※この作品はR-18です。

ハイスクールD×D 世界を渡る転生者   作:上平 英

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 最初を前に移したから、何とか38000字で収まった!


第76話 決戦! グレモリー眷属VS英雄派 IN京都 前編

<エイジ>

 

 就寝時間を間近にして俺の部屋にグレモリー眷属+イリナ、シトリー眷属、アザゼル、『セラたん』ことセラフォルーが集まっていた。

 

 この部屋で今夜のことについて話し合うところだ。今夜のこと――二条城でおこなわれるという八坂を使った英雄派の実験とらやだ。

 

 ……それにしても、部屋が狭いな。立ち見が出来るぐらいしかない。やっぱり八畳一間の部屋に10人以上は無理だろう。場所を変えられなかったのか?

 

 ゼノヴィアとイリナなんて押入れのなかから話し合いに参加してるぞ。……まあ、意外と居心地よさそうだけど。

 

 ちなみにロスヴァイセは顔を真っ青にしながらも参加していた。一応、集合時間間近までこの部屋で休んでいたから体調のほうも回復していたんだけど、今のぎゅうぎゅう積め状態で狭い部屋にいるせいか、具合がまた悪くなってきたみたいだ。

 

 アザゼルが皆を見回して口を開いた。部屋の中心に敷かれた京都の全体図から立体映像が浮んでいる。この立体映像の地図は俺が前に渡したマップの技術を流用してんのか。そういや渡したままだったな。

 

「では、作戦を伝える。現在、二条城と京都駅を中心に非常警戒態勢を敷いた。京都を中心に動いていた悪魔、堕天使の関係者を総動員して、怪しい輩を探っている。京都に住む妖怪たちも協力してくれるところだ。いまだ英雄派は動きを見せないが、今日と各地から不穏な気の流れが二条城を中心に集まっているのは計測できている」

 

 アザゼルが地図の一箇所を押すと、紫色で色づけされた不穏な気らしきものが立体映像に写し出された。

 

「不穏な気の流れ?」

 

 木場がアザゼルに訊く。

 

「ああ、京都ってのは古来、陰陽道、風水に基づいて創られた大規模な術式都市だ。それゆえ、各地にいわえるパワースポットを持つ。この映像を見てもわかるとおり、清明神社の清明井、鈴虫寺の幸福地蔵、伏見稲荷大社の膝松さん、挙げればキリがないほどに不思議な力を持つ力場に富んでいる。それらが現在、気の流れが乱れて、二条城のほうにパワーが流れ始めているんだよ」

 

「ど、どうなるんですか?」

 

 匙が生唾を飲みながら訊く。

 

「わからんが、ろくでもないことは確かだ。奴らはこの都市の気脈を司っていた九尾の御大将を使って『実験』とやらを開始しようとしているんだからな。それを踏まえた上で作戦を伝える」

 

 アザゼルの言葉に皆がうなずいた。アザゼルが改めて言う。

 

「まずはシトリー眷属。おまえたちは京都駅周辺で待機。このホテルを守るのもおまえたちの仕事だ。いちおう、このホテルは強固な結界が張っているため、有事の際でも最悪の結果だけは避けられるだろう。それでも不審なものが近づいたら、シトリー眷属のメンバーで当たれ。真羅椿姫、おまえの神器は守りに使えるから、当然おまえもだ」

 

『はい!』

 

 アザゼルの指示にシトリーの皆が返事をする。

 

「次にグレモリー眷属とイリナ。いつも悪いが、おまえたちはオフェンスだ。このあと、二条城のほうに向ってもらう。正直、相手の戦力は未知数だ。危険な賭けになるかもしれないが、優先すべきことは八坂の姫を救うこと。状況が悪ければ、他の奴らが囮になっているうちに、神城が全力で八坂を確保して逃げろ。奴らは八坂の姫で実験をおこなうと宣言しているぐらいだからな。……まあ、虚言の可能性も高いが、あの曹操の言動からすると本当だろう。――俺たちが参戦することを望んでいるフシが多分にあったからな」

 

「お、俺たちだけで戦力足りるんですか?」

 

 イッセーが質問する。まあ、オフェンスといっても6名しかいない。英雄派の戦力を考えて、全員生きて帰ることを考えれば足りないだろう。

 

「安心しろ。テロリスト相手のプロフェッショナルを呼んでおいた。各地で『禍の団』相手に大暴れしている最強の助っ人だ。それが加われば奪還の可能性は高くなる」

 

「助っ人? 誰ですか?」

 

 木場が訊く。

 

「とんでもないのが来てくれることだけは覚えておけ。これは良い報せだな」

 

 アザゼルが口の端を愉快そうに吊り上げていた。相当の手練れが来るんだろう。

 

「それとこれはあまり良くない報せだ。――今回、フェニックスの涙は3つしか支給されなかった」

 

「み、3つ!? た、足りなくないですか!? いちおう、対テロリストなんですし!」

 

 匙が素っ頓狂な声をあげて、アザゼルに問う。

 

「ああ、わかっている。だが、世界各地で『禍の団』がテロってくれるおかげで涙の需要が急激に跳ね上がってな。各勢力の重要拠点への支給もままらない状態だ。もともと大量生産できない品だったもんでな、フェニックス家も大変なことになっているってよ。市場でも値段も高騰しちまってただでさえ高級品なのに、頭に超がふたつはつきそうな代物に化けちまった。噂じゃ、レーティングゲームの涙使用のルールも改正せざる得ないんじゃないかって話だ。おまえたちの今後のゲームに影響が出るかもしれないことだけは頭の隅に置いておけ」

 

 まあ、それも当然か。テロが起これば怪我人が出て、それを回復させるためには涙が必要になってくるんだから。

 

 アザゼルが続ける。

 

「これは機密事項だが、各勢力協力して血眼になって『聖母の微笑』の所有者を捜している。レアな神器だが調査の結果、アーシアのほかに所有者が世界に何人かいることが発覚しているからな、スカウト成功は大きな利益になる。冥界最重要拠点にある医療施設などにはすでにいるんだが。スカウトの1番の理由は――テロリストに所有者を捕獲されないためだ。優秀な回復要員を押さえられたらかなりマズい。現ベルゼブブ――アジュカも回復能力について独自に研究しているそうだが……。まあ、いい。それとグリゴリでも回復系人工神器の研究も進んでいる。実はアーシアに回復の神器について協力してもらっていてな。そのお陰でいい結果も出ている」

 

 アザゼルの言葉にアーシアが照れる。

 

 ……それにしても、三大勢力が神器所有者をスカウト、ね。イッセーたちにはスカウトと言ったが、やってることは『禍の団』と同じで捕獲(・・)なんだろう。むしろ神器所有者である人間を本来あるべき形から別の、天使や悪魔に転生させる分、こちらのほうが性質が悪いといえる。だからこそ、アザゼルやベルゼブブは人工神器や回復能力について研究を進めているんだろう。他の種族を巻き込まないように、自分たちで解決できるように。

 

「てなわけでだ。この涙は――オフェンスのグレモリーに2個、サポートのシトリーに1個支給する。数に限りがあるから上手に使ってくれ」

 

『はい!』

 

 アザゼルの指示に皆が返事をする。アザゼルの視線が匙に移った。

 

「匙、おまえは作戦時、グレモリー眷属のほうへ行け」

 

「お、俺っスか?」

 

 匙が自身を指でさしていた。予想外のオファーだったのだろうが、すぐに自分の役目が理解できたようだった。

 

「……龍王、ですか?」

 

「ああ、そうだ。おまえのヴリトラ――龍王形態は使える。あの黒い炎は相手の動きを止め、力まで奪うからな。ロキ戦のようにおまえがグレモリーをサポートしてやってくれ」

 

「そ、それはいいんですけど、あの状態って、意識を失いかけて暴走気味になりやすいんです」

 

「問題ない。ロキのときと同じようにイッセーがおまえの意識を繋ぎとめてくれるんだろう。イッセー、そのときは匙に話しかけてなんとかしろ。――天龍なら、龍王を制御してやれよ」

 

「は、はい!」

 

 イッセーが返事を返す。イリナが手をあげる。

 

「あの、このことは各勢力に伝わっているのですか?」

 

「当然だ。この京都の外には悪魔、堕天使、天使、妖怪の者たちが大勢集結している。奴らが逃げないように包囲網を張った。――ここで仕留められるなら、仕留めておいたほうがいいからだ」

 

 アザゼルの言葉にセラたんが続く。

 

「外の指揮は私に任せてね☆ 悪い子がお外に出ようとしたら各勢力と私が一気にたたみ掛けちゃうんだから♪」

 

 明るく言うセラたん。暴れすぎるなよ、くれぐれも……。

 

「それと駒王学園にいるソーナにも連絡はした。あちらはあちらでできるバックアップをしてくれているようだ」

 

 それは助かるが、ソーナ会長ひとりで大丈夫なのか? あと、リアスたちは……。

 

「先生、うちの部長たちは?」

 

 イッセーの質問にアザゼルは顔を少ししかめた。

 

「ああ、伝えようとしたんだが……タイミングが悪かったらしくてな。現在、あいつらはグレモリー領にいる」

 

「何かあったのか?」

 

 俺の問いにアザゼルはうなずいた。

 

「どうやら、グレモリー領のとある都市部で暴動事件が勃発してな。それの対応に出ているようだ」

 

 暴動ねぇ……。

 

「旧魔王派の一部が起した暴動だ。『禍の団』に直接関与している輩でもないらしい。それでも暴れているらしくてな、あいつらが出て行ったわけだ。一応、将来自分の領土になるであろう場所だからな。――それにグレイフィアが出陣したと報告を受けた。まあ、あのグレイフィアが出たとなると、相手の暴徒共もおしまいだろう。正確かどうかはわからないが、グレモリー現当主の奥方もその場にいるそうだ。――グレモリーの女を怒らせたら大変だろうさ」

 

 アザゼルが若干体を震わせながらそう言った。

 

「まあ、『亜麻髪(あまがみ) 絶 滅 淑 女 (マダム・ザ・エクスティンクト)』、『紅髪(べにがみ)滅殺姫(ルイン・プリンセス)』、『銀髪(ぎんぱつ) 殲 滅 女 王 (クイーン・オブ・ディバウア)』がそろっちゃうのね☆ うふふ、暴徒の人たち、大変なことになっちゃうわね♪」

 

 不吉極まりない2つ名を連呼するセラたん。本当に大変なことになりそうだ。

 

 グレモリーの女性は全員おそろしい2つ名持ち。これはリアスのお父さんもサーゼクスも私生活で奥さんに頭が上がらないはずだ。

 

「……おまえも将来大変だな」

 

 アザゼルが俺の肩に手を置き、うんうんうなずいていた。

 

「うるせえよ、不良天使。それより俺のところのヤツらは、どうしてる?」

 

 留守を預けていた俺の眷属? というか家族だな。

 

「ああ、あいつらならソーナのほうを手伝ってもらってる。さすがにひとりじゃ厳しいからな」

 

「そうか」

 

 さすがにあいつらまで暴徒の対応に行ったら、グレモリー領が焦土と化すかも知れないと心配していたが。バックアップにまわっているのならそんな心配は必要ないだろう。アザゼルが咳払いをして、改めて皆に告げる。

 

「と、俺からの作戦は以上だ。俺も京都の上空から独自に奴らを探す。各員一時間後までにはポジションについてくれ。怪しい者を見たら、ソッコーで相互連絡だ。――くれぐれも死ぬなよ? 修学旅行は帰るまでが修学旅行だ。――京都は俺たちが死守する。いいな?」

 

『はい!』

 

 全員が返事をして、作戦会議は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 戦う準備はすでに済んでいたので、先に合流地点となっているロビーにやって来ていた。

 

 まだ俺以外誰も来ていないようなので、ロビーの横のテーブル席についていると、ホテルの玄関から疲れた、というか呆れた様子のアザゼルとロスヴァイセがやって来た。

 

「……神城か」

 

「どうかしたのか?」

 

「いや……、まあ、あとでイッセーが来たときに話す」

 

 歯切れが悪いまま、俺の正面の席に腰を下ろしたアザゼル。ロスヴァイセは戦乙女として律儀に、俺が座っている席の後ろに立とうとしていたので、椅子を引いて隣に座らせた。

 

 アザゼルが息を吐きながらつぶやく。

 

「そういや……、神城」

 

「ん?」

 

「この件に方がついたあと、サーゼクスとリアス……まあ、色々交えて話しがある」

 

「話し……か?」

 

「ああ。かなり重大な話だ」

 

 真剣なアザゼルの様子から本当に重大な話をする気なのだろうということが窺えた。俺もしっかりとうなずいておく。

 

「……わかった。心しておくよ」

 

 と、ここでイッセーが戦う準備を終えてロビーにやって来たようだ。アザゼルが席から立ち上がる。

 

「イッセー、こっちに来てくれ」

 

「はい?」

 

 何事かと怪訝に思いながら近づくイッセーに、アザゼルは懐から何かを取り出す。――赤く輝く宝玉みたいなものだった。アザゼルが言う。

 

「さっきな、ホテルの外で痴漢騒ぎがあったんだ。で、俺が偶然居合わせて女の乳をももうとしていた男をとっちめたんだが……そうしたら、体からこれが飛び出してきてな。もしかしたらと思うんだが……」

 

 ……ち、痴漢から宝玉が……? そういや、修学旅行から妙に京都で痴漢が多かったな……。俺の監視という建前で修学旅行に同行した椿姫が痴漢の対応に追われたほどだ。

 

『その宝玉は――』

 

 ドライグがイッセーだけでなく、アザゼルや俺たちにも聞えるように言葉を発した。

 

「どうした、ドライグ」

 

 イッセーが訊くとドライグが言う。

 

『ああ、それは新幹線でおまえのなかから飛び出していった箱の中身だ』

 

 …………。

 

「やっぱりか。宝玉を軽く解析したら、おまえのオーラが検出できたんでな」

 

 アザゼルは予想が当たっていたようでうなずいていた。

 

 アザゼルからイッセーが宝玉を受け取る。

 

 ……おい、ワケがわからないぞ。

 

『うむ。間違いない。俺とおまえの波動を感じるぞ。いや、待て。……なんてことだ』

 

 突然、ドライグは落胆の声音となった。

 

「ど、どうした?」

 

 イッセーが訊くとドライグは低いテンションで衝撃の事実を告げてくれる。

 

『……軽く宝玉の情報を調べてみたのだが……、箱の中身、おまえの可能性は……様々な人間の体を移りながら京都中を旅して回ったようだ。――相手の、ち、乳を触ることで』

 

 ……。

 

「あー、なるほどな。京都の各地で連日起こってた痴漢騒ぎは、おまえの可能性――この宝玉が人間を媒介にして伝わっていたわけか。つまり、男女問わず、乳をもむことで京都中を駆け巡っていたってことだな。この宝玉に触れてしまった者は、誰でもいいから胸が触りたくて仕方なくなったのか」

 

「そ、そんなことが!? ……なんてこった、京都で起こってた痴漢騒ぎは俺の可能性が起していたのか……」

 

 アザゼルの言葉にショックを受けているイッセー。……えーと、赤龍帝の、イッセーの精神世界にあった箱から飛び出したイッセーの可能性とやらが、イッセーの体から飛び出して、ひとりでに京都中を巡って人間に憑依しながら痴漢を働き、それが戻ってきた? ……うん、理解したくはないが、理解した。 

 

「それでドライグ、この宝玉の塩梅はどうなんだ?」

 

『……まだわからん。力が高まっているのは確かなのだが……。し、しかし、この都市にいるいろいろな人間の胸を触って力を高めてくるとは……これでいいのか、おまえの可能性は……』

 

 イッセーの問いにうんざりした声で返すドライグ。

 

「もういっそのこと捨てちまえよ。そんな可能性」

 

 碌なものが生まれそうにない。いっそのこと消せば平和になりそうだ。

 

「言うな! これでも俺の可能性なんだぞ!」

 

 宝玉を両腕で抱きしめて守るイッセー。

 

「……京都の方々に多大な迷惑をかけるなんて……。イッセーくんのせいで痴漢してしまった方々のフォローをあとでしておかないといけませんね」

 

 ロスヴァイセが冷静にそう言う。その通りだ。痴漢の冤罪で捕まっているかもしれない人々の人生がかかっているんだから。

 

「俺がなんとかしておく。しかし、イッセーの可能性が何か特異な力でもかき集めているのか? 乳力と書いて『にゅーパワー』と呼ぶようなものが魔力やドラゴンの力以外にイッセーのなかにあるとか……? イッセーをみているとあり得そうでな」

 

 アザゼルが首をひねりながらそうつぶやいていた。乳力ねぇ。それはいいが――。

 

「イッセー。ドライグは大丈夫か?」

 

「……へ?」

 

 俺に指摘されて左腕に『赤龍帝の籠手』を出現させるイッセー。左腕の宝珠は案の定弱々しい光で点滅していた。ウルトラ○ンのカラー○イマーみたいだ。

 

「ど、ドライグぅぅぅっ!?」

 

『……………』

 

 返事がない。とうとう消滅したか? ストレスで。

 

「い、いまお薬上げるからな! 頑張れドライグぅぅぅっ!」

 

 ポケットから粉薬を取り出して宝珠へ振り掛けるイッセー。宝珠にサラサラサラ~と白い粉を振り掛け、左腕の籠手を右手でやさしくなでながら「おまえは赤龍帝、2天龍のドライグ」だとつぶやいている。ああ、この光景も見慣れてきたなぁ。

 

「まったく、他者を救ったり、他者に迷惑をかけたり、理解不能なことばかりですね、イッセーくんは。……うっぷ、また吐き気が……」

 

 小声でつぶやきながらも口元に手をやり吐き気と戦うロスヴァイセ。また背中を擦ってやる。あー、よしよし。楽にしてあげたいけど酒に特効薬ってないんだよなぁ。

 

 アザゼルがため息を吐きながら言う。

 

「おまえ、大丈夫か? ホテルに帰ってきてから吐きっぱなしなんだろう?」

 

「うう……、す、すみません……。本来なら私がアザゼル先生を止めなければいけなかったのに……」

 

「まあ、最初の一杯を勧めたのは俺だからよ。そんなに気を落とすなよ。って、本当に大丈夫かよ?」

 

「……あ、ありがとうございます。……ちょっと、トイレ行ってきます」

 

 我慢できなくなったのか、トイレへ駆け込むロスヴァイセ。

 

「……ゲロ吐きヴァルキリーか。とりあえず、宝玉は持ち主であるおまえが持っていろよ、イッセー。何が切っ掛けで力が溢れてくるか分からないからな」

 

 アザゼルがイッセーに言う。さて、作戦まであと何分ぐらいだ?

 

 時間を確認していると、イッセーがアザゼルに三国志の曹操はどんな人だったのかと質問していた。

 

「おまえはどういう認識なんだよ?」

 

「……えっと、劉備のライバルで、悪役でしょうか」

 

 イッセーが認識を聞いてアザゼルが苦笑する。

 

「まあ、そのイメージは『三国志演義』の影響だろうな。確かに曹操は虐殺などの悪行を行なった。だが、当時としては画期的な政治をやったのも曹操だ。俺が個人的に1番と思うのは人材の発掘か」

 

「人材?」

 

 首をかしげたイッセーにアザゼルは説明する。

 

「ああ、曹操は才能があればどんな身の上の者でも使った。そのせいか、魏は人材に富んだ国となったよ。皮肉なことに英雄派の曹操もまた人材に目を向けたようだ。あいつはあらゆる才能をかき集めているらしいからな。祖先と違う点もあるが。奴は人間を中心に人材を拉致に等しいやり方で集めている。人材は悪魔でも天使でもなく、あくまで人間。そこに英雄派のこだわり、目的が見え隠れするところだ。そして、目的のためならそいつらを洗脳してまで使い、テロに投入する。禁手使いの増加と魔獣創造のためにやった一連のテロはやり方としては実にえげつないところだ」

 

 人間に拘るか……。人外に恨みでもあるんだろうか? まあ、三大勢力が今までやっていたことを考えれば大体の予想はつくが……。

 

 首をひねるイッセーにアザゼルが訊く。

 

「どうした?」

 

「いえ、人間がどうたらとか、悪魔がどうたらとか、俺らしくないことを少しだけ考えていました。……それと英雄。英雄派の正メンバーは英雄の子孫とかで形成されていて、身体能力が天使や悪魔に引けをとらないんですよね? 『英雄』ってなんですか? あ、意味的なものじゃなくて、存在についてです」

 

「英雄ってのは特別な力、能力を持ち、本来ならばそれを使い、人類にとって大きな功績を残したり、巨悪を倒すことができる存在だ。ヒーローになれる力を持って生まれたといってもいい。まあ、そういうのは神器を持って生まれた者がほとんどだ。稀に、神城のように最初から英雄としての資質や能力をもって生まれる人間がいるがな」

 

「エイジみたいな……」

 

 こちらを見つめてくるイッセー。俺は肩をすくませて言う。

 

「まあ、『英雄』なんてものは所詮幻想のようなものなんだし、そこまで気にしなくてもいいだろうよ」

 

「……幻想、か……。ま、確かにな」

 

「へ? 幻想?」

 

 うなずくアザゼルと首をかしげるイッセー。俺はイッセーに向って説明し始めた。

 

「元々『英雄』ってのは、人々がそいつを『英雄』だと認めるか、認めないかで決まるんだよ。どんなに能力を持っていようと、どんなに優れていようと、認められなければ『英雄』とは称えられない。考えてもみろ、三国志の曹操だって最初から『英雄』だったわけじゃないだろう?」

 

「そういや、そう考えてみると確かに……。劉備とかも最初は人徳がある少し偉い人ぐらいだったもんな」

 

 これにはピンときたようで、イッセーがうなずく。これは通じたか。

 

「つまり『英雄』という存在は、能力があって、なおかつ多くの民衆に認められ、称えられる存在ということだ。――まあ、もっと大雑把に言えば、誰かが誰かを『英雄』と称えれば、そいつは英雄ということになる」

 

「そ、そんなに簡単なのもなのか?」

 

「意外と単純で簡単なものさ。――まあ、さっきアザゼルが言った通り、『特別な力、能力を持ち、本来ならばそれを使い、人類にとって大きな功績を残したり、巨悪を倒すことができる存在』というのも当てはまるだろうが。結局のところ負けてしまえばそこまでの存在だ。そもそも神器が宿ったからといっても、全員が英雄になれるわけではないし、幸せになれるわけでもない。『英雄になれる力を持って生まれた』って、英雄になれないヤツもいるだろうし、なりたくないのに英雄にならされたヤツもでてくる。そして、なかにはその力をふるい、悪者として名を轟かせた者もでてくるだろうよ」

 

 ここで息を吐く。相容れるはずがなかった3大勢力が手を組み、そこら中でテロが横行している。この混沌としている世の中では、人を超える神器を宿した人間はどうしてもまともに生きれないんだろうな。

 

「英雄、か。ヒーロー。人間だった頃、凡人だった俺からしてみればそれだけで羨望の的なんだけどな。英雄との戦い……。まあ、俺は悪魔でドラゴンだから、ヒーローにしてみればいい悪役でしょうね」

 

 イッセーのつぶやきに同意する。

 

「そりゃあ、当然だろうよ。あいつら……というか、『人間』から見れば、俺たちは存在そのものが『悪』なんだからな」

 

「……人間から、か……」

 

 それだけつぶやいて静かに自分の両手を見つめるイッセー。

 

「悪魔になった自分の存在と、英雄――人間という相手の存在にいつて考えていたのか。……ったく。おまえは何になりたい? 何がしたい?」

 

 アザゼルがイッセーに訊く。イッセーは間髪入れずに答えた。

 

「上級悪魔になってハーレム王! というか、眷属や部長のためにがんばります!」

 

「それでいいじゃねぇか。それで突き進め。おまえはそれでいけるだろう?」

 

 噴き出しながらアザゼルが言う。イッセーはハッと気づいたように、表情を明るくした。

 

「あ、それでいいのか。それともうひとつ。――九重のお母さんを助けます!」

 

 ハッキリとそう大声で宣言したイッセーの頭をアザゼルがくしゃくしゃと撫でる。

 

「おまえがそれで良かったよ。しかし、おまえはいいが、アーシアたちは相手が人間だと割り切れない部分もあるだろう。だが、おまえが突き進む限り、あいつらもついてくるはずだ。おまえはおまえのままでいろ。それが眷属の成長に繋がる」

 

「わかりました! 兵藤一誠! 仲間と共に突貫してきます!」

 

 イッセーはアザゼルにそう宣言して、丁度ロビーに下りてきた仲間の元へと走っていった。

 

 ふたり残った席で、俺はアザゼルを睨む。

 

「……アザゼル」

 

「そう睨むなよ」

 

 先ほどイッセーを元気付けていた顔を一変させて嘆息するアザゼル。やっぱり意図的にイッセーの考えを誘導しやがったな。

 

「最初から裏の世界を知っている連中ならともかく、あのバカ(イッセー)やアーシアには、悪魔とか人間とか種族うんぬんを考えさせるにはまだ早いだろう? なにせ悪魔に転生したのはほんの半年前で。それまで裏のことなんてまったく知らなかったんだからよ」

 

「それは……、そうだろうが……」

 

 それを言われると、あまり強く言えなくなる。確かにイッセーは半年ほど前まではただの変態3人組のひとりだった。教会で聖女をしていたアーシアも神器については何も知らず、不思議な力を持っている程度の認識だった。そんな元一般人たちに裏の事情や種族のことを理解しろ、というのも難しい話だ。

 

「まあ、この件が無事に片付いたら、イッセーにもその辺りのことをきちんと説明するさ。……ん? そういや、リアスの奴は説明してなかったのか?」

 

 気づいたようにつぶやくアザゼル。最近、教師役がいたにはまってきたのか「説明は自分が」みたいに思ってきてんのか?

 

 アザゼルの問いに答える。

 

「一応、リアスもイッセーやアーシアを含めて説明していたんだがな。どんどん状況が変わっていくから、頭が追いついていないんだろうよ。なにせ、駒王協定が結ばれるまでは堕天使と天使、エクソシストは危険な存在で天敵だったのに。今ではすっかり協力関係なんだからな。……誰が敵で誰が味方か。悪魔に転生してからゆっくりと生まれる自覚がまるでない状態だ」

 

「そりゃあまた……」

 

 アザゼルが呆れたようにため息を吐いた。俺は席を立ちながら言う。

 

「とにかく。全部はこの戦いが終わったあとだ」

 

「ああ、無理に説明して動けなくなっちまっても困るしな」

 

 アザゼルも同意して席から立ち上がった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 イッセーたちと合流してホテル入り口から出ようとすると、自動ドアの先でシトリー眷属が集まっていた。

 

「匙、くれぐれも気をつけて」

 

「はい、真羅先輩」

 

「元ちゃん、無理しちゃダメよ」

 

「そうよ、元ちゃん。明日はみんなで会長へのお土産買うって約束なんだから」

 

「おう、花戒、草下」

 

「元士郎、テロリストにシトリー眷属の意地を見せてやるのよ?」

 

「わかってるよ、由良」

 

「危なくなったら逃げなさい」

 

「足なら鍛えてるよ、巡」

 

 匙が仲間に激励をもらっているところだった。そういえば夏休みが明けてから眷属同士がいっそう仲良くなったってソーナ会長がうれしそうに話していたな。

 

 なぜか匙を見つめてため息を吐いたイッセー。そんなイッセーの肩に木場が手を置く。

 

「部長不在のいま、仮としても僕たちの『王』はイッセーくんだ」

 

 突然の発言に驚愕するイッセー。

 

「――っ! マ、マジかよ! 俺が『王』!? いいのか、それで!? エイジは!?」

 

「俺は最初から八坂の救出を第一に動くから眷族の指揮から外れてるよ」

 

「そ、そうなのか?」

 

 あー、話してなかったっけかな?

 

「だ、だけど、本当に俺が『王』でいいのか?」

 

 自身を指差しながら訊いてくるイッセーに、木場は怪訝な様子で返す。

 

「何を言ってるんだい。キミは将来部長のもとを離れて『王』になろうとしている。それならこのような場面で眷属に指示を送るのは当然となるんだよ?」

 

「そ、それはそうかもしれないが……」

 

 不安げなイッセーに木場は言う。

 

「昼間の渡月橋での一戦、キミは土壇場の判断とはいえ、僕たちに指示を出していた。それが最善だったか、良案だったかはわからないけれど、僕たちは無事にいまここにいる。だから、僕は少なくとも良い指示だったと思える。――だからこそ、今夜の一戦、僕たちの指示をキミに任せようと思うんだ」

 

 木場の言葉に感動するイッセー。最近、本当に仲がいいよな、こいつら。

 

 横からゼノヴィアも言う。

 

「そうだな。私やイリナ、アーシアは指示を仰いだほうが動ける。昼間のおまえは咄嗟とはいえ、部長の欠けたチームをうまくまとめたと思うぞ」

 

「うんうん。けど、イッセーくんは無茶して飛び出しすぎるのはダメよ?」

 

「そうです。無理は禁物です」

 

「このチームに入って間もない身なので、チームでは先輩のイッセーくんに任せます」

 

 と、イリナとアーシアに続いて、ロスヴァイセも言う。今度は俺の番か?

 

「まあ、将来おまえが『王』になったときに良い経験になるだろうしな」

 

 木場以外の皆からも言葉をかけてもらい感動していたイッセーだが、視線がゼノヴィアの手に持っているものに向けられた。魔術呪文を記して布で何重にも巻いて封印している長い得物。ああ、使うのか。

 

 ゼノヴィアがイッセーの視線に気づき、長い得物を見せる。

 

「ああ、これか。数時間前にやっと私の体に馴染んだんだ。――エイジに改良してもらったデュランダルだよ」

 

「やっと体に馴染んだ?」

 

 疑問符を浮べるイッセーにゼノヴィアは軽く説明する。

 

「元々扱いにくい剣だったんだけど、改良されて能力が格段に上がったことで、さらに扱いにくくなってね。数日かけて私が主だと剣に認めさせた上で、剣の力を体に馴染ませないとまともに使えなかったんだよ。――使えるようになって、いきなり実践投入だが、それも私とデュランダルらしくていいだろう」

 

「大丈夫だとは思うけど。くれぐれも気をつけて使うんだよ、ゼノたん」

 

 燃費向上や性能向上と共に、ゼノヴィアの希望で新たに追加した能力『神殺し』は、そのオーラの制御を間違うだけで相当危ないんだからな。

 

「わりぃ、少し話し込んじまった」

 

 匙が手で謝りながら合流してきた。他のシトリー眷属は「オフェンスお願いします」、「共に明日を迎えましょう」と激励をくれたあと、素早く京都駅のほうへ向っていく。

 

 グレモリー眷属+イリナ、そして匙。これが二条城に向うオフェンス陣だ。

 

「よし、二条城に向おう」

 

 こうして俺たちは一路、曹操が掲示した場所、二条城へ――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ホテルを出て、京都駅のバス停に赴く。

 

 ここからのバスに乗って二条城まで行く予定だ。一応、皆、冬服の制服姿。ゼノヴィアやイリナは例の教会特製の戦闘服を下に着ているそうだ。いざとなったら、制服を脱いで動きやすくするらしい。

 

「うっぷ……」

 

 ロスヴァイセが口を手で押さえて時おり襲ってくる吐き気と戦っていた。いまだ体調は優れないようだ。どれだけ酒を飲ませたんだよ……?

 

 ――と、バス停でバスを待っているときだった。後ろから服を掴まれる。

 

「エイジ! 私も行きたい!」

 

 金髪の巫女装束幼女――九重だった。なんでここに? 妖怪のいる裏京都で待機してるはずじゃ?

 

「……九重」

 

 振り返って視線を合わせるためにしゃがむ。九重は俺の目を正面から見返し、

 

「私も母上を救う!」

 

 と、言った。

 

「危ないから待機しているよう、俺や皆も言わなかったか?」

 

「言われた。じゃが! 母上は私が……私が救いたいのじゃ! 頼む! 私も連れて行ってくれ! お願いじゃ!」

 

 必死に頭を下げる九重。

 

 ……あ~……。

 

「――修行は、続けていたか?」

 

「――っ! うむ、バッチリじゃ!」

 

 俺の問いの意味に気づき、九重は元気よくうなずいた。それなら、連れて行こう。危険な場所だけど……。俺が渡したお守りも首から下げているようだし。何よりも九重の母親を救いたいという気持ちを尊重してやりたい。心配だけど……。

 

「じゃあ、行くか」

 

「うむっ!」

 

 立ち上がり、九重と手を繋いだときだった。

 

 ――俺たちの足元に薄い霧が立ち込めてくる。

 

 同時にぬるりとした生暖かい感触が全身を襲った。

 

 ……昼間の『絶霧』での転送か。

 

 皆も現象を把握したときには、霧は俺たちの全身を覆っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 霧が晴れたあと、周囲を確認してみると、近くに金閣寺が見えた。

 

「……金閣寺?」

 

 俺の隣に立っている九重がつぶやいた。どうやら、手を繋いでいたからか俺と一緒に転移させられたらしい。

 

「ああ、どうやら、昼間と同じく『絶霧』で転移させられたみたいだな。俺たち以外に人気もないみたいだな」

 

 ざっと辺りの気配も探ってみるが、やっぱり誰もいない。

 

「じゃ、じゃあ、ここも別の空間に創られた擬似京都なのか? きゃつらの持つ技術は凄まじいのぅ」

 

「まあ、あいつらはどの勢力からも技術を盗み放題だからな。大方、テロをするついでに色々と技術のほうも盗んでいったんだろう」

 

 合理的に動く連中みたいだし、使える技術ならなんでも取り込んで使うだろうよ。

 

「――と、さっそくお出ましみたいだな」

 

 ほとんど前触れもなく、俺と九重の周辺の地面に無数の魔法陣が出現し始める。魔法陣のタイプは転移用。それも魔力をあまり消費しない、簡単なものだ。

 

 輝く魔法陣からモンスターが出現する。

 

 モンスターの出現に九重が身構える。狐耳と尻尾を出して、いつでも攻撃できるよう両手に炎を灯した。

 

「こいつらは昼間の――!」

 

「『魔獣創造』で創りだした、アンチモンスターか」

 

 俺も制服から冥界などで使用する衣装に着替えて構える。当然ながら、制服よりもこちらのほうが防御力が高いからな。

 

 アンチモンスターは転移魔法陣から出現し続ける。もう100匹は軽く越えてる。

 

「九重、大丈夫か?」

 

 俺が訊くと、九重は敵を見据えたままうなずいた。

 

「実戦は初めてじゃが。修行はきちんと続けておった。エイジのお守りも持っておるから、死にはせぬ。……奥の手もあるしの。エイジは私を気にせずに敵の殲滅に力を注ぐのじゃ」

 

「……わかった。危なくなったら、すぐに呼ぶんだぞ?」

 

「うむっ!」

 

 俺は九重を右腕で抱き、『千の顔を持つ英雄』を発動させる! 手元に出現させたのは巨大な手裏剣(しゅりけん)だ。中央にある穴に左手を入れて持つ。

 

 体ごとねじるように手裏剣を持った左腕を引いて――。

 

「――まずは開戦の一撃だ!」

 

 正面のアンチモンスターたちに向って投擲する! 高速で回転する手裏剣は正面にいたアンチモンスターの胴体を真っ二つにしながら飛んでいった。っと、そろそろか。

 

 くいっと手裏剣を投擲した腕を手前に引く! すると、手裏剣は回転の速度を維持したまま、その場で停止した。

 

 回転しつつその場で停止している手裏剣。よく目を凝らしてみれば、投擲した俺の腕と手裏剣を繋いでいるワイヤーの存在に気づくだろうが。ここにいるのは知能の低い、というか知能があるのかわからないモンスター。避けることも考えず、突っ立ったまま、その場から逃げずに攻撃に移ろうとしている。

 

 俺はワイヤーを持った腕を横へと薙ぐ! 手裏剣に遠心力が加わり、俺と九重を中心に手裏剣が1回転する!

 

 ズババババババッ……!

 

 周囲を360度囲んでいた無数のアンチモンスターたちが手裏剣と俺の腕を繋ぐワイヤーによって真っ二つになっていく!

 

 1回転し終えたところで役目を終えた手裏剣を消すと――。

 

 手裏剣から俺たちの間にいた、俺たちの周囲を囲んでいたアンチモンスターたちはただの肉片と化していた。

 

「せ、殲滅せよとは言ったが……。少々かわいそうじゃのぅ……」

 

 先ほどまで元気よく気味の悪い鳴き声を発していたアンチモンスターたちのあまりの惨状を見て九重も引いていた。一瞬で築かれた肉片の山に……俺も、そう思う。

 

 一方、敵のほうはやはりというか、一瞬で仲間たちが肉片に変えられても気にした様子はない。攻撃の範囲外にいた連中は口を大きく開かせて、すでに光線を放つ体勢に移っていた。

 

「飛ぶぞ、九重!」

 

「うむ!」

 

 バッと飛び上がり空中へと逃げる。

 

 ビィィィィッ!

 

 先ほどまで俺たちが立っていた地点を光線が襲った――が、目標となっていた俺たちは空中にいる。光線はそのまま対角線上にいた仲間のモンスターに命中した。

 

「ギャギィ!」

 

「ギャギャッ!」

 

 お互いの光線が命中し合い、ダメージを受けてうめき声を上げるモンスター。運悪く頭を吹き飛ばされたり、体の大部分に光線が命中したモンスターは消滅したようだ。

 

「おいおい、まだまだ出てくるのかよ?」

 

 転移魔法陣が再び地面に発生し、消滅したアンチモンスターの穴を埋めるように、新たなアンチモンスターが出現した。

 

 九重が地面を覆うモンスターたちを見つめて顔を青くした。

 

「うえええ、気持ち悪いのじゃ……」

 

「……確かに。まるでゴキブリみたいだな」

 

 黒いし、蠢いてるし、奇声まで発して考え無しに光線を撃って、倒してもあとから無尽蔵に出現してくる。まんま、害虫だな。

 

 アンチモンスターたちの顔が空中で制止している俺たちに向けられる。攻撃目標を確認したモンスターたちは機械的に口を開いていき――。

 

「エイジ! ここは私に任せるのじゃ!」

 

 そう言って九重が俺の前に出る。少しだけ高度を落として、体勢を地面と水平になるようもっていく。両手を地面にいるアンチモンスターたちへ突きだして、灯したままだった炎で大きな輪を創りだした。……炎の輪?

 

 ビィィィ――、

 

 地面を覆うように蠢いている無数のアンチモンスターたちから、これまた無数の光線が放たれた!

 

 俺たちへ向って一直線に飛んでくる光線! しかしそれらは全て俺たちに到達する前に、九重が創りだした巨大な炎の輪のなかに吸い込まれるように消えていく!

 

 ――ィィィ……。

 

 光線を放出し続ける限界を迎えたのか。光線はどんどん細くなっていき、完全に放出が終わった。

 

 九重は光線の放出が終わったのを確認して叫ぶ!

 

「これは全て返すのじゃ!」

 

 九重の叫びに応えるように炎の輪の内側から無数の光線が放たれる! 光の光線! アンチモンスターが放った光線だ。

 

 光線がアンチモンスターたちへ向って雨のように降り注ぐ! 光線の雨を受けてアンチモンスターたちは断末魔をあげながら大量に消滅していった。

 

 炎の輪から光線を放出し終え、息を吐く九重。

 

「ふううう……、結構ギリギリじゃったのじゃ」

 

 そうつぶやいて体勢を戻す九重。俺は消えていく炎の輪を観察する。

 

「空間術……。いつの間に」

 

 炎の輪の内部の空間を異空間に繋げて光線を吸い込み、そのあとカウンターでそのまま光線を放つ術。空間術でも高位に属する術だ。本当に、いつの間に覚えたんだ?

 

「無論黒猫からじゃ。元々私は空間というか『場』を操る術に長けておったようでな。今となっては黒猫よりも空間術が使えるじゃろう」

 

 九重は自慢するように胸を張る。黒猫っていうと黒歌からか。そういえば、母親の八坂も『場』を操る能力に長けていたな。

 

 ブブブブ……。

 

 衣装の懐に入れている通信札が震えた。懐から札を取り出す。

 

『エイジ。……エイジ、聞えるか?』

 

 通信の相手はゼノヴィアだった。

 

「ああ、聞えてるよ。今は九重と一緒に昼間と似た擬似フィールドにいる。場所は金閣寺の近くだ。――ゼノたんたちは?」

 

『よかった、通じたか。私も、というかバス停にいた全員が擬似フィールドにバラバラに飛ばされたみたいだよ。私はアーシアとイリナの2人と一緒に飛ばされた。今は3人で二条城へ向かっているよ。他の眷属の皆も二条城を合流ポイントに集結する予定だよ』

 

「……そうか、わかったよ。ありがとう。俺たちも二条城に向かうよ」

 

 ゼノヴィアとの連絡を終える。

 

「九重」

 

「うむっ、二条城で合流じゃな! ……じゃ、じゃが……」

 

 九重が言葉を不安げに濁す。まあ、さっきも大量に屠ったはずのアンチモンスターがまた大量に出現したらな。

 

 俺は再び『千の顔を持つ英雄』を発動させる。出現させた武器は全長3メートル近くある両刃の大剣だ。

 

「二条城に向かうにしても、ここでこいつらの数を減らしておかないとあとが面倒だ」

 

 新たに出現してきたモンスターたち。数は100を越えている。それにしてもほとんどノータイムで無尽蔵に転送されてくる。おそらく俺たちをこのフィールドへ転送させる前にモンスターを創り貯めしておいたんだろう。……目的は足止めと消耗、ついでにデータ収集といったところか。

 

「私も戦うぞ! 黒猫から格闘術も学んでおる!」

 

 そう意気込んで両手両足に炎を付加する九重だが――。

 

「ダメだ。格闘で1匹1匹倒していては時間がかかりすぎるし、敵陣に九重が紛れることがあったら、一度に大量に屠れなくなる」

 

「――っ」

 

 俺の言葉にショックを受ける九重だが。この場で悠長に戦っているわけにはいかない。こうしている間にも八坂が実験に使用されるかわからないんだ。

 

 俺は九重の頭を片手でひと撫でして言う。

 

「まあ、ここは俺に任せてくれ。九重には二条城で働いてもらうから」

 

「……うむ。じゃが、これぐらいはさせてくれ」

 

 そうつぶやいて九重は俺が持つ大剣に炎を付加した。

 

「『千の顔を持つ英雄』は燃費がよいが創りだす武具に特殊効果を付けられぬからな。これで少しは攻撃力が上がったはずじゃ」

 

「属性付加までできるようになっていたのか」

 

「私も成長しているということじゃ」

 

 少し驚きながら言うと、九重は頬を少し赤らめて返した。

 

 空中でのやり取りの間に、またアンチモンスターが攻撃に移ろうとしていた。

 

「じゃあ、俺は地上に降りて殲滅してくる。九重は……」

 

「このまま空中で囮役にでもなっておく。お、お守りもあるから心配しなくてよいぞ!」

 

 そう言って首に下げたお守りを握りしめる九重。正直、それでも心配だけど……。

 

「行ってくる」

 

「うむ!」

 

 九重を信じ、俺は大剣を構えて地面で蠢くアンチモンスターたちに向っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 次々に出現し続けるアンチモンスターをあらかた掃討し、転送されるモンスターの数も減ってきたところを見計らって、俺は九重を抱えて二条城へと向った。

 

 途中襲い掛かってきたアンチモンスターを蹴散らしながら、二条城の東大手門へとたどり着いた。

 

「俺たちが最後みたいだな」

 

 二条城のまえにはすでに他のメンバーが集まっていた。抱えていた九重を下ろして皆と合流する。

 

 最初にこちらに気づいたイッセーが声をかけてくる。すでに禁手化して赤龍帝の鎧姿か。

 

「おっ。エイジと九重も着たな」

 

「悪い。少し手間取った」

 

 そう皆に対しても謝っていると――、

 

「おげぇぇぇ……」

 

 近くの電柱で吐いているヴァルキリーの鎧に身を包んでいるロスヴァイセを発見した。匙はそんなロスヴァイセを気遣いながら背中をさすっている。

 

 イッセーが何とも言えない表情で言う。

 

「俺もさっき木場から聞いたんだけど。なんでもロスヴァイセさん、刺客との戦闘で激しく動き回ったそうで、たまらなくなったんだと……」

 

「……そうか。まあ、動き回ればな」

 

 それにしても今日は厄日だな、ロスヴァイセ。今日1日だけで好感度というか年上&教師としての威厳が下がりまくってるだろう。

 

 と、改めて戦闘準備を整えながらここで軽く、転移させられてからの情報交換を行なう。

 

 その情報交換でわかったことは、まずフィールドが二条城を中心に形成されていて広大だということ。俺と九重以外のところには、それぞれ神器使いの刺客が送り込まれたということだ。

 

 イッセーも影を使う神器使いの刺客と戦い、木場も神器使いの刺客を送られたらしい。他にも戦闘服姿に着替えてるゼノヴィアやイリナと、皆少し服が破けたりしていたが、目立った怪我はなさそうだ。

 

 教会トリオからの報告を訊くと、敵が神器の能力を使用する前にイリナが『封印の剣』でその能力を封印して、刺客が戸惑っている間に『音速の剣』に変化させて一方的に仕留めたらしい。……神器使いなのに、その神器を封印されたら丸腰にされたのと同じだからな。禁手化以前に神器が使用不可能になった刺客の絶望した顔が浮んでしまう。

 

 ……それにしても、神器使いの刺客を送られずに、アンチモンスターだけを大量に送り込まれ続けたのは俺たちのところだけか。んー、誰を送り込んでもモンスターたちと一緒に殲滅されると予想していたから、神器使いを使わなかったのか? まあ、『魔獣創造』で無尽蔵に創りだせるモンスターより、神器使いのほうが貴重だからな。最初から負けると予想していれば、足止めや消耗させるには代えのきくモンスターを送るだろう。

 

 いちおう、フェニックスの涙は使用される状況になっておらず、イッセーと木場がそれぞれひとつずつ持っている。

 

 今のところは順調だといっていいだろう。

 

 ゴゴゴゴゴゴ……。

 

 情報交換もひと段落したところだった。鈍い音を立てながら巨大な門が開き始めた。

 

 完全に開け放たれた門。まるで入って来いと言わんばかりだ。門を見て、木場が苦笑した。

 

「あちらもお待ちしていたようだよ。演出が行き届いている」

 

「まったくだ。舐めんな」

 

 木場が皮肉を言い、イッセーが息を吐く。

 

 全員、確認しあうと二条城の敷地へと歩を進めていった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

<イッセー>

 

 二条城を中心とした広大な仮想フィールドへとバラバラに転送された俺たちは、それぞれ送り込まれた刺客を倒して二条城で合流し、今は二条城の敷地内を進んでいるところだ。

 

「僕が倒した刺客は本丸御殿で曹操が待っていると倒れる間際に言っていたよ」

 

 木場が走りながらそう言う。

 

 2つの丸庭園を抜け、本丸御殿を囲む水堀が見えてくる。本丸御殿に続く『 櫓門 (やぐらもん)』という門を潜った。

 

 たどり着いたのは――古い日本家屋が建ち並ぶ場所だった。キレイに整備された庭園も見える。

 

 英雄派の気配を探る俺たちに声が投げかけられる。

 

「禁手使いの刺客を倒したか。俺たちのなかで下位から中堅の使い手でも、禁手使いには変わりない。それでも倒してしまうキミたちはまさに驚異的だ」

 

 庭園に曹操の姿を捉える。……建物のあちらこちらの陰から構成員が姿を現した。全員、変わらずの制服姿だ。

 

「母上!」

 

 九重が叫んだ。九重の視線の先に――着物姿のキレイな女性が佇んでいた。頭部に狐の耳、複数の尻尾が見える。この御仁が九尾の御大将か。

 

「母上! 九重です! お目覚めくだされ!」

 

 九重が駆け寄って声をかけても御大将――八坂さんは反応しない。瞳も陰り、無表情だった。

 

 九重が曹操たちを睨みつける。

 

「おのれ、貴様ら! 母上に何をした!」

 

「言ったでしょう? 少しばかり我々の実験に協力してもらうだけですよ、小さな姫君」

 

 曹操はそう言うと、槍の石突きで地面をトンッと叩く。刹那――。

 

「う……うぅぅ、うああああっ!」

 

 八坂さんが悲鳴をあげはじめ、様子が激変していく! 体が光り輝き、その姿を徐々に変貌させていった! どんどんデカくなっていって、9つの尻尾も膨れ上がっていく!

 

 オオォォォォンッ!

 

 夜空に向って咆哮をあげる巨大な金色の獣――。俺たちの眼前に現れたのは、でっかい狐の怪物だった!

 

 デカい! フェンリルと同じぐらいあるんじゃないか!? 9つの尻尾の分、フェンリルよりも大きく見える。

 

 ブウォンッ!

 

 と、誰もが狐の怪物に見入っているなか、俺たちよりも前に歩み出たエイジが胸の前に小さな波紋を出現させた!

 

 エイジが胸の前に出現している小さな波紋に左腕を突っ込んで引き抜く。引き抜いたエイジの左腕には黒い籠手が装着されていた。

 

 続いてエイジは右腕も波紋に突っ込んで引き抜く。引き抜いた右腕いは先ほどとは対照的な白い籠手が装着された。どちらも龍の頭が付けらている籠手だった。

 

「王の財宝……」

 

 エイジがつぶやくと波紋が広がり、身の丈の半分ぐらいはある大きな盾を出現させた。盾を左腕で取ると、続いて剣の柄が波紋から出現し、エイジは右腕で柄を掴んで引き抜いた。

 

 籠手に続いて、大きな盾と、両刃の長剣を装備したエイジ。

 

 おいおいおい! いつもよりものすごい重装備じゃないかよ!? しかも全部『王の財宝』から出した武器だ! あのなかのものって、神滅具にも負けないトンでもない効果をもったものばかりだったよな? それを4つも装備って。……それだけ怒っているということなのか?

 

 エイジは長剣の切っ先を曹操に向ける! 五角形の盾を構えて突き出した部分を地面に触れさせ――。

 

 リィン。

 

 瞬間、鈴のようなキレイな音色が脳内に響き渡った。

 

 ……。

 

 ……了解。了解したぜ。へへっ、さすがだぜ、エイジ。『王の財宝』から4つも武器を出したのはそういうことだったのか。

 

 俺は曹操に向って問い詰める。

 

「曹操! こんな擬似京都まで作って、九尾の御大将まで操って、何をしようとしている!?」

 

 曹操はエイジを警戒しつつも、槍の柄を肩にトントンとしながら答え始めた。

 

 なんでも術式発生装置らしい京都の都市の力と九尾の力を使って儀式を行い、グレードレッドを呼び出すらしい。

 

「グレードレッド? あのでっかいドラゴンを呼んでどうするつもりだ? あいつ、次元の狭間を泳ぐのが好きで実害はないんだろう?」

 

 少なくともアザゼル先生からはそう説明されている。

 

「ああ、あれは基本的に無害なドラゴンだ。――だが、俺たちのボスにとっては邪魔な存在らしい。故郷に帰りたいのに困っているそうだ」

 

 ――オーフィスか。

 

 俺の脳裏にある少女姿のオーフィスが思い出される。テロリスト共のボス。三大勢力から見たらラスボス的な存在だよな。……俺のなかのイメージではエイジに求愛する無表情少女だが。

 

「……それでグレードレッドを呼び寄せて殺すのか?」

 

 俺の問いに曹操は首をひねる。もうそろそろか……。

 

「いや、さすがにそれはどうかな。とりあえず、捕らえることができてから考えようと思っているだけさ。いまだ生態が不明なことだらけだ。調査するだけでも大きな収穫を得ると思わないか? たとえば『龍喰者』がどれぐらいの影響をあの赤龍神帝に及ぼすのかどうか、とか。まあ、どちらにしろ、ひとつの実験だ。強大なものを呼べるかどうかのね」

 

 ……ドラゴンイーター?

 

 初めて聞く単語に俺は訝しくなるが、どうせろくでもない代物だろうさ。

 

「……よくわからねぇ。よくわからねぇが、おまえらがあのデカいドラゴンを捕らえたら、ろくでもないことになりそうなのは確かだな。それに九尾の御大将も返してもらう」

 

 俺がそう言うと、ゼノヴィアが剣を曹操に向ける。

 

 ――布に包まれたままのデュランダル。ゼノヴィアが体に青いオーラを灯すと布がはじけ飛び、姿を現した。

 

 鞘がなかったデュランダルだが、今は黄金の文字がところどころに描かれた白銀の鞘に収められている。

 

 もう一度ゼノヴィアがデュランダルへオーラを流すと、鞘が音もなく各部位にスライドしていき、変形していった。

 

 これが新しいデュランダルか。前みたいに攻撃的なオーラは感じないが……。鞘だったものが力を全部刀身に押さえ込んでいるからなんだろう。軽く探ってみると、底知れない力をデュランダルから感じた。鞘も含めて新しいデュランダルということか。

 

「イッセーの言う通りだ。貴様たちが何をしようとしているのかは底まで見えない。だが、貴様の思想は私たちや私たちの周囲に危険を及ぼす。――ここで屠るのが適任だ」

 

 ゼノヴィアの宣戦布告に木場がうなずく。

 

「意見としてはゼノヴィアに同意だね」

 

「同じく!」

 

 イリナも応じてTCMを構えた。今回の剣も速度重視の『音速の剣』だ。

 

「グレモリー眷属に関わると死線ばかりだな……」

 

 嘆息しながら匙が言う。ゴメンね、匙。うちはこういうことばかりだから……。

 

「ま、学園の皆とダチのためか――」

 

 その匙の腕、足、肩に黒い蛇が複数に出現し、奴の体を這いだした。全身に黒い蛇をまとわせていく。さらに匙の足元から黒い大蛇が出現し始めた。

 

 大蛇は匙の傍らに位置すると黒い炎を全身から迸らせて、とぐろを巻く。匙の左眼だけ赤くなり、蛇の目のようになっていった。

 

 信じられないほどのプレッシャー! 先生、匙のこと強化しすぎでしょ!? こ、こいつ、通常形態でも冥界で戦ったときと比べ物にならないほどパワーアップしてんぞ!

 

「……ヴリトラ、悪いが力を貸してくれ。兵藤がフォローしてくれるそうだからよ、今日は暴れられそうだぜ?」

 

 そうつぶやく匙の周囲にも黒い炎が巻き起こっていた。

 

 大蛇が低い音声でしゃべりだす!

 

『我が分身よ。獲物はどれだ? あの聖槍か? それとも狐か? どちらでもよいぞ。我は久方ぶりの現世で心地よいのだよ。どうせなら、眼前の者どもをすべて我が黒き炎で燃やし尽くすのもよかろうて』

 

 おおう、怖いこと言ってんな、あの炎の龍。つーか、喋れるほど意識が復活してんだな。あれが龍王の一角か。タンニーンのおっさんとは違う重圧だ。こっちは不気味で怖いや。

 

 ブウォォォオオンッ!

 

 突然、ゼノヴィアが天高く掲げるデュランダルが力を解放させた! とんでもない破壊のオーラが噴出し、ぶっというえに10メートルはゆうにあろうかというほど巨大なオーラの刃を創り出していた!

 

 長ぇえええっ! ぶってぇぇえええっ! でっけぇぇえええっ!

 

 しかも巨大なオーラを放出続けるだけでなく、きちんと剣を形を形成して留まらせている。絶大なパワーを完全に掌握しているようだ。

 

 つーか、タイミングが早い気がするんだけど! まだ匙の奴は『龍王変化』してないよ!?

 

「――初手だ。食らっておけッ!」

 

 ゼノヴィアは俺の心の叫びなぞ吹っ飛ばすように10メートル以上ある、オーラで形成した巨大な剣を――英雄派のほうへ一気に振り下ろした!

 

 巨木が横倒しになるように新デュランダルの一撃が曹操たちのほうに放たれていく!

 

 ザッバァァアアアアッ!

 

 ゼノヴィアが振り下ろした一撃は本丸御殿の家屋を丸ごと吹き飛ばす。剣に込められたオーラの波動が大波となって、建物、公共物、風景を飲み込んでいった!

 

 地は真っ二つに裂かれ、その衝撃で生まれた震動に俺たちは足を取られて、その場に膝をつくしかなかった!

 

 攻撃が終わったあと、眼前には――ことごとく消滅し、膨大なオーラの一撃は二条城の堀を越えて、城外の建物や道路まで跡形もなくぶっ壊していた!

 

 ……バカげてる! とんでもない攻撃力じゃないか!

 

「ふー」

 

 ゼノヴィアが肩で息をして、額の汗を手で拭っていた。デュランダルは変形した状態のままだが、オーラは消えている。

 

 ふー、じゃなぞ! 一仕事終えたみたいな顔しやがって! いきなりオーバーキルめいた攻撃をかますんじゃない!

 

「おい、ゼノヴィア! 一発目から飛ばしすぎだろ!」

 

いくら敵の目をくらませる一撃を放つように言われていても、あれはやりすぎだろ! 俺が興奮気味に言うが、ゼノヴィアは手でVサインを作りながら返した。

 

「開幕の一発は必要だ」

 

「ロキのときもいきなりだったよね!? おいおいおい……」

 

 こいつには何を言っても無駄か!

 

「これでも極力威力を調整したほうなんだ。ほら、私自身にはあの術を使っていないだろう?」

 

 た、確かに……。あのロキを圧倒していた魔力をまとい続ける術を使用していない。

 

 ゼノヴィアは新デュランダルをコツコツ叩く。

 

「この新しいデュランダルは数段強化されて新しい能力を加えた分、かなり制御が難しくなってね。実はこの鞘はデュランダルの力を制御する拘束具でもあるんだよ」

 

 つまり鞘を変形させて刀身と同化させてるのは制御するためってことか……。と、とにかく、とんでもなく危ない武器だということはわかった。

 

 ゼノヴィアは剣をかざしながらつぶやく。

 

「だから、銘は『デュランダル』のまま。もっとも、その前には『聖剣』ではなく。別の称号がつくがね」

 

 あくまでデュランダル、か。それに『聖剣』デュランダルじゃなく、別の称号が付くってやっぱりアレだよな? 龍殺し以上に危険極まりない、とんでもない称号。

 

「ま、初手で倒せるほどだったら苦労もないな」

 

 ゼノヴィアの視線が前を捉えている。

 

 ……そういうことだよな。俺も今の一撃で奴らがやられてくれるほど、甘いなんて思っちゃいなかったさ。

 

 ゴッ!

 

 何もなくなった建造物跡――地面から腕が突き出てくると、一気に土が盛り上がり下から複数の英雄派メンバーが現れる。彼らを薄い霧が覆っていた。

 

 全員、見た目は汚れているが――無傷っぽいな。あの霧がデュランダルのオーラを防いだのか?

 

 最初に地面から腕を突き出した2メートルはあろうかという巨躯の男が首をコキコキと鳴らし、後方で曹操が槍で肩をトントンとやっていた。あの一撃で平気か。そのぐらいじゃないと各勢力に対してテロなんてしようないよな……。

 

 曹操があごに手をやりながら笑む。

 

「いやー、いいね♪」

 

 本気で楽しそうな一言だった。

 

「キミたち、もう上級悪魔の中堅――いや、トップクラスの上級悪魔の眷属悪魔と比べて遜色がない。魔王の妹君は本当に良い眷属を持った。レーティングゲームに本格参戦すれば短期間で2桁台――10年以内にトップランカー入りかな? どちらにしても、末恐ろしい。シャルバ・ベルゼブブはよくこんな連中をバカにしたものだね。ああ、だから死んだのか」

 

 曹操の言葉にジークフリートが苦笑する。

 

「古い尊厳にこだわりすぎて、下から来る者が見えなかった、といったところでしょ。だから、ヴァーリにも見放され、旧魔王派は完全瓦解したわけさ。――さて、どうするの? 僕、いまの食らってテンションがおかしくなってるんだけど?」

 

「そうだな。とりあえず……」

 

「――へへっ」

 

 ――思わず笑い声を漏らしてしまう。

 

「? どうかしたかい、赤龍帝?」

 

 曹操が槍で肩をトントンとやりながら訊ねてくる。俺は構えをとりながら言う。

 

「いや……こっちの作戦に見事にハマってくれたみたいで、な」

 

「……作戦だと?」

 

 槍でのトントンを止めて怪訝な顔を浮べた瞬間――。

 

「曹操ッ! 九尾だ!」

 

 制服にローブを羽織った魔法使い風の青年から声が飛んだ! 曹操が怪物と化した九尾のほうへ顔を向けると――。

 

 白と黒の籠手から出現させている巨大な手で九尾を拘束しようとしているエイジの姿があった。その背中にはしがみついている九重の姿もあった。

 

「神城エイジ……ッ!」

 

 怒りを含ませた声音でつぶやいた曹操。こちらに目をやってつぶやく。

 

「幻影……。いや、変わり身と入れ替わったのか」

 

 曹操が言っているのは、俺たちのそばに代わらず剣と盾を装備して立っている、もうひとりのエイジと九重のことだろう。

 

 俺が説明するように言う。ハハハ、やっと説明する側になれたな。

 

「さっきのゼノヴィアの一撃はエイジたちが分身と入れ替わるためのものだったのさ。会話を長引かせていたのも、分身を創りだすまでの時間稼ぎだ」

 

「いつの間にこんな作戦を……」

 

「エイジが出した盾さ。あれには味方全員に作戦を伝える効果があるらしくてな。ちなみに剣のほうは囮だよ」

 

 盾を地面に触れさせたときに聞えた音色は俺たちに作戦を伝達させるものだったんだよな。いきなり作戦が流れ込んできたから驚いたけど、成功したみたいでよかったぜ。役目を終えた分身たちは光になって消えていく。

 

「俺たちはまんまと術中に嵌ったわけか。――だが、こちらも九尾を奪われないように対策ぐらい講じていたさ」

 

 余裕を崩さずに言う曹操。九尾とエイジたちを見ると――。

 

 籠手から出現させたエイジの巨大な手が、九尾に触れるのを防いでいる霧が。

 

「『絶霧』ッ!」

 

 クソッ! ゼノヴィアの一撃を防いだときみたいに『霧』で守ってるのか!

 

「さてと、それではいまのうちに九尾の狐にパワースポットの力を注ぎ、グレードレッドを呼び出す準備に取り掛かるとしよう。――ゲオルグ!」

 

「……すまないが曹操、それは無理のようだ」

 

 曹操に一言にローブを羽織った魔法使い風の青年――ゲオルグとやらが答える。へ!? む、無理?

 

 と、巨大な手を阻んでいた霧が霧散した! 巨大な2つの手が九尾を捕らえる!

 

 オオォォォンッ!

 

 咆哮をあげる九尾だけど、しっかりとエイジが押さえ込んでいる。よっしゃああッ! 九尾の捕獲成功だ!

 

「……ゲオルグ?」

 

「そう睨まないでくれ。仕方がないだろう。あのままでは『絶霧』を解析されそうだった。……どちらにしろ、アレが奪われるのは時間の問題だったことだし。こんな実験で『絶霧』を解析されるほうが困るだろう?」

 

「ちっ……。グレードレッドを呼んでみたかったんだがな」

 

 曹操は心底残念そうにつぶやく。こっちは呼ばれちゃ困るんだよ!

 

「さーて、どうしたものか」

 

 曹操は俺たちに向き直る。

 

「九尾を使った作戦は早々に淘汰してしまったようだし。『魔獣創造』のレイナルドと他の構成員は外の連合軍とやりあっている。彼らがどれだけ時間を稼げるかわからないところもある。外には堕天使の総督、魔王レヴィアタンがいるうえ、セラフのメンバーが来るという情報もあった。……うーむ、どうしたものか」

 

 そうはつぶやくものの、曹操の余裕は消えない。何を考えてやがる!?

 

 曹操は考え込む素振りを見せたあと、ニヤリと笑んで言う。

 

「このまま引き下がる――と、いうのもバカな話だしな。あいつが九尾の狐の対応に追われている間に、グレモリー眷属たちの力を見ておくのもいいだろう。――ジャンヌ、ヘラクレス」

 

「はいはい」

 

「おう!」

 

 曹操の呼び声に細い刀身の剣を持った金髪で異国のお姉ちゃんと、先ほどの巨体の男が前に出た。

 

「彼らは英雄ジャンヌ・ダルクとヘラクレスの意思――魂を引き継いだ者たちだ。ゲオルグ、ジークフリート、おまえたちはどれとやる?」

 

 曹操の問いにジークフリートは抜き放った剣の切っ先を――ゼノヴィアに向けた。

 

 それを見てジャンヌと呼ばれたお姉ちゃんとヘラクレスと呼ばれた巨体の男が顔を笑ませた。

 

「じゃあ、私は天使ちゃんにしようかな。かわいい顔してるし」

 

「俺はそっちの銀髪の姉ちゃんだな。随分、気持ち悪そうだけどよ!」

 

 それぞれが視線を交わした。……ゼノヴィアがジークフリート、イリナがジャンヌ、ロスヴァイセさんがヘラクレス……。

 

「んじゃ、俺は赤龍帝っと。ゲオルグは聖魔剣とヴリトラくん、どっちがいい?」

 

 曹操がゲオルグに訊ねながら木場と匙に視線を送る。木場が聖魔剣を構え、匙の炎が勢いを増す。俺は匙を手で制した。

 

「……匙、おまえはエイジと九尾の御大将だろ。なんとか、あそこから解放してやってくれ」

 

「俺は怪獣対決、か。まあ、神城がいる分気持ちが楽だな。……了解した。兵藤、死ぬなよ」

 

「死ぬかよ、そっちも気張れ」

 

「これでもここに来る前、『女王』にいちおうプロモーションしてたんだからさ。最初から気合は十分だッ!」

 

 そのやり取りを得て、匙の体が黒い炎に大きく包まれた。しだいに炎は広がり、巨大に膨れ上がっていく。

 

「――『 龍 王 変 化 (ヴリトラ・プロモーション)』」

 

 炎がいっそう盛り上がる! 漆黒の炎は形をなしていき、体の長細い東洋タイプのドラゴンへと変貌していった。

 

 ジャァァアアアアッ!

 

 巨大な黒いドラゴンが鳴く――。九尾の御大将と真っ正面から対峙する。無事、匙が龍王へと変化した。黒い炎が押さえつけられている九尾を囲み、どんよりとした薄暗いオーラを放ち始める。異質な能力が多いというヴリトラ。悪神ロキ戦でも有効だった。種族は違うけど、九尾の御大将にも効果があればいいんだが……。

 

 俺はアーシアに言う。

 

「アーシアは後方で回復役だ。昼間みたいにオーラを飛ばして回復させてくれるか?」

 

「はい!」

 

 うなずいて後方に下がるアーシア。制服にローブを羽織ったゲオルグが顎に手を当てながら言う。

 

「どうやら僕の相手は聖魔剣使いになったようだね」

 

「僕じゃ不満かい?」

 

 木場が聖魔剣の切っ先を向けながら問う。ゲオルグは首を振る。

 

「いや。『騎士』相手だと僕では何ともつまらない戦いになりそうだと思ってね」

 

 ゲオルグが片手を空に向ける。空に各種様々な紋様の魔法陣が縦横無尽に出現した!

 

「……魔法陣から察するにざっと見ただけでも北欧式、悪魔式、堕天使式、黒魔術、白魔術、精霊魔術……なかなか豊富に術式が使えるようですね……」

 

 ロスヴァイセさんが目を細めながらそうつぶやいた。……つまり『絶霧』使いな上にとんでもない魔法使いでもあるってわけか。

 

 ゲオルグは遊ぶように空中で魔法陣の動かしながら言う。

 

「元々は儀式のために用意していた魔法陣さ。ま、これだけあればキミが僕の元にたどり着く前に屠れるだろうね。言ったろ? つまらない戦いになると。どうする? 今からでも戦う相手を代わるかい? ヘラクレスとかいいんじゃないかな?」

 

 にこやかにそう告げてくるゲオルグ。……こいつの性格最悪だな。だけど……。

 

「木場……」

 

 ここは相手を代わったほうがいい。いくらなんでも相性が最悪すぎる。まだ魔術でのフルバーストだったりと遠距離でも戦えるロスヴァイセさんのほうが戦えると思う。

 

 心配する俺を木場は手で制してくる。

 

「大丈夫だよ、イッセーくん」

 

 聖魔剣を構えなおしてゲオルグに向って言う。

 

「あまり僕を舐めないでもらえるかな?」

 

「ふふ、別に舐めてるつもりはなかったんだけどな」

 

 どうやらこのまま戦うつもりのようだ。……死ぬなよ、木場!

 

 俺の相手は――曹操。英雄派のリーダー格。最強の神滅具を持つ男。

 

 ったく、なんで俺って最近こうボス的存在とばかり相対してんだろう?

 

「ま、いいか。おまえ、ヴァーリより強いのか?」

 

 俺の質問。曹操は口の端を楽しそうに吊り上げて肩をすくませた。

 

「さあ。だが、弱くはないかな。よわっちい人間だけどね」

 

「嘘こけ。エイジとやりあっても負けなかった奴が弱いはずねぇだろ」

 

「ハハハハ、負けなかっただけでも弱くないか。確かに。あいつ相手ならそうなんだろうな。……以前と比べ物にならないほど弱くなっていたとしても」

 

「……エイジが弱くなった? 何を言ってるんだ?」

 

「ふっ、昔の……『人間』だった頃の神城エイジだったら、昼間の時点で俺を殺すか捕らえることぐらいはできていたってことさ。いや、もしかしたら英雄派すべてが昼間の時点で捕らえられていたかもしれなかった」

 

「い、いくらなんでもそれは無理だろ……?」

 

「彼ならそれぐらいできたさ」

 

 確かな確信を言葉に込めてつぶやいた曹操。曹操は九尾を押さえ込んでいるエイジを眺めながら言う。

 

「悪魔になって彼は本当に弱くなった。昔の彼だったら『黄昏の聖槍』相手でも退かずに対処できたはずさ。悪魔になんか転生して『光』という弱点が出来てしまったから、『黄昏の聖槍』の能力を使用していない状態でも俺は負けなかったんだよ。……いや、それだけじゃなかったか……」

 

 曹操は槍を握りしめて続ける。言葉に憎悪を含ませて。

 

「神城エイジを無理矢理悪魔などに転生させて誑かした現魔王の妹、リアス・グレモリー……。そのリアス・グレモリーが新人悪魔のレーティングゲームに参加するという理由で、普段から力を制限させるリミッターなんかを付けられていたのも理由のひとつだろうよ。肉体と力がかみ合っていない。ただでさえ肉体が別物に変化しているのに、普段からリミッターなんかをかけられていたため、変化した肉体に能力が馴染んでいないんだ」

 

 ……こいつ、よくエイジのことを分析してるな。俺たち以上にエイジのことを知ってるんじゃないか?

 

「……いったいどこで運命が狂ってしまったんだろうな」

 

 曹操はエイジを見つめながら小さくつぶやいた。その眼差しには悲しみや失望のようなものが含まれているようだった。

 

 オオオオォォォンッ!

 

 ジャアアァァアアアッ!

 

 匙と九尾の御大将の咆哮! エイジが出現させていた巨大な手がいつの間にか消えている。

 

 匙が放つ黒い炎が舞い、九尾の御大将の周囲を完全に包囲した。炎が怪しげな揺らめきをすると、九尾の御大将の全身からオーラが放出されていく。その現象に御大将は苦しんでいる様子だ。

 

 これはロキ戦でも見せた、相手のパワーを奪う技か? このままいけば無傷で戦闘不能にできるかも! なんて都合の良いことを思っていたら――。

 

 九尾の御大将が口を開けた! 喉の奥から炎の光が見えてくる。や、ヤバ……。

 

「封ッ!」

 

 突然聞えたエイジの声! 発生源は上空のほうからで――な、なんだありゃあ!?

 

 突然、上空から飛来してくるもの! すべて鳥居のようだけど、それは巨大どれも特大サイズ! ひとつが今まさに炎を放とうとしていた九尾の御大将の首を押さえ込んだ!

 

 間髪入れずに残りの鳥居が飛来してくる!

 

 ドドドドドドォォオオオオンッ!

 

 九尾の御大将の両腕両足、胴体、9つの尻尾と空から飛来してきた巨大な鳥居が押さえつけた!

 

 オオオォォンッ!

 

 九尾の御大将はもがきながら鳥居をどうにかしようとするが、ビクともしないようだ。その間にヴリトラと化した匙が黒い炎で九尾の御大将を包み込む。

 

『よし! とりあえず身動きは封じられたな!』

 

『集中しろ、我が分身よ。我の力は高い集中力が必要となる。動きを封じ込めても、まだ九尾の膨大な妖力をどうにかしないとならんのだぞ』

 

『ご、ごめん……』

 

 匙とヴリトラの会話がブースデット・ギアを通して聞えてくる。

 

『俺の譲渡、必要か?』

 

 と、神器を通して俺が訊く。いちおう曹操との戦いが始まって援護ができなくなるまえに聞いてみたのだが……。

 

『いらぬ。我が分身が我の力を使いこなせていないこの状況で赤龍帝の力が加算されてしまえば暴走しかねぬ。実戦の中で我が分身が力の特性を覚えていくしかあるまいて』

 

 ヴリトラさんにそう返されてしまった。

 

 了解。匙、気張れよ! 危なくなったら、俺もできるだけ助けに入るからよ!

 

『……あいよ! まあ、神城が九尾の御大将を目覚めさせるまでの間ぐらいは粘らせてもらうさ! おまえもそいつらぶっ飛ばしてこいよ!』

 

 おう、任せろ! と、神器で会話をしているなか、九重を背中に背負ったエイジが上空から九尾の御大将の頭へと降り立った。

 

 ゼノヴィアの初手のまえに、盾によって伝えられた作戦では、心を失わされている九尾の御大将の精神世界に九重と入って意識を取り戻させる。って、作戦だったよな? 時間は少しかかるらしいけど。意識が完全に取り戻せればこっちのものらしいから、匙はエイジたちが精神世界に入っている間、ヴリトラの力で九尾の御大将が暴れないように押さえながら暴走している力を抜いて、俺たちはそれが終わるまで英雄派の足止め、だったはず!

 

 ……足止めだったはずなんだが、どうやら英雄派はエイジと九重の邪魔をする気はないようだ。英雄派メンバーはグレモリー眷属とそれぞれにらみ合ったままそこを動かなかった。

 

 開幕は匙とエイジたちが受け持ってくれた。次は俺たちか!

 

「木場! ゼノヴィア! 少し離れて戦ってくれ! 九尾の御大将からこいつらを少しでも離したい!」

 

『了解!』

 

 2人は応じて、駆け出す。ジークフリートはゼノヴィアを追うが――。

 

「僕は別に動かなくてもいいからね」

 

 ゲオルグのほうはそのままその場に立っている。……ま、まあ、魔法使いだし、当然か。

 

 どうしたものかと思っていると――ゲオルグは肩をすくませて言う。

 

「まあ、このままこの場で戦っていたら曹操と赤龍帝の戦いに巻き込まれかねないからね。のってあげるよ」

 

 ゲオルグの足元に魔法陣が出現する。さらに続けて魔法陣が短い間隔で出現し続け、ゲオルグはその魔法陣を使い、短距離の転移を繰り返しながら移動していく。

 

 木場もそれを追って離れていった。

 

 ギィン! ギィィンッ!

 

 ぶつかり合う金属音! 銀光を走らせ、火花を散らし始めるゼノヴィアとジークフリート!

 

 三刀流のジークフリートがゼノヴィアに斬りかかり、ゼノヴィアは繰り出される剣戟をすべてデュランダルで受け止めていき、隙あらばデュランダルにオーラの刃をまとわせて斬りかえしていた!

 

 ジークフリートから繰り出される剣戟の隙を狙い、横なぎに振るわれるデュランダル!

 

「――ハハッ! 危ない危ない」

 

 ゼノヴィアの反撃を後ろに飛ぶことで避けたジークフリートが笑む。……ゼノヴィアを相手にしてるのに全然余裕そうだな。

 

「新しくなったデュランダル、かぁ……。魔剣を受け止めてもビクともしないなんて。まえのデュランダルには興味がなかったけど。それは欲しいなぁ」

 

「はぁ……、これもやらないぞ」

 

 うんざりしたようにため息を吐くゼノヴィア。そういや昼間も真・リュウノアギト改を欲しがってたけ。こいつ魔剣だけじゃなくて聖剣も収集してるのか?

 

「ふぅぅ……」

 

 ゼノヴィアが息を吐き、片手で額を拭う。見れば若干汗をかいているようで疲労しているようだ。……あれ? いつものゼノヴィアはこれぐらいじゃ全然疲れないのになんでもう疲れてるんだ? あの魔力をまとう技も使ってないのに。

 

「? もう疲れたのかい?」

 

 ジークフリートも意外そうにゼノヴィアに訊ねる。ゼノヴィアは素直にうなずいた。

 

「まあね。私にはまだまだこのデュランダルを使いこなすことができないみたいでね。正直言うと使えるというか、持てるようになったのは今日の朝だったんだよ。――やはりぶっつけでの実戦投入は無茶だったと後悔しているよ」

 

 やれやれだと首を振るゼノヴィア。おいおい……、そんな剣を実戦で使うなよ。

 

「アハハハハハハ! そんな剣を僕たち相手に使うなんて。キミはおもしろいなぁ!」

 

 心底楽しそうに笑うジークフリート。笑い声を出しながら思う存分笑い――。

 

「――じゃあ、僕もおもしろがられるように、大サービスしないとだね!」

 

 ぞくり……。

 

 先ほどまで笑っていたジークフリートから言い知れない重圧が解き放たれた……ッ! 背筋に冷たいものが走り抜け、殺気が膨らむ!

 

「――禁手化ッ」

 

 ズヌッ!

 

 ジークフリートの背中から――新たに3本の銀色の腕が生えてきたぁああっ! うわっ、阿修羅みてぇだ! 新しい腕は大剣してあった残りの剣を抜き放つ。

 

 ――六刀流かよッ!

 

「魔剣のディルヴィングとダインスレイヴ。それに悪魔対策に光の剣もあるんだよ。これでも元教会の戦士だったからさ」

 

 6本の腕それぞれに剣を握る。その姿はまさに阿修羅だ。

 

「これが僕の『 阿修羅 と 魔龍の宴 (カオスエッジ・アスラ・レヴィッジ)』。『 龍 の 手 《トゥワイス・クリティカル》』の亜種たる神器は禁手もまた亜種だったわけだね。能力は単純だよ。――腕の分だけ力が倍加するだけさ。技量と魔剣の数だけで戦える僕には十分すぎる能力だ。さて、キミはどこまで戦えるかな?」

 

 俺がゼノヴィアを心配しているなかでイリナもジャンヌというお姉ちゃんと激戦を繰り広げていた。

 

「音速の剣ッ!」

 

 TCMを『音速の剣』に変化させているイリナが高速で斬りかかっていた。『音速の剣』による速度強化を受けたイリナはほとんど視認できない速度で動き回りながら斬り込んでいるが――。

 

「いいね! 天使ちゃん! 速い速い! 私の速度に追いつきそうだよ! 意外とできるんだね! お姉さん感激しちゃった!」

 

 ジャンヌはそれ以上の速度でイリナの攻撃をよけている! しかも、喜びながら! 楽しそうに!

 

「このっ!」

 

 イリナがバッと後ろに下がり、光の槍を創りだしてジャンヌ目掛けて投げつける! 申し分ない速度! ていうか、銃弾みてぇだ!

 

「ん~、あっまーい!」

 

 イリナから放たれた光の槍をジャンヌが細剣――レイピアで弾く!

 

「今度はお姉さんから行くよ~!」

 

 ジャンヌが体勢を低くし、一気に詰め寄った! レイピアでイリナに斬りかかる!

 

「――っ!」

 

 ジャンヌの攻撃をイリナが『音速の剣』で受け止める。

 

 キィィンッ!

 

 金属を打ち鳴らして2人がつばぜり合う! 均衡するせり合い! ジャンヌが不敵に笑んだ! ――何か企んでいる!

 

「――聖剣よ!」

 

 叫ぶジャンヌの足元から剣が生えてくる! イリナは驚きながらそれを、身をよじって避けていた! そこにジャンヌの鋭い突きが襲い掛かるが――翼を羽ばたかせて上空に退避していた。

 

「あ、危ないわね」

 

 空中で冷や汗を拭うイリナをジャンヌはおかしそうに笑った。

 

「やるやる! へぇ。見くびってたな。さすが天使ちゃん」

 

「これでも天使長ミカエルさまの(エース)なんだから! 舐めないで!」

 

「そっかー。ミカエルさんのねー。わかった。お姉さんもジーくんみたいに大サービスで見せちゃう」

 

 ウインクするジャンヌ。……ジーくん? ジークフリートのことか? って、大サービス? まさか、ジークフリートのように――。

 

「お姉さんの能力はね。『 聖 剣 創 造 (ブレード・ブラックスミス)』。そっちの聖魔剣のヒトが持つ神器の聖剣バージョン。どんな属性の聖剣でも創れるのよ? でも、このままじゃ、木場の聖剣には勝てないわ。けれど、例外ってあると思わない?」

 

 ニッコリ笑むお姉さん。ジャンヌの神器は木場の聖剣バージョンか。そういうのがあるって知ってたし、木場も禁手になった影響でそちらもできるようになっていた。

 

 けど、例外……? 俺は嫌なイメージしかできなかった――。そして、それは当たる。

 

「――禁手化」

 

 ドォォォオオオンッ!

 

 かわいく笑むお姉さんの足元から大量の剣――聖剣が生み出され、すごい勢いで重なっていく! 聖剣が何か大きなひとつの物体を形作ろうとしていた!

 

 ――ジャンヌの背後に創りだされたのは幾重もの聖剣でできあがった巨大なドラゴンだった!

 

 聖剣で形作られたドラゴンかよ! なんてもの創りやがったんだ、あの姉ちゃん!

 

「この子は私の禁手。『  断罪 の 聖龍  (ステイク・ビクティム・ドラグーン)』。ジーくん同様、亜種よ」

 

 微笑むジャンヌだが、イリナは厳しい表情をしていた。

 

「聖ジャンヌ・ダルク……。聖人の魂を引き継ぐ人と戦うなんて、天使としては複雑よね。けど、これもミカエルさまと皆のため! 平和が1番!」

 

 おおっ、『音速の剣』を掲げて気合を入れなおしている! イリナも踏ん張ってくれよ!

 

 ドゴォンッ! ドオオンッ!

 

 炸裂音を何度も響かせて爆破合戦に入っているのはロスヴァイセさんと巨漢のヘラクレスだった。

 

「くっ! 魔術を受けてもモノともしないなんて!」

 

 縦横無尽に魔法を繰り出しているロスヴァイセさんだが、それらをまともに受けてもヘラクレスは狂喜して突っ込んでいく!

 

「ハッハッハーッ! いいねぇ! いい塩梅の魔法攻撃だッ!」

 

 ――ッ! 笑ってやがる! ロスヴァイセさんの北欧魔術フルバーストを受けても平気で突っ込んでいる! いや、ダメージは受けているぞ! 小さいが全身に傷を負っている。

 

 つーか、あの魔法攻撃を食らってあれだけのダメージだなんて、どんだけ頑丈なんだ!

 

 ドォォォンッ!

 

 ヘラクレスが拳を突き出すたびにその場が炸裂する! まるで手に爆弾でも握って拳を繰り出しているかのようだ!

 

 ロスヴァイセさんが軽やかに避け、ヘラクレスの拳が空振って後方の樹木に突き刺さる。刹那――炸裂音と共に器が木っ端微塵に爆ぜた!

 

「俺の神器は攻撃と同時に相手を爆発させる『 巨人 の 悪戯 (バリアント・デトネイション)』ッ! このまま、あんたの魔法を拳で弾きながら爆発ショーをしてもいいんだけどよォ。どいつもこいつも禁手になったら、流れ的に俺もやっとかないとあとでうるさそうでな! 悪いが、一気に禁手になって吹っ飛ばさせてもらうぜ! おりゃああああああああッ! 禁手化ゥゥゥゥッ!」

 

 男が叫び、その巨体が光り輝きだした! 光が男の腕、足、背中でゴツゴツした肉厚のものに形成されていく!

 

 光が止んだとき、男――ヘラクレスは全身から無数の突起を生やしていた! あの突起物……まるでミサイルの形だ……。い、いや、まさか――。

 

「これが俺の禁手ッ! 『超人による悪意の波動』だァァァァァァアアッ!」

 

 ヘラクレスの攻撃の照準が――ロスヴァイセさんにッ! ロスヴァイセさんもそれを認識したのか、動いて距離を取る!

 

「このままではこの場が荒れそうですね」

 

 ロスヴァイセさんが空中へ飛び上がる! 空中に出現させた魔法陣を足場にしてジャンプし、俺たちから少しでも遠く、離れるように。ロスヴァイセさん、俺たちをあのミサイルから遠ざけようと――。

 

「ハッハッ――! いい女だぜ! 仲間を爆破に巻き込ませないように俺の気を逸らそうってか! いいぜ! 乗ってやるよォォッ!」

 

 ヘラクレスは嬉々として高笑いしていた。本願御殿の上空にいるロスヴァイセさんは空中で振り向き様、魔法陣をひとつ展開し始めた! って、ひとつ!? さっきまで無数に魔法陣を展開して魔法のフルバーストをきめていたのに! まっ、まさか酔いが原因で魔法陣が展開できなくなったのか!?

 

 ヘラクレスのミサイルが発射態勢になって、一気に撃ちだされて――。

 

 そうはいくか! 俺はヘラクレスのほうに左腕を突き出し、ドラゴンショットの態勢に入った! ミサイルが撃ちだされた瞬間にこいつで少しでも多く撃ち落す!

 

 ドラゴンショットを撃ちだそうとしたとき――。

 

「おっと、キミの相手は俺だ」

 

 みだり腕の先に曹操が瞬時に移動してきた! じゃあ、このままおまえが食らえッ!

 

 ドゥッ!

 

 ドラゴンショットが俺の手から撃ちだされ――バンッ! 曹操が槍のわずかな挙動で俺の手を上に弾いた! 弾かれた手からドラゴンショットが撃ちだされ、あらぬ方向に飛んでいってしまった!

 

 その間にもヘラクレスから撃ちだされた無数のミサイルがロスヴァイセさんのもとへ――。

 

 ドッゴォォオオオオンッ!

 

 無数のミサイルはロスヴァイセさんが展開する魔法陣に直撃した瞬間、空中で巨大な爆発を巻き起こした! 激しい爆風が当たり一帯を襲う!

 

 ――ロスヴァイセさんっ!

 

 魔法陣ひとつであの爆発は防げなかっただろうと俺が最悪のイメージを過ぎらせていると、爆煙のなかから人影が!

 

「ふぅ、危なかったですね」

 

 そう片腕で汗を拭いながら空中から地面へと着地したのはロスヴァイセさん! いつの間にか丸い盾を装備している。貝殻のような中心に向う螺旋が描かれた盾。あれで爆発を防いだのか? ていうか、あの爆発で無傷!?

 

 無傷で攻撃を受けきったロスヴァイセさんに、ヘラクレスも驚いているようだ。

 

「ハハッ! 俺の一撃を完全に防ぎやがったか! すげぇな、その盾!」

 

「ええ、まったくです。……正直いうと、この盾にここまで防御力があるとは思いませんでした。先ほどの爆発を盾が完全に吸収してくれたおかげで、私は無傷ですみました」

 

 ロスヴァイセさんの返答にヘラクレスが眉をひそめる。

 

「なんだ? それもあのデュランダル使いと同じで初の実戦投入の武器なのか?」

 

 ロスヴァイセさんは首を横に振る。盾を持っていないほうの手元に魔法陣を展開させた。魔法陣から剣よりもずいぶんと長い柄が出現する。

 

 ロスヴァイセさんが柄を掴むと魔法陣が上へと昇っていき、柄から先端までを明らかにした。あれは……槍!? 西洋風の、ランスって武器か? らせん状の装飾が施されたよくわからない鉱物で創られているもののようだ。

 

 ロスヴァイセさんが完全に魔法陣から取り出したランスと丸い盾を構えた。

 

「北欧最強ヴァルキリーだった方からお借りした武器です。もっともスペアのほうですが」

 

「――っ」

 

 ヘラクレスの表情が驚きに変わる! あの爆乳さんの武器だったのか! そういやよく似てるな。ランスの長さや盾の大きさは一回り小さいけど。

 

 ヘラクレスが突然腹を抱えて笑い出す。

 

「【蒼炎の戦乙女】セルベリア・ブレスの武器か! そりゃあ、俺の攻撃を受けてもビクともしないわけだな! ハッハッハッハッ!」

 

 バンバンと膝を叩いて納得だと笑うヘラクレス。よ、喜んでやがる!? さっきのジャンヌといい、英雄派は皆戦闘狂なのか!?

 

「クッハッハッハッハッ! 確か【蒼炎の戦乙女】の盾は北欧の主神オーディンのグングニルの一撃にも耐え切ったと聞く! 神の攻撃にも耐え切った盾に俺の攻撃がどこまで通じるのか、試させてもらうのもよさそうだな!」

 

 再びミサイルの発射態勢に入るヘラクレス! ロスヴァイセさんはそんなヘラクレス目掛けて槍を構えた。こ、この構えって……。

 

「――盾だけでなく、槍のほうも忘れないでもらえますか? この槍の一撃はフェンリルの胴体を軽々と貫き、命を奪いますよ」

 

 ギュルルルルル……!

 

 槍の装飾となっていた螺旋状の突起が高速回点し始め、それに伴なって蒼いオーラが立ち上り始めた!

 

「――むっ!?」

 

 槍の様子に危機感を覚えたのか、ミサイルの発射態勢を止めるヘラクレス。ロスヴァイセさんはそのまま回点を続けさせ、槍から放たれる蒼いオーラを収束。槍にまとわせて――。

 

「――食らいなさい!」

 

 蒼いオーラを撃ちだした! 槍からヘラクレスへ向って一直線に蒼いオーラの光線となって襲い掛かる!

 

「――ぐぬっ!」

 

 ドゴンッ!

 

 光線がヘラクレスへ直撃する直前! ヘラクレスは故意に爆発を起して体を無理矢理移動させ、ロスヴァイセさんの一撃を回避した! 光線はそのままヘラクレスが立っていたところからその後方を槍と同じ円状に抉りとっていった! な、なんて威力だよ……。フィールドの端まで飛んでいったんじゃねえか?

 

「ハッハッ! 危なかったなあ!」

 

 爆発を起してまで回避したヘラクレスは楽しそうに笑っていた。自分で起した爆発によるダメージはなさそうだ。ちっ、しぶとい野郎だな。

 

 でも、槍と盾を装備したいまのロスヴァイセさんはヘラクレスよりも攻撃力、防御力、機動力とも高くて有利なはず! これは楽勝か!?

 

 そう思ってロスヴァイセさんを見ると――。

 

「おげぇぇぇ……」

 

 先ほどの凛々しくて勇ましい姿はどこへやら。近くの電柱にもたれかかって吐いていた。……ゲロ吐きヴァルキリー……。

 

「……アーシア、回復できるか?」

 

「え、えっと……、お酒に関してはちょっと……」

 

 電柱に吐いてるロスヴァイセさんを指差す俺にアーシアは気まずそうに答えた。そ、そうか……。まあ、神器で回復させることができるなら最初からやってるよな。

 

「おいおい、ちったぁ真面目に相手しろよなぁっ!」

 

「す、すみません……」

 

 敵であるヘラクレスに怒られるロスヴァイセさん。……何とか構えて再び戦闘に入ったようだ。

 

 それにしても禁手、禁手。どいつもこいつも禁手化になりやがって! 俺の心中を見透かしたように曹操が愉快そうに笑った。

 

「いいだろ? 禁手のバーゲンセールってやつは。人間もこれぐらいインフレしないと超常の存在相手に戦えないんでね」

 

 槍をくるくると回し、俺からゆっくりと距離を取る。……一見、相手は隙だらけだ。攻撃を加えたいところだが、カウンターを放ってきそうでさ。

 

「おまえも奴らみたいにここで禁手になるのか?」

 

 俺がそう訊くと、曹操は首を横に振った。

 

「いやいや。そこまでしなくてもキミたちは倒せる。だが、九尾を使っての実験が失敗に終わった今、今日は十分に赤龍帝を堪能するつもりだよ」

 

「……こいつは舐められたもんだ。でも、俺をバカにしているようには思えないな」

 

「ああ、どうやればキミの力を引き出して戦いを満足できるか考えているところだ」

 

 まるでヴァーリだな。それのゆったり版。あいつは実力行使で俺の力を見計ろうとしていた。こいつは俺の行動ひとつひとつにまで興味津々の眼差しを向けてくる。

 

 曹操が人差し指を1本立てた。

 

「仲間がキミを倒せるある説を唱えた。時間を早める能力の神器でキミに攻撃する。禁手の制限時間はどんどん早まっていき、満足に戦えないまま鎧は解除されてしまう。仲間が持つ能力にそういう制限時間があるものに効果がある神器があるのさ。時間の経過を一気に加速させて、浪費させることができる。ただ、それだけの能力だ。直接的な攻撃力も特異な能力もない。ただただ、制限時間を操作できるだけだ。しかし、時間制限のあるキミには決定的な打撃となる。――だが、おそらくこれではキミを倒せない」

 

 ……何が言いたい? 俺は曹操の会話の意図が見えないでいた。

 

「キミは神器を深く知ろうとしている。もし、自ら禁手を解除し、10秒ごとに倍加していく禁手前の神器能力にそれを付加しようとしたら……? 瞬時に倍加していく厄介な存在と化すだろうな。もちろん、禁手状態で食らった禁手前の神器がそういう影響を及ぼすかどうか不透明だ。けれど、神器の深奥に潜るキミなら、その可能性を叶えそうでね」

 

「何が言いたい?」

 

 俺が問うと、奴は肩をすくめるだけだった。

 

「案外、姑息な手よりもストレートな攻撃のほうがキミを無理なく倒せるんじゃないかって話さ。――キミはテクニックタイプを注意深く警戒していて、そのタイプでは逆にやりづらいんじゃないかってね」

 

 ……おまえのほうがやりづらいぜ。ちょっとしか面識ないのに、俺のことを分析するもんだな。怖いもんだ。

 

「だが、兵藤一誠。キミにも決定的な弱点がふたつある。あの神城エイジにも克服できない種族としての弱点。――龍殺しと光だ。ドラゴン、悪魔、ふたつの特製を有するキミは凶悪な分、自然と弱点も多くなってしまうわけだ。俺はこの弱点ってのに注目していてね。この世に無敵の存在なんていないという証明をしてみたいと感じている。ま、この話はここまで。――さて、やろうか」

 

 曹操が槍の切っ先を俺に向けた。俺もバトル開始か。

 

 まずはプロモーションだけど……。

 

「アーシア、認証カードは?」

 

「はい! もってます!」

 

 俺にそう返事を返してくれるアーシア。……よし。それならえーと……、『騎士』にプロモーションするか? それとも『僧侶』? いや、実戦での練習にこだわっていても相手が悪すぎるか。ここは一気に行こう。

 

「アーシア! 『女王』にプロモーションだ!」

 

「はい!」

 

 アーシアの同意により、俺は『女王』となった! 体に力が流れ込む!

 

 あれからトレーニングはした! 実戦でもある程度各駒の特性を使えた! ここで少し成果を出してみるぜ! ドラゴンの翼を展開し、背中のブーストを勢いよく噴出させる!

 

 ゴオオオオォォオオッ!

 

JET(ジェット)!』

 

 拳を突き出したまま猛スピードで曹操に一撃を繰り出す! あれこれ考えたが、やっぱり、まずは突貫で様子見だッ!

 

 前方に猛進していく俺! 曹操は槍をくるくると器用に回しながら、俺の拳が当たるすんでで身を軽やかにかわした!

 

 ――ッ! 俺の突進には対応できるか! なら――ッ!

 

 俺はその場でブーストの軌道を変えて、曹操の避けた方向に2度目の突貫をかました!

 

 同時に両手に魔力を集める! 曹操が避ける瞬間を見計らって、ドラゴンショットのダブルを野郎に――。

 

 ガッ!

 

 曹操は俺の右手を蹴り上げ、槍の払いで左手を横に弾いた! ドラゴンショットが先ほどと同じようにあらぬ方向に撃ちだされていってしまう!

 

 ちくしょう! やっぱ、最小の動きだけで俺をいなしやがる!

 

 ズンッ!

 

 悔しがる俺の腹部に何かが――。腹を見れば、曹操の槍が深々と刺さって――。

 

「ごふっ」

 

 腹から込み上がってきた大量の血が口から吐き出された。

 

 ……や、やられたっ!

 

「――弱くはないんだけどね。真っ正面からの戦いだとまだ隙が多いな」

 

 ズルリッ。

 

 曹操が槍を腹からゆっくりと抜いていく。

 

 ――瞬間、俺の腹部、否、全身に激痛が走り回った。傷口を中心に体のあちらこちらから煙も上がり始める。

 

 ……い、いてぇぇぇ……。こ、これは……聖剣と同じ痛み……。……傷口から煙があがるのも似た現象だ……!

 

 そ、そうか、聖なる槍だから……痛みと効果が……。

 

 ――マズい、意識が薄れて――。

 

「イッセーさんっ!」

 

 パァ。

 

 俺の体を緑色のオーラが包み込んだ。腹の激痛がしだいに緩和していく。

 

 ……アーシアが回復のオーラを飛ばしてくれたか。危なかった。いま、確実に意識が飛びかけたぞ。

 

 だが、まだ傷口が完全に塞がらない。煙も少し上がっている。というか、再び傷が開こうとしているじゃないか! 遠距離からの回復だと心もとないってことか。

 

 俺は懐からフェニックスの涙を取りだし、腹の傷にかけた。……傷がようやっと塞がっていく。さすがフェニックスの涙だ。

 

「いま、死に掛けたのがわかったかい? 聖槍に貫かれて、キミは消滅しかけたんだ。案外、すんなりと逝くだろ?」

 

 軽く笑う曹操。

 

 ……お、俺、今死に掛けた……だと? マジか。あの一撃、確かに腹部に深々刺さって致命傷だとは思ったが、あれぐらいは過去にも経験があるし、まだ多少は動けると思ったんだ。カウンター狙いで顔面にパンチでも入れようとしていた。

 

 ――消滅しかけていただと?

 

 悪魔が聖なる攻撃を受けて、消えるっていうあれのことか? 俺が、いま、そうなろうとしていた? か、体からかなり煙が出ていたし、俺、存在が消えようとしていたのか……?

 

 曹操が肩に槍をトントンしながら言う。

 

「よく覚えておくといい。いまのが聖槍だ。キミがどんなに強くなってもこの攻撃だけは克服できない。――悪魔だからね。あのヴァーリであろうとも悪魔である限り聖槍のダメージは絶対だ。たとえ、神城エイジだったとしても聖槍は防げない」

 

 よーく、わかりましたよ。あの槍には触れないほうがいいのね。そういや、エイジも素手じゃなく武器で戦ってたっけ。……さて、俺はどうしたものか。一応籠手に収納しているアスカロンを出せるけど、剣の才能が皆無な俺は槍の達人っぽい曹操にまったく勝てそうにない。まだ素手のほうがやれそうだ。

 

 ん~、どうしたものかね。

 

 曹操が俺の反応を見て、きょとんとしている。

 

「……あらら、ビビんないな。もっと怖がっておもしろい様を見せてくれると想像していたんだが……」

 

「あ? 怖いに決まってんだろう? だけどよ、ビビってもいられなくてさ。おまえの顔に一発いれないとあとで皆に怒られそうなんだよ。赤龍帝やってんのもけっこうキツいんだぞ」

 

「アハハハハハッ!」

 

 曹操が突然大笑いした。……なんだ、こいつ。さっきから表情がコロコロ変わりやがるぜ。

 

「いいな、それ。ヴァーリがキミを気に入る理由が少しわかった気がする。なるほど、これはいい。ヴァーリ、いいのを見つけたなぁ」

 

 笑い声を指で拭うと――曹操は槍の先端を開かせて光の刃を作り出した!

 

「――やろう」

 

 ピリッ……。

 

 曹操からのプレッシャーが真下。ちったぁやる気になったってことか?

 

 俺は右手を突き出し、ドラゴンショットを極大で撃ちだそうとした!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 ドンッ!

 

 どデカい一発を曹操に放った!

 

「そいつを生身にもらうのはマズいか」

 

 曹操は槍でそれを弾こうと――。俺はそれを予想していた。撃ちだした瞬間に背中のブーストを噴出させて、飛び出す!

 

 魔力の弾を弾いたところを横殴りする!

 

 曹操が槍で勢いよく極大のドラゴンショットを――両断しやがった! 真っ二つですか! まあいいさ! 槍を振るったところに右拳を一閃!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

 増大した威力のパンチで曹操に殴りかかるッ!

 

「パワーのなかのパワーを感じるよ!」

 

 曹操は嬉々としながら、槍を素早く戻して俺の腕を払おうとする。――いまだ! この右の一撃は大味のフェイントだ! 右拳を相手の直前で止める! 曹操の払いが空を切った。

 

 俺は次の左の拳を突き出す! 同時に籠手の中に収納しているアスカロンに力を譲渡した!

 

『BoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoostBoost!!』

 

『Transfer!!』

 

 アスカロンの刃を籠手から出現させ――俺はその場から飛び退いた! 飛び退き様にアスカロンから波動を繰り出す!

 

 バシュッ!

 

 アスカロンのオーラが曹操に向った。アスカロンの一撃が曹操に触れる瞬間――。

 

「――おっと」

 

 ひらりと曹操が身をひるがえして避けた! あ、あれを避けるのかよ!?

 

 曹操が肩で槍をトントンさせながら笑む。

 

「危ない危ない。危うく腕が飛んでしまうところだったよ。昼間の神城との戦いを経験していなかったら危なかったな」

 

 エイジとの戦いの経験……まさかこいつも実戦で強くなるタイプなのか?

 

 いや、それよりも……やっぱりこいつにも弱点があったか。

 

 ――人間であるがゆえの生身。

 

 肉体の強度なら、ドラゴンで悪魔の俺のほうが上だということ。英雄派がいくら常人より遥かに頑丈でも、ヴァーリほど硬いとは思えなかったんだよな。いまの曹操の発言を聞いて、核心したぜ。こいつの防御力は低い!

 

 ――勝てる、まではいかなくても戦える。

 

 俺が戦意に火を灯しながら、再び構えを取ろうとしたときだった。

 

 ガシャッ!

 

 俺の鎧が崩れ始めた! ……な、なんだ、これ?

 

「先ほどの攻撃をかわす前、キミが飛び退くときにいくつか斬っておいた。少し時間差が生じたようだが、ちょっとした槍の攻撃でも赤龍帝の鎧は壊せるようだ」

 

 ……いつの間にか、攻撃を食らっていたわけね。フェイントを入れた攻撃をすることに夢中で気づかなかったぜ。

 

 ドライグ、悪いが鎧を修復してくれ。

 

『……わかっている。だが、聖槍の効果だと思うが、ちょいと修復に手こずりそうだ』

 

 マジかよ。どんだけあの槍は俺に厄介な代物なんだよ!

 

「しかしいい攻撃だった。強い強い。こちらもギアをもう少し上げないと危なそうだな」

 

 曹操の野郎、楽しそうだ……。でも、あいつの肉体がこれ以上頑丈になるとも思えないし、一撃入れれば勝てるとは思う。もちろん、あいつの攻撃をまともに受ければ俺も一撃で死ぬ可能性が大きいけどさ……。

 

 これが弱点ってやつか。本当に怖いな。一発で形勢逆転なんてよ。しかも相手は禁手になっていない。まだまだ強くなる要素がある……。

 

 ああ、ほんと俺の相手って強い奴ばかりで困るな。

 




 この話でも、ハイスクールD×Dの世界が見えてきたり。

『禍の団』 英雄派

 英雄とのつながり。

 リーダー格の曹操は英雄の子孫。

 ゲオルグは不明。

 ジークフリートは不明。

 ジャンヌとヘラクレスは、英雄の魂を受け継いだから英雄派。

 英雄の魂を受け継いだという一文から、おそらく初代ジャンヌや初代ヘラクレスの神器を受け継いだと意味だと予想。

 つまり、アザゼルが言っていた通り、ジャンヌとヘラクレスといった過去の英雄は、ハイスクールD×Dの世界では神器を宿した人間。

 人間……なんだけど、神器所有者なら人間の戦争ではまず負けそうにないんだよなぁ……。

 正直、ハイスクールD×Dの歴史ってどうなっているか理解できない。

 それに、新撰組の沖田宗司がサーゼクスの眷属とかなっているのなら、初代曹操とか初代ジャンヌとかも眷属になってるんじゃねーの?

 日本よりもそういう有名な英雄のほうを悪魔が眷属にしそうなものなのに。 
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