※この作品はR-18です。

桜に落花   作:猫毛布

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本編
桜に落花


 間桐(マトウ)慎二(シンジ)は幼いながらある程度の事を理解していた。

 魔術。蟲蔵。蟲。【吸収】。断片的に視えたソレを咀嚼し、理解し、間桐慎二の口からは何かを諦めたような溜め息が口から溢れた。

 将来的に友人と呼べるであろう、未来的正義の味方である彼の口癖を借りるなら今しかないだろう。

 

「……なんでさ」

 

 痛む頭を少しだけ抑えて間桐慎二は瞼を閉じた。子供には似つかわしくない思考能力だけが今は頼りであった。

 果たしてどうしてこうなったのだろうか。

 輪廻転生を信じていた訳でも、善行を積んでいた訳でもない。何かの冗談のように人を助けた訳でも、トラックに轢かれそうになっている猫を助けた訳でもない。そもそも自分はど(・)ち(・)ら(・)か(・)と(・)言(・)え(・)ば(・)犬派であった筈だ。

 確かに、自分はあの時に死んだのだ。死んだ自分の名前は間桐慎二ではないし、少なくとも現在も未練がましく頭の中の性癖に塗れた蔵書達に存在するような名前でもなかった。ありふれた名前だった――ような気がする。いや、前世と呼べる彼の名前を思い出すのは必須ではない。必死にすべき事は現状の把握であるし、必至である未来事象を思い出す事にもソレは共通する。

 間桐慎二はそう考えて、頭の中に存在する白(・)く(・)ベ(・)タ(・)つ(・)く(・)ナ(・)ニ(・)か(・)がべっとりと付着しているであろう蔵書をひっくり返す。幸い(不幸にも)遺っていた(捨てられなかった)記憶を漁ればわかる事もある。

 

 まずは名前だ。間桐慎二。ああ、なんて素晴らしい名前だろうか、吐き気がする。

 幼い顔の眉間に深く皺を刻んだ慎二は手の平で眉間を抑えながら髪に触れる。フワリとウェーブする髪。海草代表とも言うべき名前が頭を高速で過ぎ去り、いい出汁がとれそうだな、と吐き捨てたい気持ちになった。当然、言葉は喉の奥にしまいこんだが。

 なぜ自分がワカメになっているのか。そんな事はどうでもいい。原因の究明をするぐらいなら是非とも自分を救命してほしい。

 現実逃避を決め込んでから幻想染みた現実へと目を向ける。

 ガンガンと自分に振りかかる不幸極まりない(自業自得な)未来が頭に叩きつけられていく。

 慎二は幼く高い声をまるで地を這うゾンビのように低く唸らせ迫る己の不幸に嫌気が差してきた。過去の記憶を掘り起こせば掘り起こすほど間桐慎二という人物に嫌気が差してきた訳である。そしてソレが今の自分なのだ。

――ハッキリ言えばゲッソリする。

 そんな食欲が減衰しそうな未来妄想の中で気付いたこともある。間桐慎二という人物には特殊な能力――魔術を使うための擬似神経(魔術回路)がない事だ。なんて素晴らしい事なのか。手放しで喜べない問題があるのだが、幸いな事にその問題によってそ(・)の(・)素(・)晴(・)ら(・)し(・)い(・)事(・)実(・)は確約と証明されている。

 喜べない問題は瞳にある。間桐慎二は閉じた瞼を持ち上げて、世界に嫌気がさした。世界を構成しているであろう文(・)字(・)が問答無用に視界に入り込み、無理やりにソレを理解させようとしてくる。頭の中に存在する真っ黒に塗りつぶした記憶はソレを喜々として受け入れようとしているが、受け入れた所でソレは正しく理解できないのだから意味などない。

 魔眼と呼べるべき瞳。構成を解析してしまう魔眼。自身の祖父である臓硯(ゾウケン)を見た時は思わず泣いてしまったのは不幸中の幸いであっただろう、と慎二は自身の失態を弁明した。

 その魔術的神秘性も然ることながら、身体を蠢く蟲を見てしまったのだから仕方ない事だろう。

 魔術回路が無い。と瞳(・)で理解してしまった矛盾。尤も、矛盾を解消出来る訳もない。どうにかしてこの瞳を秘匿しなければいけない。

 あの蟲の翁にバレてしまえばどうなるか。瞳を繰り抜かれる可能性は大いにある。そして母胎になる可能性も。

 そこまで想像して慎二はブルリと体を震わせて未来を払拭した。蟲の翁が苦手とする太陽の下、に居て尚危機を感じてしまった。

 今一度、大きく溜め息を吐き出した慎二はス(・)カ(・)ー(・)ト(・)を(・)小(・)さ(・)く(・)翻(・)し(・)て(・)、自宅へと戻る。自身の考察も然ることながら、未来に置いて母胎へとなるのは義妹なのだ。優秀な妹、遠坂桜――間桐桜。

 なんだ。自分の安全なんてモノは保証されているではないか。けれど秘匿はしておくべきであろう。自身の深い探求は、未来の義妹(いもうと)があの蟲蔵に叩きこまれてからだ。

 けれど、義妹が逃げてしまう事は避けなくてはいけない。あの蟲の翁が優秀な義妹を無駄にする事は無いだろうが、慎二という保険があるのだ。

 だからこそ、義妹が壊れないように。逃げない(死なない)ように。安全の確保の為に。慎二は義妹を守らなくてはならない。

 臓硯から守る事は不可能。そんな事は慎二も理解している。守るのは精神の方だ。陵辱され、心を壊され、魔術を使うためだけの道具にされても、生かせる為に。

 

 

「依存させるか」

 

 

◆◆

 

 

 遠坂(トオサカ)桜(サクラ)が間桐桜になった日。

 桜自身が幼心に理解したのは、自身の親に捨てられてしまったこと。もう姉と一緒に居れないこと。そんな事を漠然と理解することは出来た。

 魔術師の父としての愛情など理解出来る訳もない。自身の未来に待っているだろうホルマリンと仲良くなるような事も理解出来ない事だった。

 

 新しく出来た家族。義理の両親からは哀れみの篭った視線を向けられた。桜は捨てられた自分に哀れんでいるのだろう、とソレを理解した。

 同時に目に入ったのは長く波打った髪の少女であった。紹介された時に彼女は自身の義姉にあたる人物という事も知った。

 

「初めまして、私は間桐慎二。君のお義姉さんになる。何か困ったことがあれば助けてあげよう」

 

 整った顔と微笑み、子供らしくない落ち着いた口調。そして何より、シンジという名前だ。明らかに男性名であるソレを当たり前のように口にした少女に首を傾げてしまった桜は悪くないであろう。そんな桜を見て慎二は微笑みを深くした。その瞳に哀れみなどの感情はない。勝ち気な姉とは違い、穏やかな印象の新しい姉。

 桜は捨てられた事を飲み込み、新しい家族――姉に少しだけ希望を抱いた。未来にあるであろう穏やかな日常。微笑む新しい姉と自分。そんな当たり前の未来を描いた。

 

 

 そんな未来はアッサリと塗り潰される。体を這う蟲(ムシ)が理想を汚していく。描いたソレを顎で引き千切っていく。自分がジクジクと削られていく。頭の先から爪先まで、肌から内臓まで、もはや体に遠坂桜であった場所などはない。

 喉を引き裂かんばかりに声を上げた所で声を塗り潰すように蟲が覆い尽くす。桜の意識が飛んだ所でまた現(・)実(・)へとスグに戻される。現実には蟲しか居ない。

 そんな思考もまた蟲達に貪られる。

 

 桜が現(・)実(・)から出れたのは夜だった。黒かった髪は紫へと色素を変化させられ、瞳には希望という光は既にない。体を走る怖気はまだ色濃く残り、ヌルい泥でも塗りたくられたように肌にも感触が残っている。鼻にへばりつくような悪臭も慣れてしまってわからないが、きっと体中から漂っている。

 

「やあ桜。おはよう……と言っても今はお月様が出ているけれど」

 

 そんな桜の目の前に少女がいた。桜はその少女を見て、瞳を動かさずに名前を思い出そうとした。少女は困ったように微笑み、自分の名前を再度口から吐き出した。

 

「私は慎二。こんな名前だけれど、君のお義姉さんにあたる」

 

 慎二は何事もなく、桜の髪に触れて目を細める。変わってしまった髪。それは同時に桜自身の変質を意味しており、慎二はその原(・)因(・)を知っている。地下に存在する蟲蔵の存在。間桐の歴史。

 原因を一通り思考に過ぎらせて慎二は息を吐き出した。

 

「まったく、三(・)日(・)ぶりに会えたと思えばその反応。傷つくな」

 

 髪に触れたまま慎二は事実を言った。

 漠然とした時間間隔であった桜の思考にハッキリとした時間が告げられる。三日。三日間、あの蟲の中に居た。蹂躙され、陵辱され、汚され、穢され、貪られた。三日の間ずっと。

 叩きつけられた実時間が残っていた桜の感情を僅かに揺らす。湧き上がる感触。節のある足が這う。膣(ハラ)の中を犯され、蠢き、自分をかき消していく。

 そんな震える桜の手を慎二は優しく掴んだ。指をしっかりと絡ませ、ソレも桜の視界に映るように。自身が汚れている、汚れてしまった事を理解している桜は咄嗟にその手を払った。

 貪られ、千切られ、塗り潰された希望が心の中で鎌首を擡(もた)げる。きっとその希望も塗り潰される事はわかっている。わかっているからこそ、桜は拒絶した。

 そんな桜の思考がわかっているのか、慎二は瞳(・)を細めて微笑んでから桜を優しく抱きしめた。抜けだそうとしても逃げれない程度に力を込めて。

 

「大丈夫だよ、桜。君の苦しみはわからないけれど、私だけは君に優しくしよう。何があっても私は君の味方だ」

「何が……あっても」

「そう、何があってもだ。今の私に出来る事ならなんでもしてあげよう。私の可愛い桜、私(・)だ(・)け(・)の(・)可(・)愛(・)い(・)桜(・)」

 

 毒のように体を蝕む優しさがそこにはあった。ただ純粋な優しさ、労り、慈愛。ソレだけが桜の体を犯し、心を蝕んでいく。

 汚れてしまった自分を抱きしめてくれる人。新しい姉。僅かに残った希望が"桜"を支える。また塗り潰されるであろう希望。けれど、戻れば姉がいる。優しくしてくれる姉がいる。今の桜にはそれだけでよかった。




>>コレって、ワカメの皮を被ったオリ主じゃねぇか!!
 そうだよ(震え声
 ワカメの性格は好きだけど、桜を依存させる為だから仕方ないね。

>>ワカメネキ
 前世の大半は黒く塗りつぶされているか白くベタつくナニかが付着している元男。
 原作同様に魔術回路は持ちあわせておらず、魔術師達から見れば一般人枠に収まってる存在。瞳に関しては後述
 思考は『目的の為なら手段を選ばない』風を装っている善人。可哀想な桜を助ける為に動くけど、蟲爺は殺せない事を理解してるので精神だけの救助を目指す。基本的には善人思考を歪んだ言い方をしているだけで将来的に捨て猫とか捨て犬とかを拾って「私を睨んできた不届き者だから外よりも危険なこの家に住まわせてやろう」というような人。桜さんに「また姉さんは動物を拾ってきて……」と呆れられるもよう。
 本質的には善人であり、表面上悪人。かと言って正義の味方のような事が出来ない事も理解しているので、目に見える範囲だけ、自分よりも弱い存在だけを助ける。主に動物と桜がその対象。

>>瞳
 便宜上『解析の瞳』とする。
 本領としてはかの花の魔術師と同じく"千里眼"。ただし、魔術的な要素を一切持たない超能力としての能力であり、魔術回路としてのアレやソレは不可能。
 視界を媒介として、世界を構成する文字を視て物事を理解する事が出来る。というのが本質であるけど、世界構成文字なんて神秘的なモノが読める訳もなく、ただ断片的に「ソレが世界である」という根源を漠然と理解しているだけ。
 地球儀を見て「地球だなー」と思える程度のソレ。細かい所はわからないし、触れた所で介入も出来ない。
 情報量に関しても、"千里眼"のように世界全てが見渡せる訳でもなく、自身の視界に限り、万物を漠然と視れるだけ。初見の道具を見て名前を看破することは出来るし、素材や在り方も集中すればわかるけれど使い方はわからない。そんな感じ。

>>上記設定っておかしくない?
 おかしくてもエロは出来るから大丈夫だな(白目
 ガバガバ設定だから。

>>……設定いる?
 フヨウラ!

>>おいおい、エロが無いじゃないか
 エロはまだ先だから。許してください何でもしますから。
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