第69話 京都編のはじまり
<エイジ>
「将来的にエイジさまのヴァルキリーとなったあとは、グレモリー領に北欧魔術の学舎を設立したり、悪魔の女性からヴァルキリーを輩出したりと新しい事業をしてみたいと思っております」
正式に、勇者とその見習いヴァルキリー兼リアス・グレモリー配下の眷属悪魔となったロスヴァイセが自身で思い描いている未来のビジョンを語り、
「天使の私が上級悪魔のお屋敷にお邪魔できるなんて光栄の限りです! これも主と……魔王さまのおかげですね!」
イリナも楽しそうな様子だった。
グレモリー家の試練を終え、修学旅行間近、俺たちグレモリー眷属+イリナと黒歌たちはリアスの両親と共にグレモリー家のダイニングルームでお茶会をしていた。
リアスの眷属がそろったので、記念として改めてリアスの両親に紹介することになったんだ。
使用人の悪魔たちに囲まれてのお茶会にイッセーやアーシアは戸惑っているようだが、これも勉強と、紅茶を楽しみながら会話を続ける。
「ハハハ、ロスヴァイセさんは産業に感心をお持ちのようで、グレモリーの当主としては期待が膨らむばかりだ」
リアスのお父さんが朗らかに笑う。
お茶を口にしていたリアスのお母さんであるヴェネラナさんがカップを置くと話題を切り替える。
「そういえば、エイジさんたち2年生の皆さんは修学旅行間近でしたわね。日本の京都だったかしら?」
「はい、もうすぐ京都に行く予定です。お土産を買ってこようと思っているのですが何がいいですか?」
と、俺が答える。ヴェネラナさんはニッコリ笑顔を浮べて言う。
「あら、うれしい。そうね、去年リアスがお土産で買ってきてくれた京野菜のお漬け物がとても美味しかったわね」
うん、ヴェネラナさんのイメージ的に漬け物は合わないけど、リアスも家で美味しそうに漬け物食べてるし、意外と漬け物好きなのかな? 日本のレトロな銭湯に似せたお風呂持ってるぐらいだし。
「では旅行先で買ってきますよ。最近すごく美味しい京野菜を代々作っている方とも知り合いましたから」
「楽しみにしてるわね」
「はい」
そのあとも他愛もない会話を続け、眷族勢揃いの記念お茶会は無事終えていく。
お茶会を終え、俺たちは転移用魔法陣でおのおのの家に帰ろうとしていた。
けど、そのまえにグレモリーの城にサーゼクスが戻られているというので、帰り際にあいさつだけでもということになった。
「僕も一緒に行きます!」
ミリキャスもお父さんに会いたいということで俺たちに同伴することに。
サーゼクスが戻ったときに使われている移住区の通路でサーゼクスと――黒髪のお客さんらしき人と鉢合せする。
って、貴族服を着たサイラオーグかよ!
「お邪魔をしている。元気そうだな、リアス、神城エイジ、赤龍帝」
こうした普通の状態でも覇気が全身からにじみ出るような圧迫感を撒き散らすのは、はっきりいってマイナスだな。いくらなんでも闘志に満ちすぎだ。
「ええ、来ていたのなら一言言ってくれても良かったのに。けれど、そちらも元気そうで何よりだわ。――と、あいさつが遅れました。お兄さま、ごきげんよう。こちらにお帰りになられているとうかがったものですからあいさつだけでもと思いまして」
「気を遣わなくても良かったのだが、すまないね。ありがとう」
サーゼクスがミリキャスを抱きかかえながら俺たちに微笑む。
戻っている理由は最近決まったというサイラオーグとのゲーム関連かな?
そんな風に考えていたら、リアスがサーゼクスに訊ねた。
「お兄さま、サイラオーグがここに来ていたのは……?」
「うむ。バアル領の特産である果実などをわざわざ持ってきてくれたのだよ。従兄弟に気を遣わせて悪いと思っていたところだ。今度ぜひともリアスをバアル家のお屋敷に向わせようと話していたのだよ」
と、サーゼクスが言う。まあ、サーゼクスから言ってもサイラオーグは母方の従兄弟だからな。
「今度のゲームについていくつか話してね。リアス、彼はフィールドを用いたルールはともかく、バトルに関しては複雑なルールを一切除外してほしいとのことだ」
サーゼクスの言葉を聞き、リアスは驚き、そして目元を厳しくした。
「サイラオーグ、それはつまりこちらの不確定要素はもちろん、全力になったエイジも全て受け入れる、ということかしら?」
リアスの真剣な問いにサイラオーグは不適に笑む。
「ああ、そういうことだ。時間を止めるヴァンパイアも、女の服を弾き飛ばし、心の内を読む赤龍帝の技も、魔王クラスといわれる全力の神城エイジも、俺は全部許容したい。――おまえたちの全力を受け止められずに大王家の次期当主を名乗れるはずがないからな」
『――っ!』
サイラオーグの告白にイッセーをはじめ、眷属のほとんどが息を呑んだ。
……ものすごい気迫と覚悟を感じる。こいつは俺たちの全力を望んでいるようだ。
サイラオーグの眼力高い視線がリアスを捉えるが、リアスは体からオーラを噴きださせながら逆に睨み返した。
「サイラオーグ、いくらなんでも私たちを舐めすぎよ。エイジの本気を出させたいのなら、まずは私や朱乃を軽くあしらえるようになってから言いなさい」
サイラオーグは大きく目を見開いた。リアスの体から発せられる魔力が質から変わっていることに驚いているのだろう。
リアスはサイラオーグをもう一度睨むとオーラを霧散させた。威圧から解放されたサイラオーグはゆっくりと笑みを濃くしていき、笑い声をあげる。
「ハハハハハ! 失礼だが本当にリアスか? 新人同士の邂逅から何があった? 正直見違えたぞ!」
本当に失礼だが、そう思ってしまうのも仕方がないだろうな。いまのリアスは自分自身を信じているし、度重なる実戦を経て、風格というものがわずかだけどついてきたからな。
リアスはそんなサイラオーグの反応に軽く頬を膨らませながら答える。
「いろいろあったのよ。修行したり、戦ったりとね」
「ああ、聞いているぞ。旧魔王の血族であるシャルバや、フェンリルを率いた悪神ロキと戦ったとな。だが、正直リアス自身がここまで強くなっているとは思わなかった」
サイラオーグはリアスを見たあと、俺のほうへ視線を移した。
「やはりあなたが鍛えたのですか?」
「まあな」
俺は短く答えた。実際は黒歌たちと一緒にだけど、そこまで説明する必要もないだろう。
サイラオーグは俺をギラギラとした紫色の瞳で見つめながらつぶやく。
「いまの俺ではよくてリアスとその『女王』と同レベルか。これではこちらがあなたにかせられてるハンデまで取り払って欲しいと願い出てもおそらく通らないでしょうね」
だが、完全には諦めていない。という感じだな。
空気がギスギスしてきたので、俺は肩をすくませて言う。
「正直俺はおまえと戦うよりも鍛えるほうにまわりたいんだがな」
サイラオーグの肩眉が動いた。
「……鍛える?」
「ああ、おまえは最高の素材だからな。正直俺の武術を教え込んでみたいと思っている」
その言葉にサイラオーグは不快――とまではいかないが不機嫌そうな表情を浮かべて言った。
「……あなたが思っているほどの才能はありませんよ」
サイラオーグの言葉にこちらもうなずく。
「ああ、こちらもはっきり言って才能には期待していないさ」
「――っ」
サイラオーグは俺の言葉に絶句しているようだが、関係なしに続ける。
「そもそも俺は才能を持つ持たないなど関係などなしに、おまえの人なりも見て弟子にとりたいと思っているんだからな。――それに、本当に才能がなかったとしても、おまえは才能が無いぶんそれを補うための努力をしてくれるだろう?」
サイラオーグはその言葉に大きく目を広げたあと、笑顔を見せて大きくうなずいた。
「――っ。ええ、そうですね。私は諦めが悪いですから」
そんななか隣で見ていたサーゼクスがある提案を口にする。
「うむ、ちょうどいい。サイラオーグ、エイジと少し拳を交えてみないかい? 試合ではないからハンデはないよ」
「――っ! いいのですか!?」
「軽くやってみたらいい。魔王クラスといわれて、ゲームでもガチガチのハンデを背負わされている黒い捕食者の実力を実際に感じてみるのも、キミの成長に繋がるだろうからね」
サーゼクスの提案に食いつくサイラオーグ。
え? お茶会に着ただけでなぜ戦う流れになってるんだ?
サーゼクスは戸惑う俺を無視して、リアスに問う。
「リアス、どうだろうか?」
リアスはしばし考え込み、意を決したように答えた。
「……お兄さま……いえ、魔王さまがそうおっしゃるのでしたら、断わる理由がありませんわ。エイジ、いいわね」
『王』に、リアスに言われたら断われないよ。
「わかった」
「おおっ!」
俺がうなずくと共にサイラオーグがうれしそうな声をあげた。子供かおまえは!?
俺とサイラオーグが手合わせをする流れになろうとしていると、ここでイッセーが声を上げた。
「ちょっと待ってください!」
イッセーの声に誰もが「どうしたんだ?」という視線を向ける。リアスが驚きの表情を浮かべたままイッセーに訊ねる。
「どうしたの?」
リアスの問いにイッセーは……。
「俺と……、俺と戦わせてください!」
リアスとサイラオーグ、そしてサーゼクスに向って頭を下げた。
イッセーの願いを聞いてサーゼクスが感心するように顎を手をおく。
「ふむ……、それは実におもしろい提案だね。若手ナンバーワンのサイラオーグと赤龍帝のイッセーくんとの試合か。個人的にはエイジとの一戦よりも興味があるね」
サーゼクスのその言葉にリアスが驚く。
「お、お兄さま! 何を言ってるんですか!? イッセーとサイラオーグが戦うなんて……」
リアスはサイラオーグとグラシャラボラス家のレーティングゲームで再起不能にされた若手悪魔を見ているから、まだ未熟なイッセーが若手ナンバーワンのサイラオーグと戦って潰されてしまわないか心配してるんだろうが……。
「部長。大丈夫です」
「イッセー、だけど……」
「俺がまだ勝てないのはわかっていますから」
イッセーの目は気合に満ちている。おそらく言葉通り勝てるとも、勝とうとも思っていない。
ん? そういえば神器の新しい可能性を探っていたな?
俺は小声でイッセーに訊ねる。
「何かつかんだのか?」
「ああ、まだ入り口だけどな」
イッセーは俺の問いに小さくうなずいた。
新しい神器の可能性がどういうものかサイラオーグで試してみたいって顔だな。
「それなら今回はおまえに譲ってやるよ。元々戦う気分でもなかったし、サイラオーグとはこれからも戦えるしな」
「エイジ、ありがとう」
「別にいいさ。……サイラオーグもそれでいいか?」
俺が訊ねると、サイラオーグは目を瞑り、うなずいた。そして再び好戦的な笑みを浮かべて言う。
「あなたと戦えないのは残念ですが、私は赤龍帝とも戦ってみたかったんです」
話がまとまったところでサーゼクスがうんうんと笑顔でうなずく。
「では、私の前で若手ナンバーワンの拳と赤龍帝の拳、見せてくれ」
それを受けてサーゼクスは――、
「これは良い機会をいただきました。存分にお見せしましょう、我が拳を……ッ!」
気迫溢れる笑みを浮かべていた。
そして、対するイッセーは――、
「よ、よろしくお願いします!」
気迫に若干押されながらも返事を返していた。
さてと、この勝負でイッセーは何をつかむんだろうな。
◆
グレモリーの城の地下に駒王学園のグラウンドがスッポリと入りそうなほどに広いトレーニングルームがある。
俺たちグレモリーの者と黒歌にセルベリアといった俺の家族、サイラオーグはそこに場所を移していた。ミリキャスはグレイフィアに連れられて他の場所で待機してる。
そのトレーニングルームの中央でサイラオーグは貴族服を脱ぎ、グレーのアンダーウェア姿になってる。
鍛えこまれた、なかなかの肉体だな。イッセーよりも一回り近く体格が違う。
学生服姿のイッセーはサイラオーグの肉体に気圧されていたが、すぐに気を取り直して戦闘態勢に移る。
「ドライグ、いくぞ」
『任せろ』
イッセーは籠手を出現させる。生身ではおそらく殺されるだろうからすぐに禁手化するだろう。
禁手化するまでの時間。サイラオーグは何もしてこない。禁手化しているイッセーが全力だと思っているだろう。俺だったら禁手化する前に速攻でイッセーを潰しにかかるけど、まったく好戦的で挑戦的なヤツだ。
――っと、ここで禁手化までのカウントが終わったようだ。
『Welsh Dragon Balance Breaker!!!!!!』
音声と共に赤い閃光が『赤龍帝の籠手』から発生し、イッセーの体を包み込んだ。赤いオーラが鎧を形作っていく。
バッ! イッセーが『赤龍帝の鎧』の背中部分に新しくついた翼を大きく広げ、攻撃の構えを取った。サイラオーグも攻撃の構えを取るが、さすがだな。イッセーの荒い構えと比べものにならない、流れるようなモーションで構えた。きっと何年も切磋琢磨して己を鍛えていたんだろう。
構えと取って向い合う2人、まずはイッセーが最初に動く!
ゴォォォォオオオオッ!
背中のブーストを噴かせて、前方に飛びだした!
右ストレートを放つ構えで、そのままサイラオーグへと向っていく。
サイラオーグは一直線に向ってくるイッセーを目視しているようだが、その場から動かない。
動けるのに、動かない。
そのサイラオーグの様子にイッセーが怒ったのか、そのままサイラオーグの顔に殴りかかった。
ゴンッ!
盛大な打撃音を鳴り響かせて、サイラオーグの顔面にイッセーの右ストレートが食い込む。
避ける動作もせずに、受ける動作も行なわずに、クリーンヒット。イッセーの全力の一発をサイラオーグは顔面に受けた。
――と、ここでサイラオーグを攻撃したはずのイッセーは後方にバッと下がり、そこで改めて攻撃態勢になった。
鎧で覆われているためにイッセーの表情はうかがえないが、おそらく戸惑っているんだろう。
自分のパワーがサイラオーグにまったく通じなかったことが……。
倍加していないといっても強大なパワーを誇る禁手化状態の一撃が、防御術式もなにもなしにただの身体能力で防がれたことに、サイラオーグに怪我すら負わせられなかったことに、イッセーは戸惑っているんだろう。
サイラオーグは殴られた部分を指でさすると笑みを見せる。
「いい拳だ。真っ直ぐで、強い想いが込められた純粋な拳打。並みの悪魔ならこれで終わる。だが――」
サイラオーグが動く!
イッセーの眼前から背後に回って――。
「――俺は別だ」
ドッ! ガギャンッ!
サイラオーグのパンチがイッセーに放たれる!
サイラオーグのつぶやきで位置を察知したイッセーが、かろうじで両腕をクロスさせてパンチを受けるが、一撃で籠手部分が破壊された!
体勢を完全に崩されたイッセーは、背中のブーストを噴かして急いで距離を取る。
そして赤いオーラで両腕を包み、再び籠手を形作る。どうやら骨まではいかなかったようだ。
籠手を再生させ、まだ戦意を喪失していないイッセーに、サイラオーグが感心するように笑んだ。
「ほう。吹っ飛びはしなかったか。まあ、あいさつ代わりの打撃にすぎないものだからな」
まあ、サイラオーグからしたらそうだろうが、イッセーからしたら冗談じゃないだろう。あいさつ代わりのパンチ一発で攻撃と防御手段であり、切り札でもある『赤龍帝の籠手』が破壊されるんだからな。
「俺の武器は3つだ。頑丈な体、動ける足、体術。――いくぞッ!」
スッ!
サイラオーグが素早く移動し、イッセーの真横に入る!
直前でそのことを察知したイッセーが身を捻って、サイラオーグが放ったボディブローを避けるが――。
ブゥゥゥンッ!
という風きり音が鳴り、続いてミシッ……、っと鈍い音がイッセーの鎧の腹部から鳴った。
よく見てみればイッセーの鎧の腹部に亀裂が生まれていた。
かすっただけで『赤龍帝の鎧』を傷つけたのか。ますますおもしろいな、サイラオーグ。
「クソ!」
鎧を二度にわたって傷つけられたイッセーは毒づきながら、拳を打ちだす。
ゴッ! サイラオーグはまた避けずに顔面で受ける。
先ほどと同じく目立ったダメージはない。
ゴオッ!
サイラオーグのカウンターが来ると感じたイッセーが、刹那にブーストを噴かしてうしろに飛びのいた。
ズァァァァアアッ!
サイラオーグの蹴りが空振りするが、空振りした蹴りの威力によってこのトレーニングルームの中央から端まで大きな亀裂を生み出した。
拳打も蹴りも見事な威力だが、2度もはずすなんてサイラオーグはイッセーとの力の差を見せつけてるのか?
イッセーはサイラオーグの力を見せつけられて、
「すごいです」
とつぶやいた。その言葉は自然に口からでたという感じだった。
イッセーはサイラオーグに訊ねる。
「その強さになるまで、全部、鍛えたんですか?」
イッセーの問いにサイラオーグは言う。
「――己の身体を信じてきただけだ」
その一言にサイラオーグのいままでを感じる。魔力が少なく、滅びの魔力も受け継がず、才能がなく、身体だけ必死に鍛えて這い上がってきた自信が言葉に表れていた。
イッセーもサイラオーグの言葉に何か共感するものでも感じ取ったのか、気合が入ったようだ。
戦闘態勢を改めて取り直して、
「『戦車』にプロモーションッ!」
と『戦車』にプロモーションした。
「『戦車』だと?」
サイラオーグも最強の駒である『女王』ではなく、『戦車』にプロモーションしたことに怪訝な表情を浮かべた。
そしてサイラオーグはイッセーが何故『戦車』を選択したのかを確かめるように移動し――。
イッセーもサイラオーグが攻撃してくるだろうと受ける体勢になって――。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
増加したドラゴンのパワーを全身にみなぎらせて、右の拳にも力を込めていた。
ゴッ!
イッセーの真っ正面に現れたサイラオーグが、イッセーの腹部にブローを一発放つ!
もろにブローを鎧の腹部に受けたようだが、今度の鎧は完全に砕かれていない! おそらく増加したドラゴンのパワーを防御にまわしていたんだろう。
さらにイッセーはサイラオーグが腹部から拳を引く瞬間を狙って、サイラオーグの顔面に右ストレートを打ち込むッ!
ガンッ!
といい音が鳴り響いて――。
ブッ!
サイラオーグの鼻から血が噴き出た。同時に――、
「ガハッ!」
イッセーの兜のマスクからも血が噴き出た。腹に食らった一撃が内臓を傷つけていたんだろう。
サイラオーグは鼻の血を指で拭う。――心底うれしそうに笑った。
「……『戦車』への昇格か、誤った判断でもなさそうだ。こちらも力を込めて拳を放ったのだがな。おまえの『戦車』としての攻撃と防御は見事だった。やることとやれることが多くなる『女王』よりも攻守のみが高まる『戦車』のほうがパワータイプのおまえには似合ってるのかもしれないな」
これがイッセーが発見した可能性か。神器のパワーアップする方向性を『兵士』の駒の、他の駒になれるという特性を利用してそれぞれの駒の性質に一点特化させて戦うという戦闘法。なるほど、『赤龍帝の籠手』が持つ倍加能力にピッタリな方法だな。
サイラオーグと共に俺も感心しているが、イッセーのようすが少しおかしい。
「どうした? 体から疑問が見られる。俺が相手では問題か?」
サイラオーグがそう訊ねると、イッセーは心底意外そうにつぶやきはじめた。
「いえ、なんていうか……。上級悪魔の方で、俺のことを……その、バカにする人が多かったので……。サイラオーグさんは最初からマジできているから驚いているんです」
………………。
サイラオーグはイッセーの言葉を訊いて、息をひとつ吐いた。
「そうか。おまえは、いままで過小評価を受けてきたのか。安心しろ。俺はおまえを過小評価などしないッ! 旧魔王派と繋がっていたディオドラを打ち倒し、北欧の悪神ロキと真っ正面から戦い、生き残ったおまえをどうして過小評価などできようか」
………………。
あ~、いい雰囲気だから言わないけど、イッセーをバカにした上級悪魔ってライザーぐらいだからな? ヴァーリもイッセーをバカにしていたけど、バカにされる理由の大半がイッセーの言動や行動なんかがあってこそだったから、おそらくおまえが考えているようなバカにされたとは違うと思うぞ? ……言わないけど。
そんな俺の内心とは関係無しにサイラオーグはイッセーに向って不適に笑む。
「俺はおまえと戦うのが楽しいぞ。いい拳を放ってくれるからな。鼻血を流したのは久しぶりだ。何よりも同じタイプと相対した喜びは大きい。その拳、鍛え込んでいるのだろう? 一発くらえばわかる。――遠慮するな。俺を全力で殴り倒しに来い。そのためにこの場に立っているのだろう?」
サイラオーグが浮べる男気溢れる笑みにイッセーは引き込まれているようだった。
「来い! 兵藤一誠! 俺を打倒することだけ考えろッ! 赤龍帝の力を俺に見せてみろッッ!」
「ええ、いきますよッ!」
サイラオーグの叫びにイッセーはうれしそうに返事して――。
『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』
真っ正面から突貫してくるサイラオーグに向けて、ドラゴンショットを撃ちだした!
バシュッ! ドォオオッ!
イッセーのドラゴンショットはサイラオーグの横薙ぎの拳打に弾き飛ばされ、トレーニングルームの壁にぶち当たった。
元々魔力が低いイッセーだから『僧侶』でない分、魔力が足りないんだな。
それを先ほどの一撃で理解したイッセーは『僧侶』にプロモーションせずに、そのまま『戦車』でサイラオーグと接近戦をすることに決めたようだ。
「――ッ! 俺と打ち合う気かッ! おもしろい! 打ち込んでみせろッ!」
叫ぶサイラオーグに飛びだそうとして――。
「イッセーさん!」
突然、アーシアが叫んだ。何事だとイッセーを含めて全員が視線を送ると、アーシアが続ける。
「パ、パワーアップです! お、お、お、お、おっぱいを触ればイッセーさんはもっと強くなるんです!」
………………へ?
アーシアの叫びに全員が間の抜けた顔になっていた。しかし、木場がハッと気づいてアーシアに続く。
「そ、そうだ! イッセーくんはおっぱいドラゴンだ! おっぱいを触らせれば力が増す! いや、エッチな本でもイッセーくんはパワーアップ……、パワーアップした……」
おかしな木場の賛同だけど、途中からどうしたんだ? 眼のハイライトが消えてないか?
その他にも――。
「白音のおっぱいは絶対につつかせない! 絶対に私が白音を守る!」
「冥界放送……、ネットにアップ……、嫌っ! 絶対に嫌です!」
黒歌が小猫ちゃんを庇うようしてイッセーに殺気を飛ばし、小猫ちゃんのトラウマスイッチが入ったかのように黒いオーラに包まれていた。
おい、アーシアの発言で味方が大変なことになってないか?
イッセーがサイラオーグに負けそうになってることに戸惑い、暴走してるアーシアはさらに火の粉を飛ばす。
「部長! わ、私でもかまいません! どうか、イッセーさんにお、お、おっぱいの力を! このままでは負けちゃいます!」
「な、なんで私なのよ!?」
突然の申し出に困惑顔のリアスにアーシアは熱弁する。
「それはリアス部長のほうが私よりも、その……大きいですし、イッセーさんは部長さんのお、おっぱいをいつもつつきたがっているから……」
「そ、それは……」
イッセーのいままでの行動で、リアスはイッセーが自分の胸を触りたがっていたことに気づいているが――。
「い、嫌よ! わ、私は……、そんな事、できるわけがないじゃないの」
と、真っ赤な顔で、小声になりながら拒絶した。
拒絶したリアスはそのまま俺の影に入ってイッセーの視界から隠れる。
…………………。
うれしいんだけど、何ともいえない雰囲気が場に漂う。
あれ? イッセーの兜のマスク、目のほうから血かでてないか?
そんなイッセーにサイラオーグは怪訝な表情を浮かべる。
「……乳を触ると本当に強くなるのか? 噂ばかりだと思っていたのだが」
「本当ですぅぅっ!」
サイラオーグのそんな疑問になんと怖がりなギャスパーが大きくうなずいた。
「イッセー先輩は小猫ちゃんのおっぱいをつついて禁手したり、飛べなかったのにエッチな本を読んで翼を生やしたりできたんですぅぅっ! イッセー先輩がおっぱいをつついたらすごく強くなるんですぅぅっ!」
イッセーは後輩からものすごく信頼されてるみたいだな。主にスケベなパワーアップ方面で。
ギャスパーはその勢いのままに朱乃のほうを向いて――。
「朱乃お姉さまぁぁっ! どうかイッセー先輩におっぱいをつつかせてあげてください!」
ガバッと頭を下げてくる。朱乃はニッコリ笑顔を浮べたまま、
「ごめんなさい」
と礼儀正しくイッセーに向って頭を下げた。そしてそのままリアスのように俺の後ろに隠れた。
「ぐ、おおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉっ!」
途端に跪いて床を叩き始めるイッセー……。
この人ワザとやってるだろう! 隠れ方がリアスとまったく一緒だったし!
「こ、こうなったら!」
ギャ、ギャスパー!? ふ、服に手をかけて何をする気だ!?
「ぼ、僕のを……」
――くっ、だ、ダメだ……! 見れない! 男の娘が顔を赤らめながら男に胸を差し出す姿なんて見れるかぁっ!
「毎度こういうノリなのですか? うーん、アースガルドにはない文化だわ」
ロスヴァイセも呆れつつ、壮絶な勘違いを始めたようだ!
「ふ。ふはははははははははははははははははははっ!」
ドロドロのグダグダになっていると、ここで豪快にサイラオーグが笑う。すごく長い笑い声で場の空気が少しだけ変わった。
「なるほど、女の胸で強くなれるのか。ふふふ、それは覚えておこう。――赤龍帝、ここまでにしようか」
と、何ともうれしい提案をしてきてくれたが、イッセーは納得できないと起き上がる。
「俺はまだやれます!」
先ほどの落ち込みはどこへいったか、覇気を見せるイッセー。
しかし、サイラオーグは首を横に振る。
「いい覇気を放ってくれる。だろうな。俺もまだまだ戦える。――だが、これ以上やると、俺も歯止めが利かなくなる。最後の一撃まで味わってしまう。それではあまりにもったいない。おまえはいま何かに目覚めようとしている最中なんだろう?」
俺とイッセーの会話を聞いて察したのか、戦いの最中に気づいたのか。おそらく後者だろうな。
サイラオーグは貴族服を拾い、イッセーに歩み寄って、肩に手を置いた。
「ならばそれを得てからだ。最高の状態で殴り合う。それこそが、俺の求める赤龍帝との戦闘だ。俺達の勝負は、後日のレーティングゲームで決めるべきだ。上役の方々と大衆の前で拳を交えてこそ、俺とおまえの評価が決まる。――俺にもおまえにも夢があるのだから、そこで再び見えよう。リアス、神城エイジ、リアスの眷属たち、次に出会うときは夢に繋げるための舞台でだ。――来い。俺は全力でお前たちを打ち倒す」
サイラオーグはそれだえ言い残し、サーゼクスにあいさつしたあと、この場を去っていった。
サイラオーグは俺とも戦いたいとか言ってたけど、サイラオーグの奴、レーティングゲームでイッセーを倒して俺も倒すつもりなのか?
イッセーは評価していたようだが、俺は随分と過小評価されてるようだな?
やはりここはサイラオーグに武術の素晴らしさを伝えて――。
――っと、いつの間にか鎧を解除したイッセーがサーゼクスとなにやら話しこんでいた。
なんでもイッセーにサーゼクスが手足に封印を施していて力が出ない状態だったと告げて、まだ君は強くなるよと励ましているようだった。
本当ならリアスも近くに行くべきなんだろうけど、さっきおっぱいをつつかせるのを拒否したので、今回は遠目から話を聞くことにしてるようだ。
まあ、スケベ坊主のイッセーがリアスを始めとして女のおっぱいをつついたら確かにパワーアップするだろうけど、絶対につつかせねえからな!
特に俺の家族である黒歌やセルベリアたちと、もう家族同然のリアスと朱乃、ゼノヴィアに、小猫ちゃんやイリナの胸をパワーアップ目的なんぞで絶対つつかせない!
アーシアは……、アーシアはイッセーが好き? ……みたいだから大丈夫だと思うけど。
あ、ギャスパーと木場の胸はどうでもいいよ。はなから男の胸に興味なんてないらしいし。
ああ、そういえば……、イッセーがサーゼクスに励まされ、レーティングゲームへ新たに決意を決めて黒歌たちを含めるグレモリー眷属が帰ろうとしたとき、別れ際、ミリキャスがかわいらしく首をかしげながら、
「エイジ兄さま、リアス姉さまが高校を卒業しても『ぶちょう』と呼ぶのですか?」
と訊ねてきたから、皆に聞えないように、
「その『ぶちょう』は外用で、家ではいつも『リアス』って呼んでるんだよ」
と答えたが、そろそろ外でもリアスって呼びたいなぁ。
◆
<エイジ>
そして修学旅行当日。
もう、昨夜は随分なハードスケジュールだった。修学旅行期間会えないからと、リアスや朱乃、セルベリアや黒歌と修学旅行組み以外のメンバーとセックスしたり、まだ出来ない小猫ちゃんにも甘えられたりと朝方近くまでいろいろやっていて大変だった。
いまはところ変わって東京駅の新幹線ホーム。ホームの隅でできるだけ人目を避けて俺たちは集まっていた。
居残り組ではリアスだけが見送りに来てくれていた。朱乃や小猫ちゃん、ギャスパーも来ていたがっていたけど、今日1年生と3年生は通常授業だ。学業をおろそかにしてはならないとしてリアスのみが駅に赴いていた。黒歌たちは……まあ、エッチには参加したけど、もともと遠出とか慣れてたので特に気にしていない様子った。お土産はねだられたが。
「はい、これ人数分の認証よ」
リアスが旅に出る2年生にカードらしきものを渡してくれた。全員手に取り、確認する。
「これが噂の?」
木場が訊くとリアスがうなずく。
「ええ、これが悪魔が京都旅行を楽しむときに必要な、いわゆる『フリーパス券』よ」
京都の名所は寺が多く、パワースポットが多いので、通常悪魔が歩き回るには不都合なんだが、その不都合をなくすために、京都の裏事情を牛耳る存在(陰陽師だとか妖怪だとか)が俺たち悪魔用に発行しているのが、このフリーパス券なわけだ。まあ、俺は最初からも牛耳ってる妖怪やら陰陽師と知り合いだし、仕事用でもグレモリーからフリーパス券もらってるからそこまで驚けない。
「私たちのときもそうだったけど、きちんとした形式の悪魔にならこのパスを渡してくれるの。グレモリー眷属、シトリー眷属、天界関係者、あなたたちは後ろ盾があって幸せものなのよ?」
リアスがウインクをくれる。魅了されたイッセーが歓喜の声をあげた。
「はい! グレモリーばんざいっス! じゃあ、これを持っていれば清水寺も金閣寺、銀閣寺も余裕と?」
「そうよ。スカートか、制服の裏ポケットとかに入れておけば問題なく名所に入れるわ。――バンバン見て回ってきなさい」
「「「「「「「はい!」」」」」」」
返事をしてすぐに裏ポケットにカードを入れる。2枚になったけど、まあいいか。
アーシアのケータイが鳴った。
「もしもし。桐生さんですか? はい。ゼノヴィアさんとイリナさんも一緒です」
桐生さんからの呼びだしみたいだ。アーシアは電話を済ませると、リアスに一礼する。
「では、部長。私たち、行ってまいります!」
「行ってきます」
「行ってきまーす!」
「ええ、行ってらっしゃい」
アーシア、ゼノヴア、イリナがリアスに別れのあいさつをしてこの場をあとにする。
「では、僕もこれで。お土産、買ってきます。イッセーくん、行こう」
「あ、おい、木場!? 俺とおまえは別のクラスだろ!?」
「ゴメン、イッセーくん。新幹線に乗るまででいいから盾になって……」
「お、おい、顔色悪いな。どうしたんだよ、木場」
「ちょっとまだ女の子が怖くて、ね」
「――っ。そうか。わかったよ。出発までいてやるよ」
「ありがとう、イッセーくん」
「まあ、俺が原因みたいなもんだしな……」
と、木場に連れられてイッセーも去っていった。
残るは俺とリアスのみ。リアスは俺の肩に顔を寄せる。
「リアス?」
「……もう少しだけこうさせて。もう少しエイジを感じたいの。はぁ、エイジと離れるなんてすごく寂しいわ」
俺はリアスの頭をなでながら笑顔で言う。
「大げさだなぁ。修学旅行の間だけだし、家には黒歌やセルベリアたちもいるだろ」
「わかっているわ。けれど、寂しいの……」
かわいらしくすがりついてくるリアスを愛おしく思いながら顔を近づける。
リアスも俺に合わせて顔を近づけてきて――お互いの唇が重なった。
「帰ってきたらたっぷり甘えていいし、甘えさせてもらうからね」
「ええ、帰りを待ってるわ」
そうして離れようとしていたら、再びリアスが顔を近づけてきて――唇が重なった。
「これはいってらっしゃいのキスよ」
リアスはかわいらしい笑顔でそう言うと、改めて微笑んだ。
「じゃあ、いってらっしゃい、エイジ。帰りを待っているわ」
「ああ、行ってくるよ、リアス」
こうして俺の修学旅行は始まった。
◆
<イッセー>
新幹線が東京駅を出発してから10分ぐらい経った頃、
「俺、実は新幹線初めてなんだよなー」
ウキウキした表情で松田が前の席でつぶやいていた。
俺は新幹線に一度乗った記憶がある。と言っても物心ついたかどうかの頃だったはずだから、いまいち実感は薄いんだが……。
俺は車両の1番うしろの席だった。しかも一人。前は松田と元浜。通路を挟んだあちら側にはゼノヴィアとイリナが座る。
窓から眺める風景は車体が高速で動いているせいか、瞬時に移り変わった、隣でゼノヴィアとイリナが窓から外を眺めて談笑していた。
夏休みのときに乗った冥界行きの列車を思いだしながらしばらく外を見ていると、前の席から軽く黄色い声が上がった。視線を送れば――木場が前の車両から来ていたようだった。俺を確認するなり、こちらへ歩を進めてくる。
「え……? ひょ、兵藤のところに?」
「そ、そんな……木場きゅんがエロの領域に……」
「兵藤×木場きゅんは鉄板なのね!」
女子の悲鳴に近い声! 俺の席は隔離場所ですか!? ちくしょう! 俺にイケメンの友達がいて何が悪い!
俺の扱いの酷さに一時期木場を恨みもしたが、いまは大事な友人で仲間だ。奴を恨む理由は……無いわけでもない! イケメンはやっぱり、若干許しがたい!
「隣、座るよ?」
そうこうしているうちに隣の空いている席に木場が座った。
「……どうした? やっぱり女子が怖いのか?」
窓枠に頬付けをつきながら、俺は半眼で問う。女子恐怖症になってるそうだが、それでも俺からしたら木場が羨ましいよ。俺と違って何もしていないのに女子のほうから寄ってくるんだからさぁ。
「それも……あるんだけど。あちらに着いたときの行動を聞きたくてね。いちおう有事の際を想定してさ」
「あー、別クラスだもんな。おまえ、明日どこから行くんだっけ?」
「
「清水寺からかな。そのあと、銀閣寺と金閣寺。3か所比べると距離あるけど、1番有名な名所を一気に回るハードな2日目だ。で、3日目は天龍寺からゆっくり攻める」
「天龍寺か。僕の班も3日目にそこへ行くよ。時間があえば渡月橋あたりで会えるかもね。最終日は?」
「京都駅周辺を探索しながらお土産買って終了だ。イリナが京都タワー登りたいって言ってたな、そういえば」
班ごとのスケジュールは事前に立てて、先生に報告済みだ。班ごとの専用しおりまで作らされたもんな。
「エイジくんはどういう予定か知ってる?」
「ああ、エイジは真羅先輩と――」
…………。
「どうしたの? イッセーくん」
木場が怪訝そうにこちらを見てくるが――。
「そうだったぁぁぁぁっ! エイジの奴! 真羅先輩と2人っきりッ! 2人っきりで京都旅行じゃないかぁぁぁぁっ!」
「い、イッセーくん?」
「うおおおおおおおおっ! 神城の奴! 生徒会の副会長とデートって、あの野郎! きっと今回の修学旅行で決めるきだぜ、絶対!」
「羨ましすぎんだろぉぉぉっ! あの野郎ッ! 駒王の2大お姉さまだけじゃなく、片瀬や村山たちだけに飽き足らず、生徒会まで食らう気なのか!? ますます俺たちにまわってこねぇじゃねぇかぁぁぁっ!」
俺の咆哮に続けて、先ほどまで談笑していた松田と元浜も同調して叫ぶ! そうだよなぁ! 俺たちだって……俺だって、女子と2人っきりでデートしたいに決まってんじねぇかぁぁぁっ!
俺、松田、元浜の男3人はエイジの入れ食い阻止計画や闇討ち計画などを話しだした。
その話し合いである程度落ち着きを取り戻して松田と元浜がエロ談話に戻ったところで、木場が再び、別の事柄について話しかけてきた。
「そういえば少し前にイッセーくんって、ベルゼブブさまに会ったんだよね?」
「あー……、うん。会ったよ」
先日、家のインターホンが押されて誰か来たのかな? って玄関に出たらいきなり、
「ごきげんよう、赤龍帝。俺は現魔王、アジュカ・ベルゼブブだ。よろしく」
って言って挨拶されたんだよなぁ。
「魔王さまが訪問するなんて、いったい何の用だったんだい?」
「んー、何ていうかベルゼブブさまに個人的なアドバイスをいただいたんだよ」
「アドバイス?」
「ああ、『兵士』の特性と赤龍帝の力、俺が使った場合の相性だな。どうにも赤龍帝の力を使うとき、俺は『女王』を扱いきれてないんだ」
『女王』にプロモーションすることで力が底上げされるのは確かなんだが、赤龍帝のパワーも含めるとどうやら現時点での俺のキャパシティを超過するようで逆にドラゴンの力を使いこなせていないかとアドバイスを受けたんだ。
ようするにいきなりやることが増えたので、力の流れをうまく調整できていないと苦言を突きつけられたんだ。
『女王』になると、力が大きく増して、速度も上がり、ドラゴンショットの威力も上がる。けれど、それらすべてをきちんと使いこなせているかというとそうでもない。
『女王』が含む力のなかで『戦車』はともかく、『騎士』と『僧侶』の力は使いこなせていない。速度や魔力が上がっても、勢いに任せている部分も多くていまだに情けない場面もある。
といっても、『兵士』の大きな特徴はプロモーションなわけで、昇格はすべきだ。特に俺みたいにまだ弱い奴は。
「――赤龍帝の力を最大限活用したいのなら、まずは『騎士』や『戦車』を使いこなしてみろって言われたんだ。パワー、スピード、それらの特化型に赤龍帝の力をつぎ込んだほうが力の流れとやるべきことがわかりやすくなるんじゃないかって」
「……そうなんだ。だからサイラオーグ様との戦いで『戦車』にプロモーションしたんだね?」
「ああ、『女王』になったときよりもわかりやすかったよ。力の流れが攻撃と防御のみに伝わっていくのが強く認識できた。――俺、まずは各種の駒の特性で赤龍帝の力を使いこなしてみようと思う。それが、いまよりも強くなるための一番の方法だと思から」
俺の言葉を聞いて木場は笑む。
「サイラオーグさんとの手合わせでいきなり試すなんてキミらしいね。またイッセーくんは強くなりそうだ。本当、自分の力について探求しているよ」
「強大なパワーを持っていても使いこなさないとサイラオーグさんやヴァーリに勝てそうにないからさ。で、俺とサイラオーグさんの試合を見ておまえの感想は?」
俺の問いに木場はあごに手をやりながら言う。
「率直な感想としては、部長と同世代の悪魔でキミとまともなパワー勝負をやって、圧倒してくるなんて脅威としか思えなかったね。しかも素手だ。素手でキミの鎧を壊せるのは若手――いや、上級悪魔のなかでもあの人だけだろうね。正直、僕の防御力はサイラオーグさんの攻撃力にとってみれば紙も同然。足も速い。あれがトップスピードじゃないのはすぎにわかる。正面から打ち合って直撃をもらったら、僕だけじゃなく眷属のほぼ全員が致命傷を受けるよ」
「部長や朱乃さんやゼノヴィアたちなんかはかなり鍛えてもらってるから、ものすごく強くなってると思うんだけど?」
「それはそうだけど、さすがにサイラオーグさんの全力の攻撃をまともに受ければ、ね。実際にサイラオーグさんは枷をつけられた状態でもイッセーくんの鎧を破壊するほどの攻撃力を持っていたんだよ。敵の攻撃は基本回避する戦闘スタイルの部長たちではいくらなんでも防げないさ」
相変わらず正直な感想を漏らす奴だ。だからこそ信頼がおけるんだけどね。
「旅行から帰ったら対サイラオーグさんのトレーニングを改めて再開だな」
「そうだね。さて、お土産を買うときになったら連絡してくれないかな?」
「どうして?」
「中身が被ったらおもしろくないと思うからね」
「あ、なるほど。わかった、最終日に連絡する」
その確認を済ませると、木場は席を立って――、座った。
「どうしたんだ?」
顔色が悪い。本当にどうしたんだ?
木場は青い顔のまま、心配する俺に小声でつぶやいた。
「ごめん……イッセーくん。もう少し……ここにいさせて」
俺はその場で静かに立ちあがり、木場がやって来たほうに視線を向けた。……うん、女子が通路で待ちかまえてるな。このまま行けば元の車両に移動する前に捕まってしまうだろう。
…………まあ、木場がこうなってしまった原因は俺と……、アザゼル先生にあるんだし、助けてやるか。
「いいぜ。なんなら京都に着くまでいていいぜ」
「イッセーくん……」
木場は安心したような表情を浮かべた。……女子に囲まれる修学旅行なんて羨ましすぎるし、いつまでもここにいていいぜ!
さて、木場との話はこれでひと段落した。アーシアたちは楽しく談笑してる。
松田と元浜の野郎2人は……『……ZZZZZ……』と寝てやがる。
隣の木場も女子に話しかけられないように狸寝入りをしてる。
俺は背伸びをしたあと、瞑目した。
……京都に着くまで時間がある。神器のなかに潜ろうと思うんだ。これで通算何回目だろうか。かなり潜ってる。悪魔稼業を終えて、風呂に入ったあと、寝る前に必ず一度はやっているし、土日も潜っていた。
すべきことはただひとつ。――歴代の先輩たちと話す!
目を閉じて、ドライグに意識を任せることで神器のなかに入り込んでいく。
…………。
……暗い場所を抜けていくとそこには白い空間が出現する。広くて、ただ白い空間だ。
テーブル席が置かれ、そこには歴代の先輩たちが座り、うつろな表情でうなだれている。
『どーも、俺でーす。また来ましたー』
などと明るく話しかけてみても返事などあるはずもなく……。
俺と年齢と体格が似ている先輩に話しかけても……反応なし。
ドライグの声が上から聞えてくる。
『そいつは歴代のなかでおまえと同い年ぐらいの赤龍帝だった。才能に恵まれていてな。「覇龍」に目覚めるのも早かった。――が、力に溺れ、油断したところを他の神滅具所有者に屠られた』
『ああ、力に溺れれば相手が白龍皇でなくとも暴れる。あちらにも同様の所有者が過去にいただろう。「覇」の力はその力を一時の間、覇王にするが……。いつの時代も覇王は栄えない。長く続かないものだ。それが世の常だな』
ドライグの声音はまるで自分自身を語るような言い方だった。こいつも過去に力に溺れきったんだろう。
『それでも大切なものはあったんだよな?』
先輩は何も言わないが、きっとあったと思う。それでも力に流された。俺も……大切なものを失ったと感じたとき、力を求めた。部長をライザーから取り戻そうとしたとき、俺は左腕を対価にして力を求めた。まあ、結局は不発に終わったけど……。それにしても『覇龍』かぁ。
『……我、目覚めるは覇の理を神より奪いし2天龍なり、か』
『相棒』
『全部は唱えないよ。怖いし。ただ、わからないことがあるんだよな。無限ってんだ? 夢幻もわからん。なんで嗤って、憂うんだろうか』
そんなふうに前にドライグから教えてもらった、覇龍発動の呪文に関しての疑問を口にしていたときだった。
『無限はオーフィス。夢幻はグレードレッドを意味するの。オーフィスを嗤い、同じ赤いドラゴンであるグレードレッドを憂いたって感じたのかしら。この呪文、誰が作ったかまでは謎なのよね。やっぱり、神さまかしら?』
――っ! 第3者の声!? そちらへ顔を向ければ――若い女性が立っていた。ウェーブのかかった長い金髪。スレンダーな体。スリットの入ったドレスを着た美人のお姉さんだった!
……表情がある! 他の歴だの先輩たちと明らかに違う! 笑みを浮かべたまま俺のことを見てる。
『エルシャか』
『はーい、ドライグ。久しぶりね』
随分軽い挨拶を交わす女性だな。
『相棒、彼女はエルシャ。歴代のなかでも1,2を争うほど強かった赤龍帝だ。女性の赤龍帝では最強だな』
女性最強の赤龍帝!? いままで見たことないぞ! どこにいたんだ?
『不思議そうな顔ね、ボク? 所有者の残留し念のなかでも例外が2人いるのよ。私はその1人。ま、神器のなかでも奥に引っ込んでいるから普段はここまで出てこないんだけどね』
『……ベルザードと共にもう二度と出てこないと思っていたのだが』
『そんなこと言わないでよ、ドライグ。私とベルザードは奥でひっそりあなたのことを応援していたんだから。かつての相棒同士じゃない?ま、彼は猛威士気を失いつつあるけどさ……』
お姉さんは少しだけ寂しげな表情を浮かべていた。
『ベルザードがね、いまの赤龍帝くんに興味を持ったらしくて、私を寄越したのよ』
『ちなみにベルザードさんとは?』
俺が訊くとドライグが答える。
『そこのエルシャと共に歴代最強の赤龍帝だ。男のな。本当に強かった。白龍皇を2度も倒した男だからな』
『2度も!? そりゃすげぇぇぇっ!』
エルシャさんが改めて言う。
『それでね、これを渡してくれって』
彼女が取りだしたのは――鍵穴のついた箱だった。
『あなた、現ベルゼブブに「鍵」をもらったんでしょ』
『ええ』
パァ……。突然、手元が光り、小さな鍵が現れた、意識したわけじゃないけど、鍵が出てきやがったよ。これが家に来たときアドバイスと一緒にベルゼブブさまからいただいた「鍵」か。
エルシャさんが笑む。
『「鍵ってそのもののことをさしていたわけじゃないけど、手っ取り早く「鍵」も箱もそれらしいもので表現できたみたいね。この箱は赤龍帝のデリケートで、可能性に満ちた部分が入っているのよ。本来開けちゃいけないイタズラできない部分。けれど、ベルザードがね、あなたなら案外やれるんじゃないかって言うのよ。もちろん、「悪魔の駒」を得たあなただからこそできることだと思うけどね』
突然、エルシャさんが「ふふふふふ!」と笑い出す。
『おっぱいドラゴン! 乳龍帝! ベルザードと一緒に見てたわ。ここに来て、初めて私も彼も大笑いしたわよ』
と、カラカラと笑っていた。……恥ずかしい! 先輩に見られていたなんて!
『恥ずかしがらないで。ドライグも落ち込まないで、楽しみなさいよ。こんなにおもしろい赤龍帝は初めてだわ。ふふふっ、「覇龍」の不気味で呪われた呪文を吹き飛ばしてしまうぐらいおもしろい歌も作られたみたいだし。確か「おっぱいドラゴンの歌」だったかしら? 「おっぱいドラゴン乳龍帝」とかいうアニメも作られたようだし、私もベルザードの心を楽しませてくれたわ』
な、なんでエルシャさんがおっぱいドラゴンのことを!?
『うぐぐ……、それは相棒が全て悪いんだ……、俺は関係――』
『あら、あなたは「乳龍帝ドライグ」って呼ばれてるんじゃなかったかしら?』
『ぐはっ! え、エルシャ! 俺は「乳龍帝ドライグ」などではない! 俺は、赤龍帝ドライグだ!』
ドライグの精神状態を表すかのように白い空間が地震でも起きているかのように震えだした。
その話題でドライグを弄るのはやめて! もう何度も死に掛けるほど参ってるんだから!
『ふふふふ、まあ、楽しそうでいいじゃない。私とベルザードなんてまともな最期じゃなかったんだから……』
エルシャさんが箱をこちらへ差しだしてくる。
『だからこそ、私も彼も決心がついた。あなたを信じてみるわ』
俺は箱を受け取り、「鍵」を鍵穴に近づけてみた。……ちょうどのサイズだ。きっと合うんだろう。
『あなたと今回の白龍皇はいままでと別物ね。お互いを求めているわりに、目標が別にある。なんだろうなぁ。私たちがガチってたのが馬鹿らしくなるわ。――お開けなさい。ただし、開けたらさいごまで責任を持つこと。半端はダメ。何が起こってもそれを受け止めて一歩を踏み込むの』
俺はエルシャさんにそう言われながら、鍵穴に鍵を入れ――カチリと箱を開けたのだった。
――その瞬間、まばゆい光に包まれ――。
…………。
……目を開けたら、新幹線のなかだった。
……あれは夢? ドライグ?
『いや、おまえはエルシャから箱を受け取り、開けたぞ』
……そっか。じゃあ、箱の中身は?
『わからん』
おいおいおい! う、うーん! 特別変わったことは体に起きてないな。
神器のほうはどうだ?
『そちらのほうも変化なしだ。……ただ、箱の中身は外に飛びだしていった気がするのだが……』
……な、な、な、なぁぁぁぁああんだとぉぉぉぉっ!?
マジか! 俺の可能性が飛びだしていってしまったのか! このまま消失なんてシャレにならん! エルシャさんだけじゃなく、アザゼル先生やベルゼブブさまに会わせる顔がなくなるぞ! せっかくここまで協力をいただいたのによ!
『慌てるな。あれはおまえのものだ。必ずおまえのもとに帰ってくる。そういう因果を持っているのだからな』
とは言ってもよ……。
『それよりもしばらく俺に話しかけないでくれ……。昔の相棒にまで「乳龍帝」などと言われたんだ……』
『あ、ああ。わかったよ』
そううなずくとドライグの意識が遠のいていくのを感じた。相当ショックを受けてるみたいだな。しばらく不貞寝するつもりのようだ。
はぁ、それにしても俺の可能性はどこにいっちまったんだろう……?
ため息をついて困惑する俺の耳に――。
「う、うおおおおっ! おっぱい!」
「うわっ! 松田! 何をする! 俺の! 男の乳えおもんで何が楽しい!」
……前の席で松田と元浜がじゃれていた。クソ! 野郎の乳繰り合いなんて興味ねーよ! それどころじゃねぇんだ!
「はっ! 俺はいったい何を……。急に乳を求めだして……それで……」
「松田、おまえ、そこまでおっぱい欠乏症にかかって……。よし、今夜ホテルの部屋でエロDVD鑑賞会をしよう! 機材はすべて荷物に積んである!」
「マジか!」
ついつい俺もそれを聞いて前の席に身を乗り出してしまった! なんてことだ! ホテルでエロエロDVDが見られるのですか!
「おおっ、イッセー! それでこそだ! よーし! この日のために入手した『桃色爆乳景色・金閣寺』と『肌色巨乳模様・銀閣寺』を見ようぜ!」
俺と松田は元浜の言葉に大いに返事をした! いやー、箱の中身はいずれ俺のもとに帰ってくるというし、それならまずはおっぱいだよな!
「死ねエロ3人組!」「新幹線のなかまでキモい!」などというクラスの女子や「イッセーくん……」と、隣で呆れた様子の木場は無視した。
久々の更新! 途中まで書いてたのを書き直して急遽あげました!
ネギま! に浮気してそっちばっかり書いてたけど一段落したから、これからハイスクールD×Dの二期見ながらテンションあげて書いて行きます!