<エイジ>
悪魔に転生して初めての契約を取った次の日の放課後。
俺はイッセーと共に部室で部長へ昨夜の報告を行った。
まずは、イッセーの報告からで、依頼者は小猫ちゃんの常連さんだったらしいがイッセーがどうやってその依頼者の下へ行ったかを聞くと……、腹がよじれるほど笑えた!
だって、転移するための自前の魔力が足りないからって悪魔がチャリで……! しかも、玄関からチャイムを鳴らしてやってくるんだぜ!
それに契約は結局取れずにドラグ・ソボールを語ったり、バトルごっこやって、一夜を明かすとか、なにやってんだよ! ぷっ、ぶはははっ! 木場も「前代未聞だよ」と苦笑する始末だし。笑いを堪えるのにまじで必死だったぜ。
「……契約後、例のチラシにアンケートを書いてもらうことになってるの。依頼者の方に『悪魔との契約はいかがでしたか?』って。チラシに書かれたアンケートはこの紙に表示されるけど……」
部長は呆れながら紙を見せてきた。アンケートなんか貰うのか……、なんていうか恥ずかしいな。
「……『楽しかった。こんなに楽しかったのは初めてです。イッセーくんとはまた会いたいです。次はいい契約をしたいと思います』……。これ、依頼者さんからのアンケートよ。こんなアンケート、初めてだわ。私もどうしていいかわからなかったの。だから、少し反応に困ってしかめっ面になってしまっていたでしょうね。悪魔にとって大切な事は召喚してくれた人間との確実な契約よ。そして代価をもらう。そうやって悪魔は永い間存在してきたの。……今回の事は私も初めてでどうしたらいいかわからないわ。悪魔として失格なんでしょうけど依頼者は喜んでくれた……」
困惑顔の部長だったが、ふっと笑みを漏らし、次はきちんと契約するように激励した。
「さて、エイジなんだけど、あなたは契約できたの?」
「はい。契約できました」
そう言うと部長は微笑んだ。
「さすがね。アンケート用紙にまだ依頼者から書き込みがなかったから、契約できたか分からなかったのよ。依頼者は満足してたかしら?」
「はい。満足してくれましたよ」
自信たっぷりに答える。
「で、どんなことをしたのかしら?」
……うーん、内容をそのまま言うのは、イッセーには刺激が強いし、正直こんな所で言う内容でもないし少しぼかして答えるか。
「依頼者の愚痴を聞いたり、アドバイスしたり、慰めたりしました」
「そうなの。対価はなにを貰ったの?」
対価は俺を満足させる事に穿いていた下着と、血のついた布に2ショット写真だけどこれも却下だな。どうしよう……。ここで出せねぇよ。
「えっと……そのぉ~」
「どうしたの?」
「…………言い難いんであとで話します」
「そう。まあ、いいわ。後できちんと話しなさいね」
「はい」
なんとか切り抜けることが出来た。報告は後で部長にするとして、部活を始めますか~。
◆
悪魔になって2日目の依頼数は3件。新人悪魔を指名する依頼は、部長が言うにはかなり珍しい事ですごく喜んでいた。
俺も依頼者から指名されたことが嬉しかったからって「任せてください!」なんて言うんじゃなかった……。
依頼者がまさか……、まさか全員、女性で、しかも依頼が、28歳キャバクラ嬢から「癒してください!」とか、最近失恋したとかいう20歳女子大生から「慰めてください!」とか、25歳ナースから召喚された瞬間に「愛をください!」って押し倒されたりだもんなぁ……。
体力的には問題ないとしても、一夜で全員を満足させるには時間面がヤバイ。1人2時間弱ほどで満足してくれたら6時間ほどで終わるが、そんなに簡単にいくものでもなく、最後の1人の相手が終わる頃には、もう朝7時をまわっていてた。
固有結界を張って時間を延ばすことも出来ないわけではないが、アレはかなり目立つ。大量に魔力を消費するから今のリミッターをかけた状態じゃ無理だし、膨大な魔力を発生させたら街にいる堕天使や他の悪魔に見つかってしまうからな。
まあ、そんなわけで徹夜したわけだが、これから野暮用で2泊3日の京都旅行に行く新幹線の中で寝ればいい。
部長や他のメンバーにも「3日ほど街から離れます」と前もって話していたことなので、仕事も休みだし、京都旅行を楽しむか~。
◆
学校と部活を休んで京都旅行へ行ったわけだが、2泊3日の旅行が3泊もしてしまい4日目の夕方にやっと街へ帰ってくることが出来た。
「はぁ~、いくら妖怪だからって3日も続けるなんて、ドンだけ性欲が溜まってたんだよあの狐」
存在を消したまま、空を飛び京都に住んでいる未亡人狐の愚痴を吐く。
「まぁ~、美人ですげぇスタイルいいから、俺も調子にのって、盛っちゃったのも悪いが……。ん? あれは……」
遠くに堕天使の夕麻ちゃんを発見した。
「夕麻ちゃんじゃん。なにか抱えてるみたいだな?」
目を凝らしてみると、金髪でシスター服のかなり可愛い美少女を抱えていた。
少し近づいて見ると、2人の雰囲気は最悪で、シスター服の少女は目から涙を流して、夕麻ちゃんもうっとうしげにしている。2人の仲が悪いか、……もしくは、シスターを攫っている途中なのかのどっちかと推測した。
そうとわかれば俺のとる行動は1つだよな! 悪者からヒロインを救い出すヒーロー! みたいな? まあ、ぶっちゃけ暇つぶしと、夕麻ちゃんに腹を挿されたお返しなんだけどな!
俺は夕麻ちゃんに近づき並走するように飛び、身代わり人形EXタイプとシスターを入れ替える。
「えっ?」
入れ替えた瞬間。夕麻ちゃんから俺の腕の間に移動したシスターが驚いたようにこちらを見上げてきた。
「もう大丈夫だよ」
優しく微笑みながら頭を撫でるとシスターは涙を溢れさせて胸に顔を埋めてきた。
やっぱり、攫われてる途中だったかぁ。勘違いじゃなくてマジでよかったよ。
「……ひくっ! ……ひくっ…………」
そのあと、泣いているシスターを抱えて自宅へと転移した。
◆
拾ってきたシスターを自宅の居間に通し、小鍋でホットミルクを作って渡す。
「えっ、とた、助けてくれてありがうございます……」
「ああ、別にいいよ。俺は、神城エイジ。それよりも、泣いていたみたいだけど、どうしたんだい? さっきの彼女に酷い事でもされたのか?」
そう言うとシスターは、はっとした顔になり椅子から立ち上がった。
「そうです! わたしがいないと分かると、またレイナーレ様がイッセーさんを……!」
イッセー? 一誠の事か? それと、レイナーレっていうのは夕麻ちゃんの本当の名前ってところか。
「落ち着きなよ。夕麻ちゃ……、さっきの堕天使は君の偽者を持たせてるから大丈夫だよ。偽者と君が入れ替わった事にも気づかないから。それよりも、君がさっき言った『イッセー』って『兵藤一誠』のことかい?」
「イッセーさんのお知り合いですか!?」
シスターは大声を出して顔を近づけてきた。
「ああ。友達だよ。ていうか、それより話を聞かせてくれないか? なんで君がイッセーを知っているのか。そして、なんで君がいないと堕天使がイッセーの元へ行くのか。そして、よければ追われている理由についても」
「はい……」
シスターは椅子に座りなおし、ゆっくりと話し始めた。
彼女の名前は、アーシア・アルジェントと言って、治癒の力で『聖女』と崇められていたらしいが、ある日、怪我を負った悪魔をその力で助けたため、教会から異端者とされ、居場所がなくなった彼女は、故郷から日本へと、はぐれエクソシストや堕天使たちに連れてこられたそうだ。
イッセーとは、日本語が分からなくて道に迷っているところを助けてもらったらしいが、あいつ英語出来たか? いや、悪魔の得点で言葉が通じるってのがあったから大丈夫なのか。俺も英語を話さずに普通に喋ってもいいんだな。
まあ、言葉が通じる通じないとかについては置いておくとして、アーシアは、はぐれエクソシストと共に悪魔と契約した人間から悪魔を祓うという任務で民家に入り、結界を張るように言われて二階へ行き戻ると、エクソシストは人間を殺害していた。なんでも、そいつは悪魔や悪魔と契約している人間は即効で殺すらしい殺人鬼らしい。
そして、その民家に丁度、イッセーが来て、エクソシストはイッセーを殺そうとしたらしい。アーシアはエクソシストにイッセーが悪魔だと教えられたらしいが、イッセーが悪い悪魔ではないと分かっていたので、エクソシストに殺さないようお願いしたらしいが、エクソシストはイッセーを殺そうと剣を振りかざしたが、魔法陣から人がたくさん出てきてイッセーを連れ去ったらしい。まあ、アーシアが言った紅い髪の女性は部長だろうから、怪我を負っていても命は助かっただろう。
その次の日、まあ、今日らしいが、アーシアは堕天使から逃げて、偶然イッセーと街で会い、街で思いっきり遊んだそうだ。それに、イッセーは悪魔だけど友達になってくれると言ってくれて嬉しかった。一人ぼっちでどんくさいわたしと友達になってくれて嬉しかったと泣いた。
「ふぇっ!?」
アーシアが話を終え両手で涙を拭っている姿に、俺はたまらなくなって、抱きしめた。
「俺もアーシアと友達になるよ。それに、イッセーともまた会わせてやる」
「ほ、ほんとですか……?」
「ああ、もちろん。任せておけ」
それから、アーシアが泣き止むまで抱きしめてやった。
◆
「もう、大丈夫だな」
「はい、ありがとうございました……」
アーシアが泣き止んだことを確認して腕を放してから立ち上がる。
「とりあえず、イッセーの家に行ってみるか」
「イッセーさんの家ですか?」
「ああ、隣なんだ」
そう言ってアーシアを連れてイッセーの家に向かう。
だがイッセーはまだ家に戻っていないらしい。時間は夜の9時だから、部室に居るのか?
「家にいないって事は部室だな。ちょっと、部室まで行ってみるかぁ。アーシア、少しつかまっててくれよ」
「えっ? あっ!」
アーシアを抱き上げ、お姫様抱っこのスタイルで空へ飛び上がる。
「あ、あなたはやっぱり……」
「ああ、悪魔だ。まあ、最近悪魔になったばかりだけどな。それと、友達になるのも親切にしてるのも、契約なんかじゃないからな」
「は、はい……」
そう微笑み、月明かりの中を飛行して駒王学園の部室へと向かう。
その間アーシアは終始顔を赤く染めていた。
◆
部室に着いたが、部室には誰もおらず、無駄足となってしまったが「まあ、待っていれば帰ってくるだろう」とアーシアとトランプやチェスをしながら待っていると、教会の方から複数の魔力を感じた。
「まさか……!」
……えーと、イッセーの性格を忘れてました……。
そういや、あいつって単純で真っ直ぐだったんだ。アーシアが堕天使に捕らえられてることを知ってんなら、助けに行くよな。あいつなら勝てないって分かっていても助けに行くだろう。
だけど堕天使と戦うなんて部長が止めるはず?
いや、あの部長の事だ、止めるのは形だけで実際には裏で動いている可能性が高い……、って、やっぱり教会の辺りから部長と朱乃さんの魔力を感じる……。
「どうしたんですか?」
アーシアがチェスの手を止めた俺の顔を覗きこんできた。緑色の瞳が可愛らしい……、って、それどころじゃなかった!
「アーシア……、落ち着いて聞いてくれ」
「はい」
「たぶんっていうか、イッセーなんだけど……」
「はい」
「たぶん君を助けに堕天使のアジトに乗り込んだみたいだ……」
「……………………はい?」
アーシアから笑顔が消えた。
立ち上がり、走り出した。
廊下を走るアーシアを捕まえる。
「待てって!」
「離してください! イッセーさんが! イッセーさんがっ!」
アーシアが手を振り暴れるのを、無理やりおさえて話しかける。
「君が行ってどうこうなる話でもないだろ?」
「でも! でもっ! イッセーさんはわたしを助けるために……!」
「わかってるから、少し待ちなさい」
「うぅぅ……」
頬を両手で挟んで無理やり目を合わせる。
「もう乗り込んで喧嘩うってるんだから、君が行ってどうこうなる話でもないだろ? それに行ったら殺されるかもしれないんだよ?」
「それでも……、それでも、行かないといけないんです! 友達と言ってくれたイッセーさんのために……! わたしは行かないと行けないんです!」
真っ直ぐ俺の瞳を見返してくるアーシア。まったく……、この娘は、本当にいい娘だな。
「わかった。俺も一緒について行ってあげるよ」
「え?」
「イッセーは俺の友達でもあるし、君みたいな美少女を危険地帯に1人で行かせたら男がすたるからね」
「……び、美少女っ」
「うん。じゃあ、行こう。早くしないと終わっちゃうかもしれないし」
「あ、ありがとうございます!」
アーシアを抱きかかえて、教会へと飛び立った。