今までとは書き方を変えてみたのですが、こちらの方が読みやすいでしょうか?
もしそうでしたらこれから反映します。
Act2でエキドナのことを蛇に喩えましたが、蛇は『嫉妬』の象徴で『強欲』は狐です。皆さん、気付いたでしょうか……?
私はつい二日前に気づきました(震え声)
愛の告白をしてからというもの、エキドナはすこぶるご機嫌だった。
告白されたナツキ・スバル当人は「なにされんだよ……」と頭を抱えていたが、意外や意外、危険なコトは数日が経過してもやられなかった。
脳味噌を弄られるとか、無理やり押し倒してくるなど。
そういう危険行動が一切ないのだ。
ただし――問題が生じなかった訳ではない。
『強欲の魔女』エキドナに明らかな変化が生まれたのである。
「ナツキ・スバル。魔女の茶会はここまでにしようか」
椅子から立ち上がり、テーブルに両手をついたエキドナ。
いま彼女の二つの黒瞳は、長く苦しい勉強が終わって休憩時間を迎えた時の生徒のようだ。
つまり綺羅星みたく光っている。
二次界隈で言うなら目がしいたけ状態。
「も、もういいのか? 他になんか話すことあるんじゃないの?」
「ないさ。ないとも。これからの最善の行動。それに伴う結果は二人で考えたじゃないか。過程とループの回数も最大限に考慮した。今回のお茶会で話すべき議題は憂いなく失われたよ」
反論の余地がない言葉にスバルは押し黙る。
本来ならエキドナが茶会を引き延ばそうとしてスバルが渋るのに、ここ数日は逆の立場だ。
あの話したがり屋、聞きたがり屋の魔女が……率直に言ってまだ信じられない。
どうしてこうなった?
俺の所為なのか? まじで?
愛の告白は真正面から断ったのだが、あれは選択肢として大正解だったのだろうか。
「さあさあ、仕舞うから立って立って」
両手でジェスチャーをされ、戸惑いつつもスバルは指示に従う。
浮足立っている魔女が軽く指を鳴らすと――ティーセットに、テーブルに椅子、白いパラソルも――お茶会の用具は跡形もなく消失した。
「あー……で、今日は何するんだ? 昨日は恋人繋ぎでそこらへん歩いて、一昨日は超至近距離で名前の呼び合いで、三日前はお姫様抱っこ……こ、高度すぎんだろっ」
ギャルゲー、乙女ゲーもかくやの触れ合いばかりではないか。
断らずにやる俺も俺だけど。
エキドナが本当に楽しそうで、嬉しそうだから、ついつい付き合ってしまう。
人間らしさを身に付けつつある魔女は冗談抜きで恋に憧れる乙女だった。
「ボクの乳房に触れておいて今更だね。恥ずかしがる理由はないだろう?」
「生々しい言い方せんでくれませんかね!? せめて胸と言えっ。ってか、お前が触らせたんだろ! 不可抗力だっつーの! 訴訟されても勝てるぞ!?」
「……エミリアとレムの二人と違って、女性らしさがあまり感じられない胸なのが気に入らなかったのかい」
「……その返しおかしくね? なんで俺が悪い風になってんの?」
そりゃ確かにあの二人に比べたらエキドナは小振りだが、別に感触がなかったとかは全然なくて、女の子らしい柔らかさはちゃんと……ちゃんと。
「……………………やわっこいのがあってだな」
触れた手の平をガン見する少年から、白黒の少女は素早く離れた。
お互いをよく知る者同士が話すには遠い距離。絶妙な間合いの調整。
心なしかエキドナの視線が冷たいし痛い。
スバルの口が「へ」の文字の形となった。
「ボクが原因とはいえ、今の君の動作にはいささか気が引けるモノがあったよ」
「エキドナ、怒るぞ」
「謝るから怒らないで」
申し訳程度に頭を下げ、すぐに上げる。
スバルをからかえてご満悦のエキドナは笑みを深くし、足元をトントンと軽く踏む。
その行為による夢の世界の変化は一瞬であった。
主たるエキドナの想像通りに、速やかに構築されたソレは、
「木か? 結構でかいな」
一本の木である。
目測で八メートル越えと判断。
スバルから見て左前方、エキドナから見て右前方に、青空へと真っすぐ生えていた。
巨木には及んでいないが、青々と茂った姿には若々しさと力強さがある。
元いた世界の常識に照らし合わせるなら、立派な樹木のカテゴリーに入りそうだ。
「今日はこの木の下で昼寝ってところかね」
ただっ広い草原の丘の上にある一本の高い木。
少しばかりおかしいだろうが、なんとも平和でのどかな光景だ。
誰かさんの所為でささくれ立ちかけていた心が鎮まっていく。
「そう――安らかなる休息の時間だよ」
「寝ても平気なのか?」
「睡眠の必要性が感じられないだけで、眠れないとは一言も言ってないよ」
「……そりゃそうだよな。寝ないヤツはいても、寝れないヤツなんていないもんな」
「その通り。ふふ、これならボクも君も休める」
「ちゃんとかは怪しいけどな」
木の根元に二人で座る。
幹は太く、エキドナとスバルが背中を預けても問題はなかった。それに、表面がサラサラしていて触り心地も良い。職人に磨かれたように滑らかだ。
(虫もいねえし)
木の下で恋人同士が寝るシチュエーションは二次元でよく見かけたが、「こんなの実際やったら木がゴツゴツして寝にくいわ、蟻んこ共がいるわで、ぜってえ快眠できねえだろ」とツッコミを入れていたものだ。
実体験を経ての感想。悲しいことに恋人はいなかったが。
しかし、ここは流石の夢の世界というべきか、不快なモノは一切取り除かれている。
その真逆に、安眠を助長させる要素は――晴天、涼しい風、草木の瑞々しい匂い――完璧に取り添えられていた。
「我ながら理想的な環境を創ったね」
「ああ、これならお前も寝られんじゃないのか」
そう言ったスバルがエキドナの頭を肩に引き寄せる。
鳩が豆鉄砲をくらったかのように、『強欲の魔女』の瞳が見開かれた。
その驚きに続くのは喜び。大いなる歓喜だった。
「これはこれは……眠気が去ってしまいそうだ」
「大人しく目ぇ瞑ってろ。そのうち勝手に意識が薄くなってっくから」
「……君はそうしないのかい」
「俺はあんましここで寝ちまったら、現実世界で寝にくくなるからなぁ……エキドナが寝たら、適当にタイミング見計らって帰らせてもらうぜ」
「女の子を一人置いていくのを宣言するなんて惨いヒトだ」
魔女への配慮を考えない契約者殿に嘆息――まあいいか、と呟いて身を任せる。
「……帰るための扉は開けておくよ」
「おう、サンキュー」
「……ワタシとしては……スバルにずっといて欲しいけどね……?」
砂糖よりも尚甘い囁きにスバルが狼狽える。
見なくとも察したエキドナはその甘味を堪能し、本当の本当に眠り始める。
意識が抵抗なく受け入れれば、すでに準備を完了させていた身体が誘う。
脳が一つ一つ機能を停止させていく感覚。
久方ぶりの微睡み。
生前のどの時期を思い返してみても、こんなにも安らかな気分で眠りに入った記憶は一つとして見つからない。
死後は……友人の魔女たちの前で無防備な姿を晒そうものなら、この場所の主導権を奪われかねないが故に、常にある程度の警戒を意識していた。
つまり、このまま寝てしまうとスバルもワタシも、ちょっと危なかったりする。
いや、大丈夫だとも、うん、きっと。
スバルが来る前に話しておいたし、彼女たちも空気を読んでくれるだろう。
ダフネが喰らいに現れても、ああ見えて常識のあるセクメトが護ってくれるはず。
『怠惰の魔女』の彼女を頼りにするのは些か不安が残るけれども。
それよりもこの状況を心ゆくまで過ごしたい。
だって希少なる奇跡を体験しているんだから。
ゼロに等しい極小の可能性から手にした安寧。
限りなく対等に近い存在が傍で見守ってくれる。
しかもそれは意中の男の子で、ともすれば『強欲の魔女』の在り方を一変も二変もさせてくれるやも知れない人間。
幸福すぎて、肉体も精神も魂も、どうにかなってしまいそうだった。
夢の中で夢を見ているようなあり得なさ。
もしも……これがもし泡沫の夢だとしたら。
どうか覚めたり、どうか弾けたりしないように――そう心から祈る。
魔女エキドナは完全に眠りについた。
契約者ナツキ・スバルは、ついさっきまで彼女の髪を撫でていた手を眺める。
数秒後――。
そこには世にも奇妙な顔芸を晒す少年がいた。
(な、なにやってんだぁ、俺は!?)
エミリアとレムの二人がいながらこの体たらく。
ベアトリスとだって誓いを立てたのに。
なのに、ここのところ――――いや、告白されたあの日から、エキドナと近い距離で接している時間が明らかに伸びてきている。
エキドナの精神世界にいる時間の変化そのものは誤差の範囲内ではある。
原因は一つにしてスバルにとって最大のメリット。
お茶会を短くしようと頭脳をフル回転し、最善の結果のみならず(ムチャクチャ未練たらたらだが)最善の道筋も考えてくれるようになった。
これは文字通りナツキ・スバルの生死に関わる。
『死に戻り』の回数が減るならそれに越した事はない。
いくら覚悟と決意ができていても、死ぬ目に遭う回数は少ない方が当然助かる。
大変有り難いし、だからこそエキドナへの対応も甘くなっていたのだが……。
(このままだとやばい。やばすぎる。なにがやべえって言うと、俺の中でエキドナの好感度がゴリゴリ上がっちまう。あのエキドナのだぞ? 腹黒で嘘吐きで都合の悪いコトは言わない『強欲の魔女』だぞ? おいおい待て待て。俺、ちょろいってレベルじゃねえぞ……!)
大罪の魔女がヒロイン化とか洒落にならん。
「……アホな考えはおいて。こいつまで背負うとか俺には無理なんだよ。ただでさえ精一杯なんだぜ? 容量を考えてもらいたいね」
鬱屈とした本音が情けなくもこぼれ、慎重にエキドナを確認。
白と黒の少女は起きない。あどけない寝顔をして、ぐっすりと眠ったまま。
「――はぁ、背負うねぇ。ふぅ、そいつはぁ、ちょいと違うんじゃないのかい」
安堵のまばたきをした瞬間、前方に見知った『魔女』が出現している。
『怠惰の魔女』セクメト――――赤紫の髪を好き放題に伸ばしたまま座り込んでいる為、表情は窺えないが、髪と髪の隙間から自分とエキドナを捉える目はいかにも気怠げだ。
『強欲の魔女』エキドナが蒐集した最終兵器の登場……スバルは眼差しを鋭くし、顎を引く。
「セクメト……? なんでここに」
「いや、なにさね。はぁ、エキドナの頼まれ事をやったついでに、様子を見に来たのさ、ふぅ」
「『怠惰の魔女』のあんたが随分と動くじゃねえか」
「はぁ、面倒だったねぇ……あんたには見えないだろうけど、ふぅ、ずっと向こうじゃ『暴食』のダフネがのびてるよ。はぁ、息をするのもだるい」
「……えーと、つまり。俺とエキドナがお昼寝タイムをブレイクしてる間に、二人の魔女が戦ってたってこと?」
「そうなるねぇ」
「全然気づかなかったんですけど!?」
「はぁ、向こうと言ったのさ」
「えええ……こ、こいつは当然知ってたんだろうな……」
エキドナに視線を移す。
そして、彼女を庇うように抱き締めていた自分に驚愕する。
「…………まじかよ」
「はぁ、えらく大事そうに抱いてるじゃないか、ふぅ」
「か、勘違いするなよ。別にコイツのことを護ろうとしたとかじゃ全然ないんだからな。むしろ護ってもらってる立場だしな!」
「……はぁ、エキドナを変えた男とは思えない情けない台詞だねぇ、ふぅ」
「……今のは自分でもそう感じたわ」
嘆息――――微妙な沈黙。
やりきれない気持ちになり、スバルは「頼まれ事って俺たちのガードだな?」とエキドナを抱いたまま確認してみる。
「はぁ、感謝してもらいたいねぇ。あたしが止めなかったらダフネに襲われていたさね。ふぅ、主にあんたが」
「俺かよ」
「はぁ、エキドナより坊やの方が美味そうだからとか何とか……ふぅ。まぁ、ダフネの奴は、白鯨も大兎もあんたに殺し潰されて、そこそこ興味を持ったみたいだねぇ、はぁ」
食料的な意味だよな、それ。絶対。
この草原で、ダフネin百足棺に追いかけ回される光景を想像して青ざめる。
頭を何回か振り――――スバルはセクメトと視線をしっかり合わせる。
それは真剣な会話を求める合図だった。
「んで、最初の言葉は何だったんだ? どういう意味だ?」
「……はぁ、『怠惰の魔女』のあたしを喋らせようとするんじゃないよ、ふぅ」
「文句はあとでエキドナに言ってくれ。……しっかし、起きねえなこの魔女様は」
ぽんぽんとエキドナの頭を叩く。
くすぐったそうに身動きしたが目覚めない。
そんな童女同然のエキドナを眇め見たセクメトは、己の髪を派手に掻き毟った。
しち面倒くさそうなご様子だ。
「はぁ。エキドナと坊やの関係さね、ふぅ」
「背負うって言い方が気に入らなかったのか?」
「はぁ、エキドナはあんたに背負われるほど、柔な魔女でも人間でもないさね」
そう、エキドナの精神性は人知を超えている。
それはまさに、世界を混沌に陥れた『大罪の魔女』に相応しい異常性だ。
『死に戻り』を幾度繰り返そうと、一度たりとも不平不満をスバルにぶつけてきたりはしなかった。
彼女は得た結果/知識を吟味し、次はどうすればいいのかを思考し、契約者であるナツキ・スバルに伝える。
『もう少しだよ、ナツキ・スバル。これならきっと上手くいく』
……ただの一度でも適当に、面倒くさそうに話したりはしなかった。
飄々としていてもエキドナはいつでも、どんな時でも話し合ってくれた。
『死に戻り』にスバルの心が折れそうになれば叱咤激励し、立ち上がらせてくれた。
「はぁ、坊やも〝自分はエキドナに護られてる〟と言ったじゃないかい、ふぅ」
「洗脳もとい誘導されてる気がしないでもないけど……背負われてるのは俺。いいや、手を引かれてるのが俺だったな」
「エキドナは覚悟を決めた。はぁ、あとは、坊やが隣りに並べるかどうかさね」
エキドナとナツキ・スバルが対等の関係になる為には。
魔女と人間が結ばれる為には。
お前が歩み寄らないといけないというコトだ。
「ふぅ、気負う必要はないさね。エキドナはあたし達の中でも気が長いからねぇ、はぁ」
「ああ、何回死んだって離されそうにない」
死さえ二人を別てないのが現状なのだから。
極上の冗談は『怠惰の魔女』セクメトにも受けたようで、肩が僅かに上下した。
「はぁ。さて、いい加減眠らせてもらうさね、ふぅ」
「……あんた、意外と面倒見いいんだな」
「はぁ、これでもテュフォンのお守りさね、ふぅ」
その一言を最後にセクメトは夢の世界から消失する。
耳に聞こえるのはエキドナの微かな息遣いだけとなった。
スバルはエキドナの手を優しく握ると、花園へと視線を遣った。
遠くはないが、これから使う権能を思うと若干の不安が残る。
「そうは言っても、こればっかりはセクメトに頼めないしな。俺がやんねえと」
空いている手を花園に伸ばす。
両目を閉じ、集中。頭の中でイメージを作り上げる。
頭の天辺に刃物が突き刺されるような痛み――そのぐらいが何だと笑い飛ばす。
こんぐらいじゃあ、微塵も揺るぎはしない。
ナツキ・スバルはかつて対峙した狂人の権能を精密に再現してみせる。
インビジブル・プロヴィデンス――――『見えざる手』
きっかり三十秒後。
エキドナの白髪には燃え上がるように赤い、情熱の色の花が一輪飾られていた。
そして、このあと。
やっと起きやがったエキドナがどんな反応と行動をしてきたか。
絶対忘れられないだろうな、とスバルは半ばやけくそ気味に思うのだった。
エキドナが夢の世界で寝られるとか、『聖域』を解放したあとでも大罪の魔女たちは呼べるのとか、花園に薔薇はあるのとか、疑問は多くありますが見逃してください何でもしますから!
セクメトさんは常識人ってそれ一番言われてるから。
まだWeb版だけのエキドナでここまでお気に入り、評価されるとかどういうことなの……。
感謝に感謝です。
赤い薔薇を選んだのはエミリアが髪に飾っているのが白い薔薇(?)だからです。