はい、連載1周年記念ということでまさか続くとは思わなかったエイプリルフールネタという名のグダお英霊編の続編で御座います。これが嘘から出た実ってやつですか……。
しかも、前回の2倍の文字数って……元は一発ネタだった筈なのにどうしてこんな長くなったんですかねぇ……。
あ、後、累計ランキング5位になりました、感謝。皆様に圧倒的感謝。こんな自重する気がサラサラない作品でも評価されるのはマジで嬉しいです。
人理定礎値C+―――邪竜百年戦争オルレアン。
全てを憎悪し、復讐を誓った竜の魔女はカルデアによって倒された。
元帥の手に渡っていた聖杯も回収され、歪んだフランスの歴史は修正された。
喜ぶがいい諸君。第一特異点はこうして救われた。
「何が、”喜ぶがいい”だ!このたわけ!」
「はっはっはっ!マイルームに戻ってから、マスターのスキンシップが激しいな。もう最近は肉体言語を通してしかコミュニケーションをしていない気がするぜ」
ジャブジャブ!からのストレート!私が繰り出す連続パンチもコイツは涼しい顔で受け止める。
”きかねぇ!サーヴァントだから!”ってか?あぁ、そんな事は私もわかっている。だがグダおへのツッコミを諦めるわけにはいかないのだ。
「こいつがやる事だから仕方ないよね……」で放置していたら、よりカオスになってしまうだろう。そんな事、認めるわけにはいかない。
だって私は彼のマスター。たとえ、頭とか胃がおかしくなりそうになってもこのサーヴァントのお世話はちゃんとしなきゃいけない。私が拾ってきたようなものだし。
「そうだね!特異点は救われたね!めでたしめでたしだね!過程から目を瞑ればねぇ!お前はあれなの?真面目にやったら死ぬ病気でもかかってるの?何かやらかさないと霊基が死んじゃうの?」
「大真面目にふざけるのはイカンのか?」
「イカンに決まってんだろうがぁ!!」
「女の子があまり乱暴な言葉遣いをするものではないよ」と窘めるグダおに私は効かないとわかっている追撃を叩き込む。誰のせいでこうなっていると思っているんだ!私だって、もっとこうマシュみたいな可愛い女の子や騎士系の爽やか風イケメンに守られながらも頑張って指示を出すような普通のゆるふわ系マスターでいたかったわ!
コイツだって顔はイケている部類に入るのに中身のせいでマイナスが臨界点突破なんだよ!なんでそんなにカオスなんだお前は!
「ふ――む、俺にはどうしてマスターがそんなに激昂しているのかがわからないな。フランスでの人理修復の旅は特に問題は無かっただろう?」
「ほぉー、ほぉー、ほぉー!あ れ が特に問題は無かったと?よぉし!じゃあ一個一個振り返ってみようかぁ!君があの特異点で何をやらかしたのかさぁ!」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
突発的に始まってしまった冬木の時とは違い、私達カルデアが本格的に人理修復へ臨んだ初めの一歩ともいえる特異点。
そこで見た物は本来その時代にはいない筈の飛竜の群れがフランスの街そしてそこに生きる民や兵達を無差別に襲っている光景と――――
「な、なんだ!?屋根の上に人がいるぞ!!」
「くそ!
「……うぅ、これ本当にしなきゃいけないのかしら……あぁ、もうやるわよ!やればいいんでしょ!!なんだかんだと聞かれたら」
「答えてあげるが世の情け」
「……人理の破壊を防ぐためぇ!」
「人理の平和を守るため」
「あ、愛と真実の正義を貫くっ!」
「ラブリーチャーミーな主役」
「おっ、オルガマリー!」
「グダ男!」
「じ……時代を駆ける カルデア団の二人には!」
「ホワイトソース白い明日が待ってるぜ!」
「フォーフォウ!」
――建物の屋根の上でキレキレの決めポーズを取っている
「さぁ、所長!ドラゴン達がこっちに注視している今がチャンス!生まれ変わった新しい貴女の力を見せる時ですよ!ほらっ!さっき俺が教えた通りに!」
「せっかく、レイシフト適正を得たと思ったらこんな姿で人理を救う羽目になるなんて誰が想像出来るのよ……こうなったらヤケよ!『感謝するわ!これまでの全てに!おいしくな~れ♡萌え萌えキューン♡』」
限界まで顔を真っ赤に染めた女性がやけくそ気味に両手でハート型のポーズを取ると、なんとハートの形をした数多の魔力の弾が弾幕となって放出されるではないか。
被弾したワイバーン達はまるでその女性に魅了されたかごとく動きを止めていく。
その隙をあの男が見逃す筈もなかった。
「”俺にとってはどれも宝物だから、射出はしないからね”と言ったな?スマンあれは嘘だ。ただし一部を除くというやつだ!ゴミ礼装庫の鍵を開けてやろう!『
海パン男の背後、何もない筈の空中にいくつもの波紋が浮かび、そこから数多の剣が弾丸のように射出されていく。
「”爆死や兵どもが夢の跡”……アゾット剣×250、青の黒鍵×250、赤の黒鍵×250、緑の黒鍵×250、かつて光すら見えない絶望の中に沈んでいった戦士達の忘れ形見よ!存分に喰らうがいい!!フハハハハハ!」
『キシャアアアアアアァァッ……!!』
動きが止まっている飛竜達はもはやただの的に過ぎない、どんどん屠られていく飛竜達、おかげで私とマシュは地上の骸骨兵達の方に集中出来るのだが……。
「す、すげぇ!あんなにいたドラゴン共をあっさりと!」
「あぁ!最初はただの露出狂かと思ったが、まさか俺達にとっての救世主だったとはな!」
すいません、すいません……その露出狂共、私の知り合いなんです。
「見た目だけで判断した自分が情けない!あんな勇者達を只の変態と痴女だと思ってたなんて!」
「それに良く見れば女性の方は神々しい雰囲気を感じないでもない!あれが我らにとっての救国の聖女……いや女神だ!」
すいません、すいません……その変態、私のサーヴァントなんです。その痴女、私の所の
「……あ、どうやら私の出番は無かったみたいですね……いえ、大丈夫です。民と兵士が無事なのならば私は何も言うことはありませんから……」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「謝って!スタンバってたジャンヌさんに謝って!」
「いや、彼女も俺達に感謝してたじゃん」
「複雑そうな顔でね!自分の出番を海パン一丁の変態と痴女に奪われたら、いくら聖女でも苦笑いだわ!」
確かにジャンヌさんはフランスの人達を救ってくれた事には心から感謝していただろうけども!
それでも、もう少し格好と現れ方は何とかならなかったのか……あれがカルデアの代表ってフランスの人達に認識されたままだったらどうするのさ……いや、片方に関しては事実としてカルデアの代表なんだろうけど……というか彼女があまりに懇願するからカルデア内では普通の格好になるようにグダおが何とかした筈なのに、レイシフトしたら何故かまたドスケベ所長になってるし。
『ねぇ!今更なんだけど、なんでレイシフトしたら、私またこの姿になっているのよ!』
『ほら、あれですよ。所長ってば一回死んでからレイシフト適正得たみたいじゃないですか』
『……それが何よ』
『所長がハロウィン・プリンセス姿になったのも、所長の肉体が死んだという事実からきている以上、所長が死ぬ=ハロウィン・プリンセス姿になる、所長が死ぬ=レイシフト適正を得る……つまり』
『まさか』
『ハロウィン・プリンセス姿になる=レイシフト適正を得るの方程式が成り立ってしまったのかもしれませんね。ハッハッハッ』
『ハッハッハッじゃないわよ!やっと念願のレイシフト適正を得たら、なんでこんな呪いの装備を付けないといけないのよ!!それにマスター適正は?そっちは変わってないの!?』
『残念ですが現実は無情です。変わらずゼロのままです』
『ファック!しかも、さっき貴方に言われるがままにやったけど私の魔術にあんなものは無いんだけど!ワイバーンにも通用するレベルまでになってるとか私の体どうなってるわけよ!?』
『”ラブラブ波動オルガマリービーム”の事ですか?』
『名前はどうでもいいわ!ってか何なのよその心底頭の悪そうな技名は!』
『まぁ、一応まがりにもサーヴァントの宝具を使って、貴女の体を構成したわけですから……今の所長はスペックだけ見れば、平均レベルのサーヴァントとなら互角に戦り合えるぐらいの戦闘力を有してますよ』
『……な、なによ、それ……』
『良かったじゃないですか、街の人達は皆所長に感謝してましたよ。それこそ宗教とか出来そうな勢いで。さすがは所長です。嫌々と言いながらも無茶ぶりをしっかりとこなしてくれるそこに痺れて憧れて惚れちゃいますよ』
『ふ、ふんっ、別におだてても何も出ないわよ!…………まぁ、そうね……感謝されるのは私も悪い気分じゃなかったわ……』
『ただ、人理を救った後に魔術協会に封印指定とかされそうですけどね!』
『イヤアアアアア!ホルマリン漬けはいやあああ!アナタなんとかしなさいよ!元はといえば、アナタから始まった事でしょ!!』
『わかってますよ。一回助けて、満足、ポイ、なんてしませんから俺は。手を差し伸べた以上は当然最後まで面倒見ますから、安心して下さいな所長』
『……ほ、本当、私を見捨てない?』
『はい、むしろ嫌と言っても逃がしませんよ』
『…………グスッ……ありがとう』
「――とまぁ、こんな感じでこれからも所長はレイシフト先ではあの姿になるのでそこん所、これからもヨロシクオネガイします」
あぁ、なんというマッチポンプ。依存癖がある所長が悪い男に捕まってしまったではないか。
いやこれは色々とチョロ過ぎる所長に問題がある気もするが。
「っていうか何故海パン?」
そう、最初の姿は白いプラグスーツに黒いマントというまともな格好だった筈なのに一度霊基再臨したら、エメラルド色の海パン一丁姿になりやがったのだコイツは。マシュの教育に悪すぎるので控えて欲しい。
「ほら、霊基再臨したら脱ぐのは基本というか、世界意思というか……」
「よし、お前のレベルはこれ以上あげん」
「いやいや冗談だってマスター!一度脱いで、また着るサーヴァントもいるから俺もその類だって!さすがにこれ以上キャストオフはしないから!」
彼の弁明をジト目で聞きながら、私は先程の育成放棄を撤回してあげた。
ただまぁ、なんというか……確かに英霊というだけあって結構イイ体はしている。顔と雰囲気は私と同年代という感じがする癖に。
…………むむ、なんだか意識するとあれだ。密室でパンイチの男と二人っきりの状況はもしかしなくてもあまりよろしくないのでは?私が自身の頬が熱くなっていくのを感じていき、それを誤魔化すように次の話を続けた。
「ンンっ!……それと君の新しい宝具についての話なんだけど……」
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「こんの陰険ストーカーアオダイショウ!!」
「鬱陶しいですわよ!殺人音痴エリマキトカゲ!!」
聖人探しをしていたら、キャットファイト?いやむしろドラゴンファイト?に遭遇しました。
間違いなく、彼女達は聖人の類ではないが、それでもサーヴァントである事は間違いないのでこのままにしてはおけない。グダおの懐かしいような、微笑ましいような目は少し気になったが。
私がどうしようかと思案しているとワイバーンとゾンビの群れが再び街を襲い始めた。どうしてこうトラブルは畳み掛けるように一気にやってくるのだろうか……。
「彼女達の争いを止める&ここの敵を一掃するウルトラCがあるのだが?」
どう足掻いても嫌な予感しかしないのだが、人命がかかっている以上背に腹は代えられない。私とマシュだけではこの状況を治めるのは難しい。
『私にいい考えがある』とばかりにサムズアップするグダおに任せる事にした。
すると彼は『人繋ぎの大秘宝庫』で何やら銀色の機械的な杯を引っ張り出した。
私達が最初の特異点で回収した聖杯と形が似ていたが、彼が持っているのは近未来的でマシーン的なイメージを抱かせる。
「『
グダおは手にしたその聖杯?を横にして目の前の何もない空間に突き刺し、ドアノブのように杯をひねり出す。
すると杯を起点としてドアが現れ、その扉が開き、中から割烹着を着た女性が出て来た。
「ごめん、もしかして今忙しかった?」
「いえ、ちょうど清子を寝かしつけた所でしたので丁度よかったですわ旦那様。それにあなた様のお呼びですもの、たとえ溶岩の中にいようとも私はすぐに飛んでいきますわ」
「家事をしている妻を職場に呼びつけるロクでもない夫だと怒ってくれてもいいのにさ……」
「夫の職場に顔を出すの実は夢だったりしますのよ……?」と彼の宝具のような扉から出て来て笑う女性はさっきまでギャンギャン騒いでいた二人の内の一人、着物の女の子の方に似ていた。
「…………あ、れは、私……?」
自分と似た存在が急に現れたせいか、着物の彼女は争いを止めて、固まっていた。
疑問を抱いてるのは確かに似てはいるが見た目以上に雰囲気が大分違うせいだろう。自身には無い包容力とグラマスさと温かさが内在している事に気付いてしまったのかもしれない。
「それじゃあ、清姫……」
「皆まで言わなくとも私がすべき事はわかっていますわ旦那様。たとえ言葉を交わさずとも互いに分かり合えるもの……夫婦の関係とはそういうものですわ……まぁ、それでも言葉を通した慈しみ合いを疎かにするつもりもありませんが」
グダおが何を望んでいるのかすぐに察した清姫と呼ばれた女性はどこからともなく扇を出し、周囲に存在する『敵』を睨み付けた。
「これより旦那様に仇なす敵を退治します。『献身幸生三昧』!」
竜のように口から太陽のような淡黄色で輝く炎を吐き出した。その炎は街全てを包み込むぐらいに大規模だった。
『……ちょっと待って!確かにすごい宝具だが、これだと敵だけじゃなくて立香君達や街の人達も巻き込んでいないか!?』
ドクターの焦る声が耳に入る。だが、私達の身は特に何とも無かった。
「先輩!炎に包まれているのに熱さも痛みもまるで感じません!」
「私の炎の対象になるのはあくまで旦那様の敵となるものだけです。手当たり次第に焼き尽くす慎みの無い炎と一緒にしてもらっては心外ですわ」
炎の波が引けると、そこには見事に焼き尽くされたワイバーンとゾンビの残り滓、しかも街やそこの住んでいる人達には一切の被害がいっていないという申し分の無い結果付き。
「これが私の炎。夫を、子供を、家を、愛すべき家族を守る妻の炎。我を失って関係無い物まで、果ては大事な者まで傷付ける青い炎からはもう卒業しましたの」
「…………それは私に対しての揶揄ですか?私の
「ふふ、そんな事言っても本当は気付いているのでしょう?遠い世界の『私』。幸せそうな私に対しての妬みが隠し切れていませんわ」
「……っ!」
「けど、それは不要な事。だってたとえ同じ存在だったとしても世界が違う以上、それは違う『私達』。歩む軌跡が変われば、生き方も変わります。誤解を解きますがあなたを揶揄するつもりは毛頭ありません。まぁ、言いたい事がないわけでもありませんが」
大人になった自分。妻と自称する自分。愛する者とあんなに幸せそうにしている自分。そして噛み付く自身を諭す自分。
彼女は心底羨ましがっていたのかもしれない。生前手に入れられなかった物を手に入れている『自分』を。いつの日か夢に見た光景を現実にしている『自分』を。勝手な憶測だが何故かそんな気がした。
「恋をしなさい私。熱烈で過激な恋を。きっと、それで誰かを傷付ける事もあるでしょう。誰かを巻き込む事もあるでしょう。もしかしたら、自分自身が傷つく事もあるかもしれません。けどそれでいいのです。だって恋とはそういう物なのだから。私はもう昔のような無茶はあまり出来なくなってしまいましたが……」
隣にいるグダおは「そんな事ないと思う」と言いそうな顔だったが空気を読んだのか何も言わなかった。
「ただ、恋をする者を見失ってはいけません。好きと言っている相手を通して、別の誰かを見てしまうなんて……そんなにも悲しい事は無いのだから……」
「……な、にを言って……」
「ふふ、あなたもいつか気付きますわ。それでは旦那様、お勤め頑張って下さいまし」
結局、どこまでも自分自身を困惑させたままだった清姫(割烹着)さんは慈愛に満ちた顔のまま出てきたドアの方へと戻り、消えていった…………と思ったのだが――。
『……あれ?アンタ、どこ行ってたのよ?』
『どこでもいいじゃありませんか』
『いや隠してもバレバレよ。なんか楽しそうな事してたわね!アイドルの勘なめんじゃないわよ!』
『ちょ、ちょっと!!貴女が出てくるとまた面倒な事になるから自重して下さいませんか!?』
『アイドルマスターたるアタシに随分な言い草ね…‥アンタ、子イヌに会いに行ったんでしょ?』
『私は旦那様のお呼び出しに応えたまで、妻として当然のことをしただけです』
『アタシもワイフだし!アンタを呼び出して、アタシを呼ばないとかいい度胸じゃない!ちょっと子イヌに一言言ってくるわ!』
『あぁ、もうコラやめなさっ……!』
ドアの向こうから何やら揉め事の雰囲気が。
少しすると再びドアが開き、先程とは違う女性が出て来た。
「サーヴァント界No1アイドルのアタシをいの一番に頼らないのはちょっと冷たいんじゃなくて
バァアアアン!!と現れたのは
「は、はぁっ!?アタシ!?
服も髪型もまるで違うが、自称アイドルの頭から生えた赤紫の角と顔はさっきまで清姫(着物)と喧嘩していた女の子の方と瓜二つだった。どうやら今度はこの娘と同じ英霊らしい?
「アタシの体を見て、
「あ、ああああ、愛ぃ!!?」
叫んでいる昔の自分を前に純白のアイドル衣装を着たその女性はどこまでも自信に満ち溢れていた。しかもそれは根拠の無い強がりではなく、確固たる何かを持って謳っているように思えた。
「あ、あのアイドルマスターさん……登場した所申し訳ないのですが、残存している敵勢力は清姫さんの炎で駆逐されました。もう、貴女の出番は……」
「何言ってるのよドスケベシールダー、こんなシチュエーション、アタシにうってつけじゃないのよ!」
「デミサーヴァントです!」というマシュのツッコミをスルーしてアイドルマスターとやらは歩き出す。この間、グダおのあんな夢を見せられた私はドスケベシールダーという言葉を強く否定出来なかった……すまないマシュ……これも全部、あの変態が悪いんだ。
「全く、どいつもこいつもシケた顔してるわね~、子イヌに文句を言う前にここは一つ、私の歌で盛大にイカせてあげようじゃない!!」
槍のようなスタンド型のマイクを得意げにくるくる回している彼女はフランスの人達の消沈した表情が気に食わないらしい。
「……なっ!?ちょっとそこの大人の私の旦那様!!いますぐあのエリマキトカゲの暴挙を止めるべきです!死人が出ますわ!!」
「どういう意味よ!!?」
何故か怒ったのは私達の世界の方の彼女だったが、清姫(着物)の焦り具合から死人が出る程音痴らしい彼女の歌は……逆にどんな歌なのか気になりもする。だがそれでもグダおは動じる事なく、むしろ信頼した面持ちでアイドルマスターに全てを任せていた。
「サーヴァント界最高のヒットナンバーを歌うわ!心して私の声を聴きなさい!!『
槍っぽいそのマイクを地面に突き立てると純白の城……まるで結婚式場をイメージさせるライブステージが現れた。
清姫(着物)は世界の終わりのように耳を塞いでいたが、私達の耳に届いたのは間違ってでもそんな聞くに耐えないような歌声と言える代物ではなかった。
『La―――――――♪』
それは歌詞自体は特別な物ではない、元気と明るさ、ありふれた良い物を綴った歌詞。
『aaa――――――♪』
なのにどうしてか、楽しそうに、嬉しそうに、心底幸せそうにステージを飛び跳ねる彼女から皆が目を離せなくなっていた。彼女の歌声が凄く、心地が良い。戦いで荒んだ心を癒すように。あれだけ反対していた清姫(着物)もいつの間にか耳から手を離して聞き入っていた。
『―――――――――♪』
フランスの人達が兵、市民問わず、熱狂していた。夢中になっていた。さっきまで化物に襲われて疲弊したとは思えない程に活力を取り戻していた。
『エリザLOVE』と書かれた団扇を手に皆がノリノリだった。ってかいつの間にそんな物持ってたし。何故かモニターのロマンも団扇を手にしてはしゃいでいるし。
あぁ……
『Thank you♡』
『うおおおおおおおお!エリちゃんぅぅううう!!』
皆、さっきまで戦いを忘れたかのように元気になっていた。
それは身体的な傷ではなく、直すのが難しいと言われている心の傷を癒したともいえる歌だった。
「うんうん、さっきの顔よりは百倍ぐらいマシな顔になったわね!スーパーアイドルのアタシが目の前にいるんだもの、それぐらいの元気は見せてくれないと困るわ」
「……今のが、『アタシ』の歌……?」
信じられない、もしくは信じたくないのか、おそらく同じ存在であろうエリちゃん(仮称)は体を震わしていた。
きっと彼女も先程の清姫(着物)のように噛み付くだろう。だがあんな素晴らしい歌を魅せてくれたアイドルだ……きっと清姫(割烹着)さんの時のように自分自身に道を示してくれるかもしれない……そんな気が――。
「お疲れ様、エリちゃん。今日も最高にイカしていた歌だったよ」
「当然!ちゃんと家事も終わらせて、
「こ、こどもぉぉっ!!?」
だが、エリちゃん(スーパアイドル)は知った事かとばかりに爆弾を放り投げた。
「ちゃんと仕事終わったら、家に帰ってきなさいよ。お勤めをした夫を癒すのも妻の役目でしょ?夜はちゃんとベッドの上で最高の歌を聞かせてあげるわ♪アタシより清姫を先に頼った事はそれでチャラにしてあげるっ」
「妻ぁ!!?夜はベッドの上ぇ!!?」
もうやめて!エリちゃん(初心)のライフはゼロよぉ!
お目目グルグル顔面紅潮角娘の叫びが木霊する。
「あ、あ、あ、ああ、アナタねぇっ、仮にもアイドルを名乗ってるのでしょぅ……!?そ、それをこんな大勢の前でい、い、いやらしい事を…………」
「ふっ、青いわね私……」
そんなもう一人の自分をエリちゃん(スーパーアイドル)は鼻で笑った。今指摘された事は本当に些細な事でしかないと、自分にとって何のダメージにもならないと……。
「アイドル……確かに彼女達には偶像として処女性が求められているかもしれないわね……けど、それは私のようなアイドルマスター以外の有象無象に当てはまる話よ!全てのアイドル道を究め、もはやアイドルの生みの親と言っても過言ではない私にとってはスモールな問題でしかないわ!アイドルの卵から全く孵化していないベビーな私……アナタに一つ良い言葉を教えてあげる……」
「な、なによ……?」
「『奥様はiDOL』なのよ!!」
「ファッ!!?」
「そもそも、アタシは子イヌであり、プロデューサーであり、夫であるマスターを真剣に愛しているの!子供達も愛しているの!そこに疚しい気持ちも、不純な物もないわっ!アタシのアイドル業になんの傷にもならない、むしろ燃料源よ!」
「子持ちアイドルぅっ!?」
彼女の言っている事はどう考えても荒唐無稽で滅茶苦茶なのだが、先程の歌……そして何より現在進行形で溢れる眩しい程のアイドルオーラがその場にいる人達を納得させてしまう程の力を持っていた。
「むしろ私のアイドル道は彼に非処女にされた時から始まったと言っても過言じゃないわ!!」
「…………~~~~っ!不潔っ!不潔よぉ!!スーパーアイドルになる為には処女を捨てなきゃいけないなんて、そんなの枕営業じゃないのよぉぉ~~!うわああああんっ!!」
衝撃がキャパを超えてしまったのか、エリちゃん(初心)は泣きながら走り去ってしまった。エリちゃん(スーパーアイドル)の方は「枕営業とは失礼ねっ、子イヌ以外とはヤっていないわよ!あぁ、けどたまに彼の魔力特製スライムプレイとかしてるけど……それはノーカンよね?」とかぼやいていたが……あぁ、もうこれ以上彼等の性事情は聞きたくないです。
「けど、シた後にピロートークを交えながらベッドの上で仕事の話をする事もあるし、ある意味では『枕営業』と言えない事もない?」
「お前は黙ってろ」
「あのぉ、グダおさん、先輩……『枕営業』とはどういう意味なのですか?」
「あぁ、『枕営業』という言葉は仕事で関係のある人達が性的な……」
ガンドオオオォッ!!!
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「いい感じで終わりそうだったのに、途中まではいい感じの話で終わりそうだったのにぃ!!」
最後は未経験ないたいけな少女を苛めて終わっただけじゃないか!いやもう、あの街でドラゴンファイトしてた二人もグダおの夢で何か見覚えあった娘達だったし、嫌な予感はしてたけれどもぉ!!
「っていうか君、何人奥さんがいるんだ……?」
「え?聞きたい?聞きたい?」
「いや、やっぱりいい」
瞳をキラキラさせてウズウズしている彼を見ていると話が長くなりそうなので遠慮させてもらった。そんな残念そうな顔をしても駄目な物は駄目です。
「そもそも、あの聖杯モドキはなんなの?なんであそこからドアが出て来て、君の奥さんとかが現れるワケ?」
「そうだね……アレはわかりやすく言えば”人語を話すぐらいに知能が発達したうりぼう達が元を作り出して、それに目をつけた水着が似合うお師匠さんとカルデア技術班の知恵と叡智が開発して出来上がった物がこちらです”っていう感じの代物かな?」
「うむ、まるでわからん」
全然、わかりやすくないのだが。
「マスターの方のカルデアにもあるでしょ?……戦闘シュミレーター的なものがさ。あれの応用編みたいな物だと思ってくれればいいよ。時間を有効活用して鯖と訓練したり、絆を深められる事が出来るってわけさ、大体のシチュエーションは再現出来るんだぜ?」
「成程、つまりお前のヤリ部屋ってワケか」
「言い方。……いや、うん。生前の事を考えると否定できねぇやハハハ」
「つまり、生前の所業がそのまま宝具となって……その空間には君がかつて連れ込んでグチョグチョのぬちょぬちょにした奥さん達がいるって事でしょ?」
「だから言い方に悪意しか無い……うん、まぁ、もうその解釈でいいよ……空間の広さとしてはそれこそ島1個分ぐらいあるけどね!何せ人数が多いからそれぐらいスペースは確保しないといけなかったし!」
コイツ、マジで何人奥さんがいるんだ……!?アダム&イブズか……確かにこの話を聞くとピッタリな宝具名だよ全く。
「けど、あの時の事はそこまで言われるような事かなぁ……?確かにエリちゃんは少しだけはっちゃけてしまったと言えない事もないけど」
「じゃあ、二人の時じゃなくて、マリーさんの方も宝具で出した件についても同じ事言える?」
実はさっきの話でグダおがあの宝具を開帳したのは二度目だったりする。宝具自体を見たのは清姫とエリちゃんの時が初めてだったが……。
あ、露骨に目を逸らしやがった。さすがにあの件についてはコイツも多少は罪悪感を感じていたらしい。
「いや、あれは……俺が呼び出したワケじゃないし……だってマリーがせっかくフランスに来たなら自分も一目見たいって言って聞かないんだもん……俺としては身重なんだから安静にして欲しかったのに、けどあまり妊婦を不自由にさせてストレスを感じさせるのも良くないし…………お、俺は悪くねぇ!そうだ……王妃様が、王妃様がやれって言ったんだ!こんなことになるなんて知らなかった!誰も教えてくんなかっただろっ!俺は悪くねぇ!俺は悪くねぇっ!」
「シャラップ」
「ハイ」
「…………ふぅ――まさか、妊娠しているもう一人の王妃様が現れるなんて、アマデウスもサンソンも夢にも思わなかったでしょうよ。そりゃあ、ショックのあまり座に還りますわ」
そう……あれは聖人探しをする為に私達が二手に別れる前の話――竜の魔女の配下のサーヴァント達が再び襲い掛かってきた時の話だ。サーヴァントの数では負けていない私達が応戦しているといつの間にか、グダおの隣にお腹を膨らませマタニティウェアを着た銀髪の貴婦人がいて……。
『フフフ、お腹にいる子は4人目よ』
『腹ボテマリィイイイイイイ!!?』
『……なんだ、なんだこの気持ちはっ……?まさか今僕は彼女を処刑した時よりも興奮しているというのかっ……!?』
二人の断末魔の叫びが色んな意味でヒドかった……。敵のサンソンはともかく、味方のアマデウスまでが消えてしまったのは皆( ゚д゚)ポカーンだったからね。
『私とは違う”私”……あぁ、けど決して穏やかとは言えない最期を迎えた私が――死んでしまって英霊になった後の私が――あんな風になる未来もあるのね……うん!子供に恵まれて何よりねっ!もう一人の私!ヴィヴ・ラ・マリー!』
まぁ、王妃様が凄く嬉しそうに笑みを零していた点は良かったかもしれないが……。
「アマデウスとサンソンの二人の新たな性癖を開拓してしまった点もある意味良かったと言えない?」
「よし、霊基変還でもするかな」
「……まってまって、これでも自重した方なんだって……。こっちのジャンヌとか、ジャンヌオルタとか、神風魔法少女ジャンヌとか、ジャンヌ・ダルク・オルタ・サンタ・リリィとか、カーミラさんとか、マルタ姐さんとか、アタちゃんとか呼び出さなかっただけ、しっかりと弁えているんだよ。特にバーサク化しているこっちのアタランテにアタちゃんと対面なんてさせたら、狂化が上限突破して『神罰の野猪』なんて可哀想な事態になってもおかしくなかったと思うのじゃ」
アタちゃんはあの獣耳アーチャーの事を言っていたのか……後、何か二人ぐらいおかしいジャンヌさんいなかったか今。というかやっぱり彼女達も全員当たり前のように彼の宝具の中にいるんですね……。こいつ一体、生前はどんな風に特異点を巡ったんだ?まさか女性英霊全員を奥さんにしたわけじゃないなぁ……?あれ、なんだか人理を滅ぼそうとしている黒幕を倒すより先に何とかしなきゃいけない悪が目の前にいる気がしてきたぞ。
「けど、ほらっ、あの事がきっかけで何故か所長もやる気出してマリーさんを助けれたわけだし……」
「そこは否定しないけども……」
聖人探しで、私、マシュ、グダお(アマデウスは衝撃のあまり座に還ってしまったので当然いない)グループとジャンヌさん、マリーさん、所長グループの二手に別れた後の事を言っているのだろう。
私達の方は成果無しだったが、どうやら所長グループの方は上手く聖人と合流出来たらしい……だが、運悪く、いや狙いすましたタイミングでファフニールに乗った邪ンヌが襲来した。ジャンヌさんとゲオルギウス先生の二人は竜殺しにかかった呪いを解くという役目がある以上生き延びなければならない。
そして、まだ避難し切ってないフランスの人達を守る為にマリーさんが残ったのだが……。
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「カルデアの所長さん!?ど、どうして、貴女も残っているのかしら!?早くジャンヌ達と一緒に立香さん達と合流を!?」
「う、うるさいわね!私だってどうして残ったのか自分でもわからないわよっ……!別にここでサーヴァントが一人犠牲になった所で何も問題は無いわ…………けど、私は違う……私はカルデアの所長……人理継続保障機関フィニス・カルデアのトップなのよ!」
「なら、どうして……?」
自分でも支離滅裂な行動を取っている事は所長自身も自覚はしていた。
だが、マリーがフランスの人達を逃がす時間を稼ぐ為に一人で残ると言った時……彼女の脳裏にはあのふざけた登場、ふざけた姿、ふざけた技……それでもそんな自分に「助けてくれてありがとう」と感謝してくれた人達の顔、そしてグダおの宝具で現れた幸せそうに自身の腹を撫でるもう一人のマリーとそれを見つめるこっちのマリーの表情だった。
「ふんっ!箱入り王妃様一人であの巨竜と魔女相手に時間稼ぎなんて出来ないでしょ?私達カルデアの目的は人理を救う事……当然その特異点で被害に合っている人を見捨てる選択肢なんてないわっ!!」
嘘である。最終的に聖杯を回収し、特異点を修復さえ出来れば、ある程度の過程……犠牲は無視できる。カルデアでコールドスリープ状態になっているマスター候補達は自身の責任問題が関わってくるので全力で命を繋げさせたが……この特異点に関しては自分達は異邦者、余所者でしかない。そこで生きる人達がどうなろうと、帳尻さえ合えば何も問題はない。自分には関係ない、少なくとも最初のオルガマリーならそう考えていた。
「所長さん……貴女、足が震えて……」
「黙ってなさい!貴女だって人の事とやかく言えないでしょ!
「オルガマリーさん……」
「この特異点が修復されたら、元々この特異点の聖杯で召喚されたサーヴァントは皆消えるわ……なら別に貴女の力になる意味なんて無いかもしれない、結果はどうせ同じかもしれない……。それでも、子供を愛せる親が、幸せそうに自分の子供の事を語れる未来の可能性を持った貴女が……!ここで竜に……竜の魔女の炎で焼き尽くされて消える最後なんて、認められるわけないじゃない!」
わかっている。勝手に感情移入して、勝手に喚いて、勝手にここに居残っているだけだと、トップとしてあるまじき行為というのはわかっている。
……尊敬していた父が亡くなってから、そこから自分の世界はガラリと変わった……不釣り合いな重責を背負わせられる、父の負の遺産が襲い掛かってくる。ただ、そんな過去のせいで親子の生き死に関して敏感になっているだけだ、オルガマリーはそう自分に言い聞かせていた。
「初めてだったのよ……あんなに大勢の人達に認めてもらえたのが、褒めてもらえたのが……」
そして、マリーの事だけではなかった、彼女がここに残った理由は。
特異点に来て、またこんな破廉恥な姿になった時は心底死にたくなったが、それでも救えた命があった。笑顔で、涙を流しながら、本気の「ありがとう」を言ってもらえた。
”生きている……この特異点にいる人達は生きているのだ”――彼女はそれを本当の意味で理解した。
ここで助けるのは只の自己満足、自分の視界に映っている人達だけを助けようとしているだけのどうしようもない偽善……ここに自分がいてもいなくても何も変わらないかもしれない、マリーだけでフランスの人達が避難出来る時間は案外稼げるかもしれない……それでも所長はここに残る選択肢をとった。
(私がこんな似合わない事するなんて……あぁ、きっとグダおのせいね、アイツに可笑しな材料と聖杯で蘇生されたからよ……うん、きっとそう)
オルガマリーは葛藤とか自分がこうしている原因とか責任とかを全てあの規格外サーヴァントに押し付けた。すると妙に気が楽になった気がした。
(どうせ、私がどんなに喚き散らそうともアイツは気にせず笑いながら受け止めるんだから、何も問題無いわ)
あのふざけたサーヴァントの事を思い出した所長の足の震えはいつの間にか止まっていた。
そして、そうこうやり取りをしている内にファフニールに乗った悪しき聖女が現れた。
「……あの聖女様は逃げたってわけ、最悪ね。それで残ったのが戦闘の”せ”の字も知らなさそうなお嬢様と変態痴女ってワケ……随分と舐められたものですね……」
「ハッ!……散々グダおに裸に剥かれてアヘアヘされて、死に体で竜に乗ってとんずらしたアンタが大物ぶってももう手遅れよ!私達は現在進行形でアンタを舐め切ってるわ!」
ジャンヌ・オルタの額に青筋が浮かぶ。少しでも時間を稼ぐ為、避難している人達より自分を注視させる為、所長は挑発を続けた。
「……人ならざる力を身に付けて増長しているようですね。あなたの魅了の魔術は
「逃げたいのは本当はアンタでしょ?私はアンタをメッタメタにしたグダおの宝具で蘇生した元人間よ、私が危険な目にあえば、すぐに察知した彼がすっ飛んでくるわ」
「………………ハッタリよ」
竜の魔女の言う通りだった。確かに所長は彼の宝具で蘇生されたが何かパスのようなものが繋がっているわけでもないし、サーヴァントよろしく令呪を使って呼び出せるワケも無かった。だって彼のマスターは藤丸立香なのだから。
『マズイマズイマズイ!竜の魔女とファフニールだ!彼女達が危ないっ!っていうか何で所長まで残っているんだ!?あの人そんな熱血キャラじゃなかっただろうに!?』
「私達も早く行かないと!!」
「ですが、先輩ッ……!こちらにもまた敵の群れが!!」
「…………」
二人の様子は通信で立香達にも伝わっていた。所長とマリーがいる街に駆けつけようにもワイバーン、骸骨兵、ゾンビ……嫌なタイミングで敵が襲い掛かり身動きが取れない。
そんな中、グダお一人は冷静だった。
「マシュ、清姫、ジークフリートさん……マスターの事、頼んでもいいかな?」
「最初から守るつもりだが、お前はどうするつもりだ?」
グダおのマスターである藤丸立香は彼のステータスを確認出来る。そして今の彼のステータスを見て驚愕し、そこで気付いた。グダおには
「間に合うの……?」
「話が早いマスターは好きだぜ。あの所長が今世紀最大の勇気を振り絞って、おあつらえむきな良いムードを作り出してくれたんだ……実にそげぶのし甲斐がある」
「いくらサーヴァントの足でも結構な距離でしてよ……大人の私の旦那様」
「大丈夫だ問題ない。今の俺の敏捷はEX、純潔の狩人に正面から求婚出来るレベルさっ……!!」
物理法則を無視したレベルとも言える跳躍力を見せたグダおはその場から跳び立ち、走り、駆けて、翔続ける。
「殺りなさい、ファフニール」
(……もうこれ以上の時間稼ぎは無理ね。あの竜に食べられて私はおしまいか……。はぁ、結局、私はここに何をしにきたのかしら?ただの自殺志願?)
自分が今この瞬間にも殺されそうになっているというのに所長の心はとても穏やかだった。冬木で既に死んでいると告げられて取り乱した者とは同一人物とは思えないぐらいに。
なら何故か?知らぬ間に死への恐怖心に打ち勝つぐらいに自身の心が成長したというのか?
いや、有り得ない……彼女は自嘲するように否定した。そんなにすぐに変われるのならカルデアでももっとうまくやっていた筈だから。
(あぁ、そう言えばいたわね。私をおちょくって、構って、認めてくれて、褒めてくれて、そして助けてくれた大馬鹿者が)
所長の脳裏に浮かんだのはあの燃え盛る街で生を終える筈だった自分に手を差し伸べてくれた規格外の存在。助け方とかその後の自分の姿については文句をもっと言いたいが、それでも彼女は心から彼に感謝していた。
まだ何も出来なかった、何も始められなかった自分を終わらせてくれなかった人。新しい始まりをくれた人。
(…………やっと妙に落ち着いている理由がわかったわ)
――――ドオオオオンンンッ
「何ッ!?」
所長とマリー、ジャンヌ・オルタとファフニール……相対する2組のちょうど間に轟音をあげて流星のような何かが飛んできた。
(冬木の時みたく彼が助けてくれるって根拠のない確信を抱いてたのね……たったそれだけで前みたくヒステリックに叫ばずに済んだ……)
「……良いシリアスだ。感動的だな。そして意味はあった」
「あ、あ、あ、あ、アンタはぁっ……!!」
その墜落地点に立ち込める煙が晴れると竜の魔女の天敵とも言える存在が、トラウマの象徴が、カルデア所属のクラス不明のサーヴァントがそこにいた。直立不動イケメンのみに許されたハイカラなポーズで不敵に笑っていた。
「はぁ……我ながらチョロ過ぎると思うわ」
『
そして、ここでいう『敵』の捉え方は彼にとって広義的であり、非常に曖昧である。要するにグダおが「あ、これシリアスだわ。壊さなきゃ」と判断すれば……たとえ原因の元ともいえる敵が目の前にいなくても空気自体がシリアスであれば、もうこのスキルは発動するのである。テラ理不尽。
そして、意図せず所長のおかげで
「ファフニールッッ!!」
間髪入れずに竜の魔女が騎乗している悪竜に業火を吐かせる。対グダおに関して、有無を言わさず先制攻撃をするのは案外悪い手ではない。確かに彼に先に攻撃を許してしまえば、大抵は碌な事にならないのだから。
だが、『
「残念だが、生前は邪ンヌにデュヘられたり、きよひーに安珍焼きされたり、茶々お母さんに折檻されたりとか色々あったおかげで炎に関しては結構耐性があってね……。さて、愛しき所長が根性見せたんだ。ここは俺も少しぐらい格好いい所見せないと駄目だよね!『
「――――ッッ!?」
かつてすまないさんからもらったバレンタインのお返し、その仮装に身を包んだグダおを見た時、ファフニールは本能で察した、あれは……あれは駄目だ……と。
英霊と化してもなお宝具として手元にある鯖達の絆。”君もドラゴンセット”はもはや只のコスプレ衣装ではなく、ジークフリートを彷彿とさせる竜特攻装備へと昇華していた。
そして、その手にはとてもじゃないが食べ物とは思えない切れ味を持つぽんぽこりんからのバレンタインチョコレートが。首を狩る事に特化したそのチョコ刀を彼は構えた。
「時に竜の魔女よ。一つ、こんなおとぎ話を知っているか、遠い遠いどこかの世界……。ここではないフランスに現れた農民の話を」
――それは数多の新米マスターの希望となった侍の話。レア度?何それ?おいしいの?彼は物干し竿を片手にふらっとオルレアンに現れた。
――フランスの人達からすれば、竜相手では簡単に折れてしまう程に頼りない武器だったかもしれない。彼が手にしていた刀……物干し竿は。
――だが、その侍は全ての竜を地に叩き伏せた。切り落とした。「燕よりは楽な相手よ」と笑うように。
――そしてその刀は、あのファフニールにまで届いた。悪竜を打ち取った無名の浮浪者を人々は讃えるようにこう呼んだ。『ドラゴンスレイヤー』と……。
「な、何の話をしてるのよ……っ?」
「
――またの名を。
「『秘剣――悪竜返し』」
――『レジェンド・サムライ』と。
「………………は?」
竜をすまない特攻装備に、首をぽんぽこりん特攻武器から放たれるその技はまさに「竜殺すべし、慈悲は無い」と言わんばかりの容赦の無さ。
気付けばファフニールの首は斬り落とされていた。断末魔の叫びをあげることすら許されず。静かに、ただ静かに地に横たわり、絶命しているその巨体をジャンヌ・オルタは呆然と眺め続ける事しか出来なかった。
フランスを散々に苦しめた悪竜の最後はまさにアッケナイモノヨだった。
そして、そこからの戦いは消化試合。長々と描写する事もない。
最大級の戦力を失ったジャンヌ・オルタはその場でグダおの百式官能によって天国にイキ、昇天。ブチ切れたCOOL元帥が海魔の群れを引き連れて、襲い掛かったが合流した藤丸立香達も参戦し、元帥はグダおのチョコ刀によって首をぽんぽこりんされた。中でも一番頑張ったのはオルガマリー所長だった。
『ラブラブ波動オルガマリービーム』で海魔の群れを魅了したおかげで周りへの被害をほとんど無くす事が出来たのだから、なお本人は半泣きになりながら「いやぁ!何かニュルニュルしてるのが迫ってくるぅ!!グダお!早く助けなさいよ!!」と逃げ回っていたが。
しかし、フランスの民は……守られた人達は彼女の雄姿をしっかりと見ていた。
「えぇ……彼女も私達と同じく恐ろしかった筈です。にも関わらず、その身を晒して私達の盾となったのです。あの震えながらも叫ぶ彼女に私達は勇気をもらいました」
「情けないと言う奴も中にはいるだろう……だが、恐怖心を持ちながら、そして人間らしく喚きながら戦うあの姿にこそ、俺達は惹かれたと言えるかもしれん。自分達もやれば出来るのではという気にさせてもらったよ」
「あの谷間から太ももにかけての絶妙なボディライン。過度な露出から光るように白い肌を流れる汗……ふふ、下品ですが、勃」
フランスに生きる人達は、彼女の姿を見た人達は、口を揃えてこう言った。
――『彼女こそ、救国の性女だ』
♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦ ♦
「だから、ジャンヌさんの出番んんんんんん!!」
最後はもう、お前と所長が全部持っていっちゃってるじゃない!
黒いもう一人の自分とか!悪堕ちしたかつての戦友とか!ジャンヌさんの因縁がしっかりとあったのにぃ!!彼女もお別れする時は「もしかして、私には露出度とはっちゃけっぷりが足りなかったのでしょうか……?」とか不穏な言葉を口にしながら消えちゃったしさぁ!!
「神風魔法少女フラグをここで建ててしまったか……」
「頼むから私にわかる言葉で話してくれないかなぁっ!」
こうして、第一特異点は二人の露出狂によって救われました。めでたし、めでたし。いや、文字にすると本当ひどいよね。
「…………別に私とかいなくても、本当は君一人で何とかなるんじゃないの?」
私がそう言うと彼は「何言ってんの?コイツ?」と心底不思議そうな顔になった。うん、なんかムカつく。
「俺が好き放題出来るのもマスターがいるからだよ?マスターが何だかんだ文句を言いながらも俺を信用してくれているからサーヴァントとして大暴れ出来る。そして、そのマスターをマシュが守ってくれているから、俺は突き進む事が出来る。マシュはマスターの『盾』で、俺はマスターの『矛』。使い手がそんな寂しそうな顔をしないで下さいな、信じられないかもしれないけど、俺はマスターに相当頼ってるんだよ?」
……こいつのズルい所は普段はアレな癖して、こういう時だけ、疑う余地の無い真摯な態度と誠実な言葉をこちらに見せてくれる所。まぁ、さっきはちょっとネガティブ入ってたけど、確かに第一特異点では私とマシュだけで倒したサーヴァントも何人かいたわけだ。特に黒鎧のバーサーカーにはマシュが「この穀つぶしぃ!」と叫びながらシールドアタックを金的に叩き込んでたし、あの戦い方教えたの絶対お前だろ。見てて可哀想になるぐらいフルボッコだったぞ。
ともかく、彼も考えなしに好き勝手してたわけじゃない事がわかったからいいとしよう。私達の事を頼ってくれている面があるのも、まぁ……素直に嬉しかったりもする。次の特異点では今回みたくあまり口うるさく言わない方がいいのかもしれないね……?うん、私も少しは彼のノリに合わせられるように歩み寄ってみようかな!
私が新たな決意を胸に宿していると、マイルームの扉が開いた。そこには所長の姿が。うん?あれ?確かレイシフトする以外では普通の姿に戻れる筈なのに、なんでまたドスケベプリンセスの格好になっているんだ。
「こんな所にいたのね……全く探したわよグダお」
「おや、俺に何か御用ですか?」
「……ほ、ほら、これから特異点を攻略するにあたって戦いも厳しくなるじゃない?その中で魔力が尽きる危険性とか出るじゃない?なら、こまめにま、ま、
「フランスでした
「ち、ちちちち違いますぅっ!これは人理を救う為に必要な事だから、私が嫌々義務的にやってるだけよ!し、私情なんて一切交えてないわっ!」
「え―――――、嫌々かぁぁ……、どうしようかなぁ―――、オルガマリーの嫌がる事をするのは心が痛むしなぁ―――……それなら違うやり方で魔力供給させた方がいいよなぁ―――……」
「え、え、え……う、嘘よね?冗談、冗談だってば、本当は魔力供給云々は建前だったのっ!謝るから、お願い考え直してね…ね…ね?」
「ハハ、最初から照れ隠しだってわかってましたよ。いや、涙目ですがりつくオルガマリーも、うん。実にイイ」
「……バカ、変態」
「申し訳ございません。お詫びに今日はいつもよりたっぷり、じっくりシてあげますから……。というわけでごめん、マスター。ちょっと外せない急用が出来たから席を外すね。話の続きはまた今度ということで!じゃっ!」
耳を真っ赤にして俯き、彼の腕を抱き締めたままの所長を連れ添って、グダおは部屋から出て行った。
そして、哀れポツンと自身の部屋に取り残された少女がここに一人。
「……やっぱアイツ、自害命じた方がいいかなぁ……」
宝具
『ラブラブ波動オルガマリービーム』
ランク:C
種別:対軍宝具
使用者:オルガマリー・アニムスフィア(ハロウィン・プリンセス)
羞恥心に顔を赤らめて、やけくそ気味に叫びながらする所がミソ。
ハート型の魔力弾を大量にばら撒く。普通のサーヴァントやファフニール級の怪物には効果が薄いが、数が多い雑魚的に関しては効果は抜群。わかりやすく言えば、魅了とタゲ集中。所長の苛めたくなるような可愛さには誰も抗えないのだ。
余談だが所長はグダおにフランスでの野営中に喰われた。
『
ランク:EX
種別:島国宝具
使用者:グダお
かつて、一人のマスターが多くのサーヴァント達と絆を深める為にあらゆるシチュエーションで彼女達と交じり合うことに利用した物が宝具化したもの。本編で立香が言った言葉で大体合ってる。
今では時間と空間の概念さえ、飛び越えて彼と彼女達の新居となっている。銀の聖杯もどきは新居の鍵のようなもの。彼も隙を見ては帰って家族サービスに精を出している。無人島サイズだが、そこに住んでいる彼女達の強さを考えると国と言ってもあながち間違いではないだろう。さてさて、その島の人口は一体何人なのだろうか……。
『献身幸生三昧』
ランク:EX
種別:対軍宝具
使用者:清姫(割烹着)
愛すべき夫と子供を守る妻の優しき炎。そこにあるのは家族へのあくなき愛である。
自身の敵……厳密に言えば、旦那の敵になるだろうと自分が判断した敵のみが攻撃対象となる。それ以外の者には炎に触れても熱さも痛みも感じない。ちなみに大蛇になった時、娘に泣かれたのでこの宝具を使っても転身はしない。
『
ランク:S(宝具にこんなランクは無いが、彼女のアイドル特権で無理矢理このランクに)
種別:対ファン宝具
使用者:エリザベート・バートリー(スーパーアイドル)
もう「ぼえ~~~」という殺人ボイスからは卒業。プロデューサーから白い元気をたっぷりと注がれたエリちゃんの歌は真のアイドルへと進化した。
グダおと実際に式を挙げた城を出現させ、ライブステージにして花嫁イメージのアイドル衣装で歌い踊る。ネロ激オコ。
鮮血魔嬢と違い、破壊力は無いが聞いた物の心を癒す……弱体解除、弱体化無効、ステータスUP、味方を立ち直らせ、奮い立たせるには持ってこいの宝具。サーヴァント界の子持ちアイドルとして今日も彼女は歌い続ける。
勝った!第一特異点オルレアン完!
というわけで何故、続いたしと言われそうなグダお英霊編第2話。
あまり詳しく描写してもあれなので、今回みたく切る所は切ってダイジェスト風味でお送りしようかなーと思います。多分、1つの特異点に付き1話って感じで行くと思うんで。
全7クラスの適正があるグダおは一応宝具も7つあります。残りは使う時がくるのかな――……。今回の特異点に関しては実は『百式官能』はジャンヌ・オルタにしか使っていません。あまりヤり過ぎて、立香とマシュの成長の機会を奪ってもあれなので、これでも…………こ れ で も一応は自重している方です。タブン…………。
まるで所長がメインヒロインみたいだ……。