エロは次回です。
間桐慎二は眠っていた。その場所は自室ではなく、異常な場所であった。
枕にしている毛の短い大型犬。慎二の身体に寄る猫。寝返りをすれば潰れそうな位置には子猫や子犬がちらほら存在し、それらを守る様に蛇が陣取っている。大型犬の頭の上には鳥が止まっている。
まるでそれが当然の様に自然の摂理に逆らっていた。けれどこの部屋に置いてはソレが自然であるとも言えた。
始まりは慎二が
幼少からそれなりに――魔術要素を省けば優秀であった慎二の我侭はあっさりと通った。通ってしまった。当然、間桐であってもまるで決まり文句のように「世話は自分でする事」を言明されたが、慎二にとってはそれはさしたる問題ではなかった。
犬から始まった慎二の
結果的に創り上げられた間桐慎二による間桐慎二だけを満たす世界。まるで『そう在れ』と世界に決めつけられた一室。
「やっぱりココでしたか」
そんな間桐慎二の世界――桜からは『もふもふ部屋』と名を打たれた部屋の扉は開かれた。部屋の主である慎二の義妹である間桐桜は小さく呟きを溢して、安心したように胸を撫で下ろした。
間桐の魔術を修めてしまった桜はある程度の蟲の支配権を有している。だからこそ、屋敷の蟲達から慎二の姿が無い報せを受けて姿を探していた。キャスターやライダーに聞けば「部屋に篭もる」とだけしか言ってなかったそうで、屋敷を出た様子はなかった。
故に、結果として間桐の屋敷に置いての特異点――『もふもふ部屋』に至る訳である。間桐の魔術が関与しない部屋であり、優しい義姉の理想だけを詰め込んだような穢れもない部屋。
扉を開いた桜は部屋の中に足を踏み入れた。瞬間に動物達が静かに桜を――侵入者を視界に入れる。
唸る事はない。それは主の睡眠を妨害する可能性があるからだ。だからこそ、部屋に存在する従者達はただ黙して桜を視界に入れた。
桜は集まる視線を感じつつ、目を細める。こちらも語らず意思を視線へと乗せる。
――主の睡眠を妨害するのか売女め。
――義姉さんを独占してるなよ畜生共。
要約してしまえばそういった内容の意思が応酬していた。決して動物達が桜の事を知らない訳ではない。むしろ慎二が安らぐ為だけに桜と一緒にこの部屋に来て桜を抱きしめて眠ったこともある。
桜自身も動物達は好きだ。もふもふは心を癒やしてくれるし、毛皮は慎二を愛らしく彩ってくれるし、非常食にもなるし、慎二が犬耳とか猫耳とかを装着すればソレはもう核兵器も真っ青の戦略兵器になることだろう――思考が反れた。
けれど、それらは全て慎二が間に立って成り立つ関係なのだ。故に、慎二を独占している動物達を認可する事は出来ないし、主を自分達から離そうとする桜を許す事など出来ない。
当然、桜が畜生達の意思を十全に受け取れる訳でもないし、動物達が人間如きの意見を十全に叶える訳もない。
もしも桜がこれ以上踏み込むのならば、容易く爪を立て、牙を剥く。
もしも動物がこれ以上独占をするというならば、容易く殺し尽くしてしまうかもしれない。
桜の背後からカチカチと歪な音が溢れ出し、動物達が身を屈め足に力が入る。
「――んぅ……?」
何かの異常を察知したのか、それとも単に寝心地が悪くなってしまったからか、何が原因であったにしろ部屋の絶対的に主である間桐慎二は瞼を緩やかに上げた。
自身が枕にしていた大型犬の背を抱きしめるように撫でて、部屋の中を視線が巡る。ゆっくりと、まるで本を捲る様に。
そして瞳は桜を捉えた。ぼんやりと、まだ脳が正しく働いていないだろう義姉に桜は微笑みを浮かべる。当然、背後に蠢いていた何かは既に姿を消している。
「さくら……?」
「はい、義姉さん」
微睡み、蕩けた視線を一身に浴びながら桜は義姉に近付くべく一歩を踏み出し、動物達に視線を送る。
動物達は既に桜に手を出すことは出来ない。主の目が覚めてしまったからだ。今手を出してしまえば、主は容易く自分達を捨ててしまう事も分かる。ソレは本意ではない。桜から「ざまぁみろ畜生共」と得意げな視線を受けるのも不本意極まりないけれど。
慎二は近付いてくる桜に両腕を広げて迎え入れようとする。心の中では喜びで小躍りするか、某三代目の怪盗の如く義姉に飛び込みたい桜であったが非常にお淑やかに――「ふひっ」……お淑やかの欠片を拾うように慎二の近くで膝を折り曲げた。慎二はそんな義妹を両腕で抱きしめて大型犬の枕へと倒す。
「んふー」
抱きしめられた桜の香りを楽しむように呼吸をした慎二は満足したのか、抱きしめたまま瞼を緩やかに落としていく。
何度も言うように、ここは慎二の楽園だ。間桐慎二が創り上げた楽園なのだ。慎二が受け入れれば動物達は外敵であろうが受け入れる。桜も慎二を独占されなければ問題はない。
すやすやと気持ちよさそうに眠る部屋の主を害するモノなどこの部屋には存在出来ないのである。
◆◆
間桐慎二は欠伸を噛み殺しながら朝食のパンを食べていた。そろそろ登校しなければ遅刻するであろう時間であるが、慎二は急ぐ様子もなくノンビリとしている。
「シンジ。アナタ、今日は学校に行くんでしょ?」
「そうだね。けれど遅刻しないとは言っていないよ」
キャスターの問に対してまるで当然のように嘯いた。キャスターも慎二の屁理屈には慣れたのか、彼女の目の前に座って真っ直ぐに見つめる。
「何かあったのかい、キャスター」
「アナタは――……
慎二の食べる手が止まり、視線がキャスターへと向く。既に自宅には桜もソレに霊体化をして着いていったライダーもいない。
だからこそ、キャスターは慎二にソレを聞いた。もしも桜が居たならば慎二ははぐらかしていただろう事もわかっていた。ライダーが居ても桜との繋がりを考えればはぐらかしていただろう。
「ふむ、困ったな……。ソレを聞かれるのはライダーだと思っていたけれど」
「あら、誤魔化さないのね」
「キャスターにはバレるとは思っていたからね。だから屋敷の工房化も頼んだ訳だし」
「手の平の上だなんて、気に食わない」
「満腹になるまで食べて貰っても構わないよ」
クツクツと笑う慎二に反応するでもなく、キャスターは真っ直ぐに慎二を睨み続ける。
慎二は肩を竦めてみせ、逃げれない事を悟る。別に逃げる必要も無かったけれど。
「私は何も自覚してすらいないよ」
「は?」
「なんせ私は魔術師ではないからね。尤も、近日中に私はコレを自覚せざるを得ないだろうけど」
「…………言葉遊びかしら?」
「言葉で遊ぶなんてとんでもない。言葉で遊ぶほど心に余裕はないよ」
ランサーに会った昨日も部屋に篭っていた訳だし。と付け加えた慎二は変わらずに喉を震わせるように笑う。
苛つきを隠そうとする訳でもなく、キャスターは慎二を睨みつけ、諦めたように溜め息を吐き出した。
「ともかく、コレに関してだけれど。私は何も知らないし、異常だとも思っていない。故に自覚症状もなく、普通である。ご期待に応える事は出来たかな?」
「ええ、十二分にお腹が一杯よ」
「それはよかった」
紅茶とキャスターの皮肉を一緒に飲み込んだ慎二はカップを置いて微笑んだ。キャスターからすれば「気に食わない」の一言であったけれど、それでも慎二が自覚している事は理解した。いいや、自覚はしていないのだったか。
「さて、私は学校に行こうかな」
「着いていってあげましょうか?」
「……いいや、遠慮しておこう。君たちが来てから身体の調子もいいからね」
「皮肉かしら?」
「素直じゃない愚か者に対してね」
「そう。自虐もほどほどになさいな」
「ふむ……お姫様のご命令とあらば」
睨みを強くした
幾らかはマシになった。
間桐慎二は学校への道を歩きながら自覚した。勝つのは自分だと、まるで自己催眠のように宣言して見せたが、それでも恐怖に勝てる訳がない。
だからこそ自分の楽園に引き籠もり、心を整えた。思考が止まる事もなく、敗北が思考を咎めても止める事など慎二には出来なかった。
自身の敗北は
恐怖に立ち向かう程の勇気は慎二が持ち合わせている訳がない。そんなモノがあれば慎二は臆病者などと臓硯に言われていない。
瞼を落として一度思考を打ち切る。いいや、勝利の為の思考は止めはしないが。
息を吐き出し、下にずり落ちそうな眼鏡をそのままに慎二は目の前の少女を視た。艷やかな黒髪を二つ縛りにし、勝ち気な性格がそのまま現れたようなつり上がった瞳。愛嬌がある、と十二分に言える貌。
「あら、随分な御身分ね。間桐さん?」
「……ふむ。コレは自分もイイ御身分だと自画自賛しているボケかな? 遠坂さん」
なるほど、実に高度な自画自賛だ。と恍けてみせた慎二に遠坂凛は口元を引くつかせる。そんな凛を視界に収めた慎二は眼鏡を直して息を吐き出した。
「さて、冗談はさておき。私に何か聞きたい事があるのだろう? 尤も、間桐と遠坂にはある程度の契約があった筈だけれど」
「だからアンタに――……あなたに聞く為にココに私が居るのよ」
「ふむ……優等生に遅刻をさせてしまうなど、実に不本意極まりないね。ああ、君が聞くとすれば今日だという事はわかっていたよ」
じゃあもっと早く来いよ。とは凛の口からは出なかった。出なかっただけで引き攣った口元が更にヒクリと動いたが。
そんな事を言った所で目の前にいる海産物頭は自分を余計に逆撫でしてくる事はわかっていたので、言葉に出すことはなかったけれど。そう、常に優雅に。常に優雅に。
自分を落ち着けるように深呼吸をした凛を視ていた慎二は肩を竦めてこれ以上弄る事が出来ない事を悟る。別に弄り倒してやる事も可能だけれど、それをした所で意味などはない。
「さて、人気のない所にでも行こうか遠坂さん」
「あら、告白でもされるのかしら?」
「なるほど、君が私の口から聞きたいのは愛の言葉だった訳か。それは非常に残念な事だね」
「アンタの頭の話かしら? 慎二」
「さも当然のように私から愛の言葉が聞けると思っている君の頭の話だよ。凛」
お互いに好戦的に思える笑みを浮かべているが二人にしてみればコレが日常でもある。尤も、優等生を演じきっている遠坂凛と不良とも言える間桐慎二との日常での接点など数える程度でしか無いのだが。
「間桐のマスターは誰かしら?」
人気のない屋上へとやってきて、凛はすぐさまソレを聞いた。慎二にとっても、凛にとっても分かりきっていた問であるが、それでも凛は慎二の口から答えを求めた。
「魔術師ではない私に、随分といきなりじゃないか」
「茶化さないで」
自分では答えを言ったつもりだったのだけれど、と慎二は溜め息を吐き出して降参を示すように両手を軽く持ち上げた。
「間桐のマスターは桜だよ」
「……そう」
「随分とアッサリと認めるんだね」
「そもそもアンタは魔術師じゃないでしょ」
「なら聞く意味もなかった筈だけれど……。まあいいだろう、藪を突く趣味はない」
魔術に理解があるといっても、間桐慎二に魔術回路はなく、同時にそれは魔術師ではない事を示している。だからこそ必然的に間桐桜が――実妹である桜がマスターになる。
「先に言うけれど、こちらのサーヴァントのクラスを教える事はないよ」
「当たり前でしょ」
「ふむ。フェアで何よりだ。清く正しく聖杯戦争で殺し合ってくれたまえ。生憎私は盤外だからね」
「それは残念ね。盤上にいたなら徹底して潰してあげてたわ」
「それは非常に残念だったね」
嫌味を言ってやれば殺害宣言をされて慎二は肩を竦めた。なんと恐ろしい友人なのだろうか、恐怖で震えてしまうじゃないか。などと言えば、きっと呪いを飛ばしてきただろう、そうに違いない。
一方的に聞く事を聞き満足したのか、凛はしっかりと猫を何十にも被ったように、凶暴さを隠し、優等生らしい雰囲気を纏う。
「それじゃあ間桐さん。私は授業があるから」
「まるで私に授業がないかのような言い草だね」
「どうせサボるでしょ?」
「知っている事を聞く意味はないとさっきでわかった筈だけれど?」
「事実確認は重要でしょ」
なるほど、確かに。と納得したように頷いた慎二を見る事もなく、凛は既に始まっているであろう授業へと向かった。
閉められた扉を眺めながら慎二は溜め息を吐き出す。手の震えはない。
「ふむ。RPGでいう経験値でも溜まったかな?」
もしもそうならば果たして古代メソポタミア王の御前に震えずに立てる経験値は幾らであろうか。そんな意味の無い事を考えて、振り払う。
さて、駒は一つ動かした。
盤面は自分にとって悪いけれど、最悪などではない。詰んでもいない。故に問題は無い。
間桐慎二は勝利を疑ってはいけない。
>>『もふもふ部屋』
ワカメネキが拾ってきた動物各種が共存する異常な場所。桜が「もふもふ」と言っているが蛇やワニなどの毛のない存在も居る。
>>メディアさんとの会話関係
ワカメネキの異常性の指摘。性格とか性的な意味とか、義妹への執着とかそういう事ではない。
ぶっちゃけた話をすると人物設定の矛盾とかをごり押す為のモノ。ソレをまるで意味深に語ってるだけであって、物語に起因はするけれどご都合主義をあたかも当然の如く書いているだけである。故に『僕は悪くない』。
>>皮肉集
久しく書いた気がする。わかりにくいモノはたぶんないと思います。たぶん。
というか、言葉遊びの類いだから――いいや、言葉遊びというのも烏滸がましい皮肉とも言えないモノだけれど。ソコは相変わらずという事です。
>>ワカメネキ「私は勝利をリスペクトする」
闇のデュエルを始めて「ゴレンダァ!!」しそう。