※この作品はR-18です。

鉱山で働く奴隷の少女の話   作:、みん

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 どこかの世界のどこかの山奥にある鉱山で奴隷として使われる女の子の話。


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 ハルは夢を見ていた。もっと幼い頃、ようやく親や同年代の友人たちと意志疎通ができるようになった頃の恐ろしい体験。そのときの夢だ。自分の運命を決定付け、またその運命を再認識させる悪夢。

 

 恐怖で目を覚ますと、牢の外から入ってくるわずかな光で照らされた天井と壁が見えた。石でできた天井と壁。背中からも硬く冷たい感覚が伝わってくる。もう夢は見ていない。少し安心してハルは横で寝ている友人のミナを見た。薄暗いのでその姿ははっきりとは見えないが、その顔は疲れ果てて苦しんでいるように見える。ミナも悪夢を見ていると思い、友人を目覚めさせようとしたハルだが、直後にその必要はなくなった。衛兵が眠っている奴隷たちを叩き起こそうと大声を上げながら、近づいて来たからだ。ミナは飛び起きた。

 

 外の通路に新しい灯りが灯され牢の中が少し明るくなった。ミナは肩にかかる髪を後ろに束ねているが、その髪はまるで枯れかけた雑草の根のように萎びている。髪を束ねたところで何が変わる訳でもない。労働が軽くなることも、奴隷身分から解放されることもない。しかしこれは、理不尽にも危険で過酷な重労働に朝から晩まで従事することを強要され、休日も与えられず、衣服を身に付けることも許されない鉱山奴隷にとっては、数少ない自由なのだ。

 しかし、ハルは自身の短い髪、短くなった髪を弄ることしかできない。先日、些細なこと――衛兵とすれ違ったときに奴隷の汚れた髪の毛が触れた――で罰を受け、背中まで伸びていた髪を首の辺りまで切り落とされ、その上これからは髪を伸ばすことを禁止されてしまったのだ。

 ハルはミナが髪を束ねるのを、自分の髪の伸び具合を確かめながら見ていたが、やがてミナは髪を束ね終えた。

「どうしたの?」ミナはハルの視線に気がついた。

「ミナは長い髪が似合うなって思って」

「ハルは短くても似合ってるよ」ミナはハルに歩み寄った。重い足枷を引きずっている。奴隷が唯一着用するものだ。

「髪はまた伸ばせばいい」

「伸ばすなって言われた」

「衛兵がそんなこといちいち覚えてる訳ない」

「だといいんだけど」

たとえそうだとしても、髪が元の長さまで伸びるには長い時間がかかる。その間にも働き続けることになると考えると、ハルは今更ながらこれからの生活を悔やんだ。

 

 まだハルは起きたままの姿勢で座っている。もうじき衛兵が牢の扉を解錠しに来る頃だろう。奴隷は直ぐに扉を開けて鉱山へ駆け出して行かなければならない。奴隷労働は強要されたものではなく、自ら進んで喜んでやっていることだと行動で表さなければならない。

「すごく疲れてる」ミナは目の高さをハルに合わせた。「どうしたの? よく眠れなかったの?」

「夢を見たの」

「またあの夢? ハルがここに来る前に住んでた、」「ここに来ることになった日の夢」

 ハルはミナが言うのを止めるように言った。その様子はミナにも伝わった。

「ごめん。思い出させちゃって」

「あなたのせいじゃない。私が勝手に夢を見てるだけ」

二人はしばらく無言のまま身を寄せあっていた。

 

 

 

 聞き慣れた衛兵の足音が近づいて来るのに気づいて、二人は立ち上がった。足枷が足の甲に食い込み、ハルはすぐに歩き出すことができない。しかしぐずぐずしている暇は無かった。扉が解錠された。駆け出さなければならない。まず、ミナが扉を開けて牢から飛び出し「おはようございます!」と衛兵に向かって大きな声で言った。そのミナの後を追って、ハルも同じように牢から飛び出した。

 奴隷の朝は早い。起床すると先ず働く。朝食はその後だが、朝食を抜かれることも珍しくない。それはまだいい方で、三食すべて抜かれることもある。与えられるのは家畜の飼料だったりジャガイモの皮だったりするが、それでも奴隷にとっては貴重な食料であり、数少ない楽しみでもあった。

 ハルとミナはというと、他の友人たちと共に早速ツルハシを振るい採鉱に励んでいた。今日の労働は始まったばかり。坑道内は全裸の少女にとっては寒いくらいなのだが、その身体は火照り、汗、垢、粉塵でどろどろになっている。近くには二人と同じように働く奴隷がいるが、みんなハルやミナと同年代かそれより幼い少女ばかりだ。中には昨日今日に連れて来られたような、なぜこんな目に遇わなければならないのか分からないといった雰囲気の幼い少女もいた。ここでは衛兵の命令は絶対であり、どんな無理難題であっても拒否することはできない。また労働中の奴隷同士の私語についても一切禁止である。しかし衛兵の目を盗んで会話する者がほとんどで、それはハルとミナのすぐ横でも行われていた。話しているのは二人とは別の牢に収監されているチユとナオだ。

「ねえチユ」

「どうしたのナオ」

「さっきから作業が進んでない。あなたの顔色もよくないし」

二人ともツルハシを振るい、息を切らしながら話している。しかし、チユはそれ以上に息苦しいようだ。

「大丈夫、平気。少し疲れてるだけ。いつものことだから」

 チユは他の三人に比べて幼い少し病弱な少女で、しばしば熱を出す等の体調不良を起こしていた。

「いつも以上だから言ってるの」そう言うと、ナオは自分の持っていたツルハシを捨てて両手のひらでチユの頬を掴むと、自分の額とチユの額と合わせた。

「やっぱり熱がある。休んだ方がいい」

もちろん、休むことなど許されない。奴隷に休日は与えられず、それは病人だろうと例外ではない。

「チユの分まで働くから、衛兵が来たときだけ働いてるように見せれば、」

「無理よ」ミナが言った。「不振な動きは衛兵に直ぐ見つかる。みんな罰を受けることになる」

「じゃあこのまま働き続けろって言うの?」ナオは反論したが、そうしなければならないことは彼女も分かっているだろう。

 そのときだった。近くで砂利を踏み鳴らす音が聞こえてきた。裸足とは明らかに異なる音だ。

「衛兵よ。ナオ、早く作業に戻って」ミナが言ったとき、はすでにナオはツルハシを構え直していた。

 衛兵はその直後にハルたちを含む何人かの奴隷を視界に捕らえた。一見するとどの奴隷も真面目によく働いている。実に結構なことだ。しかしそれではつまらない。無抵抗で無防備な奴隷少女の汚れた身体を見ていると、鞭を入れたくなってくる。理由としてはそれだけでも十分だが、やはり何か口実がある方がいいだろう。衛兵はそう思い、一心不乱に働く奴隷たち一人一人に目を凝らした。そして、チユが近くの奴隷たちに比べて作業が進んでいないことに気がついた。かごに入っている土砂の量が少ない。衛兵はチユの背中に勢いよく鞭を降り下ろした。

「・・・っ! ああっ!」

チユは痛さのあまり、ツルハシを落としてしまった。それは衛兵にとって好都合なことだ。

「なにやってんだ! これくらいで手を滑らせやがって! そんなことじゃあいつまで経っても仕事が終わらないぞ!」衛兵はさらに数回、チユの背中に鞭を入れた。「分かったら早くツルハシを拾え!」

チユは痛みに耐えるように震える手でツルハシを拾おうとした。

「返事は!?」衛兵はもう一回鞭を振るった。

「はい!」今度はツルハシを落とさず、チユは作業に戻った。罵倒され鞭で打たれるチユのすぐ横にいたハルは、チユのことは無視して自分の仕事に没頭するように努めていた。大人しくしていれば結果としてより早くチユを衛兵の鞭から解放することになるのだ。そう頭では分かっているのだが、友人を見捨てていることに違いはなかった。

 衛兵が去り足音も聞こえなくなったとき、チユは全身の力が抜けるように倒れた。

「チユ!」ナオが叫んだが、先にチユを抱き起こしたのはハルだった。ハルの胸の上にチユの身体が力無く覆い被さる。

「熱い。こんな状態で働いてたの?」

ミナも近くに衛兵がいないことを確認すると、ツルハシを置いてチユの元に近づいた。

「大丈夫? 立てる?」ミナはチユを立たせようとするが、ハルとナオが止めに入った。

「だめ! チユを休ませないと、」

「そんなの無理に決まってるでしょ。苦しくても鞭に打たれないだけ働く方がずっといい」

酷なことだがそれは事実だった。ハルも今のチユと同じような状態になったことは何度もあったが、やはり働き続けなければならなかった。そうして奴隷になってから一日も休まず働いてきたのだ。

 ハルとミナが何もできず、やがて一度に四人が働いていない状況に不安を覚えた周囲の奴隷たちが作業に戻るよう促し始めた。

「ごめん、みんな」荒い息にかすれながらもどこか強さを感じさせる声でチユは言った。「ミナの言う通り。私のせいでみんなまで痛い思いすることない」

そう言うとチユはふらふらになりながらも、ツルハシを掴んで立ち上がった。

「私は大丈夫だから。仕事に戻らないと」

チユはツルハシを振るい始めた。ミナは何も言わず、ナオも「無理しないでね」と言って作業に戻った。ハルはツルハシに手をかけたまま立ちすくんでいたが、最後にはミナに促されていつもの労働に戻るしかなかった。

 

 その後も何度か衛兵が見回りに来たが、特にいつもより激しく鞭を入れられることはなかった。

 

 朝食の時間になった。奴隷たちにとっては幸いなことに、今日は朝食を抜かれることはなかった。とはいえ、喜び勇んで食べ物に駈けて行く訳にはいかない。本来なら殺されているところを、生きる機会を与えられている奴隷がその上何かを欲しがるなどもっての他。その場で食べ物が配られるのを待たなければならない。もしも衛兵が配り忘れたらそれまでである。さて、ハルたちが働く坑道に数人の衛兵が入って来た。一人はかご一杯のジャガイモを持ち、一人は水の入った革袋を持っている。

「食事だ! 並べ!」

先頭を歩く衛兵が言った。命令なので奴隷たちは従わねばならない。ハルは友人たちと共に決められた位地に立ち、跪いて手の平を上に向けて両手を前に出した。衛兵たちはその手の上にジャガイモを一個置き、革袋の水をハルの口に一口流し込んだ。泥混じりの水だ。次にハルは小さなジャガイモを貪った。

「食べたらさっさと働け!」

休んでいる暇はない。食べ終わった奴隷から順に作業に戻っていく。ハルも立ち上がって衛兵から逃げるように立ち去ろうとしたときだった。

「誰が休んでいいって言った!? 働け!」

振り返って見ると、うつ伏せで倒れている奴隷に衛兵が罵声を浴びせていた。倒れているのはチユだった。

「立たないか! この役立たずが!」

衛兵はチユに鞭を打ち始めた。ハルがチユを助けようとしたとき、

「やめてください!」先にナオが飛び出して言った。「この子病気なんです。お願いです。少し休ませてください!」

ナオはチユを抱きかかえながら衛兵に懇願している。もちろん衛兵が許すはずがない。

「お前も人のことを心配する暇があったら働け!」衛兵はナオを蹴り飛ばした。ハルはいても立ってもいられず、止めるミナを無視してナオに続いてチユを助けに行った。

「その子の分まで私が働きます!」ハルが言ったが、衛兵は見下すように返した。

「これだから奴隷のガキは。お前が二人分働いて、こいつも働けば二人で三人分働いたことになるだろうが」

衛兵が奴隷の要求を飲むなどあり得ないことをだった。それでもハルは一歩も引こうとしない。ナオも同じだ。反抗的な奴隷を黙らせるために、衛兵は暴力的な手段を行使することもできたのだが、

「よおし、ではこれでどうだ。これ以上反抗する気なら、お前たち二人は懲罰房送りにしてその病人は三人分働くか、大人しく真面目に働くか」

「そんな」

「罰を受けるか受けないか選ばせてやるんだ。まだ何か要求する気ならそれでも構わんが」

 ハルはそれでもなんとかしようとしたが、後ろから肩を叩かれて振り返った。ミナだった。

「罰を受けずに済むならその方がいいよ」ミナは慰めるように言った。それから身体を支えてチユを立たせる。「分かりました。言われた通り真面目に働きます」ミナはチユを支えて自分の持ち場へ戻って行った。

「奴隷にも物分かりのいいやつがいたもんだ。お前たちも見習うようにしろよ」

言い残して衛兵は去って行った。

「これでいい。本当ならチユ一人が懲罰房に送られるところだから」ナオはそう言い、ハルを連れて持ち場に戻って行った。

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