<エイジ>
旅立ちの日。俺たちは最寄の駅にやってきていた。駅のエレベーターのなかにある電子パネルに冥界の通行証となるカードをかざすと、地下にある冥界行きの地下鉄へのホームに行けるのだ。
駅のホームについたところで学園の夏の制服姿から冥界行きの衣装に変身する。
そして列車に皆で乗り込もうとしたところでリアスに声をかけられた。
「エイジ、あなたは私と一緒に一番前の車両に来てもらうわ」
「……リアス?」
リアスの言葉で朱乃さんの笑顔の質が変わった!?
リアスも朱乃さんの変貌振りにビビッてすぐに理由を説明し始める!
「サーゼクスお兄さまが、エイジと連絡を取りたいそうなのよ! べ、別に私がエイジと2人っきりでいたいわけじゃないの」
「そうでしたか」
と、なんとか朱乃さんが元のニコニコ笑顔に戻ってくれた。
「じゃあ、俺はリアス部長と。黒歌たちはイッセーたちと。アザゼルはどうするんだ?」
「俺はグレモリー領を抜けて、どっちにしろ魔王領で会談するからいい。まあ、イッセーたちと一緒の車両でいいさ」
「そう。じゃあ、またあとでね。行くわよ、エイジ」
「はい」
◆
リアスと第一車両へやって来た俺は、モニター画面に映っているサーゼクスと会話をしていた。
「それで、キミにはハンデを背負ってもらいたいんだよ」
「その新人悪魔同士のレーティングゲームに、魔王クラスがいたらやっぱりマズイのか?」
「そうだよ。通常のレーティングゲームなら問題ないんだけど、今回は新人悪魔同士の実力を測るためのものだからね。それに、キミが持っている能力もマズイ。インキュバスの能力は別にいいんだけど、他の能力は反則クラスだからね」
苦笑するサーゼクス。隣に座ったリアスが言う。
「能力というと【王の財宝】と【千の顔を持つ英雄】ですか?」
「……リアスは、エイジが持っているその能力をどこまで知っているのかな?」
「私が把握している情報では、【王の財宝】には聖剣や魔剣、様々な道具が保管されている宝物庫で、【千の顔を持つ英雄】は望んだ武具を発動時間内に限り具現化できる。――と、いうところまでです」
サーゼクスは苦笑しながら話す。
「ああ、確かにそうなんだが、リアスが考えている以上にその2つの能力は反則クラスなんだよ。【王の財宝】とはいうけど、保管されている道具のほとんどは神滅具クラスばかりで、【千の顔を持つ英雄】も特殊能力のないが、様々武具を創り出せるだけだと言うけど、エイジは武具の
「…………そ、それは、そうですね」
苦い表情のリアスにサーゼクスは続けて言う。
「それに、エイジは魔法はもちろん、仙術まで身につけ、そのうえ妖術まで使えて、それぞれ最高位の使い手だ。魔力の総数値も測定不能。そんな彼が、新人悪魔のレーティングゲームに参加すれば数十秒で終わらせてしまうだろう? ――まあ、私も全力で倒そうと思えば、新人悪魔など数十秒もかからないけどね」
サーゼクスは書類をこちらへ見せる。
「そこでだ。エイジには大きなハンデを背負ってもらった状態でレーティングゲームに参加してもらうんだ」
「えっと……。【王の財宝】と【千の顔を持つ英雄】の使用禁止と、出力制限、中級悪魔程度の魔力にする。あとは広域殲滅や過剰攻撃をするような仙術、妖術の使用不可だ」
「中級悪魔程度の出力制限って!? すでに能力のほとんどが封じられている状態なのに、仙術や妖術までも使えないの!?」
「中級悪魔程度の魔力じゃ、どちらにしろ【王の財宝】と【千の顔を持つ英雄】は発動できないな。それに仙術も妖術もか」
サーゼクスは笑みを浮べながら言う。
「だが、これぐらいハンデをつけてもキミなら楽勝だろう? それにリアス」
驚いていたリアスにサーゼクスが話しかける。
「え、は、はい。お兄さま」
「『王』なら全ての駒を使いこなしてこそだろう?」
「っ!」
「エイジがハンデを背負っているといっても強いことに変わりはない。そして、他の駒――イッセーくんや木場くんと、いい駒もたくさんあるんだ。全部の駒を使いこなしなさい」
「……はい」
リアスは力強く、しっかりとうなずいた。
そんなリアスにサーゼクスは満足げな笑みを浮べる。
「じゃあ、リアス、エイジ。また詳しいことは書類で送るから通信を切るよ」
「はい、お兄さま」
「ああ、じゃあな、サーゼクス」
と、画面からサーゼクスが消えた。リアスがこちらを向いて訊ねてきた
「エイジはだいじょうぶ? 中級悪魔程度の力しか出せないし、能力のほとんどが封じられるのは大きなハンデよ?」
俺はリアスと視線を合わせて笑顔で言う。
「大丈夫です。力を出せないといっても、俺には長年培った戦闘技術がありますし。リアスを負けさせたくありませんから」
そう言うとリアスは頬を少しだけ朱に染めてうなずいた。
「ええ、そうね。ハンデぐらい関係ないわよね! あなたは私の自慢の眷属悪魔なんだから」
「これはこれは、お邪魔でしたかな?」
リアスが微笑みながらキスをしてきようとしたところで、第三者がひょっこりと現れた。
「レイナルド」
この車両の車掌をしている初老の男性悪魔だ。
「レイナルドと知り合いだったの、エイジ」
驚き顔のリアスに説明する。
「はい。サーゼクスに人間界に帰るときや冥界に来るときはこの列車を使っていいと言われて、仮面で顔を隠す前からの知り合いです」
「エイジ殿、リアスさま、お久しぶりです」
レイナルドは帽子を取って頭を下げたあと、楽しそうに笑う。
「ホッホッホッ、まさかエイジ殿とあの小さな姫が……、長生きはするものですな」
「れ、レイナルド……」
リアスは顔を真っ赤にして俯いた。
リアスが真っ赤になっている間にレイナルドは本人確認するための装置を取り出し、照合を始める。
「俺は人間から転生悪魔になったあと、本物のインキュバスになったからデータが変わってると思うが、大丈夫か?」
「はい。サーゼクスさまからエイジ殿のデータはきちんと預かっています。ホッホッホッ、それにしても、転生悪魔から絶滅したインキュバスに転生するとは、おかわりない……、いいえ、成長され続けておられるようですね」
「そ、それは別にいいだろ」
とりあえずレイナルドの話を切って照合認証を受ける。余計なことは言わないで!
「あ、レイナルド。これから後の車両に行くんでしょ? 私たちも後ろの車両に行くから同行するわ」
と、レイナルドと一緒にイッセーたちがいる車両へと向かった。
◆
レイナルドと一緒に後部車両へ行き、全員分の照合認証を終わらせた俺たちは、トランプなどで時間を潰していた。
そして出発から40分ほど過ぎた頃、レイナルドのアナウンスが聞こえてくる。
『もうすぐ次元の壁を突破します。もうすぐ次元の壁を突破します』
「外を見ていてごらんなさい」
と、リアスはイッセーとアーシア、ゼノヴィアに言う。
イッセーとアーシアが窓に張り付いたとき、ちょうど景色の暗がり一色から変わり、風景が出現する。
「山だ! 木もある! ハハハハッ! すげえ! すげぇぇぇぇぇっ!」
「すごいすごいです!」
イッセーとアーシアが興奮しながらはしゃぎあっていた。
「もう窓を開けていいわよ」
と、リアスの許しをもらってイッセーとアーシアは急いで窓を開け、冥界の空気を楽しんでいた。
「ここはすでにグレモリー領よ」
リアスが自慢気に口にする。
「じゃあ、いま走っているこの路線も含めて全部部長のお家の土地ですか!?」
驚くイッセーはリアスに質問する。
「グレモリー領土ってどれぐらいあるんですか?」
そこにイッセーの向かいの席に座っていた木場が答える。
「確か、日本でいうところの本州丸々ぐらいだったかな?」
「ほ、本州ぅぅぅぅっ!?」
大声を張り上げるイッセーに、リアスも木場もうなずいた。
「冥界は人間界――地球と同程度の面積があるけど、人間界ほど人口はいないわ。悪魔と堕天使、それ以外の種族を含めてもそれほど多くもないし。それと海もないからさらに土地が広いのよ」
リアスのお姫さまっぷりに打ち震えるイッセー。
「本州ぐらいといってもほとんど手付かずなのよ? ほぼ森林と山ばかりよ」
そう言われてもイッセーはどうリアクションをとっていいかわからず固まり、アーシアは「????」状態。ゼノヴィアに至っては考えるのを止めたのか、時雨と木場を交えて冥界の刀剣について話し始めた。
「そうだわ。エイジ、イッセー、アーシア、ゼノヴィア。あとであなたたちに領土の一部を与えるから、欲しいところを言ってちょうだいね」
「りょ、領土、もらえるんですか!?」
驚愕するイッセーに当然とリアスは言う。
「あなたたちは次期当主の眷属悪魔ですもの。グレモリー眷属として領土に住むことが許されるわ。朱乃や祐斗、小猫、ギャスパーだって自分の敷地を領土内に持っているのよ」
リアスは魔力で「ポン!」と宙に地図を出現させると俺たちに見せてきた。
グレモリーの領の地図だった。
「赤いところはすでに手が手が入っている土地だからダメだけど、それ以外のところはOKよ。さあ、好きな土地を指差してちょうだい。あなたたちにあげるわ」
と、言うリアスのお言葉でイッセーとアーシアがフリーズし、ゼノヴィアは聞いていないふりをしていた。
ちなみに俺は土地をもらうことを保留させてもらった。ゆっくり選びたいしな。
◆
グレモリー領についたところで、魔王領へ向かうアザゼルと別れる。
「じゃあな、アザゼル」
「じゃあ、先生あとで」
「お兄さまによろしくね、アザゼル」
俺とイッセー、リアスの言葉にアザゼルは手を振って応えた。
改めてアザゼルを抜かしたメンバーで駅のホームに降りた瞬間――。
『リアスお嬢さま、おかえりなさいませっ!』
怒号のような声と共に、
パンパンパンパン!
と、花火が上がり、兵隊たちが銃を空に向けて放ち、楽隊らしき人たちが一斉に音楽を奏で始め、空にも魔獣にまたがった兵士たちが飛び、旗を振っていた。
ああ、すげぇ歓迎モードだな。
「ヒィィィ……! 人がいっぱい……」
あまりの人の多さにギャスパーがイッセーの背中に隠れる。歓迎に来た人で多いのは執事やメイドだった。リアスがそちらへと近づくと一斉に頭を下げて、
『リアスお嬢さま、おかえりなさいませ』
迎え入れてくれる。
「ありがとう、皆。ただいま。帰ってきたわ」
リアスは満面の笑みで返していた。それを見て、執事やメイドさんたち笑みを浮べる。
そこへ銀髪メイドのグレイフィアが一歩出てきた。
「お嬢さま、おかえりなさいませ。お早いお着きでしたね。道中、ご無事で何よりです。さあ、眷属の皆さまも、お客さまも馬車へお乗りください。本邸まで移動しますので」
グレイフィアに誘導されて、豪華絢爛そうな馬車の元へ向かう。荷物はメイドたちが運んでくれるそうだ。
「私は下僕たちを行くわ。イッセーやアーシアは初めてで不安そうだから」
「わかりました。何台かご用意しましたので、ご自由にお乗りください」
グレイフィアはリアスの意見を快諾してくれた。
一番前の馬車に俺とリアス、イッセー、アーシア、朱乃さん、ゼノヴィア、グレイフィアが乗り込んだ。6人乗りになのだが、馬車は大きく造られているので別に窮屈ではなかった。ちなみに他のメンバーは2台の馬車に別れて乗った。
馬車が進み始めて数分ほどすると、リアスの屋敷……というか、城へ到着した。
「着いたようね」
リアスがつぶやくと、馬車のドアが開かれた。執事らしき方が会釈した。
リアスが先に降りて、あとから俺たちも続く、2、3台目の馬車も到着して、他のメンバーも降りてきた。
両脇にメイドと執事が整列して、道をつくっていた。レッドカーペットが巨大な城のほうに伸びており、大きな城門が「ギギギ」と音を立てて開かれていく。
「お嬢さま、そして眷属の皆さま、お客さま。どうぞ、お進みください」
グレイフィアが会釈をして、俺たちを促してくれる。お客さまっての黒歌たちだな。俺の眷属でリアスの眷属じゃないから『お客さま』なんだろう。
「さあ、行くわよ」
リアスがカーペットの上に歩き出そうとしたときだった。メイドの列から小さな人影が飛び出し、リアスのほうへ駆け込んでいく。
「リアスお姉さま! おかえりなさい!」
紅髪のかわいらしい少年がリアスに抱きついていた。
「ミリキャス! ただいま。大きくなったわね」
リアスもその少年を愛おしそうに抱きしめていた。
「あ、あの、部長。この子は?」
イッセーが訊くと、リアスはその少年を改めて紹介してくれる。
「この子はミリキャス・グレモリー。お兄さま――サーゼクス・ルシファーさまの子供なの。私の甥ということになるわね」
――サーゼクスの子供!?
「話には聞いていたがマジで子供いたんだな、あいつ」
「あら、知らなかったの?」
「はい。グレイフィアに実際に俺と会わせるのは教育に悪いと言われて……」
俺はグレイフィアを見て言うと、グレイフィアは視線をそらした。
「そうなの。まあ、しかたないわね」
と、リアスも皆もなんで納得するんだ!? 俺って教育にそんなに悪いか!?
「ほら、ミリキャス。あいさつして。この子たちは私の新しい眷属なのよ」
「はい。ミリキャス・グレモリーです。初めまして」
「こ、これは丁寧なあいさつをいただきまして! お、俺……いや、僕は兵藤一誠です!」
と、年下の子供に緊張しまくりのイッセーだった。
俺も挨拶しようとすると、ミリキャスが目を輝かせて訊ねてきた。
「本物のブラック・プレデターさんなんですか!?」
「ミリキャスはあなたのファンなのよ」
と、リアスが言ってきた。
「ああ、そうだよ。賞金稼ぎ黒い捕食者、ブラック・プレデターこと、神城エイジだよ。よろしく、ミリキャス」
「うわー! 本当に本物なんですね!」
と大喜びするミリキャス。かなり恥ずかしいが、嬉しくもあるな。
「あと、ちなみに魔王の名は継承した本人しか名乗れないから、この子はお兄さまの子でもグレモリー家なの。私の次の当主候補でもあるわ」
説明を終えるとリアスはミリキャスと手を繋いで門のほうへ進みだす。
「さあ、屋敷へ入りましょう」
巨大な門を潜り、なかを進む。次々と城のなかの門も開門されていく。
玄関ホールに着いたところで、グレイフィアが言う。
「お嬢さま、さっそく皆さまをお部屋へお通ししたいと思うのですが」
グレイフィアが手をあげるとメイドさんが何人か集合した。美少女メイドの登場でイッセーの顔が緩んでいた。
「そうね、私もお父さまとお母さまに帰国のあいさつをしないといけないし」
リアスは「うーん」とこのあとのことを考え中の様子だった。
「旦那さまは現在外出中です。夕刻までにおかえりになる予定です。夕餉の席で皆さまと会食しながら、お顔合わせをされたいとおっしゃられておりました」
「そう、わかったわ、グレイフィア。それでは、一度皆はそれぞれの部屋で休んでもらおうかしら。荷物はすでに運んでいるわね?」
「はい。お部屋のほうはいますぐお使いになられても問題ございません」
イッセーとアーシアが驚きの連続でフラフラしているから、そろそろ休ませたほうがいいよな。
「あら、リアス。帰ってきたのね」
そのとき、上から女性の声が聞こえてきた。
階段から下りてきたのはドレスを着たすごい美少女で、目つきが少しキツめのリアスに良く似た亜麻色の髪の女性だった。
正直、飛びついて口説きそうになったが、なんとか堪えた!
リアスはその人を確認するなり、微笑んだ。
「お母さま。ただいま帰りましたわ」
や、やっぱりか! 子供を産んだことのある女性特有の瞳と、雰囲気からそうじゃないかと思ってたんだ。飛びつかないでよかった……。
「お、お、お母さまぁぁぁああああっ!? だって、どう見ても部長とあまり歳の変わらない女の子じゃないですか!」
イッセーが絶叫を上げた。
「あら、女の子だなんてうれしいことをおっしゃいますのね」
リアスの母親は頬に手をやり微笑む。うわー、すげぇかわいいな。
「悪魔は歳を経れば魔力で見た目を自由にできるのよ。お母さまはいつもいまの私ぐらいの年格好なお姿で過ごされているの」
うん。かわいいなぁ。リアスは完全に母親似だよな。と、ついつい大きな胸元や腰に視線がいってしまう。
冥界に入って出しっぱなしにしている尻尾をリアスが持つ。
「……私のお母さままで手を出さないわよね?」
「はい! も、もちろんです!」
だから尻尾を解放して! つねったらダメですよ!
「あら、リアス。その方が神城エイジくんね」
そ、そういえば……!
「こ、婚約パーティーのときはすみませんでした」
と頭を下げるが、リアスの母親はクスッと小さく笑う。
「いいのですよ。――それよりも、初めまして、私はリアスの母、ヴェネラナ・グレモリーですわ。よろしくね、神城エイジくん」
◆
玄関ホールから数時間後、俺たちはダイニングルームにいた。
席に座るのは俺たち眷属悪魔と、俺の眷属の黒歌たち、それに主のリアスと、その両親と、ミリキャス。
「遠慮なく楽しんでくれたまえ」
リアスの父親の一言で会食は始まった。
大きな横長のテーブル。豪華な料理と、天井も豪華なシャンデリア。俺たちが与えられた部屋もすごく天蓋付きのベッドもあり、室内にそのまま生活できるほど家具も充実していた。
その部屋に通されてすぐに、ゼノヴィアが転がり込んできた。なんでも落ち着かないらしくて1人では無理だったそうだ。まあ、教会で質素な生活をしてたんだから仕方ない。それと、もともとアーシアの部屋を先にたずねたそうだが、アーシアはイッセーの部屋に行くというので、ゼノヴィアは俺の部屋に来たそうだ。
ちなみにアザゼルは食事には間に合わなかった。どうにも会談が長引いているらしい。
「うむ。リアスの眷属諸君、ここを我が家と思ってくれるといい。冥界に来たばかりで勝手がわかならいだろう。欲しい物があったら、遠慮なくメイドに言ってくれたまえ。すぐに用意しよう」
朗らかに言うリアスの父親。
「ところで神城エイジくん」
「はい」
「今日から、私のことをお義父さんと呼んでくれてもかまわない」
「え?」
予想外の言葉だぜ。っていきなり何を言ってるんだ!?
「お、お父さんですか……? え?」
「あなた、性急ですわ。まずは順序というものがあるでしょう?」
リアスの母親が夫をたしなめる。
「う、うむ。しかしだな、彼はもはや転生悪魔から絶滅したインキュバスの純血悪魔になったのだろう。純血同士、めでたいではないか」
「あなた、浮かれるのはまだ早い、ということですわ」
「そうだな。どうも私は急ぎすぎるきらいがあるようだ」
リアスの父親は深く息を吐かれる。どうにも奥さんの尻に敷かれているようだ。発言力的にリアスの母親のほうが家では強いようだが、夫婦仲は円満そうだ。
とうのリアスは恥ずかしそうにしていて、食が進んでいない様子だった。
「神城エイジさん。エイジさんと呼んでもよろしいかしら?」
リアスの母親がそう訊いてくる。
「はい。別に呼び捨てでも構いませんよ」
と、当然、快諾した。
「しばらくこちらに滞在するのでしょう?」
「はい。リアス……部長が、リアスさまがこちらに入る間はこちらに滞在させていただく予定です」
「そう。ちょうどいいわ。あなたには紳士的な振る舞いも身につけてもらわないといけませんから。少しこちらでマナーのお勉強をしてもらいます」
「そ、それはサーゼクス……さまやセラた――、セラフォルーさまに一通り教えてもらいましたが?」
うん。俺完璧にできているはずだけど、なにかマズッたか?
リアスの母親は微笑みながらうなずき提案してくる。
「そうね。とりあえずマナーのほうは問題ないようね。それなら、悪魔の歴史や仕来りなどには興味ありますか?」
「はい、興味あります。いままでじっくり勉強する暇はなかったので」
「そう。ならこれを機に勉強してみない?」
「それはいいですね。悪魔になったことですし」
と、3,000件も仕事をこなさないといけないのに不用意に発言してしまい、さらにリアスの母親は満足気に頷いて「じゃあ、お勉強しましょうか」と言ってきて、俺も自然と頷いてしまった……。仕事に勉強まで追加されるなんて……!
バン!
テーブルを叩く音。見ればリアスがその場で立ち上がっていた。
「お父さま! お母さま! 先ほどから黙って聞いていれば、私を置いて話を進めるなんてどういうことなのでしょうか!?」
その一言にリアスの母親は目を細める。俺たちを迎え入れてくれたときの笑顔はそこにはなかった。
「お黙りなさい、リアス。あなたは一度ライザーとの婚約を解消しているのよ? それを私たちが許しただけでも破格の待遇だとお思いなさい。お父さまとサーゼクスがどれだけ他の上級悪魔の方々に根回ししたと思っているの?」
と、リアスの母親は何かを取り出して見せてきた。
そこにはいくつもの雑誌の表紙に、婚約会場で仮面を取った俺がリアスをお暇様抱っこしている様子が写っていて、見出しには『黒い捕食者がリアス・グレモリーと熱愛!?』や、『婚約パーティに乱入! リアス・グレモリーを攫うために脱ぎ去った仮面!!』などと書かれていた。
「ううっ」
リアスの顔が真っ赤に染まる。
「あなたが、魔王クラスの実力者であるエイジくんを眷属悪魔にしたことについては賞賛するところですが、次期当主としの自覚を持ちなさい。それに、あなたは表向きでは関係ないとされていますが、誰だってあなたを魔王の妹として見るわ。3大勢力が協力態勢になった今、あなたの立場は他の勢力の下々までに知られたことでしょう。以前のように勝手な立ち振る舞いもできないのです。そして何よりも、今後のあなたを誰もが注目するでしょう。魔王クラスの実力者と、赤龍帝を配下に加えていますしね。リアス、あなたは今後の世界で重要な立場に立っているのですよ? 二度目のわがままはありません。甘えた考えは大概にしなさい。いいですね?」
その言葉にリアスは悔しそうにしながらも言い返せない様子だ。納得できないまま、椅子へ勢いよく腰をおろした。
リアスの母親は息を一度吐いたあと、笑みを俺たちへ向ける。
「リアスの眷属さんと、お客さまたちにお見苦しいところを見せてしまいましたわね。話は戻しますが、ここへ滞在中エイジさんには特別な訓練をしてもらいます」
「俺だけですか?」
すると、リアスの母親は笑みを止め、真面目な表情で真っ直ぐにおっしゃった。
「あなたは――次期当主たる娘の最後のわがままですもの。親としては最後まで責任を持ちますわ」
リアスのほうへ視線を向ければ俺と視線を合わせたあと、先ほどよりも顔が真っ赤になった。
それにしても今日はリアスのレア顔をよく見れるな。って黒歌たちは遠慮無しに黙々と目を輝かせながら食事を食べていて、レイナーレはメイドさんにレシピを聞いていた。マジでこいつらマイペースだな……。