<イッセー>
――定刻だ。
俺たちはフロアに集まり、開始の時間を待っていた。
そして、店内アナウンスが流れる。
『開始のお時間となりました。なお、このゲームの制限時間は3時間の短期決戦形式を採用しております。それでは、ゲームスタートです』
ゲームスタート!
って、ブリッツ!? 短時間で決めろってか! こういうこともある! だから今回割きに作戦時間を設けたわけね。ルールってその都度に変わるってことでいいのかな。レーティングゲームは奥が深いぜ。部長が椅子から立ち上がり、気合の入った表情で言う。
「指示はさっきの作戦通りよ。イッセーと小猫、祐斗とゼノヴィアで二手に分かれるわ。イッセーたちが店内からの進行。祐斗たちは立体駐車場を経由して進行。ギャスパーは複数のコウモリに変化して店内の監視と報告。進行具合によって、私と朱乃とアーシアがイッセー側のルートを通って進むわ。エイジはその私たちの護衛よ」
部長の指示を聞き、全員が通信用のイヤホンマイクを取り付ける。
「さて、かわいい私の下僕悪魔たち! もう負けは見せられないわ! 今度こそ、私たちが勝つッ!」
『はいッ!』
全員、気合が入っていた。当然だ! もうあんな敗北はいらない! 俺たちは勝つんだ! 絶対に!
「では、ゼノヴィア、行くよ」
「ああ、木場」
先に動いたのは木場とゼノヴィア。フロアを飛びだし、立体駐車場に繋がる道へ向かった。駐車場に偵察に行った木場の話では駐車場に車は存在していたという。しかし、ただの作り物だったみたいだ。
さて、木場たちが行ったあとは俺たちだ。
「小猫ちゃん、行こうか」
「……はい」
俺と小猫ちゃんもその場をあとにして進みだす。小猫ちゃんはこの戦闘から仙術を使うらしいけど……。さっきのは俺が悪かったから機嫌直してぇぇぇぇ!
ま、まあ、いまはそれはおいておこう。それよりもゲームだ。
「イッセー、よろしくね」
「イッセーさん! がんばってください! 負けないで!」
「うふふ、がんばってくださいね」
部長もアーシアも朱乃さんもチョー期待してくれてる! うおおおおっ! 良いところ見せないとな! エイジも声をかけてくれたけど、久々の女の子の応援で聞こえなかった!
俺と小猫ちゃんは走るわけでもなく、歩くわけでもない、微妙な歩幅で進んでいた。
店内は響きからさ。走ると相手に距離を測られそうなんだ。しかも店内は横に長い一直線のショッピングモール。物陰に隠れながら進むしかない。
まあ、大きなデパートといっても端から端まで歩いても10分もかからないだろう。それを注意しながら動いていく。
あるところまで進んで、自動販売機の陰に隠れて俺たちは前方の様子をうかがっていた。
……うーん。見える範囲では敵なし。すでに開始してから5分ぐらい経つが警戒しながら動いているせいか、4分の1程度しか進んでなかった。
俺たちは戦いを回避しているように見えて、実は陽動だったりする。
と、隣で小猫ちゃんが――ネコミミを頭に生やしていた!
そのネコミミがぴこぴこと動く! さらに尻尾まで生やして殺人的なかわいさだッ! おかしい。俺がこんなに興奮するなんて!? ロリ属性はなくて獣ロリ属性はあるっていうのか!? 小猫ちゃんは猫又モードで必殺のかわいらしさだッ!
小猫ちゃんは遥か先に指さして言う。
「……動いています。真っ直ぐ向かってきている者が2人」
「わかるのかい?」
「……はい、現在、仙術の一部を解放していますから、気の流れでそこそこ把握できます。さすがに姉さまみたいに詳細まではわかりませんが……」
なるほど。しかし、このネコミミがセンサーになっているのかな? すごい便利じゃないか。
これが周囲全体の気を読むという仙術! 思えばニオイで何が起きたかある程度分かっていたのも猫又だったからか。猫だから人間ベースの悪魔よりも鼻が利いていたんだな。
「……あとどのぐらいでこちら方面に進む奴らと出会う?」
「……このままのペースなら10分以内です」
――10分か。
覚悟を決めておいたほうがいいな。神器は通常で使うか? それとも禁手か? 迷うところだが、まだ相手がどんな能力者かわかったわけじゃない。
俺は――素じゃ体力自慢がいいところだ。魔力はてんでない。神器で引き上げたところですぐにガス欠。……強力なパワーがあっても使いどころを間違えれば即負ける!
……俺は常に危うい状態なんだ。それだけは肝に銘じておかないと。
小猫ちゃんが俺のことを意外そうに見つめていた。え?
「な、なに?」
「……いえ。イッセー先輩って、いざというときになると戦士の顔になりますね。普段はいやらしい顔つきなのに……」
……マジで? 俺ってそんなに普段から、やらしい顔つきでしたか? ま、まあ、普段からエロ妄想しているからなぁ……。
俺が自分の顔を手でまさぐっているそのときだった――。
「――ッ!」
小猫ちゃんが突然、前方の天井を見上げた。
「……上っ!」
なんだなんだ? 驚愕する小猫ちゃんの視線を追うと――。
天井へ一直線に伸びるロープ――否、ライン! ターザンみたいなロープ使いで天井から降ってきたのは――。
「――兵藤か! まずは一撃ッ!」
匙だった! 膝蹴りの体勢のまま俺目掛けて攻撃を仕掛けてくる! しかも匙の背中に誰か乗ってやがるぞ!
俺は素早く籠手を盾にしてガードした!
ドゴンッ!
落下の勢い+蹴り+2人分の体重で俺の籠手を通して衝撃が体に伝わってくる!
一撃くらった勢いで体勢がぐらつくが、なんとか持ち直し、俺は前方の――敵に向かってかまえた。
「よー、兵藤」
現れたのは匙。その隣には匙の背中に乗っていた――少女。生徒会のメンバーか。確か一年生だったな。よく匙のうしろについて共に行動していた。
匙の右腕は――黒い蛇が何匹もとぐろを巻いている状態だった。以前とは形がまったく違う! 前はデフォルメなトカゲの頭部がくっついているだけだった。神器が変化したのか!? ……つーか、俺の籠手に黒い蛇が巻きつかれており、匙の神器と繋がっていた。さっき一発もらったときに繋がれたのか!
右腕にもラインが繋がっているのが……こちらは匙の神器と繋がっていない。遥か先のどこかと繋がっているようだ。相手本陣までこちらのラインは繋がっているのか?
不気味だけど、力を吸われている感じはない。
俺が匙の神器に視線を送っているとあちらも気づいたのか、苦笑しながら言う。
「まあ、俺も修行したってことさ。おかげでこれだ。で、天井から店内の様子を見ようとラインを天井に引っ付けて上がってみたら、遠くの物陰に隠れてる2人が見えたんだ。気づいてないし、チャンスとばかりにターザンごっこで奇襲さ」
なるほどね。そう来たか。ああ、なんとなくわかっていたよ。
もし、最初に出会うとしたら、おまえだって。なんとなくわかっていた。
おまえもそう思っていたんじゃないか? なあ、匙。
俺たち似てる。何から何まで似てた。スケベなこと、主に一途なこと、バカなこと、真っ直ぐしか突っ込めないこと。
似すぎだった。だから、すぐにわかっちまったよ。俺とおまえは今日戦うって。
「こっちも修行したんだぜ。夏休みの大半をドラゴンと追いかけっこに費やしてな!」
悪いな、匙。俺はおまえを倒して先に進むぜ。今日勝つことが一番大事なんだ。
前回ゲームに負けたのは俺のせいだったし、俺はヴァーリに近づかないといけない。あいつはいつか俺を狙ってくる。そのとき、部長やアーシアたちに危害を加えるかもしれないんだ。
それを防ぐためにも俺は強くなる!こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだよッ!
そう、気合を入れたときだった。俺と小猫ちゃんの耳に信じられないアナウンスが届く。
『リアス・グレモリーさまの「僧侶」1名、リタイヤ』
――ッ! なんだと!? どっちだ!? まだ開始して間もないんだぞ!? アーシアは部長と――。匙がにやける。
「やられたのはおそらくギャスパーくんだよ」
……やられたのはギャスパー? 何があった? 早すぎるだろう? 監視のためにコウモリに化けて店内を動き回っていたんじゃないのか?
「ギャスパーくんは引っかかったんだ」
怪訝に思う俺へ匙は続ける。
「ルール上、ギャスパーくんの神器は封じられていることはこちらにも連絡があった。そうなると、必然的に使ってくる能力はヴァンパイアの力。コウモリに変化して店内の様子をうかがうだろうってさ。で、会長が思いついたのさ。俺らは本陣を活用しようってな」
本陣? 食材品売り場だよな、あちらは。匙はさらに続ける。
「まずはシトリー本陣で一部の眷属が不審な動きをする。すると、監視きたギャスパーくんは気になって追うだろう? さらに不信な行動を見せれば、他に飛ばしていたコウモリも呼び寄せて複数で監視を始める。多くのコウモリが集まればこちらのもんだ。コウモリが多く集まれば何かあったとき、それが本体へ化ける。近くまでコウモリを集合させたところで――吸血鬼の苦手なニンニクだ。俺たちの本陣は1階西側の食材品売り場。ニンニクなら大量に置いてある。ギャスパーくんを捕らえるなんて
ニンニクの臭いでやられたところを捕獲して撃破されたってことか! そんな! こんなやられ方あるのかよ!
「シンプルだろう? んでもって、これ以上ないほどの倒し方だ。いくら修行をしたっていってもニンニク克服まで視野に入れていないだろうって会長が言っていたんだよ。本陣の位置からできた偶然の発想だったけど、それでも撃破は撃破だ」
……盲点だったとでも言うのか? いや、いくら効果的だとしてもニンニクぐらい我慢しろよ、ギャスパァァァァァァァァアアッ! 初っぱなからギャグ張ってどうするよ!
ギャー助! あとでニンニク克服練習だ! 主食もガーリックライスかガーリックトーストに変えてもらうからな! 監視もろくにせずに戦線離脱とかあり得ん!
『相棒、倍加は危険だ。奴の神器と繋がっている以上、倍加すればその分の力をあちらに取られる』
――ッ! そうか、匙の神器は繋がった先のエネルギーを吸う能力。いま、俺の神器とあちらの神器が繋がっている以上、倍加は危険ってことか!
『それに、いま神器は動かん』
…………………。
え、ええええええええええええええええええええええええええええっ!?
なっ!? どういうこったよ、ドライグ! なんでこんな肝心なときに!
『神器が曖昧な状態になっているのだ』
曖昧って! ブーステッド・ギアを見ると、籠手の宝玉も光が灯っていない! 薄黒くなっていた!
『あの修行で、次の分岐点に立ったのだ。あと一押しで神器が変わると思うのだが、その変化が通常のパワーアップか、禁手かはわからない』
つまり、俺の神器は分岐点の手前で止まっていて、普通のパワーアップか禁手かで迷っているってことか?
『簡単に言うならその通りだ。選択肢が増えている状態で、どちらに進んでいいものかブーステッド・ギアのシステム自体が混乱しているのだ』
普通のパワーアップと禁手どっちでもいけるってことか?
『ああ、普通のパワーアップならば気合一閃で果たせるかもしてないが、禁手は劇的な変化がおまえのなかで生まれなければ至れない。ただ、これだけは覚えておけ。いまのおまえには禁手に至れるチャンスが到来している。あとはおまえしだいだ』
そんなことを言われてもですね! どうしたものか……。いきなり、劇的な変化って言われてもわからんって! 何をどうすれば禁手ですか!? そもそも、なんでこんな大事なときに!?
『それと、通常のパワーアップを選んでも神器にあちらの神器が繋がっている状態ではあまり意味はないだろう。禁手に至れれば、至ったときの衝撃の余波で吹き飛ばせるだろうが……』
クソ! なんてこった! いきなり大ピンチじゃねぇか!
俺は距離を取るため、その場から一旦引こうとするが――グンッとラインに引っ張られて体勢を崩す! やっぱり匙の神器は厄介だ!
「逃がすかよ、兵藤!」
そのまま一気に間を詰められ――ドンッ! 腹部に蹴りを食らう!
ガハッ! 俺は匙の蹴りを上体を崩す。だが、すんでで腹筋に力を入れて最悪のダメージは回避した。へへへ、基本トレーニングもちゃんとこなしたからな。腹筋には自信があるぜ!
「へぇ、結構マジで蹴ったんだけどな。おまえもハンパじゃないトレーニング積んだようだな」
匙も思ったほどのダメージを与えられずに苦笑していた。
逃げるのは無理か! なら、正面からぶつかる!
俺は匙から距離を取ることを諦め、一気に向かう! 生身での殴り合いはそこまで得意じゃないが、基本的なトレーニングは積んでいる! 格闘するだけの体は作ってあるんだ! あとは己の身体を信じる!
拳を握り、匙へ殴りかかろうとするが――。匙は右腕からラインを俺へ放つ! 俺の力を吸うつもりか!? 警戒する俺だが、ラインは俺を通り過ぎて、ある店舗のライトへ張りついた。
「
匙と匙の後輩が懐からサングラスを取り出して、装着した! 何を――っ。疑問に思うおれだが、すぐに意味を理解する。
カッ!
証明がまばゆい光を発し、俺と小猫ちゃんの視界を焼く! クソ! 目つぶし!
『やられたな。ライトにラインを繋いで魔力を送ることで一瞬だけ光を弾けさせた』
冷静に解説するな、ドライグ! ダメだ! 目が開かな――。
ドゴンッ!
「ぐはっ!」
再び腹部に衝撃が襲う! 今度は腹筋をしめなかったせいか、もろに食らった! さらにくの字に体を曲げた俺の背中に匙の一撃が加わる!
いってぇぇぇぇっ! 痛みがこみ上げてくるなか、俺のあごを――。
バガンッ!
匙のアッパーらしきものが鋭く射抜いていった!
あまりの衝撃に、俺は床に突っ伏した。
……くっ……。やられた。完全に初手を取られた……。しかも、かなりのダメージだ。
あごをやられた衝撃で歯がガタガタいっている。口のなかもそのとき切った。血の味が口内に広がる。目が回復してきた――。突っ伏したまま、顔を上げると……。
こちらへ手を向け、魔力の弾を放とうとしている匙の姿がっ! 一気にトドメをさす気かよ! 俺は急いで立ち上がり、横に転がった!
ドンッ!
放たれた魔力の一撃で床に大きな穴が開く! なんて威力! 完全にトドメ用じゃねぇかよ! 危ない! 何もできずに退場するところだった。俺もギャスパーのこと言えないぜ!
「……やるじゃなぇかよ、匙」
「兵藤。俺は本気だよ。俺は本気で赤龍帝と呼ばれるおまえを倒す」
――っ。匙の瞳は決意に満ちていた。凄まじいまでの本気がうかがえる。
さらに匙は手を向け、魔力の一撃を放とうとしていた。
ドンッ!
再び放たれる高出量の魔力の塊! 大きさは大したことはない。おそらく、建物をできるだけ壊すなというルールに従っているのだろう。
だが、俺ぐらいの相手を倒すには十分な威力の一撃だ!
俺が避けた先に会った店舗が魔力の一発で破壊される。
しかし、これだけの一撃、匙はどうやって生み出している? あいつも俺ほどじゃないが、魔力が低いと聞いた。なのにこの威力を生み出す要因はなんだ?
俺はそのとき我が目を見開いた。匙の神器は自身の胸部――心臓に向かって伸びていたからだ。
――この一撃の源流は、匙の命かッ!?
「匙! おまえ! おまえは自分の命を……魔力に変換してやがるのかッ!?」
「そうだ。魔力の低い俺が高威力の一撃を撃ちだすにはこれしかなかった。神器の力を命に変換する。見ての通りだよ。『命がけ』ってやつだ」
「本当に死ぬ気か……ッ!」
匙は――真剣な眼差しで笑んでいた。
「ああ、死ぬ気だよ。死ぬ気でおまえらを倒すつもりだ。――おまえに夢をバカにされた俺たちの悔しさがわかるか? 夢を信じる俺たちの必死さがわかるか? この戦いは冥界全土に放送されている。俺たちをバカにしてた奴らの目の前でシトリー眷属の本気を見せなきゃいけない!」
ふと、俺はその光景に見覚えがあった。
――そう、これは俺がライザーとのゲームで部長を助けに行ったときとそっくりだ。
自分の命なんて顧みず、ただただ部長を救うことだけに拳を注いだ。体が疲労とダメージで苦しくて辛かったけど、必死にライザーに食い下がった俺の情景と重なった――。
匙、おまえはあのときの俺と同じってわけか。
そのあとも俺と匙は避けたり、詰め寄ったりの激闘を繰り広げていたが、その横では小猫ちゃんが匙の後輩と攻防を始めていた。
そこにアナウンスが聞こえてくる。
『ソーナ・シトリーさまの「騎士」1名、リタイヤ』
――っ。木場とゼノヴィアのどちらかだな。よくやったじゃねぇか!
だがいまは戦闘中! 喜ぶのはあとだ!
小猫ちゃんは格闘に秀でていることは知っていたが、その格闘の腕前も数段上がっているように感じる!
って小猫ちゃん、マジで強くなってる! 匙の後輩の女の子ガードをかいくぐると、拳に薄い白色のオーラをまとわせ、相手の胸に両手を当てる!
「
ドゴンッ!
両手から衝撃波のようなものが飛びだし、まともに攻撃をくらった匙の後輩の女の子はズザサササァァァっと5メートル近く吹き飛んだ!
「……気をまとった拳であなたに打ち込みました。同時にあなたの体内に流れる気脈にもダメージを与えたため、もう魔力を練ることはできません。さらに言うなら内部にもダメージは通ってます。……もうあなたは動けません」
小猫ちゃんがそう言う!
先生が言っていた。
『小猫の仙術と格闘を混ぜた本来の戦い方は確実に武器となる。相手の肉体だけでなく、体内を巡る気脈にまでダメージを与える一撃は敵のオーラを根本から折る。だが、力に呑み込まれそうになったら、すぐに使うのをやめなければならない。仙術は気を読めるようになり、扱えるようにもなるが、世界に漂う邪気や悪意まで吸い込んでしまうからな。小猫の姉が昔力に飲まれたのは邪気を吸いすぎたせいだ』
これが小猫ちゃんの拳打! 気のこもった一撃を相手に打ちだす。外的ダメージはもちろんだが、メインの破壊力は――体の内側へのダメージ! 拳に込められた気が相手の内側に通り、内臓やらにダメージを与える!
拳のダメージだけでも凄まじいのに、内部も破壊する拳!
…………。まあ、さっきの必殺技みたいのだけで十分倒せそうだけど……。
エイジを除けば、俺たちのなかで一番効果的な攻撃をする眷族かもしれないな。
匙の後輩はぴくりとも動けず、体が光り輝き、この場から消えていなくなる。深刻なダメージを負ったため、リアタイヤとして転送されたのだろう。
『ソーナ・シトリーさまの「兵士」1名、リタイヤ』
アナウンスも聞こえてくる。これでグレモリーチーム1名、シトリーのチーム1名が欠いたことになる。
「私はお姉さまよりも強い
さて、小猫ちゃんが格好よく決めてくれたんだ、俺も先輩として気張らないとな!
しかし、匙の魔力の弾を避けるだけでも俺は苦戦していた。体をかすめるだけでもかなりのダメージを受ける。あの魔力にこめられたものは相当な代物だ。文字通、魂がこもってやがる!
「ハァハァ……ハァハァ……」
だが、魔力を撃ち続ける匙の疲弊ぶりもかなり酷い。あれじゃ、
「……イッセー先輩、加勢します」
小猫ちゃんが間に入ろうとする。
「ダメだ、小猫ちゃん。匙とサシでやらせてくれ」
俺がそれを拒否すると、小猫ちゃんは首を横に振る。
「ダメです。これはチーム戦。協力しましょう」
「ああ、小猫ちゃんの言うことはもっともだ。けどな、小猫ちゃん。匙は、あいつは俺と戦っている間、小猫ちゃんに直接的な攻撃は加えてこなかった。その気になれば、ラインを小猫ちゃんに飛ばして力を吸うこともできたはずだ。それでもそうしなかったのはなぜだと思う?」
俺の問いに小猫ちゃんは、
「私にラインを繋げても、仙術で逆に私がそのラインを通して毒を吸わされるかもしれないからですか?」
「え?」
「そうなの?」
「え? 違うんですか?」
「「……………」」
俺と匙の動きが止まった。小猫ちゃんは俺たちの様子に少し驚きながら、俺の問いの回答を言い始めた。
「わ、私が匙先輩を警戒しながら戦っていたと気づいていたから……」
「…………」
匙は何も言わない。……いや、言えないんだ……。こ、ここは俺が!
「違うよ、小猫ちゃん!」
「ああ、違う!」
匙も持ち直した! 匙がにんまり笑いながら答える!
「悪いな、
匙は本気だった。その眼差しは強く、一切曇りも陰りもない。
俺も小猫ちゃんに言う。
「てなわけだ。こいつの挑戦から逃げたらさ、俺、格好悪いじゃん? やらないと――。だから、やらないといけないんだ。ダチだからさ、こいつを本気で倒してやらないとしょうがないんだよ。やってやらねぇとよっ! 俺が部長に顔向けできねぇんだよッ!」
そう、俺たちは似てる。どこからどこまで似てた。――不器用でバカなんだよな。
小猫ちゃんはそれを聞き、拳を収め、距離を取る。
「「ありがとう」」
俺と匙は同時に小猫ちゃんへ礼を言った。
でも、どうして匙は神器だけじゃなく俺のほうにもラインを投げて力を吸わないんだ?
『おまえの力を吸っている間に神器の倍加能力を復活させられて、同時に流れ込んでくるのを防ぎたいのだろう。おまえの力とブーステッド・ギアの力を同時に吸ったら、体が耐えられずに自爆すると認識しているのだろうな。――まあ、神器がまともに動かないいまではあまり意味がないが』
複雑な神器ですこと! って俺の神器がまともに動かないことを気づかれたらヤバイんじゃないか?
『ああ、体にラインを繋げられて、一気に力を吸われるだろうな』
マジで大ピンチ!
「――埒があかねぇや」
嘆息する匙の手元にいままでにない質量の魔力が集まりだす! なんて大きさだ! この辺一帯に影響出るぞ!
と感じていたら、その魔力が圧縮されていくかのように萎んでいく。そして、匙の手元に生まれたのはソフトボール大ほどの魔力の弾だった。
「これで周囲に影響出さず、お前の体だけを完全に破壊できる」
それを作りだした匙は――もう肩で息していた。渾身の一撃。それを生みだしたんだ。
あれで俺を仕留める気だ。匙は小さく笑う。
「俺はおまえがうらやましかったんだ。主である先輩の自慢。赤龍帝。誰もがおまえを知っている。けど、俺はおまえと同時期に『兵士』になったのに何もねえ。何もねえんだよッ! だから、自慢を、自身を手に入れるんだ。赤龍帝のおまえをぶっ倒してよッッ!」
匙の方向。知らなかった。こいつがそんな風に俺を見ていただなんて……。
でも俺は――おまえの夢を乗り越える! 俺には俺の、部長には部長の夢がある! それをかなえるために必死こいてんだよな、お互い!
ドゥンッ!
匙がついに渾身の一撃を撃ちだした! 俺は避けようとするが――。
匙はブーステッド・ギアに繋いでいた自分側のラインを話しん、俺の足元に飛ばした!
ブーステッド・ギアと足元の床がラインで繋がっちまった! 俺が引っ張ろうとするが、ラインは強固なまで硬く、ブーステッド・ギアを床から放してくれない!
マズい! これじゃ、迫ってくる魔力の弾を避けられないッ!
俺も覚悟を決めるしかないか! 魔力の塊が俺を襲う!
ドォオオオオオオオオオオオオンッ!
受けた瞬間、魔力の一部が弾け、周囲にオーラが広がっていく!
その瞬間だった。
『Divide!』
俺の右腕に白い籠手が出現し、匙の一撃を受け止めいていた。――よかった。こっちは動いてくれたか。
……でも半分、ダメージをくらった。だけど、白龍皇の力で半分は消滅させたぜ。こちらの体ももう保たないけどな……。だが、もうダメージは受けないさ!
「――ッ! 俺の魔力弾を半減したのか?」
驚愕する匙。
「いちおうな、山ごもりで発動できるようになっていたんだよ。ただし、いくつか条件があってよ。ひとつ、発動する確立は一割以下。これは博打に近い。ふたつ。これがまた覚悟がいるんだよな。――俺の生命力だ。発動の成功、失敗にかかわらず使おうとすると俺の生命力を削る。こんなに怖い賭けもないだろう?」
賭けは成功した。だが、俺の生命力は削られただろう。役目を終えたのか、白い籠手はすぐさま右腕から消え去る。まだまだ使いこなせないどころか、具現化もままらない。
「俺も命をかけさせてもらうぜ。こんなところで立ち止まるわけにはいかないんだ!」
殴り合いの戦いに使う気はなかったが、赤龍帝の籠手に収納していたアスカロンを取りだす! 現在の不安定な神器だけどアスカロンを取り出すことぐらいはできる!
バキンッ!
俺を床に縛りつけていたラインが切れた!
「なっ!?」
驚愕する匙。
以前禁手化したときに使用したときより一段と使いこなせないが、匙の神器に宿るのは龍の力!
そのまま右腕に繋がっているラインも切ろうとするが、匙が間を詰めてきて――ドンッ! ブーステッド・ギアに蹴りをくらわせてきた!
右腕のラインから狙いが逸れる! だが、籠手に蹴りが入ったのでそこまでダメージはない!
匙は俺の右腕に繋げたラインを引きながら言う。
「それが龍殺しの聖剣アスカロンか。俺の龍の力を宿した神器にとっては最悪だな。だが、おまえが剣を使えないのは調査済みだ」
匙が冷静に言ってくる。ちっ、そこまで調査されてんのかよ!
「だがブーステッド・ギアに収納した状態なら扱える! オーラと威力は弱くなるけど、俺はもともと剣は使わねえ! この拳でおまえを倒してやる!」
俺はブーステッド・ギアにアスカロンを収納し、そのまま匙へ向けて拳を突きだした!
匙もかまえをとった! 拳を俺のほうへ向けてくる!
「こい、兵藤ッ!」
負けないぞ、匙ッ!