<エイジ>
「てなわけで、今日からこのオカルト研究部の顧問となることになった。アザゼル先生と呼べ」
着崩したスーツ姿のアザゼルがオカルト研究部の部室にいた。
「……どうして、あなたがここに?」
額に手を当て、困惑している様子のリアス。
「神城から訊いていないのか? 神器のアドバイザーを要求されたんでな。そこで神器に一番詳しい俺がやってきたんだよ」
「エイジぃぃ?」
「いや、俺もまさかこいつが来るとは思ってなかったんですよ」
「まさかアドバイザーが堕天使の総督だとは想わないよな~」
と、イッセーが言い、なんとかリアスの怒りがアザゼルへ戻った。
「セラフォルーの妹に頼んだら、この役職をもらってな! まあ、俺は知的でチョーイケメンだからな。女生徒でも食いまくってやるさ!」
「それはダメよ! ってソーナがそんなことを」
「堅いな、リアス・グレモリー。いや、何。サーゼクスに頼んだら、セラフォルーに言えと言うんだ。だから頼んだ」
「それはわかったが、その腕は? 千切れたのをまたくっつけたのか?」
俺の問いにアザゼルは答える。
「いや、腕は切ったあと消滅したからな。これは神器研究のついでに作った本物そっくりの義手だ。光力式レーザービームやら、小型ミサイルも搭載できる万能アームさ。一度、こういうの装備してみたかったんだよな。片腕を失った記念に装着してみたわけだ」
バシュッ! アザゼルの左腕が飛びだした。くるくると横に何回転もする。
おおっ、本物そっくりな分気持ち悪っ!
「俺がこの学園に滞在できる条件はグレモリー眷属の悪魔が持つ未成熟な神器を正しく成長させること。まあ神器マニア知識が役に立つわけだ。おまえらも聞いただろうが、『禍の団』ってけったいな組織がある。将来的な抑制力のひとつとして、『赤い龍』とおまえら眷属の名が挙がった。というよりも、対『白い龍』専門だな。仕入れた情報では、ヴァリ覇自分のチームを持っているって話だ。仮に『白龍皇眷属』とよんでおくか。判明しているメンツはいまのところヴァーリと孫悟空を合わせた数名だ」
「ヴァーリたちはまたここを攻めてくるんスか?」
イッセーの問いかけにアザゼルは首を横に振った。
「もう攻めてこないだろうさ。いちおうチャンスだった3大勢力のトップ会談での暗殺だが、それも失敗した。奴らの当面の相手は天界、冥界だ。冥界は俺の命令で堕天使が悪魔と共闘する。そう簡単に冥界を落すことはできない。天界もセラフの連中が黙っていないだろう。それに天界には居候の強い聖獣、魔獣もいるしな」
「……戦争か」
「いや、まだ小競り合いレベルだな。奴らも俺たちも準備期間と言える。安心しろ、おまえらがこの学園の高等部どころか、大学部を卒業するまで戦なんて起きやしない。学園生活を満喫しとけ。――ただ、せっかくの準備期間だ。いろいろと備えようじゃねぇか」
「うーん……」
「赤龍帝、難しく考えるな。どうせ、脳が足りねぇんだから、余計な心配をしても埒が明かんぞ。おまえの敵はあくまで白龍皇ヴァーリだ。それだけは忘れるな」
イッセーの顔つきが変わる。目標が定まったからだろう。
「おまえがヴァーリを退けたのは、ミカエルからもらった龍殺しの剣と赤龍帝の力が合わさったからだ。あと、奴は手を緩めていた。そうじゃなければ負けていたな。というよりも今回は相性のおかげで戦えたに過ぎない。仮にヴァーリが並みの力を持つドラゴン以外の存在だったら、おまえは殺されていた」
アザゼルの言う通り、おそらく大したダメージも与えられずに負けていたな。
「それで、白龍皇の力はあれから使えるのか?」
「いえ、まったく機能しません」
「だろうな。あんな強力なもの、そう簡単に扱えるはずがない。他のドラゴンの力を取り込むまではいい。それを自由に使えるかはまた別だ。下手をすれば禁手に至るより難しい技術かもしれない。だが、一度取り込んだ力はドライグの魂に登録されているだろう。あとは修行しだいだな。――それも地獄のようなしごきを長期的にこないしてだ。弱いくせに無茶に張り切ると死ぬぞ」
アザゼルがイッセーに忠告する。
「赤龍帝の力も不安定すぎる。爆発力は凄まじいが、それも一時だ。相手が格下ならそれで瞬時に倒せるだろうが、格上の相手には封殺される。おまえも悪魔としてレーティングげーむにも参加するなら、強大な赤龍帝の力を安定させろ。それもこれも、まずは禁手になってからだな。かといって、レーティングゲームも一筋縄じゅない。駒の消費1つの『兵士』が『王』をとるなんてことも起こる」
「エイジみたいにイレギュラーとかですか?」
「いや、そういうことだけでなく、すべては戦いしだいなんだ。それも含めておまえらに教えないとな」
「レーティングゲームに詳しいんだな」
「ゲームのファンは悪魔だけじゃなんだぜ? 和平協定のおかげでゲームを堂々と観戦する天使や堕天使も多く出るだろうよ」
「とりあえず、長時間戦える体作りからだな」
「……はい」
イッセーはアザゼルを真剣な表情で見る。
「俺、強くなれますか?」
アザゼルはにんまりと悪戯な笑みを見せて答えた。
「強くさせてやるよ。俺は暇な堕天使さまだからな」
気合の入ったような表情のイッセー。アザゼルはそして木場のほうを向いた。
「そうだ、聖魔剣の。おまえ、禁手状態でどれぐらい戦える?」
「現状、一時間が限界です」
「ダメだな。最低でも3日は継続できるようにしろ」
アザゼルの言葉で木場もイッセーと同じように気合の入った表情になっていた。
「お、俺は、限定条件付きで10秒ですけど……」
恐る恐る言うイッセーにアザゼルは半眼になっていた。
「おまえは一から鍛え直す。白龍皇は禁手を一ヶ月は保つぞ。それがおまえとの差だ」
まっ、まずは完璧な禁手を目指さないとな。
次にアザゼルの視線が朱乃さんへ向いた。
「まだ俺らが――いや、バラキエルが憎いか?」
バラキエル……朱乃さんの父親だったな。朱乃さんは厳しい表情で返す。
「許すつもりはありません。母はあのヒトのせいで死んだのですから」
「朱乃、おまえが悪魔に降ったとき、あいつは何も言わなかったよ」
「当然でしょうね。あのヒトが私に何かを言える立場であるはずがありません」
「そういう意味じゃねぇさ。いや、まあ俺がおまえら親子の間に入るのも野暮か」
「あれを父だとは思いません!」
朱乃さんはそうハッキリと言い切った。
「そうか。でもな、俺はおまえがグレモリー眷属になったのは悪かないと思うぜ。それ以外だったらバラキエルもどうだったかな」
アザゼルのその言葉で朱乃さんは何も返すことはなかった。ただ黙って、複雑そうな表情を見せていた。
で、話がひと段落したところで疑問を口にする。
「結局、俺もヴァーリ専門なのか?」
ヴァーリは瞬殺できる相手なんだが?
アザゼルは首を横に振った。
「いや、おまえはもちろん違うさ。というか、おまえ、あとどれだけ力を隠しているんだ?」
「隠している力?」
「とぼけるんじゃねぇよ。ヴァーリもオーフィスの力で強化されたカテレアの魔力をすべて吸い出すことは出来ないんだぞ。だが、おまえはカテレアの魔力を吸い出せた。吸い出せたってことは器がそれだけでかいってことだ。魔王クラスの魔力を吸い取っても顔色ひとつ変えず、さらに吸い出したはずの魔力分おまえの魔力が上がったわけでもない」
アザゼルは真剣な顔で俺を見る。
「おまえは俺の見立てじゃ――グレード・レッドやオーフィス並みの力は秘めている」
「グレード・レッド? オーフィス? なんだそれ?」
イッセーの頭に疑問符が浮ぶ。すると、イッセーの左腕に籠手が現れ、ドライグが説明する。
『白いのが言っていた不動の1位。偉大なる赤、『
「エイジがその世界最強クラスだと言うの……?」
「世界最強……」
リアスやイッセーたちが息を飲んで俺を見た。
部室のなかの視線が集まり、俺は肩をすくませて言う。
「力を隠しているわけじゃねぇよ。ただリミッターを常につけているだけだ」
「リミッターか……」
「ああ。まっ、解放すれば世界最強なんだろうけど。いまのところ開放する気はないな」
「…………そうか」
アザゼルはそれだけつぶやくと、イッセーに向き直った。
「おい、赤龍帝――イッセーでいいか? イッセー、おまえ、ハーレムを作るのが夢らしいな?」
「ええ、そうっスけど……」
「俺がハーレムを教えてやろうか? これでも過去数百回ハーレムを形成した男だぜ? 話を聞いておいて損はない」
「マ、マ、マママママッマママ、マジっスか?」
「ああ、マジだ。おまえ、童貞か?」
「は、はい!」
「よし、女を教えてやる。適当に美女でもひっかけて男になったほうがいいな。これでも俺は人間の女の乳を揉んで堕ちた身の上だ。エロに関して妥協はねぇさ」
「そ、そんなことで堕ちたんスか!? え? マジで!?」
イッセーの疑問に俺とリアスで答える。
「ああ。そいつは童貞卒業して堕ちた天使だぞ。結構有名な話だ」
「ええ、伝承の通り、グレゴリの幹部たちは人間の美女に誘惑されて、天界の貴重な知識を教えてしまって堕ちたのよ」
それを聞いてアザゼルは笑っていた。
「あの頃は俺たちも若くてな。童貞丸出しで『神さまはエラい!』、『神さまはスゴい!』って妄信したもんだ。ハハハッ、結局誘惑に負けて女抱きまくったら、童貞失って、天使の位も失っちまった」
イッセーが感動したような目でアザゼルを見た。
「あー、なんだか、急に堕天使たちに親近感が湧いてきたよ」
「おおっ、話がわかるじゃねぇか。そうだ、男なら欲望のままに生きろ。女を食らえ! 抱いて抱いて抱きまくれば、自身と共に強さもついてくる。――俺が卒業式をプロデュースしてやろう。部下の美少女堕天使を何人か紹介してやる。伝説のドラゴンが相手ならあいつらも喜んで抱かれるだろう」
「うおおおおおっ! マジで!? 卒業できるんですか!? 俺、先生についていきます!」
「おー、そうか。よし、じゃあ童貞卒業ツアーにでも出かけるか」
目を輝かせるイッセーとどこかを指差してポーズを決めるアザゼル。
「まさに、エロ師弟の誕生だな」
俺がため息を吐きながら言うと、アザゼルがこちらを見て悪戯な笑みを浮かべた。
「なに言ってやがる。おまえはある意味俺よりたちがわるいじゃねぇか。カテレアも襲撃に参加していた女たちも足腰立たなくなるほど絶頂させて倒すし。通り名の本当の由来――こいつらにも教えてやろうか?」
――っ!
「あ、あああ、アザゼルっ! そ、それは……」
「本当の由来? 魔力が黒いとか、敵を圧倒的な力で駆逐するからじゃないの?」
リアスが顎に手を当てて考え始めた。
アザゼルはケラケラと笑いながら、言う。
「魔力が黒いのは由来の一部なんだが、黒の聖職者って、本当は聖なるではなく、性交の性、職ではなく喰らう。――つまり、性を喰らう者って意味なんだよ!」
ブハハハハッ! っと笑うアザゼル。
リアスがニッコリ笑みになって訊く。
「まさか、黒い捕食者も?」
「ああ。個別の会談のときに言ってたぜ。ロリから熟女、種族関係無しに抱くから、男達につけられた罵倒が由来だってな!」
ギギギっと部長がこちらに視線を向けた。
「まったく、あなたは遺伝子レベルまでエッチな子なのね」
「え、エッチなのは認めますが、これだけは言わせてください」
俺は頭を下げたあとに言う。
「一夜限りで全員同意の上での行為で、避妊を完璧にやっていたので、俺に後悔はありません!!」
そう言い放った瞬間――。憤怒したイッセーが俺へ向けてギャスパーを投擲し、ギャスパーに抱きつかれた俺はカトレアや襲撃に参加していた女たちから奪った精気が急速に消失し、その場で気絶した。
◆
夏休みに入る前日。つまり終業式が終わったあとのことだ。
俺は名前の由来をアザゼルにバラされ、それでリアスが怒り、約束していた処女をもらえずに本番を禁止されていたが、それが今朝、学校の玄関で分かれる際に「今晩しましょうか?」と誘われ、嬉しくて浮かれていたんだ。
これでリアスの処女をもらえる! つながれる! って喜んで会談で要求した新家の豪邸に帰り、ベッドメイキングを済ませ、リアスの帰りを待っていたんだが――。
「こんにちは」
「や、どうも。今日からお邪魔するよ」
なぜか朱乃さんとゼノヴィアが大荷物を持って俺の家の玄関の前に立っていた。
朱乃さんは玄関に出てきた俺を確認するなり、
「エイジくん!」
抱きついてくる! い、いきなり大胆だな!
「朱乃、ただいまあなたのもとへ到着しました。エイジくん……」
潤んだ瞳で見つめてくる朱乃さん。ああっ、かわいい!
「……あ、朱乃とゼノヴィアもこの家に同居することになったの……。お兄さまの提案でね。ちなみに小猫は改築したイッセーの家に住むことになっているわ」
そういや、イッセーの家もサーゼクスがついでにって言って改築したんだっけな。まあ、二件も大きな家が建ったおかげで道と近所の人がいなくなったけど。
――って! マジで!? マジで、朱乃さんとゼノヴィアも家に住むの!? まあ、部屋はくさるほど余るようになったけど……。
俺がリアスに確認するように視線を送ると、遺憾そうにうなずいて、事実であることを表し、話し始めた。
その話では、サーゼクスが眷属のスキンシップ向上のためにそういう提案をしたそうだ。
リアスは最後まで抵抗したそうなんだけど、魔王クラスの実力者である俺を監視下におくという理由もあると、言いくるめられて、朱乃さんとゼノヴィアの同居が成立してしまった。
で、朱乃さんは俺の家に着くなり、俺にべったり抱きついてきて離れてくれない。
さらに黒歌とセルベリア、時雨とノエル、レイナーレも甘えてきて、顔や腰、背中とおっぱいを押し付けられて幸せ気分なんだが、リアスの視線が痛い……。
「エイジくん♪ 私、今夜は一緒に寝ますわ。うふふ。一度、ベッドのなかでエイジくんと一夜を共にしたかったの」
「こら、朱乃! 今夜は私が!」
リアスが朱乃さんを怒鳴る。
「ただ寝るだけですわ。寝るだけ」
と微笑みながら俺の耳を甘く噛んでその様子を見せつけた。
黒歌たちは2人のやり取りがおもしろいのか観戦モードで俺に体を擦り付けていた。
「ふむ、アーシアとご近所さんか。これは挨拶に行ったほうがいいな」
と、ゼノヴィアはマイペースでご近所挨拶のことを考え始めた。
……今夜もたぶんお預けだなぁ……。