※この作品はR-18です。

魔法少女まどか☆マギカR‐18   作:七音

24 / 39
【彼女達の】お菓子会社の陰謀なおまけ・上【バレンタイン】

 

 

「これで良しっと。後は冷蔵庫で冷やして、最後にカカオパウダーをまぶせば完成よ」

 

「はい、マミさん」

 

「はぁ~、やっと終わった~」

 

 

 気の抜けた声と一緒に、杏子ちゃんは、ぐで~、と項垂れました。

 私達はその間に、寒天の型へ入れた生チョコレートを冷蔵庫にしまいます。

 

 私こと、鹿目まどかと、お友達の佐倉杏子ちゃんは、先輩である巴マミさんの御宅にて、手作りチョコレートの手解きを受けています。

 生チョコレートなんて、上級者向けのお菓子と思っていた私ですが、寒天の型で固める簡単な方法があるだなんて、考えてもみませんでした。

 しかも今回は、アールグレイの風味が香る、ちょっと大人な味。

 流石はマミさんっ。

 運動に、勉強に、お料理。紅茶にお菓子作りまで、誰もが憧れる格好良いお姉さんですっ。

 

 

「あ、そういや、残った寒天はどうすんのさ。捨てるなんて勿体無いし……」

 

「大丈夫よ。チョコを作り終わったらもう一度溶かして、寒天飴でも作るから。それでおやつにしましょう?」

 

「ぃやったー!」

 

 

 むくり、起き上がった杏子ちゃんは、嬉しそうに万歳。

 くすっと笑いながら、私自身、とっても楽しみだったりします。

 

 今日は、二月十三日。

 女の子にとっての一大イベント、バレンタイン・デーの前日です。

 去年までなら、あと二日後には安くなるチョコがお目当てな、ちょっと――少しだけ――か、かな、り? 残念な過ごし方をしていました。

 けれど、今年からは……。

 

 

「あの人、喜んでくれるかなぁ……」

 

「心配無いわ。こんなに愛情を込めて作ったんだもの。必ず喜んでくれるわ」

 

「はいっ」

 

 

 生まれて初めて作る、愛しい人へ贈るチョコレート。

 それを受け取ってくれる人が、居るんです。

 もちろん、お父さんにプレゼントした事はあるけど、その時とは違って、とても緊張していました。マミさん達と一緒じゃなかったら、失敗しちゃってたかも知れません。

 いつも優しくて、私の事を大切にしてくれるあの人。

 きっと失敗したチョコだって、笑顔で食べてくれると思います。でも、だからこそ、本当に美味しいチョコで笑顔になって欲しいって、そう思うんです。

 

 

「今日は、本当にありがとうございました。教わるだけじゃなくて、作るのまで手伝って貰っちゃって……」

 

「気にしないで? 一人で作るよりも、皆で一緒に作った方が楽しいんだから」

 

「でもさぁ、まどかん家の親父さんって主夫だろ? 自分ちで教えて貰ったのが手っ取り早いんじゃ? それとも、お菓子は苦手とか」

 

「ううん、そんな事は、ないんだけど……」

 

 

 杏子ちゃんの指摘に首を振りながら、私はちょっと苦笑い。

 普通のお家と違って、ママがお仕事に精を出し、パパが家事を担当している我が家。

 お料理の担当もパパで、その腕前は自慢の種です。もちろん、お菓子だってお手の物。

 ……なんだけど……。

 

 

「パパも、手伝ってはくれると、思う。でも多分、すごく悔しそうな顔させちゃうと思うから……。出来れば、目の付かないところで作りたいかなぁ、って……」

 

「あら、もしかして、あまり仲が……? だけど、少し前に公認の仲になったって……」

 

「はい……。表面上はとっても仲良しなんですけど、その……。言葉の端々に、溜めがあるっていうか、なんていうか……」

 

「そういや、血の雨がどうとか言ってたっけか。男同士はメンドーだなぁ」

 

「うん……。二人とも大人だから喧嘩とかはしないけど、あの人の話題を出すと空気が重くて……。ちょっと困っちゃう……」

 

 

 そう。問題は、うちのパパ。

 普段はとっても穏やか、細かい事にも気がつく気配り屋さんなのですが、ひとたび、あの人を前にしたりすると、変な感じになってしまうんです。

 ママ曰く、『娘を取られたから嫉妬してるだけさ』、だとか。

 ……ええと、どんな言い訳をしても結局は同じになりそうなので、これについては何も言えません。

 

 とにかく、倫理的にとてもいけない事をして、同時に、させてしまった自覚はあるけれど、今更無かった事になんてしたくありません。

 だから、パパには可哀相だけど、今年からは世界で二番目に美味しいチョコで、我慢して貰おうと思います。

 ……世界で、なんて。ちょっと大げさだよね。

 

 

「しっかし、料理……ってか、お菓子作りって肩凝るよなー。量はキチンと量んないといけないし、温度とかも重要だし……。やっぱアタシには向いてねぇよー」

 

 

 そんな事を考えていたら、杏子ちゃんは腕組みをして一言。

 うっかり頷いてしまいそうになった私ですが、それより先にマミさんが笑いかけます。

 

 

「まぁまぁ。逆に言えば、分量とかをしっかり量って、時間を守れば必ず成功するんだから。慣れればむしろ簡単に思えるわ。

 それに、彼氏さんを喜ばせてあげたいんでしょう? だったら、お菓子だけじゃなくて、普通のお料理も作れるようにならなくちゃ」

 

「えぇ~? でも、アタシよりもアイツの方が間違いなく上手いし、だったら食い専でも……」

 

「もう、駄目よそんなんじゃ。大丈夫、今日見ていて改めて思ったんだけど、佐倉さんは要領が良いんだし、ちょっと頑張れば直ぐに追いつけるわ」

 

「そうだよ杏子ちゃん! 私なんてこの前、ロールキャベツの筈がシャバシャバな野菜炒めになっちゃったけど、それでも喜んでくれたもん!

 だから頑張ろうよ! ……杏子ちゃん、私より頭も良いし……覚えるのも早いし……手際も良いし……うぅぅ、なんで失敗しちゃったんだろう……」

 

「自分で言って落ち込むなよ、まどか……」

 

 

 歩み寄り、ぽん、と肩を叩いてくれる杏子ちゃん。

 彼女より先に、パパからもお料理を教えて貰っているはずの私は、ですが、未だに失敗続きだったりします。

 きっと、マミさんの言う要領的なものが悪いんだと思います。その前だって、人参の皮をむき忘れちゃったし、切れたと思ったら繋がってたり……。

 でも、今回のチョコ作りは失敗しなかったし、この調子で上達して、立派な……お、お嫁さんになれるよう、私も頑張らなくちゃ!

 

 ちなみに、教えて貰うようになったのは、あの人との関係が知られる前。

 判明した直後のお料理教室では、必要も無いのに玉ねぎをみじん切りして、『いやー今日の玉ねぎは目に染みるなー』なんて、涙を流すパパだったり。

 ちょっと呆れちゃったけど、でも、晩御飯のカレーは炒め玉ねぎがたっぷりで、とても美味しかったです。

 

 

「でも、キッチンに立つようになったらなったで、佐倉さんも大変な気がするわね……。背後、とか……」

 

「え? どういうこ――あ、そっか……。そう、かも……ぇはは……」

 

「……? 背後って? 何かに不意打ちされるわけでも――あ。あ~……なるほど……」

 

 

 マミさんの言った意味に気付いたのか、杏子ちゃんも苦笑い。私達は、三人で顔を紅くしてしまいました。

 背後からの不意打ち。

 それは即ち……その……い、いたずら、されるという事、です。

 具体的な事なんて、とても口では言えないので飛ばしちゃうけど、私の場合、十分置きにちょっかいを出された事もありました。

 やけに近くから覗き込まれたり、耳に息を吹きかけられたり、色んなとこを、触られたり。

 流石に、包丁を持っている時とかは避けてくれますが、それが原因でお味噌汁を沸かしちゃった事もあるし……。

 男の人って、やっぱりえっちです……。

 

 

「ま、まぁ、それはともかくとして。チョコが固まるまでに、詰める容器とか、包装紙を選びましょう? 結構悩んじゃうと思うから」

 

「そ、そうですね」

 

「だな」

 

 

 ぽん、と手を合わせるマミさんに続いて、私達はキッチンからリビングへ移動しました。

 いつもの三角テーブル近くに腰を下ろすと、目の前には、マミさんが用意してくれていた色取り取りの包み紙や、色んな形をした、カラフルなトレイなどが並んでいました。

 色々ありすぎて、本当に迷っちゃいそうです

 

 

「随分とたくさんあるな~。わざわざ買ってきたのか?」

 

「う~ん、そう、とも言えるんだけど、言い切るのも語弊があるような……」

 

「どういうことですか?」

 

「……じ、実はこれ、全部、お店で買ったお菓子の空き箱とかなの。いい値段の物だと、箱も可愛いデザインの物が多くて、あとで何かに使えるかなって。あ、トレイとかはきちんと洗ってあるし、大丈夫だと思うんだけど……」

 

「気持ちは分かるけど、なんかオバサン臭いな」

 

「……あら。そういう子には、この唐草模様の包装紙で十分ね。はい、どうぞ。他のは私と鹿目さんで使いましょう?」

 

「ちょ、おいっ、チョコレートに唐草模様って流石におかしいだろっ、和菓子と勘違いされるって!」

 

「ぇはは……。違うよね? いいお母さんになりそうって、そう言いたかったんだよね、杏子ちゃんは」

 

「あ、うん、そうそう! さっすが、まどかはアタシの事よく分かってんな!」

 

「もう、調子が良いんだから、佐倉さんは……」

 

 

 怒っています、という口振りの割りに、マミさんは優しい眼差し。

 私も、杏子ちゃんも。このやり取りが楽しくて、同じ様に。

 そして、自分で言った《いいお母さん》という表現に、私は想いを馳せます。

 

 いつか、成長して、大人になって。

 大切な人と、愛を育んで。

 その絆が、産まれたとして。

 

 もし、その子が女の子だったりしたら。

 今日教えて貰ったことを、今度は、私が教えてあげたりするのかな……?

 チョコの作り方だけじゃなくて、お料理や、お洗濯や、お掃除とか。

 そして、誰かを想い、信じることの、大切さを。

 

 

「……くすっ」

 

「ん?」

 

「どうしたの? 鹿目さん」

 

「ううん、なんでもないです。あ、このイラスト可愛いっ」

 

 

 少し、気の早過ぎる未来予想に、思わず笑ってしまって。

 それを誤魔化しながら、私は包み紙を選ぶのに集中開始。

 遠い未来に希望を持つことも大切だけど、今はそれよりも、明日の方が重要だもん。

 絶対に気に入って貰えるよう、慎重に選ばなくっちゃ!

 

 

(ちょっとだけ、不安だけど。でも……)

 

 

 明日が、とっても楽しみです!

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「フ~ン、フフ~ン、フ~ン~ン~♪」

 

 

 鼻歌交じりに、あたしはチョコレートをかき混ぜる。

 生クリームも追加して、出来るだけ空気を混ぜないよう、慎重に。

 こうしてチョコを作るのも、もう何度目だろう。

 

 

(最初に作ったのはいつだっけ。確か、まどかん家にお邪魔して、パパさんに教えて貰って……。懐かしいな~)

 

 

 そんな事を思い返しながらも、あたしの手は止まらない。

 今作っているこれは、これまでに作った物の中でも一番だって言えるくらいに重要な、大切な人への贈り物だから。

 手を休めている暇など、これっぽっちもありはしないのだっ。

 

 今日は、恋する乙女の重大イベント、セント・バレンタイン・デーの前日。

 あたしの参加はもちろん確定。だからこうして、手作りの本命チョコを用意している。

 市販品に頼るなど、乙女のプライドが許さんのです。

 

 

(とは言っても、今までとは些か趣が違うんですけどね~)

 

 

 去年までのあたしは、本命を義理と偽って、包装とかもあえて地味な、買って来た物にも見えるようにして渡していた。

 渡したいけど、でも、想いを伝えるほどの勇気は無かったから。

 その癖、作ってる最中は物凄くドキドキして、失敗しちゃったことも多い。

 だけど、今、あたしの胸にあるそれは、あの頃の痛みを伴うような激しさではなく、ありのままの自分で居られる、嬉しさを感じさせて――

 

 

「……ふふ」

 

 

 ――また、一人で笑ってしまう。

 気持ちを偽る必要は無い。

 受け取ってくれるかどうかで、悩む必要も無い。

 喜んでくれるかどうかなんて、考えるまでも無い。

 1000%の確立で、幸せに過ごせる明日。

 分かりきったこの事実が、凄く、嬉しい。

 

 

「どうしたの? 一人でニコニコして」

 

「あ、お母さん」

 

 

 なんて笑いながら、次の準備として、チョコを入れる型を取り出した時、背後から声が。

 柔らかく笑みを浮かべる、あたしとそっくりな顔をしたお母さんは、子ばか(親ばかの反対)なのを差し引いても、結構な美人さん。髪はセミロングで、ちょっとお淑やかな感じ?

 お父さんはよくこの人を捕まえられたもんだと、いっつも感心しちゃう。

 

 

「あぁ、チョコレートね。恭介君の分と……?」

 

「……うん。あいつの分。いや~、二人分も作るなんて、ちょっと大変だよ~」

 

 

 胸を張って答えるあたしの前には、ハート型の枠が二つ。

 一つは、さっき名前の出た幼馴染――上条恭介へ。

 そしてもう一つは、現在【 ラ ヴ ラ ヴ 】な恋人生活を共にしている、あいつへ。

 恋人が居るのに他の男の子へもチョコを渡すなんて、普通に考えればひんしゅく物だろうし、実際いい顔はされなかったけど、やっぱり、恭介は大事な幼馴染であるわけで……。

 それに、去年までとは変化した関係――片想いをしていた彼に向けて義理チョコを贈ることで、また一つ、自分の中に区切りを付けたい、という意味もあったりする。

 もちろん本命には、これでもかってほど愛情を込めて、たっぷりデコレーションもするつもりだから、きっと問題無し……って、思いたいなぁ……。

 

 

「……ねぇ、さやか? その、あんまり何度も聞かれるのは、嫌だとは思うんだけど……」

 

「あ~、また? もう、心配性なんだから」

 

 

 向けられたのは、ちょっと申し訳なさそうな言葉。

 この一週間で何回も繰り返されたそれに、型へチョコを流し込みながら、あたしはぐったり。

 でも、お母さんの心配も分かっちゃうから、無下にも出来ないし。うむぅ。

 

 

「ごめんなさいね。やっぱり、心配なのよ。年上って言っても、精々一つか二つだと思っていたから……。お父さんとお母さんはお見合いだったし、普通の恋愛なんて、憧れはしたけどよく分からなくて……」

 

「う……。まぁ、そうだよねぇ……」

 

 

 そりゃあ、中学生の娘が二十歳過ぎの人と付き合ってたら、親としては気になるよ、普通……。

 去年の春。

 親友と幼馴染による恋の板挟みに、精神的に追い詰められ、周囲にたくさん迷惑を掛けたあたし。

 でもお母さんは、何にも話して上げられなかったのに、それを優しく見守ってくれた。新しい恋に生きるって決めた時も、何も言わず、応援してくれた。

 

 ――んだけど、数日前、あいつがお仕事できる年齢だって口を滑らせちゃってからは、心配そうに質問してくるのだ。

 どういう人なの? どんなお仕事してるの? 背格好は、顔立ちは、趣味は……。

 それはもう、根掘り葉掘り。

 前々から聞かれてはいたんだけど、心配かけちゃうかなぁ、なんて思ったから、当たり障りの無い事だけで濁してきて……。

 

 

(でも、もう誤魔化すのは無理だし……。本当は、ちゃんと話したかったんだし……)

 

 

 ……うん。この際だから、話しちゃった方が良いのかもしれない。

 絶対に話せない部分もあるけど、それ以外の気持ちは、全部。

 

 

「ね、お母さん」

 

「なに、さやか」

 

 

 向き合うために振り返り、テーブルに寄りかかる。

 こちらを見る視線に、今から話そうとしていることが、なんだか恥ずかしくなって。

 あたしは、少しだけ俯いて、眼を閉じる。

 

 

「あたしね。あいつには、感謝してるんだ」

 

「……感謝?」

 

「うん。多分、なんだけど。あの日、あいつと出会えてなかったら、あたしは、こうして居られなかったって思う。

 泣いたり、笑ったり、こんな風に話したり、チョコを作ったりさ?

 ……もしかしたら、あたしの初恋は、お母さんを凄く悲しませる結末にだって、なってたかもしれない」

 

 

 誇張ではなく、本気で思う。

 そのくらい、あの頃は自暴自棄で、周りを省みられなかった。

 自分に降りかかった苦しみに囚われ、それが世界の全てだと勘違いしちゃった。

 友達に当り散らして、先輩に八つ当たりして。でも、そんな事をしてしまった自己嫌悪は、とても苦しくて。

 だからあたしは、罰を求めて、この体を傷付けようとしてたんだ。

 

 

「けど、あいつがそれを止めてくれた。ちゃんと叱って、優しく受け止めてくれた。……そして、好きだって、言ってくれた。

 この嬉しさは、きっと、言葉だけじゃ伝えきれないから。だからね? あたしは、あいつに出会えた偶然を……。この関係を、大切にしていきたいの。

 感謝してるから、とかじゃなくて。この人を好きになりたいって、心から、そう思えたから。……こんな風に思ってるなんて、恥ずかしくって、本人には絶対言えないけど」

 

 

 頭に浮かぶのは、あいつの顔。

 まず、『なんだよいきなり?』なんて、茶化そうとして。

 それから、照れて何も言えなくなって。

 全てを聞き終えたら、強く、強く、抱きしめてくれる。

 想像しただけでニヤけちゃうけど、間違いなくそうしてくれるって、確信がある。

 ……それがまた、恥ずかしいんだけどね?

 

 

「お母さんには、心配かけちゃうと思う。

 でも、あいつは本気で、一緒に居ようって努力してくれてる。あたしも、それに応えたい。

 だから、信じて欲しいんだ。あいつの事を――ううん、あいつを好きだって想ってる、あたしの事」

 

 

 最後に、こう付け加えて、小さく笑う。

 じっと聞いてくれていたお母さんは、そんなあたしを見つめて、同じ様に笑ってくれた。

 

 

「余計なお世話、だったかしら。まさか、こんなに堂々と惚気られるとは思わなかったわ」

 

「……なはは、何のこれしき! あいつの事だったら、話せるネタは一〇八までありますからね!」

 

「はいはい、凄いわね~。でも、近いうちに会わせて頂戴ね? 彼氏さんの事、ますます知りたくなっちゃった」

 

「あ~、いいの~? そんな言い方して。お父さんが聞いたら泣いちゃうよ~」

 

 

 普段はそんな素振りを全く見せないけど、実はお母さんにぞっこんラヴなお父さん。

 ドラマの俳優さんにまで嫉妬するくらいだから、こんなの聞いたら自分の涙で溺死しちゃうこと請け合いだよ?

 なんて思っていると、お母さんもそれは予想済みなのか、人差し指で縦に唇を閉じる。

 

 

「じゃあ、秘密にしておいて貰わないと。お母さんも、彼氏さんの事は秘密にしておくから」

 

「うん、約束っ」

 

 

 くすくす笑い合って、二人だけの約束を交わす。

 仲間外れにするのは可哀相な気もするけど、お父さんにはまだ内緒。だって、彼氏が出来たって知られたら、間違いなくあいつに闇討ち掛けるだろうし。

 愛されてるのは嬉しいけど、ちょっと大変だよ……。この分だと、家の中であいつの話が出来るようになるには、何時までかかるやら。

 あ、そうだ。どうせなんだから……。

 

 

「ね、ね、お母さんお母さん。ちょっと聞いてっ」

 

「あら、どうしたの?」

 

「昨日ね、学校の帰りにあいつの家に寄った時、チョコ欲しい? って聞いてみたんだけどさ」

 

「……どうりで妙に帰りが遅いと……それで?」

 

「そしたらね、あいつってば『くれるんだったら貰うけど』なんて強がるんだよ?

 部屋に上がってからずうっとこっちをチラ見して、さりげなーく雑誌のバレンタイン特集を広げてた癖にさ?男って、なんで変なとこで意地張るんだろう?」

 

「そういうものなのよ、きっと。お父さんだってそうでしょう? ……ところで、お家に上がっただけよね? 変な事はしてな――」

 

「でもねでもね、ちゃんと用意するから、って言ってあげたら、コーヒーのお代わりに行ったついでに、隠れてガッツポーズしてたの! 『よし、よしっ、よぉおっし!!』って、小声で叫んで! もうバレバレ! ほんと、ばかだよね~!」

 

「そ、そうね~。……あの、お母さんそろそろ洗濯物を――」

 

「でねでねっ、戻ってきたらもうニッコニコでさ? 隣にぺったり座って、手を握ったり、『さやか』って名前だけ呼んだり……。んっふふ、もう、もうねっ! きゃー!」

 

「――え? な、なにか、そこはかとなく男女の雰囲気を感じるんだけど? 違うわよね? 気のせいよね? 勘違いよね?」

 

 

 お母さんがさっきからなんか言ってるみたいだけど、上り始めたテンションは全然止まらない。

 今まで、家の中では我慢してたからかな? まぁとにかく、この機会に全部ぶちまけさせて貰おうっと!

 さぁ、あたしの【 彼 氏 自 慢 】はここからだっ!!

 

 

 

 

 

「さ、さやか? 本当に変な事はしてないわよね? 信じていいのよね?

 ……ね~え~? 聞いてる~? さやか~? 無視しないで~? さ~や~か~?」

 

 

 

 

 

 ◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 

 

「……これで、完成、っと」

 

 

 ハート型のチョコレートにピンク色の文字を書き終え、私は満足そうに呟く。

 チョコを手作りするのは初めてだったけど、我ながら上出来。

 ……まぁ、少々失敗もしたけど、それはそれ。後で自分で処理しようと思う。

 

 

「いけない、そろそろ寝ないと」

 

 

 時計を見てみれば、随分と熱中していたのか、時刻は既に十一時を回っていた。このまま起きていたら、明日に響いてしまう。

 明日は二月十四日。いわゆる、バレンタインデー。

 最近では友チョコという物が流行っているらしく、まどかも用意してくれるらしいので、自分でもやってみようと思い立ち、こうして人生初のチョコレートを作っていた。

 後は冷蔵庫に入れて冷やすだけ。ラッピングとかは、明日早起きしてやるつもり。

 

 

(まどか、喜んでくれるかな……)

 

 

 なんて事を思いながら使い終えた器具を片付け、寝る準備を整えてベッドに潜り込む。

 何時もの様に枕元で充電している携帯を手に取り、待ち受け画面を表示すれば――

 

 

「……ふふっ」

 

 

 ――写っているのは、少し照れた顔をして、斜めに視線をそらす恋人の顔。

 魔法少女になって心臓が完治し、両親が仕事に精を出す必要は無くなった。

 しかし、今まで張り切っていた分、その勢いを止めるのには時間が必要らしく、未だに帰って来る事は滅多に無い。

 今日は珍しく時間が出来たみたいで、夕飯も一緒に摂る事は出来たけど、電話一本でまた仕事場に戻ってしまったし……。やっぱり、少し寂しい。

 でも、こうして彼の写真を眺めるだけでそれも消えていってしまうのだから、とても不思議。

 

 

「お休み、お兄さん」

 

 

 誰に聞かれる訳でもないのに、こんな風に挨拶をしているのが恥ずかしくて、私は消え入る様な声で呟く。

 今日は電話でしか話せなかったし、夢の中で会えたりしたら、凄く嬉しいのだけど……。

 そんな、少女マンガの主人公のような事を考えながら、私は照れ臭さに顔を布団で隠し――

 

 

 

 

 

「………………って、お休みじゃないわっ!?」

 

 

 

 

 

 ――ある事を思い出して、勢いよくガバッと掛け布団を跳ね除ける。

 

 

「お、お兄さんの分、用意してない……!!」

 

 

 もう、どうして何時もこうなのっ!?

 まどかのくれるチョコに舞い上がって、それにお返しするのに夢中になって、肝心な恋人の分を忘れるなんて、どうかしてる……!

 私は慌ててベッドから降り、冷蔵庫の中身を確認。

 

 

 

「材料がもう無い……」

 

 

 けれど、ダークチョコレートも、生クリームも見事に使い切ってあった。

 失敗する事も考えて多めに買って来た筈が、何故……。

 他の調味料とかお惣菜とかは、一人分でもいつも余らせてしまうのに、なんでこんなタイミングで綺麗に使い切る事が出来るの……?

 

 

「どうしよう……っ」

 

 

 今から材料を買いに行った所で、開いているのはコンビニ程度――まず間違い無く完売しているだろう。

 じゃあ、市販品で済ます? ……そんなの、絶対嫌。

 恋人と過ごす初めてのバレンタイン、そんな物に頼りたくない。

 今の今まで忘れていた私が言えた事ではないかもしれないけど……。

 

 

「うぅぅ」

 

 

 狭いキッチンをウロウロしながら頭を抱える。

 脳裏に過ぎるのは、悲しそうに俯く彼の姿。

 ひとしきり咽び泣いた後、彼は諦めた様な声を上げながら夕日に向かって駆け出し、崖からIcanFly……。

 

 

『いいんだ、どうせ自分は二号なんだ、結局、鹿目さんには勝てないんだぁぁぁああああああっっっ!!!!!!』

 

 

 ……マズイ。

 まどかにだけチョコを渡した事が知られたら、高確率で現実になる気がする。

 しかし、現実にはもうチョコを作っている余裕は無い。残っているのは、ハンマーで砕くしかない程の硬度を持った失敗作だけ。

 味はまぁまぁだけど、アレを食べようとたら歯が欠けてしまうだろうし、溶かして使おうにも装飾用のチョコが無いし……。

 こんな事なら、もうちょっとまどかへのチョコを自重して置けばよかった……。サイズ的にも、文字的にも。

 

 

「……あ」

 

 

 そんな時、脳裏に一つの案が閃く。

 

 

「で、も」

 

 

 ――が、閃いたは良いけど、実際にそれを行動に移すとなると、もの凄く恥ずかしい。

 と言うか、何でこんな事を思いついたんだろう?

 もしかして、巴さんや美樹さやかに毒され始めている……?

 ………………勘弁して欲しい。

 

 

「う~ん」

 

 

 でも、現状での解決策はそれしかない。

 彼も喜んでくれる、と、思う。

 ……そう、信じたい。

 

 

「……ふぅ」

 

 

 何時までも悩んでいたって仕方ない。

 明日も学校があるし、とりあえず今日は寝よう。

 私は、少しうな垂れながら部屋に戻り、もそもそベッドへ潜る。

 置きっ放しだった携帯をもう一度開くと、彼は相変わらず、恥ずかしそうな表情をしていた。

 

 

「………………」

 

 

 失敗作とは言え、味は問題無い筈。

 後は、実行する勇気だけ。

 

 

「……っ」

 

 

 けれど、想像するだけで顔が真っ赤になっていくのが分かる。

 引かれたりしないかが凄く心配で、グルグルと思考が巡り、その後の展開まで、想像してしまって。

 

 

(……どうしよう)

 

 

 今夜は、眠れそうに無い。

 

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。