「――――陽炎型駆逐艦2番艦、不知火です。」
「不知火.......」
もちろん知っている。冷酷な眼を持ち、駆逐艦でありながら戦闘能力はかなり優れており、第一次太平洋海戦でも活躍していた。
「はい。そういうあなたは提督でしたか?」
「あ..あぁ。前まではな....。」
「そうですかっ!」
真人が答え不知火が確認したときに正面からコンクリートの塊が投げられ、不知火が飛び蹴りをして塊を横に返す。
投げた方向には煙に囲まれ一つの影が見える。その影は煙を手で払い姿を現す。
「駆逐艦風情ガァ.....!!コノ私ニ不意打チスルトハナァ!!!!」
その影とは不知火が蹴飛ばした南方棲鬼だった。凄まじい殺気を放ち、鬼の形相でこちらを見ている。
「今度ハ逃ガサネェゾ....クソピンク!!!!!!」
「とりあえず詳しい話は後で...」
南方棲鬼の周りにあった煙は吹き飛ばされ、地面にひびが入る。
「流石に相手が悪すぎますね....一刻も早く逃げ出したいところですが....」
不知火が殺気におされながらも戦闘の構えに入る。
「逃げ出す.....」
真人は右ポケットにあった煙玉を思い出す。
「不知火!逃げる場所はあるのか!?」
「はい...一応あります...ですが....」
前には凄まじい殺気と共に禍々しいオーラを放ち、指の関節をバキバキと鳴らしながら歩く南方棲鬼がこちらに向かってくる。
「何か...策でも...?」
「あぁ....とりあえず逃げるぞ!」
「え..あ、ちょっと!」
真人は不知火の腕を掴んで逃げた。それを見た南方棲鬼は右手をより一層握って、
「逃ガスカァァァァァァァッッッッッ!!!!!!!!!!!」ドバァンッッ!!
地面を蹴った。数秒遅れて衝撃波が舞う。
音速並みの速さで真人と不知火に襲い掛かる南方棲鬼。だが真人はその瞬間を見逃さなかった。
「ッ!?」
突然下から白い煙が南方棲鬼を襲った。突如の出来事にひるみ、後ろに下がる。
「(コレハ....煙玉....)」
「早く逃げるぞ!不知火!その逃げる場所を教えてくれ!」
「.....は、はい!」
二人は白い煙幕に消え去り、姿も見せずにどこかへ行ってしまった。
「貴様ラァァァァッッッ!!!!!覚エテロォォォォォォッッッッッッッ!!!!!!!!!」
二人を逃した南方棲鬼は執念の声を出しながら近くにいた深海棲艦に抑えられた。
―――??????。
逃げた二人は薄暗い地下道を歩いていた。その道は前が暗くて分からないくらい遠く、一本の道しかない。
「ここは....?」
あまりの不気味さに質問する真人。
「...そのうち分かります。」
不知火は振り向きもせずに答えた。
コンッコンッ、ペタッペタッと歩く音が地下道の中に響き渡る。
ようやく入口と思われる門の前に着いた。流石に疲れたのか真人は息切れをしている。
「なんか長すぎないか...?」
「身を守るためです。」
不知火は門の右にあるモニターらしきものを見てじっとしている。
ピッと音がしたとき3mぐらいの門が地面にかすれながら遅く開いた。その門の先には――
「なんだ.....ここ......」
門の先には中心にとても大きい円形の縦穴があり、その周りに家や店などが地中にはめ込まれた様に建っている。階層は何十階とあって、事前に造られた様な足場が一階ごとに設置されていた。
「さぁ、町長のとこに行きますよ。」
「...町...長?」
丁度中央の階にその町長はいるらしい。真人は色々聞きたいことがあったが黙って不知火についていった。
町役場らしきとこについた。ここを治める場所としてか途中の通ってきた家よりも少し大きい。
中に入ると受付カウンターや椅子などがあり普通の市役所となんら変わらない。
「あら不知火ちゃん。ボーイフレンドでも連れてきてどうしたの?」
受付カウンターの女性が不知火にちょっかいを出してくる。
「...はぁ、違います。救助した人を町長に報告するんです。」
「あらそう......」
受付カウンターの女性は真人を見つめた。真人は挨拶をした。
「あっ..よろしくお願いします。」
「こちらこそよろしく。町長、厳しい人だから注意してね。」
受付カウンターの女性はニコッと笑った。
「は、はぁ......。」
「(やけに肌白いなこの人....まぁ太陽浴びてなきゃそりゃ白くなるか。)」
横の階段を上り町長室かと思われる部屋の前に立った。
不知火がコンッコンッとノックして部屋の中にいる町長に伝える。
「町長。今日正午12時32分、脱出したと思われる人を救助しました。その人もいます。入ってよろしいでしょうか。」
「.....あぁいいぞ....。」
キィーッとドアが開き部屋に入る二人。前には椅子に座りながら窓から見える景色を見ている年老いた男性がいた。その男性はこちらに振り向き鋭い眼で真人を見た。
「貴様が助けられた臆病者か。」
「誰が臆病者だよ。お前に言われたかねぇな。それに....」
真人は年老いた男性の左半身を見る。男性の左半身は深海棲艦化しており、左目は青白い眼が光っていた。
「うるせぇ。俺の体がどうしたって言うんだ。殺すぞ。」
「てめぇ...さては何か打たれたか?」
「あぁ...どこぞのクソ深海野郎が俺を実験体にしやがってな...こんなクソみたいな体になっちまった...」
「.....」
両者とも睨み付ける。
「自己紹介している暇があるなら私の話を聞いてください。」
不知火は空気を変えて話す。
「今日正午12時30分に深海棲艦から逃げていたこの人を私が救出しました。顔や体にいくつもの傷がありますが体調は良好な模様です。」
「えっ?体の具合とかも分かるのか?」
真人が驚いて不知火に質問した。
「それぐらい分かります。」
「は、はぁ....」
即答され言い返す言葉もなく黙りこんでしまう。
「それで?何でここに連れて来た?」
「はい。この人g「マトでいいっての。」」
「は、はい。」
「マトは右腕に提督の証とされているミサンガをつけていました。なので本部に連絡をしてもらいたいと思い、連れてきました。」
「はぁ...そうかい。」
町長は机に置いてある電話機を取り出し不知火が言った事を話し、交渉をしている。
交渉が終わったのか電話機を置いた。
「分かったってよ。さっさと行け臆病者。」
「....チッ....」
「さぁ行きましょう。」
二人が背を向けた途端に町長が何かを真人の後ろに投げ捨てた。
「手ぶらじゃまずいから勝手に持ってけ。」
真人の後ろには白い軍服とハンドガンが転がっていた。ハンドガンは確認すると電動でマガジンは満タンの状態でいつでも撃てるような物だった。
「勝手に貰っておくぜ。」
真人は拳銃を右ポケットにしまい軍服を左肩に乗せて行った。
着替えた真人は不知火と一緒にその本部と言う場所へ行ける道の扉の前に着いた。扉を開けると真っ直ぐな一本道になっていて遠くが暗く見える。
「おいこれ、遠いやつじゃないよな?」
「先ほどの三分の一です。それほど遠くありません。」
一本道をただただ歩く二人。本部までは少し遠い。
「なぁ....」
真人が不知火に話しかけた。
「何でしょう。」
「この地下町は本部合わせてどう構成されてるんだ?」
真人はあの町の事が気になっていた。
「あぁそうですね。今日初めてここに入りましたからね。教えてあげます。」
「マトが入ったあの地下の町は第10東京都地下町になります。」
「第10と言うと?その他にもあるのか?」
「はい。今では第12まであり、それを囲んで中心に第0東京都地下市があります。」
「随分と規模でかいな。」
話している内に地下市前の扉の前に着いた。右にはさっきあったモニターらしき物でじっとしている。多分、顔認識センサーでも入っているんだろう。
ピッと聞いた事のある音が鳴り扉が開いた。
真人は扉の先の光景に圧倒した。あの地下町よりも数倍大きく、光も多くともっていて、下を見ると奥まで縦穴が続いている。
「でけぇな.....」
「それはまぁ..中心地ですし....行きますよ。」
設置されている足場はあの町より大きく6人並んでもきつくないくらい広かった。
やがて本部に着いた。町役場よりかなり大きい。
「ここです。入りましょう。」
「あぁ...。」
中に入ると町役場とほぼ変わらないが、一つ違う所があった。不知火はその所に行く。
「第10地下町から連絡しました不知火です。」
「はい。分かりました。その提督らしき人を見せてください。」
受付カウンターの男性は手元にある書類を集めペンを取った。
「俺だ。」
真人が前に出る。
カウンターの男性が一つ質問をした。
「名前は?」
「心崎真人(しんざきまと)だ。」
真人が答えた言葉をペンで書き込んだ男性は何かのリストを見つめ、確認している。そして何かのボタンを押した。
「分かりましたこちらです。」
男性は席を離れ二人を道案内した。
短い通路を抜け、扉を開いて中に入ると一つの広い部屋に出た。前には数人の艦娘がいる。
「あなたの部下である艦娘です。」
真人は恐る恐る近づく。その艦娘は誰かが近づくのを感じてその誰かを見る。そこには、
「お前らが....うちの艦娘か....?」
聞いたことのある声に涙を流す艦娘達。そして、
「司令官....!」
一人の小さい艦娘が真人に抱き着く。誰かはすぐに分かった。
「ごめんな皐月....俺がふがいないばかりに....」
真人はしゃがみこんで皐月を涙を出して抱きしめた。
「提督.....」
声をかけたのは蒼龍と摩耶だった。二人とも泣いている。
「お前ら.....」
「.....提督の馬鹿ぁぁぁぁ!!」
「うわっ!」
二人は真人に飛びつき抱きしめた。反動で体が倒れる。
「私がどれだけ泣いたと思ってんだよ....」
「私だって死んじゃったと思っちゃったじゃん!!」
「ちょ...分かったごめんて....苦しいからやめて!」
真人の声は届かず、より強く抱きしめる蒼龍と摩耶。皐月も真人に乗っかかる。
「おぶっ!!」
「....い、一旦落ち着こうか!」
「あ.....う、うん。」
ようやく真人の声が届いたのか三人が抱きしめるのをやめた。
それを見た不知火はカウンターの男性と話をつけ男性は後を去った。
「あぁー首が痛ぇ...」
「ごめん提督!嬉しさのあまりについ...」
蒼龍が両手を合わせ謝る。
「いや大丈夫だぞ。気にするな。」
「よかったですねマト。会うことが出来て。」
不知火が話しかける。
「あぁ。でもなんでこういうことをしたんだ?」
「あなた達はこれから本部の者として第10東京都地下町の提督になり、艦娘を指揮し深海棲艦と戦ってもらいます。」
「第10って言うことは他にもいるのか?」
「えぇいますよ。主に深海棲艦との戦闘や逃げる人々の救助などしています」
「地面の上で戦うのか?」
「はい。たとえ土の上でも体術ぐらいは皆さん持っていますので。」
真人は後ろの三人を振り返って見ると全員頷いていた。
「まじかよ.......え?じゃあ...」
真人は不知火が動いていることに何かに気づいた。
「不知火はもう提督はいるのか?」
もしいなかったら今の真人はここにいないだろう。だが、
「いえ、いません。むしろ今単独で探している所です。マトを見つけた時はもしかと思いましたが、違うことに気づいて少し残念ですけどね。」
「悪かったな俺で!」
真人が少し怒り気味になりながらも話を聞いた。
「そういえばマトからお聞きしたいんですが。」
今度は不知火が真人に質問する。
「あなたと同じように黄色のミサンガをしている人は見かけませんでしたか?」
「黄色のミサンガねぇ..........はっ!?」
真人は思い出した。蒼汰と言う大事な親友と脱出する前に約束をしたことを、そして蒼汰には黄色のミサンガをしていたことを。何もかも全て忘れていた。そう真人は――
――――約束を破った。
全てを思いだした真人はその場で立ち止まり、静かになった。「まさか心当たりでも!?」「司令官?どうしたの?」と声をかけられても真人には聞こえなかった。
自然に涙が流れ、歯を食いしばる。
「俺は.....」
「ねぇ提督!?」
「.....約束を破った。」
「約束....?」
不知火は意味が分からなかった。突然立ち止まり、訳の分からないこと言い出した真人を不審に感じた。
「不知火....皇居に一番近い町はどこだ。」
「こ、皇居ですか?皇居なら9番目が近いですが.....まさか!」
「皆来てくれ!!」
「え!?ちょっと待って提督!」
真人はいきなり走り出し、急いで9番目の町に向かう。不知火と三人は真人を追いかけた。
「(そんな嘘だろ....!俺が忘れるなんて!!)」
「(それじゃあ俺は....)」
真人は蒼汰との思い出を思いだす。一生懸命に脱出用の穴を掘った事、二人で分け合って食べた事、お互いに助け合った事など様々な出来事を思いだした。
「(全て俺が裏切ってるじゃねーか!!)」
真人は涙を流しながら走った。裏切った罪悪感が体の内部からにじみ出る。
「とにかく生きててくれ!蒼汰ぁぁぁぁ!!」
次回は「破った約束」です。