まあ本格的に戦闘なんてしないし。ダイジョウブダロ。
原作をまるまる踏襲するのも問題ですし、結構飛ばしてます。
金属が跳ねる音がした。
一度、二度――三撃、四撃――五合、六合。
鼓膜を響かせるソレを楽しむように、間桐慎二は目を細めてただ視界に入る華を眺める。咲くのは一瞬、散るのも一瞬。
ぶつかり合う度に咲く、火花。凡そ人には出せないであろう速度で咲いては散る華。辛うじて慎二に見える程度の速度で動く赤と青。
自身の教室、窓際の席に座り、まるでツマラナイ授業の代わりに体育を眺めるように。けれど、それ以上の興味を滾らせる。
「シンジ、コレを見るために残ったのですね」
「夜と月に映えるとは思わないかい?」
学校には不釣り合いだけれどね、とくつくつと笑いながら継ぎ足した慎二は呆れ顔のライダーへと視線を向ける事はない。
そもそもは帰りの遅い慎二を心配して桜に「お願い」されたのがライダーがココに居る理由だ。ライダー自身も少なからず慎二が心配であった、という事もあったけれど、表向きの理由は桜である。
しっかりと霊体化をして、ようやく慎二を見つけたのはつい先程。唐突に掛けた言葉であったが、慎二はまるでライダーが視えていたように言葉を返した。
「こうした戦闘を見るのは初めてだからね。女ながらに心が踊るよ」
「……知っていたのですか?」
「さてね。ただ、ランサーが私の釣りに引っ掛かった――いいや、ワザと糸を引っ張ったのだろうけれど。それでも私と君の前に姿を現したのは、あちらのマスターの指示だろう。アイルランドの光の御子を威力偵察に使うとは中々に豪華だとは思うけれど」
「ランサーと他のサーヴァントが戦う、という事はわかりました。が、何故今日だと? それにココで起こる確証は無かった筈です」
「私には合ったよ。
――なんせ私は未来が視えるからね」
僅かにズレた眼鏡の奥、慎二の瞳が揺ぐ。慎二が「よく視えてしまうだけの魔眼」と説明した瞳。
戦闘服でもあるボディコン服に宝具でもある目隠しをしたライダーの顔が慎二を真っ直ぐ見つめた。真剣な表情をしてしまったライダーを視て、慎二は眼鏡を直しながら苦笑する。
「冗談さ。未来は視えないよ。今朝に赤い従者を見かけたからね。ココで起こったのは勘でしかないよ」
「…………なら、なぜこんな時間まで?」
偵察が今日だと予測仕切った事は、まあいい。けれど、それでは時間と場所に説明がつかない。相変わらず真剣な声色で聞いてくるライダーに逃げれない事を悟った慎二は諦めて、もごもごと口を開く。
「……ったから」
「は?」
「桜の
顔を赤くして不貞腐れた様に吐き捨てた慎二に呆気にとられるライダー。耳まで真っ赤な慎二を見る事が出来ないのが残念であるけれど、慎二が今どういう表情をしているのかは把握出来る。
「ああ、なるほど。ご馳走様です」
「えぇい。どうして急に優しい顔つきになるんだ」
「いえ、シンジが可愛いな、と。そのままでいいんですよ」
慈しむように微笑んだライダーを不本意そうに見ながら慎二は唇を尖らせて、視線を校庭へと向ける。
二刀を持った赤いサーヴァントと青い槍兵。肉薄すると同時に散る火花。華が咲く度に鳴る金属音。
「……シンジはどちらが優勢だと思うのですか?」
「優勢も何も無いよ。ランサーは私が見ているだろう事に気付いている。手を出さない事も知っているけれど、宝具の開放はしないだろう。偵察の意味もあるし、彼は有名だからね。
そんな彼と対等……とは言い難いけれど立ち会っているサーヴァントが私に気付いていない訳もない。宝具の開放をしたとして、
両者とも全力を出せない。その事を両者共わかっている。だから優勢も何もない。どうかな?」
「そこまで見えているなら問題ありませんね」
「……君は私をポンコツか何かだと思っているのかい?」
「え? あ、いえ。全く。シンジは可愛いですね」
「どうして可愛いという結論に至ったのか甚だ疑問ではあるけれど……君が私の事をどう思っているかはよくわかったよ」
「なるほど、つまりシンジが可愛い格好をしてくれるという事ですか」
「君の髪が伝承通りに動かないのは頭が冬眠しているからだったのか」
ライダーの少し嬉しそうな声色にしっかりと毒を吐き捨てた慎二。咲き乱れる華達を見ていた視界の端に人影を一つ捉えた。
音を聞きつけて来てしまったのか、はたまた偶然か。眼鏡を指で持ち上げて慎二は眉を顰めた。
「知り合いですか?」
「クラスメイトだね」
クラスメイトである赤髪を見つけた慎二は眼鏡を直して、息を吐き出した。指で何度か机を叩いて思考を纏め上げる。
「助けますか?」
「……いいや、放っておくよ。私が関与した所でランサーと正面切ってやり合うのも、赤いサーヴァントと敵対するのも今は好ましくない」
「……」
「意外そうな顔だね」
「シンジの事なので、助けると言うと思っていました」
「私はそれほどお人好しでもないよ」
既に火花すら散っていない校庭から視線を外し、ライダーに向かって苦笑した慎二。
本当に助けると思っていた。動物を拾い育てている慎二ならば、自身と接点のある人物を助ける筈だと――ライダーは半ば確信のように思っていた。
お人好しではない。そんな訳がなかった。いいや、人を好きではない、という点では矛盾してはいないのだろうか。
「さて、では少し散歩に行こうか」
「はい、シンジ」
慎二は椅子に座ったまま身体をライダーの方へと向ける。ライダーはそのまま停止して、首を傾げてみせた。
何かを言いたいような、けれども言いたくないように、慎二はまた口をもごもごと動かして、不貞腐れるように床を見つめる。
「腰が痛くて動けない……ライダーの面目躍如だな」
「恥ずかしいなら言わなければいいのでは?」
「言わせた君が何を言うんだ……」
むぅ、と口を尖らせた慎二に苦笑をして、ライダーは慎二へと近寄る。両腕を広げた慎二に受け入れられ、そのまま横抱きにして持ち上げる。
しっかりと首に巻き付いた慎二の腕を感じながら、思った以上に軽い慎二の体重を楽しむ。
「お姫様、どこまで散歩に行きますか?」
「そのお姫様の太腿を楽しむような騎士は見捨ててしまいそうだ。何より私の太腿はそれほど肉付きはよくないだろう」
「だがそれがいい」
「……ああ、うん。そっか」
まるで騎士のように振る舞ってみせたライダーであるが、慎二の一言に即座に返答をする。白い肌、小さな体躯、必要最低限の筋肉。実に、実に素晴らしかった。なるほど、桜が心配するのにも納得である。もしも慎二が襲われてしまえばきっと抵抗も出来ないだろう。
その襲う人物が自身である事を神棚に祀りながらライダーは顔を赤くしている慎二の指示に従って窓から飛び出した。月が雲で隠れた夜の話である。
◆◆
金塊を溶かしたようなその髪は月に映えていた。
土蔵の中、舞う埃が月明かりに反射している唯一の扉。その扉と自分の間に悠然と立つ――騎士。
衛宮士郎は死に掛けていた現実など忘れたように見惚れてしまっていた。
「――問おう。貴方が私のマスターか?」
騎士の口から言葉が紡がれる。きっと友人の彼女だったならば「まるで綺麗な文字のようだね。吐き気がする」と吐き捨てるであろう声。整いすぎた、それでいてソレが正しいかのような。
暫く――時間にして二秒に満たない時を経て、ようやく衛宮士郎の頭脳は現実へと向けて回転し始める。
赤い槍。殺されそうになっている自分。その槍を弾いた眼の前にいる騎士の少女。マスター。
さっぱりわからなかった。わかる訳がない。
「マス、ター……?」
「サーヴァント《セイバー》、召喚に従い参上した。マスター指示を」
衛宮士郎の混乱などお構いなしにセイバーは言葉を紡いでいく。
「これより我が剣は貴方と共にあり、貴方の運命は私と共にある。ここに契約は完了した」
まるで押し付けるような契約。だが、ソレが自然だった。置いてけぼりなのは、何も知らない士郎だけ。
さも当然の様にいうセイバーに対して士郎は奥歯を噛み締める。散々に「無知は罪だ」と言っていた友人の言葉が叩きつけられる。
そんな士郎を見つめていたセイバーは弾かれるように土蔵の外へと視線を向けて駆け出した。
「な、ま、待て!」
セイバーを追いかけて土蔵を出た士郎の目に映ったのは異常であった。
赤い禍々しい槍を――無色透明の
槍と剣がぶつかる度に散る火花。金属と金属がぶつかっているだけだというのに、まるで鈴を弾くように高く、澄んだ音。
大きく槍を振い、セイバーから距離を取った青い槍兵は槍を肩に置き、小さく息を吐き出した。
「お互い初見だしよ、ここらで分けって訳にはいかないか?」
「断る。アナタはココで倒れろ」
槍兵の誘いをばっさりと切り捨てたセイバーは剣を構え直し、槍兵は「そうかい」と呟いて槍を強く握り、構える。
「あの嬢ちゃんが何処かで見てるんだろうが、まあいい」
「何の事だ」
「一方的な借りを一方的に返すだけだ。気にすんなよ、セイバー」
槍に何かが集中する。士郎の背に纏わり付く怖気。何も知らない士郎でもあの槍の恐怖だけは正しく理解出来た。理解せざるを得なかった。
「その心臓――貰い受けるッ!」
込められた力に悲鳴を上げるように、目の前にある餌を求め叫ぶように、槍が震え、槍兵が吼える。
「――
赤き槍が唸りを上げて疾走する。ただ一直線に、担い手が宣言した通りに心臓へと翔ける。
セイバーを捉えた槍に更に力が込められ、セイバーの身体が軽々と浮かされる。倒れる事なく着地したセイバーは甲冑を鳴らしながら地面へと膝を付き、自身の左胸に触れながらランサーを睨めつけた。
「躱したな。我が必殺の
必殺のソレを躱された事にさして気にした様子もなく、槍兵はセイバーから視線を切る。幾つか槍と剣を合わせただけでもセイバーが手練である事は明白。そして
これ以上ここに居れば、我慢出来るものか。
滾る心を抑えつけ、槍兵は踵を返す。
「逃げるのか?」
「追ってくるなら構わんぞ。但し、その時は決死の覚悟を抱いてこい」
「待て!」
消えるように跳躍した槍兵を追おうとセイバーは一歩踏み出した。踏み出したと同時に、損傷した左胸に痛みが走り、顔を歪める。
異常で、尋常ならざる戦闘が終わり、ようやく現実への帰還を果たした士郎が動きだす。
近付いてくるマスターにセイバーは痛みを飲み込み、涼しい顔をしてみせた。
「お前、何者だ」
「何者も何も。セイバーのサーヴァントです。貴方が呼び出したのですから確認するまでもないでしょう」
「セイバーのサーヴァント……」
「はい。ですから私の事はセイバーと」
セイバーが名前であるとは思わない。『
未だに混乱の中にある思考を動かしながら、士郎はピースを繋げていく。召喚、セイバー、戦闘、槍兵、不可視の剣。幾つか繋がる事もあるが、それでも答えにはならないだろう。
「そ、そうか。俺は衛宮士郎」
「エミヤ……シロウ」
確認するように名前を何度か呟いたセイバーを見ながら士郎は考えを――疑問を纏める。
「ではシロウと」
「ああ。それで、えっと……イッ」
焼けるように痛む左手に視線が行き、手の甲を抑える。痛みは収まることはない。
セイバーは門の向こうを眺めながら、士郎に提案する。
「シロウ。傷の治療を」
「まさか、俺の言ってるのか? 悪いけど、そんな難しい魔術は知らないし、それにもう傷は無いじゃないか」
「――ではこのままで望みます。自動修復は外面を覆っただけですが、あと一度の戦闘なら支障はないでしょう」
「ちょっと待て!」
そう言葉を吐き出したセイバーは門へと走り、門を飛び越える。士郎の静止など聞く耳はない。
士郎は息を飲み込んで、門へと走る。
そして見たのは、セイバーが赤い剣士の両刀を叩き折る所であった。
「アーチャー!」
少女の声に反応して、赤い剣士――弓兵は黒髪の少女へと手を向けて、続くであろう言葉を制止した。
剣を砕いたセイバーもアーチャーへの警戒を怠る事もせず、数歩下がって士郎を守るように剣を構えた。
「セイバー?」
「シロウ、私から離れないで下さい」
「おや、せっかく剣兵と弓兵のどちらかが倒れると思ったけれど……中々順調にはいかないようだね」
溜め息混じりに響いた声。民家の屋根の上に座った少女とその隣に佇む長身の女。
波打つ群青色の髪が風に揺られ、少女は月を背負いながら笑ってみせる。
「
そう言葉に出した少女はライダーに抱かれて、地面へと降りる。両足で立ち、足元を確かめるように何度か爪先で地面を叩く。
「さて、三つ巴になった訳だけれど……。果たして同等だと言えるのかな?」
「慎二……!」
「やあ遠坂サン」
間桐慎二はとびっきりの笑顔を遠坂凛へと向けてみせる。そのまま視線をセイバーへと向けて、頭から足までをしっかりと確認して、一つ頷いた。
「さて、ご両人。ココで提案だ。
――一時休戦といこう」
>>圧倒的な強キャラ臭漂うワカメネキ
なおポンコツのもよう。
>>ワカメネキ「なんせ私は未来が視えるからね」
視え)ないです。
>>「私の太腿はそれほど肉付きがよくないだろう(自虐」
>>「だがそれがいい」
桜「むしろそれがいい」
>>「刺し穿つ死棘の槍!」
当たらない。
>>「一時休戦といこう」
ワカメネキ「現在のアーチャーとセイバーを相手する事は容易いが、待っているであろうバーサーカーの対応が不十分になる可能性もある。もしも上記二人が私に害を為すというのなら、マスターである二人を殺す方も容易い。故に、私は両者を守る為にあの場にいる訳ではなくて、共同戦線を張りバーサーカーを相手する為にいるのだ。決して私はお人好しなどではない。イイネ?」