少なくとも『怠惰』と『強欲』の二つの権能は最終的に使いこなせそうです。
『強欲』だけでも『〝時間停止〟による無敵化と最強の攻撃力の取得』『〝小さな王〟による完全無敵化』とチートじみてます。
『小さな王』の疑似心臓はエキドナに重ねさせてもらいましょう。
エキドナは魔女因子を馴染みやすく(どの程度まで出来るかは不明)させられるようなので……うむ、下手をすればまずいですね。
あ、そうだ(唐突)
この短編小説は整合性をあまり意識せず好きなように書いています。原作や各話で矛盾があっても気にしないでもらえるとありがたいです。
(ドナドナがホラ吹きだから、どれが真実なのかこれもうわかんねえな……)
どうして気づかなかったんだろう。
ワタシが知りたいと願っているものが、ワタシの中に既にあったことに。
「じゃあもう寝るぜ」
『うん、いい夢を』
「お前の世界にだけは行かないよう祈ってら」
『冷たいなぁ、もう』
「……そういや、お前って寝ることあるのか?」
『ボクの居眠りについての懸念かな? 心配しなくてもちゃんと見張っておくよ。すぐ起こせられるかは別だけどね。……エミリアが夜這いに来たら叩き起こさせてもらう』
「おいやめろ。声が殺気立ってんぞ。俺が聞きたいのは普通に寝られるかってことだ」
『思考できる時間をわざわざ減らすつもりはないね』
「おまえなぁ……本当に人間だったのかよ」
『普通より少し変わった人間の女の子ではあっただろうね』
「少し? だいぶおかしかったろ」
『君にだけは言われたくない――は、狡い返しになる?』
「そう思ったら言うんじゃねえよ。俺の豆腐メンタルが粉々になるぞ」
『そしてボクが甲斐甲斐しく癒してあげると。なんなら、子守唄を歌ってあげようか。あの歌姫ほど影響は与えられないだろうけど』
「…………」
『断っても勝手に歌うつもりだったよ。おやすみ』
契約者の寝息が聞こえ出すと、口ずさむのを一旦中止し『強欲の魔女』エキドナは考える。
今宵の思案は『嫉妬の魔女』から解放されたナツキ・スバルの有用性についてだ。
『嫉妬の魔女』からの救出は『死に戻り』を失うことと同意犠と見なしていい。
「権能をなくした君は、はてさて……いったいどれだけ有益な存在になるかな」
肉体面――一般人よりかは頑強。鍛錬次第では戦士になれるだろうが、英雄には程遠い。魔法の適正は見込めない。個人的に残念である。
ただし、魔女因子への適正は目を見張るものがある。
『怠惰』ペテルギウス・ロマネコンティはワタシと契約する以前に打倒。後々『見えざる手』の権能が使えるようになる。まだまだ発展途上だが見込みはあり。
『色欲』カペラ・エメラダ・ルグニカ。龍血が混じった彼女の血の侵食/変貌にも耐える。次の機会に仕留めれば肉体の強化に利用できるか?
『強欲』レグルス・コルニアスは彼奴の権能の取得(強奪)を狙い、直接ナツキ・スバルに止めを刺させた。が、『時間停止』及び『小さな王』の発現兆候はまだ現れず。この二つの権能が活用できるようになれば、ナツキ・スバルの戦闘能力も大幅に向上するのだが……。
精神面――大聖人よりも遥かに頑強。逆上しやすい点を除けばほぼ完璧。ありとあらゆる手法で想像を絶する量の〝死〟を体験してきたが折れる様子なし(慰めは必要)。本人は「俺は弱い人間だ」と卑下しているが、その精神性は非常に特異かつ貴重。
死の危機に瀕した人々を勇気づけられる煽動の才能も見落とせない。『強欲の魔女』との膨大な対話の影響か、演技も話術も上達し続けている。現状でも生半可な相手なら言いくるめ、手籠めにさせることが可能。優れた外交官になれるだろう。
蓄積経験――『死に戻り』によって語るに語りつくせない領域に。『世界の記憶』を読み返すといつも驚愕させられる。ナツキ・スバルの思考と発想の幅は大きく広められており、『強欲の魔女』でさえ思いつかなかった方法で事態を解決してみせた事もある。
最終的にはどれほどになるか……ともすれば、ワタシと並び立てるようにもなれるだろうか?
「それならば、権能がなくなったとしても、すぐに契約を解除するには惜しい。少なくとも最後の〝死〟を見届けるまでは傍らにいるべきだ」
そう言った自分の声が思いのほか明るくて、頬を手で押さえた。
「……嬉しがっているのかな」
不思議な感覚がエキドナの胸の内を占めている。
悪い気分ではない。心地よさと温かさがあった。それは心臓を起点に全身に広がっていく。
椅子の背もたれに身体を預け、長く美しい両脚を組み直す。
黒いドレスのような衣装を纏う少女は青空を見上げ、両目を細めてつぶやく。
「……女としての幸せを探してみるのも悪くないだろうか」
理由は付けられる。
このワタシが、『強欲の魔女』が、知らないコト――ただそれだけで事足りる。
生前は他にやりたいコトが多すぎて相手を見つける暇もなかった。興味深い人物が来ても夫にとは考えもしなかった。
(大抵の人間は会うと吐いてしまうし)
そもそも、人間なのに人間の感情を理解できなかったワタシだ。
ワタシにとって『人間らしい愛』とは観測するしか他になかった。
「……愛の探求はかねてからの疑問ではあった」
何故、愛は減るのか――永遠の誓いをした二人が別れる、命を預けあい戦場を駆けた戦友と袂を分かつ――全てを救おうとすればするほどに畏怖の念を覚えられる少年。
「ナツキ・スバルの覚悟・行動・経験。その積み重ねを最も理解しているのはワタシだ」
『強欲の魔女』だけが共感してあげられている。
他に誰ができた?
誰が彼と共に歩んであげられた?
誰が『強欲の魔女』ほどにナツキ・スバルを支えられたのだ?
幾百、幾千、幾万の『死』を超えて行く少年と共にいて、愛が尽きないでいられるのか。
一歩間違えれば転がり落ちるように依存するエミリア。
愛する英雄の死力も虚しく眠り続けるレム。
君たち二人はワタシと寸分違わぬコトができるのかい?
ワタシは彼に愛されている君たちを前にしても胸を張って言おう。
ナツキ・スバルを誰よりも理解し、手を取り合って、共に歩んでいけるのはこのワタシだ。
「……いけないな。思考が熱くなりすぎている。ワタシらしくはあるが、これは駄目だ」
それにしても驚く。
「ここまでナツキ・スバルという少年に惹かれていたとは」
現実の日数としては五年にもいっていない。
しかし『死に戻り』の繰り返しを含めれば、一般人の感性では〝おぞましくなる〟ほど、ナツキ・スバルとエキドナが二人で過ごした時間は長い。
本当に長い……けれど、無駄な時は一秒たりともなかったと断言する。
そうだとも。
これだけ濃密な生活を送ってきているのだから、魔女エキドナが感化されても致し方ない。
今更ナツキ・スバルが存在しない世界は考えられない。
最終的に『死に戻り』がなくなったって世界で一番〝興味深い存在〟には変わりはない。
断言し、
確信し、
認識を繰り返す。
「認めよう。認めるとも。認めないといけない。認めざるを得ない」
ワタシのナツキ・スバルへの愛は決して減らない。
魔女としてか、人間としてかは、まだ分からないけれど。
そこに大切な宝物があるかのように、エキドナは胸を両手で優しく包む。
「まるで恋する乙女みたいだね」
古今東西の叡智を蓄えた黒瞳に情熱の光が灯される。
処女雪のように白い――されど人の温かさを感じさせる――頬を緩める。
エキドナは絶世の美貌を誇る少女である。
今の表情を見れば万人が見惚れ、すぐさま意中の相手に羨望と嫉妬を覚えるだろう。
「まぁ、当の本人は小癪にも抗ってくるんだけど」
そこが面白い。
毒牙にかける悦びが生まれる。
「アッハハハハハ……! それにしても運がないなぁ君も! 大罪の魔女が二人――『嫉妬』と『強欲』に愛されるなんて!」
あり得なさ過ぎて笑えてしまう。
よもや……よもや、こんな運命の巡り合わせがあるとは!
四百年前に殺し合った魔女同士が、
和解など望むべくもない敵対関係にあった彼女とワタシが、
同じ少年――ナツキ・スバルに惚れ、
実質協力し合いながら先に進めようとしているのだ。
「君は自分の元にナツキ・スバルが来るまで権能を取り上げるつもりはないだろう? ワタシがどれだけ邪魔をしても訪れる未来を〝知っている〟のか〝確定されている〟のか。どちらでもいいとも。だが最後に勝ち取るのはワタシだ。君の思い通りにはさせない。欲しいモノは何が何でも手に入れる――言葉通りの『強欲』をやらせてもらおう」
次に相対すれば。
「必ず殺す。必ず消す。考える時間はいくらでもあったんだ」
ヒトが持つ最たる原罪/大罪はなんだ?
どんな目に遭っても折れない欲求、どこまでも果てなく底なく求め続ける心。
其は『強欲』――ありとあらゆる欲の集合。七つの大罪の根源。
それを『知識欲』の形で冠するのがワタシという人間であり、エキドナという魔女。
だが、ナツキ・スバルは『例外』へと昇華してくれた。
「ワタシは君の全てが欲しい。
頭から爪先まで血の一滴まで肉体が、何事にも決して挫けない精神が、幾度の死を乗り越えられる強い魂が、エミリアとレムへの純愛を貫き通そうとする綺麗な心が、このワタシにさえ容赦なく紡いでくれる言葉が、喜怒哀楽を多様に見せてくれる平凡が故に尊い感情が――その人生における刹那の時の流れさえも共に過ごしたい。
そして何よりも、ナツキ・スバルという人間を構成する元素が……ワタシは君の『愛』が欲しいんだ」
気を抜けば欲望を永遠と語りそうになる口を諫め、可能な限り短くまとめる。
「だから君には渡せない」
エキドナはそこに怨敵がいるかのように虚空を臨む。
――『強欲』を侮るなよ『嫉妬』――
朝のお茶会にて。
「なんか……上機嫌だな」
用意されたドナ茶を挨拶代わりに一口飲み、スバルが恐る恐る言う。
対面のエキドナは頬杖をつき、愛おしげにスバルを見つめ、薄く微笑んでいる。
惹かれる退廃に魅せられる妖艶の完璧な両立。
愛する少女が二人もいる少年でも生唾を飲み込んでしまう艶があった。
無理からぬ反応ではある。
全身全霊で〝堕とす〟と決意した乙女は特化され、以前とは別次元の存在になるのだ。
「昨晩ね、君が寝ている間に色々考えてみたんだ。今までにないぐらい有益な時間だった。お陰で頭の中がすっかり整理されたよ」
「ほ、ほおー。そいつは何よりだな」
「喜んで欲しい。君のコトだ」
お前さんの所業を顧みると嫌な予感しかしないんですけど。
「朝っぱらからハードだぜ……つれぇわ」
顔を引き攣らせる少年の隣にエキドナは移動する。
そして手を取ると立ち上がってもらい、丘の下を見渡せる、見晴らしのよい場所まで歩いていく。
スバルは「茶会はどうすんだ?」などと無粋な問いは投げなかった。
その程度には、自分から握った小さな手の少女のことを理解しているつもりだったから。
「ナツキ・スバル」
「あいよ」
丘の先まで着くと、少し間を置いてエキドナはスバルの方に振り返る。
てっきり神妙な顔をしているのかと思ったら、いつもと変わらない微笑みだった。
信頼はできても安心はできないエキドナの笑顔。
「ワタシは君を愛している」
「……」
「言葉を返せないのも道理だ。簡単には信じられないだろう。けど、本当なんだ。知識を供給してくれる契約者だからではなく、純粋に異性として君が愛おしい」
繋いだ手を胸に遣って告白する。
なんとなく――どうしてかは知らないけど、予感できていたスバルの返答は早かった。
「お前が期待する答えを俺は言わない」
拒絶を悪いとは思わない。
「それでこそ君だ。でも、必ず惚れさせてみせる。この胸の高鳴りに誓って確約しよう」
一歩近づく。
二人の視線は交わったまま外れない。
「……スバルと呼んでもいいかな?」
愛の告白に戸惑いはなかったのに。
なんでそんな……。
どうってこともなさそうな願いを不安がりながら確認してくるのか。
わかんねえヤツだ。
「エキドナの好きなように呼べばいいだろ。フルネームは正直まどろっこしいしな」
「……フルネームなのには理由がなくもないんだよ」
「気心の知れた間柄なら普通は名前呼びなんだっつーの」
「あはは……そうか、そうなのか、そうだったんだ……また一つ学べたね」
お互いの微苦笑が去る。
なんて不器用なやり取り……けれど悪くなかった。むしろ良しといえる感触だ。
その感慨を抱き、黒と白の少女は愛した少年の名を呼ぶ。
「スバル」
「おうよ」
「スバル……悪くない響きだね」
「俺は小っ恥ずかしいんですけど」
「ごめんね。じゃあ最後に。スバル…………ワタシは今ちゃんと笑えてる?」
人間の感情を理解できず、なぞり、真似るだけだった。
それは自他共に認める欠落だった。
スバルは肯定する。
「ああ、笑えてるよ。すっげー綺麗で可愛い笑顔してるぜ」
人らしい感情も、人らしい仕草も、人らしい表情も。
「お前のこと、多分、一番よく知ってる俺が保証してやる」
「うん――――よかった」
エキドナの名を持つ少女は笑う。
儚い小さな微笑みではなく、大輪の花のように明るく大きく。
幸せそうに――。