嘘です盛大に遅れて申し訳ありません。
次回は和服狐っ娘と化したドナドナとのいちゃいちゃ(意味深)か、エキドナとエミリアの奪い愛の予定。
(子供のお話しも書きたいけどなー俺もなー)
(設定だけしかできてねえ……)
ゼロから重ねて、重ねて、重ねた――4万2355回。
ナツキ・スバルの『死に戻り』はそこで終わった。
君たちはこの回数をどう考える? 遠慮しないで好きに考えるといい。
彼と契約したワタシ――『強欲の魔女』エキドナは自己弁護をするつもりはないよ。
多いか少ないか。どちらに判断するのかは、各々の自由だ。
ナツキ・スバルの献身を讃えるか、そこまで追い遣ったワタシを糾弾するのも良いだろう。
ワタシは一歩間違っていたら……いや、一歩間違っていなかったら、ワタシはナツキ・スバルを永遠に『死に戻り』させ続けていた。
断言できる事実だ。回数は比べものにもならないほどに膨れ上がる。万を超えて億か、兆か、果ての果てには那由他にいたる可能性も低くはなかった。
スバルとの物語で、スバルとの生活で、自分が変われて幸せだった。
彼を『死に戻り』から解放したのは正しい選択だった。それによって『強欲の魔女』の在り方が一変してしまったことに後悔はない。
そう信じられるようになったのは本当に奇跡だと思う。
なくならない愛を知れたことに感謝を。
教えてくれた彼には減ることのない愛情を。
相互理解の果てに、
青々とした草原、なだらかな坂で上る小高い丘、彼方まで続く青空に踊る雲、中天に浮かぶ太陽と日差し、穏やかな春風とその匂い。
安楽椅子に似た椅子、円形の小さな白いテーブル、近くにはささやかな花園。
夢の世界のソレに限りなく近付けた場所にて、魔女と人間のお茶会は開かれる。
エキドナとナツキ・スバルの二人だけの世界。
『強欲の魔女』の許可なき存在は
現実世界にこの場所をエキドナが創ると言い出したとき、誰にも邪魔されず、自由でなんというか救われてなきゃダメとか云々言ったが、ここまでやるとは誰が想像できよう?
愛、恐るべしと心の中で呟きつつ、白い湯気が漂うティーカップを手に取った。
一口含んだお茶が喉を通って胃に流れ――無意識に吐息を出していた。
温かい。心が安らぐ味だった。最初の頃は嫌悪感しか湧かない代物だったのに、今となっては実家に戻ってきたような安心感を与えてくれる。
「なあ、エキドナ」
呼びかけに、ティーカップを傾けていたエキドナが「うん?」と視線を向けてくる。垂れ目は可愛らしく、白い睫毛は綺麗だ。好意と愛情ばかりしか籠められていない、こんな小恥ずかしい言葉をエキドナ相手に考えられるようになったのも驚愕に値する。自分は本当に、魂の領域で変わってしまったらしい。
「俺たちホント、よくここまで辿り着けたよな」
「満足してる?」
「大満足」渾身のさむずあっぷ。
「よろしいよろしい。大変よろしい」両目をつむっての微笑み。
考えられる限りで最高のハッピーエンドを迎えられたと思っていた。
エミリアやレム、死なせたくなかった大切な人たちは誰一人として欠けなかった。そうではない人たちの犠牲も最小限で済ませられた筈だ。
エキドナは人間の感情を理解して不器用ながらも抱くことができるようになり、彼女に説得されたスバルは『死に戻り』の繰り返しから解放され、最後まで心を喪わなかった。
「長く苦しい戦いだった……」
「またどこからか持ってきたような言葉だね」
「略すとNKTだぜ。覚えときな。んで? 俺をビックリさせるブツはどこよなによ?」
「ふっ、見たいのかい読みたいのかい。そうだろう、そうだろうとも! 昨日あれだけ前振りしたんだ。気になって仕方なくなるのが当たり前さ!」
目を輝かせる魔女様。キラキラとかパアッとかいう星みたいな効果音が似合う。
読みたいってことは書物系だろう。その時点でどういった物か予測がつくが、それは空気を読んで言わんとして、進行を委ねるとしようではないか。
「君に見せたかった物はこれだッ!」
やたらとテンションが高いエキドナが取り出したのは予想通り、本だった。
愛妻の両手に持たれ、顔の横でアピールされる漆黒の本。
書かれている内容は十中八九アレだ――――ドナ茶を飲み、口内を温める。
「スバル?」
「本だな」
「うん、本だよ」
「俺について書いた本だろ?」
「……そうだけど、まったく驚かないんだね」
「期待外れだったか?」
「…………サテラの言う通りになったのは気に入らない」
視線を逸らし、ぽつりと呟く。
彼女曰く、本を読ませた人たちは「スバルは絶対に驚く」と口をそろえて言ったそうだが、サテラだけは「始めから受け入れてくれるわ」と言ったらしい。
一度死んだぐらいで赦されると思うなよ、ワタシとスバルがどんなに幸せになるか見せつけてやる――そういう理由でサテラの魂を自分の世界に蒐集したエキドナだ。彼女たちの仲は良好とは言えず、事あるごとにエキドナが突っかかっている。
そして、すごーく重要だった今回はサテラが勝ってしまったようだ。
一番嫌いな女を嫉妬させようとしたら、自分が嫉妬させられた。しかも想い人のことをどんなに理解しているか、知っているかという問題で。悔しさは一押しどころか七押しはある。
さきほどまでの上機嫌ぶりは掻き消され、八つ当たりのようにジトジト睨まれる。
エキドナには悪いがめちゃんこ可愛かった。にやけそうになる顔を抑えて言う。
「俺の生活? 『死に戻り』の黒歴史公開とかどんなプレイ? 余計なお世話だっつーの……そういう思いがないワケじゃないけどな。お前がそれを書いたのは、俺がどんなに頑張ってきたのかを皆に知って欲しかったからじゃないのか?」エキドナは否定しなかった。「なら、怒りとか恥ずかしさとかよりも嬉しいっていう気持ちの方が大きいよ」
言いたくても、伝えたくても、知らせることができなかった『死に戻り』の繰り返し。
今なら制限はないが――悲しいかな――ナツキ・スバルの記憶は摩耗し、全てを正確には憶えていない。廃人になるのを避けるには致し方ない肉体の機能ではある。
けれど、エキドナは違う。人知を超えた頭脳に『世界の記憶』を保有する彼女は、ナツキ・スバルがこの異世界に訪れた瞬間からの――訪れる前までの人生までも既知に収めている。
だから書こうと決心した。現実に現物として残そうと決意した。
良い部分も悪い部分も、光の部分も闇の部分も、ナツキ・スバルの真実を書き記す。
少年はただ一度だけの挑戦で進んだのではない。
4万2355回もの『死に戻り』を繰り返し、やり直し、重ね、挑み続けた。
肉体は傷つき、精神は擦り減り、魂は穢れ、心は砕かれた――あらゆる痛みを刻んだ。
正しく善き行いばかりではなかった。時には、最善を知るために悪逆非道の道を進んで自害した。
それによって感じた苦痛は彼にしか解らない。知ることはできても共感することはできない。
「それでも」と言い、「まだいける」と立ち上がり、「まだ進める」と足を前に出した。
清濁を極めながら歩んだ果てしない旅路。
その全てを、ナツキ・スバルが導き、救ってきた存在たちに知らしめる。
そうでもしないとスバルが報われない。
こういう話なのだろう。
「しっかしまぁ、何にも知らない赤の他人様には色々思われるだろうけどなっ! 俺とエキドナ、表には出せない悪いこともしたしぃ? お前を生き返らせる理由づくりとか特級でやばい。『終わり良ければ総て良し』にも限度があるってもんよ」
「思うのは自由だ。考えるのも自由だ。ワタシを糾弾したければすればいい。だが……君に向かって口に出すなら容赦しない」
テーブルの上で絡めた両手に口元を隠しながらの発言だった。横に逸らされた両目は本気である。魔女の香りが濃い。一般人が近くにいたら嘔吐どころか失神しかねない。
スバルは首を傾げて苦笑する。この魔女はもっとも大事なことを見落としている。
「俺だってエキドナが責められたら何するか分かんないぜ? 勢いあまって殺しちまうかもな」
「ははっ。いやいや。まさか、君に限ってそんな」
「するよ。してやる。よし、今決めた。可能性の話じゃなくて何人でも全員殺してやる」
「……」
「そんなに驚くことか? 無関係のヤツに愛してる女侮辱されて黙ってられるほど人間できてないんですー。だってそうだろ? 俺はよ、世界の半分喰らった魔女の封印を解いてまで、愛してる女を甦らせようとした男だぜ」
言葉を、失わされた。無防備な表情を晒してしまう。
――――もう。
――――――――もうもう。
――――――――――――――――なんて罪深いヒト。
「愛が重いんだから」
「そりゃお互い様だ」
愛しあう二人は笑いあう。
「見せたいのに、読ませたいのに、知らせてやりたいのに。一般公開はまだ難しいね」
「俺もエキドナも面倒くさい上に危険だしな。今は親しい人で読んでみたい人限定。時期を見計らって順次公開。『貴方がこれを読んで不快な気持ちになっても俺たちは一切の責任を負いませんし、面向かってなんか言ったら殺傷沙汰になるのでご注意を』とか適当な注意を言うなり書くなりしときましょうかね」
ひとまずの結論はそこに落ちつき、スバルは本を通して過去を振り返ってみる。
そして即座に渋い顔になった。
……恥の多い人生を送ってきました…………頭が痛くなるとは正にこのことだ。「渾身の会心の出来栄え」というエキドナのドナ顔(誤字にあらず)は嘘ではなかった。
この魔女、俺のこと知り尽くしてやがる。
「ごめんね、ごめんね。でもほら嘘じゃないだろう? 虚飾しちゃ駄目だろう? ナツキ・スバルの人生を正確無比に書いたものなんだしさ、そこは妥協してはいけないと思ったんだよ。嘘は書いてないし脚色もしていない。フフフ、作者のワタシから語らせてもらうと三章のスバルは愚痴にも程があるね! 愚者で無知で無作法だ! その分、どん底からレムと共に這い上がる物語の盛り上がりは面白いが!」
「やめてえええ! あの頃を思い出させるのはやめてくれえええ!」
もがき苦しむ姿に愉悦を覚える魔女は豊かな胸を張る。
「うわー、うわー、うわぁ……中二病患者の黒歴史ノートより万倍くるな……」
「お茶のお替りはいるかい」
「頼むわ」
エキドナは空になったカップに新しく淹れながら、
「無理して読まなくてもいいんだよ」
「んー? いんや、無理はしてないぜ。こっちに来たばかりの頃の記憶はさすがに忘れかけてたしな。……悪いとこばっか目につくけど良いとこもなくはないし。頑張ったよ、俺」
「その考え方になるのは良い傾向だね」
「エミリアとサテラには『もっと自分を大切にしろ』、レムとエキドナには『もっと自分を認めてあげろ』って散々言われてるからな」
どこか穏やかな顔でスバルは言ってカップを受け取り、軽く一口。口の中で味わえる余裕が今ならある。
「……このお茶が美味く感じるようになったのも良い傾向か?」
「両手を広げて歓迎すべき変化だよ。ちなみにその理由は?」
「お前の自分の茶に対する執着と自信はどこからくるんだか……」
無視してぼやけば、ただただ優しく見つめられる。無言の返答要求。
邂逅して間もないときにも、これに似たやり取りをした気がする。関係と状況そのものは違いすぎるが。自分たちが愛しあう間柄に発展するとは夢にも思っていなかった。
「言えば良いんだろ――――エキドナのことを好きになっちまったからだよ」
ちゃんと前を向いて言おうとしたが、照れくささのあまりそっぽを向いてしまった。
してやったり、とほくそ笑むエキドナ。そうだった。この魔女はあのときもこんな風に笑いやがった。そしてどこが違うかはわかる。
実験動物的な興味関心じゃなくて、愛しているヒトにやり返せたことを喜んでいた。
「愛しているよ、スバル」
いつまでたっても敵いそうにない、この魔女には。
「ところでさ、この本のタイトルは決まってるのか?」
茶会が終わり、膝枕へと移ってしばらく経ったあとである。
区切りがいいところまで読み進めた本を胸に抱き、スバルはエキドナに確認してみた。
「候補はあるんだけど……君はどんな名前が相応しいと思う?」
「お前と同じじゃねえかな」
「んふふ、違ったら怒るからね」
心配はいらない。間違えるはずがない。
ゼロから重ねて、重ねて、重ねた――4万2355回。
それだけの『死に戻り』を自分たちは乗り越えて、ここまできているのだ。
辛いことがあった。苦しいことがあった。悲しいことがあった。
けれど、楽しいこともあった。誇れることもあった。好きでいられることもあったのだ。
エキドナは俺を
俺もエキドナを
肩に触れるその手を取ったことは後悔していない。昔も今も、そしてこれからも――
不安はなかった。異なるわけがなかった。
ワタシと君は契約者。一心同体。運命共同体。陰陽の勾玉。
善行を重ねた協力者にして悪行を重ねた共犯者。
ゼロから始まり、繰り返し、重ねてきた日々は脳に刻まれている。
異世界からの来訪者である君をワタシは深くふかく
大切な人たちと世界を秤にかけ、それでも尚ワタシを選んでくれた強欲で強情な君を。
ワタシと君はこんなにもお互いを愛おしく想っているのだから――――
君との異世界生活はこれからも重ねっていく。
空気を吸い込み、その期待と信頼と愛情に胸を膨らませ、同じタイミングで口にする。
『Re:ゼロから重ねる異世界生活』
短い(確信)
書きたいことはすごーくあるのですが速度や表現力が追いつかない。
私に語彙力と文章力があれば……! 同じ表現の繰り返しになるのが辛い!