<エイジ>
プールの用具室でゼノヴィアに、「子供をつくろう」と攻められていたところを、部長と朱乃さんに目撃された俺はお仕置きされた。
うん。アーシア、小猫ちゃん、ゼノヴィアが部室に戻ってくるまで、俺は2人に尻を叩かれた。
そして先ほどやっと解放された俺だったが、校門のほうに力を感じた。
この魔力は……ヴァーリか? そう言えば、イッセーがいない? イッセーがいまいる場所は――って!?
「部長! 朱乃さん!」
「どうしたの、エイジ?」
「どうしたんですか?」
「学園に侵入者です! しかも白龍皇で、そいつの近くにイッセーがいます!」
『――っ!』
部室にいるメンバーに緊張が走り、俺たちはすぐに魔法陣を起動させた。
◆
<イッセー>
あー、なんか結局気絶してプールが終わっちまったなー。せっかく部長と朱乃さんの水着もよく覚えてないし。
校舎を出ようとした俺の視界に銀が映り込む。校門のところだ。
「…………」
――っ。
一瞬、絵画の一画面かと勘違いそうになるぐらいの美少年だった。
その美少年は、俺と同じか若いぐらいで、ダークカラーの銀髪に、引き込まれるぐらいに透き通った蒼い目、天使のような微笑を浮べていた。
「やあ、いい学校だね」
「えっと……、まあね」
俺の中の何かが目の前の美少年を警戒し始めた。ドライグの――赤龍帝の籠手が宿っている左腕がうずいた。
こ、こいつは――。
「この姿を見せるのは初めてだったな。俺はヴァーリ。白龍皇――『白い龍』だ」
――やっぱり……左手のうずきはこいつが――っ!
「ここで会うのは二度目か、『赤い龍』――赤龍帝。兵藤一誠」
左腕のうすきが燃えるような感じになった。おいおい、ドライグ。こいつマジものかよ!?
こんなところで例の「ライバル対決」を繰り広げるのか? 待ってくれよ、心の準備なんてしているわけないだろう。というか、いまの俺が勝てるわけないだろう!? まだ俺は新人悪魔で修行中なんだぞ!?
やれば絶対にただでは済まないと頭だけでなく、体も反応している。歴代の先輩方が感じてきたものをドライグと神器から通じてきている……。
――どうする?
身構える俺だが膝は震えていた。くそぅ……なさけねぇ。
そんな俺へヴァーリは不適な笑みを見せる。
「そうだな。たとえば、俺がここで兵藤一誠に魔術的なものをかけたり――」
ヴァーリの手が俺の鼻先に迫ったとき――。
ザッ!
1本の剣がヴァーリの首元に刃を突きつけていた。
瞬時に現れたのは木場だった。聖魔剣をヴァーリに向けている。
気配なんて一切感じられなかった。『騎士』の神速で俺のピンチに駆けつけてくれた?
聖魔剣は強烈なオーラを発し続けていた。木場の目つきが鋭くて怖い。
「何をするつもりかわからないけど、冗談が過ぎるんじゃないかな?」
ドスの効いた声音で木場は言うが、ヴァーリは少しも動じずに――。
「やめておいたほうがいい。――手が震えているじゃないか」
ヴァーリが言うように、木場の手首は震えていた。絶大と呼ばれる聖魔剣を握り締めながら、表情を強張らせている。
「誇っていい。相手との実力差がわかるのは、強い証拠だ。――俺とキミたちとの間には決定的なほど差がある。カミシロはともかく、コカビエルごときに勝てなかっただろうキミたちでは、束になっても俺には勝てないよ」
コカビエルごとき――。
確かに、エイジがいなかったらあのときコカビエルに、部長たちも含めてやられていた。体を対価に『赤龍帝の鎧』を使用したとしても、もともと数時間行動不能にするぐらいの強敵だったんだ。
それにこいつは堕天使で4番目ぐらいに強いし、コカビエル「ごとき」と見下せるだけこいつは力を持っているんだろう。
「兵藤一誠、キミはこの世界で自分が何番目に強いと思う?」
突然の問いかけ。……強さ? 俺の? わからない。赤龍帝の力は異常だし度々恐れられたりするけど、実際の強さはわからない。俺自身が未熟すぎる。赤龍帝の力がなかったら、俺自身は悪魔に毛の生えた程度の力しかないとドライグに言われてるし……。
「未完成のバランスブレイカー状態としたキミは上から数えた場合、四桁――千から百の間ぐらいだ。いや、宿主のスペック的にはもっと下かな」
相手の真意がわからない俺は怪訝に思うばかりだった。俺が弱い、自分は強いって言いたいのか?
「この世界は強い者が多い。『紅髪の魔王』と呼ばれるサーゼクス・ルシファーでさえトップ10内に入らなし、神城エイジ――黒い捕食者、黒の聖職者、喰らう者、デビル・イーターなんて呼ばれている彼もトップ10には入っていない」
サーゼクスさまより強いのがそんなにいるのか? というかエイジってサーゼクスさまと同列扱い!? いや、そう言えば実力は魔王クラスなんだっけ? 俺たちが束になっても敵わないコカビエルも、堕天使の幹部で白龍皇のヴァーリも簡単に倒していたし……。
「だが、1位は決まっている。――不動の存在が」
「? 誰のことだ。まさか自分が一番とでも言うのかよ?」
俺の問いに奴は肩をすくめた。
「いずれわかる。ただ、俺じゃないのは確かだ。――兵藤一誠は貴重な存在だ。十分に育てた方がいい、リアス・グレモリー、カミシロ」
ヴァーリが視線を俺の後方に向ける。それを追うと、そこには部長とエイジが立っていた。
おおっ、部長がメチャ不機嫌な表情を浮かべていらっしゃる。その周りにはアーシア、朱乃さん、小猫ちゃんがいた。対応に困っているアーシアと自然体のエイジ以外、全員戦闘態勢をとっていてゼノヴィアは聖剣デュランダルまで構えていた。
「白龍皇、何のつもりかしら? あなたが堕天使とあなたが繋がりを持っているのなら、必要以上の接触は――」
「――『二天龍』と称されたドラゴン。『
「――っ!」
野朗の言葉に部長は言葉を詰まらせていた。
部長、どうしたんですか? 俺に関してなのだろうか……。
「今日は別に戦いにきたわけじゃない。アザゼルの付き添いで来日したんだがお使いを頼まれてね。そのついでに先日訪れた学舎を見ていただけだ。――あと、ここで『赤い龍』とは戦わない。今のキミには興味もないし」
――っ。
興味がない……。戦うことにならなくてよかったけど、複雑だ……。
「そのお使いってのはなに?」
部長の問いにヴァーリはエイジに視線を向けた。
「ブラック・プレデター――神城エイジ。アザゼルがキミと会談をする場を用意した。今夜この紙に書かれた場所にきてくれってさ。――俺はこれを伝えに来たんだ」
小さなメモ用紙をエイジに渡すヴァーリ。
会談? そういえばエイジって魔王クラスの実力者だからなんかいろいろ難しいことしないといけないんだったけ?
エイジは肩をすくめながら面倒そうに言う。
「すいぶんといきなりだな。俺の予定は無視か?」
「すまないね、こちらもかなり忙しいんだ」
「……わかったよ。今夜は開けておく」
「感謝するよ」
頭を下げるヴァーリ。完全にエイジより自分が下だと認めていやがる……。
最近俺も少しだけ強くなったのか、部長を始め、木場やゼノヴィア、コカビエルやヴァーリが強化していない俺よりとんでもなく強いことをわかるようになったが、エイジは正直すごいってもんじゃなかった……。ライザーを一撃で倒したり、部長たちと束になって戦っても苦戦したケロベロスをたった1人で、技術と最低限の魔力だけで6体も倒し、コカビエルをボコボコにしたときの拳はまったく見えなかったし、エイジが取り出した黒い剣は、正直、聖剣エクスカリバーが可愛く感じてしまうほどのオーラを纏っていた。しかも、ヴァーリも一撃で瞬殺したし。コカビエルに部長を殺すといわれたときや戦闘中のプレッシャーや体を包んでいる黒い魔力、殺気は――バケモノだと思った。
ヴァーリが校門から出てく――。
はぁ……。ヴァーリがいなくなったことで緊張が一気に解れたけど、マジで俺って情けないなぁ……。魔王クラスの友達を自分が弱いからバケモノだと思ったり、ヴァーリに怯えて……。
寄り添ってきたアーシアは無言で俺の汗ばんだ手を握ってくれる。ありがとう、アーシア。落ち込んでいた気持ちが少しだけ上向きになったよ。
「エイジ。アザゼルとの会談だけど――」
「ええ。この件には部長たちが同伴するのはやめておいたほうがいいでしょう。まっ、1人でいきますよ」
「1人でだいじょうぶなの? いちおうセルベリアたちの誰かを連れて行ったほうがいいんじゃない?」
「そうですね……。うん、レイナーレがアザゼルに憧れていましたし、彼女でも同伴させようかな」
――レイナーレっ。
俺の初めての彼女だった――というか騙されていただけだけど。俺とエイジ、アーシアを殺して……、いや、エイジは死ななかったらしいし、殺されたアーシアって偽者だったから……。俺を殺して、エイジを悪魔にする切っ掛けをつくって、アーシアを殺そうとした堕天使レイナーレ。
アーシアの事件で部長に殺されそうになったところを、「自分が責任を持つ」ってエイジが引取ったんだったな。いまじゃ完璧に心を入れ替えて、礼儀正しい本物のメイドってことでご近所で評判になっていて……、殺そうとしていたアーシアと殺した俺に謝罪した。
俺は騙されて殺されたから正直まだレイナーレを許せないけど、よく町内の清掃活動とかやっているアーシアはレイナーレを許して、現在では友人になっていて、しかも、お隣ってことでよく作りすぎたおかずの交換とかしてる……。
しかも、なんていうかレイナーレがすごく幸せそうなんだ……。
仮の名前、天野夕麻ちゃんだった頃を知っている俺は――ほんの少しの間だけ彼氏だった俺は、エイジの家でメイドとして働くようになってからレイナーレの笑顔が、俺の彼女としてデートしたときや、敵の堕天使レイナーレだった頃と違っていることに気づいていた。
もう、マジで……、いまのレイナーレの笑顔を見ていれば、俺の彼女になっていたときの笑顔が薄っぺらい、演技だということがわかったはずだ。
ヴァーリが完全にいなくなったあと、エイジは会談の準備で帰ることになり、俺たちも本来部活や悪魔の仕事があったんだけど、この前みたいにアザゼルが営業妨害したり、接触したり、3大勢力の会談に関係なかったけどエイジが襲われたりしたし、部長たちも会談に向けての準備で忙しいから、いまは悪魔の仕事も3大勢力会の会談が終わるまで仕事は休業中なので、他のメンバーも帰宅した。
◆
はぁ……。
家に帰ってからすぐ俺の口から重たいため息がもれた。
俺はハーレムが目標だけど、俺は女の子を幸せにできるのかな? 部長や、アーシアたちを守れるのかな? 俺を好きになってくれるのかな?
幸せそうなレイナーレの顔を思い出して俺は不安になった。
正直俺って考えてみれば性欲しかなかったなーっと……。
ただ女の子を囲んでエロいことできればそれで幸せだって思ってたんだ。悪魔になってハーレムをもてる可能性がでたから喜んだけど、俺がハーレム作ってもライザーみたいな自己中な男になって女の子を泣かせてしまうんじゃないかって不安になったんだ。
俺って部長に憧れているけど、好きだけど……愛しているかって訊かれたら、たぶんすぐに答えられない。
アーシアは好きだけど妹のようなものだし、おいしいハプニングで裸でお風呂に入ったり、寂しがりやで一緒のベッドでよく寝たり、裸エプロン姿をみせてくれたり……、ぐへへ、あれは絶景だった――じゃなくて!
とにかく俺はハーレムをもてるのかってのが、不安になったんだ!
ハーレムは俺の人生の目標であることはかわらない! 女性のおっぱいが大好きだし、部長のも朱乃さんのもアーシアのも、小さい小猫ちゃんのおっぱいも大好きだ。他も美人や美少女のおっぱいも大好きだ! ハーレムを持つのは俺の行動理念! おっぱいを求めるのは俺の本能! 将来はハーレム王!
なんだけど、いまの俺じゃあダメだ……。
悪魔としての力はもちろん、男としての魅力もない俺じゃあダメなんだ……。
ハーレムってどうやったらつくれるんだろう?
相棒兼トレーナーのドライグに相談してみるか。
「…………なあ、ドライグ」
『なんだ、相棒?』
「ハーレムってどうすれば作れるんだ?」
『ぶっ!? い、いったいなんだいきなり?』
驚くドライグ。まあ、さっきまで白龍皇と一触即発だったもんな。
「俺の目標はハーレムなのは知ってるよな?」
『あ、ああ……いつも言っているからな』
「でもいまの俺じゃあ、ハーレムなんかもてないだろう?」
『ああ』
くぅぅうっ! わかっていたけど即答かよ!
「どうやったらハーレムがつくれるんだ? 歴代の赤龍帝にはハーレム持ったてやつがいたんだろう?」
『ああ、いたぞ。日替わりで別の女を抱く男とか。まあ、龍は力の象徴でもともと異性に対して魅力的にみえるからな』
くぅぅっ、日替わり! 羨ましいぜっ! って魅力的に見えるって。
「魅力的に見えるならなんで赤龍帝である俺はモテていないんだよ?」
『…………』
「おい、ドライグ?」
ドライグはゆっくりと言う。
『おそらく相棒は龍うんぬんいう前に、相棒自身に異性としての魅力がないんだと思う』
…………へ?
『いつも女の乳を追い回して、学園で3バガと言われていて、更衣室を覗いたり、公衆の面前でエロ本をだして、バカの2人とバカな会話をしているんだ。そんなヤツがモテると思うか?』
そ、そう言われれば……。
『そんなヤツを女が好きになるほうが難しい。相棒は以前、隣に住んでいる堕天使レイナーレに騙されてだが彼氏になったのだろう?』
「あ、ああ……。突然告白されてな」
『なあ、相棒……』
ドライグが悲しみと哀れみが入った声音で言う。
『町内で悪い意味で有名な相棒に告白してくる女がいること事態、おかしいとは思わなかったのか?』
――っ!
「た、確かに……俺を好きになる理由とか一目惚れって言っていたけど……。いま考えれば俺のどこに一目惚れする要素があったんだ……?」
俺は落ち込んだ。
「……そうだな。確かにエロ坊主と称される俺に一目惚れはおかしいよな。……女の子に好かれるようなことなんか一度もしたことないし。というか覗きとか嫌がられることばかりして、学校で女の子たちに嫌われているし」
『だが、まあ、いまの相棒は赤龍帝だから、よく知らない女でも抱けるぞ?』
「マジで!?」
『あ、ああ。赤龍帝の力を、遺伝子とかを欲する女なら……』
マジか!? 無理だと思っていたけど童貞卒業は簡単なのか!?
『種馬として体を求められるだろうな』
種馬……そ、それでもいい! い、いや! 種馬は……!
俺の中で戦いが始まる。
脳内で戦いを始めた俺にドライグが苦笑した。
『まあ、相棒がハーレムをつくりたいのなら、近くにいい手本がいると思うんだが』
て、手本!? って俺の近くでハーレム野朗って1人しかいないじゃんっ!
「え、エイジか?」
ドライグは肯定する。
『そうだ。ヤツはすでに大勢の女を囲んでいるだろう。しかも、伝説のインキュバスになるほどの性に対して秀でた男だ。普通はサキュバスを500匹も相手にできる男などいない。1匹でさえ十人分の精を吸いとる淫夢を逆に倒して、人間ベースの転生悪魔から完全なインキュバスになるなど。おそらくヤツは子作りやエロい面では確実に世界最強だな」
世界最強のエロ男……! ドライグがここまで賞賛するほどなのか!?
『それにヤツは相棒が憧れているリアス・グレモリーも囲っているんだぞ』
――っ! そうだ……エイジは不順異性交遊のブラックリストのトップだし、一緒にエイジと住んでいる部長は、処女じゃない可能性が高い……。
くっ――羨ましすぎる! いくらなんでもモテすぎだろ! セルベリアさんとか巨乳というより爆乳美女だったし! ノエルさんも可愛らしい系の美少女だったし! 時雨さんもくのいち風の格好でスタイル抜群だったし! もとから美少女のレイナーレはメイドになってるし! さらに部長も加えて同棲してるなんて羨ましすぎるッ!
俺の目から涙があふれ出た。 ああっ! クソっ! リア充めっ!
『だからヤツを目標にすればハーレムをつくれるんじゃないかと思ったんだが』
なに!?
『ヤツは魔王クラスを持ってはいるが、普段は完全に隠してほとんど人間と変わらない。そんなヤツがモテるのは――』
ドライグの言葉を最後まで訊かなくてもわかった。
「エイジ自身に魅力があるから――だろ」
「ああ。その通りだ」
俺とエイジの違いは単純な戦闘能力だけじゃないのか。……魅力、男としての魅力も足りないのか……。
いや、まあ、わかってわいたんだけどな……。
『ヤツから男の魅力や女への接し方を学べばハーレムを持つことも夢じゃないだろう』
「――っ。そうか。俺はまだ他にも修行する必要があるみたいだな」
俺の中で目標が定まる。まずは宿敵である白い竜、ヴァーリより強くなる! そしてエイジから男の魅力を学ぶ! そして最後にハーレム王になる! だ!
「俺はやるぜドライグ! ハーレム王の夢を叶えて、おっぱいを吸って、幸せなバラ色生活を勝ち取ってやるっ!」
そう俺は窓を開けて外に向かって叫んだ。
『相棒らしいが、そういうところも直したほうがいいと思うぞ……』
◆
<エイジ>
隣の家からイッセーの雄たけびが聞こえたような気がした。
何かあったのかと思っていると、メイド服姿のレイナーレが目をキラキラさせて詰寄ってきた。
「ご主人さま! 本当にアザゼルさまに会えるんですか!?」
「ああ。さっきも言ったけど、突然今夜、アザゼルと会談することになってな。そこでレイナーレに同伴してもらおうと――」
「ありがとうございます! 憧れのアザゼルさまに会えるなんて――」
ぽーと虚空を見つめるレイナーレの頬が薄く朱に染まっていた。ううっ、ジェラシーなんか感じてないんだからな!
リビングのソファーでいじけていると、レイナーレが微笑みながら隣に座ってきた。
「だいじょうぶですよ」
へ?
「前に言ったとおり、アザゼルさまやシェムハザさまには憧れていますけど、それだけですから」
そう言いながら俺の手に自らの手を重ねた。
そしてその手を己の胸にもってくる。
ぬにゅぅぅ。
「ん……、あ……」
レイナーレの胸に指が沈んでいく。ああ、すげぇ気持ちいい。
むにゅ、むにゅと揉むとレイナーレが体を震わせながらも重ねた手を離さずに言ってくる。
「私の体と心はすべてあなたの所有物なんです。それに私自身もうあなた無しでは生きれませんから」
ちゅっ。
顔を近づけて頬に軽くキスされた。
――嬉しい。
「ありがとう、レイナーレ」
レイナーレはニッコリと笑顔をうかべて、そのまま押し倒しそうになったが、さすがにリビングで、しかも夕飯前に――ああ、ついでに会談前にやることではなかったので、唇にキスするだけで我慢した。
◆
メモ用紙に書かれた場所に俺はレイナーレを連れて向かった。
レイナーレは憧れのアザゼルに会えることが嬉しくて機嫌がいい。ジェラ……いやこのやり取りはもういいか。
さてと、ここか。
アザゼルが指定したマンションの前にやってきた。
うん。強い気配を感じるな。
俺はレイナーレを連れてメモ用紙に書かれていた部屋のドアの呼び鈴をならした。
呼び鈴を鳴らしてすぐ。ガチャッと部屋のドアが開いてヴァーリが顔をだした。
「やあ、時間通りだね。そっちは見ない顔だけど付き添いかい?」
「そうだ。名前はレイナーレ。堕天使だ」
「は、はじめましてヴァーリさま」
表情を引きつらせながらも礼儀正しく礼をするレイナーレ。まっ、ヴァーリは堕天使の幹部だから当たり前の反応か。
部屋の奥から 常闇のような色の黒い12枚の羽根を生やしたちょいワル系のイケメンが登場した。
こいつがアザゼルだろう。っていうか近辺に他に堕天使はいないみたいだな。
軽いノリで手招きするアザゼル。
「おー、来たな。ほら、さっさと話を始めようぜ」
「本物のアザゼルさま!」
レイナーレの反応からしても本物のアザゼルか。
俺とレイナーレは靴を脱いで部屋に上がり、会談を開始した。
◆
テーブルについて会談を始めたわけだが……。場所は会談にはあまり使わない和室&丸いテーブル、さらにカップではなく湯のみで緑茶という、なんとも日本風な場所だった。
しかもアザゼルの格好は和服で、日本を満喫している外国人にか見えなかった。
丸いテーブルに俺とアザゼルが向かい合って座り、レイナーレとヴァーリはそれぞれの主の少し後ろに座っていた。
アザゼルがズズズッと音を立てながら緑茶を飲んだあとに問いかけてきた。
「それでおまえの要求ってのはなんだ? おまえがウチの勢力につかなくても、どの勢力についておくかおまえが立場をはっきりさせていると動きやすいし、ある程度の要求ならのむぜ」
威圧などはしていないが、アザゼルの瞳は俺を品定めしようとしているかのように睨んでいた。
俺はアザゼルの瞳を正面から受けて言う。
「俺の要求は3つ――。まず1つ堕天使レイナーレが、俺の配下に加わることを堕天使側が認めることだ」
『?』
アザゼルとヴァーリが疑問符を浮べていた。まあ、そうだろうな。ここに来る前、最初レイナーレが会談で要求することを知ったときはすごく驚いていたし。
アザゼルが意外そうに訊いてくる。
「そんなもん勝手にやればいいじゃねぇのか?」
まあ、それはそうなんだけど。
「レイナーレはそちら側の裏切り者となっているからな。それにレイナーレと一部の堕天使がこの土地で行ったことは知っているだろう?」
「確か結局失敗したが『
アザゼルは悪い笑みを浮べて言う
「今代の赤龍帝を始末して転生悪魔にしたんだろ。それにおまえも人間から転生悪魔になったって訊いている」
ある程度の身辺調査済みってわけか。
「危険な神器を持った人間を始末しないといけないのはわかるが、今代の赤龍帝の兵藤一誠は友人だ。その友人からすればお前がやらせたことに、仕方ないとはいえ納得がいかない」
「自身の悪魔化はどうだ? なにも思うところはないのか?」
「ない」
「そうか。――わかった。堕天使レイナーレがお前の配下になることを総督である俺が認める。レイナーレが引き起こした事件のほうは、あとくされがないよう、こちらで処理することも約束するぜ」
「よろしく頼む。で、2つ目の要求だが神器の知識に詳しいアドバイザーを借りれないか?」
再びアザゼルが首を傾げた。
「神器のアドバイザー? 確かおまえの配下って別にアドバイザーなんか要らないじゃねぇか? こちらで確認している『魔銃』の女だったかが、かなり神器を使いこなせていると聞いているぞ? それにおまえは神器持ってないんだろ?」
「アドバイスするのは俺じゃなくて兵藤一誠や木場祐斗たち悪魔側の神器持ちだよ。俺は神器持っていないからどう神器を鍛えていいかわからないし、悪魔側は神器に対しての研究が進んでいないからな。おまえは神器が大好きで研究しているんだろ? アドバイザーの1人や2人用意できるんじゃないか?」
アザゼルは考えるように顎に手を置いた。
「……わかった。アドバイザーの件も受け入れる」
「じゃあ、最後の要求なんだが――」
俺は一気に態度を崩しながら言う。
「色紙にサイン書いてくれるか? おまえの分とシェムハザの2人分な」
『はあっ!?』
レイナーレとアザゼルの驚きの声が重なり、ヴァーリも瞳を見開いて驚いていた。
「レイナーレがおまえとシェムハザの大ファンでな、記念にサインを書いて欲しいんだよ」
「おい、そんな要求するのか?」
「ご主人さま、要求にしてはあまりにも小さすぎるんじゃないですか!?」
アザゼルがそれでいいのかと確認するように聞き、レイナーレも顔を朱に染めて大声を出した。ああ、そう言えばこれは言ってなかったな。
胡座をかいて緑茶を飲む。
「俺はもともと悪魔側につくって決めていて、最初から要求なんてするつもりなんてなかったからな。それでは信用できないって言われて仕方なく要求を考えただけだし」
俺はアザゼルに問う
「それに、この会談のシナリオはもう決まってるんだろ」
「堕天使側の方針がわかっているみたいに言うんだな?」
アザゼルは少しだけ力を解放したようだ。アザゼルから強いプレッシャーを感じた。
俺は緑茶を手に持ったまま余裕な表情で言う。
「そりゃあ、コカビエルとの戦いに介入したことからも、おまえは戦争をしようと考えているわけではないとわかるし、おまえの護衛の少なさからいって和平交渉にきたんだろ?」
アザゼルはふっと笑いを漏らすと大きな笑い声を上げた。
「アハハハハハ! ああ、そうだぜ。黒の聖職者……いや、悪魔側だからブラック・プレデターか? 俺の威圧にも無反応の自然体だし、さすがは神や魔王クラスって言われている男だな!」
アザゼルが態度を崩して笑う姿に「聞いていた通りな男だな」と思った。
「まあ、さっき言った3つ以外に要求することがないなら、その3つの要求をのんだってことで、おまえが悪魔側につくことを信用するぜ」
「ああ。そうしてくれればこっちも助かる」
「だが、おまえ。もっと大きな要求しなくてもよかったのか? こっちはそれなりの要求をのむつもりだったんだぞ?」
「別にいいかな。まあ、くれるというならもらうけど、いまのところそれ以外に俺からの要求なんてないさ」
アザゼルは湯のみの緑茶をすべて飲み干すと日本酒とグラスを取り出した。
「それじゃあ、話もまとまったことで酒でも飲まないか?」
「俺は未成年だぞ?」
そう告げるとアザゼルは意味深な笑みをうかべた。
「なに言ってやがる。おまえが繁華街に出没していること知ってんだぞ。それにおまえと寝た女がおまえがかなりの酒好きだって言ってたし、悪魔なんだから人間の法律は関係ないだろ?」
「なんだ。おまえも情報源は女か」
俺と同じく人なりとかを聞いたんだろう。
「なんだ? おまえもか?」
「ああ。乳が好きで堕ちた天使って有名だぞ」
アザゼルが酒を俺のグラスに注ぎ、そして自分のクラスにも注ぐ。
「ハハハハっ、まあ、真実だからな!」
グラスに注がれた酒を飲む。――うん。美味いっ、かなりいい酒だな。
「美味いな」
「そうだろ。俺も気に入ってる酒だ」
俺とアザゼルが酒を飲み始めるとヴァーリは呆れたように足を崩し、レイナーレはテーブルの上につまみを置いてくれた。
「ど、どうぞ。ウチで漬けた漬物です」
「ありがと、レイナーレ」
「お、気が利くな。――おおっ、美味い!」
そういえば部長が家にきてからあんまり飲んでいなかったな。
アザゼルが酒を飲みながら訊いてきた。
「そういえば、おまえの黒の聖職者とか黒い捕食者の通り名の由来って、マジで、女喰いまくるからついたって本当なのか?」
別に隠していてもしょうがないというか、もともと隠してないからいいか。
「はぁ、そうなんだよ。冥界で色んな女に手をだしててな。酒の席で俺が抱いた女たちを好きだった男共に、『戦って勝てないヤツ』、『女に喰われるというか喰らう側』で捕食者って罵倒されて、それが通り名になったんだよ。デビル・イーターっていう通り名もそれとだいたい同じ意味だ」
「黒い聖職者は、黒い性喰者って意味じゃないよな?」
「…………」
「マジなのか!? アハハハハッ! マジか! マジでそれが由来なのか!?」
「ちっ。そうだよッ! 賞金首や犯罪者とかクズとか倒したら感謝されて貞操もらったりしてたら、誰かが『入れ食いの性喰者だな』とか言いやがったから、神父とか天使が聖職者と勘違いして、そこから黒の聖職者って呼ばれるようになったんだよ!」
「アハハハハハッ! どんだけ女喰ったんだよおまえ! まだ17ぐらいのクセして、それだけの通り名がつくなんて普通じゃねぇな!」
「うるせぇよ! 女が好きで悪いか! 俺にとって優先順位は女が一番なんだよ!」
「アハハハッ! 誰も悪いとは言ってねぇだろ。おまえほどではなくても俺も女好きだし。――そうだ。堕天使の女でも紹介してやろうか? おまえ相手なら喜んで股開くだろうし、虜にできるんじゃねぇか?」
「それは魅力的だが、自分の女の前でうなずくほど馬鹿じゃねぇよ」
レイナーレを抱き寄せる。
「ご主人さま……」
おおっ、レイナーレが真っ赤になってる! 可愛いなー。
「まあ、それもそうだな! それよかこの辺でいい店知らねぇか? 会談まで数日あるから退屈なんだよ」
「ああ。そういうことなら繁華街にいい店があるぞ」
俺は地図を数枚渡した。
「地図か?」
「ああ。近くの繁華街の地図なんだが、青色が普通の居酒屋、黄色がキャバクラ、赤色が風俗店なんだが――まあ、試しにそのどれかの色をタッチしてみろ」
アザゼルは赤色表示の建物をタッチする。
ブゥオォンッ。
「こ、これは……」
アザゼルは興味深そうに地図を観察し始めた。
「おいおい、そっちじゃないだろ? 表示された画面を見ろよ」
「ああ、すまん。いつもの研究クセがでた。ってこれは――」
アザゼルの前に表示されている画面には、所属している風俗嬢が立体で微笑んでいて、軽いプロフィールや好きな性感帯。可能なプレイと料金設定、さらに出勤時間などが表示されていた。
「ああ。店舗紹介みたいなもんだが、立体で見たほうが選びやすいし、自分の好みの女を捜せるからな。店側と女たちに許可をもらって個人用に創らせてもらった。遊び専用の地図だ」
アザゼルは地図を観察しながら苦笑した。
「おまえってマジで女好きなんだな……。俺の見立てではこの地図は性能だけなら神器に届くぞ? 自動情報収集機能とか、記憶許容量とかで。ところで、普通の居酒屋とかキャバクラって言ったが、なんで店員が美人や美女ばかりなんだよ? 普通そこは料理の説明だろ!? なんで居酒屋でも女の情報が6割超えてんだよ! しかも性感帯やスリーサイズの情報がなんで載ってんだよ! アハハハハハハハハハッッ!」
アザゼルの苦笑が爆笑に変わった。好きなんだからしょうがないだろ!
それからアザゼルとの酒盛りは朝日が昇るまで続いた……。
さてと、次は天使側との会談――ああ、その前に授業参観があったな。