<エイジ>
悪神ロキとフェンリルに襲われた次の日。兵藤家の地下一階の大広間に皆集まっていた。
俺たちグレモリー眷属+イリナ、俺の眷属扱いとなっている黒歌たち、アザゼル。バラキエル、シトリー眷属――そして『禍の団』のヴァーリチームという異様な面々だった。
イッセーの家にヴァーリや
悪神ロキとフェンリルを打倒するための会議に、まさか『禍の団』のこいつらも参加するなんてな。アザゼルやサーゼクスが承諾したそうだが、ほんとうによく承諾したな。
ロキを屠るとヴァーリは言っていたそうだが、それが真意なのか? こいつらが頭を下げてまで俺たちに協力させろと言ったのは何故なんだ? まだわからないな。
オーディンとロスヴァイセは別室で本国と連絡を取り合っているらしい。
ロキが日本に来たことはあちらでも大問題になっているそうだ。
さて、俺たちはさっそくロキ対策について、話し合いを始めていた。
今回の件は魔王であるサーゼクスも知っていて、堕天使側にも天界にも情報は伝わっている。
オーディンの会談を成就させるために3大勢力が協力して守ることになった。
協力といっても、協力態勢の強いここにいるメンバーで力を合わせてなんとかしろって意味なんだけどな。
つまり、ロキを俺たちで退けろってことだ。
相手は神。だけど、1番厄介なのは奴が連れている
生みだしたロキをも凌ぐ能力を有した本物の怪物。封じられる前の二天龍に匹敵するほどの力を持っているらしく、アザゼルやタンニーンでも単独では勝てないそうなんだ。
俺が知っている天然もののフェンリルよりは力は劣るだろうな。というか、そいつを倒しかけたリアスは、アザゼルやタンニーンよりもやっぱり強いのか……。
二天龍の力を完全に引き出せていないイッセーやヴァーリよりも強いだろうしな。
……改めて鍛えすぎたと実感している。
「だが、『覇龍』を使用すれば勝てる可能性はある」
とかヴァーリは言うけど、イッセーが『覇龍』を使用すれば死ぬし、ヴァーリも膨大な魔力消費を引き換えに『覇龍』が使えるといっても数分間しか保たずに、ロキまで確実に保たない。下手をすればヴァーリも命を削って死ぬかもしれない。
ロキとフェンリルはこのメンバーで勝てるだろうが、犠牲が出る可能性が高いんだ。
もともと何名か戦死するのは確実だと言われているんだし。
リアスたちが総合値で上がってるといっても、フェンリルの牙は防御をたやすく貫いて命を奪うからな。ほんとうに厄介だ。
加勢は期待できない。どの勢力からも、だ。英雄派から神器所有者を送り込んでくるテロはいまだに断続しており、各陣営を混乱させている。
各種拠点は警戒をマックスにしているため、戦力は
いまは犠牲が出ないように勝つ方法を模索しているところだ。ロキやフェンリルには対抗策があるから作戦会議中。
「まず先に。ヴァーリ、俺たちと協力する理由は?」
ホワイトボードの前に立ったアザゼルが一番の疑問をヴァーリにぶつける。
頭まで下げたらしいし、どうして協力をしたいか理由を聞いてみたいな。
ヴァーリは不敵に笑むと口を開く。
「ロキとフェンリルと戦ってみたいんだ。美猴たちも了承済みだ。この理由では不服か?」
結局戦闘大好き野郎なわけか。ある意味清清しいよ。
それを聞いてアザゼルは怪訝そうに眉根を寄せる。
「まあ、不服だな。だが、いまは戦力になる奴が欲しいのも確かだ。いまは英雄派のテロの影響で各勢力ともこちらに戦力を割けない状況だ。英雄派の行動とおまえの行動が繋がっているっ見方もあるが……おまえの性格上、英雄派と行動を共にするわけないか」
「ああ、彼らとは基本的にお互い干渉しないことになっている。俺はそちらと組まなくてもロキとフェンリルと戦うつもりだ。――組まない場合は、そちらの邪魔になってでも戦闘に介入させてもらう」
……一見脅しにとれるけど、実際はかなり下手に出てるな。どうしても戦いたいからやらせてくれって聞えるし。
「サーゼクスも悩んでいる様子だったが、旧魔王の生き残りであるおまえからの申し出を無碍にできないと言っていてな。本当に甘い魔王だが、おまえを野放しにするよりは協力してもらったほうが懸命だと俺も感じている」
「納得できないことのほうが多いけれどね」
リアスがアザゼルの意見にそう言う。文句はあるようだけど、悪魔の王たる魔王が良しとするならば、リアスも強くは言えないのだろう。
ソーナ会長も了承の様子だった。かなり不満のある表情だけどね。
勝手に動かれるよりは監視下に入ってもらったほうが対応しやすいんだろうけど、こいつが素直に言うことを聞くかどうか……。
リアスが応じるなら俺もそれに従うが、ヴァーリが変な行動をしたら、拘束ぐらいはさせてもらおう。
他の眷属は文句もあるみたいだが、渋々応じているみたいだった。
アザゼルはヴァーリをじっと見る。
「何か企んでいるだろうがな」
「さてね」
「怪しい行動を取れば、誰でもおまえを刺せることにしておけば問題ないだろうな」
「そんなことをするつもりは毛頭ないよ。ま、かかってくるならば、ただでは刺されないさ」
アザゼルの言葉にヴァーリは苦笑するだけだった。
「……まあ、ヴァーリに関してはいったん置いておく。さて、話はロキ対策のほうに移行する。ロキとフェンリルの対策をとある者に訊く予定だ」
「ロキとフェンリルの対策を訊く?」
アザゼルがリアスの言葉にうなずく。
「そう、あいつらに詳しいのがいてな。そいつにご教授してもらうのさ」
「誰ですか?」
イッセーが挙手して訊く。
「5大龍王の1匹、『
ああ、あの……。
「まあ、順当だが、ミドガルズオルムは俺たちの声に応えるだろうか?」
ヴァーリの問いにアザゼルは応える。
「二天龍、龍王――ファーブニルの力、ヴリトラの力、タンニーンの力で
へぇ。ドラゴンってそんなこともできるのか。
「もしかして、お、俺もですか……? 正直、怪物だらけで気が引けるんですけど……」
匙がおそるおそる意見を言っていた。そういやこいつがヴリトラの神器持っているんだっけ。
「まあ、要素のひとつとして来てもらうだけだ。大方のことは俺たちうあ二天龍に任せろ。とりあえずタンニーンと連絡が付くまで待っていてくれ。俺はシャムハザと対策について、話してくる。おまえらはそれまで待機。バラキエル、付いてきてくれ」
「了解した」
アザゼルとバラキエルはそう言って大広間から出て行く。
残されたオカルト研究部と生徒会。黒歌たちに、そしてヴァーリたちの面々。
「エイジ」
「ん? なんだヴァーリ」
ヴァーリの手には封書のようなものが握られていた。
「オーフィスからの手紙だ」
『――っ!』
一気に部屋の空気が変わる。――っ。『禍の団』のトップからの手紙って……。
これは――受け取っていいのか? リアスに確認するような視線を送る。リアスは真剣な表情を浮かべたままゆっくりうなずいた。
俺はヴァーリから手紙を受け取る。『禍の団』トップからの手紙に、リアスとソーナをはじめとして部屋の大部分のメンバーが俺の後ろにまわって、手紙の内容を知ろうとしていた。他に見せるなとも言われていないし、ヴァーリも気にしていないようだからいいか。
封書から手紙をだす。……随分とかわいらしい便箋だな。
『我、おまえの子種で孕ませて』
……は?
『我、おまえの子種で孕ませて』
…………。達筆な文字。手紙にはその一文以外、何も書かれてはいなかった……。
手紙を寄越したヴァーリのほうへ視線を向ける。ヴァーリは苦笑して言う。
「オーフィスからのラブレターだよ。以前のキミの言葉をそのまま、恋など色々と知ったら孕ませてもらえると思ったらしくてね。そこのアーサーの妹、ルフェイという子に色々指導してもらった結果、その手紙になったんだよ」
アーサーの妹なんていたのか。
――って、
「こ、これが指導した結果なのか? ず、随分と積極的なラブレターだな。こんなのもらったのは生まれて初めてだ……」
「まあ、元々恋愛や人の営みなんかに興味なんてない『無限の龍』だからね。プロセス以前に恋や愛なんてそもそもわからないんだろう。いまはルフェイから色々教えてもらわれながら勉強中だ」
「『無限の龍』オーフィスが私の妹を頼ってくれる光栄なんですが、私の妹は少しばかり……」
はぁ、とため息を吐くアーサー。いや、ちょっ!? なんか色々大変なことになっていないか!?
「はっはっは! まったくモテモテだな! さすがエロ過ぎてインキュバスに成った男! うらやましいぜぃ!」
状況についていけないこちらを無視して、爆笑する美猴。少し馴れ馴れしくないか、こいつ?
「おい、兵藤。神城の奴って『無限の龍』のオーフィスに求愛されてんのか?」
「ああ……、ああ、そうなんだよ! また美少女から告白されやがったんだよ!」
「はぁ、美少女? 『無限の龍』って龍の姿じゃないのか?」
「龍なんかじゃねぇよ! ゴスロリの、すげぇかわいい美少女だよ! 小猫ちゃんみたいなロリかわいいタイプと違う、綺麗系のクールなロリっ娘だ!」
「なん……だと? そ、そんな龍が存在していたのか……。しかも、神城に告白だと?」
「しかもこいつ! 部長や朱乃さん、ゼノヴィア、小猫ちゃんまでと同棲してるんだぜ!」
「はあっ!? その話って噂じゃなかったのか!?」
「噂なんかじゃねぇよ! こんなこと! 夢でも妄想でもありえねぇのに……。エイジは……、エイジはあっ!」
「俺なんか同棲以前に、女の裸なんて生で見たことないし、告白されることすら難しいというのに……。ここまで差があるのか……っ!」
……後ろでイッセーと匙が騒ぎ出して号泣しているようだが、皆無視してる。
「とりあえず、まだ返事をもらうことなど考えていないだろうから、返事はあとででいいと思うよ」
「わ、わかった……」
封書に戻してから【王の財宝】にしまう。……【王の財宝】、完全な倉庫になってるな。
「まったく、何かと思えばラブレターなんて」
部長はやれやれとため息を吐いていた。……すみません。
「おーい、赤龍帝!」
とりあえずオーフィスからのラブレターの件が終了してすぐ、美猴が手を挙げる。
「な、なんだよ……」
少し離れたところで匙と涙を流していたイッセーが訊くと、美猴はイタズラっぽい笑顔で言った。
「この下にある屋内プールに入っていいかい?」
…………。予想だにしない質問に誰もが言葉を失っていると、血涙を流さんばかりのイッセーが大声で叫んだ。
「勝手に入りやがれぇええええええええええ!」
おおう、すげぇ迫力。だけど美猴はまったく気にせず笑顔で、
「おっ、気前いいな。じゃ、暇してる間、入らせてもらってくるぜぃ」
と、出て行ってしまった。これでいいのか、孫悟空の末裔……。
「こ、これが失われた最後のエクスカリバーなんですね! はー、すごーい」
「ええ。ヴァーリが独自の情報を得まして、私の家に伝わる伝承と照らし合わせて、見つけてきたのですよ。場所は秘密です。それよりも私はゼノヴィアさんが使っている龍殺しの剣に興味があるのですが、見せてもらえないでしょうか?」
「うむ、この剣に目をつけるとはさすがだな。エクスカリバーも見せてもらったことだし、私も見せよう」
声のする方へ顔を向ければ、イリナとアーサーがエクスカリバーについて話していて、そこに元エクスカリバー使いのゼノヴィアも参加し、真・リュウノアギトを異空間から取り出して、アーサーに渡していた。
アーサーはゼノヴィアから受け取った真・リュウノアギトを興味深そうに観察していた。
「ほう、コレはすごい。見事なまでの龍殺し剣だ。なるほど、龍のアギトなど、上質な龍の素材を魔術などで加工して創りだしているのですか。それにこの超重量……、シトリー戦のビデオを拝見した際、あなたは軽々と、しかもまったく体の軸をブラさずにこの重い剣を振るっていましたね。それも特殊な機能なのですか?」
「わかるのか。その通りだ。この剣の最大の特徴は龍殺しのオーラで間違いないんんだが、確かにもうひとつ機能がある」
ゼノヴィアは得意げにアーサーに説明を始める。
「その機能は、振っている側である私には普通の長剣ほどの重さ、振るわれている側には超重量の大剣となるように重量を変える。というものでな、私はこの超重量の剣をそれほど筋力など必要とせずに自由に、しかも普通の長剣ほどの速さで振れるんだよ。さらに言うと、重量は私の魔力によってもっと重くすることが可能。しかも、どんなに重くしても、持ち主の私には長剣並みの重さ。私の1番の剣なんだ」
「自分と相手で感じる重さが違う……。だから高速で、軸もぶれさせることなく振れるのですね。龍殺しのオーラだけで厄介な上に、見かけに反して使い手には普通の剣。受け手には超重量の大剣。下手に受け止めようとしたら重量によって武器が壊れ、逸らそうとしても見た目に反する力で失敗する。そもそも長剣を振っているときと変わらない力で、超高速で切りかかられ続けたらひとたまりもないですね。これはほんとうにすごいです」
……メチャクチャ褒められているな。男でも手放しで褒められるのはうれしいな。
ここでイリナが自慢するように会話に入ってきた。……嫌な予感がする。
「私も今度お兄ちゃん聖剣創ってもらうんだよ! ゼノヴィアだけじゃずるいからね!」
イリナの言葉を訊いて、アーサーは一瞬で目つきを変えた。
「お兄ちゃん? この龍殺しの剣はあなたのお兄さんが創った物なのですか? それに先ほど聖剣も創ると聞えたような……」
「うん。本当のお兄ちゃんじゃないけどね」
「本当の兄ではない? ああ、義理というものですか。それよりもこれほどの龍殺しの剣を創りだし、聖剣まで製作できる人物に私も是非お会いしたいものですね」
おそらくおまえの考えているだろう義理じゃないと思うぞ。あと、もう――。
「もう会っているんだがな」
「ちょっ、ゼノたん!?」
「ん? 言ってはダメだったか?」
「……いや、そういうわけじゃないんだけど……」
正直、かなりの確立で面倒事になるだろうから言って欲しくなかったけど、そんな自分の彼氏を自慢するみたいな誇らしげに胸を張られては、咎めることなど俺にはできないっ!
「ほう、あなたが……」
アーサーが「私、すごく興味あります!」みたいな視線で見てきた。
俺は視線をそらした。
「他にはどんな剣を創れるんですか?」
アーサーが訊ねてきた。……答えない。というのは無理のようだ。
「……色々だよ」
「それは剣以外にも色々、という意味ですか?」
首をかしげるアーサー。詳しく頼む。という視線を送ってきた。
「…………」
「私の剣はもちろん。部長が扱ってる弓など、他にも色々創れるのさ」
「ほう、それはすごいですね。あの弓も剣同様に素晴らしい武器でした」
俺が黙っているとゼノヴィアが代わりに応えた。って、ゼノヴィア!? 『禍の団』に俺が色々道具を創れるって分かったら面倒なことになるだろ!?
頭を抱えていると、イリナが腰に手を当てて自慢するように話し始めた。
「ふふふっ、私の聖剣なんて10種類の姿に変身ができる剣よ! 爆発の剣に、音速の剣っ! 他にも色んな特殊能力を持った剣に変身できるのよ!」
「10種類の剣に変身できる聖剣ですか」
「新しい剣か……。今後のために私も神殺しの剣を創ってもらおうかな? エイジなら神殺しの剣も創れそうだし」
「神殺しの剣まで……」
まあ、創れないことも無いけど、いまはこれ以上仕事を増やすのは止めてくれ。最近朝方ぐらいにしか家に帰れていないことが多いんだから……。それに簡単に言うけど、10種類に姿を変わる剣って、特殊な機能を持った10種類の剣を1本1本創らないといけないんだよ? それだけで普通の剣の10倍手間がかかって疲れるのに、神殺しの剣の製作までしてたら、ずっと工房に閉じこもっていないといけなくなるんだよ?
とりあえず3人から視線を外して周りの様子を見てみる。
「シャルバ・ベルゼブブを滅したときといい、フェンリルを倒しかけたときといい、ほんとうにキミはどんどん強くなるな」
「まっ、まあね。かなり厳しい修行も積んでるし、当然よ」
「――っ! ちょっとリアス! あなたそんなに強くなっていたの!?」
「え、ええ。そうよ。夏休みからかなり厳しい修行を続けていたから」
「この短期間での急成長。――その修行の内容が気になるな」
「そうよ! 私にも教えなさい!」
リアスとヴァーリと会話に割って入るソーナ会長。ヴァーリとキャラの崩れたソーナ会長に詰め寄られて、リアスは困ったような表情をうかべていたけど、それと同時に注目されてうれしそうだった。
そしてもう一方でも何やら騒ぎが起こっていた。
「白音に近づかないでくれる?」
「ちょっ、黒歌さん! ま、待ってください! 昨夜のは間違いなんです! あれは――」
「自分のじゃないとでも言うの?」
「そ、そうです! あれは全部イッセーくんの――」
「にゃあ~? でも、白音の使い魔が自宅へ持って帰ってるところを見てるにゃよ。『祐斗先輩があんなものをたくさん持って深夜徘徊してるはずがない。あれは祐斗先輩のじゃない』って、確かめに行かせたら、自宅までしっかりもって帰ってたよね? 変態のおっぱいドラゴンだからって罪をなすりつける気かにゃ?」
「……祐斗先輩」
「ちっ、違うよ、小猫ちゃん! そんな眼で見ないで! ほんとうにあれは全部イッセーくんので――、ほら、イッセーくん、説明してよ!」
「なんであいつばっかりモテるんだ? 何がダメなんだ? 何が違うんだ? あははははっ、そういや違いなんていっぱいあったなぁ……」
「兵藤、おまえなんてまだいいほうだ。俺なんか……、俺なんか女の子と同棲なんて一生出来ないかもしれないんだぞ? おっぱいだって揉んだこともないんだぞ? おまえなんてアーシアちゃんと一緒に暮らせてるだけマシなほうだ」
「……そうなのかな、匙。俺、アーシアと暮らせてるだけでマシなのかな」
「ああ、マシだよ。うらやましくて変わって欲しいぐらいだよ」
「ちょっとイッセーくん!? あれは僕のじゃないって早く説明してよ!」
「祐斗先輩……」
「ち、違うんだよ小猫ちゃん! 僕は嘘なんか……!」
「せっかく誰にも話さないで私たちの胸のなかだけに留めてあげようと思ったけど、やっぱり止めるにゃん♪」
「なっ――!?」
「リアスたちにも全部話すにゃん♪」
「そっ、それだけはほんとうに止めてください! なんでもします! なんでもしますから! だから、それだけは止めてくださいっ! お願いします!」
黒歌に向って見事な土下座をする木場。こいつらの間にいったい何があったんだ?
「はあ……」
と、ここで聞えてきたため息。声の方向へ顔を向ければ、部屋の隅で朱乃さんがため息を吐いていた。バラキエルが来てからずっとこの調子なんだよな。今回の共同作戦、色々な不安要素を含んでるな。
「どうしようかにゃ~?」
「お願いだからそれだけは止めてください!」
「祐斗先輩……」
あ、とうとう木場が泣き始めた。何度も土下座をするために顔を上げる度にイッセーを激しく睨んでいた。イッセーも何か関わっているのか?
◆
<イッセー>
アザゼル先生が帰ってきたあと、俺と匙とヴァーリは転移魔法陣で兵藤家から飛んだ。
例の龍王を呼び寄せるためだ。特別に用意したところで意識を呼び寄せないとダメらしいとのこと。
着いた場所は――白い空間だった。レーティングゲームの会場とかに使われる場所かな? 辺りを見てみても特に目立ったところは――あった。
大きなドラゴンと小型のドラゴンが佇んでいた。
「先日以来だな、おまえたち」
「タンニーンのおっさん!」
そう、タンニーンのおっさんだった。そっか、ミドなんたらを呼びだすために各ドラゴンの力が必要だって言ってたもんな。
「……そちらがヴリトラか」
匙を見るおっさん。肝心の匙はビビッて全身を震わせていた。
「ド、ド、ドラゴン……龍王! 最上級悪魔の……!」
緊張と尊敬が混じっている様子だ。
「緊張すんなよ。おっさんは強面だけど、いいドラゴンなんだ」
「バ、バカ! 最上級悪魔のタンニーンさまだぞ! お、お、おっさんだなんて!」
なんだよ、匙の奴……。確かにタンニーンのおっさんはすごいと思うけどさ。
俺に指を突きつけて匙が言う。
「最上級悪魔ってのは、冥界でも選ばれた者しかなれない。もっと言えば、レーティングゲームの現トップ10内のランカーが全員最上級悪魔だ。冥界での貢献度、ゲームでの成績、能力、それらすべて最高ランクの評価をしてもらって初めて得られる、悪魔にとって最上級の位なんだよ」
と、匙が熱弁する。はー、そ、そこまですごかったのか。
最上級悪魔。俺も目指してみたいな。でも、冥界での貢献度って、自分の領土で何ができるかってやつじゃなかったかな。うーむ、道は険しいか。
「……白龍皇か。妙な真似をすればその時点で俺は躊躇いなく噛み砕くぞ」
おっさんがヴァーリを睨む。とうのヴァーリは苦笑するだけだった。
「ねえ、お父さん」
そんなときに、女性の声が聞えた。声がしたほうへ視線を向けると、どうやら声の主はおっさんの隣にいた小型のドラゴンだったようだ。
「ああ、そうだったな」
おっさんは何かに気づいたようにつぶやいた。おっさんは俺たちを見回して言う。
「娘のユウカナリアだ」
「えっと……、はじめましてユウカナリアです」
おっさんに促されて、小型のドラゴンが首を少し曲げて挨拶してきた。冥界でタンニーンのおっさんに送ってもらったときに、エイジに求愛ダンスしてたおっさんの娘か。随分と礼儀正しい感じだな。パーティで人間バージョンを少し見たと思うけど、ドレスを着ていた美人ぐらいしか記憶にない。
『タンニーンに娘ができていたのか!』
アルビオンが驚きの声をあげる。アルビオンの驚きようにおっさんは笑顔を浮べてうなずいた。
「まあな。俺の自慢の娘だ」
「ほう、聖書に記されているドラゴンのタンニーンも親バカだったわけか。俺は堕天使の総督、アザゼルだ」
「はじめまして、ユウカナリアです」
先生もはじめて知ったのかユウカナリアさんを興味深そうに見ていた。
俺たちもあいさつを返さないと……っと、自己紹介をしようとしていたときだった。
「ねぇ、お父さ~ん、エイジは~?」
一気にユウカナリアさんの雰囲気が変わった。というか崩れた。タンニーンのおっさんもユウカナリアさんの態度にあからさまに不機嫌になっていく。
「……俺は知らん」
ユウカナリアさんの質問に顔を背けるおっさん。ユウカナリアさんは不機嫌なおっさんを無視してアザゼル先生に顔を訊ねた。
「ねえ、アザゼルさん。エイジはどこにいるの?」
「ああ、エイジの奴か――」
ぞくっ――!
「…………」
アザゼル先生が頭をかいて答えようとしたとき、タンニーンのおっさんからものすごい殺気が放たれた! おっさんは無言で「話すな」と言わんばかりに先生を威圧する。す、すげぇ、これが最上級悪魔の殺気か……。ヴァーリも額から汗を流していた。
「もう、エイジがいないんじゃ私が来た意味ないじゃない!」
「むっ、そんなことはないと思うが……」
「お父さんもエイジが来ないこと知ってたんじゃないでしょうね?」
「そ、それは――」
……おいおい、何やら親子喧嘩始めちまったぞ? っていうか娘のほうが強そうだな。……おっさんと娘さんのやりとりに現代のお父さんを見た気がする。まあ傍から見る限りではドラゴン同士のケンカだけど……。
俺はアザゼル先生に小声で話しかける。
「先生、エイジの奴もここに来る予定だったんですか?」
「ああ、タンニーンのほうから連れて来いと言われていたんだが……」
「なら、どうして連れてこなかったんですか?」
先生、エイジについて来いなんて言わなかったよな?
「…………あいつにはいま、朱乃の傍にいて欲しかったからつれて来なかったんだが、まさかこんなことになるとはな……」
気まずそうに答える先生。朱乃さんの傍にエイジを? どういうことなんだ?
「ま、前もって伝えておかなかったんですか?」
匙がおそるおそる訊ねる。アザゼル先生は首を横に振る。
「いや、タンニーンには伝えておいた。タンニーンが娘に話さなかったんだろ」
やれやれだとアザゼル先生はため息を吐いた。
「もういいわ!」
「コ、コラ! 待ちなさい!」
何やら大声が……。どうやらユウカナリアさんがこれ以上話しても無駄だとタンニーンのおっさんとの会話を打ち切ったようだ。
ユウカナリアさんはズンズンとこちらに歩いてくる。
おっさんの隣にいたから分かりにくかったけど、おっさんよりも小型といっても、俺たちから見ると十分大きかったんだな。
――って!
ユウカナリアさんがドラゴンの姿から人間の姿に変身した!
うおっ! やっぱり美人だ!
整った顔立ち! お尻近くまで伸ばされた青かがった紫色の髪! 大きくて形のいいFカップはあるだろうおっぱい! 腰も細くくびれていて、お尻も程よい大きさ! 太もももむっちりしている、ものすごい美人! 頭に生えた小さな角もすっごくかわいい!
服装はおっぱいを強調させるようなヘソを出したタンクトップに、ジャケット。いまにも下着が見えてしまいそうな超ミニのタイトスカート! エッチなお姉さんルックだった! パーティでは大人しめのドレスだったのに普段はこんな大胆な服を着てんのか!
「ねえ、あなたたちはエイジがどこにいるか知らない?」
訊ねてくるユウカナリアさん! 俺も匙もユウカナリアさんの姿に目を釘づけにされていた!
「ねえ、知らないの?」
――っ。俺と匙がぼーっとしていると、ユウカナリアさんはヴァーリのほうへ視線を向けた。
「ねえ、あなたは知ってる?」
「あ、ああ……、エイジなら――っ」
ヴァーリの言葉が途中で止められる。原因は……おっさんだった。おっさんがユウカナリアさんの後ろでヴァーリを血走った眼で睨んでいたからだ。
おっさんに気づいたユウカナリアさんは後ろを振り返る。
「もう! 邪魔しないでよお父さん!」
「邪魔とはなんだ! 邪魔とは! それよりも、またおまえはそんなはしたない格好をして! 人間の格好になるなら、せめてまえに買ってやったドレスのような服装にしなさい!」
「え~、お父さん買ってくれるドレスって動きづらいし、古臭いから嫌」
「なっ、ふ、古臭いだと!?」
「うん♪」
「…………」
バッサリ切るユウカナリアさん。……おっさんはとうとう何も言えずに黙っちまった。パーティで着ていたドレスっておっさんが送ったものだったのか。ていうか、色々と怖ろしい娘さんだな、おい。
ユウカナリアさんは再び俺らに視線を移した。
まるで品定めするような視線で俺と匙、アザゼル先生を見比べると、匙の目を正面から見て声をかける。
「ねえ、あなた」
「は、はひっ!」
緊張しまくって声まで裏返ってる匙に、ユウカナリアさんは笑顔で訊ねる。
「エイジがどこにいるか知ってる?」
「あ、そ、それ……それは……」
完全にユウカナリアさんに飲まれている! タンニーンのおっさんはどこか遠くを見ている! 匙に逃げ場はない!
「ねえ、お、し、え、て」
ここでユウカナリアさんの追い討ち! 距離を詰めて、顔を近づけての問い!
俺と同じ……、もしかすると俺以上に女性に対する免疫のない匙は、完全に折られてエイジの居場所を話し始める。
「か、神城は……、人間界の兵藤の家にい、います……」
「兵藤の家?」
「そ、そこの奴の家で、神城の家の隣で……」
「それで、どこから行けばいいの?」
「お、俺たちがここに来るときに使った転移用の魔法陣がまだあるはずだから、そ、そこから行けば……」
匙は催眠術にかかったようにスラスラと答えていく。匙の視線はかすかに当てられている大きなおっぱいに釘づけだ! うわぁああああっ、うらやましいっ!
「うん、ありがと♪」
「ど、どういたしまして」
ユウカナリアさんは体を離してお礼を言う。匙は少し残念そうだったけど、
「これはお礼よ」
「――っ!!」
――っ! き、キスだとぉおおお!? 匙の奴! 前に俺が部長にされたときみたいに額にキスされやがった!
匙は驚愕から顔を真っ赤にしたあと、幸せそうに顔を緩ませていやがった! お、俺が答えていればぁぁぁ!
「じゃっ、お父さん。私はエイジのとこに行ってくるから。帰りは1人で帰ってね♪」
ユウカナリアさんはそうおっさんに言い残すと、俺たちが来るときに使った転移の魔法陣に乗って、姿を消した。エイジのところに行ったんだろう。
「――って、エイジの奴はあんな美人のお姉さんとも色々やってんのか!? クソォオオオオオオオオオオオ!!」
「ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ……。俺には会長が、会長とできちゃった結婚するんだ。ダメだ、ダメだ、ダメだ、ダメだ……。俺には会長が……」
「……まさに俺の理想だ」
「おい、ヴァーリ。ぼけっとしてどうしたんだ? ……アルビオン、ヴァーリはどうしたんだ?」
『いや、俺にもわからない。どうしたんだ、ヴァーリ』
「グォオオオオオオオオオオオオオ! 俺の娘に手を出すとはいい覚悟だな、小僧ぉおおおおおおおおおおお!!」
「俺には会長、俺には会長、俺には会長、俺には会長……」
「お、おい! 落ち着けタンニーン! そいつは別に何も――」
「うるさい、アザゼル! 貴様は黙っていろ!」
「――っ! や、ヤバい……。完全に理性を失ってやがる!」
「アルビオン」
『気づいたかヴァーリ。タンニーンが少しマズいことに――』
「俺がタンニーンを倒せば彼女を――、いや、エイジを倒せば彼女は俺を――」
『ど、どうしたんだヴァーリ! しっかりしろ!』
「俺の娘に手をだす男は全て滅ぼしてくれる!」
「おいおい、まさか本気でこのフィールドを吹き飛ばすつもりか……!?」
「アザゼル」
「ヴァーリ! 手を貸せ! タンニーンの攻撃を半減させるんだ! このままじゃフィールドが吹っ飛んじまう!」
「まかせろ。タンニーンぐらい倒せないとダメだろうからな」
「いやいやいや、倒すって何言ってんだよ?」
「アルビオン、彼女はまさに理想のドラゴンだとは思わないか」
『ヴァーリ、私にはいまのおまえがまったく理解できない』
「クソォオオオオオオオオオオオオオオオ! 絶対エイジを超えて俺がハーレム王になってやるぅううううううう!」
『ふははは、相棒も相変わらずだな。ふはははは……』
「俺には会長、俺には会長、俺には会長……、会長とできちゃった結婚する、会長とできちゃった結婚する、会長とできちゃった結婚するんだぁあああああああああ!」
「俺の娘は誰にも渡さぁぁぁああああああああんっ!」
「……………………もうおまえら勝手にしろよ」
◆
「よーし、じゃあ気を取り直してはじめるぞー」
パンパンとアザゼル先生は手を叩いた。
あれ? 俺はいままで何を……?
「いいからさっさと『終末の大龍』呼びだすぞー」
「そうだな……俺ももう帰りたいし」
タンニーンのおっさんは嘆息しながらつぶやく。娘さんが出ていってから元気ねぇな。
「確か『終末の大龍』って、世界の終末に動きだすものの一匹で、使命が来るときまで眠りについているんだったよな」
アザゼル先生の言葉にタンニーンのおっさんはうなずく。
「ああ、あいつは基本的に動かん。たまに地上へあがってきていたこともあったが、そのときですら寝ていた。数百年前、ついに世界の終わりまで深海で過ごすと宣言していたしな」
そ、そんなドラゴンが龍王に……。基準がわからないよ。
でも、会いたくても会いにくいのはわかった。深海のそこじゃ、さすがに会えないわ。
「さて、魔法陣の基礎はできた。あと各員、指定された場所に立ってくれ」
先生たちに促され、俺たちはそれぞれ、見知らぬ紋様が描かれたポイントに立った。
自分たちの下に描かれている紋様がそれぞれ、二天龍、龍王を意味するものらしい。
各自指定ポイントに立ったことを先生が確認すると、手元に小さな魔法陣を操作して、最終調整をしているようだった。
カッ。
淡い光が下の魔法陣を走りだし、俺のところが赤く光り、ヴァーリのところが白く光った。先生のところが金色に、匙のところが黒く、おっさんのところが紫色に光り輝く。
『それぞれが各ドラゴンの特徴を反映した色だ』
と、ドライグが説明してくれる。
『ここにはいないが、ティアマットが青。
へぇー。って、正直、色がどうこう言われてもよくわからんけどさ。
魔法陣が発動した。しかし、何も反応がなく、俺たちは数分間その場で立ち尽くすだけだった。
……本当にそのミドなんたらさんの意識とやらが来てくれるのか?
怪訝に思う俺だが、魔法陣から何かが投影され始めた。立体映像が徐々に俺たちの頭上に作られていくが――。
俺はどんどん広がっていく映像の規模に口が開きっぱなしだった。見れば匙も――。
「俺は、俺は会長が……」
キスされた額をさすりながらいまだに悶えていた。いい加減目を覚まそうな。
そして――。
俺たちの眼前に映しだされたのはこの空間を埋め尽くす勢いの巨大な生物だった。
で、でけぇぇぇぇぇぇええええええっ!
うわ、このドラゴン、グレードレッドさんより断然デカいぞ!
姿はでっかい蛇のようだ。頭部はおっさんみたいなドラゴンだけどね。長い体でとぐろを巻いている様子だった。
体が長細いタイプのドラゴンなのか。そういや、ドラゴンにはドライグやおっさんみたいに西洋のドラゴン然としたタイプと東洋の長細い蛇みたいなタイプがあると聞いたことがあるな。
俺が驚いているのを察したのか、おっさんが言う。
「ドラゴンのなかで最大の大きさを誇るからな、こいつは。グレードレッドの5、6倍はあるだろう」
じゃ、じゃあ、5、600メートルですか……? 怪獣の域を超えてる!
ビビる俺の耳に特大にデカい奇っ怪な音が飛び込んでいた。
『………………ぐごごごごごごぉぉぉおおおおおおおおん……』
……いびき?
寝てますか、このドラゴンさんは……。
「案の定、寝ているな。おい、起きろ、ミドガルズオルム。……俺はもう帰りたいんだ」
タンニーンのおっさんが話しかけると、巨大なドラゴンはゆっくりと目を開いていく。おっさんユウカナリアさんがいなくなってから一気にやる気なくなったな。
『…………懐かしい龍の波動だなぁ。ふああああああああああっ……』
大きなあくびをひとつ。わー、でっけぇ口! おっさんを余裕で丸呑みにできる大きさだよ!
『おぉ、タンニーンじゃないかぁ。久しぶりだねぇ』
なんともゆったりした口調だな。
そのドラゴンが俺たちを見渡す。
『……ドライグとアルビオンまでいる。……ファーブニルと……ヴリトラも……? なんだろう、世界の終末なのかい?』
「いや、違う。今日はおまえに訊きたいことがあってこの場に意識のみを呼び寄せた」
タンニーンのおっさんがそう言うが……。
『…………ぐ、ぐごごごごん……』
ミドガルズオルムは再びいびきをかき始めた。ダメだ! このドラゴン、話している途中で寝ちゃうじゃん!
「寝るな! まったく、おまえと玉龍だけは怠け癖がついていて敵わん!」
口から炎を吐かんばかりに怒るおっさん。ミドガルズオルムも大きな目を再び開けていた。
『…………タンニーンはいつも怒っているなぁ……。それで僕に訊きたいことってなんなのぉ?』
「おまえの兄弟と父について訊きたい」
おっさんがそう訊く。
「……兄弟と父? そ、そんなことを訊くんですか? ロキとフェンリル対策じゃ?」
俺が疑問に思い先生に問う。
「ミドガルズオルムは元来、ロキが作りだしたドラゴンでな。強大な力を持っていながら、その巨体と怠け癖から北欧の神々も使い道が見いだせず、海で眠るよう促したんだ。せめて、世界の終末が来たときだけ何かしろと言ってな」
「そ、それで『終末の大龍』なのか……。まさにスリーピングなでっかい龍だ」
おっさんの質問にミドガルズオルムは答える。
『ダディとワンワンのことかぁ。いいよぉ。どうせ、ダディもワンワンも僕にとってどうでもいい存在だし……。あ、でも、タンニーン。ひとつだけ聞かせてよぉ』
「なんだ?」
『ドライグとアルビオンの戦いはやらないのぉ?』
俺と――ヴァーリを交互に大きな目で見ていた。
「ああ、やらん。今回は共同戦線でロキとフェンリルを打倒する予定だ」
おっさんの言葉にミドガルズオルムは笑ったように見えた。
『へぇ、おもしろいねぇ……。2人が戦いもせずに並んでいるから不思議だったよぉ』
そう言ったあと、改めて質問に答えだした。
『ワンワンはダディよりも厄介だよぉ。牙で噛まれたら死んじゃうことが多いからねぇ。でも、弱点もあるんだぁ。ドワーフが作った魔法の鎖、グレイプニルで捕らえることができるよぉ。それで足は止められるねぇ』
ワンワンね。まあ、この大きさのドラゴンから見たら、小さなワンワンだよな。
「それはすでに認識済みだ。だが、北からの報告ではグレイプニルが効かなかったようでな。それでおまえからさらなる秘策を得ようと思っていたのだ」
『……うーん、ダディったら、ワンワンを強化したのかなぁ。それなら、北欧のとある地方に住むダークエルフに相談してみなよぉ。確かあそこの長老がドワーフの加工品に宿った魔法を強化する術を知っているはずぅ。長老が住む場所はドライグかアルビオンの神器に転送するからねぇ』
先生がヴァーリのほうを指さす。
「情報は白龍皇に送ってくれ、こちらは頭が残念で辛い」
ゴメンなさいね! バカで!
「でも、ドワーフとかエルフって本当にいるんですね」
俺は思ったことを口に出していた。
だって、ファンタジー小説や映画でしか知らない存在だし。まあ、それを言うなら悪魔や天使がいるんだから、いて当たり前なのか。
「大概は人間界の環境激変で異界に引っ込んだがな。一部の奴らはまだ人間界の秘境に住んでいる」
ヴァーリが情報を捉え、口にする。
「――把握した。アザゼル、立体映像で世界地図を展開してくれ」
先生がケータイを開いて操作すると、画面から世界地図が宙へ立体的に映写される。ヴァーリは一部を指していた。先生は素早く、その情報を仲間に送りだしていた。
「――で、ロキ対策はどうだ?」
おっさんは急かすように訊く。そうまでして家に帰りたいのか?
『そうだねぇ。ダディはミョルニルでも撃ち込めばなんとかなるんじゃないかなぁ』
ミドガルズオルムの話を聞いて、先生はあごに手をやった。
「つまり、基本、普通に攻撃するしかないわけだな。オーディンのクソジジイが雷神トールに頼めばミョルニルを貸してくれるだろうか……」
「トールが貸すとは思えないが。あれは神族が使用する武器のひとつだからな」
先生の意見にヴァーリがそう言う。
『それなら、さっき言ったドワーフとダークエルフに頼んでごらんよぉ。ミョルミルのレプリカをオーディンから預かっていたはずぅ』
「物知りで助かるよ、ミドガルズオルム」
先生は苦笑しながら礼を口にした。
『いやいや。たまにはこういうおしゃべりも楽しいよ。さーて、そろそろいいかな。僕はまた寝るよ。ふあああああっ』
大きなあくびをするミドガルズオルム。少しずつ映像が途切れてきた。
「ああ、すまんな」
『いいさ。また何かあったら起こして』
それだけ言い残すと、映像がぶれていき、ついには消えていった。
ミドガルズオルム。おっきくて変な龍王。また会うことはあるのかな?
こうして俺たちは龍王からの情報を得て、動きだすことに――。
「そういや、イッセー」
「なんですか、アザゼル先生」
「木場に謝っておけよ」
「へ? 何かしましたっけ?」
「ここに来る前のこと。覚えてないのか?」
「えーと……、なんか色々ありすぎてほとんど」
「まったく、おまえという奴は……」
俺が頭をかきながらそう言うと、アザゼル先生は嘆息した。え? 何かあったけ? エイジがオーフィスからラブレターをもらってショックで匙と慰めあっていたことぐらいしか覚えていないんだけど。
「仕方がないから、教えてやる。俺たちがここに来る前。木場はダンボールいっぱいに入ったエロ本を、ロキとフェンリル戦のあとの深夜に買いに行ったことがバレてな。リアスに魔力の込められた手でお尻叩き1000回の刑――」
――っ! まさか俺がせいで木場の尻が――。
「――ではなく、精神病を疑われてな。グレモリー領の病院につれて行かれそうになってたんだよ」
…………。
「……え? まさか嘘――ですよね?」
アザゼル先生は首を横に振る。
「木場は自分のではないと主張していたが、黒歌と小猫が、木場がダンボールいっぱいに入ったエロ本を抱えたところを見ていて、しかも自宅へ持ち込んだことまで証言されてな。木場はおまえに弁護してもらおうとしていたが、おまえは木場に気づかずに黙っていたから、おそらくそのまま、な」
「な、じゃないですよ! アザゼル先生も事情を知っていたんだから俺の代わりに弁解してくれてもよかったんじゃないですか!」
「まあ、そうなんだが。木場はおまえに助けて欲しがっていたようだったし、俺が言うよりも、おまえが言ったほうが説得力があるみたいだったから言わなかったら時間が来てな。そうなった。だからしっかり木場に謝っとけよ」
尻叩きよりもマズいことになってんじゃん! ああ、もうっ! 早く木場を助けに行かねぇと!
ロキとフェンリル対策はあとだ!
「なあ、タンニーン」
「……なんだ、白龍皇」
「お義父さんと呼んでもいいかい?」
「燃やし尽くされたいか、小僧」
いま助けに行くからな、木場!
◆
<エイジ>
『終末の大龍』ミドガルズオルムに、ロキとフェンリルの対策を訊くために、アザゼルがイッセーと匙とヴァーリをつれて行こうとしていた頃。
「祐斗、まさかあなたがこんなことになるなんて……。私が自分の修行ばかりに集中していたからなのね。……ゴメンなさい」
「違うんです……。違うんです部長。本当に僕の物ではないんです! 謝らないでください!」
「ええ、わかってる。わかってるわ。――ちょっと疲れているだけなのよね」
「ぼ、僕は疲れていなんか――」
「木場さん! いま『
「アーシアさん?」
「アーシアはそのまま全力で、祐斗の頭の治療を続けてちょうだい。私はグレイフィアに連絡して悪魔専用の精神科医を探すわ。――心配しないで、きっと大丈夫よ」
「部長?」
「木場! しっかりするんだ! おまえまで変態になったら……、私たちと誰もレーティングゲームを組んでくれなくなる!」
「ゼノヴィア、僕は正気だよ」
「なんてことなの! イッセーくんの変態は感染するものだったの!? ああっ、ミカエルさま! 私の幼なじみは周囲にも影響を及ぼすほどの変態だったようです。これ以上変態を増やさないために私はイッセーくんをこの手で――」
「ねえ、紫藤さん。僕はもう変態認定されているのかな?」
「祐斗先輩ぃぃぃ! 祐斗先輩がイッセー先輩みたいに変態になったらと思うと僕はぁぁぁ~!」
「……ギャスパーくんまで」
「ええ、……ええ、そうなのよ。祐斗がイッセーみたいに変態になっちゃったみたいなの。お願い、グレイフィア。いますぐ精神科医を用意して」
『そ、それは……。わかりました。直ちに名医をご用意いたします。お嬢さまはあまり彼を刺激しないように、グレモリー家へつれて来ていただけますか』
「わかったわ。ありがとうグレイフィア」
「ぼ、僕の精神は病んでなんか……! あれは本当に全部イッセーくんの特訓用の道具で! ほら、イッセーくんも説明してよ!」
「……………」
「イッセーくん!? 黙ってないで何とか言ってよ!」
「……行くぞ、イッセー、匙、ヴァーリ」
「ちょっと、アザゼル先生! まだイッセーくんに僕が無実だということを――」
「行くぞ」
「アザゼル先生っ!」
木場の叫びは空しく響き、アザゼルたちは部屋から出て行った。再びリアスがやさしく木場に話しかける。
「祐斗、アザゼル先生とイッセーたちはこれから行かないといけないところがあるの。――大丈夫だから、ね? 落ち着いて。私たちと一緒に先生に診てもらいましょう」
「だから違う。違うんですって! 妙に優しくしないでください! それに何度も言っているとおり僕はイッセーくんみたいな変態なんかじゃな――」
木場は両手で頭を挟んで横に振る。かなり精神が疲弊している様子がうかがえる。その様子にギャスパーが立ち上がった。
「部長、僕が祐斗先輩を停止させます!」
「ギャスパー、『停止世界の邪眼』をコントロールできるようになったの?」
「大丈夫です! 任せてください! 僕は……、僕が祐斗先輩を停止させます! 僕はもう神器を畏れません! 祐斗先輩を、仲間を助けます!」
浮んだ涙を拭ってそう言い放つギャスパー。少し前では考えられなかったその姿にリアスは感動して涙を流していた。
「ギャスパー、成長したわね」
「何を涙ぐんで感動しているんですか!? ギャスパーくんも! 僕は別に――」
木場が再び叫び始めたその時、ギャスパーの神器が発動する。木場が口を開けたまま停止していた。
「――うん、ちゃんと祐斗だけ停止してるわね。ギャスパーはできる範囲でいいからそのまま祐斗を停止させていて」
ギャスパーの成長を実際に確認したリアスは満足そうにうなずいた。成長したなギャスパー。
「はい!」
「皆、これから私は祐斗をつれて冥界に行ってくるわ。アーシア、あなたの神器も役に立つだろうから私についてきてちょうだい」
「はい!」
「いい返事ね。じゃあ、私たちは冥界に行って来るわね。明日には私たちだけでも戻ってくるから、報告はそのときにお願い」
と、リアスは転移用の魔法陣を足元に展開させ、アーシア、ギャスパーの3人と、イッセーみたいに変態になった木場をつれて冥界へと転移して行った。
はぁ……、まさかあの木場が深夜に、しかもロキとフェンリルと戦ったあとに、街中を駆け回ってダンボールいっぱいのエロ本を買い集めていたなんてな……。その現場を目撃したという黒歌と小猫ちゃんに訊ねてみる。
「本当にあいつがダンボールいっぱいのエロ本抱えていたのか?」
俺の問いに黒歌は自信たっぷりにうなずく。
「そうにゃ。昨日の晩に白音と散歩していたときに、あの『騎士』――じゃなくて、変態2号がダンボールいっぱいに入ったエッチな本を抱えてたのにゃ」
「そうなんだ……。小猫ちゃん、見間違いとかは――」
「見間違いなんかじゃありません!」
言葉を遮って大声をだす小猫ちゃん。瞳には涙がうかんでいて――。
「祐斗先輩がダンボールを落としたときになかから出てきたのは、全部……、全部エッチな本だったんです! 10冊、20冊なんかじゃなくて、100冊以上はありました! それに祐斗先輩、落としたエッチな本を必死にかき集めて……、まるでイッセー先輩みたいに……」
涙を流しながら小猫ちゃんはそう語る。……小猫ちゃん、楽しみにしていた『乳龍帝おっぱいドラゴン』でレーティングゲームの映像が流されて、続けざまに人形まで創られてから部屋に引きこもりがちだったもんな。さらにイッセーみたいな変態に、爽やかで紳士な騎士だった木場がなったことが、かなりショックのようだ。
黒歌の胸に顔を埋めてすすり泣きを始めてしまった。
「……黒歌」
「にゃん。先に家に帰らせてもらうにゃ」
「ああ、気をつけてな」
黒歌は小猫ちゃんをつれて転移の魔法陣で帰っていった。
「私も気分が優れないので帰らせていただきますわ」
朱乃さんも黒歌と小猫ちゃんのあとを追うように帰り、ここに大勢いても仕方がないと、ソーナ会長も『女王』以外の眷属を帰宅させ、俺のほうもセルベリア、ノエル、レイナーレを帰宅させた。
時雨はゼノヴィアとイリナ、そしてアーサーの聖剣談議、というか刀剣談議に参加し、この場に残っている。
とりあえず、この場に残った連中を確認する。
この場にいるのは俺、時雨、ゼノヴィア、イリナ、ソーナ会長、真羅椿姫先輩、アーサーの7名だった。
「【武器の申し子】といわれるあなたの刀まで見れるとは、私は幸運のようです」
「……ん」
「なるほど、これも素晴らしい一品です。まさに刃金の真実を秘めている刀。これほど見事なまでの刀は見たことがありません」
「わ、私にも見せてもらえませんか?」
あれ? 椿姫先輩まで刀剣談議に加わったぞ? そういえば椿姫先輩って
西洋剣には余り興味はないけど、日本の刀とかには興味あるタイプなのかな?
アーサーが視線で時雨に確認をとってから、椿姫先輩に刀を手渡した。
椿姫先輩は興味深そうに刀身を見つめている。
「……すごい。これは本当に見事な刀ですね。波紋から何から何まで美しく、纏っている雰囲気も精錬でいて力強い。魅力的な刀です」
椿姫先輩は時雨に礼を言ってから刀を返す。ふぅっと満足そうなため息を吐く一方で物欲しげに刀に視線を送っていた。
ここでアーサーが再びこちらを見てきた。
「この刀もあなたが製作したのですか?」
「えっ!? そ、そうなんですか!?」
椿姫先輩が飛びついてきたけど、首を横に振って否定する。時雨が口を開けて答えた。
「この……刀は、僕の父が作った……刀」
「ほう、この刀をあなたの父上が……」
感心するようなアーサーをよそに、椿姫先輩が時雨に向って頭を下げた。
「こ、香坂さん! 私にその方を紹介していただけないでしょうか!」
「なん……で?」
かわいらしく首をかしげる時雨に、椿姫先輩は土下座するような勢いで言う。
「私は夏休みのレーティングゲームで朱乃さんに手も足も出せずに敗北してしまったんです。そこで私は神器だけでは勝てないことを改めて学び、長刀の有段者だという肩書きだけだったことにも気づきました。……私はこれからのレーティングゲームで会長を負けさせないように力が欲しいんです」
「椿姫……」
感動した様子のソーナ会長。椿姫先輩は真剣に時雨に懇願する。
「私の力となる刃金の真実を秘めた刀を創りだせるほどの刀匠に、私も長刀を――」
「父……もう、いない」
「――っ!」
時雨の言葉に、懇願していた椿姫先輩は目を大きく開かせる。アーサーは心の底から残念そうに言う。
「それは残念ですね。これほどの刀を打てる刀匠が亡くなってしまうなんて」
椿姫先輩は肩を落としていた。時雨に頭を下げる。
「……すみませんでした」
「別にい、い」
肩を落とす椿姫先輩に、時雨は言葉を続けた。
「私の……父はもう、いない……けど、エイジは父から造り方教わっていて、免許、皆伝? もらってる、から」
「そ、そうなんですか!?」
椿姫先輩がこちらに迫ってきた。ま、まさか――。
「神城くん」
「……はい」
「私に長刀を作ってもらえませんか!?」
「……それは――」
正直、椿姫先輩には悪いけど断わりたいっ。昼間は学校、夜は悪魔の仕事がフルタイムで入っていて、ゼノたんは神殺しの剣なんて要求してこようとしてるし、イリナ用の剣もまだ5割ぐらいしかできていないし、その上ロキとフェンリルとの戦いだろ。房中術で色々回復させたりはできるけど、プライベートでのエッチじゃないから、完全には気を休められないし、朱乃さんとのデート以外で最近ちゃんとした休みもとっていないんだよなぁ。はぁ……、多忙で死んでしまうから、椿姫先輩の申し出は断わりたいです。
「ダメ――ですか?」
――っ。上目使い&潤ませた瞳×椿姫先輩みたいな普段は誰にも弱みを見せない知的系美人にそう強請られたら……、強請られたら――断われないじゃないですか!
俺は笑顔でうなずいて言う。
「わかりました。お引き受けします。先客があるので完成は遅れますが、ソーナ会長の次のレーティングゲームまでには作っておきますよ」
「ほ、本当ですか! あっ、ありがとうございます」
ぱぁぁっと明るくなった顔で、綺麗なお辞儀をする椿姫先輩。
物欲しそうな視線を今度はアーサーが送ってくる。
「私にも創っていただけませんか?」
「……『禍の団』抜けてテロリストから完全に足を洗ったら考えてやるよ」
「うーん、それは残念です」
そう言って申し出を断わると、アーサーは引き下がった。まっ、『禍の団』を抜けたとしても個人専用の武器は創れないから結局汎用武器になるけど、それで十分だろ。ていうかこれ以上仕事を増やされたら死ぬ。
「よかったですね、椿姫先輩!」
「ありがとう、紫藤さん」
「あはは、イリナでいいですよ」
「私もゼノヴィアと呼び捨てでいい」
何やら3人の仲良くなる切っ掛けを作ってしまったようだ。なんとも微笑ましい百合の花が背景に見える……気がする。……いや、幻覚だな。疲れてるんだろう。
ふぅっと息を吐いて目を瞑ってスケジュールを組んでいると、ソーナ会長がすぐ隣までやって来て、小声で話しかけてきた。
「最近多忙だと聞いています。紫藤さんの剣の製作などもあるのに、椿姫の長刀まで創るなんて、――大丈夫なんですか?」
「正直言うと、すごくキツいです」
小声で返す。ソーナ会長は俺の言葉を訊いて申し訳なさそうな表情を浮かべる。俺はそんなソーナ会長に言う。
「まあ、キツいのは確かですけど、椿姫先輩にはご迷惑をおかけして修学旅行に同行してもらうことになっていますし、その他でも生徒会の方々には迷惑をおかけしているので、これぐらいは恩返しさせてください」
「ふふっ、そういえばそうでしたね。あなたにはかなり迷惑をかけられていました」
「はい。だからこれぐらいはむしろ当然なんですよ」
ソーナ会長はクスりと笑みをもらした。こちらも笑顔でうなずいて返す。いや、本当に色々迷惑もかけてるからね。これぐらい恩を返しておかないと。
「そういえば神城くん」
「はい。なんでしょう」
先ほどとはうって変わったような真剣な眼差しでソーナ会長はこちらを見上げてきた。
「本当にリアスは悪神ロキに手傷を負わさせたり、不意打ちとはいえ、フェンリルを屠れるような実力を身につけたのですか?」
リアスとはライバルだそうだから、ライバルの急成長が気になってるんだろう。さっきもリアスに問い詰めていたし……。
隠していてもバレるし、隠す必要もないので俺は素直にうなずく。
「はい。夏休みからずっと地獄のような厳しい修行を積んでいたのと、武器の特性もあって、――おそらくすでに最上級悪魔に近いレベルにまでは成長していると思います」
「最上級悪魔っ!?」
なんとか小声レベルに止めて驚愕の声を上げるソーナ会長。顔を近づけてきて問い詰めてきた。
「いったいどんな修行をしたのですか? 先ほどリアスに訊いても要領を得なくてわからなかったんです」
「えっと……」
俺はとりあえず掻い摘んでリアスたちの修行を簡単に説明した。まあ、掻い摘んでとはいうけど、俺ぐらいにしかできない危険で無茶な修行法だということはしっかりと教えました。
…………。
「…………」
その結果、ソーナ会長はあごに手をやって何やら考え中。時おりブツブツと、
「私たちもその修行をつけてもらったほうが……、でも彼はすごく忙しいし、新人同士のレーティングゲームで他の新人の駒に指導してもらうのは――」
などと思考をめぐらせていた。
……ソーナ会長、お願いですから、これ以上仕事は増やさないでください。俺、本当に死ぬから……。
ガチャ。
俺がそんなことを考えていると、部屋のドアが開いた。イッセーたちが戻ってきたのかと思ったら――。
「エっ、イジィイイイイイイイイ~!」
聞きなれた声と――。
だきぃ。
視界を覆う暗黒。顔全体、いや、頭全体に感じる弾力のある極上の柔らかさ! それにこの匂いには――!
「ユウカナリア」
「エイジ、エイジ、エイジ! もう、やっと会えた!」
Fカップの巨乳に俺の頭を挟んだまま、ユウカナリアはうれしさを体全体で表す。ユウカナリアさん~、気持ちいい反面、首が痛いですよー。身長差を補うために翼で飛んでる分体重が乗って特に。
とりあえずFカップから脱出してユウカナリアを地面に降ろす。
「エイジ~」
「よしよし」
甘えるように抱きついてくるユウカナリアの頭を撫でる。ユウカナリアはうれしそうに目を細めていた。
「ん~、エイジの匂い……」
ユウカナリアは胸に抱きつきながら鼻をヒクヒクさせて満足げな声をもらした。こうなったらしばらくは離れないんだよな。
「エイジ」
「えっと、神城くん」
ユウカナリアの頭を撫でていたら、ゼノヴィアとソーナ会長に話しかけられた。視線から察するに「知り合いか?」と訊ねたいんだろう。
「ユウカナリア」
「ん」
俺はユウカナリアに一言かけてから、ゼノヴィアやソーナ会長たちのほうを向かせて紹介を促した。
「はじめまして、私はユウカナリア! 元龍王、タンニーンの娘で、エイジの恋人でーす!」
ユウカナリアはゴロゴロと喉を鳴らす猫のように、俺の腕を取って自分の体を抱きしめさせた上で、ニコニコ笑顔で自己紹介をした。
「あなたがタンニーンさまの――って、神城くんの恋人!?」
「ああ、イッセーを鍛えたというあのドラゴンか」
恋人発現に驚愕するソーナ会長の一方で、ゼノヴィアはただ単にタンニーンの娘であることに驚いていた。……まえから度量が大きいよね、ゼノたんって。
「聖書に記されてるドラゴンの娘に会えるなんて! 私は紫藤イリナっていいます! イリナって呼んでください!」
「ええ、よろしく。イリナ」
……イリナもだけど、ユウカナリアも色々と軽いよね。一応悪魔と天使なんだよ?
「はじめまして、私はアーサーといいます」
「シトリー眷属『女王』の真羅椿姫です」
ナチュラルに挨拶するよなアーサー。いまは協力関係だからって『禍の団』所属のテロリストなんだから椿姫先輩より先に挨拶するなよ……。
「ひさし、ぶり」
「あーっ! 時雨!」
よっ、と手を顔の横の高さまで上げて挨拶する時雨。ユウカナリアは時雨を見て笑顔を濃くした。
「本当に久しぶりじゃない! もう、たまには遊びに来なさいよね!」
「うん、今度……行く」
「なら、よし!」
それからゼノヴィアとソーナ会長とも改めて挨拶を交わし、ユウカナリアからここへやって来た経緯を掻い摘んで聞きた。
「じゃあ、まだ呼びだしてもいないんだな」
「ええ、まだしばらくかかるみたいよ」
ソファーに腰を下ろした俺の膝の間に体を埋めて、胸に背もたれにしながらユウカナリアは答えた。
「ん~、それなら私たちも帰っちゃう?」
「明日訊けばいいしな」
左側にゼノヴィア、右側にイリナが密着するように座り、頭のほうでは俺の頭が股の間の中心に来るように、ソファーの背もたれの上で時雨がしゃがんでいた。かなりきわどい格好だ。……イッセーや匙がこの場にいたなら喜んで時雨のスカートのなかを見ていただろう。
ちなみに俺は合計4人の美女と美少女に文字通り囲まれているが、全然暑苦しくない。……便利だよな、魔法って。
仲良く? ソファーに座る俺たちに、ソーナ会長は額に手を置いて息を吐いた。
「……そうですね。家主不在のままこの場にずっと留まるのは気が引けますし、報告は明日にしてもらいましょうか」
ソーナ会長のその一言で帰宅ムードに移行するかと思われたが、ここでユウカナリアの発現で空気は変わる。
「ならエイジ、工房に行きましょうよ。聖剣創らないといけないんでしょ。私はエイジが創ってるのを横で眺めさせてもらうからさぁ」
ニコニコ笑顔でそう言うユウカナリア。そういや物創りの様子を見るのが好きだったな、この子。……まあ、毎回ふとしたときに工房の奥のベッドルームに直行ルートか、そのまま作業台ルートに入るけど。
だけど今回はタイミングが悪い。おそらくエッチはお預けだ。さっきまで刀剣談議をしていたから、
「工房? そこで聖剣を創っているのですか?」
ほら、まずはアーサーさんが食いついてきたよ。
「ええ、私がいくつか持ってる異空間のなかにエイジの工房があるのよ」
ユウカナリアも簡単に答えちゃって……。
「エイジの工房か……。エイジ、私の真・リュウノアギトもそこで製作したのか?」
「あー、うん、そうだよ」
「じゃあ、私の剣もそこで創っているのね!」
「うん……」
ゼノたんとイリナも食いついてきた。そして他よりも行動力のあるイリナが手を上げて言う。
「はーい! 私も聖剣創るところ見てみたいです!」
それに続いて、ゼノヴィア、アーサー、椿姫先輩が手を上げた。
「私も聖剣が創られるところをみて見たい」
「聖剣を創る刀匠の業。是非とも見たいものです」
「わ、私も、どうやって刀剣が創られているのか気になります」
え~と……。
「神城くん。私も見させていただいてもいいでしょうか?」
……ソーナ会長もですか。
「じゃあ、皆で工房に行きましょう。いまゲートを繋ぐわ」
さらに追い討ちするかのように工房の家主であるユウカナリアも賛同する。工房へ繋がる転移用の魔法陣を部屋の壁に描き始めた。基本ノリのいいお姉さんなんだよね。
「よし、繋がったわ! じゃあ、行きましょ」
ソファーから立ち上がらせて、腕を絡まされて工房へ連行されていく俺。……え~と、ナニコレ? いきなり工房見学ツアーですか?
ていうか、何も言ってないよな俺? さっきまで帰宅する雰囲気だったけど、本当にイッセーと匙とヴァーリはいいの? 冥界に緊急搬送された木場は?
俺はいくつも疑問符を浮べるも、工房へと足を進めた。
……あ~……、そういや美猴がこの家の屋内プールで遊んでいなかったっけ?
…………ん~、まっ、いいか。
それから5時間。俺は工房で刀剣製造の講義を行ないながら、実際にイリナ用の10種類の姿に変身する聖剣の内の1本を作製した。
作製後、鏡のように澄み切った刀剣に映る皆の満足そうな顔と、俺の疲労困憊の顔が妙に印象に残った。
ちなみにお預けになったセックスはまた後日。ユウカナリアの工房で7本目の剣の作製するときにおこなうことになりました。
イッセーたちと木場はどうなったかな?
後日談というか、やっぱり1話完結のギャグ漫画とかのノリじゃなくて、起きたフラグはできるだけしっかり回収したいよね。
それで木場が勘違いされてどれだけかわいそうになろうとも……。
いや、嫌いなキャラだから……とかじゃないよ?
むしろイッセーより好きなキャラだから! なんていうか話的に不幸になってしまうだけで……。