※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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第70話 波乱の予感 

<エイジ>

 

 

 京都へと向う新幹線の車内。イッセーやゼノヴィアたちと班が別なので、イッセーたちの班とは離れた座席に座っていた。

 

 俺の隣には真羅椿姫先輩。文庫本を片手に京都までの時間を潰していた。

 

 椿姫先輩は修学旅行に参加している2年生たちよりも1年先輩の3年生なのだが、今回特別に俺の監視……、というか首輪として参加することになったんだ。

 

 …………本当に、俺は生徒会からも学園からもどれだけ問題児扱いされてるんだ?

 

「どうかされましたか?」

 

 文庫本から視線を外してこちらを見る椿姫先輩。

 

「いえ、その……、ご迷惑じゃなかったですか?」

 

 本来なら椿姫先輩は学園で授業中のはずで、生徒会の副会長としての仕事もあったはず……、そもそも3年生が2年生の修学旅行についてこなくなってしまった原因に自分がなっていることが少々心苦しいんだ。

 

 俺のそんな問いに椿姫先輩は微笑み、首を横に振る。

 

「別に迷惑などと思っていませんよ。修学旅行に2度もいけることになってうれしいぐらいです」

 

「それならいいんですが……」

 

「ふふ、気遣ってくれるのはうれしいですけど、ちゃんと見返りも貰っているのでいいんですよ」

 

 見返りとは修学旅行前に渡した長刀のことだろう。迷惑をかけている分かなり丁寧に作作ったからな。

 

「これまで見たことがないような見事な長刀で……、しかも武器の手ほどきまでしてもらうんですから、こちらがお礼をいいたいぐらいです」

 

 普段クールな椿姫先輩を考えると珍しい満面の笑みを浮かべていた。心の底から思ってくれているようだ。

 

「ねえ、神城くん、お菓子食べる~?」

 

「椿姫先輩もどうですか?」

 

 ――っと、ここで前の席に座っていたポニーテールで巨乳美少女の村山さんと、美脚美少女で茶髪でカチューシャをつけているショートカットの片瀬さんが身を乗り出してお菓子を差し出してきた。

 

「ありがとう、もらうよ」

 

「ありがとうございます」

 

 俺も椿姫先輩も2人が差し出してきたお菓子を受け取り、食べる。うん、やっぱりジャガッリコとボッキーはおやつの定番だよね。

 

「あ、そうだ」

 

 村山さんが座席の背もたれから少し身を乗り出してきた。手にはトランプが握られている。

 

「京都まで時間あるし、皆でトランプしませんか?」

 

 村山さんの提案に片瀬さんもうなずき、椿姫先輩も誘う。

 

「真羅先輩も神城くんの監視ばかりじゃ楽しめませんし、私たちとも遊びましょうよ」

 

「それもそうですね。生徒会の仕事で同行することになってますが、仕事ばかりしてせっかくの修学旅行を楽しまないのは損ですからね」

 

 椿姫先輩は2人の提案に微笑み、文庫本をしまった。

 

 …………。自業自得とはいえ、問題児扱いが公式になってて嫌だな。

 

 ていうか、さすがはイッセーを含むエロ3バカや天使や悪魔が在籍しているクラスだよな。こちらとしてはありがたいことだけど、椿姫先輩が2年生の修学旅行に参加してるのを不思議がっていないどころか、楽しんでいるようだ。

 

 まあ、駒王学園がそもそも魔窟と呼べる場所で、教師も含む在籍しているほとんどの者が若干ズレていることは今に始まったことではないけどさ。

 

 椿姫先輩が了承したことで村山さんと片瀬さんが手際よく座席を迎え合わせにする。

 

 そして村山さんがカードを切って4人に配った。

 

 カードを配り終えた村山さんにシンクロするように片瀬さんが開始の音頭をとり、それにまたもや村上さんが合わせてくる。

 

「まずは定番のババ抜きから始めましょう!」

 

「罰ゲームとかもありにしますか!」

 

 いつもよりもやたらテンションを高く上げる2人に、椿姫先輩も乗っかり、

 

「罰ゲームですか。ふふっ、望むところです」

 

 と、まるで勝負師のような顔になっていた。ああ、椿姫先輩って見かけから負けず嫌いっぽかったもんなぁ。後輩相手でも手を抜く気なんてまったくないようだ。

 

「ところで罰ゲームって何をするんだ? お菓子でも賭けるのか?」

 

 罰ゲームの内容が少し気になり訊ねてみると、片瀬さんが罰ゲームの内容を提案してきた。

 

「ん~、お菓子じゃおもしろくないし、1番に勝った人が負けた人のなかから1人選んで、その人になにかしてもらうってのはどう? 2位になれば1位からのお願いを1回パスできる権利をゲットで、3位、最下位って要求できる願いが大きくなるとかいうのはおもしろそうじゃない?」

 

 片瀬さんの提案に椿姫先輩がメガネ越しに目を光らせる。

 

「つまり1番に勝った者が敗者になんでも命令していいということですね?」

 

 ババーンッ! という効果音を背負ってカードを格好良く広げる椿姫先輩。

 

 村山さんと片瀬さんにも火がついたようだ。

 

「ええ、そうです! この勝負に勝てば相手になんでも1つだけ命令していいんです!」

 

「そう、なんでも! 敗者は勝者に絶対服従! どんな命令でも叶えないといけないんです!」

 

 3人の勝負魂に火がついたようだ。かなりヒートアップしていて眼が怖い。お~い、2位になった人は命令を拒否できるパス権ゲットするっていうルールを忘れてないか~?

 

 4人が最初にそろっていたカードを抜き終えた瞬間を見計らい、村山さんが動いた!

 

「さあ、まずは私のターン! セオリー通りに時計回りで進めますよ!」

 

 どこかのデュエリストっぽく宣言して、隣に座っている片瀬さんのトランプを1枚引く!

 

「きたわ!」

 

 同じカードがそろったようで、村山さんがそのカードをカードケースのなかに置く。

 

 そして今度は俺の番! 村山さんがカードを差し出してくる。

 

 俺はそのなかの1枚を引いて……、よし! ペアだ。

 

「椿姫先輩」

 

 隣の椿姫先輩にトランプの裏側を向けて広げて差し出す。

 

 椿姫先輩は鋭い眼光で手を伸ばし、広げたカードの前で迷うように手を動かし……。

 

「これです!」

 

 バッと引いて、ニヤリ。

 

「まずは1枚……」

 

 ペアになったカードをケースに収めた。そして片瀬さんにカードの裏側だけを見えるように手に持ち、差し出す。

 

「これよ! くっ……」

 

 即断即決という風に片瀬さんがカードを引くが、どうやらはずれだったようだ。無言で村山さんに裏側を見せたカードを広げて差し出した。

 

「2順目ね。絶対に私が1番初めに抜ける!」

 

 気合たっぷりに宣言して2順目が始まった。

 

 …………これ、俺以外が勝ったら命令されるのは全部俺ってパターンだよな?

 

 殺気というか、気合が篭った視線が集中しててすごく熱いです。

 

 いったいどうなるんだ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 新幹線内で始まったババ抜きを10回戦ほど行ない、村山さんと片瀬さんだけでなく、周囲の班も交えてお菓子などを食べながら談笑していた頃、

 

『間もなく京都に到着します』

 

 アナウンスが流れた。談笑していた俺たちはそのアナウンスを聞いてそれぞれが下りる準備に入る。新幹線が駅のホームに停車し、俺と椿姫先輩は荷物を持って、2人そろって外へ出た。

 

 新幹線から降りた椿姫先輩は修学旅行のしおりを片手に俺の半歩前を歩く。

 

「では、まずは改札口へ向いましょう。それから集合場所となっているホテル一階ホールへと行きます。ちゃんとついてきてくださいね、エ……、エイジ」

 

「はい、椿姫せんぱ……、椿姫さん」

 

 少し恥ずかしさの入った声音で俺の名前を呼んだ椿姫先輩……、ではなく、椿姫さんに返事を返す。

 

 なぜ呼び方が変わっているかというのを簡単に、回想を交えながら説明すると、ババ抜きも4回戦辺りを迎えた頃。椿姫さんがババ抜きで初勝利して最下位の俺に罰ゲームを言い渡したときのことだ。

 

『ふふふっ、ついに私が勝利しました! 神城くん、私の罰ゲームを受ける相手はあなたです!』

 

『まあ、勝負でしたし、仕方がないですね。どうぞ、椿姫先輩。なんでもご命令してください』

 

『ふふっ、いい心がけです。では、私は……、そうですね……、うん、「先輩」と呼ぶのをやめてもらいましょうか? それと、私もあなたのことを「エイジ」と呼ばせてもらいます』

 

『え? そんなことでいいんですか? なんでも命令できるんですよ? ……当然、限度はありますけど』

 

『べ、別にいいじゃないですか! 私にとってコレは重要なことなんですから!』

 

 意外そうに訊ねる俺に、顔を背けて椿姫先輩は怒鳴った。

 

 かわいらしくヘソを曲げた椿姫先輩。怒らせてしまったなと、誠意を込めて、

 

『ごめん、椿姫』

 

 と、ちゃんと要望通り言ったのだが……。

 

『――っ! ま、待ってください! い、いきなり、そんな呼び捨てだなんて……』

 

 椿姫先輩はもじもじと恥ずかしそうに、顔を赤らめて縮こまった。普通はここで自分で呼べと言ったくせにだとか、呆れるだろうが、普段クールな生徒会副会長が行なうと……。

 

『『『(か、かわいい……)』』』

 

 あまりのギャップに、椿姫先輩以外でゲームに参加していた全員が萌えた!

 

 椿姫先輩のあまりのかわいらしさに、俺も暴走し始める。

 

『でも、椿姫。呼び捨てで呼び合うことが罰ゲームにはならないんじゃないか?』

 

『え?』

 

『俺としては椿姫に呼び捨てで呼ばれることも、呼び捨てで呼ぶこともうれしいことだからさ。むしろ罰ゲームというかご褒美だからさ?』

 

『そ、そうですか?』

 

 頬を赤らめて恥ずかしそうに両手で顔を隠す椿姫先輩。

 

『もちろん。椿姫のような美少女と親しそうに呼び合えるなんて男としてうれしくないわけがないじゃないか』

 

『――っ、あっ、あああまり私をからかわないでくださいっ……』

 

『ふふっ、そんなつもりはないんだけどな』

 

 もじもじしながらつぶやく椿姫先輩がかわいらしく、自然と笑みがこぼれてしまう。

 

 その笑みをこぼしてしまったのが気に障らなかったのか、椿姫先輩は少し怒った様子でむぅと唸って言う。

 

『ば、罰ゲームにならないと言うなら、そっ、そうですね……。……うん。あなたには私の個人練習に付き合ってもらいます!』

 

『個人練習?』

 

『はい、そうです! いままではゼノヴィアさんやアーシアさんたちと一緒でしたが、みっ、3日間ほどでいいのでマンツーマンで私に長刀の手ほどきをつけてください!』

 

『ああ、わかった。お引き受けるよ』

 

 うん、別に個人指導ぐらい引き受けていいんだけど、椿姫先輩のさっきの言葉、少しおかしくなってなかったか?

 

『そ、そうですか! はい、こちらこそご指導、よろしくお願いします』

 

 そう言ってばっと頭を下げてくる椿姫先輩。……もしかしてかなり動揺してる?

 

 ちなみに椿姫先輩と俺の会話中、片瀬さんと村山さんは先に勝利していて、俺にあるお願いをしていたので途中からはノータッチだった。

 

 まあ、こんな感じで呼び捨てと敬語なし、――はいろいろと体裁的に無理だったので、普段は敬語で名前も椿姫さんと呼ばせてもらうことになったのだ。

 

 椿姫さんについて駅内を歩いていると、

 

「きゃー! 痴漢!」

 

 などと女性の悲鳴が聞こえてくる。

 

「お、おっぱいを……」

 

 男性が手をわしゃわしゃさせながら、痴漢行為に励んでいたが、周りの男性たちに取り押さえられていた。

 

 …………よ、よかった。イッセーじゃなかった。

 

 おっぱいおっぱいと痴漢行為に励む男性にかなり心当たりがあったので、そいつが犯人ではないかと心配したがどうやら違ったみたいだ。

 

「…………ふぅ」

 

 おや? すぐ隣で椿姫さんも同じように安殿ため息を吐いてる。

 

 椿姫さんも俺の視線に気づいたのか、

 

「修学旅行中に生徒から逮捕者がでるのはさすがに……」

 

 とつぶやいた。……ああ、あなたもおっぱいとつぶやきながら痴漢する犯人に心当たりがあったんですね……。

 

 一応、同じように痴漢しそうな心当たり(イッセー)に目を向けてみると、少し前方で桐生さんの先導のもと、宿泊する予定のホテルへと向っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 京都駅から数分歩いたところに大きな高級ホテルが姿を現す。その名も「京都サーゼクスホテル」……あいつ、京都にまで影響力を伸ばしているのか……。

 

 ちなみに少し離れたところには「京都セラフォルーホテル」が建っている。京都駅周辺に高級ホテル建てすぎだろ……。絶対にサーゼクスと張り合ったな、セラたん。 

 

 この「京都サーゼクスホテル」はなんでもグレモリーが運営しているそうで、修学旅行では決して泊まれなさそうな高級ホテルなんだが、運営者のコネで部屋を格安で用意できるようになったそうだ。

 

 入り口に立つボーイに学生証を見せて、ホールのほうへと案内してもらう。

 

 ロビーから少し進んだ先にホールの入り口が見えてきた。入ると、広いホールにすでにかなりの数の駒王学園の生徒が集まっていた。そのなかにはイッセーたちの姿もあった。

 

 俺と椿姫さんが入って間もなく集合時間が来て、各クラス、班ごとに点呼が始まり、いない人の確認が始まった。

 

 全員がホールの床に座り、先生たちの注意事項に耳を傾けていた。

 

 アザゼルとロスヴァイセは何やら2人で話しこんでいるようだが……。

 

 あ、ロスヴァイセの番になって、生徒たちの前に立った。何か注意事項か?

 

「百円均一ショップは京都の地下ショッピングセンターにあります。何か足りないものがあったら、そこで済ませるように。お小遣いは計画的に使わないとダメです。学生のうちから豪快なお金の使い方をしてもろくでもない大人になるだけですよ。お金は天下の回り物。あれやこれやと使っていたらすぐになくなります。だからこそ百円で済ませなさい。――百均は日本の宝です」

 

 百円均一の話かよ!? しかも、すごく熱く語ってるし……。

 

 はぁ、そういえばロスヴァイセは日本に来てから百均で買い物済ませてばかりで、セルベリアから下着ぐらいはいいものを選びなさいって怒られていたな。倹約もいいが、年頃の娘として、もうちょっとオシャレにお金を使ってもいいと思うぞ、俺は。

 

 アザゼルもロスヴァイセの熱弁に額に手をやってしまっている様子だ。

 

 ロスヴァイセの話はそこそこで終わり、他の先生にバトンタッチした。その先生の最終確認が始まる。

 

 ロスヴァイセは就任してすぐに生徒から人気を得た。美人で真面目なのにどこか抜けているから、そこが男子にも女子にもクリーンヒット。さらに生徒と歳が近いため、「ロスヴァイセちゃん」って親しみを込めて呼ばれたりもする。

 

「――っと、以上に気をつけてください。それでは部屋に荷物を置いたら、午後5時半まで自由行動をしていいですが、遠出は控えてください。範囲は京都駅周辺までとします。5時半までには部屋に戻るように」

 

 前に立つ教師の最終確認を聞いたあと、

 

『はーい』

 

 2年生全員の返事での点呼及びホテル内での注意諸々、午後の行動についての説明が終了した。

 

 各々荷物を持って、ホール出入り口でホテルの従業員から部屋のキーを受け取る。通常の生徒は洋室の2人部屋なんだが、俺は生徒会副会長を監視として付けられるほどの問題児らしいので、教師たちが宿泊する部屋に比較的近い、和室で1人寂しく泊まることになっていたんだ。ちなみに3年生である椿姫さんはロスヴァイセと相部屋らしい。

 

 まっ、1人といっても誰かの部屋に遊びに行けばいいだけだし、イッセーなんかは元浜と松田と2人部屋に押し込められて男3人で寝るそうだからな。それよりもだいぶマシだと思う。

 

「お~い、エイジ」

 

 話をすればイッセーが近づいてきた。後ろには元浜と松田が。残りのメンバーである桐生さんたちは別れて女子の部屋に向ったようだな。

 

「一緒に部屋に向おうぜ、1人部屋なんだろ?」

 

「ああ、1人部屋がどうなってるか見たいのか。わかった。俺も洋室に興味があったしな」

 

「じゃあ、行こうぜ」

 

 イッセーの言葉にうなずいて俺たちは部屋へと向った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 駒王学園の生徒が泊まるホテルの部屋は広い洋室の2人部屋だ。なかを通されるとおおきなベッドが2つと京都駅周辺を窓から一望できる風景を目の当たりにする。

 

「すっげぇぇぇぇえっ!」

 

「駒王学園に入学してよかったと改めて思うな」

 

「これが俺たちが泊まる部屋か~!」

 

 はしゃぐ松田と静かに感動している元浜、窓に張り付いて叫ぶイッセー。

 

 この部屋はイッセーたち3人の部屋だが……、いったいだれが、ソファか床で寝ることになるんだろう? イッセーたちは忘れているようだが部屋は元々2人部屋でベッドは2つ。隅に布団一式が置いてあるぞ。……おそらく夜には激しい争いが起こるだろう……。

 

 さてと、俺が泊まる予定の1人部屋はどうなってるかな?

 

 男子が泊まる部屋から上に2つ上がり、隅に一部だけ明らかに他と違う和風な引き戸が現れる。

 

 ――開けると。

 

「ここが俺の部屋か?」

 

 先ほど入ったイッセーたちの部屋と明らかにランクが劣る八畳一間の和室だった。古ぼけたテレビ、丸いテーブルなど最低限のものしかない……。しかもすべてが古い……。

 

「あははははは! マジかよ! この部屋だけ和室じゃん! しかも八畳ぐらいか? いやー、さすが学園一の問題児だな!」

 

「ベッドでなく、敷き布団か。しかも1人だけ。これは……旅行資金のやりくりがこんなところに影響を及ぼしたのか?」

 

 爆笑する松田と、笑いを堪えながら分析する元浜!

 

 イッセーは……、

 

「くっ、ぐふふっ……! ぐふっ」

 

 両手で口を押さえて笑いを殺していた……。おい、笑い声も漏れてるし、目元が完全にニヤついてるぞ、コラ。チラチラ見るな。

 

 はぁ……。とりあえずトイレと風呂は……、一応ついてるな。でも洋室ほど華やかな造りではない。

 

 重たいため息を吐いていると、扉がノックされる。

 

「エイジくん? ここに来てます?」

 

 ロスヴァイセだった。すでにジャージ姿だった。着替えたのか。

 

 ロスヴァイセは俺に近づくと、耳打ちしてきた。

 

(こんな部屋で申し訳ありません。一応この部屋は私たちが話し合うときに使うようリアスさんが用意してくれた場所でもあるんです)

 

(ここで話し合い?)

 

(はい。京都で何かあったときに話し合いができるところは確保しておいて損はなしです。まあ、元々その部屋はエイジくんの部屋に割り当てられていたんですけどね)

 

 そう言って不適に笑むロスヴァイセ。すみません、問題児で。

 

 それにしても悪魔な俺たちが話し合う場所兼俺の部屋かぁ~。

 

(大勇者さまをこんな部屋に寝かせるのは抵抗があるのですが、我慢してくださいね)

 

(別にいいよ。自業自得のようだし。それよりも大勇者は止めてくれ)

 

(はい、わかりました。エイジさま)

 

(はぁ、さま付けも止めて。ていうか、ワザとだろ?)

 

(ふふ、すみません。エイジくん)

 

 俺の言葉にうなずいたロスヴァイセは改めて言う。

 

「というわけで、私は教師の会合があるのであとは任せます。午後は自由行動ができるといってもハメを外さないように。……京都の皆さんに迷惑をかけてはダメですよ?」

 

『はーい』

 

 俺たちは元気よく返事をする。

 

「さて、まずはアザゼル教諭を捜すところから始めないと。あの人……、ホールでの確認を終えて早々に姿をくらまして……。これだからグリゴリの総督は……」

 

 と、文句をつぶやきながらロスヴァイセは部屋をあとにした。アザゼル、さっそく消えたか。旅行に行く前から、「舞子だ! まずは舞子だ! 次に京料理をたらふく食うぜ!」と大人な楽しみ方を口にしていたからな。駒王協定前に俺がやったマップも持ってきているようだったし仕事する気ないな、あいつ。

 

 アザゼルが羨ましいのか悔しそうな表情を浮かべていたイッセーに元浜が地図を出しながら言う。

 

「なあ、イッセー。午後の自由時間、本来の予定にないけど伏見稲荷に行かないか?」

 

「伏見稲荷? あー、確か、鳥居がすげー並んでいるところか?」

 

「そうそう。京都駅から一駅で行けるんだけどさ。さっき、他の先生に聞いたらOKが出たんだ」

 

「へぇ、先生の了解を得ているなら行って損ないかもな」

 

 イッセーの意見に松田はカメラのレンズを拭きながら言う。

 

「行けるときに行かないと京都の名所を見て回れないぜ?」

 

「じゃあ、アーシアたちも誘って行くか! エイジも行かないか? 伏見稲荷!」

 

 イッセーが俺も誘ってくれるが……。

 

「すまない。椿姫さんはもちろんだけど、片瀬さんと村山さんたちと京都駅周辺を探索することになってるから」

 

 そう断わると、

 

「なにぃいいいい!? 片瀬とだとぉおおおお!?」

 

「村山と……、村山と神城が……」

 

 元浜と松田がものすごい形相になった……。えっ? こいつらまさか……。いや、2人が好きだったら覗きなんて嫌われることなんかしないよな?

 

 元浜と松田のただならぬ様子にイッセーも戸惑っているようで、いつのもような射殺さんばかりの視線を送ってこない。

 

 それどころか、

 

「お、おい! ほら、アーシアたちを誘いに行こうぜ! なっ? エイジなんか放っておいてさっさと行こうぜ!」

 

 と2人の背中を押して強引に部屋から出て行かせてくれた。ふむ、助かったから、エイジなんかという発言は許そう。

 

 ん~、それにしても伏見稲荷か。京にやってきたんだし、八坂と九重にもあいさつしないといけないが、まあ、あとででいいか。少し前にも会ってたんだし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 

 京都駅から2駅進んだところに「稲荷駅」があり、そこから下車することで伏見稲荷への参道に入ることができる。

 

 俺たちは電車に数分揺られて稲荷駅へ到着した。

 

 到着したのだが……。

 

「イッセーくん。ほら、珍しいものがたくさん店頭に並んでいるよ」

 

「あー、そうだな」

 

「稲荷神社らしく狐がたくさん祭られてるね」

 

「あー、そうだな……」

 

「ここでお土産買っておく?」

 

「あー、そうだなぁ……。――って、なんで女子が1人もいないんだよぉぉぉぉっ! 野郎4人って、野郎4人って……」

 

 クソぉ! なんで野郎4人で京都観光しなきゃいけなんだぁぁぁっ!

 

 し、しかも駅のベンチでは……、

 

「やっぱり俺たちの修学旅行は灰色なんだな……」

 

「ふ、ふははは……、せっかくカメラを持ってきたのに野郎しか写せないなぁ。はははは……、野郎でフィルムを消化するしかないのかぁ……」

 

 残りの野郎2人である元浜と松田がうなだれていた……。

 

「大丈夫かな、イッセーくん」

 

 そんな2人を心配そうに、俺たち3人に新たに加わったもう野郎が心配そうに見つめていた。

 

 金髪の爽やかなイケメン。我らがグレモリー眷属の騎士、木場祐斗だ。

 

 なぜこいつがいるのかというと、俺たちが部屋に荷物を取りに行ったときにホテルの玄関ホールで大勢の女子生徒に囲まれ、青い顔をしていたところを助けたからだ。

 

 まあ、助けたといっても女子生徒に囲まれてる木場が妬ましかったから一緒に来ないかと誘ったわけだが、まさかこんなことになるなんて……。

 

 くうっ! まさかゼノヴィアとイリナだけでなく、アーシアや桐生まで先約があるなんて!

 

 しかも、その予定ってのが椿姫先輩との京都駅周辺の散策らしいし! クソっ! おそらくエイジも一緒だろう!

 

 アーシアたちにやんわり断わられたあと、半ばヤケクソになった元浜と松田に連れられて伏見稲荷へやってきたが、先ほどまでバカみたいにテンションを上げていた2人もいまは熱も冷めてベンチでうなだれている。

 

「ほら、元浜、松田! そろそろ行くぞ!」

 

「イッセー……」

 

「……なんでこの状況で元気なんだよ?」

 

 まるで地獄の底の亡者のような低く淀んだ声で訝しげにこちらを視線を向ける2人。俺もこのまま野郎4人での京都観光なんて御免だが、もうここまで来てしまったんだ。諦めて行くしかないだろ! 嫌だけど……。

 

 俺と木場が参道へ足を向けると、元浜と松田もベンチからゆっくり起き上がりトボトボと歩き始めた。

 

 一番鳥居を抜け、大きな門が出てきた。両脇に狛犬のような狐の像が立っている。

 

「ああ、あれは魔除けの像だよ。本来なら僕たちのような魔の存在を寄せ付けない力があるんだけど、例のパスのおかげで騒ぎが起きてないんだよ」

 

 と、木場が狛犬もどきの狐を見ながら言う。

 

 ん~、そう言われれば……。

 

「何かに見られてる?」

 

 さっきまでいろいろあって気づかなかったが、木場の言葉で俺たちに付きまとう違和感に気づいた。そう、だれかに監視されているような気配がある。

 

「まあ、当然だね。僕とイッセーくんは悪魔だし。ここを司るものにとってみれば外部からの異質的存在だ。事前に話は行ってるんだろうけど、それでも一応の監視はするだろうね」

 

 まあ、考えてみればそうか。京都は日本のいろんな超常的存在が集まっているって聞いていたし、彼らにしてみれば俺たちが部外者なのは確かだ。

 

 ちょいと気にしつつも無事に門を抜けられた。進むと本殿。さらに歩くと稲荷山に登れる階段が見えてくる。俺たちはゆっくりと進んでいく。会話はほとんどない。うしろから時々聞えなくてもいい元浜と松田がエイジに向って唱えている呪詛は聞えていたが……。

 

 そのまま流れで俺たちはついに千本鳥居を見ながら山登りに挑戦をすることになる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歩き始めて数十分。

 

「……ぜーはー……ま、待ってくれ……。ど、どうしておまえたちはそんなに動けるんだ……?」

 

 元浜はすでに息があがっていた。松田がそんな元浜に階段の上から激をとばす。

 

「情けないぞ、元浜! 俺たちは絶対に社まで行くんだろ! がんばれよ!」

 

 松田は運動神経バツグンだから、これぐらいで根をあげない。それよりもどこかの軍曹のような形相で叫ばないで欲しい。

 

「そ、そうだった! はぁはぁ……、俺は、神城を呪うために……、童貞を捨てるために……!」

 

 も、元浜もそういうことを大声で言わないでくれよ……。他の観光客が一気に距離をとったぞ。

 

 ちなみに俺と木場は息も乱れていない。

 

 俺も木場も悪魔で、俺にいたっては夏休みに山籠りを経験しているからな。

 

 途中、休憩所のお店を見ながらも伏見山への挑戦は続く。元浜はすでに息切れ状態だが、まだまだ眼は死んでいない。そこまでエイジを呪って童貞卒業を神に願いたいのか。

 

「おー、絶景だな」

 

 山の景色に思わず声をもらす。

 

「そうだね、イッセーくん」

 

 俺の隣に立って同意するのはイケメンの木場のみ。

 

「…………」

 

「どうしたの?」

 

「いや、なんでもない……」

 

「せっかくだし写真でも撮っておこうか? アーシアさんたちにも見せてあげよう」

 

「……そうだな」

 

 木場は元浜からカメラを借りて伏見稲荷の山風景を収めていく。そのなかには俺と木場、元浜と松田の悲しいツーショットがあったことは……、すぐに忘れたい。

 

 はぁぁぁ……、しっかし、本当に進めど進めど赤い鳥居ばかりだな。しかも鳥居には会社やお店の名前が記されている。伏見稲荷に願いを込めてお供えしたものだろうか?

 

 はぁぁぁ……、なんだか無性に山を登りたくなってきた。野郎4人での登山が相当俺のストレスになっていたようだ。ああ、頂に立ちたい。立って大声で叫びたい……。

 

「わりぃ、俺、ちょいとお先にてっぺんまで行ってみるわ」

 

 俺は皆に断りを入れてから、階段を勢いよく駆け上がった。

 

 人間だった頃なら、この山登りで死に掛けていただろうけど、悪魔になってから修行漬けだったんで余裕余裕!

 

 他の観光客の邪魔にならぬよう、階段を上っていく。そして、頂上らしき場所に出る、

 

 …………。そこにあったのは古ぼけたお社だ。

 

 うーん、ここが頂上? 正直言うと、途中、他に行く道とかもあって、適当に走ってきたようなものだった。他にも観光できる場所があっただろうな。

 

 辺りは木々でうっそうとしていて、まだ日が出ているというのに薄暗い。

 

 ザァァァァ……。

 

 風で木々がざわめく。人気もないしな。俺以外誰もいないや。さて、どうしたものか。

 

 このお社に手を合わせて下山しようかな。皆もそこそこあがっているだろうし。

 

 お社でパンパンと手を合わせ、

 

『おっぱいをたくさん見て触れますように! 彼女ができますように! 部長と朱乃さんとエッチができますように!』

 

 と、卑猥なで正直な願いを念じる! そして、さらにエイジに対する呪詛を願おうとして脳裏にある場面が思い浮かぶ。

 

 サイラオーグさんと手合わせしたときの場面だ。

 

 あのときサイラオーグさんと戦っていた俺を心配したアーシアが乳をつついたらパワーアップするって提案して……、部長と朱乃さんにおっぱいつつかせてもらえませんかってお願いして……、拒絶されたんだよなぁ。

 

 まあ、人前で乳をつつかせるなんてだれだって断わるだろうけど、うう……。

 

 2人ともエイジの背中に隠れるって……、やっぱり付き合ってんのかなぁ?

 

 呪詛を唱える気にもなれず、少し落ち込みながらその場をあとにしようとしていると――。

 

「……京のものではないな?」

 

 ――っ。

 

 突然の声。周囲に気を配らせると……。

 

 あらら、なんか、俺、囲まれてる? 明らかに人間じゃない気配が複数存在する。

 

 ……強大ってほどでもないけど、数がけっこういそう。って、俺、これぐらい感じられるようになったんですよ! 囲まれるまで気づきませんでしたけど! 確実に成長してる!

 

 少し身構える俺のもとに現れたのは――巫女装束を着た小さなかわいらしい女の子だった。

 

「……女の子?」

 

 キラキラ光る金髪に、金色の双眸。小学校低学年ほどの容姿だ。

 

 だが、頭部に生えるものをみて人でないと理解する。

 

 ――獣の耳。

 

 小猫ちゃんみたいに頭部に耳が生えている、感じからすると猫又ではないな。お尻からはもふもふしてそうな尻尾が! 犬の妖怪? いや、伏見稲荷ってぐらいだから、狐か?

 

 つーか、なんでお狐さまが俺のもとに? 悪魔だから? でもパスがあるしな……。

 

 さっきから感じていた監視の目はこいつらか?

 

 ハッ! まさかおっぱいで不純な願い事は御法度!? などと思っているうちに獣耳の少女は俺を激しく睨み、吐き捨てるように叫ぶ。

 

「余所者め! よくも……ッ! かかれっ!」

 

 少女の掛け声とも共に林から山伏の格好の黒い翼を生やした頭部が鳥の連中と、神主の格好をして狐のお面を被った奴らが大量に出現する!

 

「おおっと! なんだなんだ! か、カラスの、て、天狗……? 狐?」

 

 初めての相手に驚く俺だが、少女は容赦なく指を俺に向ける。

 

「母上を返してもらうぞ!」

 

 天狗と狐神主が同時に襲いかかってくる!

 

 俺は瞬時に籠手を出現させ、そいつらの攻撃をかわしていく! こ、これぐらいならまだなんとかやりすごせるけど!

 

「は、母上? 何を言ってんだ! 俺はおまえの母ちゃんなんて知らないぞ!」

 

 俺は少女にそう叫んだ。マジで知らないって! こいつの母ちゃんのことなんて京都に来たばかりの俺が知るわけないだろ!

 

 しかし、少女は問答無用のご様子だ!

 

「ウソをつくな! 私の目は誤魔化しきれんのじゃ!」

 

 誤魔化してございませんよ! ったく、俺ってば京都についてからというもの全然ついてねぇ!

 

 とりあえず、逃げの一手だが、天狗の錫 杖(しゃくじょう)が俺に降りかかる。一撃食らうか!?

 

 覚悟をしたそのとき――。

 

 ギンッ!

 

 俺の代わりに相手の錫杖を受けてくれる人影が――。

 

「大丈夫かい!? イッセーくん!」

 

 木場が加勢しに来てくれた!

 

 木場は両手に炎の魔剣と氷の魔剣を手にしていて、そのまま錫杖を破壊した。

 

「君たちは何者だい?」

 

 魔剣を構えて殺気を放つ木場。おいおい、確かに襲われていたけど少女に本気の殺気なんか向けるなよ。こいつも相当ストレスが溜まっていたようだな。

 

 木場の殺気に少女一行さまは怯む。そしてすぐに怒りの表情を浮かべた。おい、さっきより怒ってないか?

 

「……そうか、やはりおまえたちが母上を……もはや許すことはできん! 不浄なる魔の存在め! 神聖な場所を穢しおって! 絶対に許さん!」

 

 ……もう話し合いはできそうにない! 木一方的にやられててすごい不快だけどさ!

 

 こうなったら、とりあえずこの場を凌ぐぐらいはやらせてもらおう。

 

 だけど、アーシアがいないからプロモーションは使え――。

 

「イッセーくん!」

 

 ん? 木場? なんだ、どうしたんだ? 

 

 木場は学生服のズボンのポケットからグレモリーの紋章入りカードを取りだし……。

 

「……おい、何でおまえが持ってるんだ?」

 

 それは部長が京都で有事があった際にとアーシアに持たせた、部長の代わりにプロモーションを承認できる代理認証カードだろう? 俺と常に一緒にいるであろうアーシアに持たせたカードだろう?

 

「何かあったときに困ると思ってアーシアさんから借りていたんだよ!」

 

「そ、そうか……」

 

 少し複雑だけど、まあ、実際に役に立ってるんだし……。

 

「助かったぜ、木場!」

 

「うん!」

 

「さてと、行くぜ! え、えーと……」

 

『女王』! といきたいところだが、実戦でも他の駒に慣れておかないとな! この伏見稲荷という名所で戦うには破壊力のある駒ではダメだ。

 

 部長にも直々に「いいイッセー? 京都を壊してはダメよ? 他の勢力にも怒られるし、悪魔の業界にも迷惑をかけるわ。何より私の好きな京都を大切にしてね」と念を押された!

 

 部長の好きな場所は壊せん!

 

「よっしゃ、『騎士』にプロモーション!」

 

 体に力が流れ込み、体が軽くなった感覚を得る! 走り込みで翻弄するだけなら、稲荷大社を傷つけないだろう!

 

 いちおう、ブーステッド・ギアを30秒だけ溜めてから力を増加させる!

 

『Explosion!!』

 

 神器の力を発動! これでよし!

 

 木場は炎と氷の二刀流だ。数で負けている分手数で押し切るつもりのようだが。

 

「木場、よくわからんけどここは京都だ。理不尽なことになってるけど、相手と周辺を傷つけるのはマズい。できるだけ追い返す程度に留めるぞ」

 

「わかったよ」

 

 俺の意見に木場は素直に応じた。できれば殺気も収めてくれ……。

 

 バッ!

 

 一斉に少女の一味が襲いかかってきた!

 

 木場は炎と氷の魔剣でそいつらをいなし、相手の獲物を破壊しながら圧倒していた。俺も敵陣に突っ込み、攻撃を素早く避けながら蹴り飛ばすぐらいの攻撃を放つ。

 

 よし、木場はもちろん、俺も相手よりも上だ! それにずっと2人で修行していたから連携も完璧! 動きもこちらが早いぜ!

 

 実戦のなかで『騎士』の動きを覚えてみせる!

 

 俺たちのほうが上手だと感じた奴らは、後方に退いていった。

 

 少女は俺たちを憎々しげに睨んだあと、手をあげる。

 

「……撤退じゃ。いまの戦力ではこやつらに勝てぬ。おのれ、邪悪な存在め。必ず母上を返してもらうぞ!」

 

 少女がそれだけ言い残すと、一迅の風と共に連中は消えていった。

 

 ……ったく、なんだってんだよ!

 

 俺たちは構えを解いて、意味不明で理不尽な襲来に困惑してしまった。

 

 ――京都。

 

 起こって欲しくなかった何かが起こりそうな予感がした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――修学旅行初日の夜。

 

『ごちそうさまでした!』

 

 俺たちはホテルでの夕食を終えていた。豪華な京料理ばかりでした。湯豆腐、マジうまかった! 湯葉ってあんなに繊細で柔らかな食感なんだな……。京野菜も珍しくておいしかったぜ。

 

 ――やっと一息つけた。

 

 襲撃を受けたあと、俺たちは素早く松田たちと合流し、警戒しながらも伏見稲荷での観光を終えた。元浜も松田も願い事するまで帰らねぇ! ってうるさかったけど無理矢理下山させた。命には代えられないからな。

 

 帰ってから、アザゼル先生とロスヴァイセさんに事を報告。2人とも困惑していた。

 

「なぜ京都で襲撃を受ける?」――と。

 

 事前に俺たち悪魔が京都旅行することは、ここを統べる者たちに伝えているはずだった。

 

 先生はもう一度確認を取ると言っていた。部長に報告すべきか迷ったんだけど、先生が「まだ何が起こったかわからない。余計な心配をあいつに与えるな」と言われて、踏みとどまったんだ。

 

 確かに部長に報告するには情報が足りなさすぎる。ちなみにエイジたちへの報告はアザゼル先生がやってくれるそうだ。まっ、俺たちの近くには一般生徒がいるからそのほうがいいだろう。

 

 ……つーか、飛びだしていった俺の可能性はいずこに……。

 

 いちおう、先生にも報告したんだけど、

 

「いつかおまえのもとに帰ってくるなら、待つのもひとつの手だ。旅行中は待ってみたらどうだ? まあ、ここに来ている俺の配下の者にそれらしいものが見つかったら報告するよう言っておく」

 

 と返されてしまった。

 

 うーん、京都について早々いろいろ起こってるな……。で、これらの件については上役に一任いたしました。

 

 食事を終え、ロビーのテーブルでスケベ2人と女子たち、エイジと椿姫先輩とひょっこり現れた木場を入れて明日の確認とそれぞれの京都観光がどうだったか話した。はい、予想通りエイジと椿姫先輩は一緒に行動していて、アーシアたちもその輪にいたそうです。こちらと違って襲われることもなく、すっごく楽しかったらしい。ちくしょう……。

 

 そのあとは元浜と松田と共に部屋に戻り、くつろぐこと十数分。

 

 先ほどまで部屋のソファやベッドでくつろいでいた全員がタイミングを見計らっていたかのようにそろって起き上がった。

 

「頃合だな」

 

 俺の言葉に2人はうなずく。何も言わなくても、特に会話を交わしていなくても3人の目的は同じだ。

 

 そう! この時間帯、大浴場でお風呂タイムだ! 覗くしかない! いつもは俺たちをバカにしているクラスの女子ども! くくくくく! 俺たちがその全裸を舐めるように見てしんぜよう! 

 

 初日の午後は野郎4人で過ごすという最悪な状況だったこともあり、全員気合たっぷりだ! 自然とこぼれる笑み。湧き上がる性衝動! さあ、行くぞ!

 

 先走る心をなんとか抑えて、3人そろって部屋の扉を静かに開ける。左右確認。……ん?

 

「エイジ?」

 

 廊下をエイジが歩いていた。こちらに向っているようで、手には缶ジュースが5本。

 

 エイジもこちらに気づいたのか歩く速度をあげて近くにやってきた。

 

「おお、イッセー、それに松田に元浜も、まだ部屋にいたみたいだな」

 

「どうしたんだ? そんなに缶ジュースなんかもって」

 

 俺は普段通りに訊ねてみる。まさか覗きしようとしていたことがバレたのか? 前もって潰しに来たとか?

 

 エイジを警戒する俺たち。エイジは俺たちに似てエロ方面で問題児だが、俺たちとはまったく違う! はっきり言って童貞とそうでないもの。モテ男と非モテ男。クソ! こいつは覗きをする必要もないから余裕なんだ! 覗きをしに行くと知ったら絶対に妨害してくるだろう。

 

 元浜も松田もそれがわかってるのか、エイジを警戒している。

 

 エイジは俺たちがいまから覗きをしに行くとは気づいていないのか、両手に抱えた缶ジュースを差し出してきた。

 

「さっき別のクラスの女の子たちにもらったんだけど、いくらなんでもひとりで缶ジュースを5本も飲むのはな。だからおまえらにも分けに来たんだけど……」

 

「おお、マジで? もらっていいのか?」

 

「ありがとよ」

 

「ありがとう」

 

 俺を始め、元浜も松田も礼を言いながら缶ジュースを受け取る。うん、少しまえまでエイジに対して恨み言を言っていた2人とは思えないぐらい爽やかに受け取ったな。

 

 よし、このままエイジを部屋に帰してしまおう。んー、それにしても缶ジュースか。何か仕込んでないよな?

 

 訝しげに缶ジュースを見ると、見たことも聞いたこともない缶ジュースだった! なんなんだ「ドーピングコンソメジュース」って? ものすごく怪しい飲み物じゃないか。

 

「エイジ、このジュースは?」

 

 俺が訊ねるとエイジは缶ジュースを1本脇に抱え、もう1本を開けた。

 

「ああ、京都でしか売ってない珍しいジュースなんだよ。なんでも飲むと一時的に体力が上がったり、視力が上がったりするらしいんだ。不思議だよなぁ」

 

 説明しながらエイジは缶ジュースに口をつける。

 

「……うん、なかなかうまいな。ジュースだと思わなければ」

 

「そ、そうか、うまいのか……。そういえば残りの1本はどうするんだ?」

 

「ああ、これは木場に持って行ってやるつもりだ。それじゃあ、俺の用は終わったから行くな?」

 

「あ、ああ……」

 

「じゃあな」

 

「ジュースありがとう」

 

 俺たち3人が礼を言うとエイジはそのまま廊下を歩いていった。……もう姿は見えない。はぁぁぁ……、なんだよ。別に覗きに行くのはバレてないのか。

 

 缶ジュースも自分で飲んでいたし、取ったのも俺たちだ。木場にも渡すようだから薬の類は仕込まれてないだろう。

 

「とりあえず部屋にジュースを置いてから行くか」

 

『…………』

 

 俺の提案に元浜と松田は無言で、缶ジュースを見つめていた。どうしたんだ?

 

 松田が缶ジュースを観察しながら言う。

 

「なあ、イッセー、元浜。さっき神城の奴が言ってたけど、これ飲んだら視力が上がるんじゃねぇか?」

 

 松田の言葉に元浜もうなずく。

 

「そうだな。一時的らしいが、もしも本当なら体力の他に視力が上がって覗きの成功率が跳ね上がるだろうな」

 

 ――っ!

 

 松田と元浜の言葉に俺は衝撃を受ける! そうだ! エイジは体力の他に視力が上がると言っていた! 視力が上がるなら湯煙で視界が悪くなっていても見えるんじゃないか!?

 

 ごくりと俺たちの喉がなる。

 

 松田が缶ジュースのプルタブに指をかける。

 

「の、飲むか?」

 

 元浜も同じくプルタブに指をかける。

 

「そ、そうだな」

 

 2人に続いて俺も缶ジュースのプルタブに指をかける。

 

「状況的に薬物とかは仕込まれてないだろう。あいつも飲んでいたし」

 

 そもそも悪魔である俺が薬でどうなることもないだろう。例え悪魔にも効く劇薬を仕込んでいたとしてもそれを人間の元浜と松田が飲んでしまったら死んでしまうだろうから、薬の類は仕込まれていないし、仕込まれていたとしても俺には効かないと思う。いや、むしろ2人が寝込めば競争率が減るかもしれない!

 

 俺たちはそれぞれ視線を交わしてうなずいた。

 

 カシュッという音と共に缶ジュースが開く。

 

 俺たちはジュースを口に含み……。

 

「おっ、意外にうまい?」

 

「ジュースというか、もはやスープだな」

 

「これで視力が上がるのか?」

 

 毒らしい味もなく、普通のコンソメスープのようだ。俺たちはそのまま一気に飲み干した。

 

 缶ジュースが胃から体に巡る。なんとなく体が強化されたように感じる。

 

 視力も上がったのかな?

 

 よし、と俺たちは空っぽになった缶ジュースを部屋のテーブルの上に置き、3人で覗きに……、あ、あれれ?

 

「はぁぁ……、なんか急に面倒くさくなったなぁ」

 

「ああ、なんだか覗きに行くのがバカらしくなってきた」

 

「なあ、部屋でテレビでも見ねぇか?」

 

「そうだな。今日はいろいろと疲れたし、部屋でゆっくりするか」

 

 急に覗きに行くのが面倒くさくなった俺たちは大人しく部屋へと戻った。

 

 なんで行きたくなくなったんだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<エイジ>

 

 

 作戦通りに進んだな。これでイッセーたちは部屋で大人しくしているはずだ。

 

 はぁ、イッセーたち覗きの常習犯で3バカが女湯を覗きに行くまえに事前に防げてよかったよ。

 

「ええ、すごく助かりました」

 

 ジャージ姿のロスヴァイセが頭を下げてくる。俺はそれに苦笑しながらうなずく。

 

「いや、いいんだよ。ロスヴァイセ。ここで俺がやらなかったら女子生徒を始め、ロスヴァイセもイッセーの被害にあっていたと思うからな」

 

 本当にそうだ。絶対に被害にあっていただろう。覗かれる女子生徒たちはもちろんのこと、不在のアザゼル……は、逆にイッセーを煽りそうで除外するとして、引率の教師のなかで戦闘力方面でイッセーを止められるのはロスヴァイセぐらいで、ロスヴァイセは美人の女性だ。

 

 イッセーの犯行を止めようとロスヴァイセが立ちふさがるが、スケベ根性丸出しでエロパワーで強化されているイッセーに洋服破壊をかけられ、裸に剥かれるロスヴァイセの姿が容易に想像できてしまうんだ。悲しいことに……。

 

「だから早い段階で無効化できてよかったよ」

 

「はい、本当に助かりました」

 

 改めてロスヴァイセは心の底から礼を言った。うん、年頃の娘としても倹約ヴァルキリーとしても洋服破壊は嫌だよね。

 

 それにしてもイッセーの魔法って性質が悪いよなぁ。実戦やレーティングゲームなどで使うぶんにはしょうがないから目を瞑るけど、たまにイッセーは暴走して一般生徒にも洋服破壊をかけるから、リアスとそろそろ女性を傷つける迷惑な魔法の使用を禁止するように命じるか検討しているところなんだよな。

 

 ちなみにこの場にいない椿姫さんはお風呂中で不在だ。

 

「そういえば、どうやってあの3人組を無力化させたんですか? 特にイッセーくんほど性欲旺盛な生徒を無効化させるなんて、いったいどんな手を?」

 

 気になるんだね、ロスヴァイセ。

 

 俺はロスヴァイセに説明を始める。

 

「イッセーたちに渡したジュースなんだけど、あれには一時的に性欲を低下させる効果を付加していたんだ」

 

「性欲を低下させる?」

 

「そう。3人がジュースを受け取る瞬間に仙術をかけて、ジュースを飲めばどんなに膨大な性欲をもっていようと、30分間は不能になるんだ」

 

「ふ、不能……」

 

 あ~、顔を赤らめてる。そういえばロスヴァイセは純情ヴァルキリーだったね。

 

「まっ、性欲がなくなればイッセーたちは無害というか、無個性の生徒になるからね。正気? に戻る頃には女子生徒が入浴を終えてる。今夜はいま女風呂の警備をしてる生徒会メンバーだけで事足りるよ」

 

「ありがとうございます」

 

「それよりもロスヴァイセもお風呂に入ってきたらどうだ?」

 

「いえ、私は一応教師ですし、あとで部屋のお風呂ですませますので」

 

「そうか」

 

 まっ、下手に入浴しようものなら他の男子生徒から覗きしに来る奴が現れそうだからな。部屋の風呂が安全だろう。……だけど、まえから思っていたが駒王学園の生徒って残念なヤツが多くないか? イッセーたち以外にも覗きを決行している生徒がいるみたいだし、悪魔が経営している駒王学園じゃなく、普通の高校だったら謹慎の上、下手をすれば退学だからな。将来痴漢などで捕まりそうな奴らが多すぎて将来が不安だ。あ、俺は不純異性交遊をしてても証拠を残すヘマもしないからギリギリで大丈夫。

 

「あ、あの……、エイジくん」

 

「ん? なんだ?」

 

 訊ねると、ロスヴァイセは言い難そうにつぶやき始めた。

 

「そ、その……い、一応教師と生徒なので……」

 

「あ~……、そうだな。敬語なしで呼び捨てはマズいよな」

 

 関係的にいえば勇者とヴァルキリーで俺が上だけど、いまは生徒と教師だからな。

 

「ふ、ふたりっきりなら全然いいんですが、学園では教師と生徒なので……すみません」

 

「いや、別にいいさ。……じゃなかった、別にいいですよ」

 

 それよりも学園以外ではなく、ふたりっきりとくくったところが気になった。

 

 ロスヴァイセは頬を赤くしたまま恥ずかしそうにつぶやく。

 

「あっ、い、いまはだ、だれも見てませんので、普段通りでいいですから……」

 

「ふふ。ああ、わかった」

 

 ん~、俺って結構好感度高いのか? セルベリアと一緒に厳しく修行をつけたりしてるだけなんだけどなぁ。あ、買い物に付き合ったりデートもしてたっけ。いつもセール品のジャージ(980円)ばかりを着ていたから歓迎の意味も含めて洋服一式を買ってあげたんだよな。

 

 もじもじとしているロスヴァイセをどうしようか考えていると、俺の元に誰かが近づいてきた。あー、こいつは――。

 

「あー、楽しんでいるところすまない」

 

 アザゼルだった。眼がニヤニヤしてる。おい、コラ。耳元で「いや、これからお楽しみだったか?」とか訊くな。ロスヴァイセも顔を赤らめなくていいからね。

 

「どうしたんだ、アザゼル。外で京料理を食べるんじゃなかったのか?」

 

 おまえが教師の仕事をしに戻ってくるわけがない、と皮肉を込めて言うが……。

 

「なんだ? まだイッセーに聞いていなかったのか? ああ、そういえば俺が伝えるんだったな」

 

「ん? 何か問題でも起こったのか?」

 

 俺の問いにアザゼルは頭をポリポリかいた。

 

「まあ、そんなところだ。俺とおまえたちに呼びだしがかかった。近くの料亭に来ているそうだ」

 

「呼びだし? そこで説明してくれるのか?」

 

「ああ」

 

「ちなみに誰がいるんだ?」

 

 俺が訊くとアザゼルは口元を笑ませた。

 

「魔王少女さまだよ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺たちグレモリー眷属とイリナは、夜、ホテルを抜け出てアザゼルの先導のもと、街の一角にある料亭の前に立っていた。

 

「……料亭の『大楽』か。ここにセラたんがいるのか」

 

 料亭から感じる魔力や気配もセラフォルーだった。

 

 俺たちとアザゼルはセラフォルーからの誘いを受けた。

 

 なかに通され、和の雰囲気漂う通路を抜けると個室が現れる。

 

 戸を開けると――着物姿のセラたんが座っていた。

 

「ハーロー! ブラたん、リアスちゃんの眷属の皆、ブラたん以外この間以来ね☆」

 

 いつもながらテンション高いな。だけど、それにしても……。

 

「着物も似合ってるな」

 

 長い髪も今日は和服に合うように結ってあるし、綺麗だ。

 

 俺の褒め言葉に、セラフォルーはうれしそうに両頬を手で隠してニヤけている。

 

「いやん☆ ブラたん。今夜は着たままする?」

 

「いや、うれしいお誘いだけど、いまは遠慮しておくよ。また今度ね」

 

「ん~、仕方ないなぁ」

 

 俺たちがそんなあいさつを交わしていると、

 

「お、兵藤」

 

「匙? それにシトリー眷属の皆も。先に来ていたのか」

 

 イッセーと匙があいさつを交わしていた。

 

「エイジ」

 

「あ、椿姫さん。こちらにいたんですね」 

 

「ええ、お風呂からすぐに呼ばれたのでそのまま来たんです」

 

 そういってみれば確かに少し髪が濡れている。黒い髪が美しく、少し艶っぽい。

 

 ん? 生徒会の女子メンバーのほうから視線を感じる。なんだ?

 

「椿姫先輩、さっき……」

 

「ええ、エイジって呼び捨てで呼んだわね」

 

「それに神城くんも椿姫先輩じゃなくなってるし」

 

「雰囲気もくだけてるよね?」

 

「まさか……」

 

 ……うん、小声で円陣組んで話してるけど、聞えてるからね。人外の悪魔だから。

 

 しかし、『騎士』の巡さん、『戦車』の由良さん、『僧侶』の花戒さんと草下さんといい椿姫さん以外にも生徒会には美人が多いよな。生徒会で1人だけ男子の匙が肩身が狭そうだ。

 

「ここのお料理、とてもおいしいの。特に鶏料理は絶品なのよ☆ 赤龍帝ちゃんたちも匙くんたちもたくさん食べてね♪ あ、ブラたんはこっちね☆」

 

 そう言いながら隣に敷いた座布団をポンポンと叩くセラたん。少し悩んだが隣に座り、俺のあとに続くように他の全員も席に着いた。

 

 席に着くとセラたんが料理をどんどん追加する。俺たちは先ほど料理を食べたばかりだったが、運ばれてくる料理がおいしく、ついつい箸が進んでしまう。見れば、皆もそのような様子だった。

 

「あ~ん☆」

 

「ありがと。セラたん」

 

 料理を摘まんだ箸を俺の口元へと持っていき、隣でせわしなく俺の世話を焼くセラたん。うれしいけど、イッセーと匙が箸を咥えてバリバリしてるから止めてくれ……。ちなみにイッセーだが薬の効果はすでに抜けている。俺が何かを盛ったことには気づいていないようだ。まあ、気を失うとかじゃなく、無気力にさせるだけだからな。アホなこともあって気づいてない。

 

「それで、セラたんはどうしてここに?」

 

 ただ料理を食べにきたわけでもないだろうし、俺に会いに来るなら無理やり家におしかけてくるはずだ。

 

 俺の問いにセラたんは横チョキで答える。

 

「京都の妖怪さんたちと協力態勢を得るために来ました☆」

 

「京の妖怪と?」

 

「うん☆」

 

 あ~、そういえばセラたんって魔界の外交面担当だったな。きちんと仕事してたんだ。それにしても妖怪たちとの協力態勢か。

 

 しかし、セラたんは箸を置き、少々顔を陰らせる。

 

「けれどね……。どうにも大変なことになっているみたいなのよ」

 

「大変なこと?」

 

 俺の問いにセラたんが答える。

 

「京都に住む妖怪の報告では、この地の妖怪を束ねていた九尾の御大将が先日から行方不明なの」

 

「――っ! 八坂が行方不明!?」

 

 まさかあいつが!? 九重は無事なのか?

 

「……知り合いだったのか?」

 

 アザゼルが聞いてくる。俺はそれにうなずく。

 

「数年前からの付き合いだ。あいつには九重という娘もいたはずだが、無事なのか?」

 

「ああ、娘のほうは無事だよ。イッセーと木場が襲われたときに狐の少女がカラス天狗たちを仕切っていたのを見ている」

 

 アザゼルがそう答え、イッセーたちもうなずくが……。

 

「襲われた?」

 

 俺たちは何も聞いてないぞ? 見れば知っていたのは実際に襲われたイッセーと木場だけだったらしく、ゼノヴィアやイリナ、アーシアを始め、他のメンバーは聞かされていなかったようだ。

 

「ああ、その件も含めてこれから話すつもりだ」

 

 そう言ってアザゼルはイッセーたちがどう襲われたかを説明し始めた。

 

 なんでもイッセーは伏見稲荷の社で誘拐犯に間違われて襲われたそうだ。イッセーが襲われたことに気づいた木場が助けに入り、戦ったそうだ。まあ、戦ったといっても誤解されてるとわかっていたので、防戦するだけで実害無しに留めたそうだ。

 

 アザゼルが杯の酒を呷り、言う。

 

「つまり、ここのドンである妖怪がさらわれたってことだ。関与したのは――」

 

「十中八九、『禍の団』よね」

 

 と、セラたんが真剣な面持ちで言った。

 

 …………。

 

「お、おまえら、また厄介な事に首突っ込んでいるのか?」

 

 目元をひくつかせている匙。

 

「ったく、こちろら修学旅行で学生の面倒見るだけで精一杯だってのにな。やってくれるぜ、テロリストどもが」

 

 アザゼルも忌々しそうに吐き捨てる。

 

「ああ、本当にどうしてくれよう……」

 

 ミシッと手に持った箸がきしむ。禍の団が本当に八坂をさらったのなら……。

 

「お、おい、エイジ?」

 

 イッセーが驚いてこちらを見る。見れば他の全員も驚いた様子でこちらを見ていた。

 

 自然と殺気が漏れていたようだ。怒りを飲み込んで心を静め、反省する。いまここで怒ったとしても雰囲気を悪くするだけだ。

 

「すまん」

 

 重くしてしまった雰囲気に対して謝罪する。

 

 それからアザゼルとセラたんは、この件についてまだ公にすることはできないと、京の妖怪と連携してアザゼルとセラたんが事にあたるそうだ。

 

 現状でリアスへの報告もなし。

 

 それと、俺たちには修学旅行を楽しめと言っていたが、身内と言っていい八坂がさらわれたんだ、いつでも動けるように準備しておこう。

 

 普段つけられてるリミッターも解除して体に馴染ませておくか。

 

 …………絶対に、八坂をさらった連中全員に地獄を見せてやる……!

 

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