まあエロ主体だし……ちょっとぐらい……バレへんか
あ、次でエロします
月が綺麗だった。青白い文字の羅列を吐き出し、インクをぶち撒けたように黒い文字を上書きする。
吐き出した白い文字が世界に溶けて、別の色へと変化する。地面を流れる文字は一定の間隔を刻み続け脈動している。
瞼を閉じた所で意味はない。淡い輪郭の文字達が自分を包み込んでいるのを理解する。腕を動かせば巻き込まれるように変形する文字。けれども恐らく文章としての体裁は保つように、文字が崩れているだけ。
瞼を上げて、自分の腕を眺める。ぐちゃぐちゃに書き殴られた文字達。身体中の至る所を流れる文字。きっとピリオドは無い。始点と終点を結んで循環させられているように、紐解けば輪にでもなっているのだろう。
そんな循環している文章に巻き付くように別の色がある。とても魅力的で、誘惑してくる綺麗なインク。
『空気』を吸い込む。瞼を落として、読みふけるように味わい、ゆっくりと吐き出す。
外部魔力がじんわりと自身の中に蓄積する。意識して出来るようになるまで何ヶ月掛かった事だろうか。この瞳があったからこそ、間桐の血を含んでいるからこそ、出来る芸当だと思う。
或いは別の要因もあるのだろうか? 聖杯としての機能――とするならば、私はあの魔法陣に組み込まれていなくてはならない。けれど溜め込めている要因はきっとソレなのだろう。魔術的な見解は出来ないけれど。
「どう思う? ライダー」
「そうですね。桜が怒ると思います」
ベンチに座った私の前に長身の女が現れる。いつものボディコン服ではなくてセーターを着ている彼女に苦笑した。
こうして見れば、彼女も随分と稀有な存在なのだろう。輝かしい文字もあれば、禍々しく濁ったような文字もある。二つのメガネの向こうでも解る程に強く書かれた文字。
「――ああ、呪いとはそういうモノか」
「ッ、すいません。漏れてますか?」
「いいや、身体に異常はないよ」
私から目を逸したライダーにヒラヒラと手を振って無事を伝える。文字として認識は出来るけれど、さっぱり何が書かれているかは解らない。知らない言葉の本の様だ。
辞書も無い。絵本もない。語源も――いいや語源はありそうだな。
「大丈夫ですか? 何か変ですよ」
「バーサーカーと会ってね。未だに震えているんだよ」
「ああ、またヤラカシたんですね」
「……その私がいつも何か為出かしている様な言い方はどうかと思うんだけれど?」
ジト目でライダーを見てやればクスクスと笑われる。
本当はもう震えていない。恐怖が無い訳ではない。それこそ大英雄とも呼べる存在だったのだ。私など文字通り一息で吹き飛ばされてしまうだろう。
「それで、腰が抜けてココに座っていたんですね」
「失敬だな。世界がただただ綺麗だったのさ」
「アーソーデスカー」
「信じてないな」
信じられてもそれはソレで変に思ってしまうのだろうけど。
乱雑な文字を慎重に踏みしめる。しっかりと文字達を視ながら確かめるように爪先で叩く。問題は無さそうだ。
「大丈夫ですか? 抱っことかしましょうか?」
「君のその身体に抱かれる事は望む所だけれど、今日は遠慮しておくよ」
またあの昇降の激しい移動を味わうのは勘弁願いたい。例え肉の柔らかさと温もりを与えられたとしても、である。
私の言葉に少し残念そうにしょぼくれた表情をするライダーに苦笑して彼女の手に触れる。細い指に絡みつくように文字が駆け巡り、ソレを撫でるように指を絡めていく。
「シンジ?」
文字を追っていた瞳をライダーへと向けて、目を細める。そのまま瞼を降ろして眼鏡を少し上げて目頭を揉む。
「大丈夫だ」
大丈夫? 一体何が大丈夫だと言うのだろうか。
何度か深く呼吸をして、眼鏡をしっかりと戻してから瞼を上げる。心配そうに私を覗き見るライダーの顔が私の瞳に映った。
「少し歩いて帰ろう。それこそ、月が綺麗だからね」
自宅に戻り、玄関を開ければ綺麗な笑顔を浮かべている桜が待っていた。ニッコリと、惚れ惚れするような笑顔である。世の男共が見れば惚けてしまうだろうその笑顔であるが、彼女の処世術――間桐を生きる上での必須項目のように自らの意思に蓋をする為のモノだ。
「
「月が綺麗だったからね」
そんな義妹の感情を一身に受ける。私だけに許された権利であり、義務である。怒りも、悲しみも、孤独も、何もかも。
シレッと応えてみせる私に表情を崩して唇を尖らせる。そんな桜に苦笑して手を伸ばして頭を撫でる。相変わらず艶やかな髪だ。
その髪の一つひとつにも文字が流れ、纏わりつき、形成している。頭を撫でてている手を頬へと滑らせて、文字の一つひとつを指の腹で撫でる。
「義姉さん?」
「――大丈夫だよ。お爺様とキャスターは何処かな?」
つい追ってしまった文字達を瞼を閉じて無視して、桜から視線を外す。
頭の中で出来事をまとめ上げて、先の事を考える。キャスターの助けは必須であるし、アサシンの事も気になる。お爺様には詰めなくてはいけない事もある。
珍しい事に私の問いに答えてくれない桜に視線を戻せば、ジト目で睨まれていた。
「桜?」
「……もっと私に構ってくれてもいいじゃないですか」
子供らしい我儘にキョトンとして、苦笑する。少しばかり頬を膨らませた桜が余計に愛おしく見えてしまう。
子供の頃の我慢を取り戻すように、私にだけはこうして我儘な所を見せてくれる。否応無く自分が間桐であると理解してしまう。執着も、独占も。
「少しだけ話をするだけだよ。スグに部屋に戻るよ」
「……本当ですか?」
「本当さ。シャワーも浴びたいからね。お風呂を沸かしてくれていると嬉しいかな」
「わかりました。準備しときますね」
シャワー、お風呂、一緒、ふふっふー。なんて唱えて廊下に消えていった桜を見送る。一緒に入るなんて言ってないのだけれど。そういうと落ち込みそうだなぁ。
変わらず後ろで苦笑していたライダーを一睨みしてから廊下を進む。
途中にある私専用の飼育部屋に寄り、一番長くいる大型犬を連れ出す。首輪もなく私の言う事を聞いてくれる賢い犬である。更に言えばもふもふなのだ。
こうして改めて彼を視れば、現代を生きる犬にしては存外に歪である。僅かに光りを帯びた文字を纏い、インクを滲ませたような文字が極端に少ない。
わふ、と小さく鳴いた彼の首を抱きしめて深呼吸をする。
「ごめんね」
小さく、言葉を溢す。甘えたように鳴いた彼の頭を撫でる。きっと、そうしたのは私だから。彼はもう一線を越えてしまっている。或いは越えようとしている。
もしも、
彼を強く抱きしめてから離れる。きっと私の顔は
「さて、じゃあ行こうか」
わふ、と小さく応えてくれた彼を横に、後ろにはライダーもいる。震えそうになる手をしっかりと握りしめて、先の見えない廊下を歩く。
一歩、一歩と普段の調子で。それこそ見慣れた自宅なのだから当然なのだけれど。
チチチチ、と顎を擦り合わせるような、翅を擦り合わせるような、そんな耳障りな音が鼓膜にへばり付く。一つや二つではなく、群となって廊下の奥から響いている。
唸る彼の頭を撫でて、更に一歩進む。余計に大きくなる蟲の声。不出来で、歪で、僅かに光りの灯る文字の群。
瞼を閉じて、眼鏡を押し上げて目頭を親指と人差し指で揉む。小さく息を吐き出して、真っ直ぐに廊下の奥を眺める。
「――邪魔だ」
一言、ハッキリと、意思を乗せて、吐き出す。力など籠もらない言葉である。視えている私が言うのだから真実だ。私に言霊を操る能力はない。
けれど蟲達は何かに怯える様にして関節を鳴らして、姿を消していく。
何かを誇る訳でもなく、勘違いする訳でもなく、私はゆっくりと自宅の廊下を歩く。
「さて、お爺様。事の発端はいつからだ?」
目的の扉を開いて、乱暴に椅子に座った私の一言はソレだけだった。
お爺様――間桐臓硯は特別嫌らしい笑みも浮かべずに、いつものように忌々しい笑みを浮かべている。
「――……なんじゃ、儂を殺す気になったのか?」
「質問に答えろ、マキリ・ゾォルケン」
「答えの知っておる質問をするとは、中々に滑稽じゃな」
「私に埋める意味は無かった筈だ」
「今更保身に走るか、慎二」
「違う。
――お前を殺すか否かの質問だ」
世界が文字で埋め尽くされる。
より鮮明に、より乱雑に、より濃く。まるで触る事が出来そうな程に濃密な文章群。
脆くない事はわかっている文字達。けれども、方法は幾らでもある。この瞳に映るのだから、後は紐解けばいい。ソレだけで終わる。
喉を震わせて耳障りな音を鳴らす文字の塊を睨む。
「サーヴァントに加え、妖精紛いまで連れて、儂を脅すか」
「ドコまでがアンタの手の上だ」
「全て――と言いたいが。お主の瞳を知る前までだ」
「……この欠片を埋めて、聖杯となった私に依存している桜を使うつもりだったか」
「さてのぉ。耄碌しとるから記憶に無いわい」
溜め息を吐き出して頭を抱える。もしも、コレが事実でないならば、間桐臓硯は殺してしまった方が話は簡単だ。桜に埋まっている蟲はキャスターがいる。ライダーと彼もいるからこの場で即殺する事も可能だ。
「儂は聖杯戦争に手を出さん」
「随分な譲歩じゃないか。交渉相手に手札を見せてもいいのかい」
「このままじゃとお主は儂を殺すじゃろうて。切れる内に手札は切るもんじゃ」
「…………」
「それに儂を殺したとして――お主が壊れない保証もない」
「なんだそこまで知られているのか」
「……ハァ、やはりお主は阿呆じゃな」
「交渉事が下手だからね」
呆れるように吐き出されたお爺様の言葉に先日言われた事を返してやる。
「小心者の孫は
「臆病者ではないから引き籠もりのお爺様の言質だけで満足しておくよ」
互いに笑みを浮かべて嫌味を押し付ける。後ろに控えているライダーの呆れるような視線が刺さるけれど気にしない。
「さて、じゃあ私は桜が待っているから戻るよ」
「……桜にもう少し怒気を抑えるように言ってもらえんかの? 蟲がざわめいて敵わん」
「耳に羽虫でも詰め込んで耳栓にすればいいんじゃないかな」
「それが祖父を労る言葉か」
「孫に嫌味を言う爺様にはお似合いだね」
椅子から立ち上がり、犬を撫でながら扉へと手を掛ける。
「……あの一部屋なら幾分は足りるじゃろうて」
そんなお爺様の一言をしっかりと身に刻み込みながら、部屋の扉を閉じた。
>>大型犬
妖精モドキ。雄。
>>間桐家必須技能
笑顔の仮面。感情の隠し方。弱音を見せない。
>>ワカメネキの世界観
感想でちらほら出てたので。
人の形を想像して、「これは人間である」という難解な文字で書かれた文章が身体を巡ってます。そんな感じの要素が沢山あって、別の文章が沢山巡ってる状態。輪郭部分が文章だと思えばそれなりに想像出来るかなぁ。とか。
ぐちゃぐちゃな文字だったり、整ってたり、ソレは人それぞれだったり、モノによって違うかったり。
透明な風船に所狭しと文字を書いて、インクで風船を膨らませている。というのが形ある物体。
感想で書いて頂いた編みぐるみ、ってのも間違いではないです。
>>あ……(察し
聖杯を視た影響だと思って下さい。理解を深める事はそういう事です。
>>この物語は将来的にどうなるの?
ハッピーエンドに決まってます。作者名を見れば一目瞭然だルルォ!?