※この作品はR-18です。

MONSTER【完結】   作:あまてら

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作業員 ネイサン・ベイリーの日記

 

 

  【作業員 ネイサン・ベイリーの日記】

 

 

 2001年 ○月5日

 遂に覚悟を決めてこの施設にやって来た。

 この場所に来るまで随分と時間がかかった気がする。目隠しをされ、専用機で向かった先は、周りを海で囲んだ島であるらしい事はわかった。

 逃げるのは困難だろうと過りはしたけど、そんな考えは無意味だ。

 此処へ来たのは自分の意志。僕の死と引き換えに、母が助かるならば、安いものだ。

 

 

 ○月6日

 今日は一日中、施設の中の内装の説明やら何やらで疲れた。

 自分以外にも何人か作業員がいたけど、きっと、彼らも何かの理由があるんだろうな。試しに愛想良く話しかけてはみたけど、少し煙たがられた。そりゃあそうだよな。

 でも、今までの日常が恋しくなる時あるだろ? 誰かと普通の会話をしたい。ほんの数分でも良いから。

 そうだよ、現実逃避。

 

 

 ○月8日

 此処は気味が悪い。

 閉めきられた空間ってのもあるけど、この施設の中にいると、今は朝なのか夜なのか、時々わからなくなる。

 何かの実験をしているんだろうと思う。変な呻き声とかするし、動物じゃない何かの声だ。死ぬ予定で来たのに、急に怖くなった。

 

 ○月10日

 やっと自分の仕事の振り当てがされた。

 被験体の世話係だそうだ。初めは実験動物なのかと思ったけど、どうやらそうじゃないらしい。

 リストを見せられて驚いた。だって、僕が世話をするのは、『人間の女』と記されてあったからだ。

 説明してくれる研究員からはあまり詳しい話は教えてもらえなかった。言われた通りに世話をすればいいらしいけど、正直恐ろしいよ。

 だって、こういう場所だし。世話する人間は普通じゃないかも。

 

 

 ○月11日

 世話をする被験体、彼女をカメラ越しで初めて見た。

 想像していたのとは違って、至って彼女は普通の人間だった。……いや、何故か人間離れしたような美しさを感じる。

 

 

 ○月12日

 ついに彼女との対面だ。今更だけど緊張する。

 話し掛けるなって言われたけど、きっと僕は話し掛けてしまうだろう。だって彼女には不思議な魅力を感じてしまったんだ。

 おかしくなったのかな、僕は?

 

 

 ○月13日

 僕は此処に来た理由を忘れてはいけない。

 母の手術代をなんとかする為に来たんだ。だけど、彼女を見るとその理由すら薄れてくる。

 彼女は僕を見ない、見てほしい。ああ、僕はどうしてしまったんだろうか?

 

 

 ○月18日

 今日は此処のボスに初めて会った。

 金髪をオールバックに黒のサングラス。服装も黒で威圧感は最高だね。本当に凄い。

 ボスから告げられたのは、僕の本来の仕事の事だった。

 彼女の『実験』を受けるんだそうだ。彼女の気を引き、彼女とキスをすれば良いと言われた。キスが仕事だなんて話したら、他の作業員からはきっと羨ましがられるだろう。

 でも、実験という言葉で現実に引き戻された。彼女は被験者。本来なら許されない人体実験の末、彼女は特殊な人間となっているらしい。噂によれば、彼女によって二人死んだと聞いた。信じたくない。

 研究員に見せられた実験データに軽い目眩がする。彼女はモンスターなのか?

 

 

 ○月19日

 彼女が初めて僕を見た。しかも言葉を返してくれた。

 僕の胸は高鳴った。愚かにも僕は彼女を好きになってしまったんだ。

 駄目だ、彼女は被験体なんだ。そう思い込んでしまえばどんなに良いか……。

 今更死ぬ事に迷いなんて作っちゃいけない。しっかりしろ、ネイサン。

 

 

 ○月25日

 実験を急かされた。

 気持ちを揺さぶるのはもういいとも言われた。

 つまり強行せよということか。あぁ、嫌だ。

 

 

 ○月28日

 他の作業員が何人か、実験最中に死んだ。

 恐怖に耐えれなくて逃げ出した何人かが行方不明らしい。

 徐々に減る作業員達。僕もそのうち死ぬことになるだろう。……ただ、彼女の事を想えば想う程、覚悟が薄れてしまうのが恐い。

 

 

 ○月30日

 ある日廊下を歩いていたら、研究員の二人組が彼女の事を話していた。

 ここでやっと彼女の名前が知れた事に僕は歓喜したけど、気になる話がある。

 彼女、ダイアナは、あのボスのお気に入りの披検体らしい。

 なんか、無性に気になった。

 

 

 ○月1日

 なかなか決行出来ずにいたある日。実験室に彼女を連れて行くと、中にボスが待っていた。

 彼女はそれに気付くと、とても不機嫌な顔をしていた。僕は彼女とボスをそっと見比べて実験室を出た。

 ガラス越しから見たボスは、不適な笑みで彼女の背後に回った。彼女の肩に手を置く、そんな光景に僕の心は酷く痛んだ。

 狭苦しいゲージみたいな部屋から、広い個室に変わった部屋で彼女に変なことを訊いてしまったのは、きっと否定的な答えを聞いて安心したかったからだと思う。

 本当に、僕はどうかしている。母さん、ごめん。でも、僕は……。

 

 

 ○月1日

 これはきっと罰だ。そうに違いない。

 今さっきボスから教えられた。入院している母が死んだって。嘘だと思いたかった。

 母さんを助ける為、金欲しさに死ぬ覚悟で来たのに……。

 僕は馬鹿だ、大馬鹿野郎だ。

 すまない母さん、母さん。僕は愚か者でどうしょうもない息子だった。

 もう日記なんて最後だ。

 僕が此処に来た理由の意味が無くなってしまった今だけれど、実験を受ける事を拒否する選択肢は無い。

 どうせ殺されてしまうなら、彼女によって死にたいと願う。

 気持ちは伝えるつもりはない。

 ダイアナ、キミとは違う世界で逢いたかった。

 

 

 

 

 

 

 ここでネイサン・ベイリーの日記は終わっている。

 

 

 

 

 

 

 

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