「助けて......」
――◇――
――執務室。
「........」
「司令官、どうしたの?」
ぼーっと上を見ている真人を皐月が声をかけた。
「...いや、なんでもない。」
何故か今日の真人はいつもと違うような気がした。何か威勢がないというか、はっきりしていないというかそんな感じに見えた。よく見ると目の下にくまが出来ている。
「司令官、あまり無理しちゃだめだよ?」
「あ...うん分かってる。ありがとな。」
笑顔で返すも皐月には精一杯出しているように思えた。
「提督ー、なんか新しい艦娘が来たぞー。」
ドアを開けながら緩い口調で真人に伝える摩耶。驚きながらも冷静に対応したらしい。
「は?うちにそれだけの資材はあるはずないだろ?」
提督になったとは言えまだ数日しか経っていないこの第10地下町の資材は少なかった。さらに言えば昨日戦ったばかりな為に資材は下から数えた方が早いくらいなかった。聞けば重巡洋艦らしいのだが。
「いやまぁ別の理由があってここに来たらしいんだってさ。一度会うくらいはいいだろ?」
「...はぁ、まぁいいだろう。ここに連れて来い。」
「よっしゃ、連れてくる!」
摩耶は右腕を上げ、そのまま走っていった。すると数秒後に車のブレーキ音に似たような音がドアの向こうに聞こえた。
「連れて来たぜ提督!!」
ドアを打ち破り息切れをしながら連れてきた。あまりの速さに驚く。
「...早いな。」
「ったり..めぇ...だろ?」
「分かった分かった、落ち着け摩耶。」
「あ、あのー...」
ドアの向こうから誰かが可愛らしい声を出しながら恐る恐るこちらを見ていた。摩耶と似た服装をし、眼鏡をかけているその艦娘は――、
「鳥海、入っていいぞー!」
ドアが開いたその先には高雄型四番艦であり摩耶の妹である鳥海が少し怯えながら入ってきた。なるほど、摩耶はよろこんで迎えるのも理由が分かる。
「高雄型四番艦鳥海です...よろしく...お願いします。」
「おう、よろしく。」
「は、はい...。」
鳥海は深々とお辞儀して真人の目を見た。
「ところで少し聞きたい事があるんだけど。」
「...何でしょうか?」
「どうやってうちに来たんだ?」
真人は何故ここに来たのか謎に思っていた。考えるケースとしては誰かが勝手に建造した、またはどこからかの艦娘か。
「実は....」
――二時間前。
「貴様どういうことなのか分かって言っているのか!?」
「分かっているからこんなことをしたんじゃないですか!!」
第9地下町の仮鎮守府の執務室であの提督と鳥海が言い争っていた。鳥海はあの会議の惨状を間近で見た時に第10地下町の提督の艦娘になろうとしていた。
「私は断じて認めないぞ!!こんなの撤回だ!!」
第9地下町の提督は鳥海が提出した異動届を紙を無茶苦茶に破ったような音をさせてばらまいた。
「ですが...もう大本営には提出したので問題ないです今まで有難うございました。」
「おいちょっと待て!」
提督はまたナイフを出して鳥海を脅した。
「言うことを聞かなければ今すぐ刺すぞ!」
「...どうぞご自由に。」
「っ...おりゃああああ!!!!」
ナイフを両手で持ち鳥海に刺そうとするも裏拳ではじかれ天井に突き刺さった。提督はその場で尻餅をついた。
「...所詮こんなものですか。」
鳥海はゴミを見るような目で提督を見捨て、
「ここに来た、と。」
「はい。」
鳥海はここに来るまでの経緯を全て話した。
「他の子達を置いてっていいのか?」
「大丈夫です。皆さんあの提督の味方ですから。」
「...じゃあ手続きは?」
「全て私がやりました、問題はありません。」
「そ、そうか。」
そう言って真人は椅子から立ち上がり鳥海の前に立ち、右手を出して握手を求めた。
「んじゃ改めてよろしくな。」
鳥海も右手を出して真人の右手を握り艦隊の仲間として迎えた。その時に、
「マト!一体どういうことですか!!説明してください!!」
不知火がドアを強く叩いて執務室の中に入った。何やら面倒くさい事が起きたらしい。
「仮鎮守府の目の前に大勢の人が騒動を起こしているんです!!マト、一体何をしたんですか!?」
「はぁ?何をしたって言われても知らないぞそんな事!!第一、何で俺なんだ?」
「騒動の中からあなたの名前がいちいち出てくるんです!!外を見てください!!」
真人は不知火に言われるがままに窓から外を覗いた。するとそこには大勢の人が騒いでいた。その中からは「提督やめろー!」「殺してやる!」「このセクハラクズめ!!」「死んでしまえ!!」などと罵声を浴びせた。
「司令官...これ...」
皐月が真人を呼び、後ろに向かせた。するとそこにはテレビで「第10地下町の提督、艦娘にセクハラか!?」と大きな見出しを出して報道していた。アナウンサーが「鳥海が襲われた」と言っている。
「何だよ...これ...俺はこんなことやってねぇぞ...」
ましてやさっき会ったばかりだと言うのに。デマを流されたのだ。
「どういうことだ鳥海!?」
真人が慌てて鳥海に問いただす。鳥海が襲われたと言うデマが流されたのなら流したのはあの男しかしないはずだ。
「え...?いや違います!!私はあそこが嫌だから抜け出してここに来たんですよ!!?」
場合によればスパイと言う可能性もあった。
「それに私は提督にそんなことされていません!!」
「じゃあこれは一体....」
不知火達が戸惑う中、天井からぬるりと川内が顔を出した。
「嘘になるね。私ずっと見張ってだけどそんなこと一度もしてないし見てもない。」
「何で見張ってるんだ川内。」
「それは言えないね提督でも。」
真人と川内がにらみ合う中、執務室に見覚えのある人達が来た。
「真人くん、君がやったって言うのは本当なのかい?」
以前警視庁で助けた八人の人達だった。
「いえ違います。私はそんなことはやっておりません。」
「じゃ、じゃあそこの鳥海?だったかな...君はどうなんだい?」
「私はここに来たばかりの艦娘です。やられてなんかいません信じてください!」
鳥海が真人を庇うように訴えた。
「......」
八人は円を作って話し合った。何かぼそぼそと聞こえる。ようやく結論が出たのか一斉に真人達は見た。
「.....私達はあなたを信じます。」
「...!」
驚きの答えだった。外で大勢の人が騒動を起こしていると言うのに信じてくれた。てっきりあそこの仲間になるのかと思っていたのだが。
「少し不安はありますけどあなたがそんな汚い人だとは思わない。」
「それに私たちを救ってくれたあなたがこんなことするわけないと思いますしね。」
真人は初めて鳥肌がたったような気がした。俺を信じてくれる、とても嬉しかった。
「私たちにできる事があるなら言ってください!」
「そうだね、無実を証明しなければならない。」
八人はどうすればこの騒動が終わるかを意見を出し合っている。その中で真人が一つ案を出した。
「お前ら、口論は強いか?」
「口論?私は元副総監だ。いざとなったら出来るさ。」
「ならいい。長い間ではあるがあの外の奴らを抑えてくれねぇか?」
「抑える?」
皆何を言っているのか分からなかった。普通は外の群衆の騒動を鎮めるのが主な事だが抑えると言う言葉を聞いて困惑した。
「あぁ、抑えるんだ。お前らはあそこの前で口論してキープしていてくれ。俺を庇うなり暴言をいうなり色々してくれ、ただし暴行と殺人は許さんからな。馬鹿にされたって構わず言え、反論しろ。」
「でも真人くん君は?」
真人が案を出した以上、彼にもすることがあるはずだ。このまま言い逃れするわけがない。
「俺は別の通路から地上に出て艦隊を引き連れ、人を救助する。」
「それをして何かメリットがあるのかい?」
「ないなら言ってないさ。」
周りにいた不知火達は真人が言った案の本当の狙いを察し、賛成した。
「提督!私はやってもいいぜ!」
「司令官ならできるさ!」
「はぁ...まぁいいでしょう...」
「よし!そろそろ終わったらしいし行くぞ!」
真人は負傷した金剛の修復が終了した時間を見て執務室を出ようとする。それに合わせて不知火達が後ろをついていった。
そしてすれ違いざまに真人はこう言う。
「任せた。」
そして真人達は執務室を出ていった。それを聞いた八人は真人に聞こえなくても返事した
「...はい。」
「今回はどこだ、提督!」
摩耶が今日の行き先はどこかと尋ねる。
「昨日の警視庁近くにある元総務省だ。半壊してる上に自分達で監獄に仕上げている。」
元々警視庁の留置場にいた真人は時々元総務省の監獄に移動させられたらしい。移動の理由は主に南方棲鬼だが。
「そこに捕まっている人達を救助するんだ。後出来れば拠点の制圧も頼む。」
「「「了解!」」」
「でも提督さ、あの人達を無視していいの?」
古鷹が気になった事を率直に聞いた。
「何言ってんだ古鷹、俺らは何言われようとも前進するって言ったろ。まぁ少し協力してもらってるがな。」
「あぁそういえば...そうだね。」
古鷹はあの言葉を思い出して納得した。
「あの私まで来て大丈夫なんですか?」
「問題ナッシング。まぁそのうちなくなるから安心しろ。」
「はぁ....。」
鳥海が不安げに質問するが真人の言葉で相殺された。
「お前が何考えてるかわからないけど私を急に出撃させるってどうなのデスカ?」
「すまん金剛!もうちょっとだけ協力してくれ!」
元々真人の頼み事など聞くはずもないが横にいる不知火が両手を合わせ「お願い!」と頼んでいた。金剛はため息を吐いて聞くしかなかった。
「仕方ないネ...」
「ありがとな!!」
――第9地下町仮鎮守府前。
相変わらず仮鎮守府前には群衆が罵声や非難の声をあげていた。中にはニュース番組のカメラまで来ていた。
「行こうか。」
ある一人が七人を連れて仮鎮守府の扉を出た。外に出るととんでもない人間の数とシャッターの光と音に圧倒された。だがそんなことで驚く私たちではない。歩く度に機関銃のように投げ出される質問とマイク、そして非難の声が殺到した。そして、
「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!!!!!」
一番前に出た人が誰よりも大きな声で周囲を黙らせた。あまりの声量に群衆は一瞬凍りつく。
「私は
「今日は第9地下町の提督の件について話がある!」
加藤正文と言う男性は群衆に訴えかけるように大声で喋った。警視庁の副総監と聞いて周りからは安堵の声が聞こえた。
「ここの提督は何もしていない!!あの情報は全て嘘だ!!」
本当の真実を伝えた。流石に役職が大きいのか周りには戸惑う人も少なからずいた。だが、
「んなわけねぇだろうが!!!」「さっさとそのクソ提督出せよ!!」
一部の人達は激情に駆られ飲み捨ての缶やそこらへんにあるゴミを投げつけた。
「ですが実際は...」
「うるっせぇな黙ってろよ何もんだてめぇはぁ!!」
「わ、私は
「別に名前は聞いてねぇよ!!」
「ひぃ...」
坂本恭介と言う男性は周りに気圧されて怯えている。
「大体あなたたちは一体なんなのよ!いきなり出てくれば嘘か本当かも分からない事言って。」
「そうだ!あの提督がいなきゃ納得がいかない!今すぐ呼んでくれ!」
群衆の中から提督を出すように要求した。だが今は提督はいない。呼びたくても呼べない状況だった。
「今は....いない...。」
正文が事実を言った途端に群衆がざわめいた。いない?んじゃあ逃げた?と困惑の声が広がる。
「もしかしてお前ら騙されてんじゃねーの?」
どこにでもいるようなチンピラが正文に話しかけてきた。
「何!?」
「だって提督がいないんだよ?何か言われて庇ってるんだろうけど今ここで出てこない以上、逃げ出したようなものであって騙されてんだよ。たとえそうじゃないとしてもそう思うしかないじゃん?」
一応チンピラの言葉には筋が通っていた。実際早く片付けるには本人の説明が一番だった。だが彼はどこかへ行って騒動を私たちに任せた。本当にこれでよかったんだろうか?信じてよかったんだろうか?正文の頭の中で数々の疑問と不安がぐるぐると交差していく。
「あの人はそんなことしません...。」
女性の声が静かな空間に漏れた。
「えっ?なにそれ庇ったつもり?てかお前なんなの?」
チンピラが煽るように女性に話しかけた。
「私は
「別に悪いとは言ってないけどなんでかなーって?馬鹿かなーって?」
チンピラは首をかしげて不気味な笑顔を見せた。
「あなたみたいな馬鹿にも分かるように馬鹿になって庇ってるんです。これでも分からないんですか?」
「あ?生意気だなてめぇ。」
恵奈に近寄ろうとするチンピラ。指の関節を鳴らし準備体操の様に手をぶらぶらと動かす。
とうとう目の前に近づきこう言った。
「お前、殺すぞ?」
そう脅した時に後ろから一つの気楽な声が聞こえた。群衆が後ろを向くとそこには真人達がいた。
「!?!??!?!」
皆一同驚いた。犯人らしき人物が一番後ろに艦娘の艦隊と見知らぬ人を引き連れて堂々と立っていた。
「ごめんちょっと通してくれるかな?」
真人の言われるがままに群衆は仮鎮守府までの道を開けた。真人はその道を通りチンピラのとこまで近づいた。
「お前がクソエロ提督か、今更何をしに来たんだ?」
チンピラが悪口を言って真人に問ただした。真人は微動だにしない。
「地上に行って捕まった人達を救助した。」
「へぇ後ろにいるのがその人達か。」
チンピラは真人の後ろを見て救助された人達を確認した。ざっと15人はいるだろう。
「お前、さっき殺すとか言ってたな?」
真人はチンピラが恵奈に脅していた場面を見ていた。
「あぁそうだよ。生意気だから殺そうかなって。」
「そうか、んじゃお前らは何故騒動を起こしておきながら仮鎮守府に乗り込んで俺を殺さないんだ?さっきまで死ねとか言わなかったっけか?」
「...!」
確かに群衆の中からは死ねや殺すぞなどと脅迫の声があった。
「さらには来るまでずっと罵声を浴びせて待機、臆病にもほどがある。そして来てあげた途端に何が殺すぞ?だ。そんな騒動起こして何かが変わると思ったら大間違いだぞ?」
真人に図星を言い当てられ手も足も出せなくなった群衆は黙り込んでしまう。
「んまぁいいよ、信じられないなら信じないで気が済むまで騒いでな。俺らは救助した人々の手続きで精一杯なんだ。」
真人は正文に近づき「ナイス!」と小声で褒め、群衆をかき分けてどこかへ行ってしまった。途中、騒動に混ざっていた女性が鳥海に話しかけた。
「鳥海さんは...大丈夫なの...?」
「はい、提督はなんもやっていませんし大丈夫ですよ。」
鳥海は女性に笑顔を見せ真人の方へ行った。群衆は真人の姿を見て頭を悩ました。地上に行って人を救っているやつがあんなことするのか?しかもあいつ自分から殺されに来たぞ狂ってんの?そんな会話が幾度なく聞こえた。
正文達は真人の姿を見て案の本当の狙いを知った。今まで汚らわしい奴が突然人を救う様な行為をしたら周りの人達はどうなるか、結果は戸惑いだ。実際、騒動に混ざっている人達は困惑していた。それで徐々に人の為になる事をして信頼を勝ち取ろうしている。もし直接説明したならば簡単に信じてはくれないだろう。
でもそれで必ず信じてくれるとは言えない、この先に必ず何かがあるはずだ。なら私たちは真人くんを支えよう、何があろうと。
――◆――
「怖いよ.....」
次回は「面壁九年」です。
あまり出ないはずだろうそれぞれ八人の設定は次書きたいと思います。それに合わせて世界観、主人公、艦娘、深海棲艦の設定も書きます。
何かあったらご指摘してください。