※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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第56話 グレモリーVSディオドラ&禍の団 前編 

 

<リアス>

 

 

 テレビ収録から数日、ディオドラとのレーティングゲームがいよいよ始まろうとしていた。

 

 オカルト研の部室に集まって、各自思い思いの戦闘準備を整えている私の可愛い下僕眷属の気合も十分入っていて、コンディションもいい。

 

 私自身も、可愛いアーシアを貶めて酷い目にあわせようとしたディオドラに対する怒りで戦意が高揚して魔力が体中をふつふつと高まってきている。

 

 ディオドラ、今回のレーティングゲームは容赦はしないわ。

 

 私たちの全力を持って、二度とアーシアに近づけないように、心の底から恐怖を刻み込んであげる。

 

「そろそろ時間ね」

 

 時計を見て立ち上がる。

 

 部室の床に描かれている転移用の魔法陣に皆で乗って、転送を待つ。

 

 転送が無事に終了したら、イッセーとアーシアを呼び出してディオドラの本性を伝えないといけないわね。

 

 ……正直、アーシアに伝えるのは辛いし、ディオドラの事なんて話したくもないけど。こればっかりは仕方がないわ。

 

 アーシアがショックを受けると思っていても。いずれは話さないといけない日が来るかも知れないんだから。

 

 ゆっくりと魔法陣の光が強くなり、私達はレーティングゲームが行なわれるフィールドへと転送された。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「着いたのか……?」

 

 魔法陣の光が収まって一番初めにイッセーが口を開いて、きょろきょろと観察するように、周りを見わたした。

 

 転送された場所は広大な場所で、一定間隔に太い柱が並んでいて、地面は石造り。さらに後方には巨大な神殿が鎮座していた。

 

 ここが私たちの本陣になるの?

 

「リアス!」

 

 後ろに立っていた朱乃が大声で私を呼んだ。

 

 その大声で、後ろを振り返って見ると、エイジがいなかった。

 

「エイジくんだけ、別の場所に転送されたようです!」

 

「なんですって!?」

 

 別の場所!? ゲーム側の不手際? 転送の失敗? でも、ちゃんと魔法陣は……。それにエイジだけ特定して別の場所に――。

 

「やられた……!」

 

 そういうことか!

 

「これはやっぱり……」

 

「ど、どうしたんですか、部長!? 朱乃さんまで!?」

 

 朱乃が不安そうにつぶやき、私と朱乃の態度に戸惑うイッセー。

 

 考えついたことを説明しようとした瞬間――、神殿とは逆方向に無数の魔法陣が出現する!

 

「……アスタロトの紋章じゃない!」

 

 祐斗が剣をかまえる。この魔法陣の紋章は――。

 

「魔法陣全てに共通性はありませんわ。ただ――」

 

「全部、悪魔。それに魔法陣から察するに『禍の団』の魔王派に傾倒した者たちよ」

 

「――ッ!?」

 

 私の言葉にイッセーとアーシア、ゼノヴィアが驚きの表情を浮かべた。

 

「まさか、クズだとは思っていたけど『禍の団』とも通じて、レーティングゲームまで汚してくるなんて……!」

 

「忌々しき偽りの魔法の血縁者、グレモリー。ここで散ってもらおう」

 

 囲む悪魔の1人が挑戦的な物言いをしてきた。冗談じゃないわ! 今すぐに消し去って――。

 

「キャッ!」

 

 悲鳴! この声は――アーシア!

 

 アーシアの方向へ振り向くと、そこにアーシアの姿はなかった!

 

「イッセーさん!」

 

 空から声! 空を見上げると、そこにはアーシアを捕らえたディオドラの姿があった!

 

「やあ、リアス・グレモリー。そして赤龍帝。アーシア・アルジェントはいただくよ」

 

 なにをふざけた事を……!

 

「アーシアを話せ、このクソ野郎! 卑怯だぞ! つーか、どういうこった! ゲームをするんじゃないのかよ!?」

 

 イッセーの叫びに、ディオドラは始めて醜悪な笑みを浮かべた。やっぱりそっちが本性なのね。

 

「バカじゃないの? ゲームなんてしないさ。キミたちはここで彼ら――『禍の団』のエージェントたちに殺されるんだよ。いくら力あるキミたちでもこの数の上級悪魔と中級悪魔を相手にできやしないだろう? ハハハハ、死んでくれ。速やかに散ってくれ」

 

 ……随分と余裕そうね。私はゼノヴィアにアイコンタクトを飛ばしてから、殺気を体に身に纏ってディオドラを睨む。

 

「あなた、『禍の団』とも通じたというの? 最低だわ。しかもゲームまで汚すなんて万死に値する! 何よりも私のかわいいアーシアを奪い取ろうとするなんて……ッ!」

 

「彼らと行動したほうが、僕の好きなことを好きなだけ出来そうだと思ったものだからね。まあ、最後のあがきをしてくれ。僕はその間にアーシアと契る。意味はわかるかな? 赤龍帝、僕はアーシアを自分のものにするよ。追ってきたかったら、神殿の奥まで来てごらん。素敵なものが見られるはずだよ」

 

 そう言ってディオドラが嘲笑する。――まだダメよ、ゼノヴィア。まだ……。

 

 完全に調子にのってるディオドラに、さらに私は言葉を発する。

 

「ディオドラ! エイジはどこへやったの!?」

 

 するとディオドラは嘲笑を濃くして話を再び始めた。

 

「ああ、捕食者か。捕食者ならこことは離れた位置に転送したよ。彼は厄介だからね。ここにいる悪魔たちの3倍の数で襲わせてもらっているよ」

 

「――っ!」

 

 ここよりも3倍って、少なくても3000近くの悪魔のなかに……。

 

 エイジの身を心配する私たちにディオドラは口もとに手をあてて微笑んだ。

 

「まあ、彼は能力の大半を封じられているみたいだから、過剰戦力だったかも知れないけどね。周りを悪魔に囲まれて、今頃泣いているんじゃないかな?」

 

 ……本当に最悪ね。話していて不快だったわ。でも――、時間を稼いだおかげで、ゼノヴィアの準備は整ったようね。

 

「アーシアを離しやがれ! 俺がてめぇをぶっとばしてやる!!」

 

「まったく、転生悪魔の汚らわしいドラゴン風情が僕をぶっとばせるとでも――」

 

 ディオドラへ向って、怒り心頭で吼えるイッセー。ディオドラは余裕そうに目を瞑ってやれやれと口を開こうとした、この瞬間!

 

 ゼノヴィアの姿が掻き消える!

 

 ザシュッ!

 

「がああああああッ!?」

 

 ディオドラの悲鳴。アーシアを捕らえたまま空に浮かんでいたディオドラの腕が飛び、鮮血が溢れだす。

 

 そこへゼノヴィアの声が響いた。

 

「アーシアは確かに返してもらったぞ」

 

 しゅたっと、アーシアを片手で抱きかかえてゼノヴィアは地面に降り立った。

 

「ゼノヴィアさん……」

 

「大丈夫か、アーシア」

 

「はいっ!」

 

 ゼノヴィアの言葉にしっかりとうなずくアーシア。――成功してよかったわ。ゼノヴィアが周りの悪魔たちに気づかれないように、身体強化の魔法をかけるまでが問題だったんだけど。ディオドラが自信過剰のバカで助かったわ。

 

「アーシア!」

 

 急いでアーシアの元へ駆け寄るイッセー。

 

「イッセーさん!」

 

「よかった、本当によかった!」

 

 安心するように涙目、いえ、号泣しながらアーシアの安否を気遣うけど、油断しすぎよ。まだディオドラは生きてるんだから。

 

 案の定ディオドラはこちらへ向って殺気を飛ばしてきた。

 

「ぐあがががっ! 殺してやる! 殺してやる! 殺してやる! よくも、よくも! 僕の腕を……! 絶対にお前たちを嬲って、犯して、陵辱して、屈辱と痛みを存分に味あわせたあと殺してやる!」

 

 瞳を赤く充血させながら狂気に近い殺気を放ってくるが、先ほどまでの余裕そうな顔をなくし、片腕を失い、服は鮮血で染まり、荒く息を吐いているその姿は滑稽に映った。

 

 ゼノヴィアはそんなディオドラへ向って、まだ血がついている大剣、真・リュウノアギトの切先を向けて言い放つ。

 

「私の親友に手を出してみろ! 今度は私の一閃にて命を刈り取るぞ!」

 

「ゼノヴィアさん……」

 

 凛々しく言い放つゼノヴィアと、片腕に抱かれるアーシア。まるで勇者とお姫様ね。……あれ? このポジションってイッセーなんじゃ?

 

「そうだ! 家のアーシアに二度と近づくんじゃねえぞ!」

 

 ……うん、イッセーは剣士や魔法使いみたいな外野ポジションになってるわね……。

 

「クソッ! クソォッ! 絶対に殺してやるからな!」

 

 一方のディオドラは傷が深いようで、捨て台詞を残してその場から退散した。

 

 このまま放っておいても害にしかならないだろうし、レーティングゲームを汚した借り、かわいいアーシアを犯そうとしたり、かわいい下僕悪魔のイッセーをイジメた借りを返さないとね。

 

 でも、いまはそれよりも――。

 

「まずは目の前の悪魔たちね。ハンデを背負っているとしても、エイジは1人でも十二分に強いし、いざとなったら自分で封印破棄できるから。私たちは目の前の悪魔たちを倒したあと、あらためてディオドラを倒しましょう」

 

「そうですわね。ディオドラをしっかり痛めつけてあげないと」

 

「ああ、あの男が二度とアーシアに近づけないように今度こそし止めてやらないとな」

 

「部長、仙術でディオドラの位置を捕捉しました。現在は神殿のなかにいるようです。早くこらしめに行きましょう」

 

 私の言葉に朱乃、ゼノヴィアをはじめとして全員が同意し、猫化した小猫がディオドラの現在地を伝えてきた。

 

 ふふっ、やっぱりまだこのフィールド内にいるのね。下手に逃げられなくてよかったわ。

 

 まずは目の前の悪魔たちと、私たちが戦闘態勢をとると、旧魔王派の悪魔たちも魔法陣を展開して魔力を高め始める。

 

 その一触即発の状況で突然朱乃が後ろに向って、雷光の槍を突き放った。

 

「おっと、危ないのう」

 

 朱乃が放った雷光の槍を簡単にかわす老人――って、

 

「オーディーンさま! どうしてここへ?」

 

 VIPルームの観戦室にいるはずなんじゃ? ていうかさっき、朱乃のスカートを捲ろうとしたわね。まったく、エッチなお爺さんなんだから。

 

 オーディーンさまは私たちの疑問に答えるように、長くて白いあごひげをさすりながら言う。

 

「うむ。話すと長くなるんじゃがのうぅ。簡潔に言うと、『禍の団』にゲームを乗っ取られたんじゃよ」

 

 やっぱり。

 

「いま、運営側と各勢力の面々が協力態勢で迎え撃っとる。ま、ディオドラ・アスタロトが裏で旧魔王派の手を引いていたまでは判明しとる。先日の試合での急激なパワー向上もオーフィスに『蛇』でももらい受けたのじゃろう。このままじゃとお主らが危険じゃろうと、そんじょそこらの力の持ち主では突破も破壊も難しい結界を、ミーミルの泉に方目を差し出したときに得たわしの能力で突破して、お主らの救援にきたんじゃが、その様子では必要なかったようじゃな」

 

 と笑うオーディンさま。確かに修行で強化された朱乃の雷光による超広域殲滅魔法なら、固まっているいまの悪魔たちは逃げる暇もなく殲滅できていたでしょうけど。

 

「いえ、助かります。私たちはディオドラに借りを返さなければいけないので」

 

「そうかそうか、そりゃあよかったわい」

 

 そこに旧悪魔側から声をあげる。

 

「相手は北欧の主神だ! 討ち取れば名が揚がるぞ!」

 

 そして放たれる無数の魔力の弾。かなりの数だけど、打ち落とせないこともない。

 

 向ってくる魔力の弾を打ち払おうとしたとき、オーディンさまが杖を一度だけトンと地面を突く。

 

 ボボボボボボンッ!

 

 こちらへ向ってきていた魔力の弾が全て消滅した! すごい! どうやったのか分からなかったわ!

 

「ホッホッホッ」

 

 オーディンさまが発する笑い声に、旧魔王派の悪魔たちも顔色を変えていた。

 

 

「本来ならば、わしの力があれば結界も打ち破れるはずなんじゃが、ここには入るだけで精一杯とは……。はてさて、相手はどれほどの使い手か。ま、これをとりあえず渡すようにアザゼルの小僧から言われてのぅ。まったく年寄りを使いに出すとはあの若造どうしてくれようか……」

 

 意外と、ではないけど、オーディンさまは小言が多いわね。

 

 オーディンさまから渡されたのはグレモリー眷属の人数分の小型通信機だった。

 

「ん? エイジはおらんのか?」

 

 1つだけ余った通信機にあごひげをさするオーディンさまに、うなずいて答える

 

「はい。転送のときにエイジだけ離れた場所へ飛ばされて」

 

「ふむ。まあ、あやつは1人でも大丈夫じゃろう。ほれ、アスタロト家のアホを拷問しにいくんじゃろう? ここはジジイに任せて神殿のほうまで走れ。ジジイが戦場に立ってお主らの援護をすると言っておるんじゃ。めっけもんだと思え」

 

 オーディンさまが杖をこちらへ向けると、私たちの体を薄く輝くオーラが覆う。って、落とし前をつけにいくだけで、拷問はしないわよ! ……たぶん。

 

「それが神殿までお主らを守ってくれる。通信機もエイジと合流したら渡しといてやるから、ほれほれ、さっさと走れ」

 

「でも、爺さん! 1人で大丈夫なのかよ!」

 

 イッセー、仮にも北欧の主神を爺さん呼ばわりは失礼でしょう……。それに私たちが心配するような人物でもないわ。

 

「まだ十数年しか生きていない赤ん坊が、わしを心配するなぞ――」

 

 私が思っていた通り、オーディンさまは左手に槍を出現させて。

 

「――グングニル」

 

 旧魔王派の悪魔たちへ向って一撃を繰りだした。刹那――。

 

 ブゥゥゥウウウウウウンッ!

 

 槍から極大のオーラが放出され、空気を貫くような鋭い音が辺り一面に響き渡った。

 

 ――ッ!

 

 オーディンさまが放った一撃が作り出した痕跡は遥か先まで一直線に伸び、深く地面を抉り、悪魔たちも数十人ほどは消し飛んでいた。……まったくなんて威力よ。

 

「なーに、ジジイもたまには運動しないと体が鈍るんでな。さーて、テロリストの悪魔ども。全力でかかってくるんじゃな。この老いぼれは想像を絶するほど強いぞい」

 

 さすがオーディンさま。この一撃で悪魔たちはいっそう緊張の色を濃くして、攻めるに攻められなくなっている。

 

「すみません! ここはお願いします!」

 

 ディオドラが逃げると面倒だから、オーディンさまに感謝してから、全員で神殿へ走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 神殿の入り口に入ってからすぐに、オーディンさまから渡された通信機を耳に装着した。

 

 すると聞き覚えのある声が聞えてくる。

 

『無事か? こちらアザゼルだ。オーディンの爺さんから渡されたみたいだな』

 

 ――アザゼルだった。

 

『言いたいこともあるだろうが、まずは聞いてくれ。このレーティングゲームは「禍の団」旧魔王派の襲撃を受けている。そのフィールドも、近くの空間領域にあるVIPルーム付近も旧魔王派の悪魔だらけだ。だが、これは事前にこちらも予想していたことだ。現在、各勢力が協力して旧魔王派の連中を撃退している』

 

 やっぱり観戦しているほうも襲われたのね。でもそれよりも予想していたってのは――。

 

『最近、現魔王に関する者たちが不審死するのが多発していた。裏で動いていたのは「禍の団」旧魔王派。グラシャラボラス家の次期当主が不慮の事故死をしたのも実際は旧魔王派の連中が手にかけたってわけだ』

 

 さらにアザゼルの言葉は続いて、旧魔王派は現魔王や魔法の血縁者が集まるこの場を狙ってテロを起こしたと説明した。

 

 ……ほんとうに随分と恨みは深いわね。

 

 まあ、現魔王を恨まない理由も分からなくもないけど。

 

 そして、ディオドラがいきなり強くなった理由も、ウロボロスのオーフィスから力をもらっていたならうなずける。

 

 まったく、『禍の団』は厄介ね。

 

 とりあえず、今回のゲームは――。

 

「このゲームはご破算ってことね」

 

『悪かったな、リアス。戦争なんてそう起こらないといっておいて、こんなことになっちまっている。今回、おまえたちを危険な目に遭わせた。いちおう、ゲームが開始する寸前までは事を進めておきたかったんだ。前もってディオドラが『禍の団』に通じているかもしれないという情報を得ていたし、おそらく奴らもそこで仕掛けてくるだろうと踏んでいたからな。案の定、その通りになったが、おまえたちを危ないところに転送したのは確かだ。この作戦もサーゼクスを説得して、俺が立案した。どうしても旧魔王派の連中をいぶり出したかったからな』

 

「もし、俺達が万が一死んじゃったらどうしたんですか?」

 

 イッセーの何気なく発した言葉に、アザゼルは真剣な声音で言った。

 

『俺もそれ相応の責任を取るつもりだった。俺の首で事が済むならそうした』

 

 自分が死ぬのも覚悟してたってことね。

 

 でも――。

 

「アザゼル先生、エイジが別の場所、しかも敵の真っ只中に転送されてしまったんですけど」

 

『まっ、あいつなら大丈夫だろ』

 

「「「「…………」」」」

 

「先生、アーシアがさっきディオドラに攫われそうになったんです!」

 

『――っ。大丈夫だったか?』

 

「はい! ゼノヴィアがディオドラの隙をついて無事です!」

 

『それはよかった。そこは旧魔王派の連中が次々と転送されているし、これから本物の戦場になるだろう。その神殿には隠し地下室が設けられている。かなり丈夫な造りだ。戦闘が静まるまでそのに隠れていてくれ。あとは俺たちがテロリストを始末する。このフィールドは「禍の団」所属の神滅具所持者が作った結界に覆われているために、入るのはなんとかできるが、出るのは不可能に近いんだよ。――神滅具「 絶   霧 (ディメンションロスト)」。結界、空間に関する神器のなかでむ抜きんでているためか、術に長けたオーディンのクソジジでも破壊できない代物だ』

 

「先生も戦場に来ているんですか?」

 

『ああ、同じフィールドにいる。かなり広大なフィールドだから、離れてはいるが』

 

「アザゼル」

 

『なんだ、リアス』

 

「エイジは1人で敵のなかに放り出されたんだけど?」

 

『ん? それがどうした?』

 

 それがどうしたって――。怒鳴りそうになった私にアザゼルが冷静な声で言う。

 

『ハンデを背負ってるっていっても、あいつが雑魚にやられるわけねぇだろ。ほんとうにやばかったら自分で封印解くだろうし、おまえだって大丈夫だって思って神殿のほうに向ったんだろう』

 

「そ、そうだけど……」

 

 私たちもエイジが無事だって信じてるけど、もうちょっと言い方ってものがあるんじゃないの?

 

『まあ、あいつは大丈夫だ。丁度俺の位置から悪魔たちを相手に、あいつが無双している様子が見えるからな。……だがそれにしても、中級悪魔並みの魔力と戦闘技術だけでどれだけ戦えるんだ? 周りを囲んでいる悪魔たちが次々に減らされていってるんだが……』

 

 ……うん、ほんとうに心配の必要はないみたいね。

 

 と、ここでイッセーがアザゼルに向って言った。

 

「先生! 俺たちはこれからディオドラの奴をぶっ飛ばしにいきます!」

 

『おまえら、いまがどういう状況かわかっているのか?」

 

 イッセーの言葉にアザゼルは怒気を含ませながら返した。イッセーはそれでも諦めずに言う。

 

「む、難しいことはわかりません! でも、アーシアは俺の仲間です! 家族です! 俺はもう二度とアーシアを失いたくないし、このままディオドラを逃がしたら、またアーシアを狙ってくると思うんです!」

 

「イッセーさん……」

 

 イッセーの言葉にアーシアが感動したようにつぶやいた。まったく……。

 

「アザゼル先生、悪いけれど、私たちはこのまま神殿に入ってディオドラを倒すわ。ゲームはダメになったけど、ディオドラをここで完膚なきまでに叩いておかないと、またアーシアにちょっかいをかけてきそうだから」

 

 私の言葉に、朱乃が続けた。

 

「アザゼル先生、私たち、3大勢力で不審な行為をおこなう者に実力行使をする権限があるのでしょう? いまがそれを使うときでは? ディオドラは現悪魔勢力に反政府的な行動を取っていますわよ?」

 

 通信機の先でアザゼルは嘆息していた。

 

『……ったく、頑固なガキどもだ……。ま、いい。今回は限定条件なんて一切ない。だからこそ、おまえたちのパワーを抑えるものなんて何もない。――ぞんぶんに暴れてこい! 特にイッセー! 赤龍帝の力を裏切り小僧のディオドラに見せつけてこいッ!』

 

「オッス!」

 

 気合の入った声でイッセーが答える。

 

『最後にこれだけは聞いていけ。大事なことだ。奴らはこちらに予見されている可能性も視野に入れておきながら事を起こした。つまり多少的に勘付かれても問題ない作戦でもあるということだ』

 

「相手が隠し玉を持ってテロを仕掛けてきていると?」

 

『ああ、それが何かはまだわからないが、このフィールドが危険なことには変わりはない。ゲームは停止しているため、リタイヤ転送は無い。危なくなっても助ける手段はないから(きも)に銘じておけ。――十分に気をつけてくれ』

 

 援軍、不意打ち、不意な事態に対処できるように常にかまえておきましょう。

 

「さてと、エイジも頑張っているようだし、私たちも行動開始するわよ」

 

 皆を見渡してから、小猫に訊く。

 

「小猫、ディオドラの位置は?」

 

「神殿の奥に感じます。いまは動いていないようです」

 

「そう、ありがとう」

 

 私はここでアーシアのほうへ視線を移す。

 

「アーシア」

 

「はい」

 

「ディオドラの本性はわかったでしょ。ここから先に進むと知らなければよかったと思える話も出てくると思うわ。それでもあなたは一緒に来る? 来たくないのなら護衛をつけて――」

 

 私の言葉を遮ってアーシアが首を横に振った。

 

「いいえ、私も皆さんと一緒に行きます。ディオドラさんがほんとうはあんな人だとは思っても見ませんでした。おそらく傷を負って私の前に現れたのもワザとだったんだと、思います」

 

 アーシアは俯いて涙を拭ったあと、再び顔をあげた。

 

「それでも私は皆さんと一緒に行きたいです」

 

「そう、わかったわ」

 

 私はアーシアを抱きしめる。

 

「部長さんっ」

 

「私はあなたをかわいい下僕悪魔で、妹のように思っているし、みんなもアーシアの味方だということは覚えておいて」

 

「はいっ」

 

 瞳から涙を溢すアーシア。こんないい子を貶めるなんてディオドラ、たっぷり痛みを味合わせてあげるわ!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 神殿のなかは、広大な空間だった。大きな広間がずっと続く感じだ。広間に巨大な柱が並ぶぐらいで他に目立ったものはない。

 

 神殿を抜けると、さらに前方に新たな神殿が現れ、そこを目指す。それが何度かしていくうち、とある神殿のなかに入ったとき――気配を感じた!

 

 俺たちは足を止めて、一斉にかまえた。

 

 前方から現れたのは――フードを深く被ったローブ姿の小柄な人影が15人ほど。

 

『やー、リアス・グレモリーとその眷属の皆』

 

 ――っ!

 

 ばっとアーシアを守れるように前へでる!

 

 神殿中にディオドラの声が響く! どこからだ!

 

『ハハハ、赤龍帝。辺りを見渡しても僕は見つからないよ。僕はこのずっと先でキミたちを待っているからね。――はぁ、まったく、そちらの戦車にやられた腕が痛むよ』

 

 はっ! 自業自得だろ!

 

『それにアーシア』

 

 びくっと、ディオドラに声をかけられたアーシアが震える。

 

『僕はキミを諦める気はないからね。絶対に、絶対に手に入れて見せるよ』

 

「おまえなんかに渡すわけないだろう! それよりも今からおまえのとこに行ってぶっ飛ばしてやる!」

 

 本当にイラつく奴だ!

 

『まったく、キミの意見は聞いていないよ、赤龍帝。――まあ、わざわざ僕の元にアーシアを届けてくれるっていうんなら助かるよ。――ああ、それとそれまでちょっとした遊びをしよう』

 

 遊び?

 

『レーティングゲームの代わりだよ。お互いの駒を出し合って、試合をしていくんだ。一度使った駒は僕のところへ来るまで使えないのがルール。あとは好きにしてもいいんじゃないかな。第1試合は「兵士」8名と「戦車」2名を出す。ちなみにその「兵士」たちは皆すでに「女王」に昇格しているよ。ハハハ、いきなり「女王」8名だけど、それでもいいよね? 何せ、リアス・グレモリーは強力な眷族を持っていることで有名な若手なんだから』

 

 無茶苦茶だ! いきなり、『女王』にプロモーションした『兵士』全部と『戦車』2名と戦えってのか! 10人もいるんだぞ! その後方にも5人もいるのに!

 

 ディオドラの眷属はフードを深く被って顔を隠していた。でも、性別は知っている! 確か、『兵士』8名は全部女の子だ! いいなー、ハーレム眷属……。いやいや、ディオドラの野郎とうらやましがっちゃいかん!

 

「いいわ。あなたの戯れ言に付き合ってあげる。私の眷属がどれほどのものか、刻み込んであげるわ」

 

 部長は快諾した! マジか! いいの?

 

 俺が部長にほんとうに相手の言いなりになっていいのか訊ねようとしたとき、ディオドラの眷属から声をかけられた。

 

「あの、ちょっといいですか?」

 

 女の子の声! 絶対美人さんだ!

 

『どうした?』

 

 え? ディオドラが返すのか? 俺たちに言ったんじゃなかったのか?

 

 俺たちが疑問に思っていると、後方に待機していた5人も前に来て、通路の奥、ディオドラがいるであろう方向へ向って頭を下げた。

 

 ……へ?

 

 皆が固まっていると、眷属のなかで1番立派な衣装を身に纏った女性が口を開いた。

 

「これまでお世話になりました、ディオドラさま。私たちと屋敷に勤める眷属全員、今をもってディオドラさまの下を去らせていただきます」

 

 え、ええええぇぇええええええええ~~~!!? いきなり仲間割れ!? っていうか眷属全員に見捨てられてる!?

 

『なん、だと……!?』

 

 聞えてくるディオドラの声もまるで思っても見なかったようで、驚愕などの感情が表れていた。

 

『な、なぜだ!?』

 

「いえ、なぜと言われましても……」

 

 おそらく「女王」の眷属が、「あなた、ほんとうに分かってないんですか?」という風に困ったような声をだした。

 

 そこへ再び飛ぶディオドラの大声。

 

『それに「女王」に「僧侶」、「騎士」のおまえたちは、もっと奥の神殿でリアス・グレモリーたちと戦う予定だったろう! なぜ全員が集まっているんだ!?』

 

 飛んでくる大声にうんざりしたように「女王」が答える。

 

「先ほど言った通り、私たちはディオドラさまの下から去る、と言っているんです。あなたのためなんかで現魔王政府を裏切って、危険を冒したくありませんので。もう眷属ではありませんから、命令権も受け付けないので、命令違反などではないですよ」

 

『くっ、はぐれ悪魔にでもなるというのか!? 居場所のないおまえらがどこへ――』

 

「ああ、転職先はすでに紹介されてすでに決まっているので、心配しなくても大丈夫ですよ。退職金もいりませんし、屋敷においている私物もきちんと片づけたのでご心配なく」

 

『ぐぅッ……!』

 

「「「「……………」」」」

 

 ……おい、これどうすればいいんだ?

 

 俺たちも、そしてディオドラさえも口を閉ざして混乱していると、ディオドラの眷属――、いや、元眷属? の1人が紙を渡してきた。

 

 部長が紙を受け取ると、丁寧に説明を始める元眷属さん。

 

「これはこの神殿の地図です。その地図のドクロマークがディオドラさまの居場所になっていますので、進むのでしたらお気をつけください」

 

「あ、ありがとう……?」

 

 混乱しながらもお礼を言う部長に、さらに元眷属さんが続けて言った。

 

「それと、この先を進むと、フリード・ゼルゼンというはぐれ神父がいます」

 

「――っ!」

 

 あのクソ神父のフリードがいるのか!?

 

「なんでも捨てられたところを拾われて、改造手術を受けさせられていまは人間を止めていて危険なのでご注意ください」

 

「なんだか悪いわね。色々と教えてもらっちゃって」

 

「いえ、神城さまには新しい職場からなにから何までお世話になっているのでいいですよ。それよりも、皆さんお気をつけて」

 

 深く頭を下げる元眷属さんたち一堂。元眷属さんたちは隠し地下室にテロが終わるまで隠れてるそうだ。

 

 ていうか、またエイジがなんか関わってるのかよ。

 

 先ほどまで余裕を見せていたディオドラの声は聞えない。

 

 …………。

 

 ディオドラもここまで来ると哀れだな。

 

 気を取り直して皆で先に進もうとすると、元眷属さんの1人がアーシアに声をかけてきた。

 

「アーシア・アルジェントさん」

 

「は、はい」

 

「いまいる場所を自分の居場所と思って幸せに感じているなら、それまでの過程は関係ありません」

 

「え?」

 

「真実をディオドラから、誰かから聞いてもどうか心を強く保ってください」

 

 真実? なんのことだ? 本性の他にまだなにか隠しているのか?

 

 俺が疑問に思っている一方で、アーシアは何か思い当たるふしでもあるのか、ゆっくりとうなずいた。

 

「……はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 元眷属さんたちからもらった地図通り神殿の奥へと進んで行くと、俺たちの視界に見覚えのある者が映り込む。

 

「や、おひさ~」

 

 白髪の神父――。

 

「フリードッ!」

 

 元眷属さんたちからの情報通り、あのクソ神父が現れた。ほんと懐かしいな。エクスカリバー事件のとき以来か。こいつまだ生きてたんだな。

 

「まだ生きてたんだなって、思ったっしょ、イッセーくん? イエスイエス。僕ちんしぶといからキッチリチャッカリ生きてたんござんすよ?」

 

「だから、俺の思考を読むなって!」

 

 ったく、相変わらず俺の考えていることを当ててくる野郎だ!

 

 でもいまは――。

 

「元眷属さんたちから聞いたけど、おまえ人間止めたのか?」

 

「ヒャハハッ! そうだぜぃ! 僕チン人間止めちったのよ!」

 

 奴はにんまりと口の端を吊り上げ、人間とは思えない形相で哄 笑(こうしょう)をあげる!

 

「ヒャハッ! ヒャハハハハハハハッハハハハハハハッ! てめえらに切り刻まれたあと、ヴァーリのクソ野郎に回収されてなぁぁぁぁぁあっ! 腐れアザゼルにリストラ食らってよぉぉぉぉおおっ!」

 

 ボコッ! ぐにゅりっ!

 

 異様な音を立てながら、フリードの体の各所が不気味に盛り上がる! 神父の服を突き破り、角だかなんだかわらないものが体から生えていく。全身が隆起していき、腕も足も何倍も膨れ上がった。

 

「行き場なくした俺を拾ったのが『禍の団』の連中さ! 奴ら! 俺に力をくれるって言うから何事かと思えばよぉぉおおおっ! きゅはははははっはははっ! 合成獣(キメラ)だとよっ! ふははははははははっはははははっはっ!」

 

 背の片側だけコウモリのような翼が生え、もう片側には巨大な腕が生えてきていた。顔も原型をとどめないほど変質し、突き出した口には凶暴な牙が生えそろう。ドラゴンのような頭部になっていった。

 

 ……なんてこった! 人間を止めたとは聞いていたけど、これは酷すぎる! 腕も脚も全身めちゃくちゃで、統合性なんてないからだのつくり! どういう頭の構造をしていれば、こんな風に人を作り替えられる!?

 

「フリード神父……」

 

 変化を遂げた眼前の巨躯の生物はフリードの面影など、一切残されない異形の存在だった。他の部員たちも顔をしかめ、アーシアは口もとを覆って、悲しそうにフリードの名をつぶやいた。

 

「ヒャハハハハッ! おやおや、これはアーシアちゃん! お久しぶり~♪ ここにいるってことは、うまくディオドラ・アスタロトに捕まらないですんだみたいだね! ヒャハハッ! ヒャハハハハハッ!」

 

「フリード神父、なんでそんな……」

 

「なに哀れんだ視線を僕ちゃんに向けてんだよぉおおおお! 相変わらず聖女さまは博愛主義者ですか!? すげぇキメェんだけどぉおおおおお!? ヒャハッ! そうだった、そうだった! アーシアちゃぁぁん! ディオドラ・アスタロトの趣味って知ってるかなぁああああ?」

 

「――っ」

 

「そうそうアーシアちゃんも薄々気づいてると思うけどぉ、親切な神父さまが優しく教えてあげるね! ディオドラ・アスタロトの趣味ってやつをさ。これが素敵にイカレてて聞くだけで胸がドキドキするんだぜ!」

 

 憤怒の表情を浮かべて叫んでいたフリードの顔が、途端に気持ちの悪い笑みに変わり、突然、耳にしつこく残る不快な笑い声と共に、アーシアへ向って話し始めた。

 

「ディオドラの女の趣味さ。あの坊ちゃん、大した好みでさー、教会に通じた女が好みなんだって! そ、アーシアちゃんみたいなシスターとかそういうのさ!」

 

 女の趣味? アーシアみたいなシスター……。

 

 フリードは大きな口の端を上げながら続ける。

 

「しかも狙う相手は熱心な信者や教会の本部になじみの深い女ばかりだ。俺さまの言ってることわかるよねー? さっきイッセーくんたちがぶっ倒してきた眷属悪魔の女たちは元信者ばかりなんだよ! 自分の屋敷で囲ってる女どもも同じ! ぜーんぶ、元は有名なシスターや各地の聖女さま方なんだぜ! ヒャハハハ! マジで趣味良いよなぁぁぁっ! 悪魔のお坊ちゃんが教会の女を手篭めにしてんだからよ! いやはや、だからこそ、悪魔でもあるのか! 熱心な聖女さまを言葉巧みに超絶うまいことやって堕とすんだからさ! まさに悪魔のささやきだ! ちなみにここには「騎士」の2人がいるはずだったんだがどっか消えちゃってさあ! せっかく食ってやろうと思ってたのによぉおお!」

 

 こいつディオドラが眷属悪魔や屋敷の下僕悪魔たちから見限られたことを知らないのか? 元眷族悪魔の人がアーシアに言ったことって、いや、だけどそれより――。

 

「じゃあ、アーシアは――」

 

 俺の言葉にフリードは哄笑をあげて、アーシアを狂気を孕んだ濁った瞳で睨んだ。

 

「そう! アーシアちゃんが教会から追放されるシナリオを書いたのは元をただせばディオドラ・アスタロトなんだぜ~。シナリオはこうだ。ある日、シスターとセックスするのが大好きなとある悪魔のお坊ちゃんは、チョー好みの美少女聖女さまを見つけました。会ったその日からエッチをしたくてたまりません。でも、教会から連れ出すには骨が折れそうと判断して、他の方法で彼女を自分のものにする作戦にしました」

 

 ――っ。

 

 ……ちょっと、待ってて。そ、そんな、アーシアは――。

 

「聖女さまはとてもおやさしい娘さんです。神器に詳しい者から『あの聖女さまは悪魔を治す神器を持っているぞ』というアドバイスをもらいました。そこに目をつけた坊ちゃんは作戦を立てました。『ケガをした僕を治すところを他の聖職者に見つかれば聖女さまは教会から追放されるかも☆』と! 傷痕が多少残っていてもエッチできりゃバッチリOK! それがお坊ちゃんの生きる道!」

 

 ――あのとき、彼を救ったこと、後悔してません。

 

 俺の脳内で、笑顔でそういったアーシアが思いだされる。

 

 …………。

 

 なんだよ、それ。なんなんだよ、それはよ……。

 

 アーシアを嘲笑うかのようにフリードはトドメとばかりに言った。

 

「信じていた教会から追放され、神を信じられなくなって人生を狂わされたら、簡単に僕のもとに来るだろう――と! ヒャハハハハ! 聖女さまの苦しみも坊ちゃんにとってみれば最高のスパイスなのさ! 最底辺まで堕ちたところを掬い上げて、犯す! 心身共に犯す! それが坊ちゃんの最高最大のお楽しみなのでした! それはこれからも変わりません! 坊ちゃん――ディオドラ・アスタロトくんは教会信者の女の子を抱くのが大好きな悪魔さんなのでした! ヒャハハハハハッ! 残念だったね、アーシアちゃん!」

 

「やっぱり……そう、だったんですか……」

 

 アーシアの悲しそうな声が響く。ディオドラの本性を知り、ここまでの間でアーシアも薄々気づいていたんだろう。

 

 自分が騙されていたという事を……。

 

 アーシアの表情はうかがえないが、見なくても俺にはわかる。悲しい涙を流しているアーシアの姿が、俺には見える!

 

 アーシア……。

 

 俺は。

 

 心の底で生じたそれを我慢できそうになかった。

 

 握りしめる拳からは血が噴きだしている。

 

 フリードを激しくにらみ、1歩前へ出ようとしたときだった。

 

 俺の肩を木場がつかむ。

 

「イッセーくん。気持ちはわかる。だが、キミのその想いをぶつけるのはディオドラまで取っておいたほうがいい」

 

 冷静な物言いだ。だが、俺はそれが癇に障った!

 

「おまえ、これを黙っていろって言う――」

 

 そこまでぶちギレて、木場の胸ぐらをつかもうとしたが――。木場の顔を見て、手を止めた。

 

 ――木場の瞳は怒りと憎悪に満ちてきたからだ。

 

「ここは僕が行く。あの汚い口を止めてこよう」

 

 迫力ある歩みで木場は俺の横を通り過ぎていく。

 

 俺の怒りが一瞬冷めてしまいそうなほど、木場の全身から放たれるオーラは攻撃的な殺意に包まれていた。

 

 木場は異形の存在と化したフリードの前に立ち、手元に聖魔剣を一振り創りだす。

 

「やあやあやあ! てめえはあのとき俺をぶった斬りやがった腐れナイトさんじゃあーりませんかぁぁぁっっ! てめえのおかげで俺はこんな素敵なモデルチェンジをしちゃいましたよ! でもよ! だいぶ強くなったんだぜぇぇ? 無敵超絶モンスターのフリードくんをよろしくお願いしますぜぇ、色男さんよぉぉぉっ!」

 

 木場は剣をかまえると冷淡な声で一言だけ言う。

 

「キミはもういないほうがいい」

 

「調子くれてんじゃねぇぇぇぇぞぉぉぉぉっ!」

 

 憤怒の形相となったフリードは全身から生物的なフォルムの刃を幾重にも生やしてこちらへ――。

 

 フッ!

 

 木場が視界から消え――。

 

 バッ!

 

 刹那、俺たちの眼前にいたモンスターのフリードは無数に切り刻まれて四散した!

 

「――んだ、それ。強すぎんだろ……」

 

 頭部だけとなったフリードは床に転がり、大きな目をひくつかせていた。

 

 ――一発かよ!

 

 フリードが攻撃の姿勢を見せたとたんに勝負を一瞬で決めやがった! 神速で切り刻んだに違いない! うわぁ……。俺、目で捉え切れなかったぞ。

 

「……ひひひ。ま、おまえらじゃ、ディオドラの裏にいる奴らは倒せねえさ。計画も修正されて、結局アーシアちゃんは――」

 

 ズンッ!

 

 頭部だけのフリードに木場は容赦なく剣を突き立て、絶命させた。

 

 木場は聖魔剣についた血を空で払う。飛び散った血液が半円を描いた。

 

「――続きは地獄の死神相手に吼えるといい」

 

 決め台詞まで言い放つこのイケメン!

 

 ……クッソォォオオオオッ! 男の俺でもカッコイイとか思っちゃったじゃないか! こいつ、また強くなったんじゃないか? フリードの実力がどれほどのものかわからなかったぐらいだ。どりあえず、木場のほうが圧倒的に強かったことだけは理解できる。

 

 フリード……。あいつとは腐れ縁だぅたけど、最後はなんとも言えないものだった。

 

 こいつもある意味で被害者なのだろうか?

 

「フリード神父……」

 

 アーシアはフリードの亡骸に祈りを捧げていた。

 

 あんなに酷いことを言われて、酷いめにも遭わされたというのに。

 

 アーシアが祈りを捧げている姿は、すごく悲しく映った。

 

「アーシア」

 

「ゼノヴィアさん」

 

 祈りを捧げているアーシアを優しく後ろからゼノヴィアが抱きしめる。

 

「すまない」

 

「どうしてゼノヴィアさんが謝るんですか?」

 

「私たちはレーティングゲーム前から、ディオドラ・アスタロトがクズで、アーシアに嘘をついていたと知っていたんだ」

 

「「え?」」

 

 ――え? アーシアと俺の言葉が重なる。部長に確認するように視線を送るとうなずいて話し始めた。

 

「少し前にエイジが元ディオドラの眷属悪魔に教えてもらったそうなの。眷族で知らないのはイッセーとアーシアだけだったの」

 

「な、なんで教えてくれなかったんですか!?」

 

 俺は大声を出して部長たちにくいかかる! 知っていれば! 知っていれば!

 

「ディオドラに嘘をつかれていたアーシアがショックを受けると思って言えなかったの。……ほんとうはレーティング開始前にイッセーだけには話して、レーティングが終わってからアーシアに話そうと思ってたんだけど、フリードに告げられたり、ディオドラに告げられる前に私が先に教えておけばよかったわ」

 

 そう言って唇を噛む部長。他の部員たちも申し訳なさそうにしてる。

 

 その皆の表情に頭の一部の冷えた部分で理解した。

 

 ……そうだ……。誰がディオドラに裏切られているとアーシアに教えられるんだ? 聖女から魔女に堕とされて、教会から追い出されて堕天使に殺されようとしたアーシアに、悪魔を救ったことに後悔していないと微笑むアーシアに、誰が言えるんだ?

 

 それにレーティングゲーム前に俺に告げようと思った部長たちの考えも分かる。

 

 最初から告げられていたら、俺はアーシアの前で自分が抑えられなくなる。ディオドラを視界に入れた途端に襲い掛かったと思う。

 

 どうせ痛めつけるなら、相手は上級悪魔でも、お坊ちゃんでも痛めつけても不問にされるだろうこのレーティングこそが、俺にディオドラのことを話す1番の場所。

 

 ディオドラへの怒りを溜めて思う存分発散できるように部長はレーティングゲーム開始前に俺に話すことにして、アーシアへは全て終わってから伝えようとしたんだ。

 

 ゼノヴィアに抱きしめられていたアーシアが優しく言った。

 

「ゼノヴィアさん、皆さん、私は大丈夫です」

 

「アーシア」

 

 アーシアは笑顔をつくって話し始めた。

 

「……なんとなく、そういうんだろうとは思っていたんです」

 

 予想はしていたといっても、ショックなことにはかわらない。

 

 でも、アーシアは――。

 

「確かに私はディオドラさんに騙されて、教会から魔女と呼ばれて追い出されました。でも、いまの私はすごく幸せなんです」

 

「アーシア……」

 

 涙声でアーシアを抱きしめるゼノヴィアに手を重ねて、優しく目を瞑ってアーシアは続ける。

 

「イッセーさんとオカルト研の皆さんと、お父さまとお母さまがいるところが、私の居場所です。私は皆さんに出合えたこと、皆さんと一緒にいられることは、いままでの人生のなかで1番幸せに感じているんです」

 

 そう言ってアーシアは笑顔を俺たちに向けてくれた。

 

「アーシア」

 

「はい、イッセーさん」

 

 俺は。

 

「ディオドラをキッチリぶっ飛ばしたあとは、皆で帰ろう! 二人三脚の特訓もしないといけないし、父さんも母さんも体育際をすごく楽しみにしてるんだからさ!」

 

「はい!」

 

 ディオドラから絶対にこの娘を守る!

 

 そして絶対に、ディオドラを許さない! プライドをズタズタに引き裂いてからぶっ飛ばしてやる!

 

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