≫Wesker's secret story......?
妨げになる存在程、邪魔なものはない。
私に愛など必要ない。
私が求めるのは……。
「やあ、ウェスカー。時間通りのご到着だな」
「上からの仕事はきっちりとこなすさ」
上の命令でとある大学に私は訪れていた。用があるのは、生物学の教授を勤めている中年の男、名をサムという。
「もっと気楽にしろよ」
人気の少ない校庭で二人、備え付けのベンチに腰掛ける私を横目に、サムは隣で軽く背伸びをしながら言った。
「遊びに此処へ来た訳じゃない。上からの命令で来ただけだ」
「俺じゃなくても。……他にもいるだろ? 研究員は腐るほど」
「文句は上に言え」
「言えたら苦労はしない。で、いつからだ?」
「明後日だ」
「急だなぁ。予定入ってたのに」
命令には逆らえないと分かりながらも、サムはぶつぶつと文句を垂れている。──つくづく下に付いているのが嫌になるな。
私は早々に立ち去ろうと思った。極力、あまり人の多いところに出入りはしたくなかった。用は済んだとベンチから立ち上がり、大学内の廊下を通って帰る途中、私の横を歩くサムに呼び掛ける声が後ろからした。
「教授、この資料何処に持って行きます?」
立ち止まり振り返ったサムと同じく、私も反射的に振り返った。──その時、表には驚きを出さなかったが、私の心臓は大きく跳ね上がった。
「ああ、この資料は二階の講義室に頼むよ」
「わかりました!」
資料の書類を両腕で抱えながら去っていく姿を目で追っていると、隣のサムが「此処の学生だよ」言う。
「優秀な生徒でね、専門は電脳系が得意らしい。まあ、派手さはないが、あの通り美人だから……ほら、寄ってきた」
廊下を歩く女性徒の横についた男子生徒が、書類を代わりに持った。そんな光景を見つめながら、サムはまだ続ける。
「彼女に好意を持つ生徒は後何人か知ってるよ」
癪にさわるような含み笑いを浮かべながら、「もう少ししたら俺の受け持ってる講義あるんだが見ていくか?」と訊いてくるサムに、「何故?」と私は問い返した。
雑用みたいな用をさせられた挙げ句に、何故わざわざ講義の見学をしなければならないんだ。
「今日は特別に宿題として出した生徒達の研究発表の日でね、良かったら見学でもしていったら良い」
結局私は、講義室の一番後ろの席で見学をする事になった。サム曰く、「将来使える研究員予定の目星でもつければいいじゃないか」と、半ば強引に、だ。
いつもの私なら断っていた筈、なのに。少しだけ気になる理由を持ってこの場所にまだ、私はいる。それは先程見た女性徒のせいだろう。
────似ていた。
まだあどけなさが残る女性徒の顔は、昔愛した女の顔にあまりにもそっくりだった。
「……次、ダイアナ・オブリー」
サムが名前を呼ぶと、例の女性徒が前に出た。
──やはり似ている。
名前をダイアナという女性徒の研究発表を聴きつつも、私は無意識にその女性徒の顔ばかり集中して見つめていた。時折、頭の中でフラッシュバックする懐かしい日々の合間に、愛しく思った女の顔が現れる。
──あの頃は私もまだ若かった。
そんな事を思いながら、自分に対し自嘲的になる。くだらない。私は、真面目に研究発表に意識を戻した。
得意ではないながらも、発表内容は正確にまとめられている様子だった。……しかし、使えるような大したものではない。だが、女性徒の研究発表は実にユニークだった。
発表を終えた後、席に座った女性徒にサムが質問を投げる。
「ありがとうダイアナ。……最後に質問だけれど、キミがもし自らの体を乗っ取られたらどうする? ──例えば、そう、ウィルスとか」
ありきたりでくだらない質問だと私は呆れ、思わず溜息を吐きかけた。すると彼女は、そんな質問に対し、戸惑う様子でこう答えた。
「えっと……、私がその対象となった場合、逆を突いて騙し、相手を支配します」
何だかんだと最後まで、全ての研究発表を見学し終えた私は、やっとこの大学から去ろうとしていた。
「どうだ? 良い人材はいたか?」
「私はどうこう出来る立場じゃないぞ。それに、研究員として使えそうなのもいない。もともと期待もしていなかったしな」
「優秀な生徒ばかりだぞ?」
「私は帰る。明後日だ、忘れないでいただこう」
大学で例の女性徒を見てから一週間。私は自分でも変だと思うくらいに、ダイアナ・オブリーという少女の事が頭から離れないでいた。最初で最後に愛した女の顔と瓜二つの少女、調べてみたが、全くの関係性はなかった。
──私は何をしている? 今はそれどころではないのに……。
「そろそろ電脳系を得意とする分野のアシスタントが欲しい。どう思うかね?」
それから2年経ったある日の事だ。S.T.A.R.S. の隊員に新たな人材をと、署長のブライアン・アイアンズから珍しく私に打診をしてきた。
「フォレストだけでは不服ですか、署長?」
フォレスト・スパイヤーは、電脳犯罪を主に、整備などもこなす優秀な隊員だ。
「彼が優秀なのは知っているが、やはり近年の電脳犯罪の増加を考えれば、もう一人くらい増やしても良いだろう。どうだ?」
普段は少しもS.T.A.R.S.を気にかけもしないクセに、何に媚を売るつもりか。世間体の表面だけは良くしたいらしい。電脳犯罪に対抗する人材を入れて、最先端の事件に取り組む姿をマスコミにでも発表し、いかにも立派な署長をアピールしたいらしい。
「不服などありません。……少し心当りは無いこともないので」
「そうか! それならキミに任せたよ。話がついたらまた報告頼む」
……心当り。私は、ある人物を思い出していた。
「突然呼び出して何の用だ?」
サムをラクーンシティのとある公園に呼び出す。
「大学には、確か電脳系が得意な生徒がいたな?」
「ああ、優秀なのが何人かな。それが何だ?」
「その中に女性徒がいたろ?」
「待てウェスカー。……もしやダイアナ・オブリーをご所望か?」
「確かそんな名前だったな。S.T.A.R.S.に新しい人材をと、署長が言い出した」
サムは鼻で笑うと、ポケットから煙草を取り出して吸い始めた。
「他にもいるだろう? 確かに優秀だけど、別に彼女じゃなくても……なんなら別の、もっと優秀な奴を紹介してやるよ」
「優秀に越したことはないが、今回はアシスタントとして欲しい。……まあ、多少使えなくとも構わない」
それなら尚更ダイアナ・オブリーじゃなくても良いだろうと、サムは言う。確かにそうだ。しかし、私は頑なに譲らなかった。たまたま署長が人材を欲しがったのは、今思えば都合が良かったのかもしれない。何故ここまでダイアナという女性徒を……?
──彼女が、あの女生徒の顔が、あの女を思い出させたからか?
「今日からキミの上司となるアルバート・ウェスカーだ」
署長にダイアナを推薦してから1年が経った。あれからサムを介してスカウトし、一応のテストや訓練を経てこの日、漸く正式にダイアナ・オブリーはS.T.A.R.S.の隊員となった。意外にすんなりとスカウトを受け入れたのは、サムの達者な口のお陰か。
久しぶりに会ったダイアナは、少女らしさを残しつつ、以前よりも大人びた顔つきに変わっていた。変わらない美しさはより増した様にも感じられる。署長は大層喜んでいた。世間にアピール出来る事の喜びか、それとも……。
To be continued...