<エイジ>
「リアス先輩。学園を大きな結界で覆っています。これでよほどのことがない限りは外に被害は出ません」
匙が部長に現状報告をした。
駒王学園を目と鼻の先にした公園で、グレモリー陣営とシトリー陣営のメンバーが集まっていた。
やはり木場はいないか。
まあ、仕方がない。勝手に死なないことを祈るだけだ。
負傷したイリナは俺の家で寝かせてある。俺の家が結界で守られているからだ。
シトリー眷属の匙が結界の説明を部長にしている。尻叩きの影響か、立ち姿がぎこちないが、それはこちらのイッセーも同じだった。
話ではシトリー眷属全員で大掛かりな結界を学園に張ったという。
中で起きたことを外に出さないための措置だが、はっきり言ってコカビエルの力量を考えるとあまり長い時間防げないと思う。
「これは最小限に抑えるためのものです。正直言って、コカビエルが本気を出せば、学園だけではなく、この地方都市そのものが崩壊します。さらに言うなら、すでにその準備に入っている模様なのです。校庭で力を解放しつつあるコカビエルの姿を私の下僕が捉えました」
やはりか……。
「攻撃を少しでも抑えるために私の眷属はそれぞれの配置について、結界を張り続けてます。できるだけ被害を最小限に抑えたいものですから……。学園が傷つくのは耐え難いものですが、堕天使の幹部が動いた以上、堪えなければいけないでしょうね」
支取先輩は目を細め、学園のほうを憎々しげに見つめる。学園にいるコカビエルへ向けた視線だろう。
黒歌たちがいれば強力な結界を張らせることも可能だったが、仕方がない。
「ありがとう、ソーナ。あとは私たちがなんとかするわ」
「リアス、相手は桁違いのバケモノですよ?」
支取先輩だけではなく、全員に宣言するように言う。
「コカビエルは俺が倒します」
制服からいつもの戦闘服へ変身する。
赤と黒の衣装で、黒のマントを風に靡かせる。
「俺が、コカビエルをその野望ごと喰らい尽くします」
「っ!」
「――っ!」
黒い魔力を纏いながら静かにつぶやくと、リアス部長の顔がほんのり赤くなった。
キマッた――。
と、思っていたら、支取先輩の顔が真っ赤になっていた!
え? なんでうっとり? っていうか無表情ながら瞳の方は爛々としていらっしゃる!?
なんか恥ずかしい……。
「えっと……、支取先輩?」
「はっ! わ、私としたことが。ブラック・プレデターさま……、っ! 神城くん。期待しています」
あれ? さっきブラック・プレデターさまって言わなかったか? さまって……。
俺の聞き間違いか?
俺が首を傾げていると、部長が俺の隣に立った。
すると支取先輩はこほんっと息をついて話に戻った。
「リアス。あなたのお兄さまは――」
首を横にふる部長。
「あなただって、お姉さまを呼ばなかったじゃない」
「私のところは……。あなたのお兄さまあなたを愛している。サーゼクスさまも呼んでおいたほうが――」
「すでにサーゼクスさまに打診しましたわ」
2人の会話を遮って朱乃さんが言う。
「朱乃!」
非難の声をあげる部長だが、朱乃さんが珍しく怒った表情を浮かべている。
「リアス、あなたがサーゼクスさまにご迷惑をおかけしたくないのはわかるわ。あなたの領土、あなたの根城で起こったことでもあるものね。しかも御家騒動のあとだもの。けれど、幹部が来た以上、話は別よ。この件はあなた個人で解決できるレベルを超えているわ。エイジくんがいるとしても、サーゼクスさまの、魔王の力を借りましょう」
部長に詰め寄る朱乃さん。呼び方も「リアス」になっている。
部長も何か言いたげだが、大きなため息を吐き、静かにうなずいた。
それを確認して、朱乃さんはいつものニコニコ笑顔になる。
「お話を理解してくれてありがとうございます、部長。ソーナさま、サーゼクスさまの加勢が到着するのは1時間後だそうですわ」
1時間――。それだけあれば十分コカビエルをしとめられる!
「……1時間ね。さて、私の下僕悪魔たち。私たちはオフェンスよ。結果内の学園に飛び込んで、コカビエルの注意をひくわ。これはフェニックスとの一戦とは違い、死戦よ! それでも死ぬことは許さない! 生きて帰ってあの学園に通うわよ!」
『はい!』
全員気合の入った返事をする。
「兵藤! あとは頼むぜ」
「わーってるよ、匙。お前は尻のダメージでも気にしてろ」
「言うな! 言われるとさらに痛く感じる! お前こそ、尻は?」
「ふふふ。部長の愛が痛い。まあ、今の状況はまさに日がついた感じだな」
「いやいや、笑えねぇよ。――で、木場はまだか?」
「ああ、無事だと信じてるさ」
「そうだな、俺も信じる」
イッセーと匙が拳を合わせて、男同士で笑みを浮かべていた。
驚くほど短期間で仲良くなってるなこいつら。
俺もいつもの仮面を顔につけよう。
「あら? 仮面は脱いだんじゃないの?」
あ……、そうだった。
「仮面をつけることが癖になっていたみたいですね。もう仮面は必要なかったんだった」
じゃあ、一思いに消し去りましょう。と、そこで支取先輩と目が合った。
支取先輩の目は仮面を見つめている。
えーっと……。
「俺はもう必要ないんで欲しいのならどうぞ」
支取先輩に仮面を差しだそうとすると、
「本当ですかっ!!」
支取先輩の声とは思えないほどの大声で俺の手から仮面を受け取り、微笑ではなく笑みを浮かべて仮面を両手に持って喜んでくれた。
まさか俺の、っていうか創作のファンの方なのか?
支取先輩があのトラウマになったBLアニメのファンではないことをせつに祈る……。
さあ、役割分担も終わった事だし、行きますか!
ぎゅうっ!
「いふぁっ!?」
部長にいきなり頬を抓られた。お怒りのようだ。
「ソーナに渡して私には何もないの?」
紅いオーラを背後に、ニコニコ笑顔で問いかける部長。
誤解されてもあれなので、はっきりと言う。
「リアス部長には俺がいるでしょ」
「――っ!」
部長の顔が真っ赤に染まった。
「神城ぉぉぉぉ! 会長に手をだしてるんじゃねぇぇぇぇ!」
「エイジぃぃぃぃ! 部長に手をだしてるんじゃねぇぇぇぇ!」
イッセーと匙が後で何かを同時に叫んだようだったが、時間がない。
首を洗って待ってろ、コカビエル!
◆
正門から堂々と入る。
部長が学園を敵地と定めていたので、俺は初になるプロモーションで『兵士』から『女王』へと昇格する。
必要はなさそうだが、使えるものは使わないとな。だいたいの基準値が15%ぐらい上がっているようだ。
【悪魔の駒】ってなかなか使えるな……。自分と【王の財宝】用に2セットほど欲しい。
とりあえず考えを打ち切って、校庭を見る。
校庭の中央に4本の剣が光を放ちながら宙に浮き、それを中心に怪しげな魔法陣が校庭全体に描かれていた。
魔法陣の中央には初老の男――おそらくバルパー・ガリレイの姿があった。
そういや聖剣の本来の力がどうのこうとと言っていたな?
バルパーが面白そうに言う。
「4本の聖剣をひとつにするのだよ」
やっぱり、予想的中。
空にいたコカビエルがバルパーに尋ねる。
「バルパー、あとどれぐらいでエクスカリバーは統合する?」
「5分もいらんよ、コカビエル」
「そうか。では、頼むぞ」
コカビエルはバルパーから部長へ視線を移す。
「サーゼクスは来るのか? それともセラフォルーか? ……それとも黒の聖職者か?」
俺目掛けて殺気を飛ばしてくる。
ふん! 幹部だけのことはあるな!
真正面から殺気を受けて前へ出る。
「お前の相手は俺だ」
「ふ、ふはははははははは! いいぞ! 俺の殺気を受けてもまるで怯まない! これは楽しめそうだ! はははははは!」
嬉しそうに笑うコカビエル。すぐにその笑い声をとめてやる!
「だが、それでは他の者が退屈だろう? 俺も戦う相手の実力を見てみたいからな。地獄からペットを連れてきた」
コカビエルが指を鳴らす。すると、闇夜の奥からズシンズシンと何かが地を揺らしながら近づいてきた。
10メールぐらいの、黒い巨体。四足は一つ一つが太く、鋭そうな爪と牙。ギラギラと輝く真紅の双眸。首が3つある犬。
「――ケロベロス!」
忌々しそうに部長が言う。まあ、俺にとっちゃあ、ただの大きい犬だな。
ケロベロスの数は全部で5体。
部長は戦闘態勢を取ると、俺に声をかけた。
「エイジ。コカビエルの前に悪いんだけど……、何匹まで相手にできる?」
まだ部長たちにはケロベロスの相手はきついだろう。
「あなたが望むなら何匹でも……、と言いたいところですが、学園をあまり壊せませんからね。4匹――俺に任せてください」
「そう……、ゴメンなさいね。あなたの王なのに」
申し訳なさそうな顔になる部長。俺は笑顔で言う。
「俺はあなたの眷属悪魔ですよ。俺が自分の王を守らないでどうするんですか。王のあなたを支えるための眷属悪魔なんですから、いつもみたいに楽しそうに命令してくれればいいんですよ」
「ありがとう、エイジ」
部長は俺に礼を言ったあと、コカビエルたちをみた。
「じゃあ、私たちは私たちで目の前のケロベロスに集中するわよ! エイジ! ケロベロス4匹、頼んだわよ!」
「了解です部長!」
俺たちの言葉を訊いていただろうコカビエルは、笑みを浮かべてケロベロスたちを俺の方へ4匹、部長たちのほうへ1匹が来るように指示した。
戦闘に巻き込まないように、体育館側へと移動して、部長たちと距離をとる。
コカビエルは嬉しそうに空から俺を見る。
「さあ、見せてもらおうか黒の聖職者の力を!」
「その名で呼んでんじゃねぇ!」
同時に襲い掛かってきたケルベロスをジャンプで上空へ逃げてかわしながら叫ぶ。
うるさく吼えながら鋭い牙や爪で俺の身を引き裂こうと、向かってくるケロベロス。
とりあえず、噛み付こうと大きな口を開けて突っ込んできたケロベロス1号の、中央に位置する頭に黒い魔力を纏わせ、攻撃範囲を伸ばした手刀で貫き、脳みそを破壊して即死させる。さらに続いて両側に生えている頭も必要最低限の魔力で脳みそを狙って絶命させた。
「まずは一匹!」
ケロベロス1号を倒しても、まだあと3匹!
部長たちは、イッセーが前線にいないところを見ると、赤龍帝の譲渡の力で、部長と朱乃さんのどちらかを強化する参段か!
ケロベロス1号を倒してあと地面に着地する途中――。
目の前のケロベロス2号がモーションに入った。
ゴウゥゥンッ!
ケロベロス2号の三つの首が同時に火を吐いた。
さらに左右から大きな爪を振り下ろしてくる。
空中では身動きが取れないと思ったか!
トンっ!
足元に魔力で足場を造り、格ゲーみたいに空中ジャンプ!
火炎と入れ違うように移動して、いままさに火炎を吐いている途中である、ケロベロス2号の3つの首の付け根に降り立って、さらに手へ魔力を流して、黒い2メートルほどの長さの長剣の様にすると一閃――。
ケロベロスの首を3つ一気に切り落とした。
ドンッ、ドンッ、ドンッ!
大きな首が地響きを鳴らす。
あと2匹!
部長たちのほうもそろそろ終わりそうだ。
ケロベロス3号と4号に向き直ろうとしたら、部長たちのところへケロベロスがもう1匹出現した!
さらに俺のところにも新手のケロベロスが2頭出現した。
あの野朗! もう3匹も隠してやがったか! って、どんだけケロベロス好きなんだよ!?
2匹目が部長たちに襲いかかろうとした瞬間――。ケロベロスの首が1つ跳んだ。
ゼノヴィアが加勢に来たようだ。さらに、木場の魔力も感じる!
部長たちを信じ、学園を傷つけないように、ケロベロス4頭に集中して、波状攻撃を必要最低限の力を使って避けながら、頭をピンポイントで潰していく。
ケロベロス3号と4号を仕留め、5号と6号もあと頭を2つずつ潰せば、勝つというところで、周りの空気が変わった。
歌が聞こえた。
聖歌だ。
空気が読めずに吼えているケロベロスの頭を早急に潰して、部長たちのほうに視線を向ける。
すると木場の周りで子共の魂のようなものが青白い輝きを放ちだし、木場を包んでいっていた。
『僕らは、1人ではダメだった――』
『私たちは聖剣を扱える因子が足りなかった。けど――』
『皆が集まれば、きっとだいじょうぶ――』
魂たちの声が聞こえた。
『聖剣を受け入れるんだ――』
『怖くなんてない――』
『たとえ、神がいなくても――』
『神が見ていなくても――』
『僕たちの心はいつだって――』
「――ひとつだ」
魂たちが天にのぼり、ひとつの大きな光となって木場のもとへ降りてくる。
やさしく木場を包み込んだ。
木場の神器が変わる? まさか至ったのか! イッセーと同じ、禁手《バランス・ブレイカー》へ!
◆
「バルパー・ガリレイ。あなたを滅ぼさない限り、第二、第三の僕たちが生を無視される」
「ふん。家急に犠牲はつきものだと昔から言うではないか。ただそれだけのことだぞ?」
木場とバルパーと睨み合う。
そこにイッセーが叫びを上げた。
「木場ァァァァァァ! フリードの野朗とエクスカリバーをぶっ叩けェェェェ!」
おお! さすがイッセー。すごく熱い!
「おまえは、リアス・グレモリー眷属の『
次に部長が叫ぶ。
「祐斗! やりなさい! 自分で決着をつけるの! エクスカリバーを超えなさい! あなたはこのリアス・グレモリーの眷属なのだから! 私の『騎士』はエクスカリバーに負けたりしないわ!」
「祐斗くん! 信じてますわよ!」
「……祐斗先輩!」
「ファイトです!」
朱乃さん、小猫ちゃん、アーシアと続き、俺ものっかって叫ぶ。
「ぶっ飛ばせ! 木場!」
木場は俺ら全員を見て、涙を流す。
そんな木場にクソ神父が挑発する。
「ハハハ! 何泣いてんだよ? 幽霊ちゃんたちと戦場のど真ん中で楽しく歌っちゃってさ。ウザいったらありゃしない。もう最悪。俺的にあの歌が大嫌いなんスよ。聞くだけで玉のお肌がガサついちゃう! もう嫌。もう限界! てめえを切り刻んで気分を落ち着かせてもらいますよ! この4本統合させた無敵の聖剣ちゃんで!」
木場が構えをとる。
「――僕は剣になる。部長、仲間たちの剣となる! 今こそ僕の想いに応えてくれッ!
神々しい輝きと禍々しいオーラを放ち、木場の手元に一本の剣が現れた。
「――禁手、【
木場がフリード目掛けて走り出す。
木場は本来の持ち味であるスピードを生かして、クソ神父に剣を振るう。
ギィィィン!
木場のスピードに翻弄されずに、聖剣で受け止めるクソ神父!
あいつって意外に強かったの!?
木場の剣は聖剣に受け止められたが、エクスカリバーを覆うオーラを木場の剣がかき消した。
「ッ! 本家本元の聖剣を凌駕すんのか、その駄犬が!?」
驚愕するクソ神父に告げる木場。
「それが真のエクスカリバーならば、勝てなかっただろうね。――でも、そのエクスカリバーでは、僕と、同士たちの想いは絶てない!」
「チィ!」
舌打ちして後方へと距離をとったクソ神父は統合した聖剣エクスカリバーの能力を使い、木場を中距離から攻撃するが、木場はそれを全て剣で防いだ。
その間にゼノヴィアが横殴りぎみに、戦闘介入する。
ゼノヴィアは左手に聖剣を持ち、右手を宙に上げた。
「ペトロ、バシレイオス、ディオニュシウス、そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」
言霊を発し始めるゼノヴィアの周りにあった空間が歪み、その歪みの中へ手を入れると、無雑作に探り、何かをつかむと次元の狭間から一気に引きずり出してくる。
ゼノヴィアの手にあったのは一本の聖なるオーラを放つ剣。
「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する。――デュランダル!」
デュランダル!? ゼノたん、そんなのまで持ってたの!?
驚いているバルパーに告げた言葉は、『天然者』。
もとから聖剣デュランダルが使えるのに、聖剣エクスカリバーも使えるってことかよ!
聖剣を二刀流に構えたゼノヴィアは、クソ神父の『擬態の聖剣』、『透明の聖剣』の能力で透明になって枝分かれしていた聖剣エクスカリバーを一撃で破壊し、もとの聖剣の姿に戻す。
そこへ木場が聖魔剣で振るい、聖剣エクスカリバーを砕いた。
「――見ていてくれたかい? 僕らの力は、エクスカリバーを超えたよ」
木場はそのままクソ神父を叩き切った……。