※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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第63話 バラキエルと姫島朱璃と姫島朱乃 ☆

<イッセー>

 

 

 昨日は本当に大変だった。

 

 アザゼル先生から木場が冥界の病院へ連れて行かれそうになっていたと聞いて、急いで自宅へ戻ると、屋内プールで遊んでいた美猴以外誰もいなくなっていたし、木場のことを隣のエイジの家に訪ねに行ったら門前払いどころか鬼の形相の黒歌さんに種抜かれそうになるし……。

 

 家の前で土下座を続けて、なんとか木場が冥界の病院に搬送されたことを聞き出したけど、転移の魔法陣の創り方も知らない俺が冥界に行く手段なんてなかったから、一度家に帰ってアザゼル先生に頼んで転移の魔法陣を開いてもらって、グレモリー家のお屋敷まで行って、木場の居場所を訊ねて、やっと木場に会えたんだよな。

 

 そして、無事に木場に会えたんだけど、四方を中から外が見えない特殊なガラスで囲まれた病室で、中央のベッドで頭を抱えてブツブツとつぶやいていた木場は見ていられるものじゃなかったな……。

 

 慌てて部長に木場の無実を伝えて、木場を開放してもらったけど、木場は精神が不安定になったままで今回の戦闘は不参加になって結局入院するはめになった。俺も部屋に隠していたダンボールいっぱいのエロ本を没収されて、部長にお尻叩き2000回と、アーシアからその間中お説教を食らって、ギャスパーは木場を疑ってしまったことに罪悪感を感じて、ダンボールに引き篭もったまま木場に謝り続け、グレイフィアさんからは呆れられてしまった……。

 

 うう……木場、本当にゴメン! 俺がちゃんと弁解していれば……。

 

 おまえの疑いも晴れてエロ本も助かったのに! 俺って奴は本当にダメな奴だ!

 

 このまま病室で、精神が不安定になってしまった木場に付き添っていたいが、いまはロキとフェンリルに集中しないといけない!

 

 部長たちはもう俺の家の地下にある大広間に集まっている頃だ。俺も行かないと。

 

「……イッセー……くん」

 

「木場……」

 

 不安定になった精神を癒すために眠りについていた木場が目を覚ました。

 

「戦いに行くのかい? 僕も……行くよ」

 

 木場は起き上がろうとしていた。木場も戦いに参加するつもりなんだろう。だけど……!

 

 俺は木場の両肩を掴んでベッドに寝かせる。

 

「イッセーくん?」

 

 不思議そうな表情の木場が不安がらないように笑顔で言う。

 

「今回の戦いは俺たちで十分さ! おまえは休んどいてくれよ」

 

「でも……」

 

「いいから。今回はヴァーリたちとの共同戦線で戦力は十分あるんだし、な」

 

「でも僕はリアス・グレモリー眷属の『騎士』だよ?」

 

「『騎士』にも休養は必要だろ。それに原因になった俺が言うことじゃないんだろうけど、神器は使い手の精神に影響される。いまのおまえじゃ、最悪神器が発動しなくなったりするかもしれない。だから今回のところは休んでいてくれ」

 

「そう……。そうだね。僕自身でも神器が扱えるかわからないし、うん。今回は皆を信じて待っているよ」

 

 木場は俺の言葉にうなずいていた。冷静に自分の状態を理解して身を引いてくれたが、――その瞳にはまだ光はない。

 

 ――っく、ゴメン。ゴメンよ、木場……! 時間があれば見舞いに来るから。

 

 目を閉じて眠りにつく木場に何度も謝りながら、俺は自宅へと繋がれている転移の魔法陣が設置されている部屋へ向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 早朝、俺たちは地下の大広間に集まっていた。俺たちもシトリー眷属も今日は学校に出ない。俺たちを模した使い魔に代わりに学校生活を送ってもらう予定だ。――ちなみに木場が入院している間も、使い魔に木場の代わりに学校生活を送ってもらう予定だ。

 

 ロキとの決戦が近づいているので、休まないといけない。学園生活を楽しみにしていた眷属の面々は残念がっていた。皆、学校好きだもんな。俺も大好きだぜ!

 

 あ、そういえば眷属のなかでエイジだけが「久々に休める」と喜んでいたな。何でも最近まともな休みがなかったそうで、悪魔の仕事も休みになったことと聞いてガッツポーズしてたっけ。まあ、学園生活のあと夜はほぼフルタイムで悪魔の仕事をやっていたそうだから当然か。まったく人気者は辛いねぇ。

 

 ソーナ会長は自分が学園に行けないことのもどかしさを感じているようだ。生徒会長ゆえか、「自分がいない間に何か起こるのではないか?」とそわそわするらしい。

 

 と、先生が小声でつぶやきながら現れた。

 

 顔は不機嫌極まりない様子だ。

 

「オーディンの爺さんからのプレゼントだとよ。――ミョルニルのレプリカだ。ったく、クソジジイ、マジでこれを隠してやがった。しかし、ミドガルズオルムの野郎、よくこんな細かいことまで知っていたな」

 

「すごいものなんですか?」

 

 俺が訝しげに訊くと再度言い直してくれる。

 

「北欧の雷神トールが持つ伝説の武器のレプリカだ。それには神の雷が宿っているのさ」

 

 へー、すごそうだな。

 

「はい、オーディンさまはこのミョルニルのレプリカを赤龍帝さんにお貸しするそうです。どうぞ」

 

 ロスヴァイセさんから渡されたのは――普通のハンマーだった。

 

 えー、これなの? 日曜大工で使うハンマーみたいだ。何やら豪華な装飾やら紋様が刻まれているけどさ。

 

「オーラを流してみてください」

 

 ロスヴァイセさんに言われて、俺は力強く魔力をハンマーに――。

 

 カッ! 一瞬の閃光。そのあと、ハンマーがぐんぐん大きくなって――。

 

 ズドンッ!

 

 俺の身の丈を越す巨大なハンマーとなって、大広間の床に落ちた。持つところはともかく、頭の部分がすっごいデカくなったぞ!

 

 落下した衝撃で大広間自体が大きく振動してしまった。

 

 ……あまりの重さで、床にハンマーが埋まってしまったよ。

 

 ふんぬぅぅぅぅぅっ! 力一杯持上げようとするが、ピクリとも動く気配がない。なんて重さだ! 禁手状態でもないと持上げられないか? でも、禁手でもこの重さだと思うように振り回せそうにないような……。

 

「おいおいおい。オーラ纏わせすぎだ。抑えろ抑えろ」

 

 先生が嘆息しながら言う。その通りに魔力のオーラを抑えて見たら、縮小して、両手で振るうにはちょうどいいサイズになった。

 

 ……けど、重さは変わらんぞ! うぬぬぬぬっ! やっぱり、持てない!

 

「禁手になれば持てるだろう。とりあえず、いったん止めろ」

 

 先生に言われて、ハンマーから手を離す。すると、元のサイズに戻った。

 

「レプリカっていってもかなり本物に近い力を持っている。本来、神しか使えないんだが、バラキエルの協力でこいつの使用を悪魔でも扱えるように一時的に変更した。無闇に振るうなよ? 高エネルギーの雷撃でこの辺一帯が消え去るぞ」

 

「マジっスか! うわー、怖い!」

 

 先生の言葉を聞いて、軽く戦慄した。そんなトンでもない武器を俺に持たせるのか。

 

「でも、俺よりもエイジに持たせたほうがいいんじゃないですか? 強いし」

 

 俺の疑問に、先生は嘆息しながら答える。

 

「まあ、それもそうなんだが。オーディンが言うにはこいつ、すでにこれよりもトンでもない武器を持ってるそうなんだよ」

 

「これよりもトンでもない武器!?」

 

 アザゼル先生は詳細を知らないのか、エイジに視線を送る。エイジは先生の言葉に心当たりがあったのかうなずいた。

 

「ああ、アレか。そういえば前にオーディンの爺さんと戦ったときに最後に見せたっけ」

 

「おまえ、オーディンの爺さんと戦ったことがあるのかよ……」

 

 先生はどっと疲れたように嘆息していた。そういや爺さんとはじめて会ったときにもそんなことを言ってたような?

 

「で、いったいどんなトンでもない武器なんだ? おまえが研究用にくれた試作の弓も興味深いものだったが、今回のはもっとトンでもない、歴代のおまえが製作して溜め込んだ【王の財宝】にしまわれているヤバいもんなんだろ! できれば研究させて欲しい。弄らせて欲しい。触らせて欲しい!」

 

 あー、アザゼル先生の瞳が途中からキラキラしだした。マッドモードに入っちゃってるね。

 

 エイジはアザゼル先生に詰め寄られて困ったような表情を浮かべていた。言いづらい武器なのか?

 

「さあ、研究させてくれ!」

 

 ――って、それでも関係無しに言い寄るんですね、先生。完全に相手のこと無視してる。

 

 アザゼル先生に詰め寄られたエイジは諦めたように口を開いた。

 

「とりあえずここでは出せない大きさだから、説明だけでいいか?」

 

「おう!」

 

 笑顔でうなずく先生。あなたは子供ですか?

 

「まず、名称はゴルディオンハンマーという」

 

「おおっ! 期待できそうな名前だな! で、効果は? 特徴は? どんな武器なんだ?」

 

 アザゼル先生ェ……少しうるさいです。そんな先生にエイジは言う。

 

「見かけは巨大なハンマーで、全長15m、重量140t。敵に向って打ち下ろすと――、辺り一帯が光になる」

 

「……は?」

 

 ……アザゼル先生をはじめ、誰もがエイジの説明に目を点にしていた。……全長15mってビルぐらい大きいんじゃね?

 

 アザゼル先生は頬をかきながら訊ねる。

 

「光になるのか?」

 

「ああ、光になる」

 

「どうして?」

 

「さあ? 歴代の誰かが製作して放り込んだものですから俺にはわからない。説明書には『要注意、気軽に振り下ろすとみんな光になるよ』としか書かれていなかった。オーディンと戦ったときに出して、少し傾かせただけでも空気が光に変わってしまって、これはダメだと、お互いが戦いを止めるきっかけになったんだ」

 

「…………」

 

 とうとうアザゼル先生も黙ってしまった。そんなトンでもない武器とは誰も予想していなかったんだろう。――って、それを爺さんと戦ってるときに出したの? 空気まで光に変えるって凶悪すぎる!

 

「ふふふ……ふふふふふ……」

 

 あれ? アザゼル先生が肩を震わせながら笑い出したぞ? どうしたんだ?

 

「神城!」

 

 ガバッと顔を上げてエイジの肩を両手で掴む先生。……こ、怖いな。狂気を感じる……。

 

「それは是非とも研究しないといけないだろ! どうやって光に変えているのか、どんな素材で創られたものなのか、色々研究しないといけないとは思わないのか!」

 

「え、そ、そうか?」

 

 ものすごい形相で叫ぶ先生にエイジが気圧されてる!

 

「ああっ、そうだ! そんな興味深いアイテムを研究もしないなんて、罪だ! おまえが研究しないというなら俺に、この俺に研究させてくれ! 大丈夫だ! 悪用はしない! 少し、少し研究させてもらうだけだから!」

 

「お、おい、アザゼル。話が逸れてはいないか?」

 

 堕天使総督の行動に見ていられなくなったのか、バラキエルさんが先生をエイジから引き離すが――。

 

「放してくれバラキエル! 神器だけじゃなく、異世界の武器を研究できるチャンスなんだ!」

 

「ええい! 落ち着け!」

 

「頼む! 神城、俺に研究をっ!」

 

 バラキエルさんの拘束も振り切って懇願する先生の執念に皆が引いていた。あー、俺のスケベ根性も傍から見ればこんな感じなのかなぁ。あ、とうとう部長が話が進まないとエイジに研究させてあげるように促した。

 

「エイジ、話が進まないし、よかったら見せてあげてちょうだい」

 

「……はい、わかりました。アザゼル、ロキとフェンリルとの戦いが片付けば貸すよ」

 

「おお、本当か! ありがとよ!」

 

 すげぇうれしそうな先生。よかったですね。

 

 ご機嫌になったアザゼル先生は何かに気づいたように俺のほうに向き直った。

 

「ああ、そうだ。おまえがそれを渡された理由だが、1番は赤龍帝の籠手の能力のひとつである譲渡の力だ。倍加させた力を雷に譲渡すると、さらにトンでもない威力を持った雷が出せるだろうと、おまえが選ばれた。あとは理由をあげるなら重いハンマーを持つならパワーバカのおまえが1番だからって理由だ」

 

「そ、そうだったんですか」

 

 アザゼル先生の理由を聞いて納得しましたよ。確かにエイジを除くと、神器で倍加した力を譲渡できて、ハンマーそのものも重い分、パワーバカの俺が持ったほうがいいハンマーだ。

 

「そうだ、ヴァーリ、おまえもオーディンの爺さんにねだってみたらどうだ? いまなら特別に何かくれるかもしれない」

 

 先生が愉快そうにそう言う。止めてくださいよ! ライバルがこれ以上強くなるなんて怖いったらありゃしない!

 

 しかし、とうのヴァーリは不適に笑いながら首を横に振った。

 

「いらないさ。俺は天龍の元々の力のみ極めるつもりなんでな。追加装備はいらない。俺が欲しいものは他にあるんでね」

 

 ――っ。

 

 ……いまの一言。ちょっとグサリときた。そうだよな。こいつには溢れるほどの才能がある。俺みたいに努力したり他の力を得なくても、自分の才能だけで十分に強いんだ。

 

 魔力の量、技量では、絶対に勝てないと言われた。その他の身体能力でも、あちらはなにもしなくても全部がすごくて、俺は努力しないと身につかない。

 

 悔しい。

 

 自分のライバルとされる者が、俺を遥かに超える素質を持っているのだから。

 

 ……いや、俺には俺だけの成長があると思うんだ。自分だけの方法で強くなって、ヴァーリにも、そのヴァーリよりも強い、目標としてるエイジにもいつか勝ってみせる。

 

 諦めたらダメだ。絶対に――。

 

「美猴、ちょうどいい。おまえに伝えておいてくれと伝言をもらっていたんだった」

 

 先生は美猴へ視線を向ける。

 

「あん? 俺っちに? 誰からだい?」

 

 美猴は自分に指をさして、怪訝そうにしていた。

 

「『バカモノ。貴様は見つけしだいお仕置きだ』――だそうだ。初代からだ。玉 龍(ウーロン)と共におまえの動向を探っているようだぞ」

 

「あ、あのクソジジイか……。俺がテロやってんのがバレたんか。しかも玉龍もかよ!」

 

 先生の言葉に美猴は顔中汗をダラダラ出して、青ざめていた。

 

 あらら、いつものカラカラ笑っているこいつがこんな風に焦るなんてな。

 

 うん? 初代? も、もしかして、初代孫悟空とかそういう方ですか……?

 

「美猴、一度おまえの故郷に行ってみるか? 玉龍と初代孫悟空に会うのは楽しそうだ」

 

「……止めとけよぅ、ヴァーリ。引退気味の玉龍はともかく、初代のクソジジイは正真正銘のバケモノだぞ。現役って言っても差し支えねぇし。あのジジイ、仙術と妖術を完全に極めてっからマジで強ぇんだ……」

 

 ロキとフェンリルを前にしても余裕そうに笑っていた美猴がこれほどビビるなんて。

 

 先生が咳払いをして俺たち全員に言う。

 

「あー、作戦の確認だ。まず、会談の会場で奴が来るのを待ち、そこからシトリー眷属の力でおまえたちをロキとフェンリルごと違う場所に転移させる。転移先はとある採石場跡地だ。広く頑丈なので存分に暴れろ。ロキ対策の主軸はリアス、神城、ゼノヴィアと二天龍のイッセーとヴァーリだ。フェンリルの相手は他のメンバー――グレモリー眷属と黒歌、セルベリアに加えてヴァーリのチームで鎖を使い、捕縛。そのあと撃破してもらう。ノエル、レイナーレ、時雨の3人は残ってシトリー眷属と一緒に会場防衛。絶対にフェンリルをオーディンのもとに行かせるわけにはいかない。あの狼の牙は神を砕く。主神オーディンといえど、あの牙に噛まれれば死ぬ。なんとしても未然に防ぐ」

 

 それが作戦。シトリー眷属が俺たちを敵ごと転移させ、部長たちに俺とヴァーリを加えた5人でロキの相手。フェンリルは他の人たちに任せる。

 

 ……プレッシャーだ。俺たちの相手は神さまなんだからな……。

 

 アザゼル先生の作戦に部長が不安げにつぶやいた。

 

「私とゼノヴィアもロキ対策なのね」

 

 部長も神さまを相手にするメンバーに入ったことに不安を隠せない様子だ。そんな部長をアザゼル先生は――なに言ってるんだこいつという表情の視線を送っていた。ちょっと、アザゼル先生! その視線は酷いんじゃないですか!?

 

「おまえなぁ、仮にもロキを傷つけることができて、フェンリルも屠れるような戦闘能力を持ってんだぞ。ゼノヴィアなんてロキに傷を負わせた。そんなバカみたいな成長してんだから、ロキと相対するメンバーに抜擢されるのは当然だろ」

 

「そ、そうなのかしら?」

 

「ああ、下手すりゃ俺よりも強い可能性があるんだからな」

 

「わ、私とゼノヴィアはアザゼル先生と同じぐらい強くなってたの?」

 

 アザゼル先生は嘆息しながら部長にそう言う。先生の言葉を聞いて、部長は顔を引きつらせていた。部長自身に自覚なかったんですか!? 確実に俺よりも強いですよ!

 

 アザゼル先生は息を吐く。

 

「さーて、話を戻すぞ。フェンリルを捕縛するための鎖のほうはダークエルフの長老に任せているから、完成を待つとして、あとは……。匙」

 

 先生が匙を呼ぶ。

 

「なんですか、アザゼル先生」

 

「おまえも作戦で重要だ。ヴリトラの神器あるしな」

 

 先生の一言に匙は目玉が飛び出るほど驚いていた。

 

「ちょ、ちょっと待ってくださいよ! お、俺、皆みたいなバカげた力なんてないっスよ!? とてもじゃないけど、神さまやフェンリル相手に戦うのは! て、てっきり会長たちと一緒にみんなを転移させて、会場防衛するだけだと思ってましたよ!」

 

 かなり狼狽している。確かに匙の力は有能だけど、さすがに神さまやフェンリル相手だと辛すぎるだろう。

 

 先生もそれを理解していて、嘆息していた。

 

「わかってるよ。おまえに前線で戦えとは言わない。――だが、ヴリトラの力で味方のサポートをしてもらう。特に最前線で戦う奴らのサポートにおまえが必要なんだよ」

 

「サ、サポート」

 

「そのためにはちょっとばかしトレーニングが必要だな。試したいこともある。ソーナ、こいつを少しの間、借りるぞ」

 

 会長に訊く先生。

 

「よろしいですが、どちらへ?」

 

「転移魔法陣で冥界の堕天使領――グリゴリの研究施設まで連れて行く」

 

 楽しげな先生の顔。

 

 あー、これはあれだ。地獄のしごきに違いない。

 

 俺の経験だが、先生があんな風に楽しそうなときは大概関わった奴が地獄を見る。

 

 まだ出会って数ヶ月だけど、先生のその辺はだいぶわかってきたよ。

 

「匙、先生のしごきは地獄だぞ。俺も冥界で死にかけたし。しかも研究施設だ。おまえ、死んだな」

 

 俺は友の肩に手を置き、憐憫(れんびん)の眼差しを送った。それを聞き、さらにビビりまくる匙。ドライグの治療でグリゴリの医療機関には何度かお世話になったこともあるが、研究施設はな~……、マッドな先生のことだし、はたして五体満足で帰ってこれるか。

 

「はっはっはー。じゃあ、行くぞ匙」

 

 先生は嫌がる匙の襟首をつかみ、そのまま魔法陣を展開した。

 

「マジかよ!? た、助けてぇぇぇぇぇっ! 兵藤ぉぉぉぉぉっ! 会長ぉぉぉぉっ!」

 

 魔法陣が光り輝き、泣き叫ぶ匙を包んでいく。

 

 さよなら、匙。おまえのことは忘れない!

 

 まあ、それはいいとして、匙に俺たちのサポート? どうするつもりなんだろうか、先生は……。

 

『おまえとの一戦であの少年のうちに眠るヴリトラが反応を始めていた。それに関係するのだろうな』

 

 ドライグがそう言う。はー、なるほど。どうなるか楽しみだぜ。

 

「そういや、ドライグ。アルビオンとは話さないのか?」

 

 せっかくの再会だ。何か話すことでもあるかなって思った。それに、最近心労を溜めさせて何度も瀕死にさせてしまったから、これで少しでも心労を取り除いて欲しいとも。

 

『いや、別に話すこともないが……。なあ、白いの』

 

 ドライグがみんなに聞えるように話しかけるが――。

 

『…………話しかけるな。私の宿敵に乳龍帝などいない』

 

 アルビオンの反応は冷ややかなものだった! おおっ、そんな!

 

『ま、待て! ご、誤解だ! 乳龍帝と呼ばれているのは宿主の兵藤一誠であって!』

 

 ドライグが弁明しようとしていた。おい! なんだ、罪を全部俺になすりつける気か! って確かに俺がわるぅございました!

 

『……ち、乳をつついて禁手に覚醒し、赤龍帝ドライグから乳龍帝ドライグ、乳龍ドライグと呼ばれるようになるなどと……。酷い有様で私は泣きたいぐらいだよ、赤いの』

 

 アルビオンの声は落胆の色を含んでいる。それを聞き、うちのドライグが泣いた。

 

『俺だって泣いたんだぞ! 涙が止まらんのだ! うおおおおおんっ! それにあまりの扱いに消滅までしかけたんだぞぉぉぉぉっ!』

 

『ぐずっ。どうしてこうなった……。我らは誇り高き二天龍だったはずなのだ……。テレビで宿敵を模した「おっぱいドラゴン」などというヒーロー番組を見たときの私の気持ちがわかるか? ライバルであるはずの赤龍帝ドライグが、乳龍帝ドライグとして出演していることを知ったときの私の気持ちがわかるか? ……うう』

 

 …………。

 

 な、なんだ、これ……。伝説のドラゴン。二天龍と称された二匹が……泣いてるよ。

 

 複雑な心境の俺だが、ヴァーリも反応に困っていた。

 

「……アルビオン、また泣いているのか。兵藤一誠を模したテレビ番組を見ていたときもすすり泣いていたな」

 

 そんなことが……。俺、ドライグを消滅させかけた上、アルビオンまで泣かせちゃったよ……。

 

 ヴァーリが多少困った顔で俺に訊いてくる。

 

「――すまない、兵藤一誠。こういうとき、どうやって慰めるべきだろうか?」

 

「知るか! 俺に訊かれてもさ! とりあえず、ゴメンなさい! どうせ俺はおっぱいドラゴンですよ!」

 

 もう! どうにでもなりやがれっ!

 

『うおおおおおおんっ! うおおおおおおんっ』

 

 ああっ、ドライグがヤバい! 待ってろ! いまお薬用意するから!

 

 こんなどうしようもないやり取りをしながらも俺たちは対ロキ戦のために準備を進めていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 ロキとフェンリル対策の準備を進めていくなかで、俺は朱乃さんに呼びだされ、自宅にある朱乃さんの部屋へとやって来ていた。

 

 部屋に備え付けられたベッドに並んで腰を下ろす。

 

 隣に腰を下ろした朱乃さんの表情は暗く、何か思いつめているようだった。朱乃さんはゴソゴソとスカートのなかからあるものを取り出す。

 

「それは――」

 

 一定の空間内の時間を早くする結界を張るための道具だった。朱乃さんはそれに魔力を流して発動させる。朱乃さんの部屋の壁が紫色の結界に一瞬包まれた。見かけはいつもと変わらない部屋だが、部屋の時間の流れは外とは違う。

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんは結界を張る道具を床に置くと、俺を押し倒してきた。

 

 胸に顔を埋めて抱きつくと、服に手をかけて上着を脱がせ、カチャカチャとベルトを外してズボンを剥ぎ取ると、ペニスを取り出した。

 

「あむっ……じゅるぅ、じゅぶっ……エイジぃ……」

 

 朱乃さんは大きく口を開けて、取り出したペニスを咥えられる限界まで一気に咥える。唾液を口に溜めて顔を前後に揺らし、いやらしい音を響かせながらペニスに舌を絡めた。――くっ! いきなりですか……!

 

「あ、朱乃……」

 

 いきなりのフェラチオに混乱しながらも、ペニスを咥え込んでちゅうちゅうと吸ったりと、激しいフェラチオを行なってくる朱乃さんを前後に揺らされる頭を掴んで止めようとするが、朱乃さんは止まらない。

 

 それどころか両手で腰に抱きついてきて、精子を吸い出さんばかりに尿道口に吸いついてきた。

 

「じゅるぅぅっ、はあっ、……じゅぶ……レロレロ……」

 

「ううっ……!」

 

 激しいフェラチオに腰を浮かせそうになる。朱乃さんの頬が卑しくペニスの形に変わったり、甘く噛みつかれたり、喉の奥で扱かれたりと射精感が募っていく。

 

 朱乃さんの頭にはペニスから精子を吸いだす以外のことはないといわんばかりに、一心不乱にしゃぶりつき、プルプルとした唇で挟んだり、ヌメリを帯びた暖かな舌先で雁首を舐めあげたりと攻めてくる。

 

「じゅ、じゅるるぅぅぅぅ……」

 

 どんどん募る射精感とバキュームフェラが合わさり、決壊する。

 

「あ、朱乃……で、射精()るっ!」

 

 ビュルッ、ビュルルルルゥゥゥゥゥッ!

 

「はぶっ、じゅるるぅっ……、ごくっ、ごくっ、ごきゅっ……じゅるぅぅぅ……」

 

「あ、ああ……」

 

 ビュッ、ビュビュッ……。

 

 尿道に残った精液まで一気にすすり出すようなバキュームに射精が収まらない。朱乃さんは大量の精子を残さず吸出しゴクゴクと喉を鳴らしながら飲んでいく。

 

 最後の一滴まですすり飲んだ朱乃さんは唇を閉じて顔を上げていき、じゅぽんっといやらしい音を響かせて口を放した。

 

「はぁ……、はぁ……、エイジ……」

 

 朱乃さんは熱っぽい視線を送ると、体を起こして服を脱いだ。上着を捨て去り、スカートを下ろし、ブラジャーを外して体を摺り寄せてきた。

 

「お願い……、私を抱いて……」

 

「……朱乃」

 

 胸に抱きついてこちらを見上げる朱乃さん。涙を瞳に溜めていた。

 

 父親であるバラキエルと再会が朱乃の精神を追い詰めているのだろう。俺は体を入れ替えて朱乃さんをベッドに押し倒し返した。

 

「エイジ……、――んっ」

 

 見上げてくる朱乃さんと唇を合わせる。朱乃さんは少し目を見開くと安堵したように腕を首に回して抱きついてきた。

 

 唇をピッタリと合わせたまま開き、舌同士を絡ませる。

 

「んちゅ、ちゅっ、あむっ……、はぁ……んんっ……」

 

 朱乃さんのおっぱいを掴んで弄る。相変わらず滑らかでさわり心地のいい美しい胸だ。

 

 優しく揉んでいると乳首がピンッと勃起し始めた。おかえしをするように朱乃さんの手が俺のペニスに伸ばされた。亀頭を掴んで上下に扱いたり、人差し指で尿道口を穿ったりと愛撫してくる。

 

 俺は左手をおっぱいから離して朱乃さんのオマンコへ移動させる。ショーツ越しでもオマンコはじっとりと湿っていて、奥からまだまだ愛液が染み出てきていた。

 

 挿入(いれ)ても大丈夫だな。

 

 キスを止めて上半身を起こす。

 

「はぁはぁ……、エイジぃ……」

 

 幼い少女のような弱い姿の朱乃さん。潤んだ瞳で俺を求めてくる。

 

 俺は完全に服を脱ぎ、朱乃さんのショーツに手をかけてするすると脱がせる。これでお互い裸になった。

 

 朱乃さんは股を大きく開いた。

 

「エイジ、お願い……私を慰めて……」

 

 外側から腕を回してオマンコのスジを指で拡げてドロドロと愛液を溢しながら誘ってくる。

 

 俺は股の間に体をいれてペニスの先端をクパクパと開いたり閉じたりしている膣口に合わせ、ゆっくりと腰を進ませる。

 

 グジュ、グズズズズ……。

 

 亀頭が膣口を拡げる。亀頭が膣口に咥え込まれると、あとはスムーズに最深部の子宮口まで挿入された。さらに腰を進めて子宮口を押しひろげて亀頭の先端が食い込むかたちで根元まで咥え込まれた。

 

「朱乃、全部挿入(はい)ったよ」

 

「……っん。――うん、エイジを強く感じるわ」

 

 朱乃さんは両手で子宮辺りをさすりながら満足そうに微笑んだ。朱乃さんの両膝を抱えて体勢を整える。

 

 そして、朱乃さんの体のすぐ横に手をついてゆっくりと覆いかぶさる。

 

 重力で横にいやらしく広がった朱乃さんのおっぱいに顔を埋めて舌を這わせた。

 

 朱乃さんの味が舌から口内に広がる。乳首に狙いを定めて口を開けてしゃぶりつく。

 

「んっ……、ああ……、エイジに吸われてるぅ。おっぱいが、全身が熱いぃぃぃっ!」

 

 口内で乳首がコリコリと硬くなり、オマンコがキュウキュウと締り、絡みついてきた。

 

 朱乃さんは両手を俺の背中に回し、股を開いて腰を動かし始めた。

 

「――っく、朱乃のオマンコが吸いて……」

 

「ああ……、エイジ、私を感じて! もっと私を犯して!」

 

 朱乃はオマンコを緩めたり締めたりと緩急をつけながら、強請るようないやらしい顔でこちらの情欲を猛らせてくる。

 

「朱乃ぉっ!」

 

「――あうっんっ!」

 

 俺は上体を起こす。それと同時に抱きついていた朱乃さんも、俺につられるように上体が起こされる。正常位から対面座位の格好になって、下から朱乃さんのオマンコを突き上げる!

 

 ギシギシとベッドが軋む。

 

「朱乃、朱乃っ、朱乃ぉぉぉっ!」

 

「ああっ! すごいぃぃっ! 子宮口が拡げられて、子宮にめり込んでる! ああっ、もっと私を狂わせてぇぇぇっ!」

 

 朱乃さんは両手で胸に抱きつき、両足を曲げて俺の腰に抱きついてきた。俺も朱乃さんを抱きしめ返して密着し、ベッドの反動を使ってピストンし、ペニスでオマンコを擦りあう。

 

 朱乃さんはたまりに溜まったストレスを発散させるように乱れ、肩に齧りついてきた。

 

「んーっ! ふぅーっ……、はぁああんっ!」

 

 ずんっとオマンコを突き上げると、朱乃さんは肩から口を離して笑顔でのけ反った。すげぇエッチな顔……。オマンコもいつもより絡みついてくるっ! 

 

「んあああっ! くるっ! すごいのがっ! い、イクぅぅぅっ!」

 

 朱乃さんのうれしそうな悲鳴と共に膣の感じが変わる。オマンコが強く締まり、子宮の吸いつきを増す。絶頂が近いんだろう。俺もそろそろ射精()そうだ。

 

「朱乃っ、中に射精すぞ!」

 

「うんっ、いっぱい射精して! んっ、……はあっ、イクゥゥゥウウウウウウウウ~!」

 

 朱乃さんは両手両足で力いっぱいに抱きついてくる。くぅぅっ、で、射精るぅぅぅっ!

 

 ビュッ! ビュルゥウウウウウウッ! ビュッ、ビュッ!

 

 ビクビクと体が震え、快感が思考を埋め尽くす。たっぷりと朱乃さんの子宮に精液を吐き出した。

 

 抱きしめ合った状態で朱乃さんは幸せそうにつぶやく。

 

「はぁ、はぁ……、はぁ、はぁ……、エイジのがたくさん入ってる」

 

 結合部に視線を向けると、子宮に収まりきらなかった精液が膣肉とペニスの間から漏れ出てた。

 

 そのまま朱乃さんの艶やかな黒髪を撫でる。子供をあやすように背中をさする。

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんはそうつぶやくと胸に顔をつけて瞳を閉じた。

 

 少しでも気を休めてください。

 

「――俺がずっと傍にいますから」

 

「ありがとう、エイジ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 朱乃さんとセックスをしてから1時間ほど経った頃。俺は朱乃さんと並んでベッドに仰向けで寝転がっていた。

 

「うん――、決心がついたわ」

 

 朱乃さんはそう言うと、仰向けになっている俺に体を重ねるように覆いかぶさり、正面から見つめてきた。

 

 朱乃さんの表情はこれまで見たなかで一線をかくすような真剣なものだった。朱乃さんは俺に問う。

 

「エイジ、訊いてくれる? 私と母……それに父の話を」

 

 即答……、なんてことはできない。俺も朱乃さんの話を訊く覚悟を決めてからゆっくりとうなずいた。

 

 意を決した朱乃さんは話し始める。

 

 朱乃さんのお母さんは日本のとある有名なお寺の巫女だった。

 

 名前は姫島(ひめじま)朱璃(しゅり)というそうだ。

 

 朱乃さんのお母さんがいる寺の近くにある日、敵勢力に襲撃されて重傷を負ったバラキエルが飛来し、朱璃さんは傷ついた堕天使の幹部を救い、手厚く看病したそうだ。

 

 そのとき朱璃さんはバラキエルと親しい関係になり、朱璃さんは朱乃さんを身ごもった。

 

 バラキエルは朱璃さんと生まれたばかりの朱乃さんを置いていくわけにもいかず、近くに居をかまえ、そこから堕天使の幹部として動いていたそうだ。

 

 3人で暮らしているところに、朱乃さんのお母さん、朱璃さんの親類が、黒い翼を持つ堕天使の幹部に娘が洗脳されて手篭めにされたと勘違いし、とある高名な術者たちをけしかけてきたそうだ。

 

 幸いそれはバラキエルの力でなんとか退けることができた。けれど、術者のなかにはバラキエルにやられて恨みを持つ者もいて、その術者たちは堕天使と敵対している勢力に、バラキエルの住む場所を教えた。

 

 バラキエルが不在のときに、朱璃さんと朱乃さんが住まう家を襲撃される。

 

「私の記憶――、あなたに――」

 

 朱乃さんがそうつぶやくと、額を合わせてきた。脳裏にある風景が映しだされていく。

 

 聞えてきたのは小さな女の子が唄う歌だった。

 

『――あんたがたどこさ。ひござ、ひごどこさ』

 

 平屋建ての小さな家の庭で、まりつきをしている小さな女の子がいた。

 

『朱乃、どこ?』

 

 朱乃さんそっくりの女性が、小さな女の子――朱乃さんを呼んでいた。

 

『母さま!』

 

 朱乃さんが女性――お母さんに呼ばれて、勢いよく抱きついた。

 

 黒髪つやつやのやさしそうなお母さんだ。キレイでいてそれで儚く感じる。

 

『母さま。父さまは今日のいつごろ帰ってくるの?』

 

『あら、朱乃。父さまとどこに行くの?』

 

 お母さんの問いに小さな朱乃さんは満面な笑みで答える。

 

『早く帰ってきたら、一緒にバスに乗って町へ買い物に行くの!』

 

<寂しかった>

 

 ――っ。

 

 ……朱乃さんの声だ。

 

 場面は移り、バラキエルと小さな朱乃さんがお風呂に入っていた。

 

『父さまの羽、嫌いじゃないよ。黒いけど、つやつやで朱乃の髪の毛と一緒だもの!』

 

『そうか、ありがとう。朱乃』

 

<いつも父さまがいてくれたから、良かったのに>

 

 家の縁側でお母さんに髪をすいてもらっている小さな朱乃さん。

 

『ねえ、母さま。父さまは朱乃のこと好きかな?』

 

『ええ、もちろん』

 

 朱璃さんは微笑みながらやさしくとかしていた。

 

<たまにしか父さまに会えなかったから>

 

 そして、場面は急展開した。

 

 ボロボロの室内。タンスが倒され、畳が大きく抉れていた。テーブルはひっくり返されて、夕食が辺り一面に散らばっている。

 

 部屋のなかのすべてが荒らされていた。

 

『その子を渡してもらおう。忌々しき邪悪な黒き天使の子なのだ』

 

 術者らしき者たちが複数で小さな朱乃さんと朱璃さんを囲んでいた。

 

『この子は渡しません! この子は大切な私の娘です! そして、あの人の大切で大事な娘! 絶対に! 絶対に渡しません!』

 

 朱乃さんを庇うようにして朱璃さんが叫ぶ。

 

『……貴様も黒き天使に心を穢されてしまったようだ。致し方あるまい』

 

 術者が刀を抜き放ち、斬りかかった――。

 

『母さまぁぁぁぁっ!』

 

 次に映されたのは――血まみれのバラキエルだった。

 

 術者を全て殺害し、その身は鮮血に濡れていた。

 

『母さま! いやぁぁぁっ! 母さまぁぁぁっ!』

 

 朱乃さんは……息絶えた朱璃さんの体を揺らし、嗚咽を漏らしていた。

 

『……朱璃……』

 

 バラキエルは震える手で妻に触れようとするが――。

 

『触らないでっ!』

 

 小さな朱乃さんは怒りを父親にぶつけた。

 

『どうして! どうして、母さまのところにいてくれなかったの!? ずっとずっと父さまを待っていたのに! 今日だって、早く帰ってくるって言ったのに! ううん! 今日はお休みだって言ってたのに! 父さまがいたら、母さまはしななかったのに!』

 

『…………』

 

『あの人たちが言ってた! 父さまが黒い天使だから、悪いんだって! 黒い天使は悪い人なんだって! 私にも黒い翼があるから悪い子なんだって! 父さまと私に黒い羽根がなかったら、母さまは死ななかったのに! 嫌い! 嫌い! こんな黒い翼大嫌い! あなたも嫌い! 皆嫌い! 大嫌いっ!』

 

<父さまが悪くないことぐらいわかっていた。けど――。そう思わなければ、私の精神は保たなかった……。私は……弱いから……。寂しくて……ただ、3人で暮らしたくて……>

 

 朱乃……。

 

 ――意識が浮上していく。

 

「これが……私の記憶……。私の本当の想い……」

 

 朱乃さんの目からは涙が溢れ顔にポタポタと落ちてきた。

 

 これが朱乃さんの記憶と想い……。

 

 涙を流す朱乃さんをやさしく抱きしめる。彼女が落ちつくまで、やさしく――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 落ち着きを取り戻した朱乃さんは、俺の上に覆いかぶさったまま、いままでの、これまでの話を語り始めた。

 

 朱璃さんが亡くなってから数年後に、堕天使とのハーフだったから住んでいた家を追われたこと。

 

 天涯孤独な身となって各地を放浪し、その放浪生活のなかでグレモリー家とトラブルになり、トラブルを切っ掛けに、朱璃さんの親族に処分されそうになって、そこでリアスに出会い、救われたこと。

 

 リアスの悪魔の駒の『女王』を貰い、転生悪魔になって眷族になったことを。

 

 朱乃さんは全て話してくれた。

 

 伝えられた朱乃さんの記憶。そして想い。

 

「朱乃さんはバラキエル、お父さんのことを――」

 

「……ええ。――私は父さまのことが嫌いじゃない……。ただ……、どうしていいかわからないだけ。それに、父さまを拒絶する一方で、心の奥底で私は……、父さまにもっと会いたかったと、もっと頭をなでてもらいたかったと、遊んで欲しかったと……、父さまや母さまと3人でもっと暮らしたいと願っているの。……母さまが死んだ原因は父さまにないことはわかってる。でも――」

 

 朱乃さんは泣き顔を見せないよう、胸に顔を埋めて続ける。

 

「それでも、父さまとどう接していいかわからないの……」

 

 そうつぶやいて朱乃さんは両手を俺の背中にまわして抱きついてきた。

 

 …………。

 

 朱乃さんとバラキエル、そして朱璃さんの関係……。悲しい記憶をどうにかすることは俺にはできない。

 

 でも――。

 

「――傍にいます」

 

「え?」

 

 顔を上げる朱乃さんの涙を指で拭いとる。

 

「さっきも言った通り、あなたが悲しんだり、辛いことが起きたりしても、俺が傍にいます。俺があなたを守ります。こうやって抱きしめます。あなたが堕天使のハーフであろうとなかろうと、俺はあなたを、姫島朱乃を愛します」

 

「エイジ……」

 

「お父さんとのことはゆっくり考えていきましょう。お互い無限に近い時間を生きる存在ですし、俺も、何ができるかわかりませんけど、俺にできることはなんでも手伝いますから」

 

 これが俺の朱乃さんに対する想い。決して朱乃さんのためだけじゃない。俺自身のためにも朱乃さんが幸せでいて欲しいと願っている。朱乃さんには笑顔でいて欲しいから。

 

「……ありがとう、エイジ。私もあなたを愛しているわ」

 

 やさしく抱きしめると、朱乃さんはそう小声でつぶやいた。

 

 体を密着させて抱きしめ合う。お互いの存在を感じながら目を閉じようとしていると、

 

『うふふ、まるでプロポーズね』

 

 朱乃さんとは違う女性の、笑う声が聞えてきた。

 

 ……え?

 

 周囲に視線を向わせる。……誰もいない。朱乃さんも聞えたようで周囲を確認していた。

 

 さっきの声、聞き覚えが――。

 

『まさか娘のプロポーズシーンが見られるなんてね』

 

「「…………」」

 

 無言で朱乃さんと顔を見合わせる。お互い何も行なっていないことを視線で確認し合う。お互い身に覚えのないことのようだ。

 

 朱乃さんは起き上がってベッドから降り、周囲をもう一度見回し、大声で訊ねる。

 

「まさか母さまなんですか!? 母さま! どこにいるんですか!?」

 

 朱乃さんの声に答えるように、どこからともなく声が返ってくる。

 

『こうして話すのは久しぶりね、朱乃』

 

「母さま!」

 

 やはり朱璃さんのようだ。朱乃さんは涙を浮べて朱璃さんを探す。

 

 俺もベッドから降りて立ち上がる。声を発している朱璃さんらしき者は意思を持って朱乃さんと会話ができているようだ。意思があるなら魂がある。魂がまだ現世にあるのなら、もうひとつの希望が見えてくる。このチャンスを逃すわけにはいかない。

 

 能力の一部を解放して、霊視で朱璃さんを探す。

 

 朱乃さんの守護霊の可能性が高いと思い探してみるがいない。部屋のなかにもいないようだしどこに――。

 

「母さま! どこにいるんですか!? 姿を見せてください!」

 

 朱乃さんが叫ぶ。すると――、

 

『――ここよ。朱乃』

 

「――っえ?」

 

「は?」

 

 朱乃さんの声に、俺も続いて声を漏らす。

 

『私はここにいるわ』

 

 再度朱璃さんの声……。いや……、でも――、

 

「お、おっぱいから母さまの声が聞える……?」

 

 目を見開いて自身のおっぱいを見る朱乃さん。そう……、そうだ! なんでおっぱいから朱璃さんの声が聞えてくるんだ!? おっぱいから声を聞き取るのはイッセーの専売特許だろ!? なんで俺と朱乃さんに……。たとえ声の主が朱璃さんだとしても、なんでおっぱいからの声を送信して俺たちも受信しているんだ!?

 

 俺たちが混乱していると、朱乃さんのおっぱいが光り輝き始めた。…………。

 

「な、何が――」

 

 朱乃さんは光り輝くおっぱいをどうしていいかわからないと戸惑っていた。まあ、そりゃそうだよ……。自分のおっぱいが光れば誰でも驚き、戸惑う。

 

 だけど、朱乃さんの戸惑いなんて関係がないといわんばかりに光りは強くなり、おっぱいの先端からまるで母乳が噴出しているかのように、乳首から光が床へと流れ出ていき、しかもそれが女性の、朱璃さんを形成していった。

 

「…………」

 

「…………」

 

 俺と朱乃さんは無言で、そのようすを見ているだけしかできなかった。……イッセー、おっぱいって本当にすごいんだな……。アザゼルが無限大の可能性秘めてるっていう話もうなずけるよ……。

 

「か、母さま……なんですか?」

 

 恐る恐る朱乃さんは訊ねた。

 

『ええ。そうよ、朱乃』

 

 朱璃さんは微笑んで肯定する。両手を広げて朱乃さんを抱きしめる。

 

「あ……」

 

 朱乃さんが声を漏らす。大きく開かれた瞳が段々と細められ、涙が溢れだす。

 

「母……さま」

 

『ええ、大きくなったわね、朱乃』

 

「――っ。……母さまっ、母さまぁぁぁぁっ!」

 

 朱乃さんは朱璃さんの胸に顔を埋めて涙を流し、抱きしめる。……ど、どうしよう……。感動的なシーンで、感動しているのに……、7割ぐらい感動しているのに、残り3割を頭と心が処理できない。どうしておっぱいから朱璃さんが……。

 

『よしよし。もうそんなに泣かれちゃうと困っちゃうわ』

 

「うっ……、ううっ、母さまぁ……」

 

 朱璃さんは朱乃さんの髪をすかしながら微笑む。少し落ち着きを取り戻した朱乃さんは顔を上げて朱璃さんに訊ねる。

 

「母さま、どうして……? 亡くなったはずなのに……」

 

『ええ、私は確かに死んでいるわ。いまの私は魂だけの幽霊よ。……あのとき、私はまだ小さいひとり娘を残して逝けなくてね。成仏できずに朱乃の守護霊になっていたのよ』

 

 守護霊がなんでおっぱいから……。いや、それよりも魂があるのならあの方法が使える。

 

『朱乃、本当に大きくなって背も髪も伸びたのね』

 

「私も……、母さまみたいに美人になった?」

 

『ええ、魅力的な女の子になったわ』

 

 朱璃さんの言葉を訊いて朱乃さんはうれしそうに微笑んだ。朱璃さんが言う。

 

『朱乃。父さまを許してあげて。あの人は確かに私を守れなかったかもしれない。これまで他者をたくさん傷つけてきたかもしれない。――でもね、あの人が私と朱乃を愛してくれているのは本当で、私もあの人を愛していて幸せだった。だから、朱乃もあの人を愛してあげてね』

 

「母さま……」

 

 朱璃さんはそう微笑むと朱乃さんをもう一度抱きしめた。

 

『うふふ、まさか娘のラブシーンだけじゃなくて、プロポーズされてるところまで見ることができて、こうやって言葉を交わして抱き合えるなんてね』

 

「か、母さま……そ、それは……」

 

 朱璃さんの言葉に朱乃さんは頬を赤らめる。そのようすに朱璃さんは満足そうに微笑み、こちらに視線を送ってきた。

 

『ありがとう。あなたのおかげでこうして娘と話もできて、もう一度触れ合うことができたわ。それに娘の心の支えになってくれたようだし、あなたにはいくら感謝しても足りないわ』

 

「い、いえっ、お、俺は別に何も……」

 

『うふふ、あなたのおかげよ。ただ見守っていることしかできなかった私に力を与えてくれたんだから』

 

「エイジが……?」

 

 朱璃さんの言葉で朱乃さんがこちらに視線を向けてくるが、まったく身に覚えがありません、と視線で否定する。

 

 俺と朱乃さんの疑問に答えるように朱璃さんが言う。

 

『あなたたちがエッチをする度に少しずつ力を貰っていたの』

 

「「ええっ!?」」

 

 驚く俺たちに朱璃さんは頬を染めて続ける。

 

『うふふ、最初は朱乃と体を同調させて力を貰ってたんだけどね。最近おっぱいを集中的に愛してくれ始めたから、ね』

 

 ……ね。じゃないですよ朱璃さぁぁぁんっ! なんですかその理由! 俺と朱乃さんのプライベートはどこにいったんですか!?

 

 驚愕する俺たちに、朱璃さんはため息をひとつ吐いて続ける。

 

『でもね。まだあなたたちにハードなプレイは早いと思うわ。知識もあるみたいだし、段階を踏みながら楽しんでいるみたいだけど、SMはせめて高校を卒業してから――』

 

「か、かかか母さまっ……!?」

 

「しゅ、朱璃さん……!」

 

 朱乃さんと一緒に顔を真っ赤にしながら朱璃さんを止める。止めようとしているのだが――、

 

『それにね。いくら時間を早くする結界があるからって毎回5回以上もするのはダメよ。あとアダルトグッズもあんなにいらないでしょ。若いうちから激しいエッチばっかりしているとダメな子になっちゃうから気をつけなさい』

 

「母さま……もうその辺で……」

 

「お願いしますから……」

 

 実の母親から夜の生活を注意されている朱乃さん。その恋人である朱乃さんと一緒に注意される彼氏である俺……。

 

 どんな羞恥プレイですか……! ――って朱璃さぁぁぁんっ! いまの微笑みと最初の朱乃さんに向けた微笑みがまったく違うように感じるんですが!? なんかドSオーラをビンビン感じるっ!

 

『――うふふ……』

 

 俺の視線に気づいたのか微笑む朱璃さん。絶対ドSですよ、この人……。朱乃さんのS気質はこの人の遺伝なのか? あー、S気質って強ければ強いほど、反転したときは極端なM気質になるんだよなぁ。

 

 ……って何を考えているんだ俺は……。最近エロス脳が強いぞ……! そういう仕事が多いからか?

 

 俺と朱乃さんのようすにご満悦のようすの朱璃さん。ニッコリ微笑むと朱璃さんの体が光り、透け始めた。

 

 血相を変えて朱乃さんが朱璃さんの顔を見上げる。

 

「母さま!」

 

『エイジさん、朱乃を……娘を頼みます。私はもう――』

 

「母さまぁぁぁっ!」

 

 光になろうとしている朱璃さんにすがりつく朱乃さん。――って、まさか成仏するのか!? 成仏したら蘇生ができなくなる! 

 

「朱璃さん!」

 

 朱璃さんの肩をつかむ。朱璃さんは少し驚くような表情を見せる。

 

「朱璃さん、消えないでください!」

 

 蘇生できるかもしれないんだ! 魂が現存するいまなら!

 

『ダメよ、エイジさん』

 

「――っ。でも――」

 

 生き返らせる方法があるなら、生き返らせるための条件がそろっているいまなら、

 

『あなたにせまられたら、本気になっちゃうじゃない……。死んでいるといっても、不倫はダメ……ダメなんだから』

 

 朱璃さん…………あなたは何を言ってるんですか?

 

『でも……、あなたとなら……、恩もあることだし体だけの関係なら――』

 

 何が体だけなんですか!? 朱璃さぁぁぁん!

 

「エイジ……?」

 

「いえ、ち、違いますよ! そんなつもりじゃなくて……」

 

『あら、私に魅力ないのかしら? ……まあ、あなたよりも年上だし、仕方ないのかもしれないわね』

 

「十二分に魅力的ですから、悲しそうに言わないでください朱璃さん!」

 

『あら、そう? うふふふ』

 

 くぅ……話が進まない……。ワザとか? この人、ワザと場を混乱させようとしてないか? からかってるときのこの人の笑顔。すげぇー、輝いてるんだけど……。

 

 ああ、もういいから本題に入るぞ。

 

「お願いですから消えないでください。あなたの魂があれば蘇生させられるかも……いいえ、蘇生させられるんです」

 

 俺の言葉に朱璃さんを始め、朱乃さんも大きく目を見開く。

 

「――っ! エイジ、それは本当なの!?」

 

「はい。俺のそう、こ……じゃなかった。【王の財宝】のなかに蘇生させるための道具があるんです。それを使って儀式を行なえば朱璃さんの肉体の再生と、その肉体に魂を定着させて蘇生できます」

 

 不安や不信といった感情を与えないよう、確信をもって彼女たちに伝える。

 

『私は――生き返れるの?』

 

 朱璃さんは信じられないと言葉をもらした。朱璃さんの目を正面から見て「はい」と答える。

 

「だから、お願いですから現世に留まっていてください」

 

 朱璃さんの両目から涙が溢れる。

 

『私は――生き返ってもいいの?』

 

「――はい。確かに死者の蘇生は許される行為ではないかもしれません。……ですが、蘇生ための手段があり、条件も揃い、それに見合う力があるのなら。大好きな女の子の母親を救えるのなら、俺はあなたを生き返らせることを選びます」

 

「エイジ……」

 

 朱乃さんが見つめてくる。俺はどうであれ、この人たちの運命を背負うことになるんだ。覚悟を決めて、もう一度、自分に誓うように、世界に宣言するように言う。

 

「俺は朱璃さんを生き返らせます」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 ロキとフェンリル対策の準備を進めていくなかで、俺と部長は地下の大広間で雷のハンマーことミョルニルの使い方について確認していた。

 

 そこへ魔法陣が出現し、銀髪メイドさんが現れる。

 

 グレイフィアさんだった。書類らしきものを持っている。

 

「お嬢さま。頼まれていた魔法の鎖、グレイプニルに関する書類です。当日、戦場に直接鎖が送り届けられることになっております」

 

「ありがとう、グレイフィア」

 

 部長は書類を受け取り、ペラペラとめくって目を通していた。

 

 ……俺はふと部長とグレイフィアさんがそろったところで訊きたいことができてしまった。

 

 おそるおそるお2人に話しかける。

 

「あ、あの。部長とグレイフィアさんがいるので、ちょっと訊きたいんですが……」

 

 グレイフィアさんがクールな視線をこちらへ送ってくれる。うっ……、先日の木場の件で呆れられていたから送られてくる視線が妙に冷たい。

 

 サーゼクスさまの『女王』にして、奥さん。そして、ミリキャスさまのお母さん。

 

「なんでしょう?」

 

「……え、えっと」

 

 俺はちょっとだけ言い(よど)んだあと、意を決して口を開いた。

 

「朱乃さんについてです。理由はわかりませんが、バラキエルさんを意識しているようで、機嫌も悪そうだし……。バラキエルさんと朱乃さんの間になにかあったんですか?」

 

 部長とグレイフィアさんがお互い目を合わせる。そのあと、部長が口を開いた。

 

「……そういえばまだイッセーとアーシアには話していなかったわね。アーシア」

 

 部長はそう言うとアーシアも呼び寄せた。部長の声を聞いて同じく大広間にいたアーシアがこちらにやって来る。部長は俺とアーシアにソファに座るよう促したあと、再び口を開いた。

 

「これから話すことは朱乃の人生に関わることよ。アーシアにもグレモリー眷属の一員として知っておいてもらいたいの」

 

「朱乃さんのですか……」

 

「ええ」

 

 いきなり重要な話を聞かされることになってアーシアは戸惑ったが、すぐに真剣な表情となって「わかりました」とうなずいた。俺のアーシアと同じように聞く覚悟を決めてうなずく。

 

 部長はそんな俺たちを見てうなずいたあと、話し始めた。

 

「バラキエルと朱乃は親子なの」

 

「え……」

 

「――っ」

 

 部長の言葉に驚愕する俺とアーシア。……朱乃さんとバラキエルさんって親子だったの!? いや、でも――。

 

「朱乃さんは悪魔じゃないんですか?」

 

 俺の質問に部長は首を振る。

 

「悪魔よ。……でも元は堕天使と人間のハーフ。私の『悪魔の駒』で転生悪魔になったのよ」

 

 朱乃さんが堕天使と人間の元ハーフ……。そ、そういえばアザゼル先生が夏休みの修行前に朱乃さんに向って自分の血を受け入れろとかなんとか言ってたっけ? タンニーンのおっさんとの修行のインパクトで色々不確かな情報だけど、そんな話があったと思う。

 

「なんで朱乃さんは堕天使と人間のハーフから転生悪魔になったんですか?」

 

 アーシアはおそるおそる訊ねた。当然の疑問だ。堕天使と人間のハーフが悪魔に転生するなんていったいどんな事情があったんだ?

 

「これから言うことは本当に他言無用よ」

 

 部長は俺たちの顔を見て確認を取ったあと、息を吐いて話し始めた。

 

 …………。

 

 ……部長から聞かされたのは朱乃さんの壮絶な人生だった。

 

 有名な神社の巫女だった朱乃さんのお母さんとバラキエルさんが出会い、朱乃さんが生まれ、親子3人で暮らしていたけど、朱乃さんの親族が朱乃さんのお母さんが堕天使に娘が洗脳されて手篭めにされたと勘違いして術者を送ってきて、その術者を一度はバラキエルさんが撃退するも、撃退された術者の復讐により、堕天使と敵対している各勢力に3人の居場所をバラされて襲撃を受け、そのときバラキエルさんが偶然不在だったことも不幸に繋がって、朱乃さんのお母さんが、朱乃さんを庇う形で死んでしまう。

 

 朱乃さんはバラキエルさんがギリギリで助けたそうだけど、親子の間に溝ができてしまい、朱乃さんはバラキエルさんを拒絶し、住んでいるところも追われ、日本各地を放浪することになり、そこで部長と出会って『悪魔の駒』をもらって眷族になった。

 

 …………まさかいつも笑顔でニコニコしている朱乃さんにそんな壮絶な出来事があったなんて……俺の想像を遥かに超えていた。

 

「けれどね、イッセー、アーシア。私の眷属となり、私のもとで悪魔として第二の生を送り出した朱乃は以前と比べてだいぶ明るくなったわ。何よりもエイジと出会ってからは、堕天使のイメージも緩和してきたの。……お母さまが亡くなられたことはどうすることもできなかった事件だったと。朱乃自身も心の底では理解しているはずなのよ。けれど、それを素直に受け入れられるほど、まだ朱乃は強くないわ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………俺が全部悪いのさ」

 

 朱乃さんのことを聞いた俺はそのあと、最上階のVIPルームで1人作業していた先生にそのことを報告したんだ。

 

 そして先生も語りだした。――俺が悪かったんだ、と。

 

「あの日、バラキエルを招集したのは俺だ。どうしても奴じゃなきゃこなせない仕事だった。だから、無理を言って呼び寄せたんだよ。そのわずかな間に……。――俺が朱乃とバラキエルから、母と妻を奪ったんだ」

 

「……先生。だから、朱乃さんのことバラキエルさんの代わりに見ようと?」

 

「…………」

 

 先生は作業している手を休めず、何も答えない。

 

 そこへ部屋に入ってくる者がいた。

 

「アザゼル、いま戻った」

 

 ヴァーリだった。

 

「ああ、おまえか。どうだ?」

 

 先生の問いかけにヴァーリは手を前に突きだし、小さな魔法陣を宙で展開した。

 

 これは――。魔法陣に描かれている紋様が北欧の神さまたちが使っていたものに酷似している。

 

「北欧の術式はそこそこ覚えた。ロキの攻撃にいくらか対抗できるはずだ」

 

 ヴァーリが手に持っていたのは奴がずっと読んでいた本だ。

 

 ……まさか、ロキに対抗するため、魔術の本を読んで北欧の魔術を覚えたのか? この短期間で? ……魔力の才能、か。にしてもこの少しの間で覚えるなんて……。

 

 先生がそれを確認してうなずいた。

 

「わかった。……よし、作業もひと段落ついたし、俺も少し休む」

 

 俺とヴァーリを置いて、先生が部屋を出ていった。

 

 取り残された俺と――ヴァーリ。微妙な空気が流れる。ヴァーリはソファに座り、俺も遠くの椅子に座った。奴は例の本を読み返している。

 

 ヴァーリは必要のないときは、美猴たちと外に出ていた。必要のあるときだけ俺の家に姿を現す感じだ。必要以上にこちらと慣れ親しむつもりはないってことだろう。まあ、それはこちらも同様なんだけどね。

 

 俺も退出しようと想ったんだけど、なんでか、ちょっとだけこいつと話してみようなんて興味が湧いた。

 

 話題を難易も思いつかないんだけど、頭をポリポリかきながら、ふと口にする。

 

「……しかし、悪神とはいえ『神』と戦うことになるとはな」

 

 答えなんて期待してなかったけど、意外にもヴァーリは本を読みながら返してきた。

 

「よく覚えておくといい。良い神もいれば、悪い神もいる。ま、良い神ってのも物の見方を変えれば、邪に見えてしまうこともあるが……」

 

「悪い神さまか……。なんで平和が嫌いなのかな? 俺、悪魔だけど、普通に暮らして部長たちと毎日楽しく過ごせればそれだけで十分なのによ」

 

 ヴァーリは本を閉じて、真っ直ぐ俺へ顔を向けて言った。

 

「キミにとっての平和が、苦痛に感じてしまう者もいるということだ」

 

 人、立場によって、楽しく過ごせる基準が違うのかな……。それはそれですごく悲しいことだ。戦争なんてしたくねぇよ。

 

 うーん、おっぱいの素晴らしさを知れば皆平和になれるような気がしなくもないが。

 

「おまえにとってもいまの世界は苦痛か?」

 

 俺の問いにヴァーリは天井を見上げた。

 

「退屈なだけだ、だから、今回の共同戦線は楽しくて仕方がない」

 

 その口もとは怖いぐらい吊り上がっていた。

 

 戦闘狂、か。本当に戦いが好きなんだろうな。

 

「嫌になるよな。強い奴がわんさかいるんだからさ」

 

「――しかし、だからこそ、世界はおもしろいんだ。俺は誰よりも強くなる」

 

 ヴァーリの夢、か。同じ二天龍でも俺のとは違うよな。

 

「俺は最強の『兵士』になって、上級悪魔になれればいいや。俺だけのハーレムを作るんだ」

 

 まあ、目指せるなら最上級悪魔も狙いたいけど、自分の領土で何か起こさないといけないらしいからな。あ、おっぱいドラゴンでひと財産狙える……?

 

 うーん、どうなんだろう! あー、でも夢が広がるなぁ。

 

「キミらしいことだ」

 

 ヴァーリは笑んでいた。

 

「あー、もう1個目標あったか」

 

 そう、肝心なことを忘れていた。俺は真っ直ぐヴァーリを見つめて言った。

 

「――俺、おまえを必ず超えるぜ」

 

 それを聞いて、ヴァーリはいままで見たこともないほど、うれしそうな笑顔で言う。

 

「ああ、俺のところまで来たらいい。キミが強くなるたびに俺はうれしいよ。才能がなくて、弱い赤龍帝だと失望した時期もあったが、キミはいままでの赤龍帝とは違う成長をしてきている。――ドライグと対話しながら、赤龍帝の力を使いこなそうとする者はおそらく初めてだろう」

 

 本当か、ドライグ?

 

『その通りだ。以前も言っただろう? おまえは歴代のなかで1番俺と対話する宿主だ。――そして、俺の力に溺れず、過信もせず、赤龍帝の力を使いこなそうとしている』

 

 ドライグの言葉にヴァーリが続く。

 

「ただ思うがままにその強力で凶悪な力を振るう宿主ばかりだった。最終的にドライグの力に溺れ、戦いで散っていった」

 

『おまえは歴代で1番才能の無い赤龍帝だ。パワーも何もかも弱い。――だが』

 

「歴代で1番力の使い方を覚えようとしている赤龍帝だ」

 

 ドライグとヴァーリにそう言われ、ちょっと照れた。最近ディオドラ戦以外では活躍していなかったし、ロキとの始めての戦闘では足を引っ張っていたから。でも、俺自身が思う以上に俺のことを期待していないか? 結構なプレッシャーを感じるんだけど。

 

 アルビオンも話しかけてくる。

 

『その手のタイプが1番厄介なのだよ。相手にしたとき、あまり隙を見せないのでね』

 

 その意見にヴァーリがうなずく。

 

「そうだな。そして、いま、おもしろいことを思いついた。――将来、俺のチームとキミのチームでレーティングゲームみたいな戦いができたらおもしろいかもしれない、と」

 

 俺の眷属とヴァーリのチームでゲームか。

 

 ……うん。うん。うん! なんだか楽しそうだ。

 

 よくわからないけど、その対決だけは本当に楽しそうな気がしたんだ。

 

「へぇ。それはいいな! 俺、強くて最高な眷属集めるぜ? しかも皆、美少女&美女ばかりだ!」

 

「ふふふ、ではそのときを楽しみにまとうか。まずはグレモリー眷属と戦うのが先になるかもしれないが。――いつか必ず倒しあおう」

 

「リアス・グレモリー眷属だっておまえたちに負けやしないさ。でも、テロみたいな方法で攻めてくるんじゃねぇぞ」

 

「ふふふ。それは約束できないな。まあ、いまはリアス・グレモリーやゼノヴィアの2人にさえ『覇龍』なしでは勝てるかどうかわからないし、姫島朱乃も俺より強いだろうから、なるべく大人しくしておくさ」

 

 …………え?

 

「はぁ!? え、部長とゼノヴィアと朱乃さんっておまえが『覇龍』を使っても勝てるかどうかわからないのか!?」

 

 驚愕する俺にヴァーリは意外そうに言う。

 

「ん? 気づいていなかったのか? いや、話を聞いていなかったのか? リアス・グレモリーとゼノヴィアはロキから認められて名を呼ばれ、アザゼルがロキ対策メンバーに加入させるほどの実力者だぞ。特にリアス・グレモリーがフェンリルを倒しかけたと驚かれていただろう」

 

「あ、ああ……」

 

「はっきり言って、いまの俺1人では『覇龍』を使用してやっとフェンリルを倒せるか倒せないかのレベルだ。だが、リアス・グレモリーは不意をついたとはいえ、フェンリルを倒しかけた。いや、そもそもフェンリルの隙をつくことすら難しいことだ。――単独でここまで戦えるリアス・グレモリーは俺よりも上だ」

 

 部長が白龍皇のヴァーリよりも上。俺よりも上だってことは知っていたけど、まさかヴァーリよりも強くなっていたなんて……信じられないけど、事実なんだろう。

 

「コカビエルとのときは歯牙にもかける価値のない存在だったのに、短期間で3人も俺を超えるまでに成長するなんてな。相当辛く厳しい修行を積んだと話していたが、努力を惜しまず、才能に恵まれ、いい師に恵まれ、環境に恵まれたからこその結果なんだろうな」

 

 ヴァーリは心底楽しそうに、うれしそうに笑んでいた。

 

「俺よりも強くなった3人を鍛えた師たちは当然俺を歯牙にかけないほど強いだろうし、エイジはその師たちすら超えてグレードレッドやオーフィスクラスの実力者。いやもしくはそれ以上の強者かもしれない。ふふふ、世界のランキングに載っていない強者がこれほど存在し、下からも駆け上がってくるなんてな。退屈だった世界が楽しいものに感じられてきたよ」

 

 いくらなんでも戦闘狂すぎるだろ……、こいつ。

 

 ヴァーリは高まったテンションを落ち着かせるように息を吐くと、こちらを見つめてきた。

 

「そういえば、兵藤一誠」

 

「なんだ?」

 

「最強の兵士になると言っていたが、それは同じ『兵士』である神城エイジを超えるということか?」

 

「――っ!」

 

 ……そうだ。最強の兵士になるためにはエイジを超えなきゃならないんだ。世界最強と並んでも不思議じゃない、魔王クラス、サーゼクスさまと同レベルだろう実力者のエイジを……。

 

 いまの俺じゃ絶望的なぐらいエイジと差がある。それは理解しているけど――。

 

 ――最強の兵士になりなさい――。

 

 部長に誓った俺自身との約束。最強の兵士になるという目標だ!

 

「――ああ……、ああ! 俺はエイジを超える! 一発ぶん殴るだけじゃなく、最強の兵士に俺がなる!」

 

 そうヴァーリへ宣言する。いつか絶対にエイジを超えてハーレム王になって最強の兵士に俺がなるんだ!

 

 ヴァーリはそんな俺をうれしそうに言った。

 

「俺の目標もグレードレッドに加えてエイジを倒すことだ」

 

「――っ。おまえもエイジを打倒が目標かよ」

 

「当然だろ。コカビエルが暴走したとき歯牙にもかけられずに敗北したんだ。必ず強くなって奴を超えてやる」

 

「だったら競争だな。俺が先に超えるかおまえが先に超えるのか」

 

「それだったら俺が有利すぎるな。まずは『覇龍』か『覇龍』に変わる力を得てからにしろ」

 

「う……」

 

 ごもっともな意見だ。あー、まずは『覇龍』以外の方法で強くなる方法を探すところから始めないといけないんだった。

 

「うむうむ。いいのぅ。青春だのぉ」

 

 うおっ! いつの間にか、俺とヴァーリの間にオーディンの爺さんが現れていた。いろいろな作業を終えたのかな?

 

 何やらえらく感心している様子だった。

 

「今回の赤白は、個性的じゃい。昔のはみーんんあただの暴れん坊でな。各地で大暴れして、勝手に赤白対決なんぞして周囲の風景を吹き飛ばしながら、死におった。『覇龍』も好き勝手に発動しおってな。山やら島やらいくつ消えたかの」

 

 ため息交じりに爺さんはそう語った。

 

 爺さんのうしろに付いてきていロスヴァイセさんも言う。

 

「確かに片方は卑猥なドラゴンで、片方はテロリストという危険極まりない組み合わせですけど、意外にも冷静ですね。出会ったら即対決が赤龍帝と白龍皇だと思っていました」

 

 卑猥で申し訳ございません!

 

 でも、本当に俺とヴァーリは珍しい天龍なんだな。過去の先輩たちと俺たちの違いってなんだ?

 

「ところで白龍皇。お主は……どこが好きじゃ?」

 

 爺さんがヴァーリにいやらしい目つきで訊く。……爺さん、まさか、白龍皇相手にエロ話か?

 

「なんのことだ?」

 

 首をかしげながらヴァーリが聞き返す。

 

 すると爺さんはロスヴァイセさんのおっぱい、尻、太ももと指していく。

 

「女の体で好きな部分じゃよ。こっちの赤龍帝は乳じゃ。お主も何かそういうものがあるんじゃないかと思うてな」

 

「心外だ。俺はおっぱいドラゴンなどではない」

 

 心底心外そうな表情でヴァーリは言った。ゴメンね! 全部、俺のせいだよね!

 

「まあまあ、お主も男じゃ。女の体で好きな部分ぐらいあるじゃろう」

 

「……あまり。そういうものに感心がないのでね。しいて言うなら、ヒップか。腰からヒップにかけてのラインは女性を表す象徴的なところだと思う。……特にタンニーンの娘でユウカナリアといったか。母性を感じされる肢体。束縛されない自由な鳥のような性格。全体的なバランスはもちろん、腰のラインも美しくヒップも大きすぎずかといって小さすぎずで丸く、太ももも美しかった。漂うドラゴンの雰囲気も心地よかったな」

 

 ……おいおい、いきなりどうしたんだ、こいつ。

 

 俺の視線に気づいたかヴァーリははっと我を取り戻す。こいつ……もしかしなくても、

 

「ユウカナリアさんのことが好きなのか?」

 

 俺がそう訊ねるとヴァーリはうなずいた。

 

「ああ。そうだな。俺はどうやら彼女が気に入ったようだ」

 

「はっきりと言う奴だな。でもユウカナリアさんってエイジの恋人らしいぞ」

 

 傷が大きくならないうちに早めに教えてやったのだが、ヴァーリはまったく気にしたようすも無く、

 

「それがどうした。俺が彼女を気に入っているんだ。恋人がいようが関係ない。恋人がいるならそいつよりも俺を好きになってもらえるように努力し、奪い取ればいいだけだ」

 

 と、はっきりとヴァーリはそう答えた。恋人がいても関係ない、か。こいつらしい言葉だ。俺もエイジから部長を奪い取る――と言う自信なんてない。そもそも部長がもう非処女になっていると思うと……あぁああああああああああああ~~~~!! 発狂しそうになっちまう! 俺よりも先に部長の初めてを誰かに全部奪われていたら立ち直れねぇ……! 俺の部長が穢されるなんて我慢できるかぁぁぁぁっ!

 

 ヴァーリが答え、俺が頭を抱えているときだった。

 

「…………なるほどのぉ。ケツ龍皇というわけじゃな」

 

 爺さんがぼそりとつぶやくと――。

 

『…………ぬ、ぬおおおおん……』

 

 アルビオンが無念の涙を流している様子だった。

 

 俺は爺さんに言う。

 

「爺さん、止めてあげて。いま、二天龍はとても繊細な時期なんだよ! それにヴァーリの告白が全部吹っ飛んだじゃないか!」

 

 俺ですらドライグとアルビオンが不憫に思えてきた! こいつら、もしかしたら人生で初めてすすり泣くほどショックを受けているのかも。

 

 ……俺、いまさら遅いかもしれないけど、もっとドライグを大切にしようと思うんだ。

 

「アルビオン泣くな。相談ならいつでも聞いてやる」

 

 あのヴァーリがやさしい言葉を相棒にかけてやがるぜ!

 

 皆さん、二天龍は繊細な時期に突入してます。

 

「かわいそうなドラゴンじゃな。うむ、『かわいそうなドラゴン』でひとつ童話ができるかもしれんな」

 

 爺さん! いい加減怒るよ!

 

 爺さんは咳払いをひとつすると言った。

 

「やはり、若いもんはいい」

 

 突然、年寄り臭いことを言いだす。

 

「どういうこと?」

 

 俺が訊くと爺さんはヒゲをさすりながら言う。

 

「なーに。この歳までわしはジジイの知恵袋ひとつで何事も解決できると信じておった。だがの、それは年寄りの傲慢じゃ。真に大切なのは、若いもんの可能性じゃよ。ほっほっほ、今頃になってそれがわかってきてのぉ、おのれ自身がどれだけ愚かだったのか……。わしの傲慢がロキを生んだのじゃろう。そして、わしもいままでの傲慢で今度は若いもんが苦労しとる」

 

 爺さんの目は悲哀に満ちていた。

 

 うーん。お偉い人の考えはよくわからんよね。

 

「よくわからないけど、1歩1歩前に進めばいいんじゃないの?」

 

 俺は何気なく口にした。それは俺が常に信条として持っているものだ。けど、爺さんはポカンと間の抜けた顔になっていた。

 

 な、なんだよ、その反応……。すると、「くっくっく」と今度はおかしそうに笑った。

 

「……若さはいい。年寄りをも刺激してくれる。ああ、そうじゃな。その通りじゃ」

 

 なんだか、わからない。けど、爺さんは満足そうな顔をしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<アザゼル>

 

 

 ロキ対策の準備がひと段落して、少し休もうとしていたときだった。神城が大事な話があるからと、バラキエルをつれて神城家の地下1階にある大広間までこいと言ってきたのだ。

 

 十中八九、朱乃の件だと思ってバラキエルと共に大広間へと向ったのだが、俺とバラキエルの予想を遥かに超えるものだった。

 

『久しぶりね。あなた』

 

「朱璃! 本当に朱璃なのか!?」

 

『ええ、そうよ』

 

 数年前に死んだはずのバラキエルの妻がそこにいたのだ。バラキエルは半透明の魂だけの妻を確認すると、涙を流しながら半ば信じられない様子で話しかけていた。

 

 俺はバラキエルとその妻から少し離れた位置に立っていた制服姿の朱乃と神城を問い詰める。

 

「これはいったいどういうことなんだ!? なんでバラキエルの妻がいるんだ!?」

 

 バラキエルの妻で朱乃の母親である姫島朱璃は数年前に死んだはずだ! なぜここに存在して見えているんだ!?

 

 俺の疑問に答えるように神城が説明を始める。

 

 なんでも死後成仏できずに朱乃の守護霊となっていたそうだ。

 

 それがエイジから朱乃を通して姫島朱璃に力が送られ、一時的とはいえ半実体化し、こうして話せるようになっているという話だったが……。

 

「……すまん。もう一度言ってくれるか? いったいどこから出できたって?」

 

「朱乃のおっぱいからだ」

 

「…………」

 

 …………こいつもイッセーに侵食――はないだろう。イッセーみたいな変態じゃないし、こいつは純粋なエロい男だ。

 

 こいつが正常ならさっきの話は事実……。

 

 念のために確認するように朱乃に視線を向ける。朱乃は両手でおっぱいを隠して頬を朱に染めて顔を背けていた。

 

「……はぁ、マジでおっぱいってすげぇんだなぁ……。おっぱいの可能性は無限大ってマジだわ。……今日から神器じゃなくておっぱいの研究でも始めようかなぁ」

 

 女の胸を調べる。おっぱいの研究する。女の乳を探求する。そんな堕天使の総督にもうなっちまおうかなぁ……。

 

 ハハハハ、『乳博士おっぱい堕天使アザゼルさん』とかいう番組でも始めようかなぁ。『乳龍帝おっぱいドラゴン』とかにゲスト出演とかしてさ。

 

「――ゼル! ――アザゼル!」

 

「――っは!?」

 

 ――お、俺はいったい何を……!?

 

 正気に戻って周りを見ると、いつの間にか邂逅を終えたバラキエルと姫島朱璃がこちらへやって来ていた。

 

「おい、アザゼル。大丈夫か?」

 

 バラキエルが怪訝な表情で訊ねてくる。俺は額に手を一度当てて顔を上げる。

 

「あ、ああ、大丈夫だ。……この急展開に少し戸惑ってしまっただけだ」

 

「そうか。俺もだ。まさか妻とこうして再び話すことができるなんて思いもしなかった」

 

 そう言って涙を拭うバラキエル。おまえはまだ姫島朱璃がどこから出てきたか聞いてねぇのか……。聞いたらどうなるんだろうな……言ってみたい気もする。

 

「もう話を始めてもいいか?」

 

 と、ここでエイジが口を開いた。なんだ? 朱璃に会わせるだけじゃねぇのか?

 

 俺がそう思っていると、バラキエルが代わりに質問した。

 

「何かまだあるのか?」

 

 その声には少しばかり期待と不安がのようなものが入り混じっているように感じた。まあ、当然だろうな。乳から出てきたとは聞いていないだろうが、エイジがなんらかの手伝いをしたとは聞いているだろうし、良いことか悪いことか、どちらの話が聞けるか興味はあるはずだ。

 

 俺とバラキエルの考え通り、案の定エイジの口から言い放たれた。

 

「――姫島朱璃さんの蘇生の話だ」

 

「「――っ」」

 

 俺とバラキエルは目を大きく見開いて驚いた。特にバラキエルはエイジの肩を両手で掴んで、

 

「妻がっ! 朱璃を蘇生できるのか!? 生き返らせれるのか!?」

 

 と、大声で叫んでいた。エイジはバラキエルから掴みかかられているが顔色一つ変えずにうなずいてみせた。

 

「ああ。もちろんだ」

 

「あ……ああ……」

 

 バラキエルの手から力が抜ける。涙が再び目から溢れる。膝をついて両手で顔を覆い嗚咽を漏らす。

 

 ……朱乃はそのバラキエルの姿を複雑そうに見つめていた。いまのこいつにどんな感情が渦巻いているのかわからないが、負の感情や敵意といったものは感じられなかった。

 

 俺はエイジに訊ねる。

 

「本当にできるのか? 死者蘇生」

 

 死者蘇生は大禁術とされる行いだぞ。そんなほいほいとできていいのか?

 

 だがエイジは俺の疑問を吹き飛ばすように――。

 

「【王の財宝】にリスクや条件が厳しいが、死者蘇生できるアイテムが3つ存在しているし、『悪魔の駒』も一種の蘇生道具だろ。『悪魔の駒』や新しくできた天界の『御使い』のように人間から人外への転生できたりできるんだ。朱璃さんも肉体があればそのシステムで普通に転生できたはずだし、魂もきちんとある。死者蘇生は人間には難しいかもしれないが、俺たちは人外。わりと難しいことでもない」

 

 ――っ。そうだったな。確かに人間から悪魔に転生させる『悪魔の駒』は死体にも有効だった。死体から悪魔に転生するのも一種の死者蘇生だ。そう考えると肉体を用意するだけで死者蘇生が可能ってことになるのか……。

 

「まあ、朱璃さんの肉体は魂がきちんと定着するように再構成しなければいけないから現段階では1番難しいけど、すでに朱璃さんの肉体は解析済み。【王の財宝】にはいっている死者蘇生のアイテムを使うまでもなかった。朱璃さんの死者蘇生は、まずは肉体の再構成をして次に魂の定着と、これで死者蘇生完了だ」

 

 …………ずいぶんと簡単そうに言うが、ものずごく難しいことだからな。肉体の再構成から魂の定着ってドンだけ多才なんだよ……。あと、肉体を解析済みって、さっきこの女エロい表情になったぞ。人妻に何した?

 

 若干色々なことで俺が引いていると、神城は「ロキ対策で時間もないし、始めるか」とつぶやいた。

 

「――って、いまからするのかよ!?」

 

 俺が驚愕すると神城はうなずいた。

 

「当然だろう。いつ消えてしまうかわからないんだ。早ければ早いほどいいんだ」

 

 そ、それはそうだろうが……。

 

「エイジぃ~、道具持ってきたにゃー」

 

 と、ここで黒歌がやって来た。……道具?

 

「ありがとう、黒歌。じゃあ部屋の中央に置いてくれ」

 

「にゃん♪」

 

 黒歌が返事を返すと、部屋の中央辺りの空間が歪み、道具が置かれていく。これは――。

 

「祭壇?」

 

 日本の神社なんかでよくみる神を祭る祭壇のようなものができていた。

 

 エイジは朱璃のほうを振り向いて言う。

 

「では打ち合わせ通りにお願いします」

 

『はい。こちらこそよろしくお願いします』

 

 朱璃は頭を深く下げると祭壇へと進み、中央に鎮座している台の上へ仰向けで横たわった。

 

 エイジがその台の元へと進む。

 

 中央の空間を切り取るように結界が張られる。

 

 結界が張られた瞬間――場の雰囲気が神聖なものへと変化した。

 

 ――っ。結界を張られているのに神聖なオーラがビリビリと伝わってきやがる……!

 

 とうとう結界から漏れでる神聖なオーラが、俺たちを越えて部屋中を満たす。

 

 俺とバラキエルは堕天使だから光に耐性があるが、ここまで神聖なオーラだと俺たちも辛い。当然、転生悪魔の黒歌も額に汗をかき、朱乃も息苦しそうにしていた。

 

 ……ってこいつらなんでこの程度ですんでんだ? 普通ここまで神聖なオーラに当てられたら上級悪魔でも気絶か昇天ものだぞ? 耐性があって堕天使組織であるグリゴリのトップにいる俺たちでさえ辛いのに、神聖なオーラが弱点のはずのこいつらがなんでこの場にい続けていられるんだ?

 

「――って、神城は無事なのか!? 結界から漏れでてる分でもこれほど神聖なオーラなんだぞ! 純血の悪魔になってる神城に耐えられるものなのか!?」

 

 俺が大声でそう黒歌と朱乃に訊ねるが、2人は答えない。

 

 ――っ。

 

 俺は結界のなかを見て神城の様子を確認する。――っく、案の定背中の羽と尻尾が溶け始めてやがる!

 

 こいつらなんで止めねぇんだ!? ヘタすりゃ本当に消滅するぞ!?

 

 エイジも自分の体なんて関係無しに朱璃の体の再構成と続けてやがる! 全身で聖水を浴びているようなもんだぞ!? いや、聖水よりも神聖なオーラだ! おそらく全身の毛穴を針で刺されるだろう激痛以上も痛みを感じているはず! 精神が死ぬぞ、神城っ!

 

 全身に傷を負いながらも朱璃を蘇生させようとしている神城に、バラキエルが何を言えずに、見守っていることしかできないでいた。

 

 俺も同じく何も言えない。ここで止めてもバラキエルの妻は蘇生できないだろうし、バラキエルと朱乃から母親を奪った原因である俺に何かを言う資格などない……。

 

 ――クソっ。本来なら俺が痛みを背負う役目なのに……。

 

 俺が自分の無力を感じていると、朱乃が言った。

 

「エイジは絶対に大丈夫」

 

 自分自身に言い聞かせるように、結界で傷を増やしていく神城から目を逸らさずに言った。

 

 黒歌も朱乃の言葉に同意するようにうなずいた。

 

「にゃん。エイジは女のためだったら力を惜しまないし、死んだりして絶対に私たちを悲しませたりしないにゃん」

 

 ……心の底から神城のことを信じている。そういう想いが言葉から伝わってきた。

 

 ――ピリッ!

 

 ――っ。神聖なオーラがさらに高まった。どうやら肉体の再構成を終えて魂の定着に入るようだ。

 

 ……チッ。神城の体もそろそろ限界だ。もうほとんど翼と尻尾が留めていねぇ。

 

 クソッ、まだ終わらないのか!

 

 俺に出来ることは――、そうだ!

 

 呆然と様子を見ているバラキエルを置いて俺は部屋をあとにする。

 

「アザゼル……先生……」

 

 部屋を出たところでリアスと出くわした。かなり辛そうだ。

 

「エイジは……?」

 

 こいつも事情を……。純血の悪魔だから部屋にいられなかったのか。

 

「まだ終わっていないが、大丈夫だ」

 

「……そう」

 

 俺は何の確信もないがそうリアスを励ました。そうしないと心労で潰れてしまいそうだったから。

 

 リアスに会ったことで少し落ち着きを取り戻したのか、狭くなっていた視野が広がり、リアスの他にもゼノヴィアや小猫、セルベリアやシェリー、時雨やレイナーレ、それにイリナが部屋の外にいたことに気づいた。

 

 全員エイジのことを想っているのか、表情からは心配と共に信頼といったものも感じ取れた。

 

 だが、ここで消費する時間はない。

 

「リアス、アーシアを呼びに行くぞ。おまえも来てくれ」

 

「――っ! エイジが怪我したの!?」

 

「冷静になれ。大丈夫だと言っただろ」

 

 狼狽するリアスを制して話を進める。

 

「大丈夫なんだが、聖なるオーラでかなりのダメージを負っていることは確かだ。神城の治療のためにアーシアを呼んでおいて損はないだろ」

 

「――っ。……そう、そうね。わかったわ」

 

 リアスは俺の話しにうなずいた。……ライザー戦のときのこいつだったら、動くことさえ出来なかっただろうな。

 

 リアスをつれて俺は転移の魔術を使い、兵藤家の地下にある大広間へ移動した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 痛い……、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛い、痛いっ!!

 

 まるで身を引き裂かれ続けている上に全身を業火で焼かれているような痛みだ!

 

 神聖なオーラがここまで痛いなんて……!

 

 聖剣を製作しているときの非じゃない! 結界で周囲を囲ってることもあるだろうが、神聖なオーラが濃厚すぎて息すらできない……!

 

 久しく感じていなかった痛みで意識が飛びそうになる!

 

 少し動いただけでも激痛が全身から伝わってくる!

 

 だ、だが――!

 

 絶対に朱璃さんを蘇生させる!

 

 ここまでの痛みを飲み込んで寸分の狂いも許されない作業を行なうなんて予想もしていなかったけど、負けられない!

 

 絶対に蘇生させるんだ!

 

 俺は両手を朱璃さんの半透明になっている体に翳し、肉体の再構成を続けていく。

 

 足から頭へと、狂いそうになるような痛みを感じながら、背中の翼や尻尾の感覚がなくなっているのも無視して集中して再構成を続けやっと再構成まで終わった。

 

『…………』

 

 朱璃さんがこちらを心配そうに見つめているのに気づいた。いまにも泣いてしまいそうな表情だった。

 

 いまの俺は口を動かすことができない。大丈夫、心配ないと視線で言い。魂の定着へと移行した。

 

 ――っ!

 

 くぅっ! ものすごく痛い!

 

 魂の定着を行なうための祭壇は清らかでないと、不純なものが朱璃さんの体に影響を及ぼしたり、魂を穢したりするので、さらに清めなきゃいけなかった。

 

 朱璃さんや朱乃さん。さらに俺のためと言えど、この痛みは反則レベルだ……!

 

 早く終われと願いつつも、魂の定着という繊細な作業では手を抜けず。丁寧に行なわなければいけなかった。

 

 細胞から何から何まで肉体と魂と同化させていく。

 

 ああ……、もう痛みも感じなくなってきた……。

 

 朦朧とする意識を無理矢理気力で繋ぎとめて、最後の仕上げに入る。

 

 魂を完全に体と同化させた状態で結界内の神聖なオーラを集めて朱璃さんに流し込む。

 

 ――く、……もう、意識が……。

 

 ――カァアアアッ!

 

 意識が途切れそうになった瞬間、朱璃さんの体が光り輝いた。

 

 朱璃さんの瞼がゆっくりと持ち上がっていく。

 

 ――成功した……。

 

 それを確認すると気が抜けてしまい、周りを囲んでいた結界が崩れ、俺は後ろへと倒れ――。

 

「エイジっ!」

 

 ――なかった。ゆっくりと後ろに倒れたんだけど、誰かに抱きとめられていて、床と接触しなかった。

 

 うーん……頭に感じる2つの柔らかな感触と、涙を溢れさせたままこちらを覗いてくる朱乃さんの顔。

 

 朱乃さんが抱きとめてくれたのかぁ……。

 

「エイジぃっ!」

 

「エイジさん!」

 

 ボーっとしていると、耳に再び声が――。

 

「アーシア! すぐに治療を始めてちょうだい!」

 

「はい、わかりました!」

 

 リアスとアーシアだった。アーシアが神器を発動して緑色の光が俺の体を包む。

 

 目を閉じてその光に身を委ねる……。

 

 あー……さっきまで感じなかった痛みがぶり返してきたけど、これは治っている証拠だよなぁ……。

 

「エイジ、ありがとう……っ! ……本当に……ありがとう……」

 

 泣きながら頬を頭にすりつけてくる朱乃さん。痛みを味わってまで死者蘇生してよかったと思い、俺は朱乃さんのおっぱいを枕に体から力を抜いた。

 

「まったく、本当に無茶をして」

 

 リアスが俺の手をやさしく両手で包みながらつぶやいた。

 

 目を閉じていてもわかる。

 

 俺の周りには他にも黒歌やゼノヴィアたち家の皆がいる。皆大好きで大切な人たちが俺を心配してくれている。

 

 俺はそれを幸福に思いながら意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<姫島朱璃>

 

 

 目を開ける。視線を動かす。手足が動く。心臓の鼓動。温かさ。痛み。死んで失われたものが全て元に戻っていた。

 

 ゆっくりと確認するように思い出すように体を試しながら、祭壇から起き上がる。

 

 空気を肌で感じる……。

 

 本当に私は生き返ったのね。

 

 涙が出そうだけど、まだ我慢する。私のため、私たち親子のためにがんばってくれた彼にお礼を言うのが先ね。

 

 足を動かして歩く。

 

 足から伝わる床の感触。体の重さ。何もかもが懐かしい。

 

「朱璃!」

 

 夫が大声で私の名を呼んだ。耳の鼓膜を揺らして心に響く。

 

「……ぁぅ……」

 

 まだ声帯がなれていないみたいね。声を出すのを止めて笑顔でうなずいた。

 

「朱璃ぃぃぃっ! ――っ!?」

 

 感激の涙を流しながら夫が走ってきたけど、避ける。驚きの表情の夫に視線で謝ってエイジくんの元へ向う。

 

「……母さまぁ……」

 

 私の姿を確認してさらに涙を流す朱乃の頭を撫で、腰を下ろして、朱乃を背もたれに眠っているエイジくんに頭を深く下げる。

 

「ぁ……」

 

 声が出ないんだったわね。眠っていてもいまの感謝の気持ちを、ありがとうと伝えたい。

 

 ――そうだ。

 

 エイジくんに顔を近づける。

 

「母さま?」

 

 途中で怪訝そうな娘の声が聞えてきたけど、感謝の気持ちは伝えないと思い。エイジくんにキスをした。

 

 これが私の感謝の気持ちよ。

 

 と、想いを伝えるように唇同士を合わせてキスをした。

 

「か、母さま……!?」

 

「しゅ、朱璃……!?」

 

 ――って、感謝の気持ちを表しただけでなんで、目を大きく見開いたり、床にヘタリこんでいるのよ……。

 

 ――っ。なんで私裸なの!?

 

 立ち上がろうとしたとき、床を見たときに気づいた。霊体だった頃はちゃんと服着てたのに!

 

 体を再構成したからなの? 私は立ち上がるのを止めて体を慌てて隠した。

 

 何か体を隠すものは――と思っていると、背中のほうから白い翼が迫ってきてすっぽりと体を覆い隠してくれた。

 

 あれ? これは――。

 

「わ、私と同じ天使の翼!?」

 

 茶髪のツインテールの()が自らも白い翼を背中から生やした。まったく同じ……というか、

 

「わ、私の聖なるオーラよりも神聖……!」

 

 そう、彼女よりも白く大きく神々しさを感じられた。

 

「ど、どういうことだ、アザゼル」

 

 夫が堕天使の総督であるアザゼルさんに訊ねた。私も彼のほうへ視線を向けると、アザゼルさんはあごに手をやって、自らも考えをまとめながらも話し始めた。

 

「……俺も自信はないが……。肉体の再構成を神聖なオーラが充満した結界内で行なっていたし、蘇生される体が神聖なオーラを元に構成させているとしたら。天界にあるシステムが作動して人間としてじゃなく、天使として転生……ではなく、蘇生させたんだと思う」

 

「そ、そんなことが……、神と魔王が死んでバランスが崩れているいまだからこそなのか……?」

 

「まあ、詳しくはわからねぇ。だが、完全な天使として蘇生できていようだぜ」

 

「そ、そうか……」

 

 私が天使、ね。堕天使、天使、元堕天使と人間のハーフで、現悪魔と堕天使のハーフ。……随分と複雑な家族構成になっちゃったけど、いまはとにかく――。

 

 ――着る物が欲しいわ……。

 




 朱璃さん蘇生完了。

 いや、いま何万字ぐらいかな~って確認するために投稿欄で文字数確認してビックリ。

 34098字……。

 ギリギリだった……。しかも作者は完全に終わるところまで書いてロキ戦まで書こうとしてました。たぶんそこまで書いてたら文字数オーバーでしたね。

 なので、途中ですが一旦切り、で次回からロキ戦突入です。
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