! の時間である。
次回でチョコラミス……いや、セミラミス編完結です。チョコだからね、甘々でヒロイン度高めよ。