謎のウィルスを投与されて数時間。わたしはいつの間にか眠っていたらしく、気づけばベットに横になっていた。投与された直後、ピリッと全身に電気が走った様な感覚はあったけれど、それ以外は何も起こらなかった。全くもって不気味だ。
身体を半分起こせば、部屋の扉が開かれて研究員二人が現れた。
「被検体25、血液抽出をする。腕を出せ」
わたしは黙って腕を差し出した。逆らえばミランダがどうなるかわからないからだ。血を取られた後、また暫く放置された。一体今日は何日で、今は何時なんだろうか。
「被検体25、出ろ」
すると今度は、別の場所へと移動があった。到着して見ると、先ほどいた部屋よりも広めの部屋だった。周りは電子機械やモニター画面が設置され、真ん中には歯科医院の治療椅子に似た椅子が置かれている。わたしはその椅子に座らされ、脳波を測る装置を付けられた。
そしていくつかの基礎問題を問われて答えると、モニターに映し出された映像を見せた記憶力のテスト等を受ける。
「被検体25、脳波に異常無し。引き続き身体テスト、視力検査を実施する」
研究員の一人がそう言うと、別の研究員がメモを取りながら頷いた。彼等の言葉通り、まだまだテストをしなければならないらしい。何度か説明を求めてみるけれど、わたしに何のウィルスを投与したのか、明確にはしてくれないようだ。所詮わたしは被験者というか、モルモット扱いなのだろう。
わたしは堪えた。ミランダが助かるなら、わたしは平気。そう自分に言い聞かせて……。視力は何だか前より見えるようになった気がしていたけど、どうやら気のせいじゃなかった。『視力上昇』という、研究員がメモを取りながら呟いているのが聴こえたからだ。
──耳まで良くなったのかしら?
とりあえずわたしの毎日は、研究用モルモットの気分を味わう時間を過ごすしかない。真っ白なガラス張りの部屋で、頭脳に視力、聴力テスト、血液採取。就寝時は、あのミランダに会った部屋に戻される。食事は三度出されるけれど、とても食べる気にはなれずに、残すことが殆どだった。
……最悪なのはシャワーの時間。わたしが抵抗しないように薬で眠らされた後、その間に職員の手によって行われているらしく、目を覚ました後にとても不愉快な気分に陥っていた。
「ミランダは、どうしてるの?」
やはり気になる。もう幾日も経過しているし、 安否が知りたい。
「……彼女は解放してくれたんでしょう?」
わたしの言葉に、研究員は一瞬ドキリとした顔を見せる。
「もう、解放された」
わたしと目も合わさずに彼らは答えた。
──本当にミランダは解放されたの?
「今日は何日?」
「……9月29日」
監禁された実験室で、早2ヶ月以上経っている事に驚いた。特にこれといって、劇的な変化は表れてない。わたしを此処に連れてきたウェスカーは、あれから一度も姿を見せてはいなかった。
血液採取、体力、視力に聴力テストが何日か続いたある日の事。実験テスト部屋に移動中、わたしの耳に研究員らの話し声が入ってきた。遠く離れていたのに聴こえるのは、わたしの耳が良くなったからだろうか。
「……被検体26番の様子は?」
――被検体26? ……確かミランダが居た部屋の番号が26だったわ。
「あれはもう駄目らしい」
駄目とは一体どういう事なのか。わたしはとてつもない不安に襲われた。
──いや、まさか……。
研究員達の話に胸騒ぎを感じつつ、多分日数的に一週間が経ったと思う頃。
「今回は何を?」
新たに何かのウィルスを投与されても、研究員はわたしに何かを教えようとはしない。また少しピリピリとした感覚が身体中を廻る気分は、わたしをとても不愉快にさせる。わたしから離れるように部屋を出て、ガラス張りの壁向こう側からわたしを観察する研究員達。その中にあの男が混じっている事に、わたしは嫌でも気付いた。
『元気そうで何よりだ』
不機嫌そうなわたしを見て笑うウェスカーは、マイクに向かって話しかけてくる。
『実に良い実験体だよダイアナ』
「いい加減わたしに何を投与しているのか教えて」
『知らない方が良い』
「何故?」
『知ってどうする? お前には必要ない情報だ。大人しくただの実験体としていろ』
──大人しく実験体としていろですって?
ふざけてる。道理なんて通用しないのか。わたしはウェスカーを睨みつけた。
『不服か?』
「……ええ、大いに」
『S.T.A.R.S.は私のだ。私がまとめ、指揮し動かす。電脳技術しか脳の無いお前を加えてやったのは誰だ? そんなお前に拒否権は初めから無い』
なんて横暴な。隊員として短くも半年間、この男を隊長として従ってきたのは間違いだった。
『しかしS.T.A.R.S.はもう無くなった……。だが、今までもこれから先も、お前をどうするか決めるのは私だ』
「そんな権利、あんたに無いわ」
そう言い返せば、ウェスカーは一人で高笑いをした。
『ダイアナ、お前は私に従うしかない。それしか残されていない』
「どういう……?」
「お前は、既に死んだ事になってる」