※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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 あくまで前編です。


第67話 グレモリー家の試練 前編

<エイジ>

 

 

 修学旅行を前にしたある日の休日、朝からリアスの表情が険しかった。

 

「大変だわ」

 

 いつになくリアスは慌てていた。皆がソファや床に座ってくつろいでいるリビングで1人立ってあっちに行ったりこっちに行ったりとしている。

 

「リアス、どうしたんだ?」

 

 家では最近完全に敬語なしで話すようになった俺が訊ねてみる。

 

 本当に今日のリアスは朝から少しおかしい。突然、レイナーレを手伝うといって家の掃除を念入りにしたり、身だしなみのチェックも10分おきぐらいにやったりと、そわそわしている。

 

 悪神ロキを撃退した俺たち、朱璃さんも早急にバラキエルが堕天使側の受け入れ態勢を整えて我が家から出て行った。

 

 オーディンの一件がすべてが終わった俺たち2年生は間もなく京都へ修学旅行だ。

 

 そろそろ2年生グループ……正確にはゼノたんとイリナ、アーシアの教会トリオが旅行に向けた準備をするため、最寄のデパートへ買い出しに行く予定で、すでにアーシアは家でゼノヴィアたちと女性誌を広げていたりする。そして俺も、イッセーと木場と女子とは別のデパートで買い物する予定なんだが、リアスが気になる。

 

 あ、何故ゼノたんたちと違うデパートに行くかというと、修学旅行のお楽しみ&女子同士の情報交換というか交流会をするとか。それに精神病棟からやっと退院した木場を気遣ってのことだ。なんでも女性が苦手になったそうだ。まあ、あのあとじゃ仕方ないよな。BLな展開へ進まないように祈っとく。

 

 俺の問いに、真剣な面持ちでリアスが答える。

 

「お義姉(ねえ)さまが来るのよ」

 

「おねえさま? ああ、グレイフィアさんのことか」

 

 俺が言うと、リアスは静かにうなずいた。

 

 グレイフィア。リアスの屋敷のメイドで、上級悪魔の名家グレモリー家のスケジュールやら経済事情など、あらゆるものに深く関わっている。

 

 そして、リアスの兄――魔王の眷属悪魔にして、妻でもある。つまり、家族構成的に見るとリアスの義理の姉に当たる。

 

 けど、リアスはいつもグレイフィアを「グレイフィア」と呼び捨てにしてなかったか? まあ、正体を露見させるまでは俺も堂々と呼び捨てしていたけどさ。なんで今日は「お義姉さま」と呼んでいるんだ?

 

 疑問に思う俺に朱乃が声をかけてくれる。家では朱乃と呼んでいるのに、いつまでも心のなかでさん付けは失礼だからな。これから心のなかでも朱乃と呼び捨てにしよう。

 

「今日、グレイフィアさまはオフをいただいたそうですわ」

 

「オフって、ああ、今日はグレモリー家のメイドじゃないってことか」

 

「ええ。普段はグレモリー家に仕えるメイド。グレモリー家の娘であるリアスと主従の関係にあります。けれど、オフとなれば話は別になるようなのよ。そのときだけ、立場的にリアスの義姉となるのです」

 

「……部長はお義姉さんになったときのグレイフィアさんが怖いんです。……チェックが厳しいらしくて」

 

 と、小猫ちゃんが言う。なるほどねぇ。

 

「部長にも苦手な人がいるんだな」

 

 うんうんうなずくゼノヴィア。まあ、リアスも名家のグレモリー家の次期当主とはいえ、ひとりの女の子だからな。

 

 それで、メイドではないときのグレイフィアはお姉さんモードになるのか? リアスの緊張ぶりからすると、何か起こりそうな予感がするな。

 

「それでオフの日に訪問ってわけか」

 

 俺の言葉に朱乃さんは小さく笑いながら答える。

 

「ええ、何やら義姉としてリアスに話したいことがあるそうなの」

 

 俺と朱乃が会話している横でリアスはもう一度部屋の様子をチェックしていた。万能メイドに成長したレイナーレが毎日綺麗にしてくれているから、これ以上片付けても意味がないと思うよ。

 

「お、お茶の容易もしておかないといけないわ」

 

「お客さま用の茶葉はきちんと用意しています」

 

「そ、そう、ありがとう。レイナーレ」

 

「そうだ、エイジ、あなたもきちんと……しているわね」

 

「まあ、これから買い物に行く予定だしね」

 

 身だしなみは大丈夫。

 

 リアスが再びそわそわし始めたそのときだった。

 

 ピンポーン。

 

 玄関のチャイムが鳴る。イッセーと木場との買い物は現地集合なので2人ではない。まあ、訪問客はリアスの様子から、だいたい想像つくけど。

 

 リアスは急いでリビングから飛び出して、玄関へと向っていく。本来来客の対応をするメイドのレイナーレもその行動にため息を吐き、俺たちも顔を見合わせてうしろからついていった。

 

 開かれる玄関から姿を現したのは――メイド服ではない貴族のような衣装に身を包んだ銀髪の美しい女性だった。うん、服装から髪型までメイドのときと違う、新鮮なグレイフィアだな。

 

 普段は転移魔法陣で行き来しているグレイフィアが玄関から来たってことは、リアスの義姉として正式に訪問する儀礼のようなものなんだろうな。

 

 玄関からは外に停められている豪華なリムジンが見えた。本当に悪魔の財政は潤ってるようなぁ。セルベリアを引きつれて、日用品を買うために100均にわくわくしながら向った金欠ヴァルキリーとの金銭格差が悲しい……。

 

 グレイフィアは俺たちに視線を向けたあと、

 

「ごきげんよう、皆さん」

 

 と、気品の溢れる微笑を浮べつつ、丁寧なあいさつをしてくれた。次にグレイフィアの視線がリアスに移る。

 

 朗らかに微笑みながらグレイフィアがリアスにあいさつをした。

 

「ごきげんよう、リアス」

 

「ごきげんよう、お義姉さま」

 

 リアスも朗らかな笑みを返すが、どこか緊張の色が見て取れる。

 

「お久しゅうございますな、姫さま」

 

 第3者からの突然の声。声のしたほうへ視線を向けると――顔は東洋のドラゴンで、全身を紅い鱗に覆われている、胴体は鹿のような馬のような姿をした2メートルほどの生き物がいた。

 

 俺の視線に気づいたのか、そいつは俺に頭を下げてきた。

 

「これは黒い捕食者殿。お初にお眼にかかる。私はサーゼクスさまにお仕える『兵士』――炎駒(えんく)と申す者です。以後、お見知りおきを」

 

「はい、こちらこそよろしくお願いします」

 

 と、俺もあいさつを返す。どこか麒麟に似ているな。

 

「エイジ、彼は炎駒。麒麟と呼ばれる伝説上の生き物で、お兄さまの眷属なの。久しぶりね。元気そうで何よりだわ」

 

 リアスも炎駒という麒麟の頬を手で撫ぜる。

 

 でも、麒麟って――、

 

「麒麟ってコレじゃないのか?」

 

『え?』

 

 疑問符を浮べる皆の前で、俺は新しく目覚めたサキュバスの能力、性行為したい種族に体を変化さることができ、さらに性交することで相手の因子を取り込み、その種族に変身できるという能力を使用して麒麟に変身した。

 

「そ、その姿はまさか――」

 

 炎駒という麒麟が驚いている。いまの俺の姿は炎駒とほぼ同サイズの、ユニコーンのような白く輝く一角の角を持った馬の姿で、蒼い鱗に覆われ、白いタテガミと蒼白い雷を纏った姿だからな。驚くのもあたり前か。

 

「麒麟といったら俺としてはこっちだと思ったんだけど……」

 

「そういや昔、世界中を回ってたときに会ってるにゃ」

 

 と、黒歌も続けてそう言う。

 

「あ、え? 温かいし、このさわり心地……、ただ姿を変えただけじゃないの?」

 

 そんななかリアスがさわさわとタテガミを触りながらつぶやいてきた。そういや言っていなかったなと、新しい能力に最近目覚めたことを話す。……話し終わると……。

 

「黒い捕食者殿!」

 

 炎駒が鼻息荒く、顔を近づけてきた。

 

「な、なんだ?」

 

「是非とも私にその麒麟とどこで会ったか教えてもらえませぬか!?」

 

「…………は?」

 

「……炎駒」

 

 戸惑う俺と、炎駒のいきなりの行動を咎めるようにグレイフィアが名前を呼ぶが、炎駒は止まらない。

 

「その麒麟は、私とは違う種類ですが確かに麒麟です!  しかも蒼白い雷を操る白銀に輝くそのタテガミを有する麒麟は、麒麟のなかでも最上位の存在なんです! どこにいるのかわからない麒麟のなかでも幻の一族に、まさか黒い捕食者殿が出会っているとは! も、もし良ければどこに住んでいるのかを私に――」

 

「炎駒」

 

 詰め寄る炎駒に、グレイフィアから絶対零度の視線と共に怒りを孕んだ声音が飛んだ。

 

「で、ですが、グレイフィアさまぁぁぁ……」

 

「はぁ……、魔王の眷属とあろう者が情けない声を出さないでください。あなたは一応私の護衛として来てもいるんですから」

 

 グレイフィアは頭に手を置いてため息を吐く。俺も変身を解いて元の姿に戻る。途中炎駒が残念そうにこちらを見ていたが、まあ、すまん。これ以上玄関で立ち往生させるのもな。

 

「うう……、わかりました。グレイフィアさまを送り届けたことですし、私はこれにて持ち場に戻りまする……」

 

「ええ。ここまでありがとうございました。炎駒。私1人でもよかったのですが……」

 

「何をおっしゃいます。我らが偉大なる『女王』にして、主の奥方であるグレイフィアさまが正式に訪問されるのに護衛もなしでは……。と申しましても私がいなくても問題がグレイフィアさまを襲うなどと露ほども思いも致しませぬが。それに黒い捕食者殿のお屋敷に少しでも幸運が訪れさせることができれば幸いだと思い、馳せ参じたところもあります。何よりも姫さまと若である黒い捕食者殿の顔を拝見できて良かった。……ついでに年頃の麒麟を紹介してもらえたらそれこそ幸運……いえ、なんでもありませぬ」

 

 本音が漏れてるぞーっと、言おうとしたらグレイフィアの視線が強制的に黙らせた。

 

「そういや、麒麟ってすごく縁起が良いされている種族だったな。もし家に訪れれば良いことが起こるとか言ってたっけ」

 

「ちなみに神聖な生き物である麒麟を眷属にできたのは悪魔のなかでもサーゼクスさまだけです。本来、悪魔と相容れな間柄ですもの。それを可能にさせた時点でサーゼクスさまは他の方々と一線を画していますわ。うふふ、それをいうとエイジも一線を画す存在ですわね」

 

 と、朱乃が麒麟の追加情報を教えてくれた。でも俺って悪魔になってから1、2回麒麟の隠れ里を訪れたけど、別に気にされなかった……あ、いや、長老とかには最初いい顔はされなかったけ。まあ、悪魔になってもまったく変わらなかったし、サキュバスになってからは呆れられてるからかもしれないけど……。

 

 そこに小声で朱乃が言う。

 

「悪魔側にいる麒麟は炎駒さまだけですから。はっきり言ってしまうと、結婚相手がいないんですの」

 

 相容れない存在で、普通の麒麟側から見れば悪魔になった変わり者とかいう扱いだろう。麒麟が他にいる話に食いついた理由がよくわかったよ。

 

「炎駒、少しの間だけでも寄っていけばいいのに」

 

 リアスがどこか寂しげに言うと、

 

「そうですか?」

 

 バッと食いつき、視線は俺にロックオンされていた。

 

「……炎駒」 

 

 そこに再びグレイフィアから発せられる含みのある声が響くと、

 

「ハハハ、そのお言葉だけで炎駒は十分ですぞ。私もサーゼクスさまの眷属として、役目の多い身。冥界に戻り、それを果たさねばなりませぬ。しかし、姫さま、昔のように私の背に乗り、共に野山を駆け巡りたいものですな。それではこれにて。皆々さまと再びお会いすることを願っておりまする」

 

 炎駒はそれだけ言い残すと――紅い霧となって、この場から消えた。消える瞬間に俺の方を見て『麒麟(嫁候補)の情報求む!』と言った気がしないでもない。……というか知らない。俺は、何も、見ていない。

 

「私が冥界にいた頃、炎駒は話し相手になってくれていたの。よく背に乗せてもらったわ」

 

 リアスは微笑みながら俺に言ってくれた。そっか、リアスの成長を見守ってきた者のひとりなんだな。……それに加えてずっと独り身でもあるようだけど。

 

 懐かしさにちょっとだけ浸るリアスにグレイフィアは咳払いをひとつ。リアスは再び緊張の面持ちとなった。それを確認し、グレイフィアは訊いてくる。

 

「さて、あいさつは手短に。それではお家あがらせてもらってもよろいしいのかしら?」

 

 こうして、俺の家にリアスの義姉としてのグレイフィアが訪問してきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そう、リアスが迷惑をかけていなくて安心したわ」

 

「はい、貴族らしい礼儀の正しいいい娘ですから、迷惑などはまったくありません」

 

「にゃはは、リアスが来てから騒がしくなったけど、こうして白音とも仲直りできたからにゃ」

 

「そうですね、家も賑やかになって楽しいですし」

 

「うん……、楽しい」

 

「まあ、家事も手伝ってくれますし……」

 

 グレイフィアをまじえてセルベリア、黒歌、ノエル、時雨、レイナーレの会話だ。あれ? キミら俺の保護者的な立場だったけ?

 

 グレイフィアが俺の家にいるメンバーとリビングで朗らかに談笑していた。

 

 俺の横に座るリアスの笑顔のままだが、どこかぎこちない。

 

 この家に住む者たちとアーシアを含め、一堂に会していた。セルベリアたち4人はもちらん、朱乃、ゼノヴィア、小猫ちゃん、イリナが同じく卓を囲んでいた。

 

「リアスは少々わがままですから、眷属の皆さんにご迷惑をおかけしているのではないかと心配だったんです」

 

「そんなことありませんわ。リアスはこの家にホームスティしている私たちの中心となって、みんなの面倒をよく見ているのですよ」

 

 朱乃がニッコリ笑顔でリアスをフォローする。確かにまとめ役してるよな。

 

「良いお友達、良い後輩に恵まれて、リアスは本当に幸せ者ね」

 

 グレイフィアが微笑む。その微笑は本当にうれしそうなものに見えたんだ。

 

 しかし、すぐに厳しい視線となり、リアスと俺を交互に見ていく。え? こ、婚約の話とか?

 

「あとは……殿方かしらね」

 

 発現後、他の皆もグレイフィアが言わんとしていることは理解している様子だったが、ほとんどノータッチのようだ。……ほ、ほんの少しだけ嫉妬してほしいなぁ~と、思ってしまったりしたが、まあ、悪魔って一夫多妻制だし、俺性欲の権化のインキュバスだからな。数人程度じゃ性欲過多でぶっ壊してしまうから、1人に絞るってまず無理だってことを身をもって知っているんだろう……。この前のアザゼルの道具によって起きてしまった乱痴騒ぎで。

 

 リアスは顔を真っ赤にさせながら、グレイフィアに言う。

 

「お、お義姉さま……、も、もうその話は進んでいるのですか?」

 

「ええ。かなりの速度で進んでいるわよ。外堀を埋めるためにエイジさんには最近忙しく働いてもらっていたんですから」

 

「え!? そうだったんですか!?」

 

「あら、言っていなかったかしら? グレモリー家と友好関係にある有力貴族の悪魔たちや人間界でも高い地位にいる相手と接待してもらっていたのよ」

 

「そんなこと一切知らされてません!」

 

 リアスは狼狽しながら大声怒鳴った。当然俺自身も訊かされてないよー。それに接待って肉奉仕じゃ……?

 

 グレイフィアはまったく気にした様子もなく紅茶を飲んで言う。

 

「オーディンさまの会談や悪神ロキ襲来で伝わっていなかったんでしょう。でもそのおかげで外堀は埋まったようだから、安心していいのよ」

 

「うっ、そ、それは……よかったです、けど……」

 

「リアスもわかっていると思いますが、悪魔はただでさえ、出生率が危ぶまれています。特に名家の血を絶やすわけにはいかないのです。いずれ、あなたにも次代の子の親になってもらいたい。お義父さまとお義母さま、そして私とあの人の願いでもあるのよ」

 

 グレイフィアは真剣な面持ちでリアスに言い聞かせていたが、空間を歪めてから取り出したものが雰囲気をぶち壊す。

 

 いや、見た目は普通の長方形のお菓子箱で、リアスに渡して来たんだけど、視線で開けるように言われてリアスが開けて中身を見て……時が停まったんだ。

 

「お、お義姉さま? こ、これはいったい……?」

 

 リアスが受け入れられないと頬をヒクつかせながら訊ねると、グレイフィアは少しだけ頬を赤らめて、

 

「でもね、いくら悪魔の出生率があやういといっても、あなたもまだ高校生なんだし妊娠するには早いでしょう? 魔術でも避妊できるようだけど、いつもつけていないと、なかに出すことがクセになってしまうでしょうから。……その、きちんと使いなさい」

 

 と、紅茶を飲んで話を一方的に切った。

 

「…………」

 

 固まる俺と部長の前にあるのは、お菓子箱のような箱に、仕切りまで使って綺麗に並べられた正方形の小さなビニール袋に入った円形の物……つまりコンドームだったのだ。

 

 しかも入っているのは数種類、数珠繋ぎになっていて少なくても100個以上入っているようだ。

 

 ……これはグレイフィアが買ったのだろうか? 用意させたんだろうか? どちらにしても赤面していたことは確実だな。

 

 リアスはそっと箱を閉じた。

 

 リビングにいる皆がリアクションも取れずに無言になるなか、その雰囲気をぶち壊そうと朱乃が動いた。

 

「そ、そういえばサーゼクスさまとグレイフィアさまのラブロマンスは悪魔の女性にとって、伝説でしたわね!」

 

「……ええ、そうね。当時の立場で言えば、私とあの人との恋愛は複雑でしたから」

 

「……劇にもなってます」

 

 と、小猫ちゃんが言う。そういやあったね。昔サーゼクスに自慢されながら観賞させられたっけ。

 

「と、とても興味あります!」

 

 アーシアも興味津々の様子だ。女性は恋愛話に目がないからなぁ。

 

 グレイフィアは気恥ずかしそうにしながらも「コホン」と咳払いひとつして、表情を改める。

 

「私たちの一件もあるものだから、どうしてもあなたに想いを乗せてしまうの。私はあなたにただ立派な上級悪魔のレディになって欲しいのよ。次期当主としての自覚を強く持ってもらいたいわ。そのためにもいろいろ改善しないといけない部分が多分にあるわね。自分のわがままとお金で解決できると思っている点。思い立ったらそう行動しすぎてしまう点。独占欲が強いところは緩和したようね。ハイスクールを卒業したら社交界にお呼ばれされる機会も格段に増えるわ。最近のあなた自身の活躍で周囲からわがまま娘という認識は薄れていってるし、例の特撮番組の影響で一般の悪魔たちには良いご支持をいただいて、エイジさんには上流階級の悪魔たちとのパイプとして有効に動いてもらいましたが……。とにかく、いまのうちにあなたのパートナーの勉強を進めないといけません。大学生になったら、早め早めに結婚の準備もしなくてはいけないのよ? 大学を卒業したらすぐに次期当主となり、夫を迎え入れないといけないのだから。そのときまでにお義父さまとの引継ぎはすべて、スムーズに終えてなければいけないわ。それはわかっているのよね? 私としてはいまのうちに身を固めておくのも良いと思うの。まあ、少し前まではレーティングゲームばかりにかまけて、女性らしさが失われていくように感じて心配していたから、最近女性らしくなったのは良かったわ。だけどあなたは――」

 

 ああ、グレイフィアがリアスにマシンガントークで説教を始めた……。

 

 リアスも言い返せずに顔を真っ赤にして、お説教を受けている。普段は見せない怒られてしゅんとしている姿もいいなぁ。

 

 てか、いまのグレイフィアはまるでメイド時に溜めていたものを吐きだすがごとく言葉が止まらない。

 

「まあまあ、グレイフィア。リアスはよくやっているではないか」

 

 第三者の声。やっと止めに来たか。リアスが第三者の登場に驚いて立ち上がった。

 

「お兄さま!」

 

 そう、冥界の魔王さまにしてリアスの兄であるサーゼクス・ルシファーだ。

 

 グレイフィアがマシンガントークをしている間に、玄関のチャイムを鳴らして入ってきたんだよな。グレイフィアとリアスの2人は気づかなかったみたいだが、レイナーレは気づいて玄関まで出迎えに行き、すでにサーゼクスの分の紅茶まで用意しているぞ。

 

「やあ、リアス。ごきげんよう。元気そうで何よりだ。皆も変わりないようだね」

 

 サーゼクスはにこやかに微笑む。

 

「お土産を持ってきている。私がプロデュースしたリアスの写真集だ。タイトルは『グレモリー家の次期当主にして私の自慢の妹 ~リーアたん成長編~』。幼少の頃から日本のハイスクールに入学するまでの成長記録なのだよ」

 

 などと、リアスの写真集を取り出して、俺たちに配る。てか、私の自慢の妹ってオープンなシスコンだな。でも、写真集は感謝だ。……うむ。中学生のリアス。この頃から他の女生徒よりも発育がいい。

 

 当のリアスは顔を真っ赤にしながら「見ないで! 見ちゃダメ!」って、みんなから本を回収していた。ふふふ、簡単に渡した俺の写真集は即席で複製したダミーだからな。本物はあとでたっぷり楽しませてもらうよ。

 

「サーゼクス、今日は4大魔王だけで話し合う重大な会議があったはずでしょう? まさか、抜け出してきたのかしら?」

 

 グレイフィアの眼が鋭く光る。サーゼクスは特に気にすることもなく、平然と答えた。

 

「ハハハ! 私はここから会議に参加しようと思ってね。私の映像だけリアルタイムであちらに転送すれば会議は成立――痛い痛い痛い。痛ひよ、グレイフィア」

 

 グレイフィアはサーゼクスの頬を思いっきり引っ張っていた。サーゼクスは笑顔だが、その眼にはうっすらと涙が浮んでいた。

 

「……あなたはどうして私がオフのときはやんちゃばかり……。やはり、今日、オフなんていただかなければ良かったかもしれないわ。いまからでもメイドに戻ろうかしら」

 

 グレイフィアは不機嫌な顔でぶつぶつと小声でつぶやいていた。マジで怒ってるな。

 

 カッ。

 

 テーブルの上に突然小さな魔法陣が光を発しながら3つ出現する。

 

 ザ……ザザザザ……。

 

 テーブルに立体映像らしきものが各魔法陣から映し出される。ノイズ混じりの映像が徐々に正常となっていく。すると、そこには3人分の顔が映りだした。

 

『サー……ゼ……クス……。……サーゼクスちゃん……聞こえるー……? おーい、サーゼクス……ちゃーん……』

 

 まだノイズが混じっているけど、この声と口調はよく知っている。

 

 ――と、完全に顔と声がハッキリとした。

 

『サーゼクスちゃん! もう、勝手に人間界に行っちゃうんだもん! 私だって、人間界に行きたいのにぃ!』

 

 やっぱり魔王少女のセラフォルー・レヴィアタン。通称セラたんだった。

 

「やあ、セラフォルー。すまない。いま、エイジの家に来ているのだよ」

 

 サーゼクスの説明を受けて、セラフォルーは視線をこちらへ向ける。

 

『あーっ、ブラたん! 待ってて! 私もいまそっちに!』

 

「落ち着いてくれ。これから会議なんだからいま移動されては困るよ」

 

『うー……』

 

 サーゼクスの言葉を訊いてセラフォルーはかわいらしく唸る。恨めしくサーゼクスを睨んだあと気を取り直してあいさつしてきた。

 

『サーゼクスちゃんにはあとから話を聞かせてもらうとして……。皆、久しぶりだね☆』

 

「ごきげんよう、セラフォルーさま」

 

 リアスがあいさつをしていた。

 

『はい、ごきげんよう、リアスちゃん。もう。サーゼクスちゃんったら、そちらに行くなら最初から言ってよねー! せっかく久しぶりにブラたんに会えたのにー! アジュカちゃんもファルビーも時間に厳格なサーゼクスちゃんが席にいないものだから、不思議がっていたんだから!』

 

 セラフォルーがぷんすか怒っていたが、相変わらず全然怖くないな。

むしろかいらしいし。

 

 てか、魔王同士の会議するって言ってたな。セラたんも現魔王の名をデフォルメした名を呼んでいたし、テーブルには残り2つの映像が映し出されてるしな。  

 

『サーゼクス。おまえが会議を抜け出して人間界に行くということは、何か事件が起きたか、おもしろいことが起こるかのどちらかだ。――後者なんだろう?』

 

 妖艶な顔つきの美少年が口元を妖しく笑ませて言う。

 

『……えー、めんどいことは止めてよね。僕、働きたくないぞ……』

 

 もう一方は頬杖つきながら眠たそうな顔をしている男性。

 

 ……どちらも見覚えがある。テーブルを囲う皆が固まっていることにサーゼクスが気づいた。

 

「エイジは顔見知りだろうが、他のみんなにはまだ紹介していなかったね。そちらの妖しげな雰囲気の男性がアジュア・ベルゼブブ・主に術式プログラムを始めとした技術開発の最高顧問だ」

 

 アジュカ・ベルゼブブの視線が俺に移る。

 

『妖しげな雰囲気なのは悪魔的でいいじゃないか。――と、皆さん初めまして。――そして、久しぶりだな。神城エイジ。最近おもしろいものを開発し始めたそうじゃないか。やっとキミも開発研究の喜びに目覚めたようだね』

 

「……まあ、物を創るのは楽しいと思ってるが、アジュカほど熱心ではないぞ」

 

『ふふふ、誰しも始めはそう言うのさ』

 

 妖しく微笑むアジュカ。『悪魔の駒』を作った張本人だが、……やっぱり少し苦手だ。主に何か含みある雰囲気が。

 

 さらにサーゼクスが紹介する。

 

「それで、そちらのめんどうくさそうにしているのがファルビウム・アスモデウス。主に軍事を統括している」

 

『……どうも。ファルビウムです』

 

 ……紹介終わりか。相変わらずのめんどうくさがりだな。

 

「「「「「ごきげんよう、ベルゼブブさま、アスモデウスさま」」」」」

 

 皆もあいさつをする。

 

『ちょっと、ファルビー! リアスちゃんの眷属の皆さんとブラたんたちがあいてなんだから、きちんとあいさつしないとダメなのよ!』

 

 ファルビウムはセラフォルーに怒られるが、まったく気にした様子もなく机にだれて、逆に働きすぎだと言い。さらにだれる。

 

 ……魔王少女セラフォルーが外交面、面倒くさいのNGの働きたくないファルビウムが軍事、マッドなアジュカ。そこに能天気なサーゼクス……。

 

 冥界のトップはゆるゆるだなぁ。能力は文句なしなんだろうけどさ。

 

 魔王たちのやり取りがひと段落すると、ベルゼブブが興味深そうにつぶやいた。

 

『それでサーゼクス。何が起こるんだ?』

 

 サーゼクスは微笑んだあと、リアスと俺を交互に見て、口を開く。

 

「実はリアスにグレモリー家の例の儀式をゆかりの遺跡で受けてもらおうと思っていてね。グレイフィアがここを訪れたのもそれが目的でもある」

 

「「「おおっ」」」

 

 サーゼクスの言葉を受けて、3人は笑みを見せる。どういうことだ?

 

 疑問に思うのは俺だけじゃなく、リアスもだった。肩眉を上げていた。

 

「お兄さま――いえ、ルシファーさま、それはどういうことなのでしょうか? 遺跡とは先祖代々重要としてきたあの場所でしょうか?」

 

 リアスの問いにサーゼクスはうなずく。

 

「うむ。グレモリーの者はある程度の歳に達するとの遺跡にて、通過儀礼をおこなうのだ。――親愛なる者と共に。意味はわかるね、リアス?」

 

 そのサーゼクスの一言を聞いて、リアスはいままでにないほど顔を赤らめていた。あー、つまり正式に婚約者になるための儀式みたいなものか?

 

『それはおもしろい。会議よりも重大だ』

 

『サーゼクスちゃんのとき以来ね! ――うふふ、これが成功してもしなくてもブラたんルートが開けるわね☆ 寝取りルートも不倫ルートもお妾さんルートも……ああ、本当に楽しみ☆』

 

『あー、それはおめでとー。先に祝っておくよ』

 

 アジュカにセラたん、ファルビウムも儀式について知っているようだ。てか、セラたん……、小声でも危ない発言は自重してね。皆人外で耳がいいんだからさ。

 

 グレイフィアは立ち上がり、リアスに改めて言う。

 

「そういうことなのです、リアス。それがお義父さまとお義母さまからの言付けなのよ。私たちを安心させて欲しいというのはあなたに儀式を行なってもらうことなのです。拒否は認めません。それぐらいの安堵をあなたは私たちに与えてくれないといけないわ。――うちの人が余計な方々まで引き寄せてしまったけれど。サーゼクス、わかっているよね? 帰ったら、再教育ですよ?」

 

 旦那のほっぺたを思いっきり引っ張って、冷たい視線をむけるグレイフィア。本当に仲いいよな。

 

「ハハハ、ほういうことらから、リーアたん。エイジとがんびゃぅってくれたまへ……。いたひいいたひよ、グレイフィア」

 

 サーゼクスはほっぺたをつねられながらも笑顔だけは絶やさない。けど、涙だけはぼろぼろ流されていた……。家庭内の力関係では嫁が最強のようだ。

 

 ていうか、会議はどうしたんだ?

 

「はぅぅぅぅ、エイジ……ど、どうしよう……」

 

 俺はかわいらしく困った声と顔を向けて倒れるようにもたれかかるリアスを慰め、一緒に買い物に行く予定だったイッセーと木場に「今日は行けなくなった」というメールを出した。

 

 それにしても立て続けに起こる事件といい、現魔王4人の来訪なんてどんどん日常とかけ離れていってるなぁ。

 

 ひと昔前は戦闘なんて賞金稼ぐときだけで、ほとんど自由気ままにひっそり暮らしていたのにさ。

 

 まっ、楽しいから別にいいけど。

 

「見てください! 細やかな生活用品は全部百均でそろえたんです! 日本には百円均一のお店があって、素晴らしい限りです! 安いって最高ですね!」

 

 百円でしこたま買い物してきたロスヴァイセと付き添いをしていたセルベリアが帰ってきたのは、魔王夫妻が帰ったあとのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そういうわけで、その日から数日が経った。

 

 俺とリアスは冥界グレモリー領のとある山岳地域に存在する遺跡に来ていた。今回の格好は冥界用の衣装ではなく、リアスと一緒で駒王学園の制服だ。

 

 セルベリアたちと眷属の皆は家で留守番。皆来たがってはいたけど、さすがにグレモリーの重要な場所らしいんで関係者以外踏み込むことすらできないようだ。

 

 ここに招かれるってことは、もう俺も正式なグレモリーの関係者ってことなんだろうな。

 

 眼前に岩肌だらけのなかに精巧な石造りで形作られた遺跡の大きな入り口がある。両脇に石柱が立ち並び、石柱と石柱の合間に歴代のグレモリー家の人たちを模した石像も建っていた。

 

 全体的に豪華な創りで破損箇所などもない。さすがはグレモリーが重要な場所というだけはあるな。

 

「ふぅ……、まさかもうこの試練を受けることになるなんて……」

 

 俺の隣で深いため息を吐くリアス。

 

「まあ、いいんじゃないですか。遅かれ早かれ行なわれていた儀式のようですし」

 

「そう……、そうね。いつかは受けなきゃいけないんだからね」

 

 リアスがそうつぶやいて前を向こうとしているときだった。

 

「とう!」

 

 謎の声。見上げればそこには――。

 

 空高くで何かがキラリと光った。そこから何者かが落下してくる。…………はぁ。俺と、隣で身構えるリアスの前に仮面と特撮衣装みたいなものを装着した者たちが降ってきた。

 

 全員で5人……。そいつらの正体に思い当たっている人数も5人。何やってるんだこいつら? つーか、なんて格好だよ……。まるで戦隊ヒーローのような格好じゃないかよ。しかも、赤、青、黄色、緑、ピンクでそれほどの特徴もない初代戦隊もの……。ちなみに赤、青、緑が男性。黄色とピンクが女性だ。

 

 そいつらは着地したあと、5人でポージングを決める。

 

 ドォォォォォオオオオオオンッ!

 

 5人のうしろに謎の派手な爆発とカラフルな煙が上がる。

 

「な、何者?」

 

 リアスは警戒しているようだったが、あれ? 気づいてないの? まあ、空から降ってきた不審人物以外の何者でもないけどさ。

 

 真ん中の赤い特撮衣装を着た奴がババッとポージングをしながら叫ぶ。

 

「ふはははははは! 我こそは謎の魔王――」

 

 スパン!

 

 黄色がハリセンで赤を殴った。……声ぐらい変えろよぉ!

 

「すまんすまん。コホン。改めて! 我らは魔王戦隊サタンレンジャー! 私はリーダーのサタンレッド!」

 

「同じくサタンブルー」

 

「めんどいけど、サタングリーン」

 

「レヴィアたん……じゃなくて、サタンピンクよ☆」

 

「……はぁ、えーと、サタンイエローです」

 

 …………。

 

 やっぱりおまえらか……。リアスも開いた口が塞がらない状態のようだ。

 

 それにしても魔王戦隊って……。自分から正体をバラしているようなものだよな。

 

 どう見てもレッドがサーゼクス、ブルーがアジュカ、グリーンがファルビウム、ピンクがセラフォルー……。自分でレヴィアたんって言ってたし、もうバレバレだよ。

 

 それに最後のイエローもサーゼクスとのやり取りやスタイルからグレイフィアだとわかる。気恥ずかしそうだし……、真面目なグレイフィアにとって一種の羞恥プレイだよな。

 

「どうだ? いいポーズだろう。昨夜、息子と一緒に練習したのだよ」

 

「何よ! 私だって、かわいいポーズをたくさん考えたんだから☆」

 

 ノリノリでポージングを決めていくサーゼクスとセラフォルー……。

 

 冥界って本当に平和だなぁ……。

 

 こいつらがトップなんだから、そりゃ、『乳龍帝おっぱいドラゴン』なんてふざけた番組が流行るわけだ。魔王になったら厳格な魔王になるだろうサイラオーグに、魔王になって欲しいと思ってきた……。

 

「……リアス、どうする?」

 

 と、リアスに訊ねてみる。サーゼクスがこれじゃさすがにリアスも……。

 

「な、何者かしら……。強大な魔力を感じるわ。魔王戦隊だなんて……魔王クラスが5人も集まったとでもいうの?」

 

 ――っ! まさか気づいてないのか!?

 

 リアス!? あれ、おまえの兄だぞ! 魔王戦隊って名前だし、声すら変えてないし、アホなポージングと魔力の波長で気づくだろ!? 修行でも魔力で相手を誰か判断できるように鍛えたよな!? まさかリアスの深層心理がこの見るからにアホな5人の正体に気づくことを拒絶しているのか?

 

 リアスの怪訝な表情を見て、サーゼクス――いや、サタンレッドが言う。……サーゼクスと呼びたくないから、いまはサタンレッドだ。

 

「我々はグレモリー家に雇われたのだ。この遺跡には3つの知れんがキミたちを待ち受けている。それを見事に2人の力で突破してもらいたい。大事なのはコンビネーションと個々の能力!」

 

 と、レッドが説明をしてくれる横でピンクがあらぬ方向を指さす。

 

「ハッ! 謎の飛行物体を発見!」

 

「なに! 皆、一斉攻撃だ! 『 滅殺 の 魔弾 (ルイン・ザ・エクスティンクト)

 

「『 覇軍 の 方程式 (カンカラー・フォーミュラ)』、業の式!」

 

「……とりゃー、アスモデウス的な攻撃ぃ」

 

「えーと、いちおう、イエローショットで」

 

 チュドォォォォォオオオオオオオオオオオオオオオオンッッ!

 

 ……滅多に見れないほどの規模の爆発が空中で巻き起こる。

 

 魔王クラスが5人同時に空へ掃射した余波は俺たちだけじゃなく、この山岳地域全体を大きく揺さぶり、空気が激しく震動し、眼下に広がる森林の動物たちが悲鳴をあげて逃げていく……。

 

 あぁ、空まで割れて、不気味な次元の狭間が広がっていくぞ……。さらに色彩鮮やかで煌びやかな光の粒子がこの山を包み込んだ。

 

「―って、ただの悪霊になんてことしてやがるんだ!」

 

「ハハハハ」

 

「てへ☆」

 

 レッドが笑いピンクがかわいらしいウインクをする。ただの悪霊に魔王クラスの一斉攻撃ってなんてオーバーキルなんだよ……。多分完全に消滅したぞ、おい。

 

「それで、試練とは?」

 

 何事もなかったようにリアスが話しかけてる!?

 

「リ、リアス、あれを見なかったのか……? 悪霊に向って全力攻撃してたんだぞ、あいつら」

 

「落ち着いてエイジ。悪霊はよくないから倒すべきだわ」

 

「いや、そうなんだけど! それはそうなんだが! あまりにもオーバーキルだろ!? あー、もういい! 俺もスルーする!」

 

 真面目に対応してたらおかしくなりそうだしな。このノリについていってやるよ!

 

「我々が各試験を受け持つ! グレモリーを受け継ぐ若き2人よ! 見事、三つの試練を超えて遺跡の奥まで到達してみせるのだ! それでは我々は一歩先に各セクションで待っているぞ! フハハハハハハ!」

 

 レッドが素早く遺跡の入り口に入っていく。それに残りの4人が続いていった。

 

 ……残される俺とリアス。まったく、いろんな意味でどんでもないことになったな。

 

「行きましょう、エイジ! ここまで来たら吹っ切れたわ! 私とエイジがどれだけ深い仲か彼らに見せつけてあげましょう!」

 

 リアスの気合のスイッチが入ったのか俺の腕を掴んで遺跡の奥へと進み始めた。

 

 認められれば正式な婚約者として堂々とリアスと結婚できるんだ。恋人としてがんばるしかないよな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 サーゼクスたち現魔王……、いや、魔王戦隊が出した3つの試練は、ダンスやテーブルマナー、筆記試験と悪魔として貴族としての常識問題だったが、元々教え込まれていたのでそれも楽勝で終わり、リアスと喜び合いサタンレッドが待つという最後の扉を潜り合格の報告をするはずだったのだが、その場所が問題だった。

 

 天井がなく、驚くほど広い空間となっていて、コロシアムのような高い壁が円形に広がり、見物席と武舞台があったんだ。

 

 見物席の上から武舞台を見下ろすと、レッドとイエロー――つまり、サーゼクスとグレイフィアが立っていた。

 

 ……場所も漂う空気も明らかに合格の報告だけでは済まない雰囲気で嫌な予感がする。

 

 武舞台へ下りる階段を見つけ、そこから下へ進む。

 

「おめでとうございます、2人とも」

 

 イエローが俺たちを快く迎え入れてくれるが、嫌な予感は的中した。

 

 レッドが1歩前に出て、高らかに叫ぶ。

 

「よし! よくぞ、ここまで来た! しかーし、これで追われるほど、グレモリー家の試練は甘くないのだ! 神城エイジとリアスにはそれぞれ真の最終試験を受けてもらう!」

 

 ああ、やっぱりか。

 

 これまでの試練でさらにテンションが高くなったリアスがレッドに叫びながら返す。

 

「受けて立ちましょう! さあ、試験内容を教えて! 必ず合格して私たちの仲を認めさせてあげるわ!」

 

 レッドは大きくうなずいて言う。

 

「うむ! リアス・グレモリーの最終試験はこのサタンレッドと戦い、私を倒すことだ! 神城エイジの最終試験はサタンイエローが別の場所で行なわれることになっている!」

 

「別々の試験か……」

 

 てか、サーゼクスとリアスが戦うのかぁ。グレモリー家の兄妹対決を見てみたいが、俺はグレイフィアと試験らしいからな。

 

 俺のつぶやきが聞えたのか、リアスが空間を歪めて弓を出し、かまえながら高らかに言う。

 

「大丈夫よ! たとえ相手が魔王クラスでも勝利してみせるわ! 誰にも私とエイジの仲を邪魔させないんだから!」

 

 か、カッコイイ……。と思ってしまったのは言うまでもなかった。

 

 同じくかまえるレッドとリアスが向かい合う。

 

 そして2人を一瞥したイエローが俺の方を向いて言う。

 

「では、戦闘の邪魔にならないよう私たちも別の場所へと移動しましょう。……試験内容は転移後にお教えします」

 

 転移の魔法陣が俺とイエローの足元に展開される。

 

「リアス、俺もがんばってくるよ」

 

「ええ、私も全力でサタンレッドを倒してみせるわ!」

 

 こうして俺たちの最終試験が始まった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<リアス>

 

 

 エイジがサタンイエローに連れられ、別の場所に向ったあと、私とサタンレッドは武舞台の中央で改めて向かい合った。

 

「魔王戦隊サタンレンジャーのリーダー、サタンレッドだ! さあ、最終試験を始めようか!」

 

 かまえるレッドは紅いオーラをまとう! その紅いオーラから感じる力は確かに魔王クラス!

 

 でも! 相手が例え魔王クラスでも関係ない! 弓を構えて同じく紅いオーラをまとう!

 

「グレモリー家次期当主、リアス・グレモリーよ! 絶対にあなたを倒してエイジとの仲を認めさせてみせるわ!」

 

 絶対に勝つ! 勝ってエイジとの仲を認めてもらい、さらに私はグレモリー家次期当主としての自信を得る! ただの飾りではなく、本当の次期当主としての力を示してみせる!

 

 弓に滅びの魔力を溜める私に、レッドは絶大な滅びの魔力を発し始めた!

 

「ふふふ。……シャルバ、フェンリル、悪神ロキをも倒してきたリアス・グレモリーか。緊張するものだ! これほどの高揚感は久しいものだな!」

 

 くっ! 本当になんてオーラよ! それに滅びの魔力って、サタンの家に連なる者なの!?

 

「でも、そんなのは関係ないわ!」

 

 尻込みしそうになる自分を叱咤して弓をかまえる!

 

「とう!」

 

 ブオオオオオオオオオオンッ!

 

「――っ!」

 

 レッドが私に滅びの魔力を放ってきた! これは――避けるしかない!

 

 咄嗟にかまえを解いて避けるけど――。

 

 ギュパン!

 

 後方に飛んでいった一撃は、コロシアムの一角を塵も残さずに大きく削り取った。

 

 まったく、なんて威力なのよ! 私が放つ滅びの魔力と比べて、威力も込められている魔力の密度も何もかも段違いじゃないの!

 

 私の防御力は魔術を使ったとしてもそこまで高くない。一撃でも食らえばヤバいわね。

 

 相手の実力を再確認した私は弓をかまえて収束した滅びの魔力の矢を放つ!

 

 放たれた矢が空間を切り裂きながらサタンレッドへと一直線に向う! サタンレッドは避ける動作も見せずに受け止めるようだけど――。

 

「むっ! これは!?」

 

 受け止めようとしていたサタンレッドが矢が体に触れる前に体を逸らして回避した。目標が逸れてサタンレッドの体のすぐ横を通り過ぎる矢はそのままコロシアムの壁の一部にどこまで続くかわからない深い穴を開けた。

 

 チッ、惜しい! 油断しているいまならまともに食らうと思っていたのに!

 

 サタンレッドは後方に開けられた穴を見つめると、こちらを向いてつぶやいた。

 

「まさかリアスがここまで成長しているなんて……、自分の眼で見るまでは信じられなかったな」

 

 ……サタンレッドの声に懐かしさのようなものを感じる。まさかサタンレッドの正体は私に近しい人物?

 

 ……いいえ、サタンレッドの正体はいまはどうでもいいわ。それよりも勝つ手段を見つけないと!

 

 私は切り札の1枚である、魔力の解放を使う!

 

 エイジや黒歌の仙術による一時的な身体強化の魔力版! これによって私は滅びの魔力を身にまとい続けることができ、魔力による活性化で身体能力が上がり、弓への魔力収束の速度や威力など、様々な能力が一時的に強化され、さらにまとっている滅びの魔力が周囲の空間さえも滅ぼす!

 

「それは!? その姿は!?」

 

 サタンレッドも驚いている様子。まあ、滅びの魔力を全力でまとうと姿が少し変わるからかしらね?

 

「これが私の切り札の1枚目よ。滅ぼされたくなかったら、降参しなさい!」

 

 私は自分自身も鼓舞しながら弓をかまえるが――、

 

「フハハハハハハハハハ!」

 

 サタンレッドは雰囲気を一変させて高らかに笑い声を上げた。

 

「まさか、その姿になれるなんて! フハハハハハ!」

 

「何がおかしいの!」

 

「ああ……、ああ、すまない。いや、自分だけじゃなかったと思うとね……」

 

「何のこと?」

 

 私が怪訝に訊ねると、サタンレッドはこちらを向いて――。

 

「ふんっ!」

 

 私よりも高密度の滅びの魔力を体にまとった。体の輪郭がぼやけるほどの滅びの魔力をまとうなんて……。

 

 サタンレッドは滅びの魔力で空間を滅ぼしながら叫んだ。

 

「さあ! 本当の戦いを始めようじゃないか!」

 

「……くっ! 望むところよ!」

 

 私はさらに出力を上げてサタンレッドに戦いを挑んだ。

 

 

 

 

 

◆ 

 

 

 

 

 

 ――と、戦いが開始してから15分ほど経過した。

 

 はぁーはぁー。

 

 私はもうすでに息を切らせ、体にまとっていた滅びの魔力も消えかかっていた。

 

「どうした、リアス・グレモリー! こんなものか!? エイジへの想いはこの程度なのか!?」

 

 まだ余裕のポーズでサタンレッドがポージングをする。

 

 最初から各上だと思っていたけど、とんでもないわね……。

 

 戦闘が開始してからずっと避けては撃っての繰り返しだったけど、全てが避けられるし、小技を挟んで体に当てたとしても滅びの魔力がそれを自動で防ぐ……。

 

 相手に使われるとこれだけ攻め難い技だったなんて思わなかったわ。魔力量も私より多くてまだまだ滅びの魔力は体にまとい続けられるみたいだし、体から放つ滅びの魔力とは別に、いくつも空中に浮べている滅びの魔力の球も厄介極まりない。

 

 近距離はもちろんダメで、そもそもサタンレッドの防御を抜くほどの魔力を溜められない。

 

 中距離、遠距離戦で撃ち合いで溜める時間がないのだ。収束速度が上がってもすぐに放つのでは魔力の消費が多くなるだけで、サタンレッドの攻撃をかわすのも身体強化が必要だからその分魔力をさらに消費する。

 

 なので、現在ガス欠なわけだけど……、負けられない!

 

 実力差があるのは十分理解している! 魔力が残り少ないのも自覚しているけど、負けられない!

 

「気張りなさいな。グレモリー家の次期当主で滅びの魔力を持っていたとしても、上級悪魔があの状態のサーゼクス相手に10分以上戦えるなんて将来が有望な証拠だ。正直、サーゼクスの妹だったとしても、ここまでやれるとは思わなかった。キミは予想以上の存在だよ、リアス・グレモリー」

 

「……ZZZZZZ……」

 

 応援席から私を応援する声が聞えてくる。――って!?

 

「ベルゼブブさま!? アスモデウスさま!?」

 

 何故魔王のお2人が!? しかも、着ている衣装はサタンブルーとサタングリーンのモノ!

 

 それにベルゼブブさまの言葉! ま、まさか、魔王戦隊サタンレンジャーの正体は現魔王さまなの!?

 

 ……そう考えれば、ブルーがアジュカ・ベルゼブブさま、グリーンがファルビウム・アスモデウスさま……、関係図と背格好などでいうと、いまは姿が見えないピンクがセラフォルー・レヴィアタンさまで、……イエローがグレイフィア、レッドがお兄さま……。

 

 私はサタンレッドに向き直って問う。

 

「……お兄さま、なのですか?」

 

 サタンレッドは私の問いに答えるように、体にまとっていた滅びのオーラを解いて戦隊スーツのヘルメットを外した。

 

 ヘルメットの下から覗く顔は――確かに、お兄さまだった。

 

「まさか、お兄さまがサタンレッドだったなんて……」

 

「まったく、アジュカとファルビウムも簡単に正体をバラすなんて、戦隊モノのヒーローは正体がわからないのが魅力なのに。ああ、リアス、私がサタンレッドであることは皆に秘密だよ」

 

「…………」

 

 お兄さまはいつもの調子で話しかけてきたけど、私はサタンレンジャーの正体が現魔王とグレイフィアであるという事実を受け入れるのに必死で返すことができなかった。

 

 …………まさか現魔王が戦隊スーツを着てサタンレンジャーを名乗っているなんて……! しかも、それが実兄で妻子持ちのお兄さまなんて……! グレイフィアにまであの恥ずかしいスーツを着せるなんてっ!

 

「さあ、リアス! エイジが好きなのだろう? こんな調子でいいのかね? 私を倒すぐらいの気概を見せてくれないと、グレモリー家次期当主としても、とてもじゃないが、まかせられないな!」

 

 …………。

 

 私は目の前で戦隊のポージングを決める兄にお仕置きするためにも、もうひとつの切り札を切った。

 

 空間を歪めて黒い十字架を取りだす。

 

「やる気になったみたいだね」

 

「…………」

 

 弓をかまえ、矢の代わりに黒い十字架を使い、滅びの魔力を込める。

 

 シュウウウウウウウッ!

 

 黒い十字架に滅びの魔力が収束されていき、さらに共鳴するように黒い十字架から膨大な量の滅びの魔力が噴きだし、矢のカタチへと変化した。

 

「……リアス? その魔力は――」

 

 お兄さまが驚いたような表情でこちらを見てくる。わたしは矢を引きながら笑顔で言う。

 

「この黒い十字架には私の滅びの魔力が溜められていて、こうやって魔力を流すと十字架のなかに溜めていた魔力が解放され、矢のカタチとなって具現化するんです。本来なら収束できずに矢にできない量の魔力でも、核と元から込められた矢があるなら溜める時間も必要なく、これまでの私の限界を超えた貫通力も殺傷力も何もかもが別物となった攻撃を放てるんですよ」

 

「り、リーアたん? その攻撃はいくらなんでも、試験とはいえ……、私でも下手すると消滅してしまうよ?」

 

「そうでしょうね。これは1回きりとはいえ、魔王クラス以上の、私の身に大きく余るほどの攻撃を放てますし……」

 

「うん。正直これまで示した力だけで十分、試験には合格しているんだし、もう止めて――」

 

 お兄さまの言葉を待たずに言う。

 

「ですが、サタンレンジャーなどと名乗って現魔王たちとグレイフィア……、そう、お義姉さまにあんな戦隊スーツを着せるのはいくらなんでもダメでしょう! ミリキャスという大きな子供もいるんですよ! ミリキャスがしったらなんて思うか考えないんですか!」

 

「そ、それは、で、でも――」

 

「問答無用です!」

 

 私は、黒い十字架で最大以上まで強化した矢を撃ちだした。

 

「ま、マズい!」

 

 咄嗟に回避行動を取るお兄さま。だけど、甘い。

 

 バッ!

 

 ズドドドドドドドドドドドドドド……ッ!

 

 一本だった矢が弾けて無数の小さな矢となってお兄さまに襲い掛かる!

 

「な、なに!?」

 

 お兄さまは空間を埋め尽くさんばかりの滅びの矢に驚愕した様子だが、もう回避は不可能。

 

「反省してください!」

 

 私の声と共にお兄さまを無数の滅びの矢が襲った。

 

 分散させたことで威力が弱まって、おそらく大した怪我も負わせられないでしょうけど、これまでからかわれてきた分も含めて返したわ!

 

 確かな手応えと共に、矢によって舞い上がった砂埃が晴れると、戦隊スーツがボロボロになってあちこちに軽い怪我を負ったお兄さまがヒザをついていた。

 

「アハハハハ! まさかここまでとは! これは完全にサーゼクスの負けだな!」

 

「……キレーな花火だったねぇ……」

 

 ……正直、ベルゼブブさまもアスモデウスさまにも反省して欲しいけど、これはグレモリー家の、エイジと私の仲を認めてもらうための試験。

 

 私はお兄さまに近づいて弓矢を向けて勝ちを宣言した。

 

「この試験、私の合格ですね」

 

「ああ、まさかリーアたんがここまで成長していたなんてね。試験は文句なしの合格、私の完敗だよ」

 

 そう言ってお兄さまは目を閉じて――、

 

「お、に、い、さまっ! あの程度でお兄さまが気絶するわけないじゃないですか! 騙されませんよ、私は!」

 

「ハハハハ、本当に成長したね。リーア」

 




 本当は1話にまとめるはずだったんだけど、いろいろ描きすぎて45000字超えてしまったので分割します。

 あと、次話についてですが、『仮眠』さんに刺激されてしまった感じで以前から考えていた展開にしたので、かなりヤバいです……。

 いや、大体の感想の返信見た人は予想はついているかもしれないと思いますが、本当にいろいろヤバいです。

 覚悟のうえに次話をご覧ください。
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