「グハッ....!」
真人が血を吐きながらコンクリートの床に激突する。腹を殴られ気絶寸前だった。
「ホラ....立テヨ....マダ終ワッテナイゾ....」
ひるむ真人の髪を片手で持ち上げる。
「んあっ...!あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!」
髪の毛全体を持ち上げられたため頭全体に激痛が走る。持ち上げた南方棲鬼は真人を投げ、壁に打ち付けた。
「フッ...人間ナンゾ腐ッタ存在ダガ、オ前ハ私ノオ気ニ入リナンデネ....」
「簡単ニ死ンデモラッテハ困ルノ....イイ?」
南方棲鬼の問いに頭を下に振る真人。頭から血を流し、横に返すのが精一杯だった。
「ソレデコソ私ノサンドバックヨ.....」
そう言った南方棲鬼は頭めがけて殴った。
意識がなくなった真人をリ級は牢獄の中へまるでゴミを捨てるかの様に投げていった。
「お、おい!大丈夫かよ!?生きてる!?ねぇ!?」
うつ伏せの状態で血を流し、反応がない。
思わず蒼汰は真人の体をゆする。
「.....あ.....あぁ......今回も生き残れた...ぜ....」
「今回は特に酷くないか?血の量も尋常じゃないし....」
真人の顔にはアザが数ヶ所あり、頭からは血が流れ鼻血をしていた。身体にはいくつもの殴られた痕が出来ている。
流石にやりすぎたのか3日間呼び出しを禁止されている身だった。
「ゆっくり休むとするか....」
はいずくばって震えながらベットに向かう真人。その姿を見て蒼汰は決心した。
「なぁ、マト.....」
「....ん....なんだ蒼汰?」
真人が振り返ると目の前には蒼汰が険しい顔でこちらを見ていた。蒼汰は真人の耳元で静かに喋った。
「3日目の日、脱出しよう.....。」
蒼汰の言葉に戸惑う真人。思わず「えっ?」と返した。
「だから脱出すんだよここを....」
「.....でもどうやって...二人一緒に脱出するのか?」
「ああそうだ。俺がこのヘアピンで南京錠を解き、お前が掘った穴で脱出する。」
「大丈夫なのか?あまりにもリスクが高いと思うが.....」
「大丈夫だ。この自家製煙玉を使えば何とか逃げれる。」
と、蒼汰は真人に煙玉を一つ渡した。
「んじゃ、俺とお前は分かれるってこと?」
「そうだ。俺はとりあえずここから近い皇居に向かって身を隠す。お前もそうしたほうがいい。」
真人は一瞬いっそ二人であの穴から逃げればいいんじゃないかと思った。だが、二人で逃げた場合一人でも見つかる可能性が十分にあった。
「...あぁ。そうしよう。」
「それに俺とお前は同じ提督の者として仲がいいからな。」
蒼汰は右腕の黄色のミサンガを見せた。真人も右腕の青いミサンガを見せた。
「そうだな.....。」
「決行は昼12時、あいつらが一番監視が緩い時に脱出しよう」
その時突然警報が鳴り響いた。檻は完全にシャットダウンされ、何故か後ろの檻だけが閉まらずに光を指していた。
「な、なんだ!?」
突然の出来事に戸惑う二人。作戦がばれたかと思ったが違かった。よく外を見ると一人脱出し、命がけで走っている男が見えた。
「まさか俺たち以外にも脱出する奴がいたのか!?」
「.......」
「ハァ.......ハァ........ハァ......」
「(こんな惨めな所で一生生きてられるか!)」
息切れを起こしながらも体が動く限り走り続ける男性。すると上から南方棲鬼が地面にひびを割れさせながら男性の前に立ちはだかった。
「ヒ....ヒィィィィィ.......!」
その恐ろしさを前に尻餅をつく男性。足はピクリとも動かなくなった。
南方棲鬼は静かに男性の前へしゃがむ。
「脱出オメデトー。ヨクココヲ抜ケ出セタネェ。」
南方棲鬼は鉤爪のような指をカチンと鳴らして笑って褒めた。殺意などなくただ無邪気に近寄った。
「何を...する..気だ....」
「何ヲスルカダッテ?ンーソウダナァ、本当ハ殺ス予定ダッタンダケド.....」
南方棲鬼は自分の背中に手を伸ばし、何かが入っている注射針を持ってきた。
「チョット実験ニ付キ合ッテm(「お前らなんか死んでしまえ!!」」
南方棲鬼の言葉を無視し殴ろうとする男性。南方棲鬼は殴ろうとした男性の右手を左手で掴み、
「アァソウカヨ。ジャアテメェガ死ネェ!!!」
右手にある注射針を男性の片腹に刺し何かの液体を注入した。
何かを入れられた男性は仰向けに倒れ、意識がありながらも口から泡を吹いた。
「う...うわぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!ウゲッ......」
「グギッ.....グガガガガガガ....」
人間とは思えない声を出し、徐々に上へ腹が膨らんでくる。
「アーコリャマタ失敗カァ....」
南方棲鬼は何かを察したのか頭を掻いた。
「ウゲェ....グガッ.....ゴゲッ.....ボギッ.....」
男性の腹はみるみる上へ膨れ上がっている。そして....
パァンッッッッッッ!!!!!!
風船が割れたかのような音が鳴り、男性の腹は破裂した。破裂した勢いで赤い血がその周り全体を染め、血の雨が降る中、一部の内臓も落ちて来た。
「うわっ!!」
血は二人の牢獄まで届き、床にしたった。
男性の残骸の前には血まみれの南方棲鬼が上を向いていた。
「(....臭クテ汚イ血ダナ.....)」
その惨状を見ていた蒼汰と真人はあまりの壮絶さに自然に口を開け愕然とした。
「何する気なんだ.....あいつらは.....」
「......」
手足が次第に震え、本当の死に対する絶望感を体の芯まで感じた。
「(このままじゃいつ殺されるか分かんねぇ....明日にでも脱出したいとこだが.....)」
蒼汰は真人を見た。真人の体はさっきまであの南方棲鬼の仕打ちにあったばかりで歩くのが限界だった。
「俺は....明日でも構わねぇよ.....」
「馬鹿言うな!お前のそんな体で逃げ切れるわけねぇだろ!」
「でも.....」
「大丈夫だ.....予定通りに脱出しよう....。」
「......いいのか?」
「親友を見捨てて逃げる奴がどこにいやがる!俺は絶対に見捨てねぇ!」
「....そうか。ありがとう....。」
蒼汰は照れ臭くなったのか鼻をこすり笑った。真人はその姿を見て小指を前に出した。
「ん?どうしたマト?」
「んじゃ約束な。」
それは約束をする証、指切りの合図だった。蒼汰も小指を出し、必ず脱出して皇居の中で集合しようとお互い誓い合った。
その日の夜、蒼汰が何かを書いているように見えた。気になり起きようとするもあまりの眠気に耐え切れずそのまま寝てしまった。
二日が過ぎ三日目の朝を迎えた二人。脱出する準備は既に出来ていた。二人とも決意した顔でその時間を待っている。幸いなことに蒼汰を指名していた離島棲鬼はいなかった。時間が近づいてくる度に緊張が止まらなかった。落ち着きたくても簡単に落ち着けない、もしかしての事を考えると緊張から抜け出したくなった。
その姿を見たのか蒼汰が真人の震える右手を抑え、
「大丈夫だ、必ずできる。」
真人は蒼汰の言葉に励まされた。蒼汰はいつでもポジティブな奴で誰とも喋れて真人は心の底からこいつと親友でよかったと思った。
昼12時。とうとうこの時間が来た。檻の外側にいた監視がいなくなり他の牢獄の人達以外誰もいなかった。
「よし、今だ。」
蒼汰が右のポケットからヘアピンを取り出し、南京錠を開けようとする。真人もベットを横にずらし、穴に入ろうとする。
檻の南京錠はすぐに解除され扉が開いた。静かに外側から出て左右を確認する。
「んじゃ皇居で待ってる。」
「おう。」
二人はそれぞれの脱出ルートへ行った。もちろん誰の助けなどない。
真人は何日、いや何年もかけて掘った穴を進んでいく。当然中は真っ暗なので出口からでる薄暗い光を手掛かりにして向かった。
出口はコンクリートの削れた壁や石などで覆ってたためばれることはなかった。外に頭を出して周りに深海棲艦がいないか確認する。
「よし、いないな。」
誰もいない事を確信して穴からでる真人。急いで皇居に向かった。
蒼汰は監獄から脱出し、外の前まで来ていた。監視が緩いとは言え数人が上から監視している。
「(うかつに外に出たら死ぬなこれ....。)」
少しでも体を見せれば一触即発。直ちに警報が鳴り響き二人とも殺される。
「(ただでさえ警報が後から鳴るんだ!裏から周るしかねぇ!)」
「ハァハァハァハァハァ」
真人はなるべく見つからないように裏から走っていた。少し息切れをしているがまだ余裕はあった。
「(蒼汰が皇居を集合場所にしているのは木が多く植えられているから身が隠しやすいからか。)」
走っていくうちにちらりと皇居の木々が見えた。するとその時、
「ちっ!ばれたか!」
警報が鳴った。二人が牢獄にいないことがばれたのだ。だが蒼汰はこれがチャンスだと思った。
警報が鳴った途端に上から監視していた深海棲艦がいなくなったのだ。つまり外は今だけ誰も見ていない。
「今だ!行くしかねぇ!」
蒼汰は外に出て全力で走った。
「警報!?今しかないか!」
真人も外に出て皇居へ近づこうとしたその時に上から会ってはいけない奴に会ってしまった。その奴は真人が走る方向を遮った。
「うわっ!」
降りた時の衝撃波で後ろに下がる真人。真人は奴の姿を見てゾッとした。
「久シブリ...私ノ可愛イサンドバックチャン♡」
その奴とは真人を散々にした南方棲鬼だった。
「何で.....ここに...お前が.....」
訳もなく手足が震え怖気づく真人。
「何デッテ...私ノオ気ニ入リダシ...ソリャ一目散ニ駆ケツケルニ決マッテルジャン?」
「本当ハ殺サナキャイケナインダケド私ノオ気ニ入リ免ジテ殺サナイデイテアゲル♡」
南方棲鬼は愛情がこもったような声で話しかけるが目は笑っていない。
「殺さないだと?散々俺を殺そうとしたくせに....」
「人聞キガ悪イコト言ワナイデヨ...。アクマデモ殺ソウトハシナイヨ...。」
南方棲鬼は呆れた顔でこちらを見ている。
「マァ、モウ一人ノホウハ別ノ奴ガ追ッテルケド、ソノウチ見ツカルデショ。」
「サァーテ、戻ルヨ。」
南方棲鬼が真人の腹を殴ろうとしたその時だった。
「!?」
誰かが真人の後ろから高速で南方棲鬼を蹴ったのだ。
「ッ.....!!」
「うぅりゃあぁぁっっ!!!!」
蹴り飛ばされた南方棲鬼は遠くへ吹っ飛ばされる。
真人はその誰かに見覚えがあった。どこかでの制服、見たことある艤装、青い目、そしてポニーテールをしているピンク色の髪。
「...ふぅ...大丈夫ですか?」
優しく声をかけ心配する誰かは手を伸ばす。
「...あ..あぁ....大丈夫だ...。」
伸ばされた手を掴み立ち上がる真人。思い切ってその誰かに問いかけた。
「お前は....もしかして..艦娘なのか....?」
その誰かは久しぶりに聞く言葉を聞いて右手を頭にあげ敬礼してこう答えた。
「艦娘......そう...いかにも、私は―――」
「――――陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です。」