※この作品はR-18です。

MONSTER【完結】   作:あまてら

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18. Unwilling

 

 

 わたしは、アーヴィングとの取引を受けた。『作業』される屈辱、覗き見される嫌悪に堪えたのだ。

 一週間待ち、監視の無い部屋の前の廊下で落ち合う。事前にアーヴィングがカメラに細工していたお陰で、普段は入るのを許されていないこの部屋に入る事が出来た。

 

「……さて、何が知りたいんだ?」

 

 アーヴィングは、会議室らしき部屋の真ん中に置かれている広めの机の奥に、ふんぞり返りながら座って言った。

 

「外の情報。後、わたしの中のウィルスについても知りたいし、それに関係する全ての事や、今この施設でウェスカーが何をやっているのかを教えて」

「そうだな、あー、1998年。アンタも知ってる、アークレイ山地で行方不明者が多発したアレ。元S.T.A.R.S.隊員なら知ってるだろ?」

 

 ……そう、1998年の7月のあの日、わたしは一人だけ出動出来なかった。自宅で待機中にクリスから連絡が来て、 アークレイ山中で起きた事、S.T.A.R.Sの隊員が5名だけを残し、皆死んでしまった事を告げられたんだ。それから直ぐにわたしは、ウェスカーに拉致されてしまったから……。

 

「後はこれを見な」

 

 ジュラルミンケースからアーヴィングが取り出して見せたのは、ノート型のパソコンだった。画面には当時の記事や、内部関係者しかわからない細かくまとめられた内容が表示されている。わたしはマウスカーソルを下に少しずつずらしながら、目で追った。

 

 

 ──1966年、【始祖ウィルス】を発見。アンブレラ所有の極秘研究施設として、アークレイ山中に洋館・研究所を建設。製薬会社として、世界的大手企業となったアンブレラ社。その総帥であるオズウェル・E・スペンサー。後に洋館事件を引き起こす原因となったアンブレラ幹部養成所の所長、ジェームス・マーカス。

 同氏は始祖ウイルスを研究し、ヒルに投与した始祖ウィルスの変異種である【T-ウィルス】を完成間近に暗殺された。暗殺を指示したのは、社で権力抗争していたオズウェル・E・スペンサー。従ったのは、彼の信頼をおく、アルバート・ウェスカーとウィリアム・バーキン。このウィリアムが、T-ウィルスの研究を引き継ぐ事になり、【G-ウィルス計画】を立案し、その後両ウイルスを完成させる。

 洋館事件と同年の1998年、9月。ラクーンシティでバイオハザードが発生。原因は、ウィリアムがアンブレラから離反し、独自にアメリカ政府と兵器売買交渉を目論んだ為、アンブレラ特殊工作部隊U.S.S.がT-ウィルスとG-ウィルスを強奪。

 襲撃され瀕死のウィリアムは、自らG-ウィルスを注入してクリーチャー化。下水道に侵入したU.S.S.を全滅させると、T-ウィルスのカプセルを破壊。その際ネズミを媒介し、地上にT-ウィルスを蔓延させた。

 

 

「街は壊滅状態。どうにもならなくなってアメリカ政府が出した決断が、核ミサイル! 忘れもしねえ、10月1日。『滅菌作戦』つーやつだ。ラクーンシティはボーン!! ……跡形もなく消えたよ」

 

 次のページに行く前、パソコンからアーヴィングに目だけを向ければ、この男は面白可笑しく笑いながら、ラクーンシティの最後を口にする。

 

「……何も可笑しくなんかない」

「ああ、そうか。Ms.オブリーはあの惨劇の真っ只中、別の場所でウェスカーの被験体だったか。──いや違う。その前に不運にも、爆発事故で死んでたんだっけか?」

「爆発事故?」

 

 爆発事故とは一体何なのだ。……そういえば、前にウェスカーから『お前は既に死んだ事になっている』と告げられた事を思い出した。

 

「明け方にビルが隣のアパートを巻き込んで派手に大爆発さ。そのビルオーナーがコンロに火を点けっぱなしで放置が原因だってよ。しかもタイミング悪くガス管が古くなってたらしい。住人の殆どが木っ端微塵。綺麗な遺体なんて残っちゃいなかった」

 

 遺体はDNA鑑定に出されたけれど、あまりの損傷の激しさに難航したそうだ。今ここにいるのだから、わたしだという確信を持った遺体が見つかる筈なんて無いのに。

 

「アパートの住人の数がたまたま一致してたらしいから、アンタとして頭数に入れられたんだろ。ラクーンシティの警察も適当だぜ。死亡扱いなんてなあ?」

 

 わたしの遺体として処理されてしまった人が誰だったのか、今となっては知る術も無い。……だってもう、ラクーンシティは消えてしまったからだ。

 わたしの死について、ウェスカーにはまともには教えられていなかったから、実は半信半疑だった。だからアーヴィングから話を聞き、わたしの死亡記事を見せられて、記録上では既に『わたしは死んでる』と、今頃になってやっと理解出来た。……したくないけれど。

 

──でも、本当に死んでれば良かった。

 

 爆発事故に巻き込まれて死んでいたなら。ウェスカーによる実験で適合出来ず、醜く崩れて屍になっていたら。もしもあの日、怪我なんかしないで出動出来てれば……。

 

「ショックだろ? 自分の死亡記事」

「……いいえ。ちっとも」

 

 強がりじゃないのは確か。逆、寧ろ逆。今は自分の死亡記事に浸っている暇など無い。アーヴィングは放って置いて、わたしは再びパソコンの画面へと集中しよう。

 

「……おっと、残念。今回はここまでだ」

 

 まだ見ている途中だというのに。アーヴィングは、急にわたしからノート型のパソコンを取りあげる様に閉じると、ジュラルミンケースの中にそれを仕舞い込んでしまった。

 

「……今回? 取引したでしょ? まだ見始めたばかりよ」

「まさか、たったあれだけだとでも思ったのかよ、ダイアナ。取引はまだ完全じゃねえ」

「ふざけないで!」

 

 憎たらしい態度のアーヴィングに、わたし思わず声を荒げてしまった。

 

「対価交換だった筈よね? あんたに見せたわ」

「確かにオレは見た。……今回の分を、な。だからその分の内容を教えてやったんだよ。もっと知りたきゃそれなりの行動すりゃあ良いだろ」

「……それなりの行動?」

「後ろからヤられてるアンタは最高だけど、エクセラのようにウェスカーにご奉仕する姿も見てみたい」

 

 アーヴィングは一体何の冗談を言っているのか。失笑でしかない。

 

「そんなの無理。あんたの性癖に付き合ってる場合じゃないのよ」

「じゃあ、今回で取引は終了という事で」

 

──こいつと取引なんて、するんじゃなかった……!

 

 わたしは、先に去ろうとするアーヴィングを捕まえようと、この男の胸ぐらを力任せに掴んだ。

 

「お、おい……っ! オレは嘘なんて教えてもないぞ。ちゃんと見せてやっただろうが」

「納得なんて出来ない」

 

 アーヴィングの余裕の表情には、心底不快になる。 この様な性格だから、闇の商売人として多くの金を手に入れているのだろう。

 

「オレはまだまだ重要な情報を持ってるぞ?」

「もういい」

「本当に良いのか? あの"ジル・バレンタイン"の情報を知りたいだろ?」

「──ジル・バレンタイン?」

 

 数秒間を空けて、わたしは久しぶりに彼女の名前を口にした。何故、アーヴィングからジルの名前が出てくるのか。力任せに胸ぐらを掴んでいた手も、咄嗟に離してしまうくらいに動揺したのかもしれない。

 

「ほら、知りたくなったよな? ジル・バレンタインの事」

「ま、待って。ジルは……」

「次のウェスカーとの『逢瀬』が終わったらな。因みにこのジル・バレンタインの情報の対価交換は、それなりのじゃないと渡さねえぞ。じゃ、またこの部屋で」

 

 アーヴィングは軽く襟元を直すと、毒気の抜けたわたしの前から去って行ってしまった。

 

──ジル、何かあったの?

 

 アーヴィングの思惑通り。結局わたしは、『取引』を続行しなければならなくなった。……不本意だ。だけど、ジルの事が気にかかる。

 アーヴィングは、『もっと知りたきゃそれなりの行動すりゃあ良い』と言った。でも、何をしたら良いのか。ジルの情報を得るには……。

 

『エクセラのようにウェスカーにご奉仕する姿も見てみたい』

 

──わたしには無理だ。それに絶対怪しまれる。

 

 最悪カメラが気づかれでもしたら。ジルの事が知れなくなる。一体どうすれば良いのか。悩んでいる時間は、わたしにそれ程与えてはくれなかった。……あの男から、採取の呼び出しが来たのだ。

 いつもと同じ部屋。アーヴィングが仕掛けた、カメラと盗聴器は正常に作動している。右側のソファーには、深く腰を掛けながらウェスカーが待っていた。このままわたしが動かなければ、また頭を押さえつけられて後ろから侵されるだろう。

 

──顔に出しちゃいけない。鼓動を落ち着かせるのよ。

 

 いつもとは違う行動を、今から行おうとしている自分に言い聞かせる。平常を装い、シャツのボタンを一つ一つ外していく。服なんてわざわざ脱ぐ必要も、此処に来てからは無かったのだけれど。

 全て脱ぎ終わったわたしは、自分の足でウェスカーの前まで歩み寄った。何の表情も見せないウェスカーは、わたしの腕を強引に掴んで引き寄せる。

 

──頭を押さえられる!

 

 もう片方の手がわたしの頭に伸びる直前、ウェスカーのその手を先に押さえた。

 

「何だ、この手は?」

 

 押さえた手を慌てて離せば、瞬時に髪の毛ごと頭を掴まれてしまった。

 

「ぅあ!」

 

 強引にソファーの端に後頭部を押さえつけられ、腰に手を回されそうになった時、わたしはやっと口を開いた。

 

「……ま、待って。あなたに素直になったら、優しくしてくれるのよね?」

「どうした、ダイアナ?」

 

 頭を押さえつけていたその手は僅かに緩み、再び髪の毛を掴んで顔を上げさせられる。堪らず、小さく声が漏れた。

 

「う、痛いのや乱暴なのは、もう嫌なの。……素直になるわ、だから後ろから無理矢理なんてしないで」

「素直になれば『優しくしてやる』とは言ったが、……らしくないな」

「本当のわたしなんて、あなた知らないでしょ?」

「お前もつまらん女だ」

 

 わたしを掴んでいた手が、全て離された。……見抜かれたのか。ソファーから立とうとしたウェスカーの手首を咄嗟に掴む。やっぱりわたしには、上手く出来なかったという焦りからだと思いたい。

 

「どういうつもりか知らんが、男を誘うならもっとまともな誘い方をしろ」

 

 手を振り払われ、首元を絞める様に掴まれる。わたしはサングラスに映る今の自分を見たくなくて、ウェスカーから急いで目を逸らした。

 

「誘い方なんて知らない」

「オレに素直になるんなら、目を逸らすな」

 

 サングラスを外したウェスカーが、わたしを覆い被さる。胸元に唇を当て、ゆっくり首筋へと這わす舌は、やがてわたしの口内へと強引に進入した。

 

「ん……っ!」

 

 ねっとりと厭らし気に絡みつかれた舌先に電気が走れば、下腹部の奥が嫌でも熱くなる。わたしの身体の中のバケモノが、直ぐにでもウェスカーを欲しがっているのだ。

 不意に、エクセラが『欲しい』とウェスカーにねだる声を思い出して、心底からぞっとした。

 

──わたしは違う。

 

 冷静になれ。違うこれは、こんなのは。アーヴィングが見てる。情報の為だ。この男に優しくされたいなんて本当に思ってない。わたしは痛みを与えられ、乱暴にされた方がずっと良い。

 

「……あっ、ぁああ!」

 

 いつも握り締めていた筈の手は、情報を得る為に憎い男の背中に回し、爪を立てる程にしがみついていた。

 

 

 

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