※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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第65話 VS悪神ロキ 

<イッセー>

 

 

 ――決戦の時刻。

 

 すでに日は落ちて、夜となっている。

 

 俺たちはオーディンの爺さんと日本の神さまが会談するという、都内のとある高層高級ホテルの屋上にいた。

 

 高いところにいるせいか、風がびゅーびゅー激しい。

 

 周囲のビルの屋上にシトリー眷属が各々配置され、待機していた。遠目で小さな人影が佇んでいるのがわかった。

 

 匙は遅れるって言っていたな。……どんな特訓をさせられているのやら……。戦闘終了後に登場なんてことだけは止めてくれよ匙くん。

 

 先生は会談での仲介役を担うために爺さんのそばにいる。

 

 戦闘には参加できない先生の代わりにバラキエルさんが同じく俺たちと屋上で待機。バラキエルさんは見るからにやる気満々という感じだった。奥さんが生き返ったからなのかな?

 

 ロスヴァイセさんも戦闘に参加ってことで鎧姿のまま、セルベリアさんと一緒に待機中。

 

 遥か上空にはタンニーンのおっさんも! さすがにそのままでは人の目に留まって大騒ぎになるかもしれないので、普通の人間には目視できないよう術をかけているようだ。ユウカナリアさんみたいに人間に変身もできるそうだけど、ドラゴンとして人間に変身するのは嫌らしい。まったく古風なドラゴンさんだよ。

 

 ヴァーリたちは少し離れたところでそのときを待っている。

 

 ちなみに、エイジは後方待機なんだけど、いまは俺たちと一緒のビルにいて朱乃さんとなんだかいい雰囲気で会話してる。……うん、すごくうらやましい。

 

 だけどそんな雰囲気のなかで、なんか俺、位置関係的に少し外側にいたり……。

 

 部長、朱乃さん、ゼノヴィア、黒歌さん、小猫ちゃん、セルベリアさんにロスヴァイセさん、ノエルさん、時雨さん、レイナーレと、エイジの輪。

 

 エイジたちの輪との間にギャスパーとアーシアがいて、アーシアの隣に俺。

 

 と、いう位置関係……。

 

 いや、こうなってる原因はわかってるよ。

 

 うん、黒歌さんと小猫ちゃん……、特に黒歌さんが俺を敵視してるからなんだよね。敵視される原因も100%以上俺にあるけど、そこまで嫌いますか!? 小猫ちゃんに謝ろうと近づいただけで殺気を放たれて睨まれたよ!

 

 しかも黒歌さんが俺を敵視しているためか、エイジの眷属の皆さんも俺を避けてるような感じがしたり……。

 

 俺ってそこまで悪いことした!?

 

『……悪いことしたんじゃないか? 大抵の女は好きでもない相手に服を脱がされたりするのは嫌だろう』

 

 ――ううっ! ドライグからの一言が心に突き刺さる!

 

 で、でも、『洋服破壊』は男のロマンで――。

 

『はぁ……、相棒』

 

 な、なんだよ? あからさまにため息なんかついて。

 

『される側のことを少しは考えたほうがいいんじゃないか?』

 

 ――っ。

 

『女からすれば相棒は服を脱がしたり、乳の声を聞くとかプライベートを無視して変態で、警戒するべき相手だろ。そんな変態に近づきたくないのは当たり前だし、この対応でもまだやさしいと俺は思うがな』

 

 な、なんだかドライグが説教キャラになって、る? 精神安定剤の副作用か最近妙に落ち着いてきてるんだけど、この元大暴れ迷惑ドラゴン。

 

 ああ、せめて木場がいればこのハブられてる輪が少しはマシに――。

 

『木場も相棒が原因だったはずじゃないか』

 

 …………どうしよう、味方がいない……。

 

「――時間ね」

 

 部長が腕時計を見ながらつぶやく。

 

 ――っ。ドライグと話してたら会談が開始される時間になった。エイジとノエルさん、時雨さんとレイナーレの4人がそれぞれの持ち場へ移動した。

 

 さて、残すはやっこさんが来るのを待つだけ。

 

 約束通り来なかったらどうしよう……。実はすでにホテルに入っていて、変装して爺さんに近づいていたりとか……。

 

「小細工なしか。恐れ入る」

 

 ヴァーリが苦笑した。部長たちが空を見上げている。何事? ――と、思ったら。

 

 バチッ! バチッ!

 

 ホテル上空の空間が歪み、大きな穴が開いていく。

 

 そこから姿を現したのは――悪神ロキと巨大な灰色の狼、フェンリルだった!

 

 ……正面から、堂々と出てきやがった!

 

「目標確認。作戦開始」

 

 バラキエルさんが耳につけていた小型通信機でそう言うと、ホテル一帯を包むように巨大な結界魔法陣が展開し始めた。

 

 会長を始めとしたシトリー眷属が俺たちとロキ、フェンリルを戦場に転移させるため、大型魔法陣を発動させたんだ。

 

 ロキがそれを感知するが、不適に笑むだけで抵抗は見せなかった。

 

 そして、俺たちは光に包まれ――。

 

 …………。

 

 次に目を開いたとき、そこは大きく開けた土地だった。

 

 岩肌ばかりだ。確か、古い採掘場跡地だったな。いまは使われていないらしい。

 

 眷属を確認。戦闘に参加しないエイジと木場を除外して、部長を始め、イリナも含めて全員いる。

 

 黒歌さんもバラキエルさんもセルベリアさんとロスヴァイセさんも同様。

 

 ヴァーリたちも少し離れたところに転移していた。

 

 そして、前方にロキとフェンリル。確認したところで俺は禁手のカウントを開始していた。

 

「逃げないのね」

 

 部長は皮肉げに言うと、ロキは笑う。

 

「逃げる必要はない。どうせ抵抗してくるのだろうから、ここで始末してその上であのホテルに戻ればいいだけだ。ふふふ、それにわざわざ戦力を分散させてくれたしな。我にとってはこちらのほうが都合がいい。それと、会談をしてもしなくてもオーディンには退場していただく」

 

「貴殿は危険な考えにとらわれているな」

 

 バラキエルさんがそう言う。

 

「危険な考えを持ったのはそちらが先だ。各神話の協力など……。元はと言えば、聖書に記されている3大勢力が手を取り合ったことから、すべてが歪みだしたのだ」

 

「話し合いは不毛か」

 

 バラキエルさんが手に雷光を纏わせ始めた。その背中には10数枚もの黒き翼が展開していく。

 

 と、俺のカウントも終わったぞ。素早く昇格+禁手化!

 

Welsh(ウェルシュ) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 カッ!

 

 赤い閃光を放ちながら、俺の体に赤龍帝の力が鎧となって具現化する。よし。力が溢れてくる。

 

Vanishing(バニシング) Dragon(ドラゴン) Balance(バランス) Breaker(ブレイカー)!!!!!!』

 

 ヴァーリも一切曇りのない白い 全 身 鎧 (プレート・アーマー)に身を包んだ。

 

 俺とヴァーリが同時にロキの前に出る。

 

 それを見て、ロキが歓喜した。

 

「これは素晴らしい! 二天龍がこのロキを倒すべく共同するというのか! こんなに胸が高鳴る事はないぞッ!」

 

 ビュッ!

 

 ヴァーリが仕掛けた! 空中で光の軌道をジグザグに生みだしながら、高速でロキに近づいていく。

 

 俺もそれに併せて背中の魔力噴出口を全開にした!

 

 空中からヴァーリが、地上から俺が突っ込んでいく!

 

「赤と白の競演ッ! こんな戦いができるのはおそらく我が初めてだろうッ!」

 

 嬉々としてロキは全身を覆うように広範囲の防御式魔法陣を展開させる!

 

 ――と、思ったら、その魔法陣から魔術の光が幾重もの帯となって、俺たちに放たれるッ!

 

 追尾性の高い攻撃みたいだ! 空中を飛び回るヴァーリ目掛けて、幾重もの光の帯が向かっていく!

 

 俺のほうにも何十もの攻撃が前方から放たれてきた!

 

 ヴァーリは空中で曲芸のように飛び回って、それをすべて回避した。俺は当たろうが何されようがお構い無しに突貫した!

 

 バッ! ババッ!

 

 俺の体に魔術の攻撃が突き刺さるが――このぐらいなら問題ない! 一気に詰める! 右拳に力を込めて、ロキ目掛けて低空飛行の最大加速で突っ込んでいく! 背中からは特訓の末に出せるようになったドラゴンの翼を生やしていた!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 バリンッ!

 

 俺の突撃にロキを覆う魔法陣が全部音を立てて消失する! そこへヴァーリが空中からバカげた質量の魔力の一撃を――。ヴァーリの手元に魔力以外の術式が展開した。

 

 あれが覚えたばかりの北欧の魔術か?

 

「――とりあえず、初手だ」

 

 バァァァァァアアアアアアアッ!

 

 掃射した! 俺は瞬時にその場をあとにする! 危なぇ! あの野郎、ロキの防御を俺が崩した途端に間髪入れずに攻撃してきやがった!

 

 この採掘場の三分の一ぐらいを包むほどの規模の一撃!

 

 なんつー攻撃だッ! とんでもねぇぇぇぇっ!

 

 攻撃が止んだあと、ロキのいた場所を見れば――底の見えない大きな穴が生まれていた。

 

 これでも攻撃範囲は狭めたんだろうけど、一撃の攻撃力がハンパじゃない!

 

 …………改めて思う。俺のライバルは異常です!

 

「ふはははは!」

 

 ――ッ! 高笑いが聞えてくる。

 

 その方向を見れば、宙に漂う人影。――ロキだ。ローブはいくらか破れているが、ロキ自信は無事な様子だった。

 

 あの一撃で無傷かよ。……神さま、怖ろしいわ。

 

 こうなりゃ、例の秘密兵器! 俺は腰につけていたハンマー――ミョルニルを手に取り、魔力を送って手ごろなサイズにする!

 

 両腕をなんとか振り上げて、ロキに突きつける。

 

 ロキがそれを見て目元をひくつかせた。

 

「……ミョルニルか。レプリカか? それにしても危険なものを手にしている。オーディンめ、それほどまでに会談を成功させたいか……ッ!」

 

 俺がこれを持っていることよりも、オーディンの爺さんがこれを渡したことにキレている様子だった。

 

 普通の状態じゃ重くて持てなかったけど、禁手のいまならなんとか支えられる。

 

 振り上げ、構えた格好で背中からブーストを噴かす!

 

 ゴオオオオオッ!

 

 ロキに高速で向かっていき、目標を捉えて一気にハンマーを振り下ろした!

 

 出ろッ! 神をも倒せるっていう雷よっ! 念じながらぶっ放す!

 

 ドオオオオオオオオンッ

 

 ロキに避けられた! 地面に大きなクレーターが生まれていたが……肝心の雷が発生しなかった!

 

 ……どういうことだ? これ、神をもビリビリさせる雷が生まれるんじゃないのか?

 

 俺はその場で何度も振り回してみるが……雷はビリッとも発生しなかった!

 

 ふ、不良品か、これぇぇぇぇえっ!

 

「ふははは」

 

 俺の情けない姿にロキが笑う。

 

「残念だ。その槌は、力強く、そして純粋な心の持ち主にしか扱えない。貴殿に邪な心があるのだろう。だから、雷が生まれないのだ。本来ならば、重さすらも無く、羽のように軽いと聞くぞ?」

 

 マジか! 邪な心? ………………う、うん。心当たりがありすぎます!

 

 俺、エロエロだから! おっぱいドラゴンだし! 部長にいいところ見せようとしているから使えないのか!

 

「そろそろこちらも本格的な攻撃に移ろ――っ!」

 

「私のほうもやっと準備が終わったよ。――とりあえず挨拶代わりだ」

 

 ロキが指を鳴らそうとした瞬間、ロキの背後にゼノヴィアが現れた! さらに次の瞬間、ロキの背中から鮮血が噴き出した!

 

「――って、ゼノヴィア! いつの間に!?」

 

 それになんかゼノヴィアの全身からオーラみたいなのが噴き出ててる!

 

「ぐぬぅっ!」

 

 ロキが苦しそうな声を出し、慌ててゼノヴィアから距離を取った。ヴァーリがものすごいを攻撃しても無傷だったのにゼノヴィアのヤツ、一撃でかなりのダメージをロキに負わせやがった!

 

 ロキはゼノヴィアを睨み、笑んだ。

 

「……赤と白の競演で忘れていたよ。二天龍などよりも障害になるだろう存在がいることを」

 

 ゼノヴィアは息を吐き、剣先をロキに向けながら言った。

 

「ふっ、だったらもう1人の障害も忘れてはいけないんじゃないか? ――まあ、私たちなどよりも強い者だったら、この場にも……いや、会談会場にわんさかいるよ」

 

「……まったく、そのようだ、なっ!」

 

 ズオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 突然轟く轟音。――っ! な、なんだ!? ロキが居た場所が……空間が抉り取られてた!?

 

 轟音と惨状を作り出したと思わしき場所を探すと――凛々しく弓を構えた部長が立っていた。

 

 ま、まさか先ほどの一撃は……。

 

「もう、ゼノヴィアがバラすから外れちゃったじゃないの」

 

「……すまない。そういうつもりではなかったんだ」

 

 部長が放ったみたいですね……。――って、え、外れた?

 

「…………まったく、その武器は反則だな」

 

 ロキの声! 声のほうへ視線を向けると片腕を無くし、かなりの重傷を負ったロキが空中に立っていた。

 

 す、すげぇ! なんて威力だよ! …………俺とヴァーリ、もう必要ないんじゃないか?

 

 ロキの言葉に部長はうなずいて弓を大切そうに指でなぞった。

 

「ええ、いい武器でしょ。『赤龍帝の籠手』のような倍加能力はないけど、この弓は私の滅びの魔力を溜めて矢として放つことができるの。……本来の私の収束されていない魔力だったらあなたの魔術に防がれてダメージを負わせることは不可能なんだけど、この弓で魔力を収束すれば手傷ぐらいは負わせられる。さらにこの弓に魔力を溜めて放てば――神をも滅ぼせる威力で攻撃できるようになるのよ」

 

 ……魔力の収束とチャージ能力か。確かにそれだったらロキの分厚い防御も抜ける。

 

「まるで聖書の神が創りだした神器だな。……創りだしたのは何者だ?」

 

「あら、気になるの?」

 

 聞き返す部長にロキはゆっくりと首を横に振った。

 

「…………いや、それほどの弓を製作できる者。そしてリアス・グレモリーの関係者を考えれば製作者の割り出しなど容易い。――あの者が敵側についた時点で終わりだったのか……」

 

「だったら降伏してくれないかしら? これ以上戦うのも不毛でしょう」

 

 部長はロキに降伏を促した。……か、完全に部長の優位だな。

 

「だが、断わる」

 

 ロキは首を横に振り、部長の降伏勧告を切り捨てた。

 

「もう止まれるものでもない。振り上げた矛を収めるなど許されん。それに――私が絶対に負けるとは限らないだろう」

 

 そう言うとロキは魔術を発動させて怪我を一瞬で癒した。クソッ! 回復系の魔術も使えるのかよ!

 

「まさかこれも使うことになるとは思いもしなかったな」

 

 ロキはそういうとローブ姿から漆黒の鎧姿に変わり、手元に2メートル近い、黒く何の素材でできたかわからない西洋風の槍が出現した。

 

 ぞくっ!

 

 な、何なんだあの槍……。とんでもなくヤバい気配がする!

 

「ま、まさかあれは――」

 

 バラキエルさんもランスを見て驚愕していた。

 

 全員の顔が強張る様子をロキはうれしそうに眺め、そしてランスを天に掲げて言う。

 

「ふははは、知っている者もいるようだな! そう、この槍は神殺しの概念が込められたミストルティン! オーディンのグングニルに勝るとも劣らない代物だ!」

 

 ミストルティン!? …………て、なんだ?

 

『元はヴァルハラの西に生えていたヤドリギだ。伝承でロキはバルドルの盲目の弟ヘズを騙して、ミストルティンの元になったヤドリギをバルドルに向かって投げさせ、矢となったヤドリギがバルドルを貫き、バルドルを殺したとされている』

 

 説明ありがとうドライグ! でもサッパリわからん! とにかくヤバい代物ってことはわかるんだけど。

 

『ヤバいなんてものじゃない。あれはどんなものでも貫く槍だ。俺やアルビオンの鎧など、あの槍のまえでは裸同然だ。……伝承通りならある意味フェンリルの牙よりも怖ろしい力を秘めている』

 

 なっ――! そんなにヤバいのかよ!

 

「まさか伝承のミストルティンが実在していたとは……」

 

 バラキエルさんが憎々しげにつぶやくとロキは笑みを浮かべた。

 

「正確にはこの槍は伝承のヤドリギではない。これは新なヤドリギを元に武器として製作した戦闘用のミストルティンだ! ――さあ、準備は整った! リアス・グレモリー、ゼノヴィア……、存分に死合おうではないか!」

 

 ロキはそう言い放ち、部長とゼノヴィアに戦いを挑む。クソッ! 俺たちのことは無視かよ!

 

 ロキがゼノヴィアに向って槍を振り回す。ゼノヴィアは槍を紙一重でかわしながら、両手に持った剣で斬りかかる。

 

 ギィン、ギィィン、ギィンッ!

 

 金属のかち合う音と共に周囲に衝撃が走る。ロキはうれしそうに槍を振り回しながら叫ぶ。くっ、離れてんのに余波が伝わってきやがる……。どれだけの攻撃力が一撃一撃に込められてんだ……!

 

「ふははははっ! 他の者も見ているだけではつまらないだろう! ――神をも殺す牙。それを持つ我が僕フェンリル! 一度でも噛まれればたちまち滅びをもたらすぞ! おまえたちの相手はこの獣だ!」

 

 フェンリルが1歩前へ進みだした。

 

 フェンリルの威圧感が、殺気がどんどん高まっていく。

 

 フェンリルが牙を向いてこちらへ攻撃を仕掛けようとした瞬間。黒歌さんが手を前へ翳した。

 

「にゃん♪」

 

 ブゥゥゥイイイイイイィィィィンッ!

 

 黒歌さんが笑むのと同時にフェンリルを覆うように魔法陣が展開し、その魔法陣から巨大で太い鎖が出現してくる! ――魔法の鎖、グレイプニル。予定より早めに届いたはいいが持ち運ぶのが難儀だったため、黒歌さんが独自の領域にしまい込んでいたんだ。

 

 シュルルルルルルルルルゥゥゥゥッ!

 

 黒歌さんが両手を素早く動かすのと連動するように、鎖がフェンリルへと襲い掛かる。まるで結界のように張られたフェンリルの行動を鈍らせ、鎖はフェンリルの体に絡みつき、締め付けた。

 

「むっ! グレイプニルか! だがグレイプニルの対策など、とうの昔に――」

 

 バヂヂヂヂヂヂヂヂッ!

 

 口の端を持上げて笑みを浮かべようとしたロキだったが、表情が険しくなる。

 

 オオオオオオオオオオオオオンッ……。

 

 巨大な狼が苦しそうな悲鳴を辺り一帯に響かせる。

 

「――フェンリル、捕縛完了だ」

 

 バラキエルさんが身動きできなくなったフェンリルを見て、そう口にした。

 

 やった! フェンリルの制止に成功ぉぉぉぉぉっ!

 

 すっげぇぇぇっ! 完璧じゃん! 鎖を強化してくれた見知らぬダークエルフさんたちはいい仕事をしましたな!

 

 フェンリルの動きを封じれば、あとは油断しなきゃ俺たち眷属たちだけで余裕で倒せるはず。

 

 ――となると、こちらはロキだけか。まあ、そのロキもゼノヴィアと部長だけで十分そうだけど。

 

 ロキはフェンリルの動きを封じられたことで、焦るかと思ったのだが、まだ不適に笑いながらゼノヴィアと戦っていた。

 

 ゼノヴィアは右手に持った真・リュウノアギトで上段から切りかかりながら訊ねた。

 

「まだ何か策があるのか?」

 

「まあな!」

 

 ロキは襲い掛かってくる剣の腹を槍で弾いてかわし、槍を持っていない手から魔術の弾丸をゼノヴィアに放ち、距離を取った。

 

 ゼノヴィアから距離を取ったロキは両腕を広げた。

 

「フェンリルよりスペックは落ちるが、出し惜しみはできないようなのでな」

 

 グヌゥゥゥゥン。

 

 ロキの両サイドの空間が激しく歪み出した。

 

 ……な、なんだ? 何をする気――。

 

 ヌゥン。

 

 空間の歪みから、何かが新たに出てくる。

 

 灰色の毛並み。鋭い爪。感情がこもらない双眸。

 

 そして、大きく裂けた口!

 

「スコルッ! ハティッ!」

 

 ロキの声に呼応するかのようにそれらは天に向って吼えた。

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 夜空の雲が晴れ、金色に輝く満月が姿を現す。

 

 月の光に照らされて、二匹の巨大な獣――狼が咆哮をあげていた。

 

 ……フェンリルッ! ウソだ! なんで!? どうして!?

 

 1匹じゃなかったのかよ!?

 

 俺だけじゃなく、全員が驚き顔になっていた。いや、唯一、ヴァーリだけが楽しそうにしていた。

 

 2匹の新たなフェンリルを従え、ロキが言う。

 

「ヤルンヴィドに住まう巨人族の女を狼に変えて、フェンリルと交わらせた。その結果生まれたのがこの2匹だ。親よりも多少スペックは劣るが、牙は健在だ。十分に神、そして貴殿らも屠れるだろう」

 

 ……子供がいたのか、フェンリルに……。

 

 んなこと、知らなぇよ! ミドガルズオルムもそんなこと言ってくれなかった! あのドラゴンでも知らなかったことなのか! 最悪じゃないか!

 

 ロキが二匹のフェンリルに指示を送りだす!

 

「さあ、スコルとハティよ! 父を捕らえたのはあの者たちだ! その牙と爪で――」

 

 スギュゥウウウウウウンッ!

 

「――なっ!?」

 

 叫ぼうとしていたロキが驚愕の声をあげる。

 

 当然だ。轟音が鳴り響いたかと思えば、新たに出現した2匹のフェンリルの内、1匹が血だらけになって地面に沈んでいたんだ。誰だって驚く。

 

「スコル!?」

 

 ロキは狼狽しながら傷ついたフェンリルに治癒魔法をかける。俺たちは治癒魔法をフェンリルにかけているロキを止めることも忘れて、無慈悲な攻撃を放ったであろう人物へ視線を集めた。

 

「え……、えっ!? も、もしかしていま攻撃したらダメだった?」

 

 困ったような表情を浮かべる部長。……いや、攻撃はしていいですよ。というか攻撃して当然なんですが、見事すぎる不意打ちに皆どうリアクションしていいか困ってるだけなんです……。

 

「いや、さすが私の『王』だ。敵が油断し、口上を述べている途中での無慈悲な一撃。一見卑怯で、空気の読めない行動に見えるが、効率的でいい手だった」

 

 いち早く我にかえったゼノヴィアがフォローのような言葉をかけるが、全然フォローになってねえ!

 

「ひ、卑怯……、空気の読めない……」

 

 ほら、部長が落ち込んじゃったじゃねぇか!

 

「効率的で有効的な手段ですから、あまり気にしないでください」

 

「そうにゃ、バカみたいに戦闘中に話してるヤツが悪いのにゃ」

 

「……そ、そうよね。私は間違ってないわよね」

 

 セルベリアさんと黒歌さんがそう部長に声をかけている間に、ロキは治療を終え、再びこちらを睨んで両手を広げた。

 

「先ほどは油断してしまったが、もう油断も容赦もしない! ――さあ、スコルとハティよ! その牙と爪で奴らを食い千切るがいいっ!」

 

 ビュッ!

 

 風を切る音と共に二匹の狼があれの仲間たちのもとへ向かっていく!

 

 一匹はヴァーリのチームのほうへ。もう1匹はグレモリー眷属の方へ向ってきた!

 

 くっ! もう鎖はない! あの親フェンリルのほうに使っちまったからな!

 

「ふん! 犬風情がっ!」

 

 ゴオオオオオオオッ!

 

 タンニーンのおっさんが業火を口から吐きだしていた! おおっ! さすが元龍王だ! 子フェンリルを大火力の炎で包み込みやがった!

 

 ……けど、子フェンリルは炎のなかでも何事も無かったように動き続けている! ダメージは受けている! でも、決して怯む様子はなかった!

 

 あの2匹は真っ正面から倒すしかない! 俺が仲間のほうへ視線を送っていると、ロキとゼノヴィアが再び戦いを始めていた。

 

「ふはははっ! 動きが落ちているぞ! 体から迸っていたオーラも弱くなっているな!」

 

「ふんっ、術が切れ掛かっているだけだ。すぐにまた術をかけなおすさ!」

 

 ロキとゼノヴィアが槍と双剣を交し合う。ロキが言った通り最初よりゼノヴィアの動きが目に見えるほど落ち、体から噴き出していたオーラも少なくなっていた。

 

 こ、これはヤバいんじゃないか!? 加勢したほうがいいだろ!

 

 俺が背中のブーストを噴かせようとしていると、ロキはバッと後方へ下がり、槍を投擲するような体勢に移った! なんだ!? 槍からものすごいオーラが出てるぞ!?

 

「イッセー! いますぐ私に力を譲渡して!」

 

 部長から指示が飛ぶ! 俺はすぐに部長の指示に従い、溜め込んだ赤龍帝の力を部長へ譲渡する!

 

Transfer(トランスファー)!!』

 

 神器から流れる音声と共に、譲渡した力が部長を強化し、部長はそのオーラを弓に集めてロキへ向けて構え、放った。

 

 部長が弓を放ったのと同時にロキの手から槍が消え、ロキとゼノヴィアの間で光がはじけた!

 

 ガガガガガガガガガガガガガガッ、ガンッ!

 

 力と力のぶつかり合い。轟音が辺り一帯に鳴り響き、周囲の空間にも傷痕をつける! 

 

 一段と大きな音が鳴り響き、光が止むと、大きなクレーターが作られ、ロキの手に槍が戻っていた。

 

 ロキは驚きと感心が入り混じった様子で部長を睨む。

 

「まさかミストルティンの攻撃が相殺されるとはな」

 

「……私も驚いてるわよ。赤龍帝のオーラで強化したのに相殺するのがやっとだったことにね」

 

 部長も驚きの表情を浮かべてロキが持つ槍を見つめながらつぶやいた。

 

「ははははっ、楽しそうだな! そろそろ俺も混ぜてくれよ!」

 

 ヴァーリがロキと睨み合いをしていた部長とゼノヴィアの間に、空から高速で舞い降りてきた!

 

「……相手が神格だと半減の力がうまく発動できないからな。少しずつでもその力を削らせてもらう!」

 

 ドゥ! ドオウ! ドオオオオンッ!

 

 ヴァーリの手元から幾重にも魔力の攻撃を北欧の術式と混ぜながら撃ちだしていた。そのことごとくがロキの魔術でなぎ払われるが、全部が打ち消されるわけでもなく、何発かロキの体に当たっていた。しかし、魔術の壁を突破してもロキの鎧に全て防がれ、まったくダメージを与えられていないようだ。

 

「さすがは白龍皇! 短期間で北欧の魔術を覚えたようだが――甘い!」

 

 七色に輝く膨大な魔術の波動をロキが放っていく。ヴァーリは背中の光の翼を大きく展開して迎え撃つ格好だった。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

「――これぐらいの攻撃ならば触れなくとも半減の力は発動できる。が、消耗が激しいのでね」

 

 あの半分にする領域の応用技か? ロキ本体にはまだ効かなくても、その攻撃には有効なのか。こいつも成長して新しい力を得ているようだ。怖い怖い!

 

 だけど、いくつか撃ち漏らしたものがヴァーリの鎧を撃ち抜く! 白龍皇の鎧が大きく破損するが、ヴァーリはすぐさまそれを復元させていった。

 

「いっけぇぇぇぇええええええええええっ!」

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 俺も間髪入れず、ドラゴンショットを特大でロキに放つ! ハンマー使えなきゃ、こうやって攻撃していくしかねぇ!

 

 ドオオオオオオオッ!

 

 鋭く向かっていく俺の一撃だが、ロキは不適に鬼気迫る表情を浮かべて真っ正面から俺の攻撃を受け止め――。

 

 ドンッ!

 

 ヴァーリのほうへいなす! ヴァーリへ俺のドラゴンショットが向うが――奴は高速で動いて避けてしまった。

 

「ふはははは。白龍皇のほうは熟練した強さを誇り、赤龍帝のほうは凄まじい気合を込めて一撃を放ってきている。技術はないが、意外に侮れないものだ。うーん、すごい! 想いのこもった一撃というものはうちに響くもの。どれだけの想いをいまの攻撃に込めたものか。――鎧が無ければ腕ぐらいしびれていたかもしれんな」

 

 そう褒めてくるロキだが、全然余裕そうだ。まったく、なんて防御力してんだよ、あの鎧……。魔術の障壁を抜いた上で、あの鎧の防御力を突破するなんて無理じゃないか?

 

 だけど、赤龍帝の力を最大まで引き上げて部長に譲渡すれば……。

 

「赤と白の競演も十分楽しんだ。それに、リアス・グレモリーとゼノヴィアの2人を相手にするのにおまえらは邪魔だ。――特に赤龍帝! 倍加した力を譲渡されるのは面倒極まりない! そちらからぶっ殺しだッ!」

 

 あらら! ちょうど俺が考えていたことを読まれましたか!

 

 ロキはこちらを向く。――先に俺を取る気か!

 

「――何度も俺を無視するな!」

 

 ブゥンッ!

 

 ヴァーリが瞬時に動いて、こちらに攻撃の矛先を向けていたロキの背後を捕らえた!

 

 いける! ヴァーリは手にデカい魔力の一撃を込めている! あれが間近で当たればいくらロキでも――。

 

「避けろ!」

 

 ゼノヴィアが突然叫んだ! え!? なに――。

 

 バグンッ!

 

 ヴァーリが――横から現れたフェンリルの大きな口に食われた。

 

「ぐはっ!」

 

 吐血するヴァーリ! 牙が白銀の鎧を難なく砕き、ヴァーリの体を完全に貫いている。

 

 ヴァーリの鮮血がフェンリルの口もとを赤く濡らす。

 

 子フェンリルじゃない。親のほうだ! ……なんで親フェンリルが! 見れば鎖がついていない。まさか!

 

 振り向けば子のフェンリルが口に鎖をくわえていた! 俺の仲間と戦う振りして、親を解放したのか!

 

「ふははははっ! まずは白龍皇を噛み砕いたぞ!」

 

 哄笑するロキ!

 

「ヴァーリッ!」

 

 俺はヴァーリを救出するためにフェンリルへ突貫する! ハンマーは元のサイズに戻しておく。予定通りにいかないもんだよ!

 

 ヴァーリ! ここでおまえが終了ってのも作戦が成り立たな――くわないけど! 俺のライバルがこんなところで死ぬのは見過ごせない! いつか俺のチームとヴァーリのチームで戦うんだ! 絶対に助ける!

 

 俺の突貫に特に身構える様子も見せず、フェンリルは真っ正面から俺を迎え撃とうとしていた。……俺の攻撃なんて、怖くないってか!

 

「この駄犬がッ!」

 

 俺が鼻面に力のこもったストレートを打ち込もうとする! ――が。

 

 ザシュッ!

 

 ――ッ!

 

 前足を薙いでくる!

 

 爪で俺の体を赤龍帝の鎧ごと難なく切り裂きやがった……ッ! 痛えぇぇえ……ッ!

 

 ごふっ! 口から、腹から、血が飛び散る! マズい。ヴァーリがやられて、残った俺まで倒れたら――。

 

「ぬぅ! そいつらはやらせんっ!」

 

 タンニーンのおっさんが火炎の球で俺たちを支援してくれる! すごい熱量と大きさの炎だ! けど、フェンリルはやはり逃げる素振りも見せない!

 

 怪獣対決! サイズは似たようなもんだ! だったら、狼よりもドラゴンのほうが強く見えるさ!

 

 オオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 例の透き通る美声での咆哮ッ! おっさんの炎がこの一帯の空気を震わせる狼の咆哮に打ち消されていく! マジか! 龍の一撃も咆哮ひとつで削除ですか!

 

 ビュッ!

 

 フェンリルの姿が一瞬で消えた!

 

 ザシュンッ!

 

 何かが切り裂かれる音! そして!

 

「ぐおおおおおおおおっ!」

 

 おっさんの悲鳴が聞こえてきた!

 

 ……おっさんの体がずたずたに切り裂かれてるッ! おっさんの血液が戦場に舞う!

 

 神速で動き、おっさんを爪で切り裂いた!

 

 ……………ッ! 俺はもどかしい思いに駆られていた! 伝説のドラゴン! 俺を鍛えてくれた恩人! あんなに強くて雄大なおっさんが為す術もなく切り裂かれたッ!

 

 なんだか、すごく悔しい。ドラゴンってのは最強の生物だって、聞いたのに! ドラゴンは誰よりも誇り高いと聞いていたのに!

 

 眼前のフェンリルはすべてを軽く破壊していくんだ!

 

 おっさんは血を口から吐きだしながらも奥歯にしまっていた何かを噛み砕いて飲んでいた。瞬時におっさんの傷が煙を立てながら消えていく。おっさんはフェニックスの涙を使ったんだ。いちおう、メンバー全員フェニックスの涙を所持しているからね。フェニックスの涙は今回の一戦のために悪魔サイドが送ってくれた物資だ。

 

 俺も懐から小瓶を取りだして、傷口にフェニックスの涙をぶっかけた。

 

 シュゥゥゥゥウッ。

 

 傷口から煙を立ち上らせながら、フェニックスの涙は俺のダメージを癒していく。

 

 ……しっかし、危なかった。あの爪、俺の体を深く抉りやがった。なんて攻撃力だ! 赤龍帝の鎧の硬さがあいつ相手だとまるで意味を成さない! だから、ヴァーリの鎧も難なく砕いたのだろう。おっさんの体もあれだけ大きく切り裂いた。フェンリルは牙、爪、その他全部が規格外なんだろうな。伝説のドラゴン3体を相手にして、無傷で全部突破ってどういうことだよ……ッ!

 

 この狼はとんでもない怪物だッ!

 

 前衛の俺とヴァーリはフェニックスの涙をいくつか持たされている。でも、噛まれている状態だと、フェニックスの涙を使ったところで貫かれている状態は変わらないから、意味がない。あそこから、解放してやらないと。

 

「まったく、伝説のドラゴンが3体もいて情けない」

 

 ズオオオオオオオォォォォオンッ!

 

 声が聞えたと思ったら、突然青い閃光が走り、フェンリルの胴体を貫いた! ――っ!? な、何が――!?

 

「ぐぅ……」

 

「ほら、さっさとフェニックスの涙を飲め」

 

 慌てて周囲を確認すると、フェンリルの口から吐きだされたであろうヴァーリが地面に転がっていて、その前にセルベリアさんが槍と丸い盾を装備して立っていた。

 

 さ、さっきの一撃はセルベリアさん?

 

 グオオンッ。

 

「ふっ、まだ生きていたか」

 

 フェンリルの声に気づいて構えるセルベリアさん。フェンリルは胴体から血を流し、かなりのダメージを負っている様子だ。

 

「――って、すげぇ! 一撃でフェンリルに大ダメージを負わせたよ、あの人!」

 

 俺たちの攻撃なんてまったく効く様子もなかったのに、どんだけ強えんだよ!

 

「クッ! セルベリア・ブレスか……!」

 

 ロキもフェンリルを一脚され憎々しげにセルベリアさんを睨んでいた。

 

 セルベリアさんはロキの視線を正面から受け止め、無言で槍の先を向けた。

 

「……やはり貴殿も力を増していたようだな。フェンリルも傷ついたいま、もうなりふりかまっていられんか。――こい、我が下僕たちよ!」

 

 今度は何をするきだよ!

 

 ロキの足元の影が広がり、そこから――巨大な蛇! いや、体が長細いドラゴンが複数現れる!

 

 ……あの姿、見覚えあるぞ! かなり小さくなっているけど、間違いない!

 

「ミドガルズオルムも量産していたかッ!」

 

 タンニーンのおっさんが憎々しげに吐いた!

 

 そう! その通りだ。ミドガルズオルムそっくりで、タンニーンのおっさんぐらいのドラゴンが1、2、3……5匹!

 

 ゴオオオオオオオゥッ!

 

 量産型どもがいっせいに炎を吐いてきやがった!

 

「その程度でッ!」

 

 ゴバァァァァンッ!

 

 量産型ミドガルズオルムの炎はタンニーンのおっさんの火炎で吹き飛ばされていく。

 

 うはっ! やっぱ本物のドラゴンの炎はすっげえよな!

 

 この攻防で戦局が大きく動く!

 

「こなくそ!」

 

「いい加減にくたばりなさい!」

 

 美猴と朱乃さんの声。ヴァーリチームとグレモリー眷属たち、それに黒歌さんが子フェンリル2匹と激戦をくりひろげていた。

 

「雷光よッ!」

 

 カッ! ドオオオオオオオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 バラキエルさんが朱乃さんの放つ雷光の10倍以上――極太とも言える大出力の雷を天から落とし、子フェンリルにぶつけるが――。

 

 奴ら、ダメージを受けても平気な様子で攻撃を再開してくる! いまのでだいぶダメージを受けたと思うんだが……戦闘意識的なものが俺の認識を超えている!

 

「ギャスパーさん! フェンリルの視界を奪ってください! 小猫さんはその瞬間に仙術での打撃でフェンリルの動きを止めて、黒歌さんが止めをさしてください!」

 

 部長の代わりに朱乃さんが司令塔となって指示を飛ばす! ギャスパーの体が無数のコウモリと化していく。

 

「えいえいえい!」

 

 コウモリと化したギャスパーがフェンリルの目に集まり、視界を奪う! いいぞ、ギャスパー!

 

「少しでもフェンリルの気を断ちます!」

 

 ギャスパーのおかげで視界が一時的に塞がっている子フェンリルの懐へ入り、小猫ちゃんが一撃を入れる!

 

浸 透 拳(しんとうしょう)!」

 

 ゴホォウッ!

 

 小猫ちゃんが張り手のように子フェンリルの腹に拳打を決めると、まるで衝撃が後ろへ突き抜けたかのようにフェンリルの背中側の毛が逆立ち、ホコリが舞い上がった! 子フェンリルの口から血が吹きだす!

 

 こ、小猫ちゃん……いつの間にロリっ猫娘から格闘猫少女に転向したんだ?

 

「ギャスパーくん、すぐにそこから離れて! 黒歌さん、止めをお願いします!」

 

 朱乃さんの指示を受けてギャスパーが子フェンリルから退避し、入れ替わるように黒歌さんがフェンリルの前に立った。黒歌さんが胸の前で手を合わせ、そして開いた。その手の間から黒くものすごい密度のオーラを感じる。

 

「さあ、食らうにゃ! ――にゃんにゃん波ぁぁぁっ!」

 

 ゴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオウッ!

 

 黒歌さんがそう叫びながら両手をフェンリルへ向って突き出すと轟音が響き、黒いオーラの球体がフェンリルの体を包み込んだ!

 

 グオオオオオオオオオ…………。

 

 フェンリルから苦しそうな声が漏らすが、黒歌さんの技から抜け出せずに、やがて声も出せなくなって地面に沈んだ。

 

 黒いオーラの放出を止めて技を解除したあとには全身に裂傷を負い、地面を鮮血で染め上げたまま動く様子がない子フェンリルがいた。

 

 す、すげえっ! 連携で子フェンリルを1匹倒しちゃったよ! ていうか最後の黒歌さんの技! 高濃度のオーラで敵の全身を包み込んで攻撃するって、かわいらしい名前のわりに凶悪だ!

 

「さあ、皆さん! もう1匹を始末しますわよ!」

 

 朱乃さんはそう叫ぶとヴァーリチームのほうへ視線を向け、即座に援護へ向う。

 

「――こいつはどうだ?」

 

 ゴバァァァァァァァァンッ!

 

 少し離れたところではタンニーンのおっさんが大出力の火炎を量産型ミドガルズオルムに吐きだしていた! 戦場を炎の海が大きく包み込む!

 

 炎のなかで量産型ミドガルズオルムの1匹がもがき苦しんでいる様子だった! さっすが元龍王の火炎だ! 量産型のミドガルズオルムは炎のなかで消し炭になっていた。

 

「もう一丁!」

 

 ゴオオオオウゥゥンッ!

 

 おっさんは大きく息を吸い込み、特大の火炎球を口から吐きだして量産型のミドガルズオルムをもう1匹弾き飛ばした! 地面に大きなクレーターを創り爆風を巻き起こすけど、頼もしい限りだよ!

 

 すげえ。龍王の量産型なんておっさんの相手にならないんだな。やっぱり、おっさんは強い!

 

「やらせません!」

 

 ロスヴァイセさんも北欧の魔術を展開して、タンニーンのおっさんの援護をしている!

 

 雨のように魔術の球が降り注ぎ、敵に突き刺さっていく。

 

 おおっ、ミドガルズオルムに確実にダメージを与えているな。セルベリアさんといい戦乙女ってすごい!

 

「回復を! そちらも!」

 

 合間合間にダメージを受けた者へアーシアが回復のオーラを飛ばす。連携で手傷を負う者は少ないが、効果は絶大でかなり役に立っている!

 

 グレモリー眷属と黒歌さんが討ち果たした子フェンリルとは別のもう一匹の子フェンリルを攻撃しているヴァーリチームも相手を押しているように見えた。

 

「オラオラオラオラオラ!」

 

 美猴が如意棒の乱打で子フェンリルを何度も殴打していく!

 

「デカくなれ、如意棒ッ!」

 

 ドンッ!

 

 うおっ! 巨大なサイズになった棒を美猴が振るい、子フェンリルの頭部へ鋭く打ち付ける!

 

「にゃはは♪ 動きを止めるにゃ」

 

 そこへ黒歌さんがフォローを入れて子フェンリルの足元をぬかるみに変えた。この人本当に多才だよな。

 

 足を取られ、動きを封じられた子フェンリルに絶大なオーラを放つ聖剣で斬りかかる者がいた。――聖王剣のアーサー!

 

「――とりあえず、方眼を奪っておきますか」

 

 ザシュッ!

 

 子フェンリルの左眼を聖王剣で大きく抉っていく!

 

「次は爪」

 

 さらにそのまま肉ごと前足の爪をそぎ落としていく! うわぁぁぁ! すごい残酷な攻撃をしやがるぜ、あの剣士! しかもすました顔でそれをやるから怖い!

 

「――そして、その危険な牙も! この聖王剣コールブランドならば、子供のフェンリルごとき空間ごと削り取れるはずです!」

 

 ゴリュッ!

 

 聖王剣が空間を震わせながら、牙を削り取った!

 

 ギャオオオォォォォン!

 

 さすがの子フェンリルも、左眼、爪、牙とやられて、激痛で悲鳴をあげていた。

 

 ――強い。

 

 これがヴァーリの仲間か。いくら相手が子フェンリルで、黒歌さんのフォローもあったとはいえ、尋常ではない強さのはずだ。

 

 それをこれといって苦戦する様子もなくたった2人で相手取って戦っていたなんて……。

 

「さてと、私もあの犬を始末するか」

 

 と、ここで親フェンリルと対峙していたセルベリアさんも動くようだ。槍に尋常じゃないオーラが収束され、全身からも蒼いオーラが噴き出している。……全身からオーラってゼノヴィアと同じ術? いや、セルベリアさんが教えたのか?

 

 セルベリアさんが槍をフェンリルへ向けると、フェンリルは警戒している様子を見せた。俺やおっさんの攻撃は無視していたのに。あの槍は警戒しなければいけないほど危険な力を秘めてるってことなのか?

 

「……待ってくれ」

 

 セルベリアさんが槍に蒼いオーラを集めて放とうとしていると、フェニックスの涙で怪我を回復させたであろうヴァーリが立ち上がり、セルベリアさんを止めた。

 

 セルベリアさんはフェンリルから視線を放さず訊く。

 

「なんですか?」

 

「そのフェンリルは俺が倒す」

 

 力強くそう宣言するヴァーリに、セルベリアさんは冷笑を浮べた。

 

「手も足も出せていないあなたがですか?」

 

 ヴァーリはセルベリアさんの言葉を無言で飲み込み、うなずいた。

 

「ああ、俺が倒す。……残念だがいまの俺では鎧をまとい、神殺しの概念と鎧の防御力を無視するミストルティンまで装備したロキを倒すことは不可能だ。……加勢したところで足を引っ張るだろう。――だが、このまま何もしないわけにはいかないんでね」

 

「……そうですか、まあいいでしょう」

 

 セルベリアさんは槍を引いてヴァーリに親フェンリルの相手を譲った。

 

「感謝する。……兵藤一誠」

 

 ヴァーリが俺に話しかけてきた。

 

「……ロキと、その他はキミと美猴たちに任せる。――俺はこの親フェンリルを確実に殺す」

 

 それを耳にしてロキが笑う。

 

「ふははははははっ! 貴様が? どうやってフェンリルを殺すというのだ! まるで相手になっていなかったではないか!」

 

「――あまり天龍を、このヴァーリ・ルシファーを舐めるな」

 

 ぞっ……。

 

 ヴァーリは寒気がするほどの睨みをロキにくれたあと、静かに口ずさみだした。

 

 同時に神々しいオーラがヴァーリから発せられる! 鎧の各宝玉が七色に輝き出していた。

 

 カアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!

 

「我、目覚めるは――」

 

<消し飛ぶよっ!><消し飛ぶねっ!>

 

 ヴァーリではない声が響いていた。 ……白龍皇の内に存在する歴代所有者の思念だろうな。こんな怨念のこもった声を発するのか……ッ! 俺の内にもこんな怨念が眠っているんだろうな。

 

「覇の理に全てを奪われし、二天龍なり――」

 

<夢が終わるっ!><幻が始まるっ!>

 

「無限を妬み、夢幻に想う――」

 

<全部だっ!><そう全てを捧げろっ!>

 

「我、白き龍の覇道を極め――」

 

「「「「「「「汝を無垢の極限へ誘おう――ッ!」」」」」」」

 

Juggernaut(ジャガーノート) Drive(ドライブ)!!!!!!!!』

 

 この採掘場跡地全域をまばゆく照らす、大出力の光がフェンリルの口から溢れ、そして狼自信をも呑みこんでいく。

 

 すげぇぇぇえええええっ! もう俺じゃ計れないぐらい圧倒的なパワーを感じてしまう。

 

「兵藤一誠、これが『覇龍』だ」

 

 ヴァーリの白銀の鎧もオーラの増大と共に徐々に変化していく。龍を模した全身鎧から、完全に龍のようなフォルムに変化してる。

 

 巨大な光と化したヴァーリがフェンリルを睨む。まったく警戒する様子も見せていなかったフェンリルも『覇龍』を警戒し、体から殺気を噴き出させた。

 

「いくぞ――」

 

 ドオオオオオオオンッ!

 

 ――っ! ヴァ、ヴァーリの姿が消えたと思ったら、親フェンリルの体が後ろへと吹き飛んだ!

 

 吹き飛ぶフェンリルにヴァーリは追撃し、白龍皇のオーラでフェンリルの体を包む。

 

『DividDividDividDividDividDividDividDivid!!』

 

 鳴り響く音声と共にフェンリルの体が小さくなり、感じていた力も小さくなっていく。す、すげえ……素早さだけじゃなく、基礎能力から半減の能力まで爆発的に強化されてるようだ。……これが、『覇龍』……。

 

 ライバルと違って短時間でも『覇龍』を発動できない俺は、畏怖や感心などの色々な思いで見ていると、戦場の空から何者かが現れた。

 

 ふわふわと空から侵入者が降りてくる。

 

「うわ! もうヴァーリが『覇龍』を発動してる!」

 

 空から降ってきたのは魔女スタイルの魔女っ子だった。な、なに? ヴァーリの知り合い?

 

 俺が疑問符を浮べていると、ヴァーリがフェンリルを押さえつけながら魔女っ子に向って叫んだ。

 

「ルフェイ! 俺とフェンリルを予定のポイントに転送しろッ!」

 

「は~い♪」

 

 なんとも緊張感のない返事を魔女っ子は返すと、転移用の魔法陣が親フェンリルの足元に広がり、この場から消えていく。

 

「ヴァーリ!」

 

 叫んでみたものの返事などあるはずもなく。ヴァーリは完全に転移した。

 

 あいつ、『覇龍』の影響が俺たちに及ばなくするために親フェンリルをどこかへ転移させて戦うつも――りなわけはないか! 予定のポイントとか言ってやがったし、よからぬことでも企んでいたんだろう。

 

「じゃあ、あと2匹! 転移させるよ~!」

 

 魔女っ子はそう言うと、子フェンリルの足元にも転移の魔法陣を展開させる。瀕死か死んでいるだろう子フェンリルも転移させるのか?

 

 まさかこいつらの狙いは――。

 

「ま、待ちなさい、ルフェイ! 子フェンリルまではいらな――」

 

「じゃあ、転移させるからね!」

 

「少しは話を――」

 

「えい!」

 

 魔女っ子の行動に狼狽しながら転移の光に包まれ子フェンリルと共に消えていくアーサー。やれやれといったポーズをしながら同じく光に包まれて美猴までもが消えていった。

 

「じゃあ皆さんさようなら~♪」

 

 最後に魔女っ子はこちらに頭を軽く下げてから同じく転移魔法を使用して、この場から消えた。

 

 え~と……、と、とりあえずフェンリルの脅威は去ったと考えればいいのかな? 色々と納得できないけど……。

 

 あとはロキとミドガルズオルムの量産型が数匹か。

 

「むう、これ以上集まられては厄介だ」

 

 子フェンリル組が俺たちの加勢に動こうとしていると、ロキが再び空間を歪め、先ほどよりも数を増して量産型ミドガルズオルムを出現させた。

 

 10体近くのミドガルズオルムがフェンリル対策組みに襲い掛かる!

 

 追加で10体もミドガルズオルムを出せるのかよ! 俺がそう悪態をついていると、俺の視界に黒が映り込んだ。

 

 ブオオオオオオオオオオオオオンッ!

 

 黒い炎らしきものが地面から巻き起こり、うねりとなって、ロキと量産型ミドガルズオルムを包み込んだ!

 

 今度は何事だよ!?

 

「――ッ! この漆黒のオーラは!?  黒邪の龍王 (プリズン・ドラゴン)か!?」

 

 ヴリトラ? 匙か! そういえばなんとなく匙のオーラの質に似ているかも。でも、炎まで持っていなかったぞ、あいつ。

 

 地面に現れた巨大な魔法陣。その中心から、黒い炎がドラゴンの形となって生みだされていく。

 

『兵藤一誠くん。聞えますか? 私はグリゴリの副総督シェムハザです』

 

 ――っ。

 

 緊急用に耳につけていたイヤホンマイクから、聞き覚えの無い声が。ああ、先生の同僚の方だ。

 

「あ、どうも。あのでっかい黒いドラゴンを送ってくれたのはシェムハザさんですか?」

 

『ええ。アザゼルに匙くんのトレーニングが終わったら、こちらへ転送するように言われましたから』

 

「あれ、やっぱり匙ですか!?」

 

 あらー、まるで炎のドラゴンじゃないか。真っ黒だよ。黒い炎がドラゴンを形作っている感じだ。あれがヴリトラなのか。

 

『ええ、アザゼルが少々計算ミスをしてしまったようでして。トレーニングを開始したのですが、このままの状態になってしまいまして。時間が来たので、この状態のまま送ってみることにしたのです。まあ、敵と味方の区別だけはついていうようですね』

 

 結果オーライっスか! うーん。堕天使って大胆だよな。

 

「何やったんですか?」

 

『彼にヴリトラの神器を全部くっつけました』

 

 また、そんな無茶を……。

 

 口元を引きつらせる俺へ服装得さんは続ける。

 

『ヴリトラは退治されて神器に封じ込まれるとき、何重にもその魂が分けられてしまった。そのため、ヴリトラの神器所有者は多いのです。だが、種別で分けると「黒い龍脈」、「邪龍の黒炎」、「漆黒の領域」、「龍の牢獄」、この4つです。これらの神器が多少の仕様の違いで各所有者に秘められていたのですよ。そして、我が組織グリゴリが回収し、保管していたそれらのヴリトラの神器を匙くんに埋め込みました。あなたとの接触がヴりとらの意識が出現していたのですべての神器が統合されるかもしれないとアザゼルは踏んだのです』

 

 なるほど、それで先生は匙を連れて行ったのか。

 

『結果、神器は統合され、ヴリトラの意識は蘇りました。――が、蘇ったばかりで暴走してしまったようですね。しかし、匙くんの意識は残っているようなので、あなたがドライグを通じて語りかければ反応するはずです。あとはあなたにお任せします。できますか?』

 

「……ええ、なんとかやってみます。いざとなったら、力尽くで匙を止めます」

 

 匙――ヴリトラの黒い炎がロキと量産型ミドガルズオルムを包み込み、その動きを封殺していた。炎が意思を持つかのように蠢き、蛇が巻き付いているように見えた・

 

「くっ! なんだ、この炎は!? 動けん! ……ぬぅ! 力が徐々に抜けていっている!? これはあの黒いドラゴンの力か!? 特異な炎を操る龍王がいたと聞いたことがあるが、まさか、これがッ!」

 

 ロキも狼狽している様子だった。量産型ミドガルズオルムが炎のなかで暴れるが脱出はできそうになかった。

 

『ヴリトラは直接的な攻撃よりも特異な能力を持っていました。パワーは龍王のなかでは弱いかもしれませんが、こと技の多彩さ、異質さは随一でしょう』

 

「……すっげぇな。あの、副総督。他にもヴリトラ神器があるなら、同じことをして量産できるんじゃ?」

 

『可能性はゼロに近いでしょう。もともと神器をあとから付加するのは危険な行為でして、下手をすると死に至ります。しかし、今回のケースはあなたと匙くんがお友達で、お互い通じ合えたからこそ、ヴリトラの意識は奇跡的に復活できたのです。同じ経緯で同じ現象が起こるかどうかは難しいところでしょうね。ちなみに新たな力を付加してもうちに眠る「悪魔の駒」は変動していません。基本ベースは「黒い龍脈」ですからね。彼自身の生身のステータスも特に変化しないでしょう』

 

 匙限定か。ヴリトラパワー、また厄介な力を手に入れやがって!

 

『それはともかく、あの力はいまの匙くんでは長続きしませんよ。敵が封殺されている間に早く倒してしまいなさい』

 

「了解!」

 

 よっしゃ! だったら決着つけようせ!

 

 俺はミョルニルを手にして巨大なハンマーに変えた! ――っ! 重い! やっぱり軽くなってねぇ……!

 

 だけど、関係ねえっ! このまま思いっきり、ぶっ飛ばしてやる!

 

 俺がブーストを噴かせてロキに突っ込もうとしたそのとき。ロキが体に巻きつく黒い炎に逆らって槍先を匙に向けた。まさか――。

 

「目障りなドラゴンめ! 先に滅ぶがいい!」

 

 ロキがそう叫ぶと槍から神々しくも黒々した神殺しのオーラが放たれ、ロキの体に巻きついていた匙の黒い炎が霧散した。……ヤバい、ヤバいぞ! あの一撃はヤバいっ!

 

 黒い炎の龍となっている匙も避けるどころか警戒する様子も見せない! 暴走してるからか! あんなのまともに食らったらマジで死ぬぞ!

 

「匙っ、避けろぉぉぉっ!」

 

 咄嗟に俺がそう叫ぶが、匙は相変わらず避ける様子もなく、ロキも槍を投擲した。

 

 周りがスローモーションになり、槍が匙の体目掛けて飛んでいく様子が見えた。俺は匙を助けようとブーストを噴かせているが槍にまったく追いつけない。

 

 このままじゃ、本当に匙が……!

 

 俺が諦めかけたそのとき。銀色の閃光が俺の横を、まるで時間軸が違うかのように追い抜き、槍の前で止まった。

 

 ズォオオンッ!

 

 銀色の閃光と槍との衝突で起こった衝撃と爆音で、周囲の時間が元に戻る。

 

 さっき駆け抜けていったのは、

 

「セルベリアさん!?」

 

 銀髪に赤い瞳。長身に特大サイズのおっぱいは見間違わない! セルベリアさんが匙と槍との間に入って、ロキの槍を丸い盾で受け止めてくれている!

 

 ロキの槍から噴き出るオーラと、セルベリアさんが体から放っている蒼いオーラが衝突し、均衡し、槍と盾が火花とオーラを弾けさせる。

 

 その様子にロキが驚いたような、感心したような様子で叫ぶ。

 

「まさかミストルティンを受け止めるとは! もはや貴殿は戦乙女の領域を超えているな!」

 

「ふふ、力だけでいうとそうなのでしょうが、私は永遠に神城エイジさまの戦乙女です!」

 

 セルベリアさんは冷笑を浮べてそう宣言する! 言葉にもまったく迷いのようなものがない! 完全にエイジの虜になってやがる……! この爆乳!

 

 ぞっ……。

 

 一瞬、背筋に冷たいものを感じた! ああっ、見ればセルベリアさんが真っ赤な瞳でこちらを汚物でも見るかのような視線で見下していらっしゃる! ま、まさかいつも爆乳見てたのがバレて……、いやでもあのサイズのおっぱいは滅多に見れないし、視線がいっても仕方がな――。

 

 ぞっ……!

 

 再び向けられるトンでもない殺気……。

 

 す、すみません……。

 

 俺が後ろに下がると、セルベリアさんはふんっと不機嫌そうにロキに向き直り、体から膨大な量の蒼いオーラを噴き出させて盾を破ろうとしていたロキの槍を弾いた。

 

 弾かれた槍はロキの元へ戻り、ロキは槍を構え直した。

 

 睨み合うロキとセルベリアさんに、もう1人の戦乙女のロスヴァイセさんが興奮した面持ちで声をあげた。

 

「さっすが先輩です! まさかミストルティンを防ぐだけじゃなく、弾くなんて! 私もオーディンさまの護衛として負けていられません!」

 

 と、魔法陣を空中に展開させて匙の黒い炎に捕まっている量産型ミドガルズオルムたちに魔術攻撃を縦横無尽にぶっ放した!

 

 ドオオオオオオオオンッ!

 

 明らかにいままでよりも多大なダメージをミドガルズオルムが食らってる!

 

「ぼ、僕も! 祐斗先輩の分までが、がんばります!」

 

 ロスヴァイセさんの攻撃に溜まらず、黒い炎から抜け出そうとする量産型ミドガルズオルムに、フェンリル対応組みのギャスパーも加わり、神器である『停止世界の魔眼』で動きを停める!

 

「私もミカエルさまのエースとして手柄をあげさせてもらうわ!」

 

 動きを停めたミドガルズオルムに、止めとばかりに切りかかるイリナ。おおっ! ちゃんとギャスパーの時間停止が効いてる! そっか! 匙の力でパワーを吸われているから、少しずつ弱体化しているんだ!

 

 ――って、ロキを拘束していた黒い炎が解けたままじゃないか! あの鎧と武器も厄介だし、また黒い炎で拘束してもらわないと!

 

『匙、匙聞えるか?』

 

 俺は神器を通して、黒い炎のドラゴンと化している匙の意識へ接触を試みた。

 

『…………うぅ』

 

 おっ! 反応あり!

 

『匙。俺だ、イッセーだ』

 

『ひょ、兵藤か……? 俺、いまどうなっている……? なんだか、とてつもなく熱くて体が燃え尽きてしまいそうなんだ……』

 

『意識をしっかり保てよ! せっかく格好良く登場したんだから、最後の最後まで仕事をしてからぶっ倒れてくれ!』

 

『……どうすればいい?』

 

『周りに何か見えるか?』

 

『……黒い炎のなかに、細長くて大きなドラゴンが見える……』

 

『そいつらをそのまま繋ぎ止めていてくれ。そう念じればいいと思う。とにかく、強く思え! あと、槍を持った人型は見えないか?』

 

『…………見えた。……黒い鎧を着た槍を持った奴と、蒼いオーラを放ってる槍の……、爆乳』

 

『…………よし! その爆乳は味方だ! 黒い鎧のほうが敵の親玉なんだ! また黒い炎を出してなんとか拘束してくれないか?』

 

『……わかった。やってみる』

 

 黒い炎のドラゴンの体がゆっくりと揺らめき、ロキへ向って黒い炎の一部が放たれた。おおっ! やればできるじゃねぇか!

 

「ふっ、甘いぞ!」

 

 ロキは黒い炎を簡単にかわす。くっ、そりゃあ危険度がわかってんだから避けるよな!

 

「そろそろ私も加わろうか!」

 

 黒い炎を避けたロキに向って、オーラを全身から噴き出されているゼノヴィアが攻撃を仕掛けた!

 

「ゼノヴィアか!」

 

「今度こそ倒させてもらう!」

 

 ゼノヴィアの2振り大剣が×字に振られる! ロキはそれを槍を盾にして防ぎながら後方へ飛び、衝撃を流す!

 

「ぬうぅぅぅっ! ――っ!」

 

「私たちも忘れたらダメにゃ♪」

 

「……鎧が強固でも内側からなら!」

 

 後方へ飛んだロキに追撃するよう黒いオーラを纏った黒歌さんと、黒歌さん同様白いオーラを纏った小猫ちゃんが拳 低(しょうてい)を打ち込む!

 

 今度は反応できなかったロキは背中に黒歌さんと小猫ちゃんの拳低をまともに食らい、地面を転げながらふっ飛んだ!

 

「ぬぐぅぅっ! ごはっ! 鎧を通してダメージが……! これが仙術か!」

 

 ロキは血反吐を吐きながらも立ち上がる。すげぇ! 内側に直接ダメージを与える仙術か! それじゃあ鎧も意味がないよな!

 

「ぬぅ! あの忌々しい炎まで……!」

 

 かなりの大ダメージを負ったであろうロキに追い討ちをかけるように、匙の黒い炎が巻きついた! よし、あとは止めだな!

 

 俺が再びミョルミルを持って背中のブーストを噴かせ、ロキに止めを刺そうとしていると、部長が弓を構えていた。

 

 我らが部長が凛々しくも弓を構えてトンでもないほどのオーラを矢の形に圧縮しながらロキに狙いをつけていたのだ。

 

 こ、これは、いま行けば巻き込まれるよね……?

 

 俺がそう思って躊躇っていると、部長の後ろに朱乃さんが立っていることに気づいた。朱乃さんが部長の肩を叩いて、ニッコリ笑顔で言う。

 

「部長、最後は私にやらせていただけませんか?」

 

「…………まったく、……わかったわ。――好きにしなさい」

 

 朱乃さんの言葉に最初は部長も驚きの表情を浮かべて困惑していたが、ふぅっとため息を吐くと、弓に溜めていた魔力を霧散させた。

 

「ありがとうございます」

 

 朱乃さんは部長に軽く頭を下げ、前へ出る。

 

 ズオオオンッ!

 

 部長と朱乃さんとのやり取りの間に、体に溜めたオーラを放ってロキが匙のオーラを散らした。荒い息を吐きながら朱乃さんを睨む。

 

「はぁはぁ……、貴様が相手か……ッ!」

 

「ええ、私が相手になりますわ」

 

 ロキの視線を正面から受け止め、朱乃さんは手元の空間を歪めて手を突っ込んだ。

 

「朱乃! 深手を負ってるとはいえロキの相手は――」

 

「心配ありませんわ」

 

 バラキエルさんが心配した面持ちでそう叫ぶが、朱乃さんは一言で切り捨てた。……うーん、前は反応も返さなかったし、返したとしても口調が刺々しかったけど、いまはそういう感じはしない。お母さんが生き返ったから少しは関係がよくなったのか?

 

 ズゥゥンッ。

 

 朱乃さんが空間から取り出したのは無数の刃が付けられたムチだった。そのムチは持ち手の部分だけでなく、刃にも黄金で装飾が施されていた。複雑な紋様から魔術的なものなんだろう。

 

 バチンッ!

 

 朱乃さんは地面を叩くと、バチィイッ! と雷光が爆せた!

 

 な、なんだ!? あのムチ! バラキエルさんの出した特大の雷光よりも力を感じる!

 

「雷光……まさかバラキエルの娘か……」

 

 ロキはそうつぶやきながら槍を構えた。

 

「…………」

 

 朱乃さんは無言で体から雷光を迸らせながら戦闘態勢を取る。や、やっぱり関係はまだ悪いのか? 俺にはよくわからないな……。

 

「私も彼の代わりにがんばると約束いたしましたから。――あなたを倒させていただきますわ」

 

「ふんっ! だったらくるがいい! 返り討ちにしてやろう!」

 

 ロキは槍を朱乃さんへ向けてそう言い放つと、空中に無数の魔法陣を展開させ始めた。

 

 あれは俺とヴァーリに向けて撃ったのと同じ、追尾型の魔力の球を出した魔法陣! しかもかなりの魔力が込められている!

 

 やっぱり全員で一気に倒したほうがいいんじゃないか!? 俺は『赤龍帝の鎧』があるから魔力の球を防げるけど、鎧を着てないメンバーは……!

 

 だが、俺のそんな心配と裏腹に朱乃さんはニッコリ笑顔を浮かべ続け、部長もまったく動揺している様子などもなかった。

 

「いつまでもその笑みが続くとは思うな!」

 

 ロキが魔法陣から無数の魔力の球を出現させ、それを朱乃さん目掛けて放つ。

 

 無数の魔力の球が朱乃さんへ迫るが、朱乃さんは縦横無尽にムチを振り回し、ロキの放つ魔力の球を全て打ち落とした! す、すげえ! さっすが我らが副部長!

 

「くっ、やるな! だがミストルティンまでは防げまい!」

 

 ロキが槍を構えて朱乃さんに突っ込んでくる!

 

「確かに。私にはその槍は防げません。――ですが、槍以外ならいくらでも防ぐ手段を持ってますわよ」

 

「なにを――っ!」

 

 朱乃さんが指をパチンと鳴らすと、槍を構えて迫っていたロキの前へ何かが飛来した!

 

「ちぃっ!」

 

 ズガガガッ!

 

 ロキが慌てて回避行動をとる。その瞬間ロキの進行方向だった先に何かが刺さっていた。あ、あれはシトリー戦や元魔王の血族との戦いで見せた雷光の槍!

 

 どこから落ちて――。

 

 と、疑問に思って空を見上げると、俺たちをもすっぽりと覆うように無数の魔法陣が展開されていた!

 

「い、いつの間に!?」

 

 ロキも空を見上げて驚愕していた! ま、まさかこれだけの魔法陣を一瞬で?

 

 疑問に答えるように朱乃さんが言う。

 

「本当はフェンリル用に少しずつ用意していたものだったんですが、使う必要もなくフェンリルが倒されてしまいましたから。このまま消すの勿体無かったので、あなたを倒すために、数と質を高めて改めてあなた用に仕掛けさせてもらいましたの。――幸いにも私は司令塔で魔力の消費もなにもほとんどありませんでしたし、仕掛ける時間もたっぷりありましたので」

 

 …………ロキを倒すためにじっくり準備していたんですね……。だったらこの空を覆うような魔法陣にも納得です……。

 

「ぐう……」

 

 ロキは喉を鳴らしながら憎々しげに朱乃さんを睨む。まあ、ロキからしたら他と戦っている間に罠をそこら中に仕掛けられたもんだからなぁ。

 

 朱乃さんがムチで地面をバチィイッ! と叩いて戦闘態勢をとった。

 

「待たせている方がいるので、さっそく終わらせていただきますわ」

 

「受けてたつ。――くるがいい!」

 

 ロキが槍を再び構えなおした瞬間、朱乃さんの姿が消えた! どこへ行ったか慌てて視線を向けると高速でロキへ突っ込んでいた! は、早ええっ! 初速がトンでもなかった!

 

 ロキも一瞬朱乃さんを見失ったようだったが、すぐに朱乃さんの姿を捉え、槍先を向けようとするが――。

 

 ガガッ!

 

 空中の魔法陣から飛来する雷光の槍が狙いを定める邪魔をする!

 

「むうっ!」

 

 ロキが飛来する雷光の槍に気をとられている隙に再び朱乃さんの姿が消える! 朱乃さんを見失ったロキは周囲に視線を向けると、気配を察したのか突然後ろを向いて槍を突き出した!

 

「そこか!」

 

 ロキの声と共に槍が突き出されるが、ロキの槍の先にあった物は飛来してくる数本の雷光の槍だった。

 

「なに!?」

 

 ロキが驚愕の表情を浮かべるが攻撃を止めることはできないようだ。突き出されたロキの槍は飛来する数本の雷光の槍の内1本を消し去るだけで、他の数本の雷光の槍は防げずにその身に受けた。

 

 バチバチバチバチバチィイイッ!

 

 ロキの体を中心に雷光が爆発する!

 

 す、すげえ! 明らかに堕天使幹部であるバラキエルさんが放つ雷光の威力を超えてる!

 

 辺り一帯を光らせていた雷光が止んだあとには、かなりのダメージを負ったであろうロキが片膝をついていた! 漆黒の鎧だからわかり難いが、鎧も焦げて無数のヒビが見て取れた。

 

「ぐ、ぐうぅぅっ……」

 

 ロキはよろよろと立ち上がりながら朱乃さんの姿を探す。

 

「ここですわよ」

 

「――っ!」

 

 ダメージを負いながらも朱乃さんを警戒して周囲を探すロキの後ろに立って、わざと声に出して自分の居場所をバラした。あ、朱乃さん!? 止めを刺す絶好の機会だったじゃな――、あ、この眼って――。

 

「これで終わり、ではないですよね? ……まだ私の『雷光鞭』も見せていないので、もう少しがんばっていただきたいのですが」

 

 や、やっぱり……初めてはぐれ悪魔との戦闘を見せてもらったときのド、ドSな眼だ!

 

「ふ、ふざけるなぁあああああああっ!」

 

 ロキが舐められたと思ったのか青筋を浮べながら槍を突き出そうとするが――。

 

「あらあら、まだ元気そうで安心しましたわ」

 

 朱乃さんがムチを振るい、そのムチを巧みに操ってロキの槍に巻きつけて停めた!

 

「な、なんだと!? ――うっ、ぐぁあああああっ!」

 

 驚愕するロキをもっと驚かせるように槍に巻きついたムチが雷光を放つ! 雷光と共にロキの悲鳴が周囲に響いた。

 

 溜まらずロキは雷光を体に伝わせているだろう槍から手を離して朱乃さんから距離を取る。朱乃さんはムチを払って槍を明後日の方向へ飛ばすと、ニッコリと笑顔を浮べて自慢するようにつぶやく。

 

「すごいでしょ? このムチは振るうことによって、刃に刻まれた装飾が共鳴し合って私の雷光の力を高めてくれるんですのよ。だから雷光の槍よりも高密度で威力のある雷光を放つこともできますの。――ふふっ、他にも色々な機能を秘めているんですけど、いまはこれぐらいかしらね」

 

 そうつぶやいた朱乃さんはロキへ向ってムチを横一閃に振う。ロキは避けようとするが、思いのほかダメージが深いのか完全には逃げられず、腕にムチの一撃を食らい、さらに腕を打った瞬間に捕まえるように巻きつけられた。

 

「ぐぬぅっ」

 

 今度は雷光が爆発することはなかったが、ムチにつけられた無数の刃が輝きながらギリギリと鎧越しにロキの腕を締め上げた。

 

 朱乃さんがムチを少し引くとロキの顔が苦痛に歪み腕から血が流れ落ちた。ロキの鎧を貫通して体に直接ダメージを与えているのか!?

 

「どうですか? 雷光を刃に溜めることで切れ味が上がって、刃を伝って内側にも雷光を浴びせることができるようになってるんですよ」

 

 微笑みながらそう説明してくる朱乃さんをロキは睨みながら、反撃しようと片手にものすごい魔力を収束していた。

 

「これでも――」

 

 ロキが高出力の魔力を放とうとした瞬間、再び朱乃さんが動く!

 

「させませんわ」

 

「あがああぁあああっ!」

 

 朱乃さんのムチから高出力の雷光が放たれ、集中力を失ったロキは収束していた魔力を霧散させる!

 

 ……ド、ドS度もあがってませんか?

 

「さあ、仕上げですわね」

 

 朱乃さんはそうつぶやくと一旦ロキの腕からムチを外した。外したムチに雷光を込めて再びロキへ振るう。

 

 今度はロキも避けることもできずにムチを体に食らう。

 

 体に完全に巻きついたことを確認すると朱乃さんは笑みを浮かべてムチを引き、無数の刃でロキの鎧に傷をつけた。って!? あれ? ロキの体に雷光できたロープみたいなのが残ってる!?

 

「これも『雷光鞭』の能力ですわ。私の意のままに雷光の姿と性質を変化させることができますの。……今回の変質された雷光はロープですわ。拘束しつつ雷光でダメージを与える。……本当に、なんて私向きの武器なんでしょう」

 

 うっとりと笑顔を浮べる朱乃さんにロキは恐怖を感じるように顔を強張らせた。

 

「あ、朱乃……?」

 

 バラキエルさんも娘のドSぶりに引いているようだが、若干うれしそう? 娘が強くなったことがうれしいのかな?

 

「イッセーくん」

 

「――っ! は、はい!」

 

 突然朱乃さんに話しかけられた。な、なんだろう? あのドSぶりを見せられたあとではいやでも警戒してしまう。

 

「ミョルニルを貸していただけませんか?」

 

「へ? あ、は、はいっ」

 

 俺は朱乃さんの指示通り、ミョルニルを元のサイズに戻してから渡す。

 

「あ、朱乃さん! そのミョルニルは純粋な心がないと扱えないそうです!」

 

 一応注意するためにそう言った俺に、

 

「わかっていますわ。力強く、純粋な心がなければ扱えないけど、純粋な心があれば羽のように軽く、雷がでるのでしょう。――その条件なら私にも扱えるでしょう」

 

 朱乃さんは自信たっぷりにそう言い放つ。…………え? 純粋?

 

 ぞっ……。

 

 ――っ!? なっ、なんだか寒気が……。

 

「さあ、止めといきましょうか」

 

 朱乃さんがミョルニルに力を込める。するとミョルニルがどんどん大きくなり――。

 

 ズンッ!

 

 ……地面にめり込んだ。

 

 や、やっぱり純粋じゃないから――。

 

「あらあら? どうしたのかしらね?」

 

 朱乃さんが微笑みながら雷光を迸らせ、ミョルニルの柄の部分を掴んだ。

 

 バチバチッ!

 

 朱乃さんの雷光に反撃するようにミョルニルも雷を放つが、まったく気にした様子もなく雷光を放ち続ける。

 

 その様子を見て拘束されているロキが鼻を鳴らして嗤う。

 

「無駄だ。その槌は力強く、純粋な心の持ち主にしか扱えないと言っているだろう。――貴様のような邪悪な者にはあつかえな――」

 

「少し黙っていてくれますか?」

 

「ぬぐっ!」

 

  ロキを拘束している雷光のロープが締まり、ロキを黙らせた! あの状況でよく言う気になったな……。

 

 ロキを黙らせた朱乃さんはミョルニルの柄を握って静かにつぶやく!

 

「いい加減にしないと溶かしてしまいますわよ? 使い手にも攻撃する不良品のようですし……。そうですわね、溶かしたあとはどこかの公衆トイレの便器にでも変えて別の方法で役立ってもらいましょうか」

 

 ほ、本気の眼だ……。

 

 心なしかミョルニルが戸惑ってるように見える……。

 

「さあ、私に従いなさい」

 

 …………。

 

 ズウン……。

 

 ……ミョルニルが持ち上がった。

 

「な、なん、だと!?」

 

 ものすごい力技に締め上げられているのにも関わらずロキが声を漏らす。……うん、俺たちも驚いてる……っていうか、引いてるよ。最後のミドガルズオルムを倒してるのに誰も、何も言おうとしないし、最近急成長しているギャスパーも縮こまって震えちゃってる……。

 

「本当に羽のように軽いわね。さてと、お待たせしました。さっそく止めを刺させていただきますわ」

 

 朱乃さんはそういうとミョルニルを振り上げ、雷光を体に纏いながらミョルニルをロキ目掛けて振り下ろした。

 

 ドンッ!

 

 ミョルニルが吸い込まれるようにロキに打ち込まれた!

 

「仕上げですわ!」

 

 朱乃さんの言葉に合わせてミョルニルからとんでもない量の雷が発生するっ!

 

 ドガガガガガガガガガガガガガガガガガガガッ!

 

 特大の一撃が、ロキを呑みこんだ。

 

 ロキの体が――大きく煙をあげた。その姿はすでに崩れていた。

 

 鎧も砕かれ文字通りボッロボロになったロキが地面にできた巨大なクレーターの中心に沈んでいた。

 

「……まさか……聖書に記されし神の、禁手という現象や……神滅具の力ではなく、次代の存在に神が倒されるとは……。……もはや世界の行く末など誰もわからないか……」

 

 それだけ言い残して、完全に気を失ったようだ。

 

 ……これで決着か。

 




 イッセー活躍してねぇ!
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