※この作品はR-18です。

MONSTER【完結】   作:あまてら

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※ 15. 堕ちた未来

 

 

 

 いつの間にか半年以上も経っていた。自分が一体何者で、一体何をしているのかさえ分からなくなってしまう程、このおかしな時間を無駄に過ごしている。あの日を境に二、三度来た以来、このホテルにウェスカーは現れなくなった。

 

──またあの時のように、この島を消してしまうんじゃ……?

 

 言い知れない不安が蘇る。此処はあの島と違って、普通の人がいるのだ。まさかだと思いたい。そんな不安を他所に、わたしの迎えがある日やって来た。

 一見身なりの良さそうなスーツで現れた数人の男達は、わたしから見えないように密かに拳銃を隠し持っていたらしく、何人かがわたしに銃を向け、一人がわたしに近付いて来た。

 

「ダイアナ・オブリー、余計な行動は取らずに大人しく我々と共に来てもらおう」

「隠し持っているの……何?」

 

 そう言ってやれば、男達はわたしに対して少し警戒心を示した。

 

「──逃げないし暴れないわ。大人しくしてる。だけど薬で眠らせて連れて行くのだけはやめて。……目が覚めて見知らぬ部屋っていうの、いい加減うんざりなのよ」

 

 抵抗する意思がないことを告げると男達は、わたしに向けていた銃を一旦下げた。しかしいつでも撃つ用意はあるようだった。

 彼等に従ってホテルを出た。従業員が何もされてないと知り、一先ず安心する。外には車が用意されていて、それに押し込まれる様に乗り込んだ。動き出した車の中で、わたしは久しぶりの外の景色に自然と目が行った。

 

「これから何処へ?」

 

 誰も応えてはくれないらしい。近くのプライベート機専用滑走路に着くと、そこには中型のジェット機があった。外装には見たことの無い、【TRICELL】という名のロゴが目に入る。

 

──これに乗って今度は何処へ……?

 

 ジェット機がリゾート地から離れ、段々と島の全貌が見えた頃だ。わたしの不安は的中していたのだろうか。島のあちらこちらから、上がっている煙がいくつも見えた。

 

「何で!」

 

 見張りに問いただそうと立ち上がろうとすれば、周りが一斉に銃を向けて来る。わたしはそんなの気にもせずに、見張りの一人に詰め寄った。

 

「どういう事なのか言いなさいよ!」

「──ちょっと予定外の事を処理したらしい」

 

 聞きなれない声に振り返れば、知らない男がわたしの前に現れる。

 

「あなた、……誰?」

「これは失礼。オレはリカルド・アーヴィング。少しばかりの用を頼まれてね……。いや、まあ、なるほど──」

 

 アーヴィングと名のった男は、薄気味の悪い笑みを浮かべながら、わたしを品定めするかの様に見てきた。

 

「あぁ、用っていうのはつまり……Ms.オブリー、あんたを連れて来いっていう命令でね」

 

──こんな命令をしたのはきっと……。

 

「ウェスカー、なんでしょう?」

 

 そう問えば、アーヴィングはニタリと戯け笑い、『ご名答!』と、答えた。

 

「……で、何処へ行くの?」

「アフリカ、とだけしか教えられないなぁ。それに、今更場所なんて気にしても意味ないんじゃないか?」

 

 とても良識ある人物とは思えず、アーヴィングとこれ以上喋る気にもならなかったわたしは、『そうね』と流す様に返した後、降りるまで一度も彼と話さなかった。

 

 アフリカの何処からしい場所に降り立ち、窓の外一切を、カーテンで隠して見えなくしたジープに乗せられ数時間。漸く車が停まり、ドアが開かれる。どうやら到着したようだ。

 先にアーヴィングが前を行き、その後ろをわたしが。更にその後ろでは見張りが銃を向けて付いてくる。

 周りに目を向ければ、目に入るのは異様な広さの研究施設。どこか古びている様子だけれど、新たに増築や修理をしている作業員が目立つ。暫く歩いたりエレベーターに乗ったりしてやっと、ある部屋の前でアーヴィングが足を止めた。

 

「さあ着いたぜ。頼まれ事はここまでだ。後は一人で入ってくれよ、ダイアナ・オブリー」

 

 戯けながら言い残すと、アーヴィングは見張りと一緒に此処から去って行った。そして一人取り残されて何をするでもなく、わたしは小さな溜め息と共に扉を開ける。

 

「意識のある空の旅は気に入ったか?」

 

 部屋の中心部の広いデスクに軽く腰を掛けていたのは、案の定のウェスカーだった。相変わらずの威圧的な態度は、以前より増した気がする。──ここまでは嫌なほど同じ流れだけれど、今回は少しだけ違っていた。

 

「……アルバート、これが例の重要なサンプルなの?」

 

 少し訛りのある英語を話しながらウェスカーにそっと擦り寄った若い女は、わたしをそのキツそうな眼差しで訝しげに見つめてきた。長い黒髪を高く一つに纏め上げ、胸元を大胆に開けた黒のタイトワンピースを着た、とても身なりの良さそうな女だった。

 

「そうだ」

 

 女はこちらに近付き、わたしの周りをゆっくりと回りながら『フンっ』と鼻で小馬鹿にするかの様に笑うと、わたしを少し見下ろしながらウェスカーに言った。

 

「このサンプルも、貴方の『部下』だったのかしら?」

「そうだ」

「女性ばかりなのね」

 

 何やら意味を含んだ言い方が気になったけれど、わたしは何も口を挟まなかった。

 

「……じゃあ私、先に実験室に行くわ」

「ああ。もう一人の方の経過も事細かく頼む」

「ええ。勿論」

 

 女が出ていくと、わたしはウェスカーと二人だけになった。

 

「エクセラ・ギオネ。トライセル社のアフリカ支社長をしている女だ。覚えておけ。これからはエクセラと顔を合わせる事も増える」

「……どうでもいい。それより、何でまたあんなことをしたのか教えて」

「あのリゾート地の事か? 気にしてもしょうがないぞ。必要だったとしか言いようがない」

 

 毎度の事ながら、まともに教えてくれる気は無いらしい。

 

「それより、だ。お前の今後についてだが……」

「また別の部屋に閉じ込めて監視? 変わらない。いつも同じ。わかってるわよ。わたしは、『大人しく、待ってれば良い』これで良いんでしょ?」

 

 言われる前に言ってやると、ウェスカーは一瞬でわたしに近付き、避けようとしたわたしを逃がさまいと、顎を強く掴まれた。

 

「離し……て」

「この施設の中でなら、多少の自由を認めてやらんでもない。ダイアナ、お前もやっと自覚して従うようになったからな」

 

 わたしは睨みつけた。わたしの顎を掴むウェスカーの手を、払い除けようと力を込めて動く。──しかしウェスカーはお構いなしに、強引にわたしの唇を自らの口で塞いできた。

 

「んんっ!」

 

 無理矢理開かされた中に舌を捩じ込まれ、ウェスカーに舌を強く吸われると、全身の力が一気に抜けてしまった。そのまま壁側に力付くで押し付けられて、余計身動きが取れない。わたしはされるがまま、唇を吸われ続けた。

 やっと離された唇から息を吸い込もうとすると、今度はわたしをデスクの前に突き飛ばし、ウェスカーは言う。

 

「そこに手を付いて尻を突き出せ。お前に割く時間が勿体無い」

「今は嫌」

 

 着いて早々になど、されたくもない。でも、そんな抵抗したって無理。

 

「そうか。……なら仕方ない」

 

 ……瞬く間だった。ウェスカーに髪を鷲掴みされ、デスクの上に叩きつける様に頭を押さえ付けられたのは。

 

「あっ……うっ!!」

 

 頭に衝撃をうけたせいで、視界が少しだけ歪んで見える。

 

──嫌だ……!

 

 変わらない、変えられない。わたしはこの男から逃れられず、片手で頭を押さえられ、もう一方の手でジーンズを脱がされてしまうのだ。

 

「っあぁ!」

 

 怒張し切ったモノに無理矢理貫かれ、出し入れと共に押さえ付けられた頭の頭蓋骨が、ギシギシと軋んで痛む。

 

「うぐっ……ああっ!」

 

 短くも長い時間が終われば、首にちくりと僅かな痛み。──採取だ。

 

「優しくして欲しいなら、もっと俺に素直になれば良い」

 

 血液を採りながら、わたしの耳元でウェスカーが囁いた。

 

「……消えて」

 

──優しくなんてされたくない。

 

 一人残されたわたしの未来(さき)には、ただ深い闇しか見えない。これ以上抗うことを止めてしまったわたしには、ウェスカーと同じ罪が、悪が纏わり付いているだろう。

 

 

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