※この作品はR-18です。

異聞三国志   作:ポリスチレン(C8H8)n

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揚州の旅人たち

 風に乗った潮の香りが、鼻をくすぐる。

 

 遥か彼方まで、海が一条の線を引いていた。

 

 広大な河口が見える。ゆっくりと流れ、地を侵し、それでも足掻くことも出来ずに、海に流れ込み、その一部となり果てる河。遥か彼方からの流れはここで事切れるのだ。

 

 その先には、果てし無いほどに広がる海。いったいこの海は、どこまで続いているのだろう。もし果てまで行けたら、そこにはいったい何があるのだろう。

 

「兄さん、どうしたの?ずいぶん遠くを見てるけど。」

 

 清らかな女の声が話しかけてきた。まさに水に溶けたようにきれいで流れる声。水音に交じり、耳に流れ込んでくる。

 

「いや、何でもない。気にするな、静(せい)。」

 

「そう。なら、別にいいけど。」

 

 この話は終わり、とでも言うようにこちらに背を向け、川の流れに逆らう方角へ歩を進める静。その横に並んで、自分も歩みを再開した。

 

 静はあまり多弁ではなく、こうして二人で歩いていても、あまり会話はない。だが、彼女がそばにいる。そのたった一つのことで心はどこまでも穏やかでいられる。守るべき家族。そうした存在と互いに支えあいながら生きている現状は、きっと幸福なものなのだろう。

 

 旅を続けて何年経つだろうか。四年、いや五年か。自分は今よりもっと若く、静は幼いといっても過言ではなかった。最初は商人に頼み込んで同行させてもらっていたのを思い出す。彼がいなければ、自分の命はなかっただろう

 

 呂苞殿。恩人の名だ。字は知らない。今はどこにいるのだろう。かなり年嵩だったが、元気にしているだろうか。

 

「妹を大切になさい。どんな時も誇り高くありなさい。自分を磨くことを怠らないように。また、いずれ何処かで遇おう。」

 

 それが別れの言葉だった。結局、二年も世話になってしまった。

 

どうして自分らを拾ってくれたか、それは最後まで教えてくれなかった。

 

 それ以後は、各地を放浪し、日銭を稼ぎ、時には人を殺し、獣を殺し、また時には人の命を助けて、何とかここまで生きてきた。

 

 妹の静はいつしか立派な女性となり、いつも自分を支えてくれていた。

 

 静の頭が、自分の二の腕辺りにあった。丁度いい高さだ。そこに手を乗せ、頭を撫でてみた。細く、綺麗な髪の感触が手に心地良い。

 

 静が覗き込むようにこちらを見た。一見すると無表情だが、頬が少し赤くなっていた。

 

「なんだ静、恥ずかしいのか?」

 

「違う。断じて。絶対に。」

 

「じゃあ、怒っているのか?」

 

 それも違う、と否定された。だが、言い方が先ほどより柔らかだ。つまりは、素直になれなくて図星を強く否定した、ということか。

 

 この恥ずかしがりやめ。まったくもって可愛い奴だ。もっと撫でてやろう。

 

「やめろ、ぐりぐりしないでっ。」

 

 言葉は強いが、声は小さく、手を振り払ったりはしない。可愛い。もっと悪戯したくなってしまう。

 

 手を下へ動かし、髪の中に手を入れ、うなじの辺りを触ってみた。すると、なにか声にならない、悲鳴のような言葉を発して、首を隠しながら静が逃げ出してしまった。

 

 ふと、長く伸びた影が目に入った。振り返ると、いつの間にか日が沈みそうになっている。そこまで長く歩いた覚えはなかった。正直、誤算だ。昼が少しずつ短くなってきているせいだろうか、夜も冷えるようになってきている。余り野宿はしたくはない。

 

「兄さん、町が見えてきたよ。」

 

 先ほどまで逃げ回っていた静が、立ち止まり、影の伸びるほうを指した。その向こうには、炊煙の上がる家々が見えた。

 

「おう、今日は運がいいな。あそこで宿を取ろう。野宿は嫌だろう?」

 

 そう問うと、静は静かに頷いたあと、口を開いた。

 

「あそこは、多分銭唐県だね。長江の河口から、だいぶ南に来たし。」

 

「銭唐県、か。なかなか栄えていて、いい場所じゃないか。」

 

「そうだね。揚州(いなか)にしては、人も多いみたい。川の近くだからかな?」

 

「多分な。」

 

 川には、自然と人が集まってくる。そうして魚を取り、畑を作る。水は遥か昔から生活すべての根幹なのだ。

 

「急ごうか。」

 

 頷く静。そうして、二人でまた歩き出した。

 

 町に着いた頃には、日は完全に沈んでしまっていた。

 

 暗闇に篝火がぽつりぽつりと浮かんでいる。とにかく、宿を探すことが先決だ。こういうところでは、大抵、商人や、自分らのような旅人を目当てにした、酒場を兼ねた宿がある。そこでは基本的に物々交換、すなわち絹や布、食料などはもちろん、場合によっては力仕事や、さらに状況を限定すれば躰を払うことで、食事と一緒に数日泊めてもらう、というような形がとられている。貨幣がきちんと流通しているのは、都である洛邑周辺のみであり、一般的な人種である漢民族と、異民族である山越族とが混ざって生活しているこんな辺境では、より確実に財を得る方法としてこうした手法がとられている。

 

 しかし、町を歩いていると、どうにも違和感がある。何故だろうか。

 

「ずいぶん、静かだね。人が全く出歩いていない。」

 

 静が呟くように言った。なるほど。違和感の正体はそれか。篝火がよく焚かれているおかげで、夜でも月明りを頼ることなく歩けている。にもかかわらず、二人以外に誰もいないのだ。家に閉じこもっているのだろうか。それにしても何故。

 

「おい、おーい!そこのお二人さん!こっちだ、こっち!」

 

 思考をかき消すように、左手から声がした。大きく、豪快な声だ。他に人がいない以上、呼ばれているのは自分らだろう。そう思い、そちらを向くと、焚火の上に大きい何かを置いてあるそばに、人の影がある。呼ばれたのだ、他に行く当てもない。そちらに向かって歩き出してみた。

 

「おー、やっぱりあんたら旅の人だね。一目でわかるよ。きれいな剣じゃないか。」

 

 無精髭がよく似合っている大男が、人懐っこい笑みを浮かべてそこにいた。

 

「貴殿こそ、旅の方ですな。その腰の刀、とてもご立派ですよ。」

 

「おう、有難うよ。しっかし、その、なんだ。」

 

 何やら男が狼狽えている。何かまずいことでも言ってしまっただろうか。

 

 そう思っていたら、男は居心地が悪そうに頬を掻きながらまた話し始めた。

 

「なんか、その、そういう仰々しいのに慣れてなくってな、普通に呼んでくれねぇかな?」

 

 そういうことか。外見からすれば此方のほうがどう見繕っても若年だが、あまりそういうのを気にしない人なのだろう。

 

「では、何と呼べばいいかな?」

 

「韓当だ。字(あざな。中華系の人がかつて名乗った、自分で自分につけた名)は義公。どっちで呼んでくれてもかまねぇ。んで、お兄さんの名前は?あと、お嬢ちゃんの名前も教えてくれや。」

 

「私は姓を孫、名を堅、字を文台という。こちらは、妹の孫静。」

 

「……字は幼台です。」

 

 初めて、韓当の前で口を開いた静。だが少し拗ねたような口調になっていた。もしかしたら自分で名乗りたかったのだろうか。もしそうだとしたら、少し悪いことをしたな。

 

「お、ようやっと喋ってくれたな、お嬢ちゃん。おっさん嫌われたのかと思ったわ!」

 

 豪快に笑う韓当。陽気で話していてあきなさそうな男だ。

 

 改めて韓当を見てみると、やはり太い手足や厚い胸板が目につく。それに見合うように刀も刀身が分厚く、韓当の印象にぴったりだ。

 

 そして、もう一つ目についたものがある。韓当のすぐそばにある、大きな土鍋だ。火にかけられたその中で粥がぐつぐつと煮え、白い湯気を立ち昇らせていた。

 

 外で火にかけているのは火事への対策だろう。となると、この近くには。

 

「義公殿、すぐ後ろの建物は、宿でよいだろうか?」

 

「ああ、そうだ。あんたらがきょろきょろしてたもんでな。声をかけたってことだ。」

 

「それは、厚情痛み入る。では、われらは一度失礼しよう。後でまた。」

 

「おう、またなー。」

 

「有難う御座いました。失礼します。」

 

 静も礼を言っているのを確認してから、宿の戸を開いた。

 

 宿の中には、思いのほか人がいた。見た限りでは、二人組が二つ、四人組が一つ、五人組が一つで、席はほとんど埋まっていた。それに一つ、外と同じく異様なところがある。誰も彼もが腰に剣をぶら下げ、槍を持ち込んでいる男すらもいる。商人や地元の農民などが一切いないのだ。これは、何かがおかしい。

 

「三晩、泊めてほしい。」

 

 そう言いながら下げていた袋から、腰の剣とは違う、粗雑な剣を二振り店主に渡す。依然襲ってきた賊を殺して奪ったものだ。数を恃んだのか、三人で襲ってきたが、二人を殺すともう一人は尻尾を巻いて逃げ出したのをふと思い出した。

 

 粗雑とはいえ、鉄は貴重だ。相場より大分高いが、邪魔なものを渡している、というような意味合いもある。快諾するだろう。

 

「いいだろう。五番の小屋を使え。表の飯も、好きに食うといい。」

 

 どうやら思ったとおり、うまくいったようだ。木製の椀と匙を二組受け取る。

 

「お腹すいたね。細かいことは後にして、ご飯にしよう。」

 

 静がそう言いながら、また門を潜ろうとする。すると、韓当が戻ってくるのと鉢合わせした。

 

「なんだ、お前らもまだ飯食ってなかったのか?」

 

「……はい。」

 

 少したじろぎながら返事をする静。すこし韓当が近かったのだろうか。

 

「じゃあよ、中で俺の仲間が待ってるんだが、一緒に食わないか?飯は大人数の方が楽しく食えるってもんだろ?」

 

 韓当の手には、湯気の上る大きな升があった。なるほど、これに粥を入れておき、何人かで分けよう、ということか。

 

「是非とも、ご一緒させていただこう。静、いいよな?」

 

「うん。わかった。」

 

「よっし、決まりだな。さあ、戻ろうぜ。飯だ飯だ。」

 

 韓当が嬉しそうに声を上げ、大きな歩幅で歩き出した。

 

 そうして宿にまた戻ると、韓当はそこだ、と言いつつ一つの席を顎で指す。門から見て、一番奥の席。そこには、二人の男が並んで椅子に腰かけていた。一人は口角に笑みのようなしわが寄った男。もう一人は眉間にしわの寄った、少し気難しそうな男だ。何やら話し込んでいたようだが、韓当の姿を認めると、会話をやめこちらを向いた。

 

「お待たせお二人さん。念願の飯だぞー。」

 

「んむ。すまぬな義公。……してそちらの二人は一体?」

 

 眉間にしわのある男が聞いた。これは韓当ではなく、自分が答えるべきだろう。

 

「孫堅と申します。さきほど、道に迷っていたところを韓当殿に声をかけられまして、この宿を見つけることができました。さらに、食事に誘われたので今ここにいる次第です。もしお二人がよければ、ともに席を囲いたいのですが、よろしいでしょうか?」

 

「なんだ、また義公が人を誘ってきたのか。ということは、君は義公の友だね?」

 

 今度は口角にしわのある男が訪ねてきた。何と答えるべきか迷い、韓当を見る。それに気付き、頷きながら唇の右側を持ち上げた。つまりは、そういうことだろう。

 

「左様です。」

 

「然らば、私たちの友でもあるな。私は程普だ。字は徳謀。よろしく頼むよ。」

 

「儂は黄蓋だ。字は公覆。あぁ、わしらにも韓当と同じように接しもらって構わんぞ。」

 

 眉間にしわのある男が続いて名乗った。韓当がこうして人を誘うのは、よくあることのようだ。

 

「では、失礼して。字は文台と申す。ほら、静。ちゃんと名乗りなさい。」

 

「妹の孫静です。字は幼台。よろしくお願いします。」

 

 頭を下げる静。こいつは基本的にあまり人に慣れない。いい奴なのだが、冷たい人間と勘違いされないか、いつも不安になる。

 

「うんうん、幼台ちゃんだね。よろしくな。」

 

 満面の笑みで答える程普。どうやら、今回は杞憂で終わりそうだ。安心した。

 

「ほらほら、挨拶も済んだしよ、飯にしよーぜ、腹減っちまったよ俺ぁ。」

 

 そういいつつ椅子に座り、升から小椀へ粥をよそう韓当。それに倣い、皆で粥を取っていく。

 

正面には左から黄蓋、程普、韓当という並び。むかいに向かいの椅子に孫堅が座り、後に続いて右隣に静が座った。

 

 匙で粥を掬う。そうやら、山菜も一緒に煮込んだらしく、緑の葉が米の中に浮かんでいる。息を吹きかけ、少し冷ましてから口へと運んだ。すると、米と山菜だけでは作れないであろう旨味が口内を覆いつくした。この舌の感触は、おそらく川魚だろう。煮込まれた身は簡単に崩れ落ち、溶けていく。嚥下した。そうすると今度は山菜の良い香りが鼻を抜けていった。なるほど、この香りで魚特有の生臭さを消しているのだろう。

 

「こいつぁ、旨いな、おい。」

 

 韓当に全面的に同意だ。単純ながらも、工夫が凝らされた良い飯だ。

 

 隣で、息を吹き付ける音が続いている。静だ。相変わらず、熱いものが苦手だ。ずいぶんと念入りに冷ましている。そんなに冷ますと味が落ちないだろうか。こういうのはある程度熱いほうが旨いと思う。余計な世話かもしれないが、どうせなら旨いものを食べてほしい。

 

「おい静、そんなに冷ます必要ないだろ。そろそろ食べたらどうだ。」

 

「だって、熱いの嫌だし。」

 

 猫舌が恥ずかしいのか、拗ねたように言う静。

 

「まあまあ。ゆっくり食べさせたらいいじゃないか。粥は逃げないのだから。」

 

 そう程普が答える。その瞬間だった。

 

 宿の戸が開き、新しく男が一人入ってきた。黄蓋たちより少し年は若いだろうか。細めの身体に、きちんと整えられた綺麗な髭。衣服にも、汚れはほとんどない。旅人でも、農民でもなさそうだ。それなりの身分の人間なのだろうか。さらに初めの男に侍るような形で、剣を佩いた男が二人続いてきた。

 

「御出ましのようだな。」

 

 黄蓋が口を開き、そう言った。この宿にいるすべての旅人たちが彼を待っていたようで、視線が一転に集まっていた。だが、こちらにとっては、まるで要領を得ない状況だ。見れば、静も匙を咥えたまま怪訝な顔をしていた。

 

「公覆殿、彼は一体、何者なのだ?」

 

「なんだお主、知らぬのか?彼はこの銭唐県の長だ。」

 

 何でもないように答える黄蓋。だが県長ということは、この村一帯を取り締まる統治者、ということになる。令ではなく長ということは、銭唐はあまり人口が多くないのだろう。それでも孫堅のような身分なんてものが欠片も存在しない者からすれば、相応の大人物だ。そんな人物がなぜこんな場所に。

 

「何も知らぬようだな。まぁ、今にわかるであろうよ。」

 

 孫堅も怪訝な顔をしていたのか、また黄蓋にそう言われた。少し待ってみよう、という気になった。

 

 そして、男は口を開いた。

 

「皆の者、よく集まってくれた。私がこの銭唐を治める、県長の朱君理だ。」

 

 よく通る、まっすぐ伸びた声だ。

 

「多くの者は高札を見てくれたと思うが、今、この銭唐の沖に海賊が侵入、略奪の機会を窺っている。これは由々しき事態であり、けして看過できるものではない。ゆえ、貴殿らの力を借りたい。自ら志願した貴殿らは、相応の腕自慢であると見込んでいる。それに見合った褒賞も用意してある。従軍を希望する者は、後ろの二人に続いてくれ。」

 

 孫堅たちを除く、全ての旅人たちが腰を上げた。

 

 なるほど、これですべてに合点がいく。人の出歩かない屋外。物々しい宿。すべてが賊の影響と考えることができる。そして、褒賞が出るというのならば、孫堅がとるべき道も一つであろう。

 

「兄さん、行くの?」

 

「無論。この機を逃す真似はできない。」

 

「でも、いやな予感がする。きっと、軽々しく受けないほうがいいよ。」

 

 深刻な顔をしている静。こいつがこういったことを言うのは、勘などではなく、様々な状況を考慮し、先を読んで言っている。口下手なので、何故そういった考えに至ったのかは話さないが、いつも的を射てくるのだ。正直、孫堅よりも頭が回る。静に命を救われたこともある。故に、全幅の信頼を置いていた。

 

「予感って、なんだそりゃ幼台。詳しく聞かせてくれや。」

 

 韓当が口を挟んできた。そう聞くのは当たり前の権利だ。韓当たちも、恐らくこの褒賞を目当てに銭湯に来たのだ。聞き捨てならない発言だろう。

 

 だが、静がきちんと説明できるだろうか。非常に不安だ。

 

「えっとその、まずは、県長さんが、従軍って言ったところ……です、おかしなところは。つまりこれは、戦争になる、って意味だと思う。」

 

 握った右手を唇に当て、少しずつ考えを整理しながら話しを続ける静。

 

「でも、この宿に着くまで、兵士なんて一人も見かけなかった。これはつまり、えっと。」

 

 言葉に詰まる静。それを助けるように程普が言葉を発した。

 

「戦争の準備が本当にできているのか、ということかな?」

 

「うん、そう。有難う、御座います。それから、兵だけじゃなくって、船も見えなかった。人を殺すための、戦うための船。漁船じゃ戦争なんかできない。……だから、海賊とは戦ができない。」

 

 そこまで言って言葉を切り、一息置く静。少し疲れたのだろうか。だがそれでも、また懸命に言葉を紡ぎだした。

 

「だからこれは、えっと、県長が手に負えるような案件ではないのかも。あくまで私の予想だけれど。」

 

 やはり、頭のいい娘だ。頼りになる。皆も納得した表情をしていた。

 

だが、孫堅には一つだけ、たった一つだけ、彼女の言を聞いて勝機が浮かんだ。だが、まだ話せない。

 

孫堅は、孫静の話を半分も聞いていなかった。ほかにもっと気になることがあったのだ。

 

ふと、入口の方から物音が聞こえた。そして、気配が近づいてくる。声をかけられた。

 

 

 

 

 

「その通りだ。君、名前は?」

 

 その声が、自分にかけられたものだとは思わなかった。だが、朱君理と名乗っていたか、彼の目は、明らかに自分を見ていた。

 

「孫幼台、です。」

 

 今日はたくさんの人と知り合う日だ。正直、少し疲れてきた。だが、理由があって話しかけてられているのだ。そんなことを理由に会話を断ることはできない。

 

「そうか。幼台殿、先ほど君の言っていたことはほぼ真実だ。本来ならば私ではなく、郡の太守が出てこなくてはならない規模の盗伐だ。」

 

「じゃあ、なぜあなたがここに?」

 

 孫静の問いかけに、朱君理は苦虫を噛み潰した顔をした。あまり話した話したくないことなのだろう。そう思っていたら、代わりに黄蓋が口を開いた。

 

「直訴しても、太守は動かなかった。代わりにお主が私兵を率いて、己の銭唐を救わんとしている、というわけか。その気持ちは、痛いほどによくわかる。」

 

「お気持ちは有難い。だが、どうして私の気持ちがわかると?」

 

「儂も、あと徳望もな、県の役人だったのだ。統治する場所は違ったがな。己の利権と蓄財しか考えぬ役人、農民から搾取するばかりの仕事、金で買った官職に縋りつくばかりの醜い督郵。嫌になってな、全部ほっぽり出した、ということよ。」

 

 聞き方によっては、逃げた、と捉えることも出来るかもしれない。けれども、今日の安寧を捨て去り、明日の未知へと逃げ込んだその度胸を責めることは、誰にもできないだろう。

 

 黄蓋は続ける。昔を懐かしむように、忌むように。そして、今朱治にすべてを話すことは、大切なのだと、そう言わんばかりに。

 

「そうして旅を始めてな、徳望と出会った。同じ境遇でな、すぐに意気投合したよ。一緒にいるうちに、義公と会ったのだ。こいつは向こうから絡んできおった。まるで古い友人のようにな。今も昔も、不思議なやつよ。」

 

 それが、三人の過去。人には、皆歴史がある。ごくありふれたものから、悲哀極まる壮絶なものまで。彼らは、心を許せる友と出会っている。故に、苦しいながらも、きっと幸せな人生だったのだろうと思う。

 

「だがな、治めるべき土地から逃げたこと。その後悔が心の奥底にこびれついて離れん。だから君理殿よ、儂に手を貸させてくれ。罪滅ぼし、などというものではない。儂はな、もう逃げたくないのだよ。」

 

 過去から。救いを求める声から。そして、己の罪から。もう逃げないと。そう黄蓋は言っていた。

 

 そしてそれに応える朱君理の返答は無論一つで。けれど、互いに信頼がほしい。己を吐き出した。だから、お前も我等に教えてくれと。

 

「君理殿、お主はどうやって勝つつもりなのだ?気持ちだけでは戦に勝てんのだ。だから、すべてを話してくれ。」

 

 訪れる静寂。黄蓋の雄弁は終わった。後はこの勝利へと焚きつけられた心を、どうやって真実、勝利へと変えるかだ。

 

 一呼吸おいて、朱君理が口を開いた。解りきっている、暗く、重い話を。

 

「兵の数は、私の独断に賛同してくれた二五名。すべて騎兵だ。訓練は行き届いているが、数は揃えられなかった。それから馬車が一つ。兵糧の輸送に使っている。二五名で一月は持つ量がある。船は孫静殿の言う通り、用意できなかった。」

 

 そして、また一呼吸。朱君理の面持は厳しかった。

 

「敵兵の数は約百。小型船が三、中型船が一。常に船上で生活しているため、操舵は巧み。水上では、勝ち目はないだろう。」

 

 彼我の戦力差は絶望的だ。四倍の敵に、地の利まで敵にある。

 

「……なら、陸に誘い出すしかない。でもどうやって?」

 

 問いを投げた孫静に、皆が思うことを話し出した。しかし、決定的な案は生まれない。

 

 そもそも、こちらはこの銭唐を守らなければならない。町に一歩でも入り込まれたら、すなわち負けといってもかまわない。

火を放たれ、娘は攫われ、男は殺される。それが少しでも起こったら、こちらの負けだ。かといって、河の上ではどう足掻いても止められない。

 

 すなわち、勝機は途方もなく小さいと、そう実感せざるを得ない。

 

 訪れる暗く重い沈黙。誰もが敗北を予感したその瞬間、一人の男の小さな声が、五人にだけに聞こえた。

 

 調子を合わせろ。

 

 声の主は孫堅。聞き間違えることはありえあない。今思えば、彼は先ほどから一切口を開いていなかった。

 

 何かが変わると、そう根拠のない予感がした。

 

「あぁ、やめだやめだ。暗い話はこれまでにして、明るい話をしよう。君理殿、恩賞の話をしたいのだが、よろしいだろうか。」

 

 本来ならば。この状況で何を呆けたことを、と一蹴されるべき話だ。だが、それでも朱君理は孫堅に合わせた。

 

「あぁ、私の館にな、いざという時のために貯めていた銭がある。それを、ここですべて使うつもりだ。皆に分配すれば、当面は金に困らぬと思うぞ。」

 

「それは有難い。是非とも頂きたいが、俺を含めて、誰も策は浮かんでこない。どうだろう、ここは十日後にまた皆で集まり、改めて軍議とする、というのは。」

 

 それに、皆が同意した。孫堅の言に理があったからではなく、孫堅に賭けたのだ。この男は何かを起こしてくれると。皆がそう思ったから、彼に賛同したのだ。

 

 その後は他愛のない会話をしながら、残った粥を平らげた。長い話の中で少し冷めて食べやすくなっていた。

 

 互いにきちんと自己紹介もしあった。朱君理の名は「治」である、ということも聞いた。

 

 孫堅と孫静の生い立ちも、簡単にではあるが、話すことになった。

 

 二人で旅をして五年ほどになること。この銭唐に来たのはただの偶然であること。話そうと思えば色々と話題の種はあるが、孫堅はいつも多くを話さない。過去を詮索されるのが嫌いなのかもしれない。それとも何か、負い目のようなものを感じているのか。

 

 何かを感じ取ったのか、皆も余計な詮索はしなかった。

 

 いつしか、朱治が兵たちのもとへ帰っていくと、他の皆もそれぞれに別れを告げ、宿屋に借りた小屋へと入っていった。

 

 小屋には、簡素な寝台と文机がそれぞれ二つずつあった。悪くない設備だ。こちとら安全な寝床が確保できればそれで十分なのだ。

 

 寝台に座ると、ふと大切なことを思い出した。これはもしかしたら大変なことじゃないだろうか。

 

「兄さん、どうしよう。ここ、三日しか泊まれないよ。十日も居られない。」

 

「え?」

 

 目を見開く孫堅。完全に失念していたようだ。

 

「あー、そっか、うん、そうだよなーうん。……どうしようか?」

 

「質問で返さないでよ。」

 

「朱治殿に前借するかな。」

 

「なんか、情けないね。」

 

「言うな。悲しくなってくる。」

 

 戦の話で恰好つけていたのにこれだ。現実は非情。貧乏暇なしである。

 

「明日、朱治殿に掛け合ってみよう。探せばどこかに居られるだろう。明日から忙しくなりそうだし、静はもう寝なさい。」

 

 木窓に手をかける孫堅。孫静は寝台に仰向けに倒れた。柔らかな布を隔て、木の感触が背中に伝わる。ゆっくりと眠りたいところだが、油断はできない。もしかしたら今日、海賊共が夜襲を仕掛けてくる可能性も捨てられないのだ。

 

 頭の片隅で気を保ちながら、まどろみの中へ落ちていった。

 

 

 

 

 

 海に生まれた波が、船を心地良く揺らしていた。

 

 月明りに照らされた小舟が、自分の乗る船に滑るように近づいてきた。あの船には、放った間者が二人乗っている。

 

 報告を受けるために、小舟に板で橋を架け、二人を出迎えた。

 

「奴ら、油断しまくりですぜ、大将。」

 

 報告を受けると、最初にそう言われた。その後も全容を聞くと、本当に隙だらけであることが伺えた。

 

 まず、我等がすぐには動かないと高をくくっている。少なくとも、やつらは十日間動かないつもりらしい。兵数も勝っている。こちらは己を含めて、九四人。敵は三十人ほどだという。

 

 だが、決して油断はしない。必ず勝ち、こいつらを食わせなければならないのだ。我らは海賊。敗北はすなわち死を意味する。

 

「二人とも、引き続き諜報に当たれ。何かあったら一人は報告、もう一人は残るように。明後日の夜までにお前たち二人が戻らなければ、そのまま銭唐に攻め入る。」

 

「わかりました。任せてくだせぇ。」

 

 そうして、夜は更けていく。

 

 

 

 

 

「夜分に失礼、御二人に聞きたいことがある。」

 

 背後から声がした。振り向いたが、月明りだけでは相手の顔を窺うことはできなかった。

 

「何の用だよ、忙しいんだが?」

 

「なに、時間は取らせんさ。」

 

 そう言いこちらに歩みを進めてくる男。その影が沈んだと思ったら、顎に強烈な衝撃が走った。

 

 地面に背中から倒れ、臓腑がかき乱されるような感覚がした。息ができない。

 

 大きな音がした。砂煙が顔にかかる。

 

「お前、なかなか丈夫だな。まだ起きてるのか。」

 

 理解が及ばない。何が起きているのだろうか。

 

「なに、しやがる。」

 

「まあ殺しはしない。言っただろう?聞きたいことがあるんだ。」

 

 死なれては困る。それは、死なさず生かさずの暴力を意味していた。

 

「やめろ、やめてくれっ。」

 

「素直に答えてくれれば俺も楽でな。いいか?素直に、話せよ?」

 

 頷き、男は俺の頬を剣の腹で叩いた。

 

 

 

 

 

 朝日が海の方角から、赤い光を放ちながら少しずつ昇ってきていた。

 

 固まった肩を伸ばしてほぐす。寝ている間に夢を見た。孫堅が何かしていたような気がするが、夢はいつも忘れてしまう。

結局昨晩は、あまり深く眠れなかった。身体も頭も重い。そういう日は、朝から水浴びをしてしまうに限る。井戸で水を汲み、桶に流し込んだ。それを持って、小屋の裏手に歩いた。

 

 周りに人がいないことを確認してから、帯を解き、上衣を脱ぎ、さらに下に着ていた貫頭衣の胸口の部分から腕を通し、上半身を露出させる。朝の程よく冷たい空気が、身体に気持ちいい。

 

 晒は巻いたままだが、もし誰かに見られたら少々恥ずかしいので、手早く済ませてしまいたい。後ろ髪を耳の上辺りで結び、水を手で掬い、顔と髪にかけた。

 

 冷たい水が、肌を刺す。すぐに頭が冴えた。乾いた布で拭いていき、そのまま顎の線や、耳、額などを念入りに拭く。旅をしているので、妥協はしているが、出来得る限りで綺麗にしておきたかった。

 

 一度布を濡らし、絞ると、首から下を拭き始めた。晒が少し濡れてしまうが、後で変えれば問題ないだろう。

 

 上半身を拭き終えると、下半身を拭くため、貫頭衣の足の部分を持ち上げていく。腿が見える辺りで、二度内側に巻いて、ずり落ちないようにしておいた。

 

 また布を濡らして絞った。そうして、下半身を拭いていく。終えるころには、上半身の水気はある程度消えていた。恥部は外で拭くわけにはいかないので、水を捨て、小屋に戻った。

 

 孫堅が寝ていることを確認してから、衣服をすべて脱いだ。そして、絞った布で外で拭けなかった部分を綺麗にした。孫堅が起きるかもしれないが、孫堅なら見られることにあまり抵抗はない。現に、傷の治療のために裸を見せたこともある。

 

 浅傷の痕に手を這わせる。孫静が大きな傷を負わずに済んでいるのは、孫堅がいつも守ってくれているからだ。彼がいなければ、どこか下らない場所で、ろくでなしの男に純潔でも散らされ、殺されていただろう。

 

 身体を拭き終わると、晒や衣服もすべて変え、帯を締めた。そして、剣を腰に挿す。孫静の剣は、少し短く、握った手を守るために、鍔に返しがついている。恐らく、近く殺し合いになる。己の命は己で守らねば、孫堅の足を引っ張ってしまう。自分はもう子供ではないのだ。昔の、孫堅に守られていたばかりのころとは違う。

 

 しかし、その孫堅だが、随分と気持ちよさそうに寝ていた。海賊に襲われるとか、そういったことを考えなかったのだろうか。私はそのせいで殆ど眠れなかったのに。ちょっと身勝手だが、腹が立ってきた。昨日、うなじを触られた借りもある。悪戯して起こそう。そう思い、手に持っていた濡れた布を広げて、孫堅の顔にかぶせた。

 

 すると、軽く叫び声をあげた孫堅が、怠慢な動作で顔に掛けられた布を剥がした。

 

「お早う兄さん。」

 

「あー。お早う、静。なに、これ。冷たいんだけど?」

 

「悪戯。」

 

「俺、なんかやらかしたっけ?」

 

「昨日のうなじの借りと、ぐっすり眠っていたから。」

 

「なんだよ、眠ってちゃ駄目だってのか?」

 

「だって今日は、やらなきゃいけないことが沢山あるでしょ。早く起きなきゃ。」

 

 そう言うと、孫堅は少し不満そうな顔でこう言葉を発した。

 

「半分は、終わったぞ?」

 

「は?」

 

 その、やらなきゃいけないことが、だろうか。

 

 まったく要領を得ない。何を言っているのだろうか。

 

「間者がいただろ?二人組の。夜中にな、絞めておいた。」

 

「意味が解らない。夜、居なかったの?」

 

 頷きで返す孫堅。確かに、昨日は私が先に眠ったけれど。

 

「というかおまえ、起きて俺にお帰り、って言ってきたぞ。」

 

「そんな覚えは。」

 

 無い、と言おうとして、言葉が詰まった。夢を見た。いや、正確には夢ではなく、寝ぼけていた私が見た現実。孫堅が返ってきたところを、あやふやにだが覚えている。

 

 だが、疑問はほかにもある。

 

「間者って、そんなの本当にいたの?」

 

「気づいていなかったのか?」

 

 今度はこちらが、頷きで返した。正直、孫堅がよくわからない。彼は一体、何をするつもりなのだろうか。

 

 軍議の間、まるで言葉を発さないと思えば、いきなり調子を合わせろと、小声で発したり、話の脈絡を無視して褒賞の話をしだしたり。その行動が、すべて間者を嵌めるためと考えたら?

 

 いや、まだわからない。もっと、情報が必要だ。全体が見えない。

 

「兄さん、一体何を考えてるの?」

 

 孫堅の顔に微笑みが浮かぶ。そして、ゆっくりと話し始めた。

 

 

 

 

 

「兄さん、無理やり起こしちゃってごめん。」

 

 朱治とその兵がいる宿舎へ向かう途上で、静に謝られた。生真面目な子だ、勝手に自分を責めているのだろう。

 

「気にするなよ。どうせ適当な時間で起きるつもりだったんだ。」

 

「でも。」

 

 まだ謝ろうとする静の頭に手を置いた。そして言葉を出せないように強く撫でる。

 

「やめてよ、もう子供じゃない。」

 

「俺から見ればまだまだ餓鬼だよ、お前は。いつまでも話を引っ張るあたり、まさに子供だな。」

 

 恨めしそうに此方を睨む静。だが、撫でられて恥ずかしいのか、少し赤くなった頬のせいでまるで迫力がない。まるで威勢だけ良い小動物のようだ。思わず頬が緩む。

 

「もういい。早く行こう、兄さん。」

 

「拗ねるなよ。」

 

「拗ねてない。」

 

「可愛い奴だな、まったく。」

 

「うるさい、黙れ。」

 

 素気ない言葉には慣れている。長い流浪で染みついた、ぶっきらぼうな言葉に悪意はない。これがいつもの二人の会話なのだ。

 

 

 

 

 

 町のはずれに、朱治の宿舎はあった。狭い柵の中に詰めあうように天幕が六つ張ってある。簡素な陣だ。

 

 見張りの兵に用件を伝えると、すぐに朱治が出迎えてくれた。少し大きな天幕に案内される。大きな机に、銭唐一帯の地図が広がっていた。

 

「これから朝食にしようと思っていたとこれでね。貴方達もどうだろうか」

 

「ありがたい。ご随伴に預かろう」

 

 しばらくして、湯気の上がる椀が供された。中には菜の浮かぶ、湯が入っていた。

 

「して、どんな用だろうか。」

 

 匙で湯を掬いながら、朱治が聞いてきた。それに孫堅は、まるで息をするような口調で答えた。

 

「間者をとらえた。」

 

 朱治の眉間に皺が走る。匙が止まっていた。

 

「今は、どこに?」

 

「空き小屋があってな、縛ってそこに転がしてある。」

 

「話は何かしたのか?」

 

「いくつか。」

 

「聞かせてくれ。歩きながらで良いだろうか?」

 

「焦りは良くないかと。朝食は済ませよう。」

 

「そう、だな。しかし、間者か。」

 

「こちらの動向は、掴まれていた。」

 

「なれば、知られた状況を利用せねば。」

 

「ああ。私に策がある。乗られるか?」

 

「聞かせてくれ。」

 

 真剣な表情で此方を見る朱治。一呼吸おいてから、静に話した内容を、そのまま伝えた。

 

 

 

 

 

「上手くいくだろうか」

 

 朱治に間者を見せた後、韓当、黄蓋、程普の三人も交えて策を話した。

 

「私は大丈夫だと思う。」

 

 疑念を抱く黄蓋に、静が孫堅の策に賛同した。

 

「それに、これ以上の策は、私には思いつかないから、兄さんを信じる。」

 

「そもそも俺らはよ、間者の存在にすら気付いてなかったんだぜ?ここは文台に賭けてみようぜ。」

 

 韓当が静に加勢する。程普も頷いていた。

 

「朱治殿はよいのか?」

 

「無論。孫堅殿以上の策はないだろう。」

 

「分かった。皆がよいのなら、儂も構わん。」

 

 黄蓋も賛同した。これで全員が孫堅の策のもと動くことになる。

 

 朱治の顔が引き締まる。この策において最も大切なのは、朱治の口だ。彼が如何に人を動かすか。それで何人死ぬかが決まる。上手くいけば、一人の死者もださずに済むのだ。責任は重い。

 

「朱治殿、重い責を背負わせて済まない。」

 

「気にするな。元々責なら負うている。少し増えただけだ。何ほどのこともない。」

 

 朱治が立ち上がり、去っていった。すぐにでも動き出すだろう。今は時間が惜しい。孫堅達もそれぞれに動き出した。

 

 

 

 

 

 

「兄さん、これ使えるかな?」

 

 静が大鍋を指さして聞いてきた。昨日、粥を煮ていた鍋だ。

 

「大いに使えるな。だが主人の許可をもらわなければ」

 

「持っていけ。」

 

 声のした方へ振り向くと、主人が宿の入口に立っていた。

 

「いいのか?」

 

「二度も言わせるな。」

 

「助かる。礼を言うぞ。」

 

「ちゃんと返せよ。」

 

「ほら静、お前も礼を言え」

 

「有難う、御座います。」

 

「いいんだよ。昨日、お前らの話を聞いてな、なにか俺でもできることがないかと思っていたんだ。こんな形でよければ、協力するぜ。」

 

「本当に助かる。」

 

 再度礼を言い、大鍋を借りた。大きな空洞に手を突っ込み、肩に抱えるような格好で持ち上げた。

 

 鍋を小屋に置き、海へと向かった。人影が見える。程普、黄蓋と、朱治の兵数人が船に帆を張っていた。船といっても小さく、数人が乗れる漁船程度のものだ。

 

「徳謀、公覆。どうだ、いけそうか?」

 

「兄妹か。ああ、上々だ。こうして準備してる間にな、儂もお前の策が当たるような気がしてきたぞ。」

 

「そいつはよかった。ここは任せるから、細かいことは二人でやってくれ。他に良い案が浮かんだら勝手に実行してくれて構わない。」

 

 二人が応と返事をする。これで後は朱治と韓当だ。

 

 町の中心に向かうと、そこに朱治と韓当がいた。朱治が一段高い台に立ち、大きな声で民に演説をしている。そして表情の変わった民の一人一人に、韓当が笑顔で声をかけていた。そうすると民の表情が引き締まり、一人、また一人と家に帰っていった。場所が遠く、声は聞こえないが、ここも任せて問題無いだろう。そう思い、帰途についた。

 

 

 

 

 

 皆が寝静まった夜半、誰かが戸を開ける音を寝耳に聞いた。欠伸が出た。寝台の中で、伸びをしてから起きる。やはり、兄の寝台には誰もいなかった。

 

 見繕いをして、剣を佩く。戸を開けると、月明りに照らされて、町が暗く浮かんでいた。

 

「こっちかな。」

 

 呟き、歩き出した。肌寒い夜だ。近く、もっと寒くなってくるだろう。そうなると旅を続けるのは難しい。どこかに、一時的にでも住まいを得なければならない。そして花が咲く頃、また二人で旅を始めるのだ。もうそんな生活を何年続けているから、兄の考えていることは、解かるのだ。

 

「やっぱり、いた。」

 

 海沿い。程普と黄蓋が船の準備をしていたあたりだ。二人はもういないが、代わりに孫堅が海を睨んでいた。

 

「静か。何か用か?」

 

「一緒に居たいだけ。駄目?」

 

「構わない。」

 

 一瞬此方を見て、また海を睨んだ。こうして、兄は偶に一人になりたがることがある。悩んでいるのだ。悩みを一人で抱え、そして決心がつくと私に話してくれる。その時を待つため、隣に座った。

 

 波の音が夜の空気に響く。無言の時が過ぎるが、違和は無かった。

 

孫堅の呼吸が聞こえた。大きく息をついている。

 

「静、旅は楽しいか?」

 

「兄さんと一緒ならね。一人なら絶対にしない。死にたくないし。」

 

「何処かに定住したいか?」

 

「兄さんと一緒なら、私は何処でも構わない。」

 

「そうか。」

 

 いつも直接聞きたいことを聞く男ではない。少し遠回りするのだ。そうして、結局は自分の中で答えをだす。けれど必要な遠回りで、孫静はその為に孫堅の問いに答えるのだ。

 

 もう孫堅は問いを投げてこない。聞きたいことは全て聞いたのだろう。

 

「寒いね。帰る?」

 

「ああ、寒いな。帰ろう。」

 

 踵を返す孫堅。それに続いて孫静も歩き出した。

 

 

 

 

 

「うわ、わ、わわわ!」

 

 揺れる。革の固さで尻が痛い。

 

「待って、ほんとに、ちょっと!」

 

「なんだ静、驚きすぎだろ。もっと堂々としろ。」

 

「無理!」

 

 座った場所は鞍。手綱を握る孫堅に抱かれるような格好で、孫静は馬上で縮こまっていた。

 

 上下に大きく馬体が揺れる。その度に身体が浮くような感覚を食らい、その一瞬後に鞍に尻を叩きつけられる。鬣にしがみつく。ちょっとこれは辛くないか。

 

 というかなんで孫堅は馬を乗りこなせているんだ。これは理不尽だ。私は馬に触るのも初めてだというのに。

 

「ほら、背を張れ、腰曲げてると馬に舐められるぞ。」

 

 無茶を言うな。高いし、速いし、恐い。そんな三重苦で気張れるはずがない。

 

 目と歯を食いしばって耐えていると、馬が止まった。

 

「そんなに無理か?」

 

「無理。」

 

 手短に答える。息が荒いし胸が激しく波立っている。早く降りたい。

 

「まったく。ほら、降りろ。」

 先に馬から降りた孫堅が、手を取って孫静を降ろしてくれた。が、足が役に立たない。地面にへたり込んでしまった。

 

「おいおい、どうした?」

 

「どうしよう、立てない。」

 

「どうしようじゃねぇよ、ったく。ほら、背中掴まれ」

 

「ありがと。」

 

 孫堅の肩に腕を乗せ、腕に足を通す。そのまま体重を預け、おぶってもらった。

 

「どうすんだ、馬に乗れないと困るぞ?」

 

「頑張るから、もうちょっとゆっくりと動かして。」

 

「時間はないんだが、仕方ないか。」

 

 そう、時間はあまりない。今日の夜までだ。日が落ちれば、海賊が襲ってくる。間者が吐いた情報だ。相当に怖気付いていたから、まず間違いない。

 

 そう改めて自覚すると、身体に気合が入った。恐いが、やらなくてはならないのだ。

 

「ねえ兄さん、なんで兄さんは馬に乗れるの?」

 

 手近な岩に腰を下ろさせてもらい、孫堅に聞いた。彼ならきっとなにか馬の乗り方を教えてくれるだろう。

 

「餓鬼の頃、親父に馬を貰ってな、鬣を引っ掴んで乗り回していた。」

 

「そうだったんだ。」

 

 あまり好くないことを聞いてしまった。孫堅は昔話を嫌う。話題を切り替えたほうがよさそうだ。

 

「兄さん、もうちょっと頑張ってみるから、付き合って」

 

「分かった。今度は優しくしてやる。」

 

「お願い。」

 

 立ち上がると、まだ足がふらついたが、何とか歩けた。鐙に足をかけ、馬に乗る。その後、前に少し動き、孫堅の乗る場所を開ける。

 

 孫堅が乗ると、また馬が動き出した。

 

 

 

 

 

 夕焼けが目に染みる。馬蹄の響きが並んでいた。朱治と孫堅、孫静を先頭に十二騎が二つの縦列を作っていた。

 

 結局馬には自力で乗れていない。孫堅に抱き抱えられるような格好で一緒の馬に乗っていた。

 

 やがて木が生い茂っている場所にたどり着いた。木々の間を縫うように縦列が走る。ぶつかるのが怖くないのだろうか。

 

「朱治殿、この辺りでよいかと。」

 

 孫堅の言に頷く朱治。進軍停止の号令がかけられた。

 

 馬を降りると、足が震えたが、なんとか立っていられた。

 

「無事か、静。」

 

「なんとか。」

 

「なら、問題ないな。」

 

 木の根に腰を下ろし、馬に取り付けておいた兵糧を口に運ぶ。煎った米で、あまり美味い物ではないが、腹が膨れればそれで構わなかった。

 

 赤い夕陽を睨む。沈みきるまで時間は長くない。米を噛み砕く。固い感触が、これから起こる戦争への覚悟を固めさせた。

 

 

 

 

 

 船の上で篝火が揺れ、海が映し出される。水を切って船が進みだした。向かい風なので、帆は畳んでいる。櫂(かい。オールのこと)でのみ進んでいるため、あまり速くはない。

 

 ただ、何をするでもなく、待った。月が真上まで上がった。綺麗な三日月だ。

 

 腕を組み、前を見る。そこには、微かな明かりが浮かぶ銭唐があった。

 

 腰に佩いた二振りの剣を抜く。左手と右手、それぞれにしっかりと握る。配下がそれに従い、思い思いの獲物を手に取った。

 

 静寂の中、己が板を踏む乾いた音だけが聞こえる。

 

 舳先に立つ。海岸は目と鼻の先だ。右手を振り上げ、そして振り下ろす。後ろで歓声が上がった。

 

 船から飛び降りる。柔らかな砂浜が衝撃を吸収した。

 

 歩き出す。自然と後ろに列が作られ、進軍しているような格好になった。

 

 どこかで、必ず抵抗があるはずだ。朱治という男が、兵を率いている。何処で遭遇してもいいように、辺りを警戒しつつ、ゆっくりと歩いて進んだ。

 

 銭唐にたどり着いた。ここまで、一切の抵抗はなかった。

 

 やがて、町の中心らしきひらけた場所に着いた。

 

 おかしい。何故だ。悪寒が止まらない。

 

 何故、未だに誰一人として遭遇しない。まるで死んだ町に来ているかのようだ。

 

 つい昨日まで人が暮らしていた痕跡が、確かにある。それは点いた明かりであり、食事の匂いであり、人のにおいの様なものだ。

 

 だが、今この銭唐には、子供一人もいないのだ。まるで町を捨てたかのようだ。そんなことがあり得るのか。

 

 後ろの連中も違和を感じたようで、ざわめきだした。

 

 どこか遠くで音が響いた。喚声が続く。音のした方角を向くと、固まった何かがいた。目のような明かりが二つ付いている。その何かは、棒に船の帆のような布をさし、千切れんばかりに振り乱していた。

 

 あれは、旗だ。つまり先ほど鳴らされた音は、鐘だ。

 

 それに気付いた瞬間、さらに五つの鐘が鳴らされた。四方から鳴らされている。

 

 これらすべてから推察できる事実はただ一つ。敵に取り囲まれたのだ。

 

 

 

 

 

「いいぞ!もっとだ!もっと騒げ!腹から声出せ、喚き散らせ!」

 

 空の土鍋を叩きながら、韓当は先導している民に命じた。

 

「ほら、そっちはもっと振れ!別にびびる必要はねえ!こっちに来ることなんて有り得

ねえからよ!」

 

 声をかけたほうでは、民が二人がかりで木に布を縛り付けただけの旗を振っていた。

こんな物でも、遠目には統率しているように見える。孫堅は良く思い付いたものだ。

 

 

 

 

 

「聞こえるな。」

 

「ああ、始めるとしよう。」

 

 漁船の上、程普は黄蓋と共に兵を率いて隠れ潜んでいた。

 

 朱治の持ってきた、銭唐の地図によると、ここは岸から完全な死角となる。此方から

も船を確認はできないが、韓当が来たことを知らせてくれるのだ。

 

 音もなく水を切る船。やがて賊が乗ってきた船が見えた。慎重に、少しずつ進んでいく。無事、横付けできた。

 

「よし、私と黄蓋がこの大きな船を襲う。残りは三つに分かれて小型船を襲え。いいか、決して殺すな。捕虜にするのだ。」

 

 兵が頷きで返した。それぞれが緊張しつつも、良い表情をしていた。

 

「では、散れ。」

 

 

 

 

 

 鐘の音が鳴らされている。篝火が焚かれた。十二の騎兵は縦列を作り、動き出す。孫静もまた孫堅に抱えられた。

 

 孫堅の様子がおかしかった。外見はいつもの孫堅なのに、初めて見た人のような気がする。だがそう思い孫堅を見ると、いつもの孫堅に戻っているのだ。

 

 孫堅の何かが、変わろうとしているのだろうか。よく解らなかった。ただ、この変化は朱治も感じているようで、馬を進めるのに、一歩下がっていた。本来ならば朱治が孫堅を率いる立場のはずだが、それが逆になったような進軍の仕方だ。しかも兵たちもそれに違和感なく従っている。

 

 孫堅に何が起きているのだろうか。

 

 考えている間に、銭唐に着いていた。一切速度を落とさず、騎兵が駆ける。やがて遠く、村の中心に、百人ほどの塊が見えた。あれが海賊だろう。こちらの存在を認めると、蜘蛛の子を散らすように崩れていった。だが数十人の塊だけが海を目指していた。あの中に首領がいるのだろう。

 

「兄さん、あれ。」

 

「ああ、追うぞ。」

 

 

 

 

 

 背後で馬蹄の音がする。追われる恐怖に耐えながらなんとか配下を纏め、船へと走った。

 

 誰もが罠だと気づいており、戦意は欠片もない。このまま接敵すれば、無残な結果が残るだけだ。できることは撤退ただ一つだった。

 

 やがて地面が砂浜に変わった。騎兵とは十分な距離がある。助かった。誰もがそう思い、安堵の息をついた。だがそれは、すぐに悲鳴へと変わった。

 

 知らない船があるのだ。漁船ほどの大きさだが、数名なら十分に乗せられる。それが、我等の船を囲むように泊めてあった。

 目を凝らすと、留守を任せた奴が、縄で縛られて転がされていた。その近くに、簡素な期の鎧を纏った十人ほどの兵と、それを指揮するように一歩前に出た二人の男が、獲物をこちらに向けていた。

 

 退路を断たれた。あの十人を殺す間に、騎兵に追い付かれ、死ぬ。

 

 たった一つ残された勝機は、騎兵を打ち破ることだ。

 

 

 

 

 

 数十人の塊が、完全に停止した。少しずつ近づく。恐怖に歪んだ顔が見えた。

 

 だが崩れない。恐怖は、即ち決死と直結しているのだ。もう一撃必要だ。

 

 孫堅が馬を一歩前へと進める。そして、大きく息をのむ音が聞こえた。

 

「武器を捨て、降伏しろ!」

 

 あまりにも大きな声に、思わず耳を塞いだ。

 

「皆殺しにするぞ!」

 

 耳鳴りの残る中、長い静寂が訪れた。

 

 孫堅の大喝が最後の一撃となった。一人、また一人と武器を捨て、賊が塊から離れていく。そして、最後に一人残った。二本の剣を携えた男だ。

 

「静、馬を頼む。」

 

 そう言い残し、孫堅が馬を降りた。

 

 

 

 

 

 砂浜を踏みしめる。剣を抜き、一歩進んだ。

 

 二刀流の男が此方を睨む。目の光は消えておらず、むしろ燃えているように見えた。

 

「お前は降伏しないのか。」

 

「しても、許さないだろう。」

 

 苦笑いで返す。それに微かに反応したのが見えた。

 

「その二本の剣で、俺を殺すか?」

 

「まだ敗けていない。お前を殺せば、俺の勝ちだ。」

 

「では、やってみるといい。」

 

 もう一度苦笑いを浮かべた。明らかに表情が動いた。生きるか死ぬかの極限といえる分岐路だ。煽れば怒りの反応が返ってくるのは当たり前だ。

 

「なら、お望み通り殺してやるよ。」

 

 男が一歩踏み出した。すぐに姿勢が低くなり、砂煙を上げ、突っ込んできた。二本の剣を此方に突き出した構えは、まるで獣の様だ。

 

 左に跳躍する。剣が顔のすぐ近くを通った。痛みはない。砂浜は足が捕られやすい。すぐに方向転換はできないはずだ。

 

 体勢を崩した男に、今度は此方から突っ込む。剥いた眼がはっきりと見えた。

 

 低く構えた剣を横薙ぎに振る。金属音。左の剣に止められた。

 

 右の剣が突き出される。身体が逃げそうになるのを、何とか押しとどめた。服の裂かれる音。服だけだ。

 

 男の右腕を、左の脇で捕まえた。渾身の力で締め上げる。男が苦悶の声を上げた。砂浜に何かが落ちる音がした。

 

 左の剣が首を狙ってくる。剣で受け止める。男の右腕を離した。身体で男を押す。後ずさりしながら、男が距離を取った。肩で息をしている。右手は手ぶらだった。

 

 一歩踏み出す。男の低い構えが崩れ、浮いたような構えになっていた。

 

 悲鳴のような声を上げ、男が突っ込んできた。だが、先ほどの獣のような威は消えていた。

 

 剣を突き出してくる。此方も踏み込んだ。男の顔がよく見える。歯を食いしばっていた。

 

 首に鋭い痛みが走った。だが、浅手だ。構わずもう一歩踏み出し、腹に拳を叩き込んだ。男の身体が二つに折れる。左手から剣が落ちた。

 

 男の身体が砂浜に沈んだ。

 

 

 

 

 

 縄に打たれた賊が並べられた。約九十人。どこか遠くに逃げた者もいるだろう。そして、二刀流の男が孫堅の前に引き出されていた。

 

「お前、名前は何だ?俺は孫堅という。字は文台だ。」

 

 孫堅と男が問答するのを、孫静は孫堅の隣で聞いていた。

 

「馬鹿だろう、お前。教えて俺に何の得があるってんだ?」

 

「馬鹿はお前だ。意味があるから聞いているんだろう。」

 

 男の顔が不愉快気に歪む。数瞬の後、男が口を開いた。

 

「祖茂。」

 

「字は?」

 

「ねえよ、そんなもの」

 

 字はある程度の地位にある者が自称するもので、平民には無いことが多かった。孫堅と孫静はあった方が便利なので、勝手に名乗っているだけだ。祖茂には必要がなかったということだろう。

 

「じゃあ、大栄にしよう。」

 

「はあ?勝手に決めんなよ、ふざけてんのか。」

 

「お前の命は俺の物だろう?俺に従えよ、祖茂」

 

「馬鹿が、手前はただの流れ者だろうが。俺を使う?どうやってだよ。」

 

 小馬鹿にしたように笑う祖茂。しかし、何故かわからないが、孫堅が人を従える。その言葉に、僅かな違和もなかった。思えば、最初から孫堅が皆を導いていなかったか。先ほども、朱治ではなく、孫堅が騎兵を率いていなかったか。

 

「朱治!」

 

 孫堅が叫んだ。呼び方は、まるで主が部下を呼ぶ様だった。そして、朱治は右手を上にし、左手を包んでいた。拱手。すなわち、朱治は孫堅が上に立つべきだと認めたのだ。

 

「策を話せ。」

 

「はっ。」

 

 朱治はあたりを見回した。まず船を見、捕えた賊を見、そして祖茂を見た。

 

「船はそのまま交易に使えます。人員も降伏した者を使えば問題ありません。祖茂をそのまま船の長にすれば、命令の系統も乱れないでしょう。」

 

 呆気にとられる祖茂。朱治曰く、全員許し、さらにそのまま使うとのことだ。本来なら全員処断だ。

 

「だ、そうだ。どうする?海賊するよりよっぽど安全で確実に飯が食えるぞ?」

 

 うつむく祖茂。何か考えているようだ。

 

「許してくれるのか。」

 

「そう言っているだろう。」

 

「何故、許す。」

 

「お前、本当は賊なんてやりたくないんだろう。」

 

「何を言って。」

 

「お前は町を燃やしていない。本気でこの町から根こそぎ奪うつもりなら、まず町に火をつけるはずだ。賊っていうのはそういうもんだ。いままで飽きるほど見てきた。」

 

 確かにその通りだ。後はやたらと女を犯そうとしてきたり、民家を叩き壊したりする、ろくでもない連中だ。祖茂はそんなことは一切していないのだ。

 

「で、どうするんだ?俺と一緒に来るか?」

 

 微かに、祖茂が頷いた。

 

「決まりだな。縄解いてやれ。」

 

 兵に支持を出す孫堅。そして、孫静を見た。

 

「旅は終わりだ。ここに住もう。」

 

「そうなるような気はしてたよ。」

 

「そうか。」

 

「私は、兄さんと一緒ならどこでもいいよ。」

 

「そう言ってもらえると気が楽だ。これから忙しくなるぞ。」

 

「そうだね。」

 

 船を押さえていた程普と黄蓋、民を指揮し、土鍋を打ち鳴らし、旗を振り回した韓当が孫堅の所に戻ってきた。

 

 縄を解かれた祖茂が、無言で膝をつき、孫堅に拱手の礼をした。それに朱治と孫静が続く。韓当、黄蓋、程普の三人も顔を見合わせ困惑した様子だったが、すぐ納得して、全員が孫堅に手を合わせた。

 

「皆、これから頼むぞ。」

 

「はっ。」

 

 全員が返事をする。旅は終わったのだ。ここ、銭唐で、新しい生活が始まる。

 

 孫堅となら、私はどこへでも行くつもりだ。

 

 




第一話終わったよー!

初投稿だよ!こんな駄作上げちゃっていいんかね!でもあげちゃう!

なにか気になる点があったら言ってほしいな!マジ嬉しい!

性描写とグロ描写は次回から入ってくるから安心!

次はマジで一文目から人が死ぬかもしんないから気を付けてね!

はい、中身はこんな感じです。ごめんね!

次はまたできたら投稿するよ!一か月を目安にしてほしいな!おやすみ!


7月14日、ちょっと修正。韓当と程普、黄蓋のシーンを追加。
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