「アレ?驚イテナイワネ...オカシイナ普通ハ驚イテ腰抜カスノダケド。」
離島棲鬼は少し困ったふりをしながら頭を悩ました。殺気はあまり感じられない。
「何で..お前がここに...いるんだよ..今日はお前らがいない日じゃないのか!!」
真人は怒り訴えた。普通は今日いないはずなのに何故か離島棲鬼が万全な状態で目の前にいる事を。全て計算してこの週の日だと分かったのに。蒼汰と協力してやっと分かった情報なのに。そう、南方棲鬼が目の前に来たあの時だって――
「アラヤッパリ気ヅイテイタノ。ソウヨ確カニ今日ハ
「ダケドネ、ドチラモ同ジ時間ニイルトハ限ラナイノヨ。ワカル?」
離島棲鬼は真人に近づき冷たい手で頬を触る。離島棲鬼と真人は同じぐらい身長だった。
「提督に触んじゃねぇ!!」
摩耶が手を伸ばした離島棲鬼に蹴りかかるも足を掴まれ元いた方向に投げ飛ばされた。かろうじて蒼龍が摩耶を受け止める。
「ちっくしょう....」
摩耶達は離島棲鬼に砲口を向けるもすぐそばに真人がいるために砲撃することができなかった。
「...ソレニ今ハ面白イ事ガアルカラ親友チャンヲ殺スノハ止メトクワ♪」
離島棲鬼は満面の笑みを真人に見せ、後ろに下がった。が、何かに気づいたのかまた真人に近づく。
「ドウセナラ血ヲ見セテヨ。」
「...殺さないんじゃないのか?」
さっきの言葉とは裏腹に無茶な注文をしてきた離島棲鬼に真人は睨みつけた。
「イヤ殺サナイノハ本当ダケド、ドウセナラ見タイジャン?蒼汰チャンノハ何度モ見テルケド親友チャンノハ見タコトナイノ。ネェ見セテ?」
離島棲鬼は周辺に転がっている小さい瓦礫の破片を投げ真人の頬をかすめた。真人の頬からは鮮やかな血が少し流れる。
「ちっ...強制かよ...」
流れる血を腕で拭き離島棲鬼を見る真人。離島棲鬼は物珍しそうにはしゃいだ。
「マァ綺麗!蒼汰チャンモコンナ色シテタケド親友チャンモイイ色シテル!」
離島棲鬼は興味津々に近寄る。だが、真人は油断していた。離島棲鬼の右手に何かが入っている注射器を持っているのを気づかずに。
「(んなっ....!)」
急いで離れようとするも遅かった。離島棲鬼の右手は脇腹のすぐそこまで来ていた。刺されると思ったその時に、
「ッ!?」
離島棲鬼は左に吹っ飛んだ。直ちに轟音が響いてアスファルトの道路を抉っていき、皇居の石垣に衝突した。吹っ飛んだ方向から土煙が漂う。
「今度はなんだ!?」
真人がひるむ中で確かめると金剛が立っていた。おそらく殴っただろう右手は煙が発生している。
「金剛!?」
「ん?あぁお前カ。」
真人に相変わらず冷酷な目をする金剛。助けたと言う意思は全く見られなかった。
「すまない金剛、助けてもらって。」
「なぁお前。あいつが提督を弄んだ奴デスカ?」
真人の礼を無視して質問する金剛。その目は憎しみで溢れていた。
「...あぁそうだ。」
「そう..分かっタ。」
離島棲鬼は石垣から飛んで真人達の前で立って見せた。金剛は戦闘の構えに入り、真人に伝えた。
「あいつは私が相手するから、お前は救助した人を助けるデス。」
「だが金剛はどうする。」
「隙を見て逃げるネ。」
「...分かった。」
真人は金剛の言うことを聞き救助した人々を集めて入口に向かった。そしてこの場に金剛と離島棲鬼だけが残った。
「チッ...モウ少シダッタノニ...」
「邪魔されてご機嫌斜めの様子なのネ、離島棲鬼。」
「イヤソウデモナイワ?ムシロ強敵ニ出会エテ嬉シイモノ。」
離島棲鬼は注射器を握りつぶし、口から血を吹き出した。
「できればあいつに打ってくれたら嬉しかったんだけど早かったかナ?」
金剛が残念そうに煽る。
「何?親友チャンニ恨ミデモアルワケ?」
「...まぁお前よりじゃないネ!!」
金剛と離島棲鬼は地面を蹴ってお互いの拳を衝突させた。殴った音と思えない音が響き渡る。衝突した瞬間に衝撃波が発生し地面のアスファルトの道路を抉ってみせた。
「ヘェ?ナカナカヤルジャナイ。」
「へっ...お前もナ...」
二人は残っている左手を使い顔めがけて殴った。
――第10東京都地下町通路内。
見たこともない景色に救助された人達は戸惑っていた。
「すいません真人くん、ここは?」
真人に面識のある一人の若い男性がここがどういう所かを聞いてきた。
「ここは地下に造られた都市です。私も最初来た時は驚きましたがここは安全な場所なので、心配は無用ですよ。」
真人は大人びた口調で地下町の説明をした。それを聞いた人達は喜びの声をあげ安心する。
「マト。金剛さんはどうするんですか?」
不知火が小声で真人に話しかけた。
「金剛なら隙をみて逃げるってよ。大丈夫、あいつならやってくれる。」
「そう...ですか。」
――第10東京都地下町町役場内。
地下町についた真人達は町役場で救助した人達の手続きをした。
「これで全員ですか?」
カウンターの女性が確認する。
「はい全員ですね。あ、でも二人ほど負傷しているので診療所があればいいんですが...。」
「もちろんありますよ。すぐ手続きをしますね。」
「はい、よろしくお願いします。」
真人が軽い手続きを終わらせ、後ろにいる人達に伝えた。
「皆さん!一応手続きは完了しました。後は自分たちで自由に家や登録などを決めてください!」
真人の話を聞いて救助された人々は「ありがてぇ...」「お兄ちゃんありがとう!」「ほんと感謝してもしきれないよ!」と感謝の声を浴びせた。真人はそんな声を聞きながら町役場をでた。すると左に傷だらけの金剛がこちらへ向かって来た。右手を抱え、頭から血を流していた。
「お、おい!大丈夫か!?」
真人は心配して肩を貸そうとするも金剛に振り払われ、それを拒否した。
「お前の手を借りなくても大丈夫ネ。」
金剛は冷たい目で見下し、入渠へ足を運んだ。
「.......」
「マト、本部から会議についての伝達が来ました。また秘書艦を連れての強制参加だそうです。」
真人の後ろから不知火が報告をした。傷だらけの金剛をまだ見ていない。
「...あぁ分かった。皐月を呼んできてくれ。」
「分かりました。」
真人は唯一無傷だった皐月を不知火に呼ばせ、待つことにした。
――第0東京都地下市大本営本部会議室前。
真人は皐月を連れて本部の会議室前に到着した。提督になり深海棲艦と戦ったとはいえ少しばかり緊張した。
「司令官..何か不気味悪いよ....」
皐月もこういうことは初めてなために緊張していた。
「大丈夫だ皐月、俺がいる。」
「う、うん...」
「行くぞ...」
真人が会議室の重い扉をゆっくりと開けて中に入った。中には細長い部屋とテーブルの中で各町の提督がずらりと並んで座っており、隣には秘書艦が立っている。そして奥には元帥が目立った椅子に座りながらこちらを見ていた。
「君が提督か、そこの席に座りたまえ。」
一番左手前にいる中年男性の提督が真人に座るように命じた。
「はい、ありがとうございます。」
真人の座る席は元帥から真正面の席だった。恐る恐る座る座った途端に進行役的立場の提督が立ち上がり話を進めた。
「えーじゃ、これから第68回本部会議を始めたいと思います。よろしくお願いします。」
各提督が深々と頭を下げ「よろしくお願いします。」と口を揃えて挨拶をした。
「えー話をする前に第10東京都地下町の提督から自己紹介をしてもらいたいと思います。」
「(第10?あぁ俺か。)」
「ではお願いします。」
進行役は真人に自己紹介を求めた。これから共に戦う者として自己紹介は必要である。真人は立ち上がり、自己紹介をした。
「私は心崎真人、年齢は24歳。戦前は横須賀鎮守府の第二の提督をしていました。戦後は深海棲艦に捕まり監禁。ですが、脱出し艦娘に助けてもらい今はこういう形で提督にさせていただきました。皆さんと出会えて嬉しいです。」
真人の自己紹介を聞いて元帥がよぼよぼな声で質問をした。
「ほぅ...マトさんか。何か目的はあるのかい?」
目的と聞いて真人はあの手紙を思い出し、大きな声で即答した。
「俺の目的はこの日本を深海棲艦から取り戻すこと!!!ただそれだけです!!!!」
目的の聞いた途端に各町の提督が一斉に笑い出した。部屋の中で笑い声が響く。元帥と進行役の提督は笑っていなかった。
「~貴様本気で言っているのか?」
第2地下町の提督が腹を抱え、笑いながら真人に話しかけた。
「本気じゃなきゃこんなこと言わねぇよ。」
続いて第5地下町の提督が問いかける。
「この全国にいる深海棲艦を全員殲滅すると言うのかい?可笑しくて頭が吹っ切れそうだよ。」
「......」
「さらには何かい?無様に深海棲艦に捕まって拷問されたんだって?笑いをこらえるのが大変だったわ。」
「んじゃそういうお前らは捕まらずに逃げたって言うのか?」
自己紹介を馬鹿にした第6地下町の提督に真人は反論した。
「そうだ。ここにいる全員は艦娘どもを使ってここに逃げ込んだんだよ。いやぁあいつらにはいい盾になったもんだ。」
「盾?盾だと?じゃあお前らは自分が逃げる為に艦娘に無理な命令をさせて見捨てたって言うのか!!!」
真人は激怒した。艦娘が人じゃない扱いをされていた事に。
「では貴様はどうしたんだ?」
一番手前の元横須賀鎮守府の第一の提督だった第9地下町の提督が何をしたのかを尋ねた。
「俺は艦娘を逃げさせ自分は残った。」
真人の発言に提督達は大きな笑い声をあげた。秘書艦達は涙をこらえていた。
「何でそこで逃がす?艦娘はあいつらと戦ってこそ意味があるのに逃がしたら誰が横須賀を守るって言うんだい?」
「っ...だがお前らも艦娘を戦わして後ろの町や都市を守れたのか?守れてないだろこの臆病者がぁ!!!!」
もし本当に守れてないなら今の日本は深海棲艦に奪われてないはずだ。だが今は深海棲艦に奪われている様な状況。守れなかったに等しい。
「っ...調子に乗りやがって誰が臆病者だ...殺されたいのか貴様は?」
第9地下町の提督がポケットからカスタムナイフを取り出し真人に突きつけた。
「本当の事だろうが!自分の身を守りたいが為に艦娘を酷使し、やがては盾にして生き残ってここで今のうのうと住んでいるお前らに提督をやる資格はねぇよ!!!!!」
「なっ!?」
「ましてや人や艦娘からも信用されていないくせに何が調子に乗りやがってだ!!お前らこそお調子者だろうがぁ!!!」
真人は分かっていた。全ての地下町が平等でないことを。外の道で全てをなくし泣いていた人を、家を奪われ大事な家を失くした家族の姿を、一つの食べ物で争う人々を、そして解体され私欲の為に襲われている艦娘を。真人はこの町の、いやもの都市の本当の真実を知っていたのだ。助けたくても助けられない自分が憎らしく思った。
「貴様...」
「権力と言う目先の欲に惑わされろくに痛みも知らず、戦いの怖さも知らないお前らにそんなことを言われる筋合いはねぇんだよ!!!!!!」
「ぐっ....!」
真人の言葉に提督達は聞くことしか出来なかった。ナイフを突き立てた提督は刺そうとするも気圧されてナイフを引っ込もうとしたが、真人は見逃さなかった。
「おい、横須賀鎮守府第一提督さんよ。殺したかったんじゃないのか?」
「っ....!」
「殺してみろよ。」
「!?」
第9地下町の提督は真人の言葉に驚きを隠せなかった。次第に手が震え、どうやって殺すのかも忘れてしまった。
「ナイフ持ってんだからどれくらいの痛みぐらいか分かってんだろうなぁ?」
真人は提督に近づき殺されやすい位置まで来た。ナイフを持つ手が震えているのを知り、ため息を吐いてナイフを持つ手を掴んだ。
「貴様何を!?」
「っ....!!」
そして真人は自分の右腕を切ってみせた。血が吹き出して壁に粘着音の様な音をしながら擦りつけ、切った傷から血が流れ出た。手を持っていかれ切る場面を間近で見ていた提督は尻餅をついた。
「こんな事で腰を抜かすんじゃねーよ、お前らがやってたことじゃねぇのか。」
よく見ると各提督の秘書艦達には切り傷があった。
周りは真人の思いがけない行動に圧倒された。自分から傷つくことなど前代未聞の行動だった。
真人は切った傷を左手で抑えながら訴えた。
「俺はお前らより味わった痛みより何十倍もの痛みを知っている...。」
痛み。深海棲艦に暴行されたからこそ知っている痛みだった。
「理性をもってこそ人だ。だがお前らにはその理性がない、ただの人間の皮を被った悪魔だ...。」
「それに比べ艦娘はちゃんとした心構え、品性、理性、知識全てを持っている
提督達は顔を下に向け歯を食いしばった。
「まずは自分を見直せ屑野郎....。」
真人は皐月を連れて全てを言い残して会議室を後にした。
「ちょっ!?司令官!何であんなことなんかしたのさ!!」
皐月が自分の服からちぎった服の一部を真人の傷痕を覆い、応急処置させた。幸い、傷は浅く血もすぐに止まった。
「いや久々にキレたから見せてやろうと思った。それほど痛くないし。」
深海棲艦からの数々の暴行により全ての痛みが慣れていた。
「痛くないからってやっていい事と悪い事があるでしょ!?」
皐月がつい力強く傷痕を覆った布を結ぶ。
「痛い!分かったから!もうやらないから!!」
流石に反省して強く結ばれるのをやめて!とお願いする真人。皐月も少し遅れて気づき結ぶのをやめた。
「..ごめん司令官。」
「謝ることじゃねぇよ。」
真人は皐月の頭を撫でて笑顔を見せた。
「..ねぇあんなこと言ってよかったの?」
皐月が心配そうに真人をみて話しかけた。
「むしろあれぐらい言わないと無理。大丈夫だ気にすんな。」
「...そう。」
「皐月、後であいつらにも言っとけ。」
真人が皐月に伝言を任せた。
「俺らは何言われようと前進する。それが間違った事だとしてもだ。」
真人は何かを語るように喋り出す。
「お前らと俺はまだ半人前、だが一緒にいれば一人前だ。」
「そしてこう笑え、俺らは最強だってな。」
真人は伝えたい事を全て喋り終えた後、背伸びをした。
「うん!分かったよ司令官!」
「よしそれでこそ我が秘書艦。今すぐ帰るぞ。」
「うん!」
真人と皐月は自分の町である第10地下町に戻った。
次回は「馬鹿と気狂いは真実を言う。」です。