※この作品はR-18です。

魔法少女まどか☆マギカR‐18   作:七音

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【彼女達の】おまけ【お茶会】

 

 

「それじゃ、改めましてぇ……」

 

「マミさんっ」

 

「ご卒業……」

 

「おっめでと~!!」

 

《パンッ、パンパンパンッ!!》

 

 

 さやか、まどか、ほむら、杏子――四人の少女のかけ声と共に、クラッカーの音が鳴る。

 拍手をしながら、笑顔で自分を祝福してくれる彼女達を見て、本日の主役であるマミは、なにか眩しい物でも見ているように目を細めた。

 

 

「皆、有り難う。わざわざ集まってくれて……」

 

「いいんですって、気にしないで下さいっ」

 

「そうですよ、マミさんっ」

 

「まぁ、アタシにとってはケーキの方がメインなんだけど……。めでたい事に変わりはないしね」

 

「相変わらず素直じゃないわね……」

 

「うっせ」

 

 

 口々に喋りだす四人の仲間達を、マミは順繰りに眺める。

 彼女自身は、自分の定位置である三角形のテーブルの一番短い辺。その右側にさやかとまどか、左側には杏子とほむらが座っている。

 今日は、つい先週、めでたく市立見滝原中学校を卒業し、恋人と一緒に市内の高校へ合格したマミを祝うために開かれた、小さなパーティーの日。

 卒業式の時にも集まりはしたが、仲間内でも一度パーティーをしようとさやかが提案し、ささやかながらも、こうしてパーティーが開かれた。

 

 つい半年ほど前まで、マミは、こんな事が出来るとは夢にも思っていなかった。こんなにも大切な仲間達が出来て、こんな風に自分が祝って貰えるとは。

 だからこそ、彼女達の楽しげな声が耳に届くだけで、胸がじんわりと温かくなって行くのを、マミは確かに感じていた。

 しかしそんな中、この中で唯一、魔法少女ではないまどかが不安そうな声を上げる。

 

 

「でも私、本当に参加してよかったのかな……? 一人だけ魔法少女じゃないし……。結局、全部みんなに任せっきりにしちゃって……」

 

「もう、まどかってば、ま~だそんな事言ってるの? もう済んだ事なんだし、気にしない気にしない」

 

「そうよ鹿目さん? 貴方が居てくれたからこそ、私達はこうして出会えたんですから」

 

「さやかちゃん、マミさん……」

 

 

 仲間内の集まりという題目が、まどかにとっては少し気がかりだったのだろう。

 半年ほど前、この街で繰り広げられた戦い。その中で、彼女にはこの星の誰よりも強い魔法少女になる素質がある事が判明した。

 しかし、その最中に起きた様々な出来事を通じ、まどかは魔法少女にならない事を、傍観者で居続ける事を選択した。

 その選択を後悔はしていなかったが、今尚、日常の裏側で繰り広げられている魔女との戦いを知っている身としては、心苦しい物がある。

 そんな事もあって、ちょっと居心地が悪そうにする彼女に、さやかは気にするなと声をかけ、マミも小さく微笑みかける。

 

 

「きっと貴方が居なければ、私と美樹さんは知り合えなかったでしょうし、美樹さんが居なければ、こうして佐倉さんとも仲直りできなかったでしょうし……」

 

「……まぁ、そうかもね……?」

 

「そして、貴方を救おうとする暁美さんが居なかったら、私はあの時、魔女に食べられちゃってたかもしれないもの」

 

(……実際、食べられた事もあるのだけど)

 

 

 かつての戦いを振り返るマミの話を聞き、ほむらはつい、過去に渡り歩いた世界での出来事を思い出してしまった。

 この時間軸では幸い助ける事が出来たが、過去に幾度か、救援が間に合わずに命を落とした事もあるのだ。

 しかし、この場でそれを言うほど空気が読めない訳でもなく、彼女はその事実を胸の奥深くに仕舞い込む。

 その間もマミはまどかに語り続け、見る人を安心させてくれる、朗らかな笑みを浮かべた。

 

 

「きっと、何もかも貴方が切っ掛け……。貴方はその名前の通り、この仲間関係の“かなめ”なの。だから、そんなに自分を卑下しないで?」

 

「あ……」

 

「そうそう。前にも言ったけど、魔法少女にならずに済んでラッキーって程度に思っておけばいいんだよ。半端な覚悟じゃ、魔法少女は務まんないんだからな」

 

「杏子ちゃん……。うん、でもね?」

 

 

 マミの言葉に杏子が同意し、窘めるような口調でまどかに言う。

 それが彼女なりの気遣いである事に気づいていたまどかは、一旦はそれに頷くものの、皆の顔を見回すようにして続ける。

 

 

「私は、知ってるから。さやかちゃんも、マミさんも、杏子ちゃんも。そして、ほむらちゃんも。

 一杯傷ついて、それでも頑張って戦ってくれた事、知ってるから。だから、何度でも言うね?

 …………この街を守ってくれて、ありがとう。皆に出会えて、友達になれて、私、凄く嬉しいっ」

 

「鹿目さん……」

 

「まどか……」

 

「ちぇ、やっぱ調子狂う……。こんな御人好しには、魔法少女なんて絶対に無理だな」

 

「……そうね。でも、そこがまどかのいい所よ」

 

「……ぇはは、自分で言ってて、ちょっと照れちゃった……。そろそろ、ケーキ食べよっか? 折角、皆で作ったんだし」

 

「おっ、待ってました~!!」

 

 

 照れ臭さを隠すように、まどかは大きな箱をテーブルへ載せ、外枠を取り上げる。

 その中には、かなり立派な苺のショートケーキが鎮座していた。

 待ちかねていた杏子が歓声を上げ、それを見たマミも驚きを隠さない。

 

 

「わぁ……! これを、皆が?」

 

「はい。昨日はマミさん、デートだって言ってたから、私の家に集まって皆で作ったんです。マミさんみたいに上手じゃないから、定番のになっちゃいましたけど……」

 

「そんなこと無いわよ、凄く美味しそう! 皆凄いわっ」

 

 

 満面の笑みで褒め称えるマミ。

 それに胸を張りながら、さやか達が応える。

 

 

「いや~、苦労しましたよ~。ケーキ作りなんて、あたし初めてでしたし」

 

「ホント、大変だったよな~。……なぁ、早く食おうよ~」

 

「えぇ、本当に大変だったわ。つまみ食いしようとする貴方達を止めるのは」

 

「うっ」

「ぐっ」

 

「ぁはは……」

 

 

 ほむらの突っ込みに、さやかと杏子が言葉を詰まらせ、まどかが苦笑いする。

 事実、この二人はじゃれ合うばかりでほぼ戦力外だったのだが、マミの前で見栄を張りたいのか、彼女達はほむらに反論をし始めた。

 

 

「あ、味見は大事な事でしょ!? それに、ちゃんとあたし達も手伝ったじゃない、切ったり、混ぜたり……」

 

「そ、そうだそうだ!! 後は………………混ぜたり、切ったり……」

 

「……杏子ちゃん、それ同じ事だよ?」

 

「正確に言うと、苺を切った側から味見したり、生クリーム混ぜながら硬さを見るためと言っていちいち舐めたり、だったけど」

 

「ごめんなさい」

 

「反省してます」

 

「うふふっ、もうそのくらいにしましょ? 今、お茶淹れるわね。美樹さん、佐倉さん、手伝ってくれる?」

 

「勿論ですよっ」

 

「じゃあ、アタシお皿出すな?」

 

「ええ、お願い」

 

 

 ほむらの切れ味鋭い突っ込みに耐え切れず、うな垂れるさやかと杏子。それを見かねて、笑いながらもマミが助け舟を出す。

 すぐさま体を起こした二人は、更なる追求から逃れるためか、ここぞという勢いで彼女の手伝いを開始した。

 

 

「全く。……ふふ」

 

「あははっ」

 

 

 そんな彼女達を、まどかとほむらは、微笑ましく見守るのだった。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

 真っ白な、雪のような生クリームの大地に、フォークの槍が深く突き刺さる。

 それが抉り取った大地には、黄色いスポンジの層と、生クリームと苺の層が見て取れた。

 一直線に宙を泳いだ塊は、やがて、真剣な顔をする少女の口の中へと仕舞われる。

 

 

「……ど、どうですか?」

 

「………………(ごくっ)」

 

「………………」

 

「……っ……、……」

 

 

 四人の少女が固唾を呑んで見守る中、真っ先にそれを頬張った今日の主役が頬を緩ませた。

 

 

「……うん、凄く美味しい! こんなに美味しいのは初めてかも!」

 

「ぃやったぁ~!!」

 

「良かったわね、まどか」

 

「うんっ。でも、ちょっと照れちゃうな、マミさんの作ってくれるケーキみたいに完璧じゃないし……」

 

「そんなこと無いわ。初めてでこれだけ美味しいんですもの、吃驚しちゃった」

 

「……なぁマミ、もういいよな? 食べていいよな?」

 

「くすっ。ええ、どうぞ?」

 

 

 さやかに「マミさんが食べるまで食べちゃ駄目!」と言われ、御預けを喰らっていた杏子が焦れたように催促する。

 それに微笑み返しながらマミが許可を出せば、杏子は瞳を輝かせてケーキにかぶりつき、皆もフォークを動かし始めた。

 

 

「やたっ、いっただっきま~す、ぁむ……んん~♪」

 

「ホント、杏子は幸せそうな顔して食べるわよねぇ」

 

「当たり前だろ、美味いもん食ってる時が、人間一番幸せなんだからっ」

 

「美味しいわね、まどか」

 

「うん。結構上手に出来たかも♪」

 

 

 和気藹々と、楽しいお茶会は進んでいく。

 皆が笑顔を浮かべる中、同じように微笑んでいたマミは、ふと何かを懐かしんだ声を。

 

 

「でも、こうして皆でお茶会をするのって、もう何回目位なのかしら?」

 

「さぁ? アタシ等が参加するようになってからは週一で集まってたから、単純に……二十回くらい?」

 

「……それ以外でも、結構集まっていたから、実際にはもっと多いわね」

 

「私達がマミさんと会ったばかりの頃は、毎日お邪魔させて貰っちゃってたよね」

 

「そうそう。おかげで、家に帰ってから地獄のカロリー計算……。マミさんの用意してくれるケーキ、めちゃうまなんですもん」

 

「わ、悪い事しちゃったかしら? 同じ年頃の女の子が家に来てくれるのなんて滅多に無かったから、嬉しくて……」

 

「あ、いえいえ、んなこた無いですよ。でも、今思うと、材料費とか結構かかっちゃったんじゃ?」

 

「ううん、平気よ。お菓子作りは趣味みたいなものだし、食べてくれる人が多くなってむしろ助かったわ。前は一人で食べなきゃいけなかったし」

 

 

 紅茶に口をつけながら、マミは言った。

 しかし、当時の孤独感や、この友人達とのすれ違いも思い出してしまったのか、その顔は渋そうに歪んでしまう。

 

 

「そう言えば、あの頃はまだ、キュゥべえに騙されてるって知らなくて。暁美さんにも辛く当たってしまって……。本当に、ごめんなさいね?」

 

「あ……」

 

 

 マミの謝罪を耳にし、ほむらは少し瞑目して、自分が歩んで来た道を思い返す。

 

 自分が魔法少女となる切っ掛けとなったまどかを救うため、幾度と無く時間を遡って、その中で、マミは様々な面をほむらに見せた。

 未来から来た事を信じて貰えなかったり、魔法少女の真実を知って錯乱してしまったりと、色々と苦労してきた事は、確かに事実。

 だが、今となっては、それも仕方の無い事だったのかも知れないと、ほむらは思う。

 彼女には彼女なりの苦しみがあって、しかし、自分はそれを解決できなかった。彼女だけでなく、他の仲間達も……。

 まどかだけを救うんじゃなくて、もっと周りをよく見渡せば、これほど遠回りする事は無かったかもしれない。

 

 まだ魔法少女ではなかった、あの頃と同じように。こうして笑い合える間柄に戻れたのは、奇蹟のような偶然の積み重ねの結果。

 今までの自分の努力はなんだったのかと、少し腑に落ちない気もするけれど、終わり良ければ全て良しとも言うし、今はもう彼女への悪感情は消え去っている。

 まぁ、他にもっと苦労した件があるし。

 主に美樹さやかとか、美樹さやかとか、美樹さやかとか。

 ついでに、海藻みたいな髪形したNTR娘とか、鈍感すぎるヴァイオリンマニアとか。

 どうして彼女達はああも毎回、何か恨みでもあるのかと思う程に致命的なタイミングですれ違ったのか、本当に不思議でならない。

 ……実は、一度だけ時間停止して、耳元で鬱憤を叫んだ事があるのは内緒だ。

 思考が横道に逸れてしまったが、ほむらは頭を小さく振ってそれを追い出し、気まずそうにこちらを伺うマミへ微笑む。

 

 

「……気にしないで下さい。確かに、色々と大変な事もありましたけど。でも、今は幸せですから。だから、大丈夫です」

 

「……そう。ありがとう、暁美さん」

 

「いえ……」

 

 

 小さく微笑み合うマミとほむら。

 そんな、珍しく殊勝な態度を見せるほむらを茶化す様にして、さやかは話しかける。

 

 

「ほむらも変わったよね~。あの頃はマミさんの事も『巴マミ』ってフルネームで呼んでたのに、今は『巴さん』だもんね」

 

「そ、それは、あの頃は色々と、余裕が無かっただけで……やっぱり、先輩だし……」

 

「でも、初めて『巴さん』って呼ばれた時は、正直吃驚しちゃったわ」

 

 

 当時――とは言っても、まだ一ヶ月も経っていないのだが、その時の事を思い出してマミは微笑む。

 いつもの様に皆でお茶会をし、その中で彼女は不意に、顔を真っ赤にし、モジモジとしながら上目遣いで「と……巴、さん」と、マミの名を呼んだ。

 あの時の可愛らしさと言ったら、女同士であるにも関わらず、思わず抱きしめたくなる程だった。

 しかし、彼女からして見れば心苦しい思い出なのか、彼女はシュンとして謝罪の言葉を口にする。

 

 

「う……ご、ごめんなさい……」

 

「あ、違うの。勿論嬉しくてだから、ね?」

 

「……はい。ありがとうございます」

 

 

 そんな様子に慌て、両手を小さく振りながらマミが言うと、ほむらは安心したのか、小さく微笑んで礼を返し、二人はもう一度笑い合う。

 それを見て思う所があったのか、さやかは駄目元で、ほむらにある提案をしてみる。

 

 

「……うむ! 一件落着、と言った所で、そろそろあたし達の事もフルネームで呼ぶの止めない? まどかだけじゃなくて、あたしの事もさやさやって愛情込めて呼んでよ~」

 

「残念、好感度が足らないわ。出直してくるのね」

 

「ちぇ~、なんだよ~けち~」

 

 

 しかし、それに返って来たのはにべも無い返事。

 内心、こんな返事が返ってくるだろうと予想はしていたものの、それがちょっとだけ寂しくて、さやかは唇を尖らせる。

 けれど、足らないという事は、いつかはそれに達するという事。なら、いつかきっと名前で呼ばせてやると、さやかは心の中で決意するのだった。

 そして同時に、ほむらを信頼し始め、まどかに並ぶ友達だと思うようになった切っ掛けでもある、ある出来事を思い出す。

 

 

「しっかし……。そっかぁ、あの戦いから、もう半年近く経つんだね~」

 

 

 感慨深そうに、さやかが呟く。それに釣られ、他の魔法少女三人もある戦いを振り返る。

 四月の中頃にこの街を襲撃した、ワルプルギスの夜との戦いを。

 

 ワルプルギスの夜。

 

 今まで、幾人もの魔法少女達が挑み、そして倒し得なかった、超ド級の魔女。

 発生起源は今を持ってして不明だが、元である魔法少女の精神に多大な影響を受けるその姿から判断し、少なくとも中世より後の時代から活動していたのではないか、とほむらは推測している。

 その力は、紛れも無く最凶の魔女に相応しい物で、それを打ち倒した事を皆が実感したのは、ワルプルギスの夜が消えてしばらくした後。

 街を厚く覆っていた雲が晴れ、太陽の光の温かさに触れた時だった。

 

 

「……苦しい戦いだったわね」

 

「確かに、ギリギリだったもんな。アタシ等全員、魔力も限界だったし」

 

 

 マミが苦々しく呟き、杏子がそれに頷く。

 事実、ワルプルギスの夜を倒せたのは、この四人を持ってしても奇跡としか言いようのない事なのだ。

 

 時間停止と言う特異な固有魔法を使い、他のメンバーを補助しながら、銃火器や爆発物による攻撃を行う、暁美ほむら。

 後方からの高威力砲撃と、ワルプルギスには効果が低かったものの、リボンによる拘束魔法を使うベテラン魔法少女、巴マミ。

 マミと同じ程度のキャリアを持ち、槍による中・近距離の遊撃を担当した、佐倉杏子。

 そして、砲撃に集中するマミの護衛に着き、治癒魔法で皆の傷を癒す傍ら、隙在らば、ほむらの時間停止で接近戦を挑んだ、美樹さやか。

 

 誰一人欠けたとして成立せず、その上で、綱渡りをするかのようなギリギリの戦いだった。

 そして、身を削り、魂を磨り減らすような攻防を幾度となく繰り返した結果、限界まで魔力を引き出した魔法少女達の総攻撃によって、ワルプルギスの夜は倒れる。

 しかし、その時点でグリーフシードは既に尽き、後は魔女化する前にソウルジェムを砕くしか、人としての心を守れないほど彼女達は疲弊していた。

 だと言うのに、彼女達はこうして今、お茶とケーキを楽しんでいる。勿論、それには理由がある。

 

 

「“アレ”が出てきてくれなかったら、あたし達、魔女になる前にソウルジェム砕くしかなかったもんね~」

 

「えぇ、本当に。初めて“アレ”を見た時は、凄く吃驚したけど……」

 

「ま、“アレ”のおかげで、同じ街に魔法少女が四人居てもグリーフシードの取り合いする必要が無いんだし、いい事じゃん」

 

「そうね……“アレ”があるからこそ、消耗を気にせず、今は魔女も使い魔も掃討できているのだし。でも……」

 

 

 言いながら、チラ、と皆が“アレ”に視線を向ける。

 部屋の片隅に鎮座するそれは、強烈な存在感を放ち、部屋の統一感を著しく奪っていた。

 

 

「……すっごく大きいよね、ワルプルギスの夜のグリーフシード」

 

 

 皆に釣られて、そちらに視線を向けたまどかが呟く。

 五人の視線を集めていたのは、人間の子供ほども大きさのある、黒曜石のような輝きを放つ巨大グリーフシードだった。

 皆が覚悟を決め、いざソウルジェムを砕こうとしたその時、晴れ上がった空から突然、これが落ちてきたのだ。

 直撃しなくて良かった、とは、その場に居た四人の共通の感想である。

 

 

「まさか、こんなに大きいだなんて……。しかも、見た目以上に重いから運ぶのだけで苦労したし。暁美さんの魔法が無かったら、きっと大変だったわね……」

 

「ですよねぇ。それに、あたしん家は親が居るから置けないし、杏子もホームレスだったから論外だし……」

 

「オイ、誰がホームレスだ。ちゃんとホテルに泊まってたっての」

 

「……私の家でも良かったんですけど、巴さんの家の方が、何かと都合が言いのは確かですから」

 

 

 マミの住むマンションは、見滝原市の中心に程近い場所に建っているため、ほむらの言う通り色々と便利なのだ。

 少し足を伸ばせば、街の中心街にも、郊外にも行けるので、この四人の活動拠点としては理想的な立地なのである。

 

 

「まぁ、これがあれば、高校生になって時間が合わなくなっても皆と会えるから嬉しいんだけど……。インテリアとしては、ちょっとね……?」

 

 

 しかし、マミからしてみれば、それが家に在る事のメリットは少し違うようで、少し恥ずかし気に彼女は言う。

 そんなマミの心中を察したのか、皆は次々に言葉を重ねる。

 

 

「大丈夫ですよ、マミさん。こんなの無くたって、あたし達はマミさん家に遊びに来ますからっ。ケーキもあるしっ」

 

「さやかちゃんてば、もう。でも、時々でいいですから、お邪魔させて貰えると私も嬉しいなぁ。ね、ほむらちゃん?」

 

「……まどかが、そう言うなら」

 

「アタシはケーキが食えるならいつでも来るぞっ?」

 

「皆……」

 

 

 にっこりと笑うさやか。

 さやかに同意し、対面のほむらにも笑いかけるまどか。

 仕方ない、といった風に零しつつも、同じく笑顔のほむら。

 そして、おそらくは本気でケーキ目当てで来てくれるであろう杏子。

 彼女達の優しい言葉に、不覚にもマミは目尻に涙を浮かべてしまうくらい感動してしまっていた。

 

 

「あ、でも、お邪魔しちゃうと悪いですから、先輩とイチャつきたい時はちゃんと言って下さいね? 流石に自重しますから」

 

「も、もう! 変な気を遣わないで!」

 

「あははっ、ごめんなさ~い」

 

 

 けれど、湿っぽくなりそうな気配を感じ取ったさやかが話にオチを付け、マミは照れながら声を上げる。

 悪戯が成功した子供のように笑うさやかだったが、しかし、気になる事を思い出したのか、すぐさまその笑顔を引っ込めて彼女は問う。

 

 

「んで、話は戻るけど、キュゥべえの話だと、普通のグリーフシードとは違うんだっけ?」

 

「……ええ。通常のグリーフシードに比べて、穢れの許容量が信じられないくらい高いらしいわ。

 それこそ、ワルプルギスのグリーフシードに孵化寸前まで穢れが溜まった時、それを回収する事で、あいつ等のノルマが達成できる程に。

 まぁ、世界中の魔法少女の穢れを集めたとして、数百年はかかるそうだけど」

 

「魔法少女の希望から絶望への感情相転移――魔女化の際に発生するエネルギーの回収。本当に、ふざけた話よね」

 

 

 先程までとは打って変わり、珍しく怒りを露にしてマミが呟く。

 実際に契約を交わし、事後報告の形でそれを知った彼女達の怒りは、やはり相当な物だ。

 世界へ絶望を撒き散らす存在だと教えられた魔女。

 それを打ち倒す存在として魔法少女が存在するのに、その実、魔力を使い過ぎ、ソウルジェムに穢れを溜め込み過ぎれば、敵である筈の魔女へと変貌してしまう。

 更には、魔法少女の肉体と魂の切り離しまで勝手に行われ、魔法を使うためのデバイスであるソウルジェムは、その名の通り、切り離した魂を物質化した物だったのだ。

 実質、自分の存在を石に転じられたような物なのだから、正常な人間なら怒りを覚えて当然である。

 彼女の怒りに同調するよう、さやかもまた腕組みをしながら、難しい表情を浮かべる。

 

 

「確か、それを使って宇宙の寿命を延ばす……んでしたっけ? ったく、そんなの割りに合わないっつーのっ! そもそも、その寿命だって尽きるのは何億年先の話だってのよ!」

 

「あんまり、ピンと来ないよね……? それに、幾ら願いを叶えて貰っても、それと引き換えに戦い続けなくちゃいけなくなるなんて、そっちの方が酷すぎるよ……」

 

「えぇ……。都合の良い奇蹟を与えて置きながら、最後には絶望に突き落とす。まるで、どこぞの笑うセールスマンよね」

 

「笑う……?」

 

「セールスマン……?」

 

「……暁美さん、それって何かの登場人物? もしかして、ドラマとか?」

 

「……え? み、皆、知らないの?」

 

 

 ほむらの例えに、まどかと杏子が首を傾げ、マミが詳細を尋ねる。

 彼女からして見ればかなり的を射た例えだったのに、思わぬ反応が返ってきてしまって、皆の顔を見回しながらほむらは焦り出す。

 そして、一人だけその例えを理解できる資質を持ち合わせていたさやかは、「可哀想だな~」とは思いつつも、彼女の今後を思ってそれを指摘する。

 

 

「前々から言おうと思ってたんだけどさ。ほむらって時々、もの凄く古い漫画で物事を例えるじゃない? あたしは分かるからいいけど、普通の中学生は藤子不二雄なんて知らないわよ?」

 

「そんな……!? あんなに面白いのに……!?」

 

 

 さやかの指摘に、ほむらは意外にも、かなりのショックを受けた。

 長い入院生活で、周囲とは多少趣味がずれている事は自覚していたけれど、あれほど含蓄のある漫画を知らないなんて……!? と。

 彼女の恋人が結構年上であり、その例えにも問題なく着いて来てしまうのが理由の一つでは在るのだが、当の本人はそんな事を露知らず。

 ほむらは、年齢の割りに早く感じる事となったジェネレーションギャップに、むぅう、と唸りながら、大いに苦しむのだった。

 

 

「はいはい、丁度良いし、辛気臭い話はここまで! 折角のケーキが不味くなるし、もっと楽しいこと考えなよ」

 

「……そ、そうね。何もこの半年間、戦ってばかりいたわけじゃないものね?」

 

 

 妙な雰囲気に成りかけていたのを無意識に察知したのか、杏子がパンパン手を鳴らす。

 そして、変な質問をしてしまったのかと内心ビクついていたマミが真っ先にそれに乗っかり笑顔を浮かべ、それに呼応する三人も口々に思い出を振り返る。

 

 

「うんうんっ。皆でご飯食べに行ったり、カラオケ行ったり、映画に行ったり……」

 

「体育祭とか、文化祭とか……。あ、夏には仁美ちゃんの別荘にお呼ばれもしたよね、女の子だけで」

 

「そう言えば。私、海に泳ぎに行くのなんて子供の時以来だったから、ちょっとはしゃいじゃったわ」

 

「お~、楽しかったよな。なにより、メシが美味かったし」

 

「……ホントに、色気のない子」

 

 

 杏子の言う通り、確かに志筑邸の別荘で出てきた料理の数々は、一般庶民が普段お目に掛かれない高級食材を専属のシェフが調理した、頬が落ちる一品ばかりだった。

 確かに同意できるのだが、しかし、花より団子を地で行く杏子に、いつの間にか復活したほむらは呆れ交じりの溜息を漏らす。

 そんな彼女に、珍しくさやかが突っ込んだ。

 

 

「あれ、そう言う割りに、ほむらも杏子並みにがっついてなかったっけ?」

 

「そ、そうだったかしら……?」

 

 

 ケーキを頬張りながら、恍けるように視線を逸らすほむらに、まどかは可笑しそうに微笑む。

 

 

「てぃひひ、ほむらちゃん、意外と食いしん坊なんだよね? それにカナヅチだし」

 

「……しょうがないじゃない、ずっと入院してたんだし……。病院食って美味しくなかったし……」

 

「ちょっと意外だよな。ほむらって結構何でも出来るようなイメージあったけど、こうして付き合ってみるとそうでもないし」

 

「でも私、ちょっと安心しちゃった。ほむらちゃんにも苦手な事ってあるんだなぁって」

 

「……ひ、人の体は陸上で生活するように出来ているのだから、別に、泳げ無くたって……」

 

 

 頬を赤く染めながら、ほむらは必死に強がって見せる。

 きっと、これが恋人の前であれば、彼女は違った反応を見せるだろう。

 

 時間遡行と言う特殊な魔法を用い、幾度となく時間を繰り返しては、最良の結果を求めて来たほむら。だからこそ、ここにいる仲間達は、遡行を始める前の彼女の事を知る事が出来ない。

 彼女の両親と元主治医を除けば、かつて三つ編み眼鏡の文学少女だった事を知るのは、魔法少女になる前に知り合い、数ヶ月前に再会を果たした、とある男性のみだ。

 色々あった末、現在その男性とほむらは交際中であり、本人は自覚していないが、かなり甘々な日々を過ごしていたりする。

 しかし、先の見えない時の迷路を彷徨う内、心は徐々に磨耗し、一番大切な友達であるまどかにすら、かつては冷徹な態度を取ってしまっていた。

 今ではそんな事はないのだが、今さら素直に甘えたり拗ねたりする事も出来ず、ほむらはちょっと後悔していた。

 クールな転校生なんてキャラ付けするんじゃなかった。もうちょっと、ワルプルギスを倒した後の事を考えておくべきだった、と。

 そんなほむらを励ますためか、マミは「そうだ」と言って両手を合わせる。

 

 

「それなら、彼氏さんを誘って、二人でプールにでも行ってみたら? 確か、近くのホテルに温水プールがあった筈だけど。そこで泳ぎを教えて貰うといいわ」

 

「温水プール、ですか……?」

 

 

 そういったレジャー施設の知識に乏しいほむらは、鸚鵡返しに問い返す。

 彼女の頭にある建造物の知識といえば、何処に爆薬を仕掛ければどんな風に倒れるか、レンズ効果を上手く発生させるにはどうすればいいか、などといった殺伐とした物だけなのだ。まるで傭兵である。

 そんな事実を知ってか知らずか……まぁ、間違いなく知らないだろうが、さやかはマミの言葉を補足する。

 

 

「あぁ、あのでっかいホテルの奴ですよね。今年改装して出来たばっかの。夏の間は結局あいつと泳げなかったし、あたしも行こっかな~」

 

「へぇ、そんなのがあるんだぁ……。でも、そういう所って、結構入場料かかるんじゃ……?」

 

 

 まどかの中学生らしい心配に、マミが諳んじるように、少し上を見上げながら答える。

 

 

「そうでもないみたいよ? 食事できる場所もあるみたいだし、デートには持って来いじゃないかしら?」

 

「……なんか妙に詳しいな。行った事あるのか? マミ」

 

「あ、違うの。実は、高校の入学式が終わったら、秋休みにでもそこに泳ぎに行こうって、彼に誘われてて……」

 

「ほっほう、先輩も積極的になったもんだ……。こりゃ、あたしのアドバイスが利いておるな?」

 

「……さぁ、どうかしらね?」

 

 

 さやかがニヤつきながら言った言葉に、マミは照れ臭さを隠すように恍けてみせた。

 が、実の所、マミの恋人はさやかから受けたアドバイスをすっかり忘れてしまっていたりする。……不幸なすれ違いの末に起こった、とある事件のせいで。

 その事件については後述するが、このデートも、秋入学の高校への受験勉強のせいで、マミの水着姿を見られなかった事が悔しくて堪らず、下心満載で誘っただけなのだ。

 欲望に忠実なその選択は、男にとっては非常に共感できる物だろう。誘われたマミとしても満更ではないのだから、何の事はない、お似合いのカップルなのである。

 

 

「……むふふ、でもぉ、マミさんはまた新しく水着買わなくちゃいけないんじゃないですかぁ~? 先輩に揉まれ過ぎて、大きくなってたりしてっ」

 

 

 そんな幸せそうな彼女を見てからかわずには居られないのか、さやかは両手を顔の側でワキワキとさせながら、マミにセクハラ染みた心配をする。

 しかし、それを聞いたマミは、普段なら叱り付ける所を、顔を赤くして俯いてしまう。

 

 

「……そうかも知れないわね」

 

「え」

 

「……実は最近、またブラがキツくなってきたのよね。大きいサイズだとあんまり可愛いのがないし、困っちゃうわ」

 

「なん……だと……」

 

 

 マミの言葉を聞き、さやかは某オサレ漫画の定番台詞を、正しいと思われる使い方で呟く。

 しかし、そういった知識のなく、胸の大きさにコンプレックスもない杏子はそれを華麗にスルーし、純粋にマミを心配する。

 

 

「確か、でっかいと肩が凝るんだって? 大変だよな。アタシはあんま気にしたこと無いけど」

 

「悩まずに済むなら、それに越した事は無いわ。男の人にもよく注目されちゃうし、良い事なんて無いわよ? 実際」

 

「……けしからん、実にけしからんですよマミさんっ。やっぱり、揉まれると大きくなるってホントなんですね~。あたしも、もうちょっと大きくならないかなぁ」

 

「いや、でもさ――」

 

 

 ワイワイと盛り上がる一角を見つめながら、まどかとほむらは意図せずして全く同じ行動を取った。

 ゆっくりと、自分の体に視線を落とす。

 凹凸の少ない体はそれを遮る事をせず、背筋を伸ばしたままでも、自分の太ももを確認できた。

 そして、おもむろに自分の胸をムニムニ触った後、未だに胸の話をし続けるマミとさやかの胸部を見やる。

 

 

「こんなのってないよ……」

 

「大丈夫、まだ大丈夫。お兄さんに揉んで貰えば、きっと……」

 

 

 二人の悲しい呟きが、豊満な胸部装甲を有するマミとさやかの耳に届かなかったのは、きっと神の思し召しなのだろう。二人の姿に気づいた杏子は、内心で彼女達の事を祈る。

 どうか、あの子達が健やかに成長してくれますように、と。

 ……実は最近、自分も少し大きくなり始めている事への、ちょっとした罪悪感を込めて。

 と、そんな事をしている間に話の内容が変わっていたようで、さやかは唐突に杏子へ話を振って来る。

 

 

「……そう言えば杏子、あんた学園祭で屋台全部制覇したんだって? よく食べ切れたわね?」

 

「ん? あ~、そう言えば、そうだった……。でも、なんでさやかが知ってんのさ?」

 

 

 さやかに言われ、杏子は頷くのだが、彼女達と学園祭を廻ったのはまだ恋人と合流する前だったため、その後の行動を知られている事を疑問に思う。

 それに答えたのは、今度は重点的に揉んで貰おうと心に誓い、何とか絶望的な胸囲(誤字に非ず)から立ち直ったまどかだった。

 

 

「あはは……。杏子ちゃん、凄く目立ってたよ? 泣いてる彼氏さん引っ張って、屋台を制覇した可愛い女の子が居るって」

 

「うぇ、マジか? 全然気付かなかった……」

 

「ま、杏子は色気より食い気、だもんねぇ~?」

 

「うっさいな~、いいだろ別に? ちゃんとアイツには代金支払ったんだし……」

 

「……体で、とか」

 

「ぐほっ!? ほ、ほむらっ、テメェ!?」

 

 

 罰が悪そうに杏子が呟いた言葉に、まどかと同じく立ち直ったほむらがカマをかける。

 見事に引っかかってしまった杏子は大きく咳き込み、その原因を作ったほむらを赤い顔で睨みつけるのだが、当のほむらはそ知らぬ顔で紅茶を啜っていた。

 

 

「冗談よ(図星ね)」

 

「ほ、ほむらちゃん、駄目だよ、もう……(図星、なのかな……)」

 

「そうよ、暁美さん?(図星なのかしら……?)」

 

 

 そんなほむらをマミとまどかは窘めるのだが、内心、杏子のとったであろう行動の大胆さに驚いていた。

 だが、この場でそれを追求するのは流石に可哀想だと思ったのか、みな言葉を飲み込む。

 しかし――

 

 

「はは~ん、杏子、あんたさては図星でしょっ!! やっらし~んだ~」

 

「さぁやぁかぁぁああ……!」

 

 

 ――他の皆が気を遣って触れなかった地雷を、自分からわざわざ踏みに行く。

 それが安定のさやかクオリティ。

 案の定、それを聞いた杏子はテーブルに両手を突いて、身を乗り出すようにさやかを威嚇する。

 

 

「お、落ち着いて杏子ちゃん、ケーキ食べよ? もう、さやかちゃん、めっ」

 

「はぁ~い……ごめんなさぁい」

 

「ったく……ぁむ」

 

 

 しかし、喧嘩するほど仲が良い、と言うのは彼女達にぴったりの言葉で。このやり取りにもすっかり慣れたまどかは、杏子の気をケーキで逸らし、さやかを叱り付ける。

 さやかが素直に謝ると、杏子は腹を立てた素振りを見せながらも、ケーキを消化する作業へと戻っていった。

 そんないつものやり取りを微笑ましく見守っていたマミは、ふとある事を思い出して杏子に問いかける。

 

 

「そう言えば、佐倉さん。確か、来年度から見滝原に通うのよね? 準備は出来てる?」

 

「え? あぁ、うん。まぁまぁ、かな。オジさんとオバさんが、後見人……? とかになってくれるらしいし。……しょ、将来の娘のためなら、幾らでもお金は出すからって……」

 

 

 つい数ヶ月前まで、杏子は魔法を駆使し、決して道徳的ではない方法で金品を手に入れ、それで生活をしていた。

 現在ではきっちり更生し、犯した罪は消せないまでも、自分を支えてくれる恋人とその両親には恥じぬ生き方をしようと、この秋から学校に通う事になっているのだ。

 その切っ掛けをくれた大切な家族の顔を思い出し、少し照れながら言う杏子に、マミは慈愛の篭った視線を向ける。

 

 ここに居る仲間達には既に周知の事実だが、彼女は自らの祈りを、家族の喪失という悲劇で締め括ってしまった。

 そして、当時の杏子の荒んだ背中を、実際にその眼で見たマミにとっては、彼女に新しい家族が出来た事が嬉しくて仕方ないのだ。

 

 

「そう……。いい人達なのね」

 

「……うん。アタシには、勿体ない位だよ、ホント」

 

 

 マミの言葉に、杏子は満面の笑みを持って返す。

 そう言うマミ本人も、中学生になってしばらく経った頃、家族で食事へ行く際に遭遇した事故で、両親を失っている。

 一人だけ生き残り、尚且つ、生き延びる為に交わした魔法少女の契約のせいで、青春を投げ捨て、戦いに没頭する日々。

 しかし杏子と同じく、今では彼女にも、それを支えてくれる大切な人が出来た。一度失っているからこそ、それがどれほど得難い物であるか、彼女達は知っている。

 

 悲しみに負け、一度は道を違えた二人。

 それでも、心のどこかで互いを思い続けていた彼女達は、再びこうして笑いあえる幸せを――自分達が掴んだ幸せを、静かにかみ締めていた。

 

 

「でも、良く合格したよね。家の学校、結構偏差値高い筈だけど……。あっ、まさか裏口入学とか!?」

 

「裏口……? そりゃ、学校なんだから裏口の一つや二つあるだろ。何言ってんださやか?」

 

「……やばい、本気で心配になってきた。ちゃんと編入試験受けたんだよね、杏子……?」

 

 

 そんな風にニコニコ笑っている杏子を、やはりからかわずにはいられないのか、さやかはいつもの調子で言うのだが、思わぬ返答が帰って来て別の心配が湧き上がる。

 荒んだ生活を送っていた割りに純粋なのは知っていたが、裏口入学という言葉すら知らないとは、流石に予想外。

 受験戦争と関わった事がないのもその原因の一つなのだが、世間の荒波に揉まれて大変な事にならないか多分に心配になったさやかは、もう一度杏子に問いかけた。

 

 

「……? ああ。テストなら受けたよ。何個か満点取ったし」

 

「えっ、うそぉ!?」

 

「す、すごいね、杏子ちゃん」

 

「そうかぁ? あんなの、ただ覚えりゃいいだけじゃん。ラクショーっしょ」

 

 

 杏子は、事もなげにそう言ってみせる。

 いつだったかマミが、「勉強が出来る事と、魔法少女として有利な戦い方が出来るかどうかは別」と言っていたが、この結果を見る限り、そうとも言い切れないらしい。

 勉学については完全に格下と見ていた杏子が実は頭が良かったと知って、さやかは非常に悔しがり、見栄を張ろうと胸を張った。

 

 

「うぐぐ、なんか悔しい……。い、いいのよ、時代は人間力!! コミュ(ぢから)さえあれば、どうとでもなるっ。きっとっ」

 

「……上条恭介は寝取られた癖に」

 

「ぐっさぁっ!?」

 

「さ、さやかちゃぁぁん!?」

 

 

 ――は良いものの、ほむらの冷静な突っ込みに急所を突かれたのか、さやかは胸を押さえて仰け反り、後ろに倒れこむ。

 

 

「……となるとでも思ったかぁ!? あたしにはあいつが居るからいいのっ」

 

 

 ――かと思えば、意外にも素早く復活した落ち着きのない彼女は、自らの恋人の姿を思い出しながらまた胸を張る。

 それを見て、まどかはほっと胸を撫で下ろす。

 

 

「び、びっくりさせないでよぉ……」

 

「なっはは、ごめんごめん。でも、ホントにそうだしね~。

 今にして思えば、振られて良かったとも思うんだ、あたし。恭介とも、前より仲良くなれちゃった気がするし」

 

「そう言えばそうだよね。私、仁美ちゃんや上条君とも、ぎこちなくなっちゃうんじゃないかって心配してたんだけど」

 

「そこら辺は、ほら。さやかちゃんの人徳って奴? ……と言うより、お互い幸せだからかもしれないけどね。

 ……確かに、あたしが望んでいた形とはちょっと違う形になっちゃったけど。こんなのもありかなって」

 

 

 この五人の中で、一人だけ失恋という経験を持つ彼女。

 だが、その苦い経験からでも、何がしか得る物があったのだろう。

 普段の元気一杯な顔とは違い、さやかは少し大人びた表情を見せる。

 

 

「アタシには幼馴染とか居ないし、よく分かんないけど。さやかが良いって言うんなら、それも良いんじゃない?」

 

「こういうのも、雨降って地、固まるって言うのかしら?」

 

「……そうかも知れませんね」

 

「実際、雨にも降られたしね~。あいつが居てくれなかったら、どうなってたんだろう……。

 ま、今ではあの二人に負けない位ラブラブなんですけどねっ。なんて言ったって、こないだなんかあたし、お姫様抱っこされちゃって♪」

 

 

 そんな、幸せの絶頂に居るさやかは、世に言うバカップルの例に洩れず、自分の頬に両手を当て、イヤンイヤンと体をもじもじさせながら惚気話を披露し始める。

 

 今では幸せそうな彼女だが、その実、魔女化の一歩手前まで心に呪いを溜め込み、追い詰められた事があった。

 長年片思いをしてきた相手――幼馴染である上条恭介に告白すると、友人である志筑仁美に宣言され、同時期に知らされた、魔法少女の肉体が魂の抜け殻であると言う事実に思い悩んだからだ。

 そして、親友のまどかにそれを当り散らし、そんな事をしてしまった自分と、思い通りにならない世界に絶望して、一人雨に濡れていた、そんな時。

 見ず知らずの男性に傘を差し出され、危うい心を、優しく解された。

 結果、さやかは魔女化を免れ、上条恭介にもきちんと思いを告げ、悲しい結末ではあったが、決着をつける事が出来たのだ。

 まるで一昔前のドラマみたいな出会い方をしたその男性は、今では彼女の恋人となっている。

 

 そんな経緯があって、しかも、まだ恋人になってから半年と経っていないのだから、惚気たくなるのは仕方のない事なのかもしれない。

 だがしかし、それを聞いたまどかは、とても疲れた表情を見せてさやかに言う。

 

 

「……さやかちゃん。その話、今日だけで三回目だよ……?」

 

「累計だと、次で二桁ね」

 

「う。そ、そんなに言ってる、あたし……?」

 

「……正直、ウザいわ。早乙女先生みたいで」

 

「ちょっ!? 嘘でしょ!? そ、そんなこと無いよね、ねぇ、まどかっ?」

 

 

 見滝原中学校一の面倒な女教師、早乙女和子に例えられて事の重大さを実感したのか、さやかは悲壮な顔付きでまどかに詰め寄り、肩を掴んで揺さぶる。

 早乙女和子、三十ピー歳。

 今年の三月末に、目玉焼きの焼き加減が原因で恋人と破局して以来、未だに新しい恋人が出来ず、担当である英語の授業での例文にすら影響が出ている。

 可哀想ではあるが、そんな女性に例えられれば、誰だって否定したくもなるだろう。

 しかし、まどかは気まずく視線を逸らしながら、悲し気に呟くのだった。

 

 

「……うぇはは……ノーコメント……」

 

「……ガーン……超ショック……」

 

 

 まどかの言葉に、多大なショックを受けてうな垂れるさやか。

 

 

(まさか、あの先生と同じ様な行動をしていたなんて……。

 と言う事は、まさか三十過ぎても結婚できない? いやいや、あたしにはあいつが居るんだからそんな事は……。

 あれ? でも、早乙女先生も恋人自体はちらほらと居たような……。

 ……って事は、いつか捨てられる? ………………………………………………ヤバイ、考えただけで死にたくなった)

 

 

 そして、絶望的な未来を想像した彼女のソウルジェムが、ゆっくりと濁りだす(比喩的な表現で、実際にはそんな事はない……といいな)。

 自らも早乙女女史の面倒臭さを知っているマミは、そんなさやかを慰めようと言葉を尽くす。

 

 

 

「え、ええっと、そんなに落ち込まなくても……。惚気たくなる事ぐらい、誰にだってあるわよ。ね?」

 

「……で、ですよねっ? マミさんにだって、惚気話の一つや二つありますよねっ?」

 

「え? ええ、まぁ……」

 

「あ、マミさんのだったら、ちょっと聞いてみたいかも」

 

「……そうね、興味あるわ」

 

「確かに、マミからはそれっぽい話聞いた事無いもんな」

 

「そ、そんなこと無いわよ? 普通よ、普通……」

 

「その普通を聞きたいんですよマミさんっ。あたしも参考にしたいし」

 

「え、え……そ、の……」

 

 

 思わぬ方向に飛び火した話を避けようと、マミは適当に誤魔化そうとするのだが、皆は眼を輝かせて話に食い付いて来る。彼女は困りきった素振りを見せているが、実は内心、喜んでいたりする。

 恋人が出来てからというもの、学校での高嶺の花扱いは緩和したが、それでも、急に友達が出来るわけはなく、なかなかこういった惚気話はした事がないのだ。

 この仲間内で相談された事はあっても、なかなか自分の事は言う機会が無かったり……。

 もうお気づきだろうが、先程さらりと言った「デートに誘われてるの」発言は、彼女の中では惚気に入らないらしい。

 この辺りに新しい友人が出来辛い理由があるのだろうが、それを仲間達が指摘しないのは、マミを傷つけるのが嫌なのか、それとも、彼女と同類だから気にもしていないだけなのか……。

 真偽の程はともかく、マミは渋々といった様子(もちろん嘘)で語り出す。

 

 

「毎朝、起こしてあげる、くらいかしら。家がすぐそこだし。後は、一緒に学校に行ったり、一緒にお弁当食べたり。

 帰って来てからも、夕飯を食べに来てくれたりとか………………た、たまに、泊まっていってくれたり、とか……」

 

「おぉ~」

 

「……いいなぁ、マミさん」

 

「……ふむ」

 

「ふ~ん、確かに普通だな」

 

「あ、あら、そう……?」

 

 

 しかし、自分からして見ればとても幸せな惚気話を杏子に一蹴され、マミは地味に凹む。

 そんなマミに気付いていないのか、さやかは言い切った杏子に興味を示す。

 

 

「ほぉ? それはどういう事ですかな? あんこさん……て、そう言えば、あんたはもう同棲してるんだっけ?」

 

 

 ――が、言ってる最中に思い出したのか、さやかは確かめるように言い換える。

 確か、恋人と初めて想いが通じ合った少し後に、ホテル住まいから引越しをしたと聞かされた事があった。

 そして今では完全に恋人の家へ住居を移し、寝食を共にしているらしい。

 しかし、はっきり同棲と言われた事で意識してしまったのか、杏子は顔を赤くして声を上げる。

 

 

「あんこって言うなっ。……それと、同棲じゃなくて、居候だろ。変な言い方すんなよ……」

 

「照れない照れない。んで、杏子にはなんかないの? 惚気話」

 

「ねぇよそんなもん………………あ」

 

「……? どうかしたの、杏子ちゃん」

 

「え、あ、いや……」

 

 

 不意に言葉を途切れさせた杏子に、今度はまどかが問いかける。

 それに対しても、杏子は歯切れの悪い返事を返すのだが――

 

 

「……いってらっしゃいのキス、とか」

 

「うぉぁあああ!? な、なんで!?」

 

 

 ――今まで沈黙を保っていたほむらの口から出た言葉に、杏子が過剰に反応を返す。

 言ったほむら自身も的中するとは思っていなかったのか、その声に若干目を丸くしている。

 

 

「……これも冗談のつもりだったんだけど……?」

 

「………………あ゛」

 

「あらあら」

 

「くっふふ、らぶらぶですなぁ~」

 

「ね~」

 

「……ぐぁあああ!! アタシの事はもう良いだろ!? ほむらはなんか無いのかよ、そういう話!?」

 

 

 二度もカマ掛けに引っかかり、皆に微笑ましく見つめられて恥ずかしさが頂点を極めたのか、杏子はガシガシと頭を掻き毟りながら、同じ目に遭わせようと原因たるほむらに話を振る。

 

 

「……ごめんなさい、話の流れを切るようで申し訳ないけど、特には。先週もデートをしたくらいで――」

 

「え」

「え」

 

「――え?」

 

 

 流石に罰が悪そうにしていたほむらは、しかし、杏子の振りに答えられるだけのネタを思い出せず、正直にそう答えたのだが、まどかとさやかがそれに奇妙な反応を返す。

 

 

「……どうする、まどか。ほむらってば、バレてないつもりみたいだけど」

 

「……ど、どうしよっか……?」

 

「何かしら……?」

 

「鹿目さんと美樹さんは、何か知ってるの?」

 

「何だ何だ?」

 

「で、でも、言っていいのかな……?」

 

「う~ん、どうしよっか……」

 

「心当たりが無いのだけど……?」

 

 

 こそこそと話し続ける二人と、それに加わろうとするマミと杏子。

 そんな四人を見ながら、本当に心当たりが無いのか、ほむらは首を傾げた。

 先程の仕返しのつもりなのだろう、杏子は困惑するほむらを余所に、まどか達に話の続きを催促する。

 

 

「いいじゃんいいじゃん、アタシも話したんだから教えろよ~」

 

「……うん。あたしが言うより、まどかが言った方がダメージがデカそうだし、まどか、よろしくっ」

 

「えぇえっ!? そんなぁっ!?」

 

「な、なに? なんなの、まどか……?」

 

「あ、うぅぅ、えっと……ほ、ほむらちゃん、さ……」

 

「ええ……」

 

 

 顔を赤くし、俯きながら、まどかは口を開く。それを見据えながら、ほむらは背筋をピンと伸ばす。

 傍から見れば百合ん百合んな告白シーンにも見えるが、まどかはこれから言う事が恥ずかしく、ほむらは何を言われるのかと戦々恐々としていて、なんともちぐはぐな空気が漂う。

 そして、そんな空気をまどかの一言が打ち破る。

 

 

 

 

 

「……さ、最近、初Hしたでしょ……?」

 

「ほむぶっ!?」

 

 

 

 

 

 予想外にも程がある言葉に、ほむらが思いっきり吹き出す。

 幸い、口には何も含んでいなかった為、テーブルを汚す事は無かったが、能面の如きほむらの表情と違い、その思考は愉快な程に焦りまくっていた。

 それもそのはず、まだその事実は誰にも話しておらず、言うような事でもないと、心に秘めていたからだ。

 

 

「……な、何の事かしら……?」

 

「あはははははっ、な、何今の、ほむぶっ、って、あっははははは!」

 

「わ、笑わないで頂戴、佐倉杏子!!」

 

「まぁ、おめでとう、暁美さんっ」

 

「え、えぇ、あり、がとう……うぅ……何で……」

 

 

 とりあえず知らん振りをするほむらだったが、杏子の爆笑とマミの祝福に後戻りできない事を悟り、恥ずかしさに俯く。

 思わず「何で」と呟けば、さやかとまどかが顔を見合わせながらそれに答える。

 

 

「何でって、バレバレっしょ、あれは」

 

「うん。私もすぐ分かっちゃったもん」

 

「……わ、私、どこか変だったかしら……?」

 

 

 二人の言葉に、自分がどんな行動をしていたのか気になったほむらは、それを問い質す。

 すると、さやか達は若干呆れ気味な表情を浮かべながら、当時のほむらの様子を説明した。

 

 

「そりゃあ、ねぇ? 意味深にお腹を擦りながら、普段滅多に見せない微笑みを浮かべてれば、ねぇ……」

 

「うん……。ほむらちゃん覚えてないだろうけど、あの時、早乙女先生が荒れて大変だったんだよ?」

 

「ついでにほむらの事を狙ってた男子連中にも伝わったみたいで、軒並み血涙流してたわね」

 

「そ、そうだったの……?」

 

 

 そう言われて、ほむらは数日前の自分の行動を思い返してみる。

 確かに、恋人と結ばれ数日経った後も、下腹部に残る甘いうずきに、頬が緩むのを止められなかった。

 確かにそうだったけれど、しかし、学校では隠せていたつもりだったのに。

 あの緩みきった顔を誰かに見られていたと考えると、その途端、ほむらに激しい羞恥心が襲いかかる。

 

 

「でも、仕方ないよね? 凄く嬉しい事だもん。私、ほむらちゃんの気持ち分かるよ?」

 

「あたしもそうだったっけ……。一日中ニヤニヤして、親に気持ち悪がられたよ」

 

「は~、おかしかった……。ま、そりゃねぇ。二~三日は違和感が残って、どうしても思い出しちゃうもんな」

 

「……確かに、思い出しちゃうものねぇ」

 

「……あまり、優しくしないで……恥ずかしくて死にそう……」

 

 

 微笑みながら、次々に賛同の言葉をかける仲間達に追い討ちをかけられ、ほむらはテーブルに突っ伏して真っ赤になった顔を隠す。

 そんな彼女を見ながら、一人、マミだけは皆と別の事を思っていた。

 

 

(言えない。別の意味で忘れられない初体験になったなんて、皆の前では言えない)

 

 

 彼女達と出会ってしばらく経った頃、男っ気がまるで無かったマミに突如恋人が出来た事で、色々と質問責めにあったが、彼女達へは自分が誘惑して彼に手を出させた、と誤魔化し続けた。

 そのおかげか、皆からは大人の女性扱いをされて非常にいい気分だったのだが、それも長く続くと重荷になる。

 実際には、知らず知らずの内に好意を抱いていた現在の恋人が、マミに内緒で恋愛相談していたさやかと仲良くなり、名前で呼ぶようになった事に嫉妬を覚え、魔法を使って逆レイプを敢行したのだ。

 直前に、魔女との戦いで危うく死にかけ、精神が不安定になってしまったのも大きな理由であろうが、この事実を知られたら、間違いなくドン引きされる。

 そう思っているマミは冷や汗を隠し、それっぽい台詞でまたも誤魔化す事にした。

 

 ちなみに数日後、このパーティーに対抗して彼氏達が行った男子会にて、マミの恋人が半ば強制的にこの話をさせられる事となる。

 そして、その伝で仲間達にも逆レイプの事実が知られてしまい、しばらくの間、マミは皆に生暖かい眼で(なぜかまどかには畏敬の念を持って)見られる事になるのだが、それはまた別の話。

 それはさておき、さやかはいい具合に盛り上がった話の流れを、まどかへと誘導し始める。

 

 

「さて、順番で行くと、次はまどかかぁ、これは期待出来ますなぁ?」

 

「え? わ、私も話すの?」

 

「だって、この五人の中で一番彼女暦が長いのまどかじゃない。ここは是非、先輩としての力の差を見せてよぉ」

 

 

 いきなり話を振られ、まどかは戸惑うのだが、さやかはしたり顔で彼女を肘で突っつきながら催促する。

 さやかの言う通り、このお茶会に参加している中で一番早くに恋人を得たのはまどかであり、更に言うならば、一番早く“大人”になったのも彼女だ。

 それを聞いた当時のさやかは、相手がかなり年上なのを知っていたため、もしや無理矢理されたのではないかと、自分がそのお膳立てをした事も忘れて酷く心配したりもした。

 しかし、幸せオーラ全開のまどかに取り越し苦労である事を悟り、彼女の口から洩れる破壊力抜群の惚気話には相当に辟易したものだった。

 だが、最近ではそれも落ち着き(実際にはさやかが惚気出すようになって我が身を省みただけなのだが)、全く言われなくなるとなんだか物足りない気もするのである。

 

 

「えぇ? 時間の長さは関係ないと思うけど……。あ、えっと、じゃあ、一個だけ」

 

 

 さやかの言葉に困った表情を見せるまどかだったが、しかし何かを思い出したのか、首元をモゾモゾと探り、服の下に隠していたネックレスチェーンを取り出して見せる。

 それに通された、銀色の輝きを放つ小さな輪を見取ったほむらは、首を傾げながらまどかに問う。

 

 

「それは、指輪?」

 

「うん。婚約指輪」

 

「へぇ、そうなん――だぁぁあああっ!?」

 

「マジかよっ」

 

「……こっこここっ婚約ぅ!? いいい一体いつの間にそんにゃ事に……!?」

 

「暁美さん、落ち着いて? でも、本当にいつの間に?」

 

 

 特にもったいぶる事もなく答えるまどかに、いつも通りに相槌を打とうとしたさやかは、その内容を理解した途端、驚きの叫びを上げる。

 同じく杏子も声をあげ、ほむらも再度まどかに問いかけようとするのだが、余程慌てているのか言葉を噛みまくり、鶏になったり猫になったりと忙しい。

 そんなほむらを宥めながらも、マミもそれが気になったのか、まどかに同じ質問をする。

 

 

「えっと、マミさんの卒業式の、すぐ後に。このパーティーの事とか色々計画してたから、言うタイミングが無くて……」

 

「そうだったの、気を遣わせてしまったわね……。ともあれ、おめでとう、鹿目さんっ」

 

「よかったな、まどか」

 

「うんっ。ありがとう、マミさん、杏子ちゃん」

 

「あ~、ホントに吃驚した……。でも、おめでとっ。ちなみに、プロポーズの言葉は何だったんですかぁ?」

 

 

 マミ達の祝福の言葉に、まどかは幸せ一杯な、満面の笑みを持って返す。

 驚愕から回復したさやかもそれに続き、さながら芸能リポーターの口振りで更なる情報を聞き出そうとする。

 

 

「え、えっと、ね……? 『これからもずっと、まどかの隣に立っていたいから。あと二年、待っててくれるか?』って……」

 

「おおぉ、意外とシンプル。だがそれが良い!」

 

「そうだな。変に飾ってるより、分かりやすくていいじゃん。アタシはいいと思うけど」

 

「ええ、想いが込められていれば、それに勝る物はないと思うわ。本当に良かったわね?」

 

「はいっ」

 

「……はっ……そ、そうね。手を出しておいて逃げるようなら、コンクリ詰めにして海に沈める所よ」

 

 

 仲間達の言葉に、まどかはもう一度笑みを浮かべて深く頷く。

 その笑顔を見て、ほむらもようやく再起動するのだが、祝福するには完全に出遅れた感があり、仕方なくまどかの恋人を指して(割かし本気で)言う。

 しかし、それを聞いたまどかは、不貞腐れるように頬を膨らませた。

 

 

「あぅ……。ほむらちゃんまでママと同じこと言わないでよぉ。そんな無責任な人じゃないもん……」

 

「あら、と言う事は、お母様にはもう……?」

 

 

 まどかの言葉から、彼女の母親は既に関係を知っているのだと悟ったマミがそう言うと、まどかは小さく頷く。

 

 

「はい、指輪を眺めてる所を見つかっちゃって……。でも、ママにはもっと前からバレてたみたいなんです。メールとか、出かけるタイミングとかで」

 

「うぇ、そうだったの? じゃあ、お泊りのアレとかも……?」

 

「やっぱり、途中からバレてたみたい。良い機会だからって、こってり怒られちゃった」

 

「……仕方ないわ。何だかんだで、私達はまだ中学生なのだし。交際自体は反対されなかったんでしょう?」

 

「うん。『アイツなら浮気の心配もなさそうだし、いいんじゃない?』って。でも『中学生に手を出した落とし前はつけさせるけど』とも言ってたから……。酷いことされないと良いんだけど」

 

「怖ぇな……。でも、付き合いを認めて貰えただけ良かったって考えなよ。親父さんも認めてくれたんだろ?」

 

「あ、ううん。パパはまだ気づいてないみたいなの」

 

 

 母親の言葉を思い出し、恋人の安否を心配したまどかが不安に表情を曇らせる。

 そんな彼女に、杏子はポジティブに考えた方が良いと言いながらその父親を引き合いに出す。

 しかし今度は首を横に振るまどか。

 

 

「ママが言うには、パパって恋愛に関してはすっごく鈍感なんだって。それで、丁度いいからまだ秘密にしておいた方がいいって」

 

「あれ、そうなの? なんか意外。まどかのパパって気配り上手だし、かなりモテそうなのに」

 

「それは、そうだったみたい。『ライバルが多くて、既成事実作んのに苦労したよ』って言ってた」

 

「へぇ。なんかアタシと気が合いそうだな……。でも、何で秘密にすんだ? いい人そうだったし、ちゃんと話せば認めてくれるんじゃ?」

 

 

 その話を聞いて、杏子は彼女の母親に親近感を覚える。彼女自身、煮え切らない態度を取る恋人(当時はまだ恋人ではなかったが)に迫った経験があり、他人事の気がしなかったのだ。

 だが、親近感を覚えたが故に、なぜわざわざ秘密にするのか理解できず、杏子は疑問に思う。

 今食べているケーキを作りに、まどかの家にお邪魔した時。

 突然お邪魔する事になったにも関わらず、にこやかに微笑み、快く迎え入れてくれたあの父親なら、正直に話しても無碍にはしないだろうと杏子は思うのだ。

 

 

「うん、私もそう思うんだけど……。『男親ってのはそういうもんだから、ちゃんと責任とって貰える年齢になるまでは、パパを不安にさせないように。じゃないと血の雨が降るぞ?』って……」

 

「ぶ、物騒だな、おい……」

 

「流石にそれは無いんじゃ……」

 

「よねぇ……」

 

「……分かる気がするわ。まどかがお嫁に行くと知った時の、ロボライダーとかバイオライダーに変身できそうな、お父様の気持ち」

 

「ええっ、なんで!? ていうかやっぱり例えがよく分からないよ!?」

 

「今度は仮面ライダー……。しかもBLACK・RXて。どんだけ好きなのよあんたは……」

 

 

 まどかにとっては、いつも優しい父親がそんな事をするとは思えず。

 また、この優しい少女の父親がそんな事を出来るのかと、仲間達もそれを否定するのだが、一人、ほむらだけは肯定の言葉を返し、まどかは驚く。

 そんな彼女を余所に、ほむらはこの時間軸に遡行してきた当初の事を思い出していた。

 

 彼女が、その母親の部下である会社員の男性と交際している事実を知ったほむらは、しばらくムンクの叫びっぽい形相を浮かべた後、時間遡行の間に磨き抜いたスニーキング技術を駆使してその詳細を調べ上げた。

 勿論、まどかが騙されたりしていた場合、相手の男を物理的・社会的に抹殺する為に、だ(後々考えて、実行していたらまどかも傷つけてしまっていたであろう事に気づき、冷や汗をかいた)。

 だがしかし、思いのほか健全なお付き合いを重ねた上で恋人同士になった事を、デート場所の監視カメラの映像から理解したほむらは、断腸の思いで彼女達の仲を(勝手に)認めたのだった。

 きっとこの気持ちは、実の父親である鹿目知久氏の親心にも通じるだろうと、ほむらは(勝手に)思っている。

 そして、ワルプルギスの夜を越えた後、我慢しきれなくなって銃を後ろ手に脅しをかけようと接触した時。

 まどかへの気持ちを確かめるためにした問いかけへ、視線を逸らさず、つっかえながらも真っ直ぐな想いを語って見せた彼であれば、まどかと共に幸せになってくれると、信じてもいる。

 

 ……けれど。

 ほむらは、どうしてもある事を確かめたくなり、紅茶で唇を湿らせてから、おもむろに口を開く。

 

 

「……ねぇ、まどか」

 

「な、何、ほむらちゃん」

 

「……今、幸せ? まだ、魔法少女になりたいって、思ってる?」

 

「え? …………ん、と」

 

 

 その質問は、かつて、あの渡り廊下で交わされた問答と同じ真剣さを漂わせていた。

 まどかの今を考える限り、幸せであるのは間違いないと、普通なら思える。そのために幾度となく時を繰り返し、絶望を乗り越えて来たのだから、これ以上の喜びはない。

 何のおまけか、自分まで幸せになってしまった事に不安を覚えた事もあったが、恋人のおかげで、最近は素直に幸せを感じる事も出来る。

 しかし、どうしても。

 自分に都合のいい結果を無理矢理に作り出したような、そんな気がしてしまうのだ。

 

 

「今は、思わない、かな……?」

 

 

 だが、ほむらの言葉をしっかりと受け止め、それに投げ返された柔らかい微笑みが、そんな気持ちを消し去って行く。

 

 

「さやかちゃんと仁美ちゃんに、マミさん、杏子ちゃんに、ほむらちゃん。

 大事な友達が、こんなに沢山居て。

 私の事を大好きだって言ってくれる、パパや、ママや、タツヤも。……あの人も、居てくれて」

 

 

 なにか、形のない物を握り締めるように、胸元で小さく手を握り。

 瞼を閉じて、その裏へ大切な人々を思い描きながら。

 まどかは、確かな幸福を言葉に乗せる。

 

 

「これ以上幸せな事なんて、私、思いつかない。

 だからもう、魔法少女にはなりたいって思わないと思う。

 だって、もう願い事は叶っちゃってるもん」

 

「……そう。良かったわね」

 

「うんっ」

 

 

 もう何度目かは分からないが、それでも飽きること無く、まどかとほむらは微笑み合う。

 この世界は、あいも変わらず悲しみと憎しみを繰り返し、希望の光は容易く陰ってしまうほど弱弱しい。

 けれど、この笑顔は。

 ほむらにとって、どんな暗闇の底でも余す所無く照らしてくれる、太陽の光にも思えるのだった。

 そして、そんな太陽は恥ずかしげに俯き、自らも相談事がある、と口を開く。

 

 

「……それで、ね? この際だから、皆に相談したい事があるんだけど……。いいかな?」

 

「えぇ、勿論よ」

 

「後輩の相談に乗るのも、先輩の役目ですもの。遠慮しないで?」

 

「そうそう。大船に乗ったつもりで、さやかちゃんに話して御覧なさい?」

 

「さやかはともかくとして、言うだけ言ってみなよ。アタシも、まぁ、力になれる事なら手伝ってやるからさ?」

 

「ともかくとしてってどう言う事? 言っとくけど、あたしはまどかの親友なんだからね? まどかだってあたしを信頼して相談――」

 

「ありがとう、皆……。それで、なんだけど……」

 

「――あれ? なんでスルーするの? ねぇなんで?」

 

 

 スルーされた事にさやかは焦りを募らせるが、まどかはこれからする相談の事で頭が一杯なのか、その言葉には答えない。

 断じて恋愛事に関して彼女が頼りにならないからでは無い。決して無い。本当に無い。少なくともまどかはそう思っている。

 そして、照れ臭そうな少女の口から出た言葉は、四人を大きく狼狽えさせた。

 

 

「そ、の……え、Hの時、最後までしないで男の人を満足させるには、どうすればいいかな、って……」

 

「あ~……え?」

 

「お、おぃおぃ」

 

「……き、急にどうしたの? 鹿目さん」

 

「ママに言われたんです。『来年は受験が控えてるし、成長にも影響が出るから、少なくとも高校生になるまでは禁止!』って。

 でも、我慢させちゃうのは可哀想だし、ちゃんとしてあげたいんですけど、いつもして貰うばっかりだったから、よく分かんなくて……」

 

「……ごめんなさい、私は、力になれそうも無いわ……」

 

 

 経験回数がまだ一回の身では流石に助けになれそうも無く、ほむらは力になれない事を悔やんで目を落とす。

 実際のプレイ内容を比べると案外そうでもないのだが、二人がそれを知るなずも無く、彼女は慌てて手を振り、ほむらと、他の皆にも声をかける。

 

 

「あ、いいの、気にしないで? 恥ずかしい事だし、皆も無理に相談に乗ってくれなくても……」

 

「……ちなみに、まどかはどのくらいだったの? 回数とか」

 

「……えっと、週に、一~二回くらい。お仕事で忙しいから、週末にしか会えないし……。さやかちゃんはどう?」

 

 

 さやかに問われたまどかは、体を縮めながらも相談主が隠してはいけないと思い、正直にそれに答え、今度は逆にさやかに同じ質問を返す。

 

 

「うぇ!? あ、あたし!? ……え~と、し、週に二回か、三回、ぐらい……かな? 最後までするって訳じゃないけど……」

 

「そうなの? じゃあどうやって……?」

 

「どうやってって……それは、く、口とか、手とか、ふともも……ぬぁああ!? あたし何言ってんのぉ!?」

 

「そっかぁ……。やっぱり、喜んでくれるのかな……?」

 

「さ、さぁ? 嫌がられてはいないと思うけど……。マ、マミさんはどうですかっ?」

 

「えっ!? わ、私は……」

 

 

 思わず赤裸々に答えてしまったさやかは、それから逃げるため、自分よりも恋人歴の長いマミに話を振る。

 流石に性生活をバラすのは恥ずかしいのか、マミも言葉に詰まってしまうのだが――

 

 

「………………」

「………………」

「………………」

 

 

 ――無言のまま、期待に満ちた視線を向ける後輩三人に根負けし、おずおずと口を開く。

 

 

「……み、三日に一回、くらい……? 家が、近いし……」

 

「おぉ……」

 

「そ、それで、マミさんは、どんな……?」

 

「………………」

 

「うぅん、と……大体は、美樹さんと同じ、なんだけど……後は、胸とか……」

 

「ふむ、胸、かぁ」

 

「胸……」

 

「……っ」

 

 

 マミの言葉に、さやかはなるほど、と納得するのだが、彼女のように重装甲を纏っていないまどかとほむらは落ち込んでしまう。

 やはり胸か、そんなにおっぱいがいいのか、と。

 世の男性全てにそれが適応されるとは彼女達も思っていないが、それでも悔しいものは悔しいのだ。

 

 

「……契約すれば、おっぱい大きくできるかな……?」

 

「ちょ、まどかぁ!? だ、駄目よ!?」

 

「分かってるけど、でもぉ、だってぇ……」

 

 

 そして、悔しさに負けそうになったまどかは、さっき自分が言った言葉も忘れて、奇蹟に縋ろうかな、などと思ってしまうのだった。

 本気ではないと分かっていても、その言葉にほむらは大いに慌て、自身の胸を抱えながら涙目になるまどかを諌める。

 ほむらの焦る声を聞いて、流石にまどかも自重するのだが、まだ諦めきれないのか、未練がましく言葉を続けて――

 

 

「だ、大丈夫よ鹿目さん。まだ成長期なんだし、焦る事ないわ?」

 

「うぅ、はい……」

 

「……ほっ」

 

 

 ――そんなまどかをマミが励まし、揉まれて大きくなったその人の言葉に少しは希望が持てたのか、今度は大人しく忠告に従う。

 ほむらがほっと溜息をつき、話はこれで終わりかと思われたが、なぜか一向に話に参加してこない人物が居ることに気付いたさやかは、その人物に話を向ける。

 

 

「あれ、そう言えば、さっきからなんで黙ってんのよ、杏子?」

 

「うぇ!? あ、アタシは……」

 

 

 急に振られたせいか、杏子は驚きに体を跳ねさせる。

 彼女を見て、そう言えば、とマミも参加を促す。

 

 

「佐倉さんはどう? 私から見れば、そういう事に厳格な印象があるのだけど……」

 

「え、えっと……」

 

「そうそう、元とは言え、クリスチャンなんだし……なんだっけ、て、てい……?」

 

「……貞節、かしら?」

 

「そう、それっ。あたしもそんな気がするんだけど、実際どうなのよ?」

 

「アタシ、は、その……」

 

「……杏子ちゃん、無理に答えてくれなくてもいいんだよ? もう十分助けて貰ったし……」

 

「うぐっ」

 

 

 内心、参加せずに済ませたいと祈っていた杏子だったが、しかし、自分だけ黙っている事に後ろめたさも感じてしまい、しばらく迷った後、躊躇いがちに口を開く。

 

 

「……アタシ、は……」

 

「……アタシは?」

 

「……ま、毎日……」

 

「……えぇ!?」

 

「まぁ」

 

「ふわぁ……」

 

「……意外ね」

 

「だ、だってっ!! ………………断れないじゃん………………気持ち良いし」

 

 

 語られた思わぬ言葉に、皆はそれぞれ驚いてみせる。

 こういう反応をされるだろうから黙っていたかった杏子は、いっそ口に出して楽になってしまったのか、破れかぶれに自分の気持ちを表す。

 

 

「………ぁあ、もうっ!! 分かってるよ、自分でも盛り過ぎだって!! ……でも嬉しいんだよっ……アイツに、求められるのが……。だから、応えてやりたくて……」

 

「それは……分かるけどさ……」

 

「確かに、そうね……」

 

「ですね……」

 

「えぇ……」

 

 

 杏子の言葉は、愛する男性を持つ他の四人にとっても共感できる物だったのか、彼女達は静かに頷く。

 けれど、毎日となると流石に体が心配になり、さやかがそれを口に出す。

 

 

「でも杏子、ちゃんと避妊とかしてる? 万が一出来ちゃったりしたら大変だよ?」

 

「そうね。私達もまだ学生だし、気をつけないと……」

 

(今、もの凄く『お前が言うな』って突っ込みたくなったのは何故かしら……)

 

 

 ほむらの受信した電波はともかくとして、さやか達の意見がもっともである事と理解できる杏子は、少し不貞腐れながらも愚痴をこぼす。

 

 

「分かってるよ。ちゃんと、アイツの方から言ってくれるし……。でも、結構高いんだよな、アレ」

 

「そうだよねぇ……。かと言って、安物だと逆に不安になるし……」

 

「それでも大事な事よ。私達、本当ならまだこんな事しちゃいけない歳なんだし。暁美さんも気をつけてね?」

 

「……はい。でも、大丈夫です。魔法で止めてますし」

 

「え、魔法少女ってそんな事も出来――」

 

「その話、詳しくっ」

「その話、詳しくっ」

「その話、詳しくっ」

 

「えっ」

「――ぅわわっ」

 

 

 話の流れから、マミはこの中で一番経験の浅いほむらに注意を促すのだが、そんな彼女が放った一言へ魔法少女達が一斉に食いつく。

 その勢いに、詰め寄られたほむらは勿論、言葉を遮られたまどかも驚いてしまった。

 

 

「……く、詳しくも何も、言葉通りなのだけど……?」

 

「それ、本当なんでしょうね? 嘘だったら酷いんだからねっ?」

 

「何でそんなに必死なの、美樹さやか……。元々、魔法少女はそういった体調に影響され難いようになっているの。

 それにちょっと魔力を上乗せして止めているだけよ? 事実、魔法少女になってからは、生理に悩まされる事はほとんど無くなったと思うのだけど……?」

 

「……おぉ。言われてみれば、確かに。全然気付かなかったわ」

 

「……そうなの? 私、魔法少女になってから来たから、良く分からなくて」

 

「あ、アタシも。こうしてみると意外と便利かもな、この体」

 

「………………」

 

 

 魔法少女達のやり取りを聞きながら、まどかは口元に握り拳を当て、考え込む。

 その姿に不穏な物を感じたほむらは、先んじてそれを窘める。

 

 

「……まどか、駄目よ?」

 

「ふぇ!? わ、私何も言ってないよ!? ……ちょっと羨ましいなって思っただけで――」

 

「だったら、僕と契約して魔法少女に《パンッ》ぎゅっぷいっ」

 

「――きゃっ!!」

 

 

 慌てて言い訳をするまどかの背後に、何処からともなく現れた白いネコのような動物――キュゥべえは、台詞を全て言い終える前に生涯の幕を閉じる。

 その命を奪ったのは、一瞬の内に格納空間から取り出した小型の拳銃《ワルサーPPK》を構えるほむらだった。

 銃弾が貫通して床や家具を傷つけないよう、二十二口径を選ぶ辺り、実に殺り慣れている。

 だが、こうなる事は予測出来ていたのか、すぐさま新しい固体が現れ、自らの遺体を経口摂取で回収し始めた。

 

 

「出たわね、この白い■キ■リ」

 

「酷いじゃないか、ほむら。いきなり撃ち殺すなんて……。はむはむ」

 

「ちょっと、駄目よ暁美さん」

 

 

 魔法少女の真実を知る彼女達にとっての憎い相手、しかも無限残機の異星人相手とは言え、いきなり発砲したほむらを、マミは諌める。

 

 

「部屋が硝煙臭くなっちゃうから、ここでは銃は禁止! 撃つのなら外で!」

 

「僕の事はもう心配してくれないんだね……。きゅっぷい」

 

 

 しかし、その理由はなんともアレで、自分の残骸を捕食し終えたキュゥべえはどことなく寂しげに呟く。

 感情を持たない彼らの事、それすらもおそらくは、経験上身に着けた反射行動なのだろうけれど。

 

 

「自業自得よ。貴方と契約したおかげで生き延びられた事には感謝するけど、説明責任を怠った事についてはまだ怒ってるんですから」

 

「やれやれ。さっきは出遅れてしまったけど、このタイミングであればまどかと契約できると思ったんだけどなぁ。無駄足だったかな……」

 

「あ、当たり前だよ、そんな理由で契約なんかしないもんっ」

 

 

 エネルギー回収ノルマ達成の目処が立ったとは言え、より多くエネルギーを回収するに越したことは無いと、キュゥべえは定期的にまどかを魔法少女に勧誘し続けている。

 その度に、どこからともなく飛んできた弾丸や剣、槍によって命を落としているのだが、それでも懲りない所に、彼等にとっての“個”の価値という物が伺えるだろう。

 そんなキュゥべえに、普段は温厚なまどかも流石に嫌気が差していたのか、彼女はキュゥべえの死を意識から追い出し、契約する気はないとはっきり告げる。

 

 

「ふむ。別に珍しい理由ではないんだけど、君はそう感じるんだね。参考になるよ」

 

「え、どういう事?」

 

 

 その言葉に、キュゥべえが冷静に返すと、彼(?)の言った事が気にかかったまどかは問い返す。

 あらかじめ答えを用意していたのか、キュゥべえはスラスラとそれに答え始めた。

 

 

「魔法少女になると、痛みや生理反応の制御が出来るようになるのは皆知ってると思うけど、それが目当てで契約する子も少なくないんだよ。

 君達の年頃の女性体は、性的な快楽に溺れ易い傾向にあるからね……。ついでに願いも叶えられて一石二鳥だったと言った子も、何人か居るよ」

 

「うわ~、そんな子が居るんだ……。信じらんない」

 

「あんまり、褒められた事じゃないわね」

 

「だな……」

 

「下品ね」

 

 

 あまりにも明け透けな顔も知らない魔法少女達に、同じ魔法少女であるさやか達は顰蹙を隠さない。

 しかし、その様子にキュゥべえは首を傾げる。

 

 

「あれ。でも君達も、結構な頻度でセックスしてるじゃないか。マミや杏子はほぼ毎日、さやかだって二日と置かず――」

 

「ちょっ!?」

「やだっ!?」

 

「え、さやかちゃん、マミさん……?」

 

「……これは、また……」

 

「お、おいっ、どう言う事だよ!? 嘘ついてたのかお前等!?」

 

 

 そう、実はさやかとマミは、まどかの節度ある交際の報告の後に、自分達の本当の事を言ったら皆に引かれるんじゃないかと、嘘の申告をしたのだ。

 杏子の爆弾発言もあり、何とかバレずに話が進んで、少し罪悪感を感じると共にかなり安心していたのだが、思わぬ形で実情を暴露されてしまい慌てふためく。

 

 

「い、いや、その、ちがっ……はっ。まさかキュゥべえ、あんた覗いてたんじゃないでしょうね!?」

 

「覗くだなんて心外だなぁ。確かに、魔法少女の情報は常に収集してるけど、それだって君達の体調管理のためなんだよ。無理して倒れられては困るからね」

 

「………………そう、覗いてたのね」

 

 

 どう言い訳しようかと必死に頭を回転させるさやかだが、その中で、何でキュゥべえが知っているんだと気づき、まさかと問いかければ、彼は当然だと言わんばかりに説明する。

 それを聞き、先程からずっと顔を俯かせていたマミは酷く平坦な声を出す。

 

 

「恥ずかしがることは無いよ。この国の法律に照らし合わせると確かに違法だけれど、君達の大儀を考えれば小さな問題――あれ。なんでリボンで拘束するんだい、マミ」

 

 

 マミが羞恥心に耐えかねているのだと判断したキュゥべえは、恥じることは無いと言葉をかけるのだが、それは火に油を注ぐような物。

 先に言った通り、感情を持たない彼等ではそう考えても仕方ないのだろうが、数千年の長きに渡って魔法少女に携わって来た存在にしては、お粗末な思考ルーチンとしか言いようが無かった。

 案の定、羞恥心を怒りに変換したマミは、キュゥべえを逃がすまいと無言で魔法を発動、黄金色のリボンでその体を宙に固定する。

 

 

「………………」

 

「………………」

 

「まどか、少し離れましょう」

 

「……う、うん」

 

「さやか、マミ、後で覚えてろよ。とりあえずこれは貰っとくぞ?」

 

 

 それを見て、さやかも無言で立ち上がり変身、キュゥべえに向かって剣を構える。

 危険と判断し、ティーカップを持って席を立つほむらに促され、まどかもティーポットを手に避難。

 一人だけ馬鹿正直に性生活を披露してしまった杏子も、テーブルに残っているショートケーキと、さやかとマミの分の皿を確保してから、同じくその場を離れた。

 そして、生命の危機だというのにキュゥべえは落ち着き払い、いかにも肩を竦めているような声で言う。

 

 

「やれやれ。事実を指摘しただけだというのに、君達は時折そうして過剰に反応するね。訳が分からないよ」

 

「美樹さん。やっておしまい」

 

「了解っ!! 死ねこの淫獣!!」

 

「ぎゅっぷいっっっ」

 

 

 こうして、赤裸々な性生活を暴露された魔法少女二人の手によって、本日二体目のインキュベーターが天に召される事となった。

 

 余談だが、このパーティーが行われた月、見滝原で謎の死を遂げるインキュベーターの数は三桁に及んだそうな。

 また、他の魔法少女にもキュゥべえの覗き騒動は伝播し、半年近く、世界中のインキュベーターが魔法少女の部屋から締め出しを食らったとさ。

 

 

 ざまぁである。

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「それじゃあ、マミさん。お邪魔しました」

 

「……お邪魔しました」

 

「しました~」

 

「ご馳走さん。また今度な」

 

 

 玄関前で、四人はそれぞれ別れの挨拶を口にした。

 一人ドアの内側に立つマミは、彼女達の顔を見回しながら笑顔で答える。

 

 

「ええ。皆、また気軽に寄ってね? 待ってるから」

 

「はい。またメールしますね」

 

「さ~て、アタシはさっさと帰るかな。今日の晩飯は何かなぁ~」

 

「杏子、あんたあれだけケーキ食べてまだ食べるの? いい加減太るわよ?」

 

 

 別れの挨拶を済ませるまどか達を余所に、未だに食欲を見せる杏子の言葉を聴いてさやかが突っ込む。

 キュゥべえの処断が終わった後、恥ずかしさから嘘をついていた事を素直に謝った二人。

 まどかは「恥ずかしがる気持ちも分かるから」と快く許してくれたのだが、嘘をつかれた事が面白くなかった杏子は、二人の分のケーキと引き換えにそれを許したのだ。

 結果、彼女のお腹の中には半ホール分のショートケーキが収められる事となったのだが、杏子からすれば、それは満足に足る物ではなかったらしい。

 

 

「いいんだよ、アイツの飯は別腹っ。それに、食っても殆ど太らないしな、アタシ。むしろ、どうしてケーキ食ったぐらいで太るのか不思議なんだけど」

 

「……杏子。あんた今、世界中の女子を敵に回したわよ」

 

「……? なんで?」

 

 

 さやかの物言いに、ダイエットなどという言葉にまるで縁のない杏子は、実に不思議そうに首を傾げる。

 基礎代謝力が高いのか、彼女は幾ら食べても太る気配を見せないのだが、世の女性達からすれば羨ましいにも程がある体質だろう。

 その証拠に、二人の会話を聞いていたマミも頬に手を当て、溜息をつきながら羨望の眼差しを向けるのだが、しかしそうも言っていられない、と腕まくりをして見せる。

 

 

「ホント、羨ましいわ……。さてと、私も腕によりをかけなくちゃ!」

 

「あれ、マミさん、もしかして……?」

 

 

 マミの様子を見てピンと来たのか、まどかが尋ねてみると、彼女は少し照れながらそれに頷く。

 

 

「えぇ。実はこの後、彼が夕飯食べに来てくれる予定なの」

 

「……じゃあ、早めに切り上げて正解でしたね。御邪魔する訳には行きませんし」

 

「気にしてくれなくても良かったんだけど、でもありがとう。ちゃんと準備したかったから、今回は助かっちゃった」

 

「先輩も幸せ者だね~。こんなに甲斐甲斐しい恋人持って」

 

「ふふ、ありがとう、美樹さん。それじゃあ、またね?」

 

「は~い」

 

「マミさん、さようなら」

 

「……失礼します」

 

「またな~」

 

 

 再びの挨拶の後、マミの姿はドアの向こうに消えていく。

 それを見送ると、四人は揃って、マンションのエレベーターに向かって脚を進め始める。

 

 

「それじゃ、皆で一緒に帰ろっか」

 

「つっても、アタシは逆方向だし、マンション出るまでだけどな」

 

「まどか、途中まで送っていくわ」

 

「うん。ありがとう、ほむらちゃん」

 

 

 季節柄、日の落ちるのが早くなり始めていて、西から差し込む太陽の光は、既に茜色に染まっていた。

 冷たい風を避けるため、自然と身を寄せ合い、仲睦まじくマンションから出る自動ドアをくぐる。

 

 

『皆、大変だっ』

 

「げっ、キュゥべえ!?」

 

「チッ、今日はやけに多いわね……」

 

 

 ――と、突然、四人の頭に声が響く。

 それがキュゥべえからのテレパシーだと気付くと、さやかとほむらは露骨に嫌そうな顔を浮かべ、次いで転送された彼の言葉は、その表情を再び一変させるに十分なものだった。

 

 

『魔女の気配が複数、固まって移動してるっ。かなり強い邪気だよっ』

 

「なんですって……!?」

 

「マジかよっ!?」

 

 

 グリーフシードの制限が無くなってからというもの、魔女も使い魔も区別なく掃討しているおかげで、この街での魔女の出現率はかなり低くなってきている。

 とはいえ、全てを狩り尽せる訳ではなく、こうしてキュゥべえが魔女の気配を知らせてくるのは珍しい事ではない。しかし、魔女が複数、しかも固まって移動するというのは妙だ。

 魔女は本来、結界の奥深くに潜み、使い魔を介したり、偶然結界の近くを通りかかった人間を引きずりこんだりして、彼等の魂を糧とする。

 その結界は往々にして、人目に付かない寂れた場所か、逆に人が多く、負の感情が集まりやすい場所に敷かれるが、あまりに死者が出すぎれば人が近寄らなくなるため、魔女の縄張りが重なる事はまずない。

 この性質上、より良い場所を求めて移動する事はあっても、複数の魔女が同じ所に出現するなんて、在り得ないのだ。

 それを熟知している杏子とほむらは、この奇妙な事態に不穏な気配を感じ、戦慄する。

 

 

『こんな嘘ついても、ボクにメリットは無いよ。ここ数ヶ月、君達は積極的に魔女や使い魔を狩っていたから知らせたんだけど。それとも、余計な事だったかい』

 

「……余計ではないけれど、空気は読んで欲しかったわね、貴方も魔女も。ごめんなさいまどか、送っていくのは無理そう」

 

「ううん、気にしないで? まだ明るいし、急いで帰れば大丈夫だから……けど……」

 

「……?」

 

 

 折角、穏やかな気持ちのままで一日を終える事が出来る筈だったのに、突然の闖入者のせいでそれがぶち壊しになり、ほむらは不機嫌そうに顔をしかめる。

 それでもなお自分を気遣う彼女に、まどかは大丈夫だと手を振るのだが、その顔は別の理由によって曇り始めてしまう。

 表情からだけでは、流石にまどかの胸の内を図り切れず、ほむらが首を傾げていると――

 

 

「良かった、皆まだ居た……!」

 

「え、マミさん、なんで……?」

 

「そうですよっ。先輩への手料理はいいんですか?」

 

 

 ――背にしていた自動ドアが開き、その向こうから、料理の準備をしている筈のマミが姿を現す。

 彼女にもキュゥべえからのテレパシーは届いていたのだろう、その表情は既に魔法少女としての物に切り替わっていた。

 

 

「魔女が来てるって聞いて、のんびり料理なんてしてられないわよ! 私も出るわ!」

 

「だな。数が居た方が確実だし……。ま、ケーキ食ったし、腹ごなしには丁度良いんじゃない? アタシ、先行くよっ」

 

「ええ! 彼が帰ってくる前にパパっと片付けて、夕飯の支度しなきゃ!!」

 

 

 言うが早いか、杏子とマミは、一瞬でその身を魔法少女の衣装に包み、キュゥべえが示した方角に向けて跳躍する。

 

 

「私達も行くわよ」

 

「うんっ。じゃあ、まどか。気をつけてね?」

 

「あ、うん……」

 

 

 それに続き、ほむらとさやかも魔法少女へと変身。

 跳躍しようと、脚に魔力を流そうとした、その時――

 

 

「……あの、ほむらちゃんっ」

 

 

 ――跳び立とうとしていた背中を、まどかの声が呼び止める。

 振り返ったほむらの目に映ったのは、胸元で硬く手を握る、まどかの真剣な表情だった。

 

 

「……何? まどか」

 

「私、魔法少女じゃないから、こんな事ぐらいしか……。応援くらいしか、出来ないけど……」

 

 

 一度、そこで言葉を切って。

 まどかは深呼吸をし、自分の気持ちの全てを、ただ一言に乗せる。

 

 

 

 

 

「頑張って」

 

 

 

 

 

 その言葉は、ほむらの胸に、柔らく、暖かな細波を起こした。

 彼女は、それによって胸の内に生まれた物を隠すこと無く。

 直視すれば誰もが魅了されてしまうような、心からの微笑を浮かべ、まどかに応える。

 

 

「……ええ、十分よ」

 

「……うん」

 

 

 微笑み、視線を重ねる二人。言葉は少なかったが、彼女達の間には、確かな絆を感じる事が出来た。

 さやかはそれを優しく見守っていたのだが、それっきり彼女達は二人だけの世界に入ってしまったようで。

 自分が止めないといつまでもこうしているんだろうなぁ、と判断したさやかは、仕方なく、茶化すようにして二人の間に割って入る。

 

 

「相変わらずラブラブですな~、まどほむは。でも、ちょっと寂しいぞぉ、あたしには何にも無いの~?」

 

「そ、そんな事無いよ? さやかちゃんも、怪我しちゃ駄目だよ?」

 

「んっ、気をつける。でもその前に、まどか分を充電しなきゃ~、うりうり~♪」

 

「ふわっ、も、もうっ、さやかちゃん、駄目だよぉっ」

 

 

 仕方なくとは言ったが、やはり親友を取られてしまったようで寂しかったのか、さやかはまどかに抱きつき、彼女に頬をすり寄せる。

 まどかの方も満更ではないのか、口では駄目だと言っても、その顔は笑っていた。

 そんな親友同士のじゃれあいに、ほむらもまた少し嫉妬を覚えるのだが、流石に自重したのか、小さく苦笑した後、背を向けながら呼びかける。

 まどかとの時間を邪魔された事への、ちょっとした意趣返しを込めて。

 

 

「じゃれるのはその位にしなさい。……行くわよ、さやか」

 

「はいは~い………………あれ? え、ちょっとほむら、今なんて――」

 

「ふふっ」

 

 

 唐突な変化に、さやかは目を白黒させてほむらに問いかける。

 それに答えず微かに笑い、ほむらは跳躍する。

 そして、彼女を追うようにさやかも。

 

 

「あ、ちょっとぉ!? ……それじゃ、行ってくるねっ」

 

「うんっ、皆、がんばれ~!!」

 

 

 跳び立つさやか達に、まどかは大きく手を振り、激励を飛ばす。

 その声を背に受けながら、ほむらは思う。

 

 

(まるで、本当に飛んでいるみたい)

 

 

 勿論、その背中には、翼なんてあるはずも無い。

 しかし。

 

 

「お、やっと来たか」

 

「急ぎましょう、被害が出てからでは遅いわ!!」

 

 

 近くのビルの屋上で合流を待っていた先輩魔法少女二人。

 槍を肩に担ぎ、何処に持っていたのか、お菓子を咥えながら不敵に微笑む、佐倉杏子。

 凛々しい表情で、魔女の反応のする方角を見据える、巴マミ。

 

 

「ごめん、おまたせっ」

 

 

 少し慌てながら急ぎ足で合流する、美樹さやか。

 そして。

 

 

「―――――――――!!」

 

 

 未だにこちらに手を振り続ける、鹿目まどか。

 彼女達の気配を感じると、ほむらはこう思うのだ。

 

 

 

 

 私の選んだ道は、とても険しく、苦しい物だったけれど。

 それを歩んだ事で、今、この瞬間があるのだとしたら。

 この道を選んだのは、きっと間違いではなかった。

 ……翼なんて、いらない。

 そんな物なくても、皆と一緒なら。

 きっといつまでも、何処まででも、飛んで行ける。

 

 輝ける、未来へ向かって。

 

 

 

 

 

「さぁ、行きましょう! どんな魔女が相手でも、この四人が揃っているなら、もう何も怖――」

 

「言わせないわよっ!?」

 

「――え?」

 

 

 

 

 




 和子先生に『BBA結婚してくれ』と言ってみたい。
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