<エイジ>
イッセーと木場を切っ掛けに始まった試合は、木場対ゼノヴィア、イッセー対紫藤イリナで行うことになった。
グラウンドに朱乃さんが結界を張って、他のメンバーは観戦する。
試合が始まってすぐ、木場が【魔剣創造】を使って二本の魔剣でゼノヴィアに切りかかったが、ゼノヴィアの【
そしてゼノヴィアが力の差を見せ付けるかのようにグラウンドにクレーターを作った。
ゼノヴィアのエクスカリバーの一撃によって、近くで戦っていたイッセーと紫藤イリナが少しだけ巻き沿いをくらい、紫藤イリナにスイッチが入り、本気の戦闘に移った。
紫藤イリナの【
洋服破壊か……、俺も何か新技でも開発するかな? なるべく相手を傷つけないような。
結局、紫藤イリナには当たらなかったけど、洋服破壊は間違ってアーシアと小猫ちゃんの服をはじけさせた。
服が消し飛んですぐに部長に目隠しされたけど、俺の動体能力は並みじゃない!
いや~。マジで絶景だった!
2人の少し裏に立っていたから、アーシアが服を脱がされしゃがんだ時なんか、モロに見えた! うん! 2人とも綺麗なピンク色で小猫ちゃんはお子様って感じでぴったり閉じてた! でも意外とアーシアって、もう生えていたんだね。正直生えていないと思ってた。
見たあとは、紳士的に体を隠す布を出してやったけどな。
でも、部長に目隠しされていたままだったから、最後のほうの戦いを見逃したんだよなぁ。
でも結果として2人はボコボコに負けて、木場は部長の制止を無視して聖剣エクスカリバーを破壊するつもりでどっかに消えた。
まったく、お前が死んだら部長が悲しむだろうに……。
面倒だけど俺も少しだけ裏で動くか。
◆
次の休日。俺は記憶しておいた教会側の2人の気配を探していた。
部長は朝から入り込んだという堕天使の事で支取先輩と会合中。
俺1人が教会の人間と裏で接触してもすぐには気づかれないはずだ。
気配をたどると2人は町のほうでなにやら揉めていた。
「だからこの絵画はすごくいい物なのよ!」
「その変な絵のおかげで旅の路銀が尽きてしまったんだぞ!」
白いローブ姿の2人はすごく目立っていた。
なんかもう、別に気配たどらなくても、ただ町を探すだけでも見つかるぐらいに、悪目立ちしていた。
さて、とりあえずは見つかったんだし、声でもかけるか。
気配を完全に絶って、そろりそろりと近づいて3メートル。
音を出さないように地面を蹴って、背後に回り、2人の間に割り込んで抱きついた。
「「――っ!?」」
2人の目が大きく開き、一瞬で体勢を整えようと聖剣に手をかけようとするが遅い。
「よっ! どうかしたのかお2人さん」
聖剣を抜かせないように横腹を指で優しくなでる。
「くっ!?」
「ひゃんっ!?」
2人の動きがビクンッと跳ねて止まる。
やっぱ聖職者系の女って性感に耐性ないのが多いから面白いよなー。
「お、お前は……」
「黒の聖職者……!」
意外そうな眼で見上げてくる2人に、俺はナンパ野郎みたいに言う。
「ご飯おごるから俺と少し話さない?」
俺は現在悪魔だから断られるのは覚悟してたんだが、2人はご飯をおごるって言葉に負けたようだ。
まるで自棄になって、繁華街とかファミレスで独り黄昏ている少女みたいに、結構あっさり引っかかってくれた。
このまま自宅まで連れ込めるのではないか?
と、思ってしまったことは仕方がないだろう……。
◆
「で、話と言うのはなんだ?」
「ご飯おごって貰ったし、あなたは悪魔だけど聞いてあげる」
軽く1万分は平らげた2人に、俺は言う。
「話というのはゼノヴィア……、でいいか?」
「別に悪魔になんと呼ばれようと気にしない」
「では、ゼノたん」
なんと呼ばれてもいいと言ったので、知り合いの魔王みたいに『たん』付けで呼んでみた。それもとびっきりの笑顔で。
「ゼノ、たん……」
「ぷっ……」
ゼノヴィアが復唱すると、隣でデザートのケーキを食べていた紫藤イリナが笑い声を漏らして、
「私はイリナって呼んで」
と先に予防線を張った。俺はイリナにうなずいて、話しに戻る。
「話というのはゼノたんと試合した木場の事なんだ」
「ああ、あの『聖剣計画』の『先輩』だな」
呼び方については黙認したようだ。不機嫌そうなオーラが見えるが、自分がどんな呼ばれ方でもいいといった手前、怒れずに、食べかけていたハンバーグを切り刻んで、怒りを堪えていた。
「その木場が、ゼノたんたちの聖剣奪還にでばってくると思けど、黙認して欲しいんだ」
「黙認?」
イリナがケーキを一切れ口に含みながら睨んできた。
「そうだ。あいつが盗まれた3本の聖剣を破壊したとしても黙っていて欲しい」
「それは無理だ」
ゼノヴィアも睨んでくる。
「別に無理ではないはずだ。ここに派遣され奪還計画を実行するのは2人だけなんだろう? こちらで口裏を合わせれば十分可能。破壊されても『核』さえ残っていれば聖剣は造りなおせるんだ。別に1本ぐらい破壊されてもいいだろう?」
俺の説明に2人は睨むのをいったん止めた。
「……ふむ、確かに。それはそうだな」
「ゼノヴィア!?」
ゼノヴィアの呟きにイリナが驚く。
「私たちが『先輩』よりも先に聖剣を回収すればいいだけだ。お前も私たちの『先輩』の邪魔をするなとは言わないんだろう?」
ゼノヴィアが言ってくる。
俺は肩をすくめて肯定する。
「正直言うと、剣道でアドバイスするぐらいの友人としては聖剣エクスカリバーに勝って欲しいんだが、リアズ・グレモリーの下僕悪魔としては木場を止めたいんだ。木場や眷属悪魔が死んだらリアス部長が傷くからな」
コーヒーを口に含む。
2人は少し考え込むと、うなずき合い、俺の顔を見て言う。
「分かった。食事も奢ってもらったしな。一本ぐらいなら聖剣を破壊する事を黙認しよう」
「ありがとう」
2人に礼を言う。
ああ、そう言えば……。
「すまない。もう1つ話があった」
「なんだ?」
「まだなんかあるの?」
「そもそも堕天使の幹部コカビエルから、聖剣3本を2人で回収するのは無理じゃないのか?」
2人は一気に重たい空気になった。
「死ぬつもりなのか?」
「そうよ」
「私もイリナと同意見だが、できるだけ死にたくないな」
俺は2人の答えを聞いて大きなため息を吐いた。
「我々の信仰をバカにしないでちょうだい、ね、ゼノヴィア」
「まあね。そう言えば、教会は堕天使に聖剣を利用されるぐらいなら、エクスカリバーをすべて消滅してもかまわないと決定していてね。私たちの役目は最低でもエクスカリバーを堕天使の手からなくすことなんだ。そのためなら、私たちは死んでもいいのさ」
「死んでいいってな……」
俺は真剣に2人の顔を見つめる。
「なんだ?」
「なによ?」
「お前らが今やっていることはただの無謀、妄信なんだぞ? 自分があるから神を信仰することができるのに、その信仰のために自分が死んでもいいなんて間違っている。信仰のためだと、自分の命を軽く見て死んでもいいなんて思うことが間違っていることに、まずは気づいてくれ」
「悪魔に何が分かるのよ!」
「…………」
イリナが顔を真っ赤にして叫ぶ。
ゼノヴィアは俺の顔をじっと無言で見ていた。
そろそろ話は終わりだな。
俺は残りのコーヒーを飲み干して金の入った封筒を差し出した。
「この店の食事代と合わせて、30万が入っている」
「30万も!」
先ほどまで怒り心頭だったイリナが封筒に飛びついた。
聖職者にしては、あからさまに現金すぎるだろうこの子……。
「なぜこんなに?」
ゼノヴィアが尋ねてきた。
「生活費がないんだろう? 明日、明後日とずっと何も食べずに生活する気か?」
そうを言うとゼノヴィアは行儀よく頭を下げた。
「そうか。礼を言う、ありがとう」
「ああ、主よ。心やさしき悪魔にご慈悲を」
胸で十字架を切るイリナ。
ほんの少しだけ頭痛がした。
さてと話も終わったし帰るか。
席を立って出て行こうとすると、ゼノヴィアが声をかけてきた。
「そう言えば、なぜお前はこんな回りくどい事をしたんだ? お前が『先輩』に協力すれば私たちより先に聖剣を破壊できただろう?」
「俺の名前は神城エイジ。神城かエイジって呼んでくれ。俺が木場に協力することはできない理由があるからな」
間違っても黒の聖職者とはもう呼ばないでくれ……。
「ではカミシロ。その理由とはなんだ?」
ゼノたん俺に興味深々?
「理由は2つ。1つ目は俺は元から男に対しては厳しいから」
2人が……、特にイリナの目が冷たくなる。
でも関係ない!
「もう2つ目は、俺が聖剣の所持者だから。――じゃあな」
「「っ!!?」」
2人が絶句している間に俺は店から出て、裏路地へ入り、転移魔法を発動させた。
◆
<イッセー>
休日に生徒会の書記である匙を部長を通して駅前に呼び出した。
紫藤イリナとゼノヴィアに聖剣エクスカリバーの破壊許可をもらうためだ。
「嫌だぁぁぁぁ! 俺は帰るんだぁぁぁぁ!」
教会側の2人に会うことを話した後、必死に悲鳴をあげて逃げようとする匙を、偶然匙を待っている間に会ってしまい、俺の提案に協力すると言ってくれた小猫ちゃんが掴んで離さないでいた。
「兵藤! なんで俺なんだよ! おまえら眷属の問題だろう!? 俺はシトリー眷属だぞ! 関係ねぇ! 関係ねぇぇぇぇぇ!」
匙は涙を流しながら訴える。
「そうは言ってくれるなよ。俺が知ってる悪魔で協力してくれそうなのはおまえぐらいなもんだったんだもんよ」
「ふざけんなぁぁぁ! 俺がてめえの協力なんてするわけねぇぇぇだろぉぉぉぉ! 殺される! 俺は会長に殺されるぅぅぅ!」
おおっ、会長への恐怖が顔に出てるぜ。よほど怖いんだな、会長って。
「神城のヤツは魔王クラスなんだろ! 神城に頼めよ! それにおまえんところのリアス先輩は厳しいながらもやさしいだろうよ! でもな! 俺のところの会長はな! 厳しくて厳しいんだぞ!」
うん、部長は厳しいけどやさしいぞ。そうか、会長は厳しいのか。それは良かったな。
「今回の件はエイジを頼れないんだよ」
「なんでだよ!」
「あいつも、聖剣持ってるから」
「…………はぁ!?」
うん。できれば協力してもらいたかったが、今の聖剣エクスカリバーへの復讐しか心にない木場は、現在エイジを敬遠しているからな。
エイジは今回呼べないんだ……。
かなり不安だが仕方がない。
その話し合いでケンカになって殺し合いが始まるかもしれないのだ。
俺は小猫ちゃんと匙に、逃げてもいいからと、俺に同行するか確認を取って、イリナとゼノヴィアを探しに町へと繰り出した。
◆
正直、簡単に見つかりはしないだろうと思っていたら、20分もしない内に2人を発見する事ができた。
2人はファミレスの窓側の席でケーキを食っていたのと、小猫ちゃんがケーキに引かれたからだった。
店に入って話があると、2人の向かい側の席に3人並んで腰を降ろした。
「それで悪魔のイッセーくん。話ってなに?」
「あんたら、エクスカリバーを奪還するためにこの国にきたんだよな?」
「そうだ。それはこの間説明したはずだよ」
積み上げられた食器と食べ終わったケーキの皿を見ると、食事を摂ったばかり、今のところは敵意を出していない。
こんなファミレスで戦闘開始しても仕方ないだろうし、いざ戦いになっても俺たちに圧勝できる自信があるんだろう。
「エクスカリバーの破壊に協力したい」
俺の告白に2人は少しだけ目を丸くさせ、お互いに顔を見合わせてため息を吐いた。
「あなたたち
「あなたたちは?」
3人で首を傾げる。
あなたたちはって他に誰かが契約を持ちかけたのか?
俺たちの疑問に答えるようにイリナが言う。
「今さっき、あなたたちみたいにカミシロが、聖剣エクスカリバーの事で私たちに話を持ちかけてきたのよ」
カミシロって……。
「エイジが?」
「ああ。『先輩』が聖剣エクスカリバーを破壊するのを『黙認』して欲しいと言ってきたんだよ」
さすがエイジって、
「黙認?」
「そうだよ。なんでも自分は表立って協力することができないから、『先輩』が聖剣を破壊したとしても、問題にしないでくれと頼んできたんだ」
そうか。やっぱりあいつっていい奴だな!
「それで、君達はどうするんだ? 私たちはカミシロと木場を『黙認』する事は約束しているが、『協力』を受け入れるとは決めていないんだが? それに『黙認』するんだ、輪私たちにはもう用はないんじゃないか?」
そ、そうだった……!
でも黙認してくれるなら……、って、今の木場が聖剣エクスカリバーに1人で勝てるのか?
俺たちはエイジと違って聖剣所持者じゃないんだし、素直に協力できるはず!
よし! 決めた!
「いや、用はある。頼むから俺たちに聖剣エクスカリバーの破壊を手伝わせてくれ」
そう言って頭を下げる。
匙も小猫ちゃんも俺に続いて頭を下げてくれた。
数十秒――。黙って頭を下げていると、
「いいだろう」
とゼノヴィアが了承してくれた。
いいのか? マジで? 本当に?
「ちょっと、ゼノヴィア。いいの? 相手はイッセーくんとはいえ、悪魔なのよ?」
異を唱えるイリナ。まあ普通の反応だな。
「イリナ、正直言って私たちだけでは3本回収とコカビエルとの戦闘は辛い」
「それはわかってるわ」
「最低でも私たちは3本のエクスカリバーを破壊して逃げ帰ってくればいい。私たちのエクスカリバーを奪われるぐらいなら、自分の手で壊せばいいだろう。で、奥の手を使ったとしても任務を終えて、無事帰れる確立は3割だ」
「それでも高い確率だと私たちは覚悟を決めてこの国に来たはずよ」
「そうだな、上にも任務遂行して来いと送りだされた。自己犠牲にも等しい」
「それこそ、私たちの信徒の本懐じゃないの」
「カミシロに言われて少しだけ気が変わったのさ。私あっての信仰。……私の信仰は柔軟でね。いつでもベストなカタチで動きだす」
「あなたね! 前から思っていたけど、信仰心が微妙におかしいわ! あいつは悪魔なのよ! あいつに諭されてどうするのよ!」
「悪魔といっても最近なんだろ。それに、私が変わっていることは否定しないよ。だが、任務を遂行して無事帰ることこそが、本当の信仰だと私は信じる。生きなければ、信仰できないし、主のために戦えないだろう。――違う?」
「……違わないわ。でも」
「だからこそ、悪魔の力は借りない。代わりにドラゴンの力を借りる。上もドラゴンの力を借りるなとは言っていない」
ゼノヴィアの視線が俺に向けられる。
――ドラゴン。
俺のことだ。俺の左腕に宿る存在――赤龍帝。
「まさか、こんな極東の島国で赤龍帝と出会えるとは思わなかった。悪魔になっていたとはいえ、ドラゴンの力は健在と見ているよ。伝説の通りなら、その力を最大まで高めれば魔王並みになれるのだろう? 魔王並みの力ならエクスカリバーも楽々破壊できるだろうし、この出会いも主のお導きだと見るべきだね」
ゼノヴィアは嬉々として語った。
「た、確かにドラゴンの力を借りるなとは言ってこなかったけど……。ヘリクツすぎるわよ! やっぱり、あなたの信仰心は変だわ!」
「変で結構。しかし、イリナ。彼はキミの古い幼馴染だろう? 信じてみようじゃないか。ドラゴンの力を」
ゼノヴィアの言葉にイリナも黙り、承知の空気を出していた。
おおっ、成立? マジで?
まあ、魔王クラスの力になるには、俺の能力をもうしばらく上げていかないと無理くさいけどね。
ただ、上げに上げた力を木場に譲渡すれば、エクスカリバーに匹敵、もしくは上回ると思う。この可能性は高いと感じるんだ。
「OK。商談成立だ。俺はドラゴンの力を貸す。じゃあ、今回の俺のパートナーを呼んでもいいか?」
俺はケータイを取りだし、木場へ連絡を入れたのだった。