※この作品はR-18です。

桜に落花   作:猫毛布

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 風に流れる雲が薄く、肌を突き刺すように冷たい空気であったが、それも良好に思える程に美しい夜だった。

 徳利を傾け、猪口に透明の液体を少しばかり注ぐ。一口程度の酒を呑み込んで、雅な今紫色の陣羽織に身を包んだ剣士――風流人は熱っぽい吐息を吐き出した。

 

「暗殺者が月夜に酒盛りか」

 

 その風流人に呆れたように声を掛けた女は寒さに耐えれないようで、モッズコートを着込み、白い息を吐き出した。

 侍は女を一瞥する。

 少女であった。年の頃は十と六程度にも見える――と言えど自身に少女の年齢を正しく見破れる瞳があるとは思えない。

 幼さと大人の色香が混ざりあった女である事は確かであった。加えて言うのならば、自身を召喚した女狐と似た雰囲気を纏っている。

 波打つ群青色の髪が朧月に照らされ、少女の吐き出した白い息が空気に溶け込む。

 ふむ、と一拍。風流人は徳利を軽く持ち上げた。

 

「主から言われていたのでな。しがない暗殺者故、致し方なく」

「その主の伝(・)言(・)は、酒蔵を漁れとも言って無ければ、月見酒に勤しめとも言われていない筈だが?」

「然り――が、お(・)楽(・)し(・)み(・)中であった主に気を使ったのだ。それに月が綺麗なのだから酒を飲む理由にはなろう」

「ほぅ……。では、その『お楽しみ』とやらを終え、暗殺者の顔を拝もうと、こんな寒空の下に出向いた主に対しての弁明も聞いておこうか?」

「なに、月など霞む程の美女に酌をしてほしかったのだ」

 

 悪びれもなく言ってのけた風流人に月も霞む美女は眉間に皺を寄せてその顔を歪ませる。溜め息を一つ吐き出してみせ、徳利を受け取り猪口へと酒を注いだ。

 「耳が赤くなっている」という指摘の言葉を酒と一緒に呑み込んだ風流人。藪を突いて出て来るのが蛇とは限らない。小(・)狐(・)であるならば儲けものであるが、こうしてこ(・)こ(・)に(・)居(・)る(・)という事は鵺なのであろう。

 気配を断っていたというのに容易く居場所を看破してみせた少女を小狐と思える程に暢気な思考回路を持ち合わせてはいない。

 

「これではアサシンの面目も丸潰れでござるなぁ」

「ん? ああ、そうか。気配を断っていたのか」

「それに無意識と来たか。本格的にアサシンを廃業せねばなるまいて」

「気にするな。ただ追っただけだよ」

 

 視線を少しだけ空に逸した少女は白い息を吐き出して眼鏡の位置を正した。

 カンラカンラと笑いながら猪口に映る月を呑み込んだ。果たして正体不明(鵺)なのであろう少女――或いはマスター。

 

「しかし、架空の存在が目の前に居るというのは――いや、今更か」

 

 マスターと言えど、繋がり(パス)は無い。召喚した女狐が自身の名を言ったかも知れないが、そこまで思考して風流人――佐々木小次郎は酒と共に思考を嚥下した。

 先程まで眉間に皺を寄せていたマスターであったが、どうやらコチラを楽しげに見ている。その表情も隠そうとしているが、どうやら嬉しさの感情が振り切れているのか笑みを隠しきれていない。

 

「してマスター……こんな寒空の下まで拙者を見に来た要件は?」

 

 そんなマスターを立てる為に些か強引ではあったが話題の変更をする。元々聞きたかった内容ではあるし、違和感はそれ程無いだろう。

 

「ああ、そうだった」

 

 果たして少女――間桐慎二は自身の優秀な手駒(憧れの偉人)を前にすっかりと忘れていたのか、一言そう呟いてから暗殺者に口を開く。

 

「アサシン――

 

 

 

  私の為に死んでくれるかい?」

 

 

 

 

 

◆◆

 

 間桐慎二という少女は魔女であった。魔術的――或いは魔法的に見た話では彼女は知識だけを有している一般人であるのだが、その一般人の枠組みから述べれば彼女は魔女と呼ばれるに相応しい人物であった。

 極悪非道の限りを尽くした訳でも、愉悦の為に人を陥れた訳でも、ましてや人を貶めた訳でもない。ただ自分に親しい人物に手を出そうとした存在に対して容赦が無かっただけだ。

 

 容赦がない、と言っても慎二は同世代の同性達よりも幼い容姿をしている。身長も体重も。バストもウエストもである。

 親しい人物に手を出す人間は大凡異性だ。なにせ義妹が可愛く美人で才女でありながらもそれを鼻にかける訳でもない大和撫子の様な存在なのだ。義妹である間桐桜は近寄ってくる人間の事を雑草が羽虫のように思っている事は置いておくとして。

 

 体型的に幼い慎二が同世代、或いは年上か年下の異性に腕力で勝てるのか? 答えは否である。

 結果的に相手を精神的に追い詰め、責め立て、脅し、手を出せないようにする。それが間桐慎二の所行である。

 当然、先にも言った通り間桐慎二は腕力で異性に勝てない。ならば暴力に訴えればいい。そう思った存在も少なからず存在した。

 それが成功していたならば間桐慎二はエロ同人みたいな事になっていただろう。エロ同人みたいに。

 尤も、少なくない存在は暴力を発揮する事もなく地に伏せてその顔を踏まれ、罵倒された訳だが。

 

 噂は尾鰭と背鰭を備えて人の間を自由に泳いだ。その結果として彼女は恐れられ、魔女へと成った。

 当の本人は魔女と呼ばれる事をそれ程気にした様子もないのだが……。

 

 

 ともあれ、魔女という名称相応に規律に縛られない自由人である慎二が教室の自分の席に座っていた。さも当然の事なのだが、果たして彼女の出席率を鑑みれば朝から昼休みまでずっと授業に出続けているのは他人にとって奇跡に近い。或いは悲劇か。

 黙々と、と言えば聞こえが良いがノートや教科書を開く訳でもなくボンヤリと外を見続けている慎二が授業を受けているかと問われれば微妙なラインであるが……。

 

「慎二。ちょっといいか?」

「……ん、ああ。士郎か」

 

 ボンヤリしている魔女に話しかけたのは何やら困り顔をしている赤毛の妖精(ブラウニー)であった。

 その顔を見て頭の中で「衛宮士郎が困ること」を羅列していく。結果として聖杯戦争の項目が多数を占めてしまい慎二は眉を寄せて、ようやく自身と士郎に視線が集中している事に気がついた。

 なるべく意識もしたくなかった数々の視線を視て溜め息を吐き出してから眼鏡のブリッジを指で少しだけ上げる。

 

「……そもそも士郎が自分の為に動く訳が無いか」

「何か言ったか?」

「君が人の為に動く事を再確認しただけさ」

 

 呟いた事実を聞こえの良い皮肉として言い直す。他人が聞けばいい言葉であるのだが、士郎はこの少女がそんな耳障りのいい言葉を吐く訳が無い事を知っている。

 不満顔の士郎を視てくすりと笑った慎二は席を立った。

 

 

 

 

 

 

 

「今日は委員会の手伝いはいいのか?」

「放課後にはあるけど……別に毎日やってる訳じゃないぞ」

「それは失礼」

 

 屋上のフェンスを指で撫でながら謝罪の言葉が慎二の口から吐き出された。その言葉にさっぱり心が篭っていない事に溜め息を吐き出した士郎は間桐慎二を真っ直ぐ見る。

 波打つ群青色の長い髪。出不精が原因なのか日に焼けていない肌。規律に束縛されない自由人の癖に制服をしっかり着こなしているのは担任である姉代わりが原因なのだろう。

 皮肉屋で、思慮深く、妹が好きな姉。そんな友人を警戒しなくてはいけない。それこそ自分の生死が掛かっている。

 頭では理解している事であるし、今朝もセイバーから助言を貰った事でもある。

 

「それで――……私から見れば士郎は何がしたいのかわからないのだけど」

「……どういうことだ?」

「英霊の名前を看破して、聖杯戦争についても理解している。結果として私は君を殺す理由がある。それは士郎の視点でもわかる事だ。けれども君は警戒していない」

 

 はて、どういう事か。とトボけたように追加して唸ってみせた慎二。

 警戒など出来なかった。こうして態々敵に言い聞かせている彼女を警戒など出来る訳もない。苦笑を浮かべた士郎を視て慎二は少しばかり不満そうな表情を浮かべた。

 

「まあいい。君がどうなろうが私の知ったことではない。それこそ巨漢に戦斧で叩き切られようが、ね」

「……見てたのか?」

「さて、どうだろうか」

 

 クツクツと喉を鳴らして笑う慎二。現場は見ていない。キャスターが使い魔で確認した事である。

 陰謀めいた事が好きな友人だから何処かに隠れて見ていたのだろう、と適当な当たりを付けてた士郎はこの疑問を流す。

 

「……慎二、俺たちと同盟を組まないか?」

「――……士郎が私と戦いたくない、という理由が一つ。セイバーに助言されたのもあるかな」

「……ダメか?」

「やめろ。そんな雨に濡れた子犬の様な目で私を見るな」

 

 しょぼくれた顔で確かめるように慎二を見た士郎。その表情を視界に入れないように即座に顔を背ける慎二。士郎が意識的にしていたならば鼻で笑って貶していただろうが、無自覚でやっているのだから背ける他ない。チラチラと士郎を見ているあたり、かなり効果的であったのは間違いない。

 視線を逸らせたまま肩に乗った波打つ髪を指で弄りながら慎二は口を開く。

 

「ま、まあ私もセイバーと戦うのは御免被りたいし同盟も吝かではない」

「本当か!?」

 

 妙に早口であることを指摘せずに士郎は慎二の返事に食いついた。

 食いついた士郎を抑えるように「ただし」と厳しい声が放たれる。

 

「先日も言ったように、私はライダーの仮のマスターだ。お爺様が実行権を握っているから実際にどうなるかはわからない」

「それでもいいさ」

「それはありがたい言葉だけれど、最悪の場合は君らの懐に入って殺されてしまう事も頭に入れろお人好し」

 

 大きく溜め息を吐き出して呆れる慎二はお人好し過ぎる友人を窘める。

 果たしてこのお人好しは既に二回も死(・)に(・)か(・)け(・)て(・)い(・)る(・)事を忘れているのだろうか。と半ば心配しながらも言葉を追加する。

 

「凛も誘っておけ。三つ巴ならお互いの監視も出来るし、凛も真名を看破した私を野放しには出来んだろう」

「わかった」

「最悪の事態になっても、セイバーとアーチャーなら私とライダーを即時倒せるだろう」

 

 自分が裏切る事を前提とした奇妙な言葉であったけれど、間桐臓硯ならばやりかねない、と慎二の言葉の節々から伝わってくる。

 頭痛の種なのか額を抑えた慎二に士郎は苦笑いを溢す。

 

「まあ同盟の話は凛の参加が決まってから士郎の家で詰めればいい」

「俺の家か」

「広いし、何より魔術師見習いの家だからな」

「?」

「……詳しい事は凛にでも聞いておけ。私も遠坂の家には入りたくないし、凛も間桐の家に入りたくないんだ」

 

 至極面倒そうな顔をしたこの場にいない人物へと役割を放り投げた慎二。士郎は了承の意を伝えながらも未来で遠坂凛に説教じみた説明を受ける自分を幻視した。

 

「……一つだけ情報を渡しておこう」

「なんだ?」

「先日、新都の方で殺人が起きた。まだ表向きには何も発表されてないがね」

「……このタイミングで話すって事は」

「事実は分からないが、恐らくな」

 

 目を伏せて小さく息を吐き出した慎二は首を横に振り口を開く。

 

「釣りである可能性もあるから、同盟がキチンと組めるまでは大人しくしておけよ」

「……ああ」

「キャスター相手なら早急に方を付けるべきだが……居場所も特定出来てない。私側で情報は集めておくよ」

 

 疲れたように息を吐き出した慎二を見て、彼女がボンヤリしていた理由を理解した士郎。辛辣な物言いであったり、皮肉を口にする事もあるが間桐慎二は優しい人間である。

 

 そんな二人の耳にチャイムが響き、士郎は顔を上げる。

 

「教室に戻るか」

「私はもう暫くここでぼんやりしておくよ」

「そうか」

 

 口元を隠して小さく欠伸をした慎二に苦笑をして士郎は屋上を後にした。

 

 手で隠された歪んだ慎二の笑みを見ることも無く――。




>>優秀な手駒
海産姉「(ふぉぉ!? 佐々木小次郎!? キャスターの召喚だから誤差が出ると思ったけれど私に嬉しい誤算だ! 日本由来の英霊か。アサシンクラスを持っていたとは驚きだ。いいや、そこもメディアの召喚という理由があるのだろう。ならば幕末を彩った新撰組各員や坂本竜馬、木戸孝允(桂小五郎)。戦国時代の勇将達……ああ! クー・フーリンと真田信繁(幸村)の夢の対決など見ものではなかろうか! ああ! 実に惜しい、が。佐々木小次郎もまた捨てがたい。それこそ神話性も無く武術のみで座に至っているのだ、その剣術は推して知るべし。けれど私にも矜持がある。この程度で取り乱す訳にもいかない。深呼吸をして、気取られないようにしなければ……握手とかしてもいいのかな?)暗殺者が月夜に酒盛りか」
 尚バレている。

>>間桐慎二はエロ同人みたいな事になっていだろう! エロ同人みたいに!
桜「見たい(切実)。でも強姦される義姉さんは見たくない……私が襲えば万事解決なのでは?(真顔」

>>間桐慎二を(恋愛的性的に)狙う存在
 そんな物は存在していません。たとえ存在していたとしても、すぐに居なくなるので存在していません。フシギダナー。

>>「ま、まあ私もセイバーと戦うのは~~」
 ツンデレ感。

>>実行権はお爺様が握ってる。
 オッ、ソウダナ!
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