呑めないお酒を浴びる程飲んだ。別に初めてじゃない。学生の頃、友達とパーティでこっそり飲んだ事がある。その時わかったのが、自分がアルコールに物凄く弱いって事。
S.T.A.R.S.に入った日の新人歓迎会、ドッキリのつもりで出されたジュースをグラス半分飲んだところで、そのまま床にぶっ倒れてしまった恥ずかしい思い出がある。……それ以来ぶりなのかもしれない。
現実逃避の様に次から次へと、クリスを想い、クリスに似たジャックを想った。そして強いお酒を煽る。
あの人はクリスじゃない。クリスに似ていたから気になっただけ。わたしは何度も言葉に出して、あの時の光景を思い出す。ジャックの自分を見る目だ。
──クリスもあんな風にわたしを見るのかしら……?
もし、同じように見られたとしたらどうしよう。辛い。悲しい。心が痛い。どんなに飲んで酔っていたとしても、恐ろしい程に頭は冴え、不安や悲しみは酷くわたしの心臓をえぐっていく。
「お祝いか?」
後ろから、皮肉交じりな言葉と共にウェスカーの声がした。来た理由なんて変わらぬ例の事だ。わたしはウェスカーを見ようとも、返事をしようともしなかった。ただ、手に持っていたグラスと窓際の椅子には一度さよならをして、気怠げに体を窓側の壁にもたれ掛かけると、視線を窓の外へと向けた。
「現実逃避でもしなければやってられないのだろうな。クリスを想えばこそ──」
「……やめて」
わざとらしくクリスの名前を出して、わたしを現実に引き戻そうと嘲笑うウェスカーの言葉を遮った。
「わたしの感情なんて必要としていないくせに。一々乱すような言葉……、本当に悪趣味よね」
わたしの背後に回り、窓へと目を向けるウェスカーを、わたしはわざと挑発するかの様に見上げてやった。
「誰もが思いつく臭い台詞でも吐いて愛でも囁けば、お前は満足するのか?」
「そんな気味の悪いの、お断りだわ」
フンっと鼻で笑い返してやる。ウェスカーから離れようと急に動けば、流石にふらついた足がもつれた。わたしは思わず、近くにいたウェスカーの胸元にしがみついてしまった。
「……可笑しいわ。バケモノになったのに、酔いはするのね」
何となく自然に男を見上げれば、サングラス越しのウェスカーの瞳がわたしを見つめている。こんな姿にせせら嗤うでもなく、ただじっとわたしと見つめ合ったこの男の眼の先──。
──あんたは一体、わたしの何を見ているの?
ウェスカーの自分を見る
──誰かと重ねて……?
それは、わたしがジャックにクリスを重ねて見る様な、そんな感じだった。それに気付いた瞬間、自分でも信じられない行動をとってしまった。
わたしはウェスカーの首に腕を回し引き寄せて、憎い男の唇に吸い付いたのだ。そこからは何も考えなかった。いや、考えれなかった。──ただ、一心不乱にウェスカーの唇を喰らう様に吸うのである。
この男は拒みもせず、若干の興奮を持ってそれを受け入れた。乱暴に、時に執拗に舌を絡め、息を漏らしながらわたしを壁に押し付ける。ビリビリと刺激を感じ、全身に鳥肌が広がった。
今度は思いっきりベッドに押し倒されたが、気にもとめずにわたしはウェスカーと激しくもつれ合っている。固くなったそれを、太股に感じる。
いつの間にかサングラスを外していたウェスカーは、荒くわたしの両脚を持ち上げ、強引に股を開かされると、己の怒張したモノを一気に中へと押し入れてきた。
「あ……ぅ!」
痛みはなかったけれど、苦しくて思わず声に出る。激しく打つ旋律と共に酷い快感が押し寄せて、いつもならシーツを掴んで凌いでいたのに、わたしはウェスカーの背中に手を伸ばしていた。
──これじゃあまるで、ただの男と女のセックスだ。
一瞬我に返りそうになるのを、わたしは抗うかの様にウェスカーの舌を吸った。背中に回した手に力を込め、奥まで突き上げられる度、今まで出したことの無い声で喘いだ。……頭の中の、何もかもがぶっ飛ぶくらいに。
「はぁ、ああぁ……!」
いつの間にか気を失っていたわたしは、ベッドの上で俯せになって目を覚ました。あの男の気配は無い。──居ないでいてくれて、心から良かったと思う。
瞬間にフラッシュバックしたウェスカーとの行為が、酷く頭の中で繰り返し響くと、あの日に流して以来の涙が溢れ出してきて止まらなかった。
「う、うぅぅ……っ」
嗚咽しながら、もう出ないと思っていた涙を何度も手で拭った。クリスを忘れて、彼への気持ちを捨ててしまおう。彼を想うからこそ、より辛いのだ。
そう、あの日々の自分はもういない。死んだ。わたしは死んだのだ。
どれくらいの時間泣き続けて、どれくらいそうしていたのだろうか。わからない。多分、何日か経った気がする。あれからジャック……、彼は二度とわたしの前に現れなかった。
──それでいい。それで。
また何日かすると、わたしはジャックの事など気にもしなくなっていった。