「あうう……」
失しなわれていた記憶が一気に入って来る。痛みもあるせいで、わたしは堪らずに頭を押さえた。
「な、何で、何でわたしは……、生きてるの?」
「ダイアナ、お前は生きてる」
こめかみに手を当てながら、真横にいる男の声でふと我に返って顔を上げると、ウェスカーがわたしの目の前にいた。
「お前も無茶をしたものだ。長い間昏睡状態に陥る事になったのだからな」
「あ、ああ……!」
わたしは更に頭を抱え、床に額をつける。わたしの隣にいる男が憎い、憎い。憎悪が身体中から溢れ出そうだ。
――悪夢から覚めると思っていたのに……!
ウェスカーに掴まれた腕を振りほどき、わたしは這いつくばる様にしてこの男から離れた。
「引っ掻いた男がバケモノに変わる様はどうだった?」
ウェスカーの言葉を耳にし、わたしは動きを止めた。
「バケモノと言われ傷ついたか?」
「やめて……」
「どうして知ってるか? カメラが無いとでも思っていたようだが、この研究所は至るところにカメラが設置されているぞ」
あのシャワー室にはカメラがあった。だったら、あの男達の行動も見ていた筈なのに……!
「悪いな。奴等を見て見ぬふりしなければならなかった」
――どうして。ま、まさか。
……わたしは気づいた。あんな野蛮で素性も知れない連中をわざわざ雇い、わたしの身体を洗うだけという仕事に就かせたのは、最初からただ死なせる為なんかじゃない。
「利口なお前だ。もう気づいてるだろ? そうだ、奴等を雇ったのは実験目的。都合良くお前の実験に使ったまで。奴等がお前に何をしようとしまいと、こちらは見守るしかない。鎮静剤をわざと弱めに調節し、下劣な行為に気づいたお前が奴等に怒りさえすれば、噛み付く、引っ掻く、そして殺す等の結果を知れる。どうして引っ掻いた傷口がああも腐り壊死したのかは、ウィルスを支配したお前の細胞のおかげだ。ウィルスに感染した通常の細胞と同じ、お前の細胞も1度感染状態になる。最初に打たれた時に隣にいた被験者は、ただウィルスに侵され、そのまま動く屍になっただろ? お前もああなる筈だったんだが……お前はまるで何も無い正常を保った」
ウェスカーは、離れたわたしの側に再び歩み寄って来る。
「その様子からでは、ただの抗体を持った者と変わらない。違いは完全にウィルスを取り込まない細胞と、感染した様に見せかける細胞。次に第二のウィルスを投与後……ここからお前の細胞が大きく変化した。1度目で感染状態に見せていた細胞は、新たなウィルスをも喰らうように吸収し、次々と新しい細胞を作り出した。そして第三投与後、振り出しに戻るかの如く見せかけの感染状態になる。再び内側からウィルスを取り込んで分裂を始め、分裂した細胞一つ一つの中心には、全てのウィルスの一部が存在し、閉じ込められた細胞の中で暴れている」
怪しく笑みを浮かべ、わたしの頬を指で撫でた目の前のウェスカーに、わたしは震えた。
「どうした? 折角教えてやっているんだぞ? もっと喜ぶべきだ。まさに有言実行。ウィルスに支配された様に見せかけて、逆にお前はウィルスを支配したのだ。ウィルスの力を手にし、お前は以前より進化した」
「進化……ですって?」
「そうだ。視力や聴力、体力は大幅にアップした筈だ。現に腕力は数倍上がっただろう?」
やけに目や耳が良くなった事、机や電子機械を投げ飛ばした出来心がフラッシュバックすれば、また頭が痛んだ。
「ウィルスは体に残るが、主導権はお前だ。だから体が腐り落ちる事もなく、醜い出来損ないのバケモノにもならない。実に素晴らしい、まるで芸術作品だよダイアナ」
「やめて!!」
狂気じみた話なんて聞きたくもない。わたしは耳を押さえた。
「どんなに耳を塞ごうが現実だ。お前はもう普通の人間ではない。引っ掻いたクズはどうなった?」
「嫌! やめて!」
離れたくて逃げ出そうとした時だ。ウェスカーがわたしの右手を無理矢理引っ掴み、その手のひらを強引に床に置くと、自身が隠し持っていたナイフで上から突き刺したのだ。
「――ぁあああ!!」
あまりの痛さに悲鳴を上げた。わたしの手のひらを貫いたナイフは床にまで突き刺さっていて、簡単には抜く事が出来なかった。
「うぐぅ、ううう……っ」
左手で右の手首を握るように押さえつつ、わたしは泣きながら呻いた。
「やはり痛みはあるか。見ていろ」
刺した本人は、憎らしい程実に涼しげな顔だ。そして刺したナイフを握ると、素早くわたしの手のひらからナイフを抜いた。
「ぐうう!」
刺された手から溢れ出していた血は、その瞬間ピタリと止まった。すると、みるみるうちにナイフの傷口が塞ぎ始め、あっという間に傷が癒えていった。
「あ、ああ……あああ」
「わかっただろ?」
わたしは唖然としながら、消えてしまった傷口を探す様に自分の右手を見つめていた。何んなのよ、これは。
「こんなの……まともな人間じゃない。わたしは、まともじゃない!!」
わたしの体の中には感染性の高いウィルスがあって、そのせいで異常な力と回復力。人をあんな風に出来る汚染された存在。 なんて恐ろしい……!
「何も恐れることはない」
ウェスカーの言葉をこれ以上聞いていたくない。わたしはまた、耳を塞いで背を向けた。今は一人になりたい。
そんなわたしを見てウェスカーがどう思ったのかはわからない。ただその場から去った気配は感じたので、少しだけほっとした。けれど、わたしの心が晴れる事もなかった。
それから数時間、わたしは隅の壁にもたれる様にうずくまったままでいた。長い間眠っていたらしいその空白での、家族の事や外の世界の事。クリスやジルの安否 。信じがたい現実と、自分の体に潜むウイルスの事や恐怖感で半時を過ごし、 残りの時間でジャスとミランダの死を悲しみ、ウェスカーを恨んで憎んだ。
――憎い。あの男が憎い。
S.T.A.R.S.で尊敬していた上司は、わたしの心の中から完全に消えていた。……このままあの男のいいなりで生きていたって。再び命を絶とうかと考えた。だけど、わたしは死ねるのだろうか。刺された痕など微塵も残ってない手のひらに目を向ける。
すると、防護マスクに防護服を身に纏った男二人が入って来た。一人はアサルトライフル銃を。もう一人は何かの注射器を持っている。別のウィルスか、または鎮静剤か何か。わたしがうつ向いていた顔を上げて目だけを向けると、「立て」と命令される。わたしは逆らわずにゆっくりと立ち上がった。
「歩け」
銃を持つ方が、わたしの後頭部に銃口をあてる。注射器を持っている方は、大人しいわたしを見て油断したのか、背を向けて先頭を歩いた。
ガラス張りの実験部屋から、わたしを真ん中に挟むように出る。前の男は本当に隙だらけだ。周りに目をやれば、人は他に二人。女性と男性の研究者らしい。どちらも戦闘には向かない様子だった。
――今なら、いける。
わたしは後ろに目配せ、素早くその場から腰を下ろすと、銃口を向けていた男の足を払うように蹴り倒した。驚いたのは前にいた男で、慌てて振り向いた時にはもう遅い。
蹴り倒した方の男のみぞおちを足で踏み込み、苦しんだ隙に銃を奪ったわたしが、相手に銃口を向けているのだから。
「動かないで! 動いたら撃つ」
騒ぎに驚いた男女の研究員らは、急いでどこかへ連絡を入れようとした。
「あなた達も!」
わたしの言葉にビクリと肩を揺らし、動きを止める研究員。
「それ、渡して」
わたしは注射器を要求する。目の前の男は一瞬躊躇いながら、「う、撃つな」と言ってわたしに差し出した。
「今度は何を打つ予定だったの?」
注射器を奪い取り、皮肉めいた笑みを浮かべて問う。
「ただの、鎮静剤だ」
「……そう」
わたしは目を離す事なく、床に倒れて苦しむマスク男の首にそれを突き刺した。
「うっ!」
打たれた方は、何回か激しい痙攣を始めてそのまま大人しくなった。様子から、注射器の中身が強力であるのは一目瞭然だった。
「この場所の制御室まで案内しなさい」
「だ、駄目だ……」
「早く!!」
銃口を顔へあてると、目の前の男は仕方なくわたしに従った。
――早くしなくては!
先に前を行く男から一度も銃口を外す事なく、わたしは足早に目的地へと向かった。向かう場所は一本道のようで、細い通路を何度か通った。周りは薄暗く、怪しいくらい人には遭遇しなかった。
「どこにあるの?」
「もうすぐ行けば着く!」
本当なのだろうか。わたしは、一旦その場に立ち止まる。
「もう一本予備で持ってる注射器を渡して」
初めはもうないと言い切っていたのだけど、わたしが銃の安全装置を外すした瞬間、「わ、わかった」と焦りながら渡してくれた。
「殺す気なんてない。ちゃんと制御室に案内してくれたらそれでいいの」
「ああ……」
再び走り出す。今頃あの研究員がわたしの事を報告でもしているだろう、急ごう。すると、また少し進んだ通路の先に扉があった。
「着いた」
専用カードキーで扉を開けた男を先に入れ、わたしも後に続いた。
「な、何よこれ……!」
どう見ても制御室ではない。周りには何かの生物が入った大きな容器がいくつも並んで存在し、真ん中には広いデスクと何台かのパソコンや電子機械があった。
「制御室じゃないじゃない!」
銃口を後頭部に強く押しあてれば、男は「制御室なんか知らない」と吐き捨て、わたしに殴りかかる様な抵抗を見せた。わたしはそれを素早く避け、持っていた注射器を刺してやった。
「ぐぐっ!?」
男は激しい痙攣を始めて倒れた。その様子をじっくり眺めている時間は無い。わたしはパソコンのもとへと駆け寄った。
「このパソコンから入れるのかしら?」
運良くパスワードもかかってはいない。難なく扱える事に胸を撫で下ろした。
「よし、入れたわ」
研究用のパソコンか。だけどこの施設全体に繋がっているらしく、制御室のパソコン内部へ進入する事が出来そうだ。
「や、やっぱり……」
案の定、パスワード入力が必要と出てくる。わたしは焦りながらデスクの周りを探ったり、書類に目を通した。
「違う……、これも違う!」
それらしいのを入力してみるが、難解過ぎてどれも当てはまらない。
「ああ、駄目! 全然集中出来ない……!」
早くしなければと焦る気持ちで、普段の冷静さが保てない。
「違う!」
デスクを叩く。そんなに力を入れていないのに、デスクには大きなへこみが出来ていた。わたしが制御室を探したのは、決して逃げる為なんかじゃない。この施設を爆破してやりたかった。わたし諸共、全てぶっ壊して、あの男に恨みを晴らしたかったのよ。
不意に、足元に落ちてある紙切れに目が行き、拾い上げて見てみる。
《被験者25に関するデータ及び実験結果》
それを見てはっとなったわたしは、急いでパソコン画面を元に戻し、わたしのデータがある筈であろう場所を探し出した。わたしのデータらしきページには、名前と生年月日、血液型等の基本情報の他に、何年何月に開始してから現在までの事が細かく記されていた。
「Tーウィルス……」
ウェスカーが言っていた、最初に聞いたウィルスの名前だ。詳しくはわからないけれど、ジャスをおかしくしてしまった危険なウィルスである事は理解出来る。そしてわたしは、流す様に自分の実験結果のデータを見て愕然とするしかなかった。
「『被験者25の細胞から取り出したウィルスは、元のウィルスと混ざり強力を増している。即効性が高く、再生能力も高い。その為それ用の抗ウィルスを生成しやすい利点あり』」
順々に目を通すと、わたしの細胞に完全に寄生する事なく取り込まれたウィルスらは、まだ実験段階ながら新たなウィルスを生み出したらしい。
「そ、そんな……!」
まだ実験段階であるにも関わらず、わたしの中から生まれたウィルスをなんと、ミランダの生まれ出た赤ん坊に投与したと書かれているのだ。
わたしは震える両手で口元を覆った。あの時生まれた赤ん坊は、確かとても醜い化け物の姿でミランダの腹を破って産まれてきた。その赤ん坊は、わたしのウィルスを投与後拒否反応を起こし、そのまま息絶えたと記されている。周りにある大きな筒上の容器に入ってるのは、まさか――。
「ああ……!」
あの時より更に醜く崩れた形で、赤ん坊だったそれは入っていた。
「ミランダ、ミランダごめんなさい……!」
泣き崩れる様にして、わたしはその場に手をついた。流れ出る涙を拭いながら感じるのは、僅かな足音だ。耳が良くなり、体感も鋭くなった自分の体に違和感を感じなくなっているのが恐ろしい。これもウィルスのせいだというのに。
けれどじっとしている暇はない。此処にやって来る奴等に大人しく捕まるのは嫌だ。わたしは銃を再び手にし、出入口のドアに向いて構えた。
「……撃てる、わたしは撃てるわ」
S.T.A.R.S.にわたしが入れたのは、 電脳技術があったからだ。体力は中の中。いくら入隊前に訓練があったとはいえ、技術サポート支援のわたしにはそこまで必要のないものだった。でもたまに必要となる時があって、銃を手にして出動した日はあったけれど、散々だった事が多かった。
その度にわたしを優しく励まし、慰めてくれたのはクリスだった。
「大丈夫よ」
銃を構えて待つ。段々足音が大きくなった。――四人くらいだろうか。ピッという音と共にドアが空いた僅かな時間、わたしは素早くデスクを壁にして隠れた。ダダダと、銃声音。デスク越しに伝わる振動を感じながら、わたしは顔を少しだけ出して様子を伺って見る。
武装した三人の男達が、入口でアサルトライフルを構えていた。もう一人は……?
気づけば、いつの間にか背後にいたもう一人の武装マスク男に、後ろから羽交い締めを受けてしまった。
「離して!」
振り解くのに時間はかからない。わたしは手に力を込めて相手の腕を掴むと、若干怯んだ隙を見て回し蹴りを食らわしてやる。瞬間に銃声を浴びたけど、わたしはそれを避ける事が出来た。信じられない。これもウィルスのせいなのだろうか。
わたしに当たらなかった弾は周りの電子機械を貫き、それらが辺りに散らばった。蹴られて倒れている武装マスクを起こし、わたしは銃口をソイツに向けて言った。
「そこを退いて!」
脅しだけで銃を向けているんじゃない。撃つ覚悟は……あった。少しの緊迫した時間が流れ、武装マスク達の前に一歩一歩と進んだその時。
「相変わらず撃つことに躊躇いがあるな。だからお前はヘマを起こすんだ」
憎いあの男の声。 わたしが銃を突き付けていた武装マスクは、呻いてぐったりと倒れた。脳天に一発弾が当たったからだ。
――撃ったのは、ウェスカー。
「狙うときは確実に仕留めろ」
ウェスカーがわたしに銃を三発放つ。それをわたしは、異常な速さで避け、持っていた銃で応戦するように二発打ち返した。 同じく避けられてしまうのだけど、側にいた武装マスクの一人の肩には命中した。
ウェスカーは撃つことを止めず、何度もわたしを狙っては撃ち、避け、撃ちを繰り返す。
わたしも当たらないようにデスクを壁にしたりで撃ち返すが、もう弾は残っていない。腹立ち紛れに空になった銃をウェスカー相手に投げつけるも、簡単に避けられた。
――ああ、どうしよう! わたしには逃げ場がもう無い。
「どうした? もう終わりか?」
ジリジリと歩み寄って来る足音に焦りつつ、わたしは拳を握り絞めて息を飲んだ。
「まだよ!」
ぐちゃぐちゃになったデスク周りから目眩ましの如く椅子を放り投げると、隙を狙ってウェスカーの背後に回る様半回転し、奴の背後を取った。勿論、取る前に落ちてあった弾入りの銃を拾い上げて突き付ける事も忘れてない。
この部屋の中には、銃によって倒れた武装マスク以外、わたしとウェスカーしかいなかった。
「どうだダイアナ、素晴らしいだろ? 己の体の進化が。今までと違う感覚に酔しれるだろ?」
薄い笑みを浮かべ、ウェスカーがわたしに問う。
「起きたばかりなのに随分動きが良い」
「黙って」
この男の背中に突き付けている銃口に力を込める。
「逃げたいのか?」
「……いいえ。この施設ごと心中したいわ」
「それは……面白い考えだ」
あっという間、形勢逆転。わたしはウェスカーに背後から首の下に腕を滑り込まれ、捕まえられてしまった。
「はなっ……!」
もがいてみるのにびくともしないウェスカーの腕が、わたしの首を圧迫させて苦しい。
「うぅっぐぅ!」
「まだまだだな。身体能力は俺の方が上手だ」
腕に手をかけて力を入れてみても動じず、逃げる事は困難だった。ウェスカーは、そんなわたしを嘲笑いながら耳元で囁いてくる。
「お前のような暴れ馬を大人しくさせるにはどうすれば良いと思う?」
鈍い銃声音。わたしの右太股には、熱い何かが突き抜けた。ウェスカーが撃ったのだ。
「あああぅ!」
わたしは顔を歪ませる。そのまま前へ突き飛ばされ、散乱した床へ転がった。打たれた場所は徐々に傷口を閉ざしていく。しかし、それを待たずして再び太股を二度撃たれた。
「ぐあぁ!」
次は左足を、そして右腕に左肩に一発ずつ。ウェスカーは無表情に、何度も繰り返しわたしを銃で貫いた。
「う、……はあ、あ、はあっ」
撃たれた傷口からは、残った弾がゆっくりと出ては閉じていく。見たくない光景だ。わたしが異常な存在であるという現実を、まざまざと見せつけているのだろうか。わたしは荒い息を立てながら、床からウェスカーを見上げた。
「ダイアナ、俺に従え」
ゆっくりとしゃがんだウェスカーは、わたしの頬を撫でて言った。
「嫌よ」
再び一度、わたしの肩に銃口を押し当てたまま撃ってきた。
「うっあぁ! ……あ、あんたは、もうわたしの上司じゃ、ない! 従う理由もないわ」
「……そうか。ならばこうしよう。強い遺伝子を持つお前の家族に協力を願えば良い」
聞き間違いかと思ったわたしは、目を見開いた。
「きっとお前と同じ成果を期待できる」
そう薄ら笑いをして、ウェスカーはわたしに背を向ける。
「ま、待って! 家族には手を出さないで!」
わたしはふらついた体を慌てて起こした。
「家族は、関係ない…!」
振り向き返さないウェスカーのもとへと駆け寄ったわたしは、前に出てすがり付く様に乞うた。
「お願い。家族には、何もしないで! 言う通り、言う通りにする。あなたの言う通りに従うわ。……だから」
――言いたくない、これ以上。
わたしの目からは涙が溢れ出た。憎い男にすがって、自分を押し殺しながら。こんな卑怯な手を使う男に乞い願う姿は、なんと滑稽であろうか。
「お願いします……!」
「そう言ってくれると信じてたよダイアナ」
ウェスカーは口角をニタリと上げ、わたしの顎を強引に掴んだ。
「さあ、部屋に戻ろうか」