※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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第52話 VSシトリー眷属 後半戦

 

<イッセー>

 

 

 ショッピングモールの中心に、中央広場みたいなところがある。

 

 円形のベンチに囲われて、その中心には時計の柱が存在していた。よく、買い物に疲れた客が座っているところだ。そこまで歩を進めたところで俺は足を止めた。

 

 当然だろう。――ソーナ会長が眼前にいるのだから!

 

「ごきげんよう、兵藤一誠くん、塔城小猫さん。なるほど、それが赤龍帝の姿。凄まじいまでの波動を感じますね。誰もが危険視するのは当然です」

 

 冷静な口調で言ってくる。

 

 会長は結界に囲われていた。結界を発生させているのは、生徒会のメンバーの『僧侶』2人だ。先ほど断ち切ったラインが『僧侶』の1人のほうに伸びている?

 

 その近くにもメガネの副会長さん、真羅先輩が立っていた。この人も美少女さんなんだよな! しかもグラマーな体つきだし!

 

 少しして、木場とゼノヴィアが俺と小猫ちゃんの来た方向とは逆から現れた。――ゼノヴィアは無傷っぽいが、木場のほうがかなりの怪我を負っているようだ。

 

「……ソーナ、大胆ね。中央に来るなんて」

 

 部長のお声、振り返れば部長もここに到着していた。

 

「そういうあなたも『王』自ら移動しているではありませんか、リアス」

 

「ええ、どちらにしてももう終盤でしょうから。それにしてもこちらの予想とは随分違う形になったようね……。でも、イッセー。ゲームの最中に禁手に至るなんてよくやったわ」

 

 部長が褒めてくれた! 情けない至り方でしたが、褒めてくれた!

 

 部長は厳しい表情を浮かべていた。予定では木場とゼノヴィアが会長を倒す目的だった。俺たちはそのための囮だったわけだけど……。どうにもその辺を全部読まれていたらしい!

 

 会長さんのほうが一枚上手? いや、俺は部長を信じる!

 

 ――っ。

 

 一瞬、俺の意識が遠くなった。…………あれ。…………あれれ?

 

 ととと、俺はその場でよろめく。……あれれ? 意識の混濁が少しずつ強くなってきたぞ……?

 

 ついにはその場で俺は膝をついた。

 

「……イッセー?」

 

 俺の変化に部長が気づき、アーシアが回復の神器をかけてくれる。淡い緑色を放ちながら、俺の体をやさしい光が包むが――痛みは取れたが、意識が遠くなるのだけは無くならない!

 

 部長が『フェニックスの涙』を取り出そうとするが、踏みとどまった。アーシアの神器で完治しないということは、涙も効果が薄いと判断したのだろう。

 

 眷属全員が俺の変化に気づき、困惑しだした。そのなかで会長さんだけが小さな笑いを漏らしていた。

 

「アーシアさんの神器でも『フェニックスの涙』でも効果はありませんよ。リアス、私はライザーとの一戦を収めた記録映像を見ました。その結果わかったこと、兵藤くんはおそろしいまでに戦いを諦めない子だということです。仲間のため、自分のため。そしてリアスのために――」

 

 会長はさらに続ける。

 

「ダメージなどでは倒しきれないかも知れない。何度打倒してもあなたは立ち上がる。私たちにとって、あなたのその『根性』と呼ぶものが赤龍帝の力と相まって驚異的な存在だった。そう、諦めずに立ち上がり続ければ、あなたはいつか敵を倒せると信じきっている。その心構えが赤龍帝の力に直結し、パワーを幾重にも増大させてきた。現にゲームの最中に禁手至ったことが何よりの証拠です」

 

 あ、あれはおっぱいをつつけたからなんだよな……。

 

「だからこそ、違う形であなたを倒すしかなかったのです」

 

『僧侶』の1人は抱えていたバッグから――パックを取りだした。

 

 そのパックの中身は赤い。血のように。さっきまで俺の右腕に繋がれていたラインがそのパックに繋がれていて――まさか、そのパックに入っているのって……。会長がその中身を告白する。

 

「――あなたの血です。人間がベースとなっている転生悪魔。人間は体に通う血液の半分を失えば致死量です。知っているでしょう? レーティングゲームのルール。ゲーム中、眷属悪魔が戦闘不能状態になると、強制的に医療ルームへ転送されます」

 

 ――匙! まさか、おまえ! 最初からこれを狙ってッ!

 

 ガクン! 一気に俺の体から力が抜ける!

 

「もう手遅れです。もう、あなたは医療ルームに転送されるだけの血を失いました」

 

 会長の冷淡な一言!

 

「――ソーナ。あなたは――ッ!」

 

 会長を睨む部長。その表情は焦りの色がうかがえた。

 

 部長と俺たちは完全に裏をかかれたんだ……。

 

「そう、サジの神器を用いて、兵藤くんの血を少しずつ少しずつ吸い取っていたのです。対象のエネルギーを吸い取るのが本来の能力である神器で血液を吸い続けるには、相当な修行と緻密なコントロールがいりました。しかし、サジはそれを完遂させたのです」

 

 マジかよ! せっかく禁手化して倒したのに、手遅れだったのか!?

 

「兵藤くん。あなたはリタイヤが近いでしょう。これから攻撃も一度か二度しかできないではずです。理由は失血。あなたの鎧は堅牢。あなたの攻撃力は強大。けれど倒し方は探せばいくらでもあります。あなたを物理的に倒せなくてもゲームのルールがあなたを戦闘不能と見なします」

 

 俺は――もう立ち上がる力すら残っていなかった。完全にやられた……。

 

 そんな、そんな方法があったのかよ……。会長の戦術は俺たちの上の上をいっていたのか!? 会長が部長に訊く。

 

「リアス、あなたはこの戦いに何を賭けるつもりでしたか? 私は――命を賭けるつもりでした。私の夢はとても難しいものです。ひとつひとつ壁を崩していかなければ、解決の道が切り開けません」

 

 会長は真っ正面から部長へ言う!

 

「リアス、あなたのプライドと評価は崩させてもらいます」

 

 会長の言葉に部長は苦虫を噛みつぶしたようだった。心底悔しいに決まってる! この戦い、確かに部長に有利だ。有利すぎて勝つのが当たり前とさえ思われている。

 

 その状態でのこれだ。部長は敵に手を打たれれば打たれるだけ、評価を下げることとなる! 会長はそれも狙っていた!

 

 ソーナ・シトリー! どこまで計算してやがったんだよっ!

 

 会長の視線が俺に移る。

 

「サジは――。彼は、ずっとあなたを超えると言っていました。サジにとってあなたは同期の『兵士』である、友人であり、越えたい目標だったのです」

 

 ――っ。

 

 会長の言葉に俺は得心した。匙が俺に向ける気合と覇気。それは明らかに高密度だった。

 

 あいつは――最初から俺を狙っていたのか。

 

「でも、あなたには伝説のドラゴンが宿っている。ただそれだけで、彼はあなたに劣等感を持っていました。私は――そんなものがなくとも戦えると、あの子に伝えたかったのです。そして、それはサジに伝わりました。もうすぐ消え行くあなたに言いましょう。上ばかりを目指していたあなたのように、匙はあなたを倒すことを目標に走っていたのです。――夢を持ち、懸命に生きる『兵士』はあなただけじゃない! あなたを倒したのは匙元士朗です!」

 

 ――今日! 俺は! おまえを超えていくッッ!

 

 匙のあの言葉が俺の脳裏で蘇った。

 

 匙――。おまえは……俺を倒すために修行してたってのかよ!

 

 ……クソ。匙。匙よ。おまえ、すげえよ。殴られても殴られても、俺を倒すことだけを考えていた。自分が直接倒せなくても爪痕だけ残せば仲間が倒してくれると信じて――。

 

 でもよ、その心配はなさそうだぜ。俺はおまえの攻撃だけで沈みそうだ。

 

 だが、新必殺技を披露せずに消えるのは嫌だ!

 

 俺は最後の力を振り絞って立ち上がる! 少しだけ距離を取った。グレモリー、シトリー、いまここにいる全員を捉える位置に立つ!

 

 倒れるなら、わんぱくしてから突っ伏したい! 俺は両手を前に出して、部長のおっぱいに標準を合わせる!

 

「リタイヤ前に……俺は俺の煩悩をはたしてから消えようと思う」

 

 そう、どうせ消える身の俺だ。ならば最後の最後で全部を出し尽くして去ろうではないか! 俺はうちに残るパワーをすべて脳内に注ぎ込む。閃け、俺の妄想ッッ!

 

 最後のオーラが俺の全身を包み込む! パワーに注ぐんじゃない! 頭に注ぐんだ!

 

「高まれ、俺の欲望ッ! 煩悩解放ッ!」

 

 赤龍帝の力を使って、俺はさらに高みを目指すッ! もう少し保ってくれ、俺の体ッ! 俺はさっきまでの俺を越えるんだ! これはやり方しだいでは無敵の技となる!

 

「広がれ、俺の夢の世界ッ!」

 

 刹那、お入れを中心に謎の空間が展開する、それを肌で感じて――グレモリー、シトリー、両眷属の女性は身を守る格好になっていた。

 

 けど、安心して欲しい。俺の新必殺技は直接的な被害を出すものではない。派手さは洋服破壊に比べたら無いに等しいんだ。

 

 そして俺は部長に――部長のおっぱいに声を投げかける。

 

「あなたの声を聞かせてちょうだいなッ!」

 

『イッセー、大丈夫かしら……。あまり変なことをすると体に障っちゃう……』

 

 おっぱいから、かわいらしい声が聞こえてくる。

 

 なるほどなるほど。ふふふふ。聞こえる。聞こえるぞ! 良好なりッ!

 

「部長、いま俺を心配してくれましたね? 変なことばかりしていると体に障ると……」

 

 俺の言葉に部長は驚愕の表情を浮かべる。

 

「イッセー! ど、どうしてそれを……?」

 

 俺は会長の――会長のおっぱいに質問する。

 

「あなたはいま何を考えている?」

 

『もしかして、心の声が聞こえる技を開発したのかしら☆ ソーナ、困っちゃう☆』

 

 なるほど、ソーナ会長はそうくるのか。

 

 持ち主の性格と必ずしも一緒というわけでもないんだな。部長のおっぱいは幼女のような声だった。会長のおっぱいはお姉さんのセラフォルー・レヴィアタンさまに似ていた。

 

「ソーナ会長、いま俺の新必殺技が心の声を聞けるものだと思いましたね?」

 

 俺の告白に会長は酷く驚いていた。

 

「ふふふ、違う。当たっているけど違うんですよ。俺は聞きたかったんです。胸もうちを! 否! おっぱいの声を!」

 

 俺は格好つけたポーズで堂々と新必殺技の名を叫んだ!

 

「新技、『乳語翻訳(パイリンガル)』ッッ! 俺の新技は女性限定でおっぱいの声が聞こえるんですッ! ……ハァハァ。質問すればおっぱいは偽り無く俺にだけ答えを教えてくれる! ……ハァハァ。相手の心がわかる最強の技なんですッ! うっ、血が足りねぇ……」

 

 決まった! あまりにも決まってしまった! 血が思いっきり足りないからフラフラで死にそうだけど、俺は満足だった! 俺だけにしか聞こえない声! 聞きたかった!

 

 俺は山にこもっているとき、性欲も断っていた。そこで俺が感じたのは圧倒的なおっぱいへの渇望。

 

 触りたい。吸いたい。つつきたい。挟みたい。俺は修行僧のように悟りを開き、幾日も考え、ふと気づいた。

 

 ――おっぱいとお話したい。

 

 おっぱいへの深い感謝とありがたみに気づいたとき、俺はおっぱいと話してみたくなったんだ。おっぱいは何を想い、何を語るのか? 俺は知りたくなった。

 

 そのときはパワー不足で、その想いを達せなかったが、赤龍帝の力ならば可能性は広がる! そして、ついにおれは完成させた!

 

「ヘイ! そこの『僧侶』のお姉さんのおっぱい、どうなのさ!」

 

「いや、聞かないで!」

 

『僧侶』のお姉さんは身の危険を感じ、胸元を隠すが――遅い!

 

『木場きゅん! 木場きゅんと同じ戦場に立てるなんて幸せ!』

 

「なんだよ! エイジに続いて木場もモテやがって! もう1人の『僧侶』のお姉さんのおっぱいはどうなんだい!」

 

 視線を向けるだけで相手はしゃがみこんでしまった!

 

「やめてください! キモい!」

 

『兵藤怖い……。なんであんな強そうな鎧着てるのに、ただの変態にしか見えないのかしら……』

 

 ……2連続のその結果に俺はその場に崩れ落ちた。うぅ。体も限界か……。

 

 クソ! 聞いちゃダメなこともあるよね! そうなんだよね!

 

 ふと周囲を見渡したとき――全員、目元をひくつかせていた。

 

 ……あれ? そんな、こんなにも最強の技、どうして驚かない?

 

 会長は目元をひくつかせ、部長は額に手を当てて嘆息していた。

 

「リアス……。これはちょっと……」

 

「ゴメンなさい……」

 

「怖い技だと思うけど、プライバシーの侵害で、このままでは女性悪魔と戦えませんよ?」

 

「ええ、厳重注意しておくわ……」

 

 あれれれ!? 何、この反応!? 絶対に役立つ能力だと思うんですが! ていうか、これじゃ、まるで俺が――。

 

「……本物のど変態じゃないか!」

 

『ど変態ですッ!!』

 

 

 グレモリー、シトリーから総ツッコミを俺はくらった!

 

「――っ」

 

 俺は……絶句した! バカな……。俺の耳には皆のおっぱいの声が聞こえてくるんだぞ。

 

 ほら! 技だって完全に決まってる!

 

「アーシアのおっぱい、いま何を考えているのかな!?」

 

『イッセーさんったら、ケガばっかりでどうしようもないです! で、でも、治して上げないこともないんだからね!』

 

 ああ、なんてことだ。アーシアのおっぱいはツンデレだったのか!

 

 こんな風におっぱいが相手の考えていることを話してくれるんですよ!?

 

「……少しは格好良いと思ったのに。……やらしい赤龍帝。幻滅です」

 

 あう! 痛烈な小猫ちゃんの一言!

 

 うっ! ……ダメだ。意識の混濁が限界だ。血が足りん……。

 

 ……よし、最後に会長の作戦を読めるところまで読もう。

 

「会長のおっぱいさん! いまの作戦はどういう感じか教えておくれ!」

 

『この特殊な結界は「僧侶」の2人が作ってくれた囮なの☆ 精神だけ結界に置いて、姿は立体映像なのよん☆ 精神がこちらに来ていれば、体の気配とか消せるし、結果以内にオーラがあるように見せることも可能だもん☆ 本当の私は屋上でーす☆ 結果以内の私を狙うよう攻撃させて、少しでも疲弊させるのが作戦だったりするのよ☆』

 

 なるほどなるほど。あれは映像なのか。しかし、精神だけはこちらに来ていると。

 

 とりあえず、俺は会長のおっぱいの声を皆に話す。

 

「皆、会長のあの結界は……囮だ。結界のなかに立体映像を出す『僧侶』2人の術なんだ……ここで無駄に結界を攻撃させて少しでもこちらを疲弊させる作戦なんだ……。本物は屋上だ! 映像に精神だけ移しているみたいだぜ……。小猫ちゃんの索敵が屋上の会長を捉えきれないのもそのせい。でも、精神がこちらにきているから、パイリンガルも効いて映像のおっぱいが話してくれたのかな……?」

 

 俺はそれだけ伝えると、その場に倒れこむ。

 

「イッセーさん!」

 

 アーシアが俺へ駆け寄ってこようとするが――会長の『女王』が俺の元に行かせまいとする。

 

 アーシアはその場で祈りのポーズを取ると、その体が淡く輝きだし、周囲一帯に広がろうとする。これは、アーシアの回復能力が範囲拡大したものか? 修行の成果だな!

 

 回復は意味がないってわかっているはずだ。それでも俺を心配するのは生来のやさしさからだろう。アーシア、本当に良い子だ。おっぱいはツンデレだし、無敵だな!

 

「それを待っていました!」

 

『僧侶』の1人が会長の立体映像を解く。結界と会長の映像が消えるが、相手の『僧侶』はかまわずにアーシアの回復領域に足を踏み入れた。

 

 回復するつもりか? いや、彼女はダメージなんて受けていない。

 

『僧侶』は両手を広げると、叫ぶ。

 

「反転!」

 

 ドンッ! 淡い緑色の光が一瞬で変質し、赤い危険なものを発する。

 

「――あっ」

 

 その瞬間、アーシアの体が光り輝いて消えていく……!?

 

「……回復の反転はダメージ……。アルジェントさんの回復能力は絶大……それを反転すれば……」

 

 アーシアの回復領域に入ってきた相手の『僧侶』は血を吐きながらも満足げな表情を浮かべていた。なんだ! 何が起きた!?

 

「……グレモリーの回復要因を倒しました……会長……」

 

 会長の『僧侶』とアーシアが同時に消えていく。

 

 ……クソ。アーシアを持っていかれた……。お、俺も……。

 

 俺の体が光に包まれていく。俺ももうダメだ……。敵の本陣に乗り込んで『女王』にプロモーションしたかった……。それもできずに敗れるとは……情けない!

 

 でも、『乳語翻訳』ができて俺は満足だ……。

 

 ……匙。俺は――。

 

『ソーナ・シトリーさまの「僧侶」1名、リタイヤ』

 

『リアス・グレモリーさまの「僧侶」1名、「兵士」1名、リタイヤ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アザゼル>

 

 

 俺――アザゼルはVIPルームで苦笑いをしていた。

 

「……これが現赤龍帝か」

 

 観戦している重鎮の誰もがつぶやく。VIPルームは唖然となっていた。

 

 当然だ。食い入るように観戦していたのにモニターに映ったのは乳をつついて禁手に至る姿とバカな新技だ。

 

 突然、小猫に詰め寄って乳をつつかせてくれ、だもんな。しかも、それで禁手に至るし、タンニーンとの修行はなんだったんだと言いたい。観戦しているだろうタンニーンもため息吐いたな。

 

 それにバカな新技。

 

 ――パイリンガル。

 

 あまりにも頭が悪すぎる。エロに寛容な俺でさえ、一瞬何が起きたかまったく理解できなかった。この俺がこうなるのだから、他の連中は心中は酷いことになっているだろうさ。

 

 モニターに映るリアスは――顔を真っ赤にしていた。同情はするが、いやはや、これはおもしろい。

 

 しかし、このパイリンガル。派手さは皆無だが、実際のところ、恐ろしい技だ。

 

 相手が女なら、高確率で戦いの様子が逆転する。何せ、心の中を露にされるんだからな。これほど相手にとって怖い技も無い。

 

 それにしても、どんどん女に嫌われる技を開発するな、あいつは。本当にモテる気あるのか?

 

 それにしてもシトリーは本当に死ぬ気でゲームに挑んでいるな。今回のゲームで寿命を削るような戦いをしやがる。

 

 今回はシトリーの覚悟を見届けてやる。どこまでやれるか見せてみろ。

 

「ほっほっほっ、おもしろい一戦じゃな」

 

 クソジジイのオーディンが満足そうにモニターを見ている。あのわがままジジイが褒めるなんてな。

 

「サーゼクス」

 

「はい」

 

「あのドラゴンの神器を持つ小僧じゃが」

 

「兵藤一誠くんですか? 赤龍帝の」

 

 しかし、オーディンの声は意外なものだった。

 

「いや、シトリーの『兵士』のほうじゃよ」

 

 ……なるほど、そっちに注目するか。オーディンは話を続ける。

 

「いい悪魔じゃな。大切にするがいいぞ。ああいうのが強くなる。赤龍帝の小僧を倒した功績は大きいぞい。これだから悪魔どものレーティングゲーム観戦は楽しいわい。弱者が一戦の間に化ける。これぞ、真の試合というものじゃよ」

 

 あのオーディンが数時間前まで存在すら知らなかった者に最大級の賛辞を送る。

 

「そうでしょうそうでしょう! オーディンおじいちゃんったら話がわかるんだから☆」

 

 セラフォルーも妹の眷属を褒められて、ご機嫌のようだ。いまのいままで泣きそうな顔でハラハラ見ていたのにな。

 

 ソーナ・シトリーのあの『兵士』。匙元士朗と言ったか。イッセー以上にこの試合で評価を一変させたと言っていいだろう。

 

 全冥界に放送されたこの試合。案外、赤龍帝よりも名も無きドラゴン神器使いのほうが有名になるかもしれない。

 

 それにしても、小猫の奴……全冥界に乳をつつかれているところを放送されるなんて、かわいそうだな……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<木場>

 

 

 イッセーくんとアーシアさんがバトルフィールドから消えたあと、この場に残ったのは僕――木場祐斗と主であるリアス部長、エイジくん、朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃんの6人だった。

 

 相手は残り3名。会長、真羅先輩、『僧侶』の生徒会メンバー。

 

 ――3人取られたか。いやリタイヤはしなかったが、ダメージが酷い僕も合わせて4人――半分取られたことになる。

 

 優勢と言われていたゲームが、いざ始まってみてば大番狂わせ。優勢と見られていた側が半分もやられる。上で見ている上級悪魔の方々の苦言が聞こえてきそうだ。

 

 確実に部長の評価は下がる。けれど、これ以上下げさせるわけにもいかない。

 

 僕たちのチームのムードメーカーだったイッセーくんが消えた。これは……大きい。僕はなんとか耐えているが、部長の心中は如何に。アーシアさんが残っていれば、彼女はショックを受けていたかもしれない。

 

 現メンバーは――いまのところ変化はない。衝撃はあったとしても、戦いに影響出なければ問題はないのだが……。

 

 本当にレーティングゲームは何が起こるかわからない! 力だけでは勝てないことを僕たちは学んだ。

 

 僕が思考を巡らせている間に、部長はすぐに気持ちを切り替えた。

 

「小猫、気は感じる?」

 

 眼前にいる2人を警戒しながら、部長が小猫ちゃんに訊ねる。

 

「……はい。先ほどは感じ取れませんでしたが、いまは屋上に会長の気を感じます。さっきの結界は会長の姿をあるように見せるための虚偽と幻影、そして本人の気と位置を感じ取られないようにする特殊なデコイだと思います」

 

 ネコミミをぴくぴく動かして、会長の気を探っているようだ。小猫ちゃんもイッセーくんがいなくなっても戦える様子だ。

 

「では、そちらのお2人を倒して『王』を倒しに行きましょうか」

 

 朱乃さんも黄金のオーラをバチバチと放ち戦闘態勢をとる。それにしても本当にどれだけの修行を積んだんだ!? ゼノヴィアといい本当に実力が跳ね上がっている!

 

「そうだな。先ほどの木場の借りもあるし、アーシアの仇をとらせてもらわないといけないからな」

 

 ゼノヴィアも真・リュウノアギトを構えた。まるでイッセーくんが退場したことにショックを受けた様子も見せない! まあ、目は座っていて凶悪なオーラは噴き出ているが……。

 

 それでも『王』である部長を一番後方に、さらに『王』である部長を守るようにエイジくんが立ち、負傷している僕も後方に。朱乃さんとゼノヴィアはそれぞれ『女王』である森羅先輩と『僧侶』である草下(くさか)さんと対峙した。

 

「ああ。アーシアとイッセー、それに木場の仇を取らせてもらおう」

 

 ゼノヴィアが真・リュウノアギトを『僧侶』の草下さんに向ける!

 

「さあ、始めましょうか。かわいい後輩たちの仇討ちですわ」

 

 朱乃さんがいつもの魔術とは違う。雷の槍を手元に出現させた! 朱乃さんが近接武器!? しかも、雷には光が宿っていて高密度な魔力が練られている!

 

「私に近接武器で挑むつもりですか?」

 

 真羅先輩が少し不機嫌そうに言った。それはそうだろう。朱乃さんは本来遠距離の広域型。その広域型の朱乃さんが長刀の有段者である真羅先輩に槍で挑もうというのだから、なめていると思われても不思議ではない。

 

 だが、朱乃さんはニッコリ笑みを浮べた。

 

 ヒュンッ!

 

「――っ!」

 

 軽く槍を振った朱乃さん! その素振りだけで決して初心者ではないと思わせるほどの鋭い突き!

 

 朱乃さんは槍を構えながら言う。

 

「広域型だけではなく、近距離戦闘もエイジくんとの修行で覚えさせられましたから。――夏休み前の私と一緒にしないでくださいね」

 

 ――っ。本当にエイジくんはどれだけの修行を積ませたんだ? たった二週間程度……いや、部長と朱乃さんは途中参加だから修行時間はそこまでないはずなのに、僕では勝てる気がしなくなっている……。

 

 たまらず僕はエイジくんに話しかけた。

 

「エイジくん」

 

「なんだ?」

 

「僕にも修行をつけてくれない?」

 

「…………骨が折れたり毎回虫の息になったりして、アーシアの回復神器も使用不可能。さらに俺のマジカルエステは陽と陰の、男と女の気が関係しているから使用不可能状態で、死なずに、毎日受けれればいいぞ」

 

「…………ゴメン。僕には無理みたいだ」

 

「そうだな」

 

 …………。女の子限定で実力を跳ね上げる凄腕トレーナーなんだね。男の僕じゃ、骨が折れて虫の息なった状態、しかも回復なしじゃ、死亡するよ……。

 

 気持ちを切り替えて戦闘に目を向ける。

 

「いくぞ!」

 

「いきますわよ!」

 

 丁度、2人が同時にシトリー眷属の2人に向かっていくところだった。

 

 ゼノヴィアが真・リュウノアギトを縦横無人に振りかぶりながら突進する!

 

鮫  特  攻(スコントロ・ディ・スクアーロ)!」

 

 まるでひとつの台風の塊! 床だけでなく空間が引き裂かれていくような剣戟だ!

 

 その剣戟を前にても『僧侶』の草下さんは逃げようとしない! 両手を突き出して――。

 

「反転」

 

 ――っ! まずい! と僕がそう思ったときだった!

 

 ピタッ。

 

 凄まじい剣戟がピタリと止まったのだ! さらに――。

 

 ザクッ! ゼノヴィアは懐から投擲用のナイフを投げて草下さんの腹に突き刺した!

 

「――えっ?」

 

 驚愕の声が草下さんの口から漏れた。――それはそうだ。神器を発動させた瞬間、剣戟が止み、さらに腹にナイフが刺さっていれば、誰だって驚く。

 

「私が素直に怒りに任せて正面から特攻すると思っただろう? 以前の私ならそうしていたが、地獄の修行を受けて怒りをコントロールし、小手先の戦法と相手の裏をかくことを学んだ私は、いままでよりも強くなっている。――アーシアの仇。確かに取らせてもらったぞ」

 

 そう言ってからゼノヴィアは草下さんに刺さったナイフを抜いて仕舞う。草下さんはそのまま崩れ落ちて光になって消えた。

 

『ソーナ・シトリーさまの『僧侶』1名、リタイヤ』

 

 次に朱乃さんと真羅先輩の戦いに目を向ける。

 

「――くっ!」

 

「ほらほら、私はまだまだいけますわよ?」

 

 ヒュヒュンッ! ヒュンッッ!

 

 朱乃さんが雷光の槍を振りかぶる! すごい! 真羅先輩と互角以上に渡り合い、真羅先輩は防戦一方だった!

 

 まるで舞うような高速の突き! 真羅先輩は何とか直撃は受けていないようだが、雷と光で体が傷ついていった。

 

「ハァハァ……、いつの間にこんな技術を……!」

 

 肩で息をしながら訊ねる真羅先輩。僕も朱乃さんが近距離戦闘で十二分に戦えることに驚いている!

 

「うふふ。この夏休み。本当に地獄の特訓をしたんですのよ。毎日指1本動けなくなるまで虐められて、骨を折られたりは当たり前。初日はエイジさんとゼノヴィアさんの修行に混ぜてもらったときは後悔しましたけど。近接戦闘であなたとここまで戦えているのですから、修行の成果を実感できてすごく嬉しいですわ」

 

 朱乃さんは肩で息をしている真羅先輩とは違い、余裕そうに槍を構えて矛先を真羅先輩へ向けた。

 

「ハァハァ……、そんなに……すごいんですか?」

 

 突然訊ねてきた真羅先輩。会話を長引かせて体力を回復する気なのか? 朱乃さんも気づいていて技と槍を向けたまま答えた。

 

「ええ。短期間で強くなれる修行は女の子限定ですけど……。魔術や妖術から仙術、様々な武器の扱いから格闘技まで全て最高レベルの使い手ですわ。あなたたちも強くなりたいのであれば弟子入りしてみてたら? 神器は専門外だけど、それ以外なら彼は名トレーナーよ」

 

 朱乃さんの雰囲気が変わる! 勝負を仕掛ける気だ!

 

「……ッ。本当に神城くんが修行をみていたなんて計算外だわ……。だけど、ただで負けるわけには行かないのよ!」

 

 真羅先輩も長刀をかまえた!

 

 張りつめる空気!

 

 先に朱乃さんが飛びだした! 早い! 修行をする前の僕ぐらいの速度はある! 朱乃さんの足元を見ると魔力で光っていた。肉体強化の魔術か!

 

「止めよ」

 

 と槍で貫こうとした瞬間。真羅先輩は長刀を捨てて前方に例の鏡を出現させた!

 

 このタイミングでカウンター!? 僕が驚いていると、さらに驚くことが起きた!

 

 朱乃さんが持っていた雷光の槍が鏡に当たる寸前で、砕け散ったのだ! 結果、鏡は割れずに朱乃さんにダメージはない。

 

「こんどこそ、本当の(・・・)止めですわ」

 

 ザシュッ。朱乃さんが言った瞬間――、真羅先輩の背中に先ほど消えたはずの雷光の槍が刺さっていた!

 

「――なっ!?」

 

 驚愕する真羅先輩に、朱乃さんは冷笑を浮べて話し始めた。

 

「私はもともと広域型ですし、雷光の槍をどこでも、自由に何本でも創りだせますわ。――時間さえあれば」

 

「――っ!」

 

 ――っ。真羅先輩の会話にのったのは光の槍を真羅先輩の後方に創りだすためだったのか!

 

「カウンター型であることは知っていましたし、大振りで、ここぞという場面で神器を発現させることは読めていましたから、逆手に取らせていただきましたわ。――イッセーくんたちの仇。討たせていただきましたわ」

 

『ソーナ・シトリーさまの「女王」、リタイヤ』

 

 本当に2人とも格段に強くなっている!

 

 これで相手の残りは――『王』、ソーナ・シトリー会長のみとなっていた。

 

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