<イッセー>
激闘を終え、俺たちは京都の擬似空間から元の世界に戻り、宿泊しているホテルの屋上にいた。
「はぁ……、疲れたぁ……」
大きく息を吐いてその場に座り込む。他のみんなも俺と同じようにその場にヘタリこんでいた。それにしても本当に疲れたな。今晩はもう禁手になれないぞ……。
「救護班! グレモリー眷属とイリナ、匙を診てやってくれ! ケガはともかく、魔力と体力の消耗が激しい!」
と、アザゼル先生が他のスタッフに指示を飛ばす。俺のところにもスタッフさんがやって来て処置を始めてくれた。
結局作戦は英雄派の撤退という形で終わっていた。京都を囲んでいた連合軍部隊も英雄派構成員と『絶霧』のアンチモンスターとの激戦を終えて戦後処理となっているようだ。
京都を囲んでいた連合軍部隊の包囲網からは、連合軍と戦っていた『魔獣創造』の少年が囮用のアンチモンスターを大量に出現させて逃亡の隙を作ったそうだ。まあそれにしても、連合軍部隊から逃げ切るなんてな。わかっていたけど、本当に厄介な相手だ。
ちなみに俺たちは追跡や追撃戦に加わる体力も残ってなくて、全員がいまだにへたり込んでる。エイジも精神世界に潜るとかいう、繊細で慣れていない術を使って珍しく地面に座って休んでいた。
「大丈夫ですか、ゼノヴィアさん」
「ん。ありがとう、アーシア。さすがに今日は疲れたよ」
心配そうにゼノヴィアに話しかけるアーシア。ゼノヴィアもさすがに新しいデュランダルを使用しての戦闘は相当疲れたらしい。……まあ、ぶっつけ本番で新しい剣を使って、結局違う剣に代えたんだから、自業自得の面も大きいけどね。
皆も治療を終えたけど、いちおうのために運ばれていく。
「ゴメン、イッセーくん。情けないけど、お先に」
木場が謝りながら俺に言う。俺は手を上げて応えた。『絶霧』使いの弾幕のような魔法攻撃を、『魔剣創造』で創りだしたふた振りの剣で切り裂きながら、かわしながら戦っていたからな。相当疲労したようだ。担架に乗せられて運ばれていった。お疲れさん。
「元ちゃん!」
「元士郎!」
担架で運ばれていく匙にシトリー眷属が付き添っている。心配そうに涙まで浮べていた。
匙は龍王変化の消耗が激しく、すべてが終わったあと、気を失ってしまった。俺が内側から話しかけて暴走を止めることもなく、なんとか力を使っていたように感じる。あいつも成長してるってことか。てか、匙、おまえも仲間に愛されてんな。
あのあと、部長からも電話がかかり、事の顛末があちらにも伝わった。京都から帰ってきてからじっくり訊くことがあるそうです。
……特に、俺に……。
なんでもグレモリー領で起こった暴動を鎮圧し終え、グレモリー家の城で部長が着替えをしていたときに、突然足元に魔法陣が浮かび上がったそうな……。
『絶霧』とか結界系の魔法を警戒していた部長は、突然出現した見たこともない怪しげな魔法陣から離れ、その場から逃亡。それでも自分を追って何度も出現する魔法陣から全力で逃げ続けていたそうだ。……結局その魔法陣は、一段と大きな魔法陣になり、それも部長がよけると、ぱったりと出現しなくなったんだと。
アザゼル先生からこちらの状況を報告する際、俺が新しい禁手化に目覚めたことを喜んでいた部長。事の顛末を詳しく訊かれて、俺がおっぱいゾンビが変化して出来た魔法陣でおっぱいを召喚しようとしていた話と、蛍光色のピンク色でおっぱい文字で描かれ魔法陣という話を訊かれたあと……部長の声の温度が下がった。
い、今までずっと、休まる暇もなくグレモリー家の城で突如出現した魔法陣を警戒し続けていたそうだ。
……お、俺、死ぬのかな?
そんなふうにどんよりしていたところに猿のじいさん――初代孫悟空さんが近づいてくる。
「赤の坊や」
「あ、はい!」
「おまえさんは独力で『覇』の力とは違う、えらいものを得ようとしているようじゃな。いいこった。『覇龍』は、ろくでもない。ただの力の暴走じゃい。暴力そのもの。それでは、死ぬ。おまえさん、大事な女がいるんじゃろ? おっぱいドラゴンと呼ばれるほどじゃからな」
ほ、褒められた! あの西遊記の主人公格に褒められるなんて光栄の極みだぜ! てか、女の話か!
「いや、ハハハハ。ええ、いちおう」
部長とか、アーシアとか、朱乃さんとか、他の眷属の皆にイリナも大事だ。
「なら、泣かすな。おまえさんは夢と女で強くなるタイプだぜぃ。それにな、赤龍帝と白龍皇はもともと力の塊じゃ。なんも『覇龍』にこだわらんでもいくらでも強くなれる。――だがの、おまえさんはまだ危ういか」
俺の顔を覗き込みながら初代はそうつぶやく。
「?」
俺は真意まではわかりかねたが、初代は煙管を吹かすと笑う。
「それと、うちのバカが迷惑かけたようじゃな。それは謝るぜぃ」
あ、美猴のことか。まあ、迷惑といってもそこまで迷惑してないけどね。
初代が俺の頭を撫でる。
「……感情は『覇』を呼び込む。それだけは覚えておくとええ。努力を怠らずに精進せぃ。――さて、天帝のおつかいが済んだらバカを探しにいくかの。あやつめ、白龍皇とやんちゃしおって。共に仕置きじゃな。――それでは達者での。玉龍、九尾のもとに行くぞ」
『あいよ、クソジイイ。そういや、あいつにはなんも言わなくてもいいのか?』
玉龍が少し離れたところで休んでいるエイジのほう顔を向ける。初代孫悟空は煙管を吹かせて言う。
「また今度、どうせ話すことになるのじゃ。今はええ」
『ふーん、そうかよ。じゃあな、ドライグ』
それだけ言い残し、初代と玉龍は行ってしまった。
……残された俺は震える手でグーパーした。……手が痺れる。スタッフの方に回復させてもらったけど、まだまだ疲れてんだな。
――神器に眠っていた力と『悪魔の駒』を組み合わせた俺の新しい力。
まだ改善の余地は十分にある。またいちから修行だな。
……サイラオーグさん、ヴァーリ……そして、曹操。
俺は負けないよ。絶対に強くなる。もっともっと。いつか、夢が叶うと信じて――。
エルシャさん、ベルザードさん、酷い別れ方だったけど、どこかで見ていて下さい。
……本当に、ポチッと、ポチッと、すむずむいやーんとベルザードさんに言われて、エルシャさんも消えていくという酷い別れだったけど……。
赤龍帝として、おっぱいドラゴンとして、やれるところまでやってみます。
京都最後の夜、俺は夜空を見上げながら、新たな決意を固めた。
◆
修学旅行最終日――。
前夜に大決戦をしたせいか、寝てもまるで疲れの取らなかった俺たちグレモリー眷属は、疲弊しきった体を引きずって、最終日のお土産巡りを敢行した。
……ぜーはーと息を切らしながら、京都タワーを見てきたぜ。
お土産も買い、京都を離れるときが来た。
京都駅の新幹線ホームで九重と八坂さんが見送りに来ていた。
九重と八坂さんは俺たちとも挨拶を終えて、今はエイジとアザゼル先生、レヴィアタンさまを交えて何かを話している。
んー……、いったい何を話してるんだろう? よく聞えない。アザゼル先生が難しい、というか呆れたような表情を浮かべてるのはわかるんだけど……。
そういやアザゼル先生、昨晩から難しい顔をしてたな。エイジが体に溶け込んでいた『悪魔の駒』を取り出すことができて、人間に戻れたっていう話を訊いたときから。
結局『悪魔の駒』を使わないでも、インキュバスの能力で純潔悪魔になれるんだから、別に難しい顔をする必要はないと思うんだけどなぁ。
ピピピピピ。
発車の音がホームに鳴り響く。九重がエイジに叫ぶ
「エイジ! また来るのじゃぞ! 九重はいつだって京都でおまえを待っておるからな!」
「ああ、次は皆で来るよ。またな、九重」
「うむ!」
それを確認すると八坂さんがおっしゃる。
「アザゼル殿、エイジ、赤龍帝殿、そして悪魔、天使、堕天使の皆々、本当にすまなかった。礼を言う。これから魔王レヴィアタン殿、闘戦勝仏殿と会談するつもりじゃ。良い方向に共に歩んでいきたいと思うておる。二度と、あのような輩によってこの京都が恐怖に包まれぬよう、協力態勢を敷くつもりじゃ」
「ああ、頼むぜ、御大将」
アザゼル先生も笑顔でそう言い、八坂さんと握手を交わした。そこにレヴィアタンさまも手を重ねる!
「うふふ、皆は先に帰っていてね☆ 私はこのあと八坂さんと猿のおじいちゃんと楽しい京都を堪能してくるわ☆」
レヴィアタンさまも楽しげだ。レヴィアタンさまはこのまま京都に残って妖怪側と改めて交渉するようだ。さすが外交担当の魔王さまだね。
それだけのやり取りをして、俺たちは新幹線に乗車した。
ホームで九重が俺たちに叫んだ。
「ありがとう、エイジ、イッセー! 皆! また会おう!」
手を振る九重に俺たちも手を振った。
プシュー。閉じる新幹線の扉。発車しても九重は手を振り続けた。
――京都。3泊4日の旅。
出発から今日まで、短いけど色々ありすぎた。清水寺、銀閣寺、金閣寺、嵐山、二条城……。それ以外にもたくさんの思い出が得られた。
また来よう。九重や八坂さんに会うために――。今度は部長や皆も連れて――。
……あ。俺はそこで思い出した。
「八坂さんにお願いしてお礼におっぱい見せてもらうの忘れてたぁぁぁぁあっ!」
そうだよ! それも込みで頑張っていたのに! いろいろ起きて初心を忘れてしまった! クソ! これも京都の空気が俺の調子を少しおかしくしたに違いない!
「うわぁぁぁんっ! 九尾のおっぱいぃぃぃぃぃっ!」
俺は扉にかじりつき、無念の叫びを発したのだった――。
「どうしようもないな、おまえは……」
「イッセーさん……」
「はぁ、イッセーくん……」
ゼノヴィア、アーシア、イリナの教会トリオがそろって頭に手を当ててつぶやく。でも、九尾のおっぱいなんだぞ! すごくでっかいおっぱいだったんだぞぉぉぉぉ! うわぁぁぁん!
◆
京都から帰還し、俺たちは兵藤家の一室で部長に怒られていた。
正座をする俺たち。エイジ、アーシア、ゼノヴィア、木場、ついでになぜかイリナも反省状態だった。ロスヴァイセさんは旅行疲れで帰宅早々、自宅の自室で休んでいます。相当、体調を崩されていたようです。教員としても大変だっただろうし、あとは酔って吐いていたしな……。
部長が半眼で問い詰めてくる。
「なんで知らせてくれなかったの? ――と言いたいところだけれど、こちらもグレモリー領で事件が起こっていたものね。でも、ソーナは知っていたのよ?」
「は、はい……」
説明はすべて済んでいる。でも、朱乃さんも小猫ちゃんも少々ご立腹の様子だった。
「こちらから電話をしたときに、少しでも相談が欲しかったですわ……」
「……そうです、水臭いです」
「で、でも、皆さん無事で帰ってきたのですから……」
ギャスパァァァァァッ! 庇ってくれるのか! おまえはいい後輩だな!
「まあ、リアス。襲ってきた英雄派の連中にも負けるどころか、皆勝ってたんだし。木場も禁手だけじゃなく『魔剣創造』での戦い方や強くなるためのヒントも得て、おまけにイッセーはあっちで劇的なパワーアップをしたんだから、大目にみてやれ。実際、すごい収穫を得たんだぞ」
と、先生もフォローをしてくれる。
部長も息を吐きながら、そこはうなずいていた。
「それは、まあ、うれしいけれど……」
……うなずいていたんだけど、部長の顔が俺に向けられて……。
「そういえば、イッセー」
「は、はい……」
「パワーアップしてくれたのはうれしいけど、京都の皆さんに随分と迷惑をかけたそうね?」
「うっ……」
「パワーアップのきっかけに何度も怪しげな魔法陣で私を呼び出そうとしてたみたいだし」
「あうっ……」
次々に指摘されて、どんどん小さくなっていく俺……。背中の汗が半端ないっ。お、怒ってる! 部長が怒ってる!
京都で俺の可能性とやらが起した事件やあの場面について、アザゼル先生やドライグを含めて説明してくれたおかげでだいたい理解されている。最初は皆信じられない様子だったけど、ドライグに泣きながら説明されて、部長を含める居残り組みの皆も知っていた。
余談だが、俺のせいで痴漢になってしまった方々にはきちんとフォローがされ、普段の生活に戻っている。皆さん、本当にゴメンなさい!
アザゼル先生が俺に改めて言う。
「おまえの力の選択はいいと思うぜ、イッセー。おまえのライバル――ヴァーリは『覇龍』の力を極めようとしていて、本当の意味で覇王の天龍になろうとしている。おまえがヴァーリと同じ道を進んでも覇の力に飲まれるだけだろう。イッセーは覇道ではなく、王道で行け。『王』を目指しているなら丁度いい」
王道か。なるほどね。
俺がヴァーリの真似をしてもあいつに追いつけるとは思えないしな。いまの調子で前に進むしかない。……でも、先生。部長はまだお怒りなので、もう少しあとで言って欲しかったです……。
小さくなったまま正座する俺。部長が息を吐いて姿勢を戻してくれた。
「ふぅ……。まあ、英雄派を撃退するために頑張ったり、パワーアップしてくれたんだからね。今回は許してあげるわ」
「ぶ、部長っ」
お許しをもらえて感激する俺に、部長は指を立てて注意してくる。
「でも、イッセー。あまり周りに迷惑かけないようにするのよ?」
「はい! すみませんでした! 今後気をつけます!」
しっかりとうなずいて部長に頭を下げる! やった! お仕置きなしだ!
朱乃さんが思い出したように手をポンと叩き、口を開く。
「そういえば、妖怪の世界でも『乳龍帝おっぱいドラゴン』の正式な放送が決定したそうですわ。――また有名になりそうですわね、イッセーくん」
「マジっスか! あー、なんだか、すげーことになってきてますねぇ……。実際わきませんよ」
本当、とんでもないことになってんな、俺の特撮番組。今度は妖怪の世界かよ。
ゼノヴィアがうんうんとうなずく。
「イッセーはいずれは全世界の子供たちのヒーローかな。うん、出世や夢実現も間近かもしれないね」
俺はゼノヴィアの意見に首をひねる。
「そうかぁ。一向に女子たちにモテるような気配が感じられないんだが……。このままじゃハーレムじゃなくて、子供たちに囲まれそうだ」
「それは……、イッセーが鈍いだけじゃないか?」
「ん~……、そうなのかなぁ」
よくわからない。そもそも俺はモテたことなんてねえからなぁ。エイジや木場と違って。
心当たりがなくて頭をかく俺。先生が「あ」と何かを思い出したようだった。
「そういや、学園祭前にフェニックス家の娘が駒王学園に転校してくるそうだぜ?」
――っ! 部長と朱乃さん、小猫ちゃん、ギャスパー意外の全員がその一言に驚いた!
「レイヴェルがですか!? マジっスか!」
俺の問いに先生が続ける。
「ああ、リアスやソーナの刺激を受けて日本で学びたいと申し出てきたらしい。学年は一年だったか。もう手続きは済みそうだって話だったな。小猫と同学年か。猫と鳥でウマが合わなさそうだが……それを見るのも一興か」
「……どうでもいいです」
先生の一言に小猫ちゃんは不機嫌な声音だった。あれ? 小猫ちゃんはレイヴェルが嫌い? そういや、話しているところ、見たことないか。同学年なんだから、仲良くね。
「でも、なんで急に転校してくるんでしょうね?」
俺の疑問に先生は意味深ないやらしい顔をエイジに向ける。
「…………。……ああ、そういうことか」
確か、レイヴェルってエイジが好きだったな。いつもイベントの手伝いをしてくれるとき、エイジの世話を焼いてたし。差し入れとかもやってたもんな。
俺の想像は正しいと、先生もうなずく。
「そういうことだろうよ。リアスも大変だな、次から次に」
先生の言葉に部長は肩をすくませる。
「もう慣れたわよ。それに、それよりも今はもっと重大な案件の処理をしないといけないんだから、それどころじゃないわ」
重大な案件? 英雄派のことかな?
「そういや、そうだったな」
先生も重いため息を吐いた。え? もしかして本当に何かあったのか?
気になって訊ねようかと考えていると、部長が息を吐いて、
「とりあえず、この件についてはここまでにしましょう」
と話を変えた。部長が改めて俺たちに向けて口を開く。
「さて、もうすぐ学園祭よ。あなたたちがいない間、準備も進めてきたけれど、ここからが本番よ。それに――」
部長が真顔で続ける。
「サイラオーグ戦もあるわ。レーティングゲーム、若手交流戦では最後の戦いとも噂されているけれど、絶対に気は抜けないわ。改めてそちらの準備に取り掛かりましょう」
「「「「「「「「はい!」」」」」」」」
部長の言葉に皆、大きく返事をした。
そうだ、学園祭も大事だが、サイラオーグさんとの一戦も大事だ。
「イッセーくん、体力が復調したら、手合わせしてくれないかい? 京都で自分の神器の可能性について新しい発見ができたから、色々と試してみたいんだ。キミの力を借りたい」
「ああ、木場。ゲームの日まで模擬戦の繰り返しだな」
木場とのトレーニングも再会だな。
この新しい力がどこまであのヒトに通じるか、早く試してみたい。それにあの状態で『女王』に目覚めないといけないんだ。課題は多いな。新しい力がゲームで使えるかどうかも問題だし……。
「でも、俺は部長と皆と共に必ず勝ってみせる!」
俺は決意を新たにした。
――必ず、サイラオーグさんに勝つっ! 勝ってみせるっ!
◆
<Boss×Boss>
「サーゼクス、こちらで得た英雄派のデータをそちらに送る。神器――上位の神滅具が3つも保管か。さらに禁手祭り。グレードレッドを呼び寄せようとしたり、まだ他にも計画と手札があるようだ。テロリストどもめ」
『彼らには「悪魔と妖怪の共闘関係を壊す」という名目があったようだからな、アザゼル。中心メンバーの思惑はともかく、下の者たちにとって、これ以上ない「正義」の理由だ。結果、京都を包囲していた各勢力の部隊にも大きく被害が出てしまった。「魔獣創造」のアンチモンスターもそうだが、相手に禁手の使い手が多かったのが想像以上に戦況を悪化させたようだ』
「人間からみれば悪魔、堕天使、妖怪などは敵――モンスターにしか見えないだろうからな。奴らの行動原理の切っ掛けは三大勢力の和平か。悪魔と堕天使の和睦だけで衝撃だろうに、その上、天界まで悪魔と堕天使に和協するとなったら、『天まで寝返った』と危機感と憤慨を感じる人間が出てきてもおかしくない。――それで妖怪との交渉は?」
『それはうまくいった。今後は堕天使側とも交渉したいそうだ』
「そうか、シェムハザが進めていた話し合いのテーブルに無事につけそうだな。それと帝釈天や初代孫悟空と玉龍を各地に派遣していたのは知っていたか? 今回も助っ人として来てもらったんだがな」
『天帝――帝釈天は聖書の神が死んだ今、ゼウスと並び、トップクラスの力を持つ神仏だ。単独でうしろから聖槍で貫かれでもしたら各勢力のバランスが再び崩れる。テロリスト相手に初代を遣わすのは最良の手だろう』
「しかし、英雄――人間が俺たちの敵とはな。俺たちは勇者パーティに退治される予定のラスボスか? それとも隠しボスか?」
『いつだって人間は儚く怖い存在だよ』
「まあ、そうだな。――それと、イッセーたちが京都でまた戦果をあげたぞ。これは昇格確実か?」
『うむ。もう十分なぐらいだ。次のゲーム結果しだいで私から推挙するつもりだ』
「――サイラオーグ戦か。サイラオーグもテロ相手に戦果をあげていたな」
『若手でそのようなことができるのは現状バアル、アガレス、グレモリー、シトリーだけだが、敵の幹部クラスと相対できるのはサイラオーグとリアスの眷属だけだろう。それゆえに両者の眷属には大きな期待がかかっている』
「期待か……。そういや、神城の件はどうなった?」
『エイジの件か……。まあ、前々から話はでていたのだが、やはりリアスの眷属のまま、というのは無理のようだ。今回の天使化、そして人間化でエイジが悪魔という枠に嵌らないことを完全に証明されてしまったからな。それに「悪魔の駒」を取り出せたことも効いているようだ』
「そうか……。まあ、自由にどの種族にでも変化できるなら悪魔の眷属のままとはいかないか。実際のところ、今まででも現魔王の妹とはいえ、上級悪魔で若いリアスの眷族にしておくだけでもギリギリだったんだろ?」
『……まあね。悪魔側の元老たちはずっとリアスよりももっと力のある悪魔の元にエイジを置くことを勧めに勧めていたよ。明らかに「王」と「兵士」の実力が違いすぎるってね』
「そりゃあ『王』が『兵士』よりも弱かったら格好もつかねえし、暴走や反旗でもしたとき止めることもできねぇからな。当然だろうよ」
『……ところでアザゼル?』
「ん?」
『この情報は表に出していない、というか出せない情報なのだが。なぜ知っているのかな?』
「あー……。そりゃあ、和平を結んだっていっても相手側の情報ぐらい集めるだろ。信用するために」
『……それもそうだな。すまない』
「別にいいってことよ。それより――」
『わかっているよ。この件については当事者であるリアスにもすでに伝えている。丁度グレモリー領に戻っていたからね』
「そうだったのか? そういう風にはあんまり見えなかったが……いや、眷族のまえだったから見せなかったのか? ……ハハッ、あいつも『王』として成長してるってことか」
『うれしいことだが、同時に残念でしかたないよ。せっかくエイジとそろって最上級悪魔への昇格の話があがっていたのに。他の勢力までエイジがどの種族にも自由になれると伝わっている今は、こちら側に留めておくと新たな火種になりかねない。特に天界がうるさいだろうね』
「そいうや朱璃が純潔の天使に蘇生した話聞いて、熾天使の連中が騒いでいたな。まあ、あっちは純潔の天使なんて生まれねぇどころか、やったら堕天。『御使い』のカードで天使を増やせるようになる前からインキュバスになった神城を狙ってやがったし、神城なら人間や天使にもなれるんじゃないかって指摘したのもあいつらだ。それが証明された今、そりゃあうるせえだろうよ」
『熾天使の天使たちはあの無限龍であるオーフィスに見初められたエイジとの子供こそが次の聖書の神になるのではないか、話しているそうだからね』
「なんだよ、おまえもちゃっかり他の勢力について情報収集してんじゃねぇかよ」
『もちろん。信用するためには情報が必要だからね』
「……チッ。食えない野郎だぜ。――それで、神城の処遇はどうするつもりなんだよ?」
『現段階ではリアスの眷属から除名。悪魔の勢力からも籍を抜いてもらうという意見が一番有力だよ。「悪魔の駒」も取り出せるのなら丁度いいだろうってさ』
「つまり神城は人間に戻って、フリーの賞金稼ぎに戻るってことか。なら俺の勢力で――」
『――と、すぐに他の勢力にスカウトされる可能性があるので、今ももめにもめているというわけだ』
「…………」
『いちおう三大勢力のどこにも属させないといった会議を近々開く予定だよ』
「……それを先に言えよ」
『すまない。――まあ、どうなってもエイジはリアスの眷属のままという事にはならないという話さ』
「リアスの眷属でいられないならサイラオーグ戦はどうなるんだよ?」
『不参加、ということになるだろう』
「そうか……」
『まあ、仕方がないさ。元々新人悪魔にハンデを負っているといっても、あのエイジの相手をさせるなんて無理だったんだから』
「そりゃあ、そうだろうが……」
『まあ、エイジが抜けたとしてもリアスの眷族たちは十分強いさ。イッセーくんも新しい能力に目覚めたんだろう?』
「まあな。少し見たが、あれは相当おもしろい能力だったぜ。レーティングゲームで反則に近い能力だがよ」
『他の上役は別にかまわないとおっしゃっている。それも一興だそうだ。あとはサイラオーグしだいだが……。おそらく彼は――』
◆
<Bael>
「サイラオーグ、聞いた?」
「どうした、シーグヴァイラ・アガレス」
「リアス・グレモリーの赤龍帝がまた新たな力に覚醒したって噂よ」
「それは素晴らしい限りだ。そうか、ついにか。実に楽しみだ」
「けれど、ゲームをする場合、それは不正に近い能力だと聞いたわ」
「問題ない。俺は容認して臨む」
「アジュカ・ベルゼブブさまのご贔屓もあったとも言われているのよ」
「一向に構わない」
「……そういえばエイジさまはゲームに参加できないそうよ」
「俺は一向に構わな……なんだと?」
「このままじゃグレモリー眷属にも悪魔の勢力にもいられないって話しよ」
「……どういうことだ?」
「それは……、ちょっと顔が怖いわよ、あなた」
◆
<Heros>
「京都での計画は失敗だったけれど、もうひとつの計画のほうは調整がまた進んだよ。近いうちにお披露目できそうだね、曹操」
「そうか、それは何よりだ、ジークフリート」
「予定通り、ひとつは僕がもらうよ。――曹操もひとつ使うかい?」
「俺はこの槍で十分だよ」
「――で、神城エイジにやられた傷はどうだい? 潰された目の具合は?」
「傷のほうはすでに治してもらったが、目のほうはもう使い物にならない。きれいに潰されてしまったからな」
「フェニックスの涙を持っているのにわざと使わないなんてね……。では代わりの眼を用意しよう。いずれ眼の代償でも彼に払ってもらうかい?」
「まさか、三流の敵役でもあるまいし。それでは寂しいじゃないか。この眼の傷も神城エイジと戦ったいい記念だ。――人間に戻った神城エイジ。おまけに兵藤一誠とヴァーリという俺にとって最高のニ天龍までいる。楽しいなぁ、まったく」
「……うれしいのはわかるけど、傷口はあまり触らないほうがいいよ、曹操」
今回は短いです! 次回から10巻突入!
―あとがき―
ずっと立ててたフラグが今回で大きなものに変わりました。
まあ、どうせレーティングゲームなんてサイラオーグ後はもうやらないだろうから、脱眷属でもおk。
サイラオーグとはレーティングゲームとは別に戦います。