後半・白ドナ
過ぎたる正義がやがて独裁に堕ちるように。
無償の善行はいつしか恐怖されるようになる。
『聖域』において心残りがあるとするならば。
ナツキ・スバルを懐柔しきれず、エミリアに試練を突破させてしまった事だ。
『憤怒』『怠惰』『傲慢』『色欲』『暴食』――最後に『嫉妬』。
彼女たち六人を前にナツキ・スバルと契約した時点で、ボクは我が身の勝利を確信していた。
最善の結果を得る代償に、辿り着くまでの過程は『強欲の魔女』エキドナに委ねる。
そういう契約をボクと彼は交わしたのだ。
鬼だって? 悪魔だって?
ああ、そうだとも。自由に罵ってくれていいよ。
ナツキ・スバルにも言ったけど、ボクは悪い魔女なんだぜ? 魔女の言葉を鵜呑みにして信じるほうがおかしい。
ミネルヴァに契約のデメリットを明かされた時は多少なり焦ったものさ。この身を焦がす知識欲を少しでも満そうと思ったら、『死に戻り』ほど相応しい権能はなかったんだからね。
死んでやり直す――トライ&エラー――その過程をナツキ・スバルが恐れるようになったら、契約の成功率は著しく低下していたんだよ?
まったく冗談じゃない。
ボクの苦悩も考えてもらいたいものだね。
ボクに怒るという感情表現ができていたら最悪、持ちうる権能をミネルヴァに叩き込んで黙らせていた可能性もあるんだ。
いやはや思考を巡らせるのは得意分野だけど、あのときは本当に……生前死後含めて、あんなにも全力で『言葉』と『仕草』と『表情』を取り繕ったのは初めての経験だったよ。
我ながら名演技だったんじゃないのかな?
おっといけない。話を戻そうか。話の道を反らしてしまうのはボクの悪い癖だ。
肝心なことを先に言わせてもらうと、ボクはナツキ・スバルを見縊っていたんだね。
どうやら甘く見過ぎていたようだ。それとも有頂天になっていたのかな?
仮にも死と生の循環を行き来する者を侮るとは恥ずかしい限りだよ。
契約を結んでパスをお互いの間に創り、状況整理が済んだあとにワタシは「君一人で三つの『試練』を完遂したらどうだろうか?」と提案した。
誤解はしないでくれ。エミリアが蛇蝎の如く嫌いだから提案したんじゃないよ? 現実の事実として、エミリアよりもナツキ・スバルの成功率の方が高いと判断したからさ。
第一の試練をナツキ・スバルは見事に突破し、エミリアは怯えて震えてまともに挑むことができなかったんだ。
実績がある者とない者。
どちらが信用に値するのかは火を見るよりも明らかだろう?
なのにスバルときたら……ナツキ・スバルは「エミリアが『試練』を三つともクリアしないといけない」の一点張り。ワタシの提案を取り合うどころか、聴こうともしなかった。
いきなり契約内容を破ってきたのさ。
信じられるかい? さしものボクも無表情になったよ。
友人たちでさえ言葉を失う気配を感じた。
『憤怒』のミネルヴァだけはガッツポーズをしていたね。
『契約はしたけど必ずお前に頼るとは誓ってないし』
たかがニンゲンがやってくれる。
『隠し事してたお前にとやかく言われる筋合いはないぞ。嫌なら協力はいらねえ。俺一人でもどうにかこうにか辿り着いてやるよ』
なんて出鱈目で傲慢で高慢で強情なのか。
第二の試練は君にとって最悪のモノであっただろうに。
あれだけ自分が死んだ後の世界を見せられたのに――まだ心が折れていなかったのか。
ボクもどうにか説得しようと弁舌を揮ったけど……最終的に折れたのは『強欲の魔女』で、業腹ながらエミリアが『試練』を攻略できるよう知恵を吐き出さないといけなくなった。
新しい契約者との初めての共同作業が、顔も見たくない声も聞きたくない女を助けるコト。
フン、悪い夢を見ているような気分だったね。
こうすればナツキ・スバルの信頼を少しでも培える――そう思わなきゃ、とてもじゃないがやってられない苦行だったとも。
よく耐えたと褒めて欲しいぐらいだよ。
そうして『聖域』はナツキ・スバルが望んだとおり、エミリアの手によって解放された。
万々歳の大団円。
みんな笑顔の幕引き。
間違いなく功績者の一人であるボクは欲求不満。
『聖域』の試行錯誤は百にも満たない『死に戻り』で我慢させられた。
ナツキ・スバル風に言うなら、『勝負に勝って試合に負けた』といったところだ。
……口惜しい。
勿体ない。ほんとうに勿体ない。勿体なさすぎる。
まだまだ試したいコトがあったのに。
同一の条件と状況に何度でも挑める事がどんなに幸運なのか……何者よりも貪欲な知識欲を持つワタシにすれば、喉から手が出そうなぐらいだ。
ナツキ・スバルの首に掛けられた結晶石から現実世界を俯瞰していたワタシは、彼とエミリアの二人が周りに祝福されるのを目の当たりにして、それはそれは大きな溜め息を吐いた。
(ナツキ・スバル……君がそこまでする価値がその少女にはあるのかい)
そして今また、件の少女の部屋にいる契約者を憂い、片目を瞑る。
エミリアは見るに堪えないが、ナツキ・スバルを見ない訳にはいかないという想いがあった。
故に片目だけで抑える。
「スバル? ごめんね。付き合わせちゃって」
執務机に向かっていたエミリアが、斜め後ろから見守っていたナツキ・スバルに振り返った。
……常識的に、美しいと評価されるだろう顔にある紫紺色の瞳は不安げに揺れている。
自分から王選の勉強に付き合って欲しいと頼んでいながら……この始末か。
まったくもって度し難い。
本当に媚びるのだけは一流だね、お姫様?
「いえいえ、とんでもない。俺はエミリアたんの騎士なんだよ? 俺がここにいる事ぐらいでエミリアたんの勉強効率が良くなるなら、徹夜も辞さない所存だぜ」
ワタシの契約者は殊勝にも笑顔で応じる。
それは主の緊張感を絶妙にほぐし、安心させ、場の雰囲気を中和してみせた。
その佇まいは一つの騎士の在り方として完璧に近い。
慇懃さも重要なファクターではあるが、気楽さもまた同等に必要である。
主と同僚のみならず、下の者や平民にも慕われてこそ真の騎士となり得るのだ。
そういう意味でナツキ・スバルは理想的な騎士になりつつある。
足りないのはラインハルトやユリウスのような戦闘能力――それも直に解決される。
エミリアの騎士として最上の在り方を教え込んだように、他ならぬワタシがそうするのだ。
強欲の大罪司教が宿していた権能『時間停止』及び『小さな王』。
戦闘には様々な要素・要因が絡み合うが、そもそも効かないのであれば元も子もない。
レグルス・コルニアスは愚蒙愚昧だったけれど、『強欲』の魔女因子で体得した能力は不釣り合いなまでに有能だ。
『死に戻り』同様すさまじい権能である。生前のワタシが持っていなかったのが悔まれるね。あの二つがあれば、どんな無茶でも〝取り敢えずやってみる〟ことができたろうに。
……悔んでも仕方ないし、夫がいなかったワタシでは望外になるか。
ありがたくワタシの契約者殿に利用させてもらうとしよう。
『時間停止』の欠点を補う『小さな王』は婚約者、伴侶の存在が発動条件。
死者でも構わないなら……皆までは言うまい。
「スバルってば本当に頼もしくなったわ。『聖域』でもプリステラでもすごーく活躍して。初めて会った時とは別人みたい」
「エミリアたんがいたから頑張れたんだよ」
「……わ、私は別に、何も……。一人じゃ何もできなかった……スバルがいなかったら……」
――――ああ、そうそう。
契約を破った罪として少なからず手心を加えさせてもらったよ。
『試練』を攻略する以上、エミリアはワタシと遭うことになっていたからね。
その際に『死に戻り』の禁忌を破らない程度にナツキ・スバルの奮闘を話してあげた。
賢人になっていない君がこのワタシを出し抜こうだなんて四百年早い。
『君がここまで来るのに、ナツキ・スバルがどれだけ苦労したと思う?』
『彼は君を助けたいが為に、『強欲の魔女』と契約を結ぶことを選んでしまったんだよ?』
『君が過去に囚われてメソメソグスグスしている間に色を付けさせてもらった』
『今更どうこう言っても遅い。契約は既に成立した。解約するつもりはないさ』
『世界が何度繰り返されようとも覆らない』
『解るかい、お姫様。もう君だけのナツキ・スバルじゃあない』
『ボクの愛おしい共犯者、ワタシの愛おしい契約者だ』
ナツキ・スバルにはこっぴどく怒られたけどね。
あれだけは言っておきたかったのさ。
「口だけが達者なあいつの言うことなんて気にしない気にしない」
「……エキドナとの契約は取り消せない?」
懇願するようにエミリアがナツキ・スバルを見上げる。
あまりにも身勝手な頼みに何か一言叩きつけてやりたくなるが、思念波は契約者のナツキ・スバル以外には届かない。
「できれば絶縁したい気持ちが山々。四六時中見られたり喋られたりがなくなるし。あ、風呂とかトイレとかの時はちゃんと外してるよ」
そう言うと、契約の証である結晶石を胸元から取り出し、手の中で弄り回す。
浮かべる笑顔は自嘲と苦笑が入り混じった複雑なものだ。
「最低最悪の性格は諦めるとしてだ。こいつが持つ知識は使える。『聖域』でもプリステラでも、無能な俺があんな大立ち回りできたのはエキドナの知識があったからなんだ」
『ありがとう。けど、君の名誉を尊重して言わせてもらうなら、ボクに頼らずして解決した事件もあったじゃないか。見事だった。感服したよ』
「……誰かが代わりにやれないの……?」
『無理だ。不可能だ。自慢じゃないが、ボクは君が知る誰よりも叡智を蓄えている』
「…………難しいと思う」
『ナツキ・スバル。正直に言ってあげた方がエミリアの為じゃないのかい』
「ロズワール……ううん。ベ、ベアトリスならどうにか!」
『無知とは哀れで恐ろしい。教え子が師に、赤子が親に勝るとでも?』
「……あの二人が揃っても駄目なんだよ」
『必要最低限の条件すら満たせないからね』
ナツキ・スバルと歩いていけるのは、彼が『死に戻り』でやり直した時に記憶を引き継げる、ないし、『嫉妬の魔女』の魔手より逃れて知ることが出来る手段を持つ者だけだ。
「心配はご無用! ノープロブレムだぜぇ、エミリアたん。今んとこ傀儡にはされてないし、する気もなくなったっぽいし。なんだかんだであいつも人間性を学んできたしさ。ここ最近は割と素直に考えて協力してくれてる。……ここまで来るのにホント苦労したけど」
『約一万回の繰り返し――その苦労の甲斐もあって君はワタシに真実の愛を芽生えさせた。驚くべきことだよコレは』
だからワタシはスバルに感謝している。
人間が愛する者に抱く愛情がこれほどまでに純粋で情熱的で、甘露だったなんて……うっとりするような吐息が出てきてしまう。
「そんな訳でエミリアたんはどうかお気にせず、王選の勉強に努めてくださいな」
「どうして笑えるの、スバル……?」
エミリアが凍り付いた声で言った。
ふむ……恐怖ではなく憐みか。やはり厄介なヤツだな、君は。
「エキドナに酷いこと言われたり、させられたりしてるんでしょ……? スバルはもっと自分を大切にしないと……!」
今は恋人らしい触れ合いをしている時間が長いから「心外だ」と思わせてもらおうか。
スバルは柔らかく否定し、言葉を慎重に選んで続ける。
「みんなの為だけじゃない。エミリア――俺たち全員の為なんだ」
うん、その台詞が最善だろうね。
エミリアの総身が震え――何度か口を開閉し――やがて項垂れる。
僅かでもワタシの契約者の覚悟を感じ取れたらしい。
『……自分を大切に、か。間違っていないが、言うのが遅すぎる』
親愛なる主と目線を合わせ、その手を恭しく取り、見つめ合う騎士。
銀の心痛。
鋼の忠節。
伝承伝説でも中々見受けられない美しい主従関係だ。
まぁ、ワタシには酷く歪に見えてしまうけどね。獣同士の傷の舐め合いと違わないじゃないか。
一時凌ぎにはなるだろう。
でもそれで傷が治ると思うかい? 治ったとしても醜い傷跡が残るんじゃないのかな。
だから、どっちにしろエミリアは必ず次を求める。
騎士の誓いに付け込んで更なる安堵感、充足感を得ようとするだろうさ。それがどんな内容になるのかを想像すると……スバルが不憫でならないよ。
「スバル……無茶だけはしないで。エキドナが嫌いになったら無視すればいいのよ。もしそうなってもスバルは一人じゃない。私、すごーくすごーく頑張るわ」
自室に戻ったナツキ・スバルだったが、すぐにソファで眠ろうとはしなかった。
机の椅子を、月明かりが射し込む窓の近くまで引っ張ると腰を下ろす。
一見では――――月見をしているようにも見えなくもないだろうか。
だが、その心労を察して余りうるエキドナは暫くの時間を置いて、静かに話しかける。
『お疲れ様』
「……別に疲れてない」
『エミリアとの会話は他の誰よりも神経を遣うはずだよ』
あの少女が想い人だからこそ、王選の一人だからこそ。
ナツキ・スバルがエミリアを蔑ろにすることは不可能なのだ。
『ワタシの世界に来るかい?』
「……」
『来ないなら、耳を傾けるだけでも』
「…………いや行く」
現実世界と夢の世界を繋ぐ結晶石を握る。力は込めない。
熱を発しながら脈動するソレと、ナツキ・スバルの鼓動が合致したと同時に――――契約者は魔女の城へと招かれる。
「っ……」
眩い光で瞑った目を開けば、既に移動は完了されていた。ただ今回は、いつものように草原の真ん中で立たされてはいなかった。
恐らくは丘の上。自分は来る前とあまり変わらない体勢……安楽椅子じみたイスに座らされていた。
けれど、お茶会の準備はされていなかった。それどころかエキドナの姿も見えない。
スバルが不思議に思えば、肘掛けに置かれた手に白い手が重ねられる。
エミリアにも勝るとも劣らない温かさと柔らかさ。
その小さく細い手を少年の黒瞳が辿っていく。
やがて映るのは処女雪よりも白い髪、冬の妖精も見惚れる貌。
真っ黒な衣装を着ているのに、どこまでも純白の印象を覚えさせる少女。
「こんにちは。それとも、こんばんはかな?」
街道で知人と出逢ったかのように、エキドナはごく自然に挨拶をする。
『強欲の魔女』は椅子に寄り掛かるような体勢で、ナツキ・スバルを見下ろしていた。
「……なんか悪いな。茶会しに来たんじゃないのに」
「いやいや。ワタシはここに君が来てくれるだけでも歓迎しよう。ついでに会話の花を咲かせる話題の一つや二つも持ってきてくれたらもっと喜ぶよ?」
「現金な魔女様だぜ」
「ワタシほど欲深い魔女はいないし、君は素直な女の子が好きみたいだからね」
「お前の素直さは〝可愛い〟よりも〝厄介〟なんだよ」
「けど、なんだかんだで受け入れてくれる辺り、嫌な思いはしていないみたいだね? この前だって……ポッキーゲーム? という過激な男女の遊びを実践してくれたし」
「あばばばぁ! だあー! があー! そいつを思い出させるんじゃねえ!」
エキドナとのポッキーゲーム。
二人とも顔が真っ赤になって途中で断念したのは記憶に新しい。
死んだって忘れられるか、あんなもん。
山と積み上げられたナツキ・スバルの黒歴史の中でもトップクラスのブツだ。
ちなみにポッキーそのものはなかったので、興が乗ったエキドナがイメージで創ったものを代用した。美味かったが味わう暇はなかった。
「……ちょっとシリアスな話していいか」
「シリアスさんの登場か。もちろん。どんなに下らない話でも、スバルの話なら聴こう」
堂々の特別扱い。苦笑し、身体を前に傾ける。
……赦されるなら……エキドナと馬鹿な話をずっと続けていたかった。
他愛もないお喋りをして、気が済んだら、現実世界に戻って寝たかった。
しかし、駄目なのだ。
誰でもないナツキ・スバルがそのような甘えを赦さないのだ。
「俺は過程を問わず、最善の結果を得てきた――そうだよな?」
「ああ。ナツキ・スバルは数えきれない試行錯誤の果てに最善の道と到達点を見出す。そうして一つ一つの問題に対して適切な行動をとり、あらゆる難題・困難を完璧に乗り越えてきている」
全てを確りと見届けている魔女が絶対的に肯定する。
もし否定する者がこの場にいれば、『強欲の魔女』は憤怒を顕わにして抹殺していただろう。
「……俺は、俺は、間違ってないよな?」
「ああ。君はワタシの悪辣な提案の数々――君一人で『試練』を突破し『聖域』を解放すること、ガーフィールを蚊帳の外に置くこと、『腸狩り』エルザを雇うこと、『剣聖』ラインハルトをエミリア陣営に引き込むこと――これら全てを拒絶し、否定し、ワタシを納得させるだけの別案を考え出してきた」
目先の問題を〝楽にすること〟に囚われず、先の先まで見通した上で進んできた。
殺されて『死に戻り』、誤れば『死に戻り』、試しの『死に戻り』、確認する為に『死に戻り』……その行為を気が遠くなるほど繰り返してきた。
それに対して気が狂っていると恐れるのは、この――凡人でしかなかった少年の覚悟を知らないからだ。
自分を大切にしろなどと気安く言うものではない。
全てを救うためには、魔人になるしかなかったのだ。
ナツキ・スバルは誰よりも健闘している。
「ナツキ・スバルの正しさはこのエキドナが確約する。相手が世界の意思でも断言しよう。君は間違ってなどいない。顧みられることもない君の足跡を知るワタシが確証だ」
真正面に立った魔女は契約者の頭を抱きかかえる。そっと撫でる。
歩き疲れた旅人を慈しむ聖女のように。
「……辛いなら泣いていいんだよ、スバル」
斯くして、ナツキ・スバルは歩き続ける。夢を追い続ける。
立ち直った少年が扉の前に立つ。
その背中は広く見えた。物理的にではない。精神的にだ。
契約した頃よりずっと逞しくなったなぁ――と感慨を覚えながら、魔女は言葉を贈る。
「エミリアにも、いつか理解できる日が来る可能性はゼロじゃない」
「へぇ、意外だな。恋敵に期待するような言葉を言っていいのか?」
「手段を問わないでいいなら、幾らでも独り占めにする方法も思いつくが……エミリアに対しては正々堂々と真正面。
それでスバルの愛を勝ち取らないとワタシの気が済まない」
同じ土俵に立ったあのハーフエルフを思いっきり悔しがらせてやりたいのだ。
「それなら後腐れもないしね。尾ひれを引かれず、後顧の憂いなく君と旅に出られる」
「ちょっとぐらいは休ませんかい。あとレムもいっからな。忘れんなよ」
「……彼女も目覚めさせないといけないか。わざわざ恋敵を助けないといけないとはね。やれやれだ。ワタシの初恋がちゃんと実るかどうか大いに心配だよ」
肩をすくめるエキドナ。
正直すぎる反応に何と言えばいいものやら。だが、レムを起こしてくれる気ではあるようなので、スバルは照れくさそうに頬を掻きながら伝える。
「お前今、エミリアとレムの二人に並びかけてるからな」
エキドナはきょとんして、くすくすと口元を隠して笑う。
「これだけ尽くしてあげてるのに、ふふっ、ま、まだ並んでもいなかったのか……ふふふっ」
「あ、あたぼうよ! 俺もあの二人も安く見んじゃねえぞ!」
「はいはい、わかったよ。目的地に辿り着くまでの道のりもワタシにとっては至福だ」
スバルを扉に向き直させて背中を押す。
手間も世話もかかる想い人を送り出してあげるために。
「――いってらっしゃい」
片手を振りつつ言った。
「――いってくる」
片手を挙げて言った。
けれど、君がみんなに理解される日は必ず訪れるよ。
ああだこうだ愚痴っても結局はスバルのために動くドナドナなのでした。
(話の流れが強引やなぁ……上手くなりたい)