やがて砲撃の雨がやみ、煙が風に吹かされると空母棲鬼は地面に膝をつけた。体中の傷から赤い血を流し、ただ座ったままアスファルトの地面を見ている。意識がないか確認しようと一人の深海軽巡が近寄った。
すると突然、白い腕が伸び深海軽巡の首を掴み始めた。ゆっくりと顔をあげ深海軽巡を睨む。空母棲鬼はそのまま地面に叩きつけ首をへし折った。
何とか砲撃の雨を耐えてもあまりのダメージに空母棲鬼は地面に手をつける。そして口から血を吐いてしまった。
「…ア゛ァ…!!…グッ…私゛ヲ…!!」
不死身と言えど死ぬのは誰よりも怖かった。いつも私が死んで生き返る度に仲間がまるで枯れた草のように次々と倒れて死んでいく時を忘れはせず、ただ目に涙を浮かべるだけだった。でも何故だろうか、私も深海棲艦なのに深海棲艦を敵と思えてしまっている。心の中で憎しみが湧き上がるほどの敵だと思ってしまう。私もかつては人間だったのだろうか、と。
「…死ナセテ頂戴!!」
空母棲鬼が言い放った瞬間に艤装を使って驚きの速さで深海戦艦にわざと近づいた。撃たれて死に、生き返れば深海棲艦が少なると思った空母棲鬼は砲撃を誘惑させる。
案の定、深海戦艦は慌てて砲撃をして直撃させた。
「バカ!殺スナッ!!」
中間棲姫の怒号が飛ぶも既に手遅れ。黒煙が漂う中で赤い光が漏れ始め、雷鳴のような音が響き渡った。そして次第に地面が抉れていき、周りにいる深海棲艦が次々に倒れていく。死んだ深海棲艦の魂らしきものが人魂の様に空中に浮かび、赤い光の中へ吸い込まれていった。
そして赤い光を放出させ、空母棲鬼は生き返ってその姿を見せた。体中にあった傷はなく、失くした左腕も再生され、流れ出た血もなくなっていた。さらには半壊していた艤装も回復し、いつでも準備万端な状態で生き返っていた。ただ一つ違う点があるとしたら左目が赤く燃えている様に見える。
「空母棲鬼!!」
第一地下町の提督が突然呼び出し、大声で話しかけた。
「戦艦棲姫の事は私達に任せろ!!お前は中間棲姫を討て!!!」
「エエッ!! 分カッタワ!!」
「ヘェ…言ッテクレルジャナイ…!」
その言葉を聞いていた戦艦棲姫は艦娘上等とわざと挑発に乗り、艦娘達がいる所へ一直線に向かっていった。それを見た空母棲鬼は深海棲艦と艦娘が戦う中を駆け巡り、中間棲姫の姿が見えたところで重巡棲姫と軽巡棲姫が合わせて空母棲鬼に襲い掛かった。
「行カセルッ…」
「邪魔ダぁッ!!!」
二人の息の合わせた攻撃を軽々と避ける。腹に隙があったのを確認した空母棲鬼は両腕を使って重巡棲姫と軽巡棲姫の腹に拳を食い込ませた。カウンターを決められた二人は白目を剥いて遥か彼方へ飛ばされていく。
その状況を見ていた中間棲姫は艤装をまるで戦車のように鈍く動き出し、空母棲鬼に近づこうとする。そしてその艤装の動く速度は少しずつ速さを増していき、やがては空母棲鬼の背後まで回り込んだ。背後にいる事に気づいた空母棲鬼は後ろを振り向き防御態勢に入ろうとする。
「残念」
背後から中間棲姫の声が聞こえた。目の前にいたはずの中間棲姫はもう消えていて、また背後に回り込んでいた中間棲姫は空母棲鬼の後頭部を殴った。その一撃はあまりにも重く、そして速かった。
直撃を貰った空母棲鬼は立ち上がろうとするも意識は朦朧とし、視界に何があるのかも分からずに彷徨っていた。分かるのは後頭部から来た激痛と鳴り止まぬ砲撃音。
「ッ!?」
やがて自分の背後に誰かがいると感じた空母棲鬼は己の身を守るため、一旦距離を測る。しかし距離を離してもすぐ近く来る中間棲姫。艤装の速さなどではなかった。決して艤装を改造したわけではない。目くらましをしているわけでもない。あれは―――
「コノ改造ガ終ワッテモウ5ヶ月ガ経ツノカシラ…マァ馴染メタ方ダワ…」
「何ヲ……言ッテイル…?」
「私モアナタト同ジク改造ヲシタノ。誰ヨリモ速ク動ケルヨウニ艤装ニネ…」
それはあまり動けないと言うデメリットを無くすように自分自身に改造を施していた。中間棲姫は艤装をつけると機動力があまりないという弱点を持っている。その理由は艤装が体の倍以上大きく、そして重かったからだ。火力、対空、装甲が強化されている代わりに場所が制限されている以上、大きな的になりうる可能性もあった。
そこで中間棲姫は装甲を犠牲に機動力を底上げするという背水の陣の覚悟で改造していた。改造は成功し、どこでも動き回れるようになった。その機動力は音速をも超える。
「成程…ソレデ速イワケダワ…」
「ドウ? ビックリシタ? コレカラオ前ヲユックリ痛メツケ…」
「デモ…二ツ言ウ事ガアルトスルナラ…」
中間棲姫の言葉を遮って空母棲鬼が言い返す。その直後に中間棲姫の頭にめがけて殴ろうとする。当然、避けられまた後ろに回り込んだ中間棲姫はとどめを刺そうと殴りかかろうとしたその時だった。
「一ツ目ハ!!」
殴った空母棲鬼が体を捻って中間棲姫のみぞおちに一発、右拳を打ち込んだ。殴り飛ばされた中間棲姫は東京駅のレンガの壁に激突する。みぞおちを殴られたせいか口から大量の血を吐き出し、腹を抱えて悶絶した。装甲がゼロに等しい中間棲姫にとってはとても苦しいものだろう。
「背後ニ回リ過ギナ事! ソシテ二ツ目ハ!」
言った直後に空母棲鬼は艤装を展開させて一直線に中間棲姫の元へ向かっていく。命の危機を感じた中間棲姫は即座に動こうと艤装を動かすが、うまく瓦礫に挟まってしまい身動きが取れなくなってしまっていた。もう空母棲鬼は目の前。命乞いをする事なく、
「食ラエッ!!」
空母棲鬼の右ストレートが中間棲姫の顔面に直撃した。その右ストレートは今出すことの出来る力を全て振り絞ったもの。自分の思いを乗せて殴った。自分のせいで死んでいった深海棲艦の為に、深海棲艦に殺された人間達の為に、自分の娘を預かってくれた真人達の為に、愛する娘である葵の為に、そして何より自分の心に耳を傾け、一生懸命支えてくれたあの人の為に――。
中間棲姫は東京駅の壁を貫き、天高く吹き飛ばされる。艤装は崩れ落ち、大量の血を吐き出している。東京都全体を茜色に染める夕陽が中間棲姫を照らした。
その姿を見て空母棲鬼が静かに言った。
「改造ナンカ二頼ルカラヨ…」
吹き飛ばされた中間棲姫は日本橋三丁目付近で不時着し、起き上がらなくなった。後ろを振り返ると、東京駅近くにいた深海棲艦達はもう駄目だ、と逃げていった。そして大艦隊と挑んだ戦艦棲姫は立ち尽くしたまま燃え死にしている。
東京駅城砦は人間と艦娘達の大艦隊と一人の深海棲艦によって攻め落とされた。