〔検閲済み〕日
ヒトツメより総長宛て
〔検閲済み〕の〔検閲済み〕提督、乱心して執務室にて軍刀を用いて自決。
残された艦娘は主力部隊は大本営へと身柄引き渡し、それ以外は此方で保護観察後に調整を行う。
ヒトツメは既に全工作を完了し撤収済み、すぐに指定の持ち場へと異動を開始。
次は〔検閲済み〕へと向かい、指示通りに行動する。
夜、寮に案内された天龍は私物の整理をしていた。
ケースの中には報告書をまとめる為のノートPC、使い古された赤いノート、
そして護身用の拳銃と刀を模した艤装と、こっそり持ち込んだ
龍田がシャワーを浴びているので、手持ち無沙汰な天龍は窓の枠に座り込んで煙草に火を点ける。
龍田はこの煙草を嫌っており、目の前で吸うと怒り出すので
彼女がシャワーを浴びている時間が天龍の喫煙タイムとなっていた。
煙草を吸うとイライラや不安が
外に向かって煙を吐くと、風がそれを攫う様に吹き荒んだ。
暫く呆けていると、頬を抓られる感触で我に返る。
「もう、また煙草吸ってる~」
バスタオルを纏っただけの龍田だった。顔は笑っているが、目が笑っていない。
「お前が居ない時ぐらい吸ってもいいだろうが、
匂いも余り残らないようにこうして窓枠で吸ってるんだしよ」
「そうね~、でも私がもう出て来たからやめましょうね~」
「チッ、わかってるよ」
天龍は苦々しげに携帯灰皿に煙草を押し付けて、ケースに投げつける。
自分もシャワーを浴びようと脱衣するが、眼帯だけは脱衣所で外す。
ふと鏡に映った自分の姿が、右の瞳に飛び込んでくる。
左目には目がなく、瞼は閉じられたままの、美しいとはとても言えない顔だった。
今の自分にはお似合いの姿だろう、鏡を見ると自虐的な思考に陥ることがよくある。
そんな考えを洗い流すように入念に頭と体を洗う。
若干筋肉の付いた肉感のあるナイスバディな腹部には大きな傷跡があった。
何か鋭利な刃物で付けられたような傷で、縫った跡が大きく残っていた。
翌日、天龍と龍田はそれぞれが別々の艦隊を率いる旗艦として出撃することになる。
鎮守府近海での残党掃討で経験を積んで練度を向上させるというものだった。
僚艦に付けられるのは自分達と同じぐらいに練度の低い駆逐艦のみだった。
何度も同じ海域を繰り返し出撃する重ローテーションで、
僚艦に疲労が見えても提督は止める素振りは見せなかった。
もはや数えるのも億劫になった頃、龍田の僚艦の一人が船を漕いでいる姿が見える。
「ねぇ、大丈夫~?」
「ごめんなさい、大丈夫です!」
口ではそう言っていても、そろそろこの僚艦は限界が見えていた。
疲労だけではなく、ダメージも蓄積しておりギリギリ大破判定を受けないようなものだった。
このまま出撃を繰り返していては、轟沈してしまう可能性が高い。
龍田は無線で連絡を取ることにした。
「吹雪ちゃん、このまま出撃を繰り返すと轟沈しちゃうわよ~」
「了解しました、それでは艦隊帰投して下さい」
「ですって~、これで修理も出来るわね~」
僚艦は申し訳なさそうな顔をして礼を述べ、轟沈は免れたと胸を撫で下ろす。
しかし、鎮守府へ帰投した時に彼女は工廠の方へと呼び出され、二度と姿を見せなかった。
この事を龍田は寮へ戻ってから天龍に報告する。
「やっぱりか、こっちも僚艦をローテーションをして何度も出撃を繰り返していたな」
「そうなのね~、あの娘達は何処へ行ったのかしらね~」
天龍と龍田の脳裏にある噂話が過る。所謂バイト艦というものだった。
艦隊の戦力としては数えない、使い捨ての艦娘のことがそう呼ばれているらしい。
戦闘をしても補給も修理もしないで、最後には解体をするか近代化改修の材料とされてしまう。
効率的な運用をする鎮守府ではよくある光景だった。
ベッドに座り込んでいる天龍の隣に龍田は座り込み、天龍の肩に体を預ける。
「私達もその内に使い捨てられるのかしらね~」
「何だ龍田、怖いのか?」
天龍は自分の肩にもたれている龍田の頭に、自分の頭を重ねる。
「そうね~、私は兎も角として天龍ちゃんが解体されないか心配ね~」
「うるせぇ、俺は強いからそんな事にはならねぇよ」
天龍の言葉には強がりではなく、自信に満ち溢れたものがあった。
それを聞いた龍田は安心したのか、いつもの作り笑いではなく微笑みを見せる。
二人だけの時にしか見せない、天龍だけが知っている龍田の本当の笑顔だ。
暫くして、二人の練度が第一艦隊と同じぐらいまでに到達した時、
いよいよ南西諸島への進軍を阻む、深海棲艦の防衛線を突破する作戦が発令された。
此処で天龍と龍田は初めてこの鎮守府の主力艦隊と顔を合わせる。
「よう、お前達が新しく来たっていう軽巡か。俺の名は木曾だ」
「天龍様だ、お前がこの鎮守府で唯一の巡洋艦か」
「龍田だよ~、後は吹雪ちゃんと綾波ちゃんに朝潮ちゃんね~」
「ああ、三隻とも今までこの鎮守府を支えた主力だ。特に吹雪はこの鎮守府の初期艦だしな」
「ふ~ん、初期艦が秘書艦やってるのって珍しいね~」
「この鎮守府は入れ替わりが激しいからな」
そう言って木曾は俯く。主力と見なされなければこの鎮守府では生き残れないと物語っていた。
初期艦の吹雪が秘書艦を続けられるのも、引継ぎ等が出来る状態ではないからだろう。
「悪い、作戦前にする話でもなかったな」
「気にすんなよ、俺と龍田なら問題ねぇ。
天龍の不遜とも取れる物言いに遠くで話しを聞いていた吹雪と綾波が目を見開いた。
目の前の木曾ですらあっけに取られている。
「ハッ、そいつは頼もしいな。期待してるぜ」
「おう、任しとけ」
対して天龍も龍田も、そんなことは気にも留めていない。
ただの大言壮語ではなく、強い自信と自負から来る言葉だったからだ。
古参としての自負のある四隻は、新参の二隻に舐められない様に奮起する。
新興鎮守府の反撃が、始まろうとしていた。